EVENT COVERAGE

グランプリ・東京2016

観戦記事

決勝:熊谷 陸(宮城) vs. 鈴木 和茂(愛知)

By Masashi Koyama

 日本で初めて行われたグランプリ・東京1997から19年。長い時を経て東京に帰ってきたグランプリは、3335人という日本のスタンダードイベントとしては最大の人数を集めた。

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 だが、3335人というのは、単なる数字上の記録でしかない。

 プロツアー『イニストラードを覆う影』の結果が示しているように、今のスタンダードには多種多様のデッキが渦巻き、大いなる謎を形成している。

 そして、本戦に参加した3335人には、この難解な環境を解き明かすため四苦八苦した苦悩、試合前の緊張感、そして試合に勝った喜びと負けた悔しさという、記録では見えないそれぞれの思いがあるはずだ。

 いや、それだけではない。サイドイベントや観戦のため東京ビッグサイトに足を運んだ人。イベントを支えるジャッジやスタッフ。そして、生放送やカバレージをご覧になっている方々。

 そうした数字に残らないながらも、このグランプリに参加した全ての人にとって、きっとこのグランプリの思い出が残り続けることだろう。

 そして今、皆の記憶に「グランプリ王者」として名前を残すべくここまで勝ち上がってきたふたりのプレイヤーによる決勝戦が始まろうとしている。

 ひとりはオリジナルのナヤ・カラーのデッキを手に、スイスラウンドを3位で駆け抜けてきた熊谷陸だ。彼はプレミア・イベントへのニューカマーというわけではない。これまでMagic Online上のプロツアー予選を2度突破するなど、幾度もプロツアーに参戦している強豪プレイヤーだ。

 もうひとりは鈴木和茂。グリクシス・コントロールを相棒に選び、ここまでたどり着いた彼もまた、ワールド・マジック・カップ予選で決勝戦にまで進出するほどに確かな実力を持っている。

 土曜日の朝、会場は数千人ものプレイヤーとスタッフの熱気に包まれ、グランプリが開幕した。だが今ふたりを包んでいるのは熱気ではなく、大一番に相応しい緊張感と静寂だ。


熊谷(写真左)と鈴木(写真右)は静かに闘志を燃やす

 さあ、最後の戦いの準備は整った。


 記憶に刻まれる決勝戦を、今始めよう。


ゲーム1

 ダブルマリガンの熊谷が《森の代言者》、鈴木が《精神背信》というスタート。呪文が《大天使アヴァシン》《保護者、リンヴァーラ》という中から《大天使アヴァシン》を抜き去り、《ヴリンの神童、ジェイス》《ゲトの裏切り者、カリタス》を続けて召喚する。

 熊谷は引いてきた《先駆ける者、ナヒリ》をプレイ、忠誠度を上げてディスカードしないことを選ぶが、《破滅の道》で追いやられてしまい、鈴木が序盤からリードを広げる。

 さらに熊谷の《森の代言者》は6枚目の土地が並んだところで《究極の価格》されてしまい、盤面の差は縮まらない。

 鈴木の《ヴリンの神童、ジェイス》が手札を整え、《ゲトの裏切り者、カリタス》とゾンビ・トークンが攻勢を続ける。

 有効なカードを引き込めない熊谷は土地を並べ続けるが、《さまよう噴気孔》を含めた鈴木のフルアタックの後ターンを返されると、そのまま土地を畳んだのだった。

熊谷 0-1 鈴木


まずは1本目を先取した鈴木

 記憶、ということであればグランプリ・東京1997のチャンピオン、藤田憲一のことをご存知の方は少なからずいらっしゃるかと思う。

 その藤田が今でもチャンピオンとして親しまれているのは、記録に残っているからではなく、「優勝トロフィーを壊してしまった」というエピソードがあったからこそではないだろうか。

 もちろん、実際には「壊した」のではなく「壊れてしまった」が正しいのだが、そのエピソードが人々の印象に残っているからこそ、19年という歳月を経ても藤田が「グランプリ・東京のチャンピオン」として語り継がれているのだろう。

 そして、今熊谷と鈴木のふたりがいる舞台は、そんな「グランプリ・東京のチャンピオン」を新たに決める戦いなのだ。


ゲーム2

 熊谷がふたたび《森の代言者》からスタート。鈴木がタップインの土地を処理、《骨読み》と動いているうちに熊谷は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》からトークンを生み出し盤面の有利を築こうとする。

 鈴木は《精神背信》《ヴリンの神童、ジェイス》と続けるが、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をクリーチャー化した熊谷のフルアタックをスルーし、残りライフは早くも5。

 鈴木は望みを託して《ゲトの裏切り者、カリタス》を送り出すが、熊谷の手からは《停滞の罠》。

 《ヴリンの神童、ジェイス》1枚で盤面を支えきれない鈴木は、熊谷のアタックを見ると「負けました」と宣言し、最後のサイドボード入れ替えへと手を伸ばした。

熊谷 1-1 鈴木


静かにゲームをタイへ持ち込んだ熊谷

 最終ゲームを前にしても熊谷は静かに、そして表情を変えずサイドボーディングを行っている。常に淡々とプレイする彼には、ポーカーフェイスというイメージがぴったり当てはまる。

 一方の鈴木はきっと誠実で律儀な性格なのだろう。ゲーム中のやりとりごとの宣言にしても、土地をタップする仕草にしても、ひとつひとつ素直に反応し、全ての行動が分かりやすくはっきりと行われている。

 先にサイドボーディングを終えた彼は、用意されたダイスを綺麗に並べ、熊谷のシャッフルを待っている。

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 そうして熊谷がデッキを差し出すのを丁寧に受け取り、グランプリ・東京2016の最後のゲームが始まった。

ゲーム3

 鈴木の《強迫》からゲームがスタート。

 という熊谷の手札から《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を抜き去り、最終決戦の火蓋を切る。

 熊谷は《ニッサの誓い》から《不屈の追跡者》を手に入れ、予告通り《巨森の予見者、ニッサ》をプレイする。

 鈴木は《精神背信》で《森の代言者》《不屈の追跡者》《停滞の罠》から《停滞の罠》を追放し、熊谷が追加した《不屈の追跡者》を《巨森の予見者、ニッサ》ごとまとめて《光輝の炎》で流すが、手番は熊谷。

 熊谷は先手を取ることの許されたこのターンに、《ニッサの誓い》から強力なプレインズォーカーである《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイ。一気に戦場に緊張感が走る。

 鈴木はトークンを《焦熱の衝動》で除去、《ゴブリンの闇住まい》で《骨読み》と、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》への対応策を模索する。

 その間に熊谷は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で攻撃し、鈴木のライフは9。さらに《森の代言者》を追加し、鈴木を追い詰める。

 鈴木は2枚目の《ゴブリンの闇住まい》から《精神背信》。これが熊谷の手札を暴き、《巨森の予見者、ニッサ》を抜き去り、有効な呪文を《ニッサの誓い》のみとする。

 だが、鈴木のできることはここまでだった。

 熊谷はターンに入ると、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《鋭い突端》をそれぞれクリーチャー化し、フルアタック。

 鈴木は2枚の《ゴブリンの闇住まい》で巨大な《鋭い突端》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をブロックすると、やはり几帳面に並べた手札を公開し――

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「おめでとうございます!」

 と爽やかに対戦相手の戴冠を祝福したのだった。

熊谷 2-1 鈴木

 試合後、矢継ぎ早に写真撮影や生放送の取材を受ける熊谷は緊張が解けないのか、やはり試合中と変わらず表情はポーカーフェイスのままだった。

 熊谷はそっとトロフィーを受け取り、1997年のように優勝トロフィーが壊れてしまうというアクシデントは起こることなく、グランプリは幕を閉じた。

 そして、全ての取材を終えて一時の喧騒が収まると、仲間が駆け寄り熊谷を祝福する。仲間に寄り添われ、ようやく一息つけた熊谷の顔に、少しだけ笑顔が浮かんだように見えた。

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 彼がこの謎に満ち溢れたスタンダード環境を自らの新たなデッキで制覇した、ということはきっと多くの人の記憶に残り、グランプリ・東京2016が、そして彼の名がまた語り継がれていくことだろう。

 改めて、おめでとう熊谷陸!君がグランプリ・東京2016チャンピオンだ!

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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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