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グランプリ・シンガポール2018
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決勝:市川 ユウキ(東京) vs. 大木 樹彦(群馬)
『ドミナリア』の発売以降、世界は赤く染まった。
《ゴブリンの鎖回し》によって環境は支配された。
その赤いメタゲームが、このグランプリ・シンガポール2018でも繰り広げられた。
しかし、今決勝戦の席に座る二人のデッキに、赤いカードは含まれていない。
《山》は、1枚もない。
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大木 樹彦 |
「Hareruya Hopes」の大木 樹彦は白青黒のコントロールを選択した。準々決勝では玉田 遼一とのコントロールミラーを、準決勝では「Hareruya Pros」のグジェゴジェ・コワルスキの赤単を制して、決勝に駒を進めた。
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市川 ユウキ |
対するのは、『武蔵』に所属する市川 ユウキ。言わずと知れた、日本が誇るトッププロである。彼が持ち込んだのは、青白《王神の贈り物》。在りし日の栄光ほどではないが、メタゲームにいまだに姿を残し続けているアーキタイプである。
無論、この結果のみをもって「赤い世界の終焉」を告げるのは、些か拙速に過ぎる。あくまでも、アジアで開かれた1つの大会の結果に過ぎない。デッキの強さは、誰しもが認めるところだ。しかし、最強のデッキが常に勝つとは限らないというのも、認めるところであろう。
彼らがメタゲームを読み抜き、環境の最適解を探し、赤単や、赤黒といったデッキを討ち果たしたのは紛れもない事実だ。
彼らを始めとして、赤い世界を良しとせず、どうにかして牙城を崩せないかと思考を巡らせたプレイヤーは、世界中に存在する。《ドミナリアの英雄、テフェリー》を従えたコントロールデッキの隆盛は、その最たる例であろう。赤色に染まった世界を、青碧と純白で塗り直そうと抵抗するものが、たしかにこの環境には存在している。大木も市川も、このプレインズウォーカーを採用している。
さて、このプレインズウォーカーが冠する、英雄/Heroとは何であろうか?
「才知・武勇にすぐれ、常人にできないことを成し遂げた人」と辞書には記されているようだ。
環境を読み抜き、勝利を掴み、一見不可能だと思われる「赤い世界の終焉」をもたらすもの。
右も左も《山》に囲まれた世界で、《ゴブリンの鎖回し》による支配に辟易している者に勇気を与え、赤の魔法使いに恐怖を与えるもの。
現在のスタンダードに必要なのは、この英雄と呼ばれる存在だ。
大木と市川は、その最も近い場所にいる。
しかし真の勝者としてトーナメントに名を刻めるのは、いつの世でも一人だけだ。
閉塞した環境に風穴を空けようと試み、挑戦する勇気を持つ者。
大勢が決したと思われる中で、独自の視点を失わない者。
勝利に向けて、思考を巡らせ続ける者。
そして、勝利を掴み、その名を世界に轟かせる者。
その者こそが、英雄である。
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ゲーム1
市川が送り出した《査問長官》を、大木は《致命的な一押し》で即座に除去する。
続けて、市川は《巧みな軍略》を唱え、《発明の天使》と《復元》を墓地に送り込んだ。続けて《歩行バリスタ》をX=1で唱えるが、これも《喪心》によって処理されてしまう。
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市川は怯むことなく《航路の作成》で《王神の贈り物》を、《巧みな軍略》で《査問長官》を2枚捨てて、準備は整った。あとは、市川が攻め切るか、それとも、大木が捌き切るか。
早速、市川は《復元》を唱えて戦端を開くが、これも《不許可》で弾かれる。さらにX=2で唱えた《歩行バリスタ》も《致命的な一押し》で処理されるが、《巧みな軍略》を使用して次の機会を伺った。大木は土地を伸ばし、ひたすら市川の唱えた呪文を対処するのみだ。
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《王神の贈り物》が戦場に据えられないならば、クリーチャーを展開して攻めるのみ。市川は《発明の天使》を唱えて攻勢を仕掛ける。《ヴラスカの侮辱》で追放されてしまうが、生成したトークンは戦場に残った。この2体で攻撃を始め、さらに2枚目の《発明の天使》を唱えるが、今度は《不許可》で打ち消されてしまった。
市川は「はい」と答えて一度頷き、《発明の天使》を墓地で眠らせる。
墓地もマナも、十分に確保できた。市川は戦場と相手の手札を確認してから、《王神の贈り物》を唱えた。
大木の答えは、「どうぞ」と一言。早速、《発明の天使》が蘇り、一気に戦線が強固なものとなる。
《ドミナリアの英雄、テフェリー》を唱えて、[-3]能力で《王神の贈り物》をライブラリーに送るが、これも僅かな抵抗にしかならない。市川が《機知の勇者》を唱え、さらに《陽光鞭の勇者》を「永遠」で蘇らせたことで趨勢は決し、大木は静かに土地を片付けた。
市川 1-0 大木
市川も手早く盤面を片付け、サイドボードに手を伸ばす。すると、どちらともなく1ゲーム目の感想を述べ合い、会話が少しだけ弾んだ。両者は笑顔を見せたが、その言葉はすぐに小さくなっていく。そして、笑顔も消え、対戦中のように真剣な表情を見せた。
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先にサイドボードを終えた市川は、デッキをシャッフルし、静かに相手を待った。対する大木は、じっくりとサイドボードを入れ替えていく。60枚のカードをもう一度眺めてから、数枚のカードを入れ替え、市川に差し出した。
ゲーム2
1ゲーム目と変わって、序盤から大木が積極的に動き出す。まずは《強迫》で、市川の手札を暴いた。公開されたのは、《機知の勇者》、《ドミナリアの英雄、テフェリー》、《巧みな軍略》、《アズカンタの探索》、土地3枚。ここでは《アズカンタの探索》を落とした。さらに《巧みな軍略》を《否認》で早々に退け、相手の芽を潰していく。
市川は《歩行バリスタ》をX=1で唱え、次のターンから攻撃を始める。《機知の勇者》は《不許可》で打ち消されてしまうが、《発明の天使》を唱えて、トークンを2体生成することには成功した。
このまま放っておけば、ライフがあっという間に削れていく。大木はそれを阻止するため、終了フェイズに《奔流の機械巨人》、さらにターンを受けて《スカラベの神》を戦場へと送り出した。
《スカラベの神》が、両者の墓地に睨みを利かせる。「クリーチャーを落とせなくなった」と呟きながら、市川はターンを受け、《機知の勇者》を「永遠」で蘇らせ、大木に利用されることを防いだ。
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大木は《ドミナリアの英雄、テフェリー》を唱えて、戦場をさらに固める。ここでは迷いながらも、[+1]能力を選び、手札を補充した。
ターンを受け、市川は土地を立て、ドローを確認。大木の盤面を見つめ、一度深く息を吐いた。
大木のもとには《スカラベの神》、《奔流の機械巨人》、《ドミナリアの英雄、テフェリー》が並ぶ。立たせている土地は4枚。手札は3枚。
このまま《スカラベの神》を放っておけば、自分のデッキに採用されたあらゆるクリーチャーが、脅威となり得る。カウンター、除去……どちらも天敵である。
市川は盤面を見つめ、何度か指で盤面に触れた。そして、一度宙を見つめてから、4枚の土地を倒した。唱えられた呪文は、机に置かれた。
《排斥》である。
これが通れば、《スカラベの神》が追放され、一気に戦況が傾く。
対する大木は、この2日間で何度も唱えて、相手の目論見を潰してきた打ち消し呪文を唱えた。マナを倒し、《否認》を市川に見せたのである。
それを確認し、市川は小さく頷いた。
そして《排斥》ではなく、手札の1枚のカードを手に取った。
《ジェイスの敗北》が、市川によって唱えられた。
大木は伏せていた手札をめくり、目を落とす。そのカードは、《不許可》。しかし、それを唱えられるだけのマナは、どこにも存在しない。
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《排斥》が《スカラベの神》を捕らえた。市川は一度身を乗り出して盤面に視線を落とす。視線と手を動かしながら、最適な攻撃を見出すために、思考を巡らせた。
《発明の天使》と《機知の勇者》が《ドミナリアの英雄、テフェリー》へ、残りのクリーチャーは本体へ攻撃を仕掛けた。大木は《奔流の機械巨人》で《歩行バリスタ》をブロックする。そして大木は、土地を起こしたまま、ターンを返した。
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勝利は目の前だ。どれほど思考を巡らせても、その勝利を失わせるカードは存在しない。
市川は、一度盤面を確認し、最後の攻撃を仕掛けた。
わずかな静寂が訪れ、市川は立ち上がる。
そして両手を高く掲げ、会場に響き渡る声で叫んだ。
市川 2-0 大木
「なぜ、市川は《王神の贈り物》を選んだのか。」
彼のデッキリストを見たとき、当然のごとく疑問が浮かぶだろう。
スイスラウンドが終わり、トップ8に入賞を決めたあとの市川に対して、率直にその疑問をぶつけてみた。すると彼は、丁寧に私の疑問に答えてくれたのだ。
その答えは、まさに理路整然としたものだった。彼がどのように環境を解明したのか。赤いデッキがどのように変化し、その結果として「青白《王神の贈り物》」という答えにたどり着いたのかが、短い言葉の中に詰まっていた。
彼の言葉は、これからさまざまな形で届けられるだろう。優勝者としてのインタビューも控えている。その他の場所でも、今回のデッキについて解説を読む機会はあるはずだ。
その言葉を一足先に耳にした私から補足するとすれば、その会話の終わり際の一言のみだ。
私が「頑張ってください」と伝えると、彼は笑いながらこう答えてくれた。
市川「そろそろ勝たないとね」
その言葉の通り、彼は勝利を掴んだのである。
彼は、赤く染まった環境に対して、挑戦する勇気を持った。
多くの者が「赤が最適解」と決した中で、独自の視点で失うことなく環境を読み解いた。
勝利に向けて、絶えず思考を巡らせ続けた。
そして、勝利を掴み、その名を世界に轟かせた。
彼こそが、英雄だ。
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グランプリ・シンガポール2018、優勝は市川 ユウキ! おめでとう!!
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