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グランプリ・シンガポール2017
準々決勝:齋藤 友晴(東京) vs. 中村 修平(東京)
By Masashi koyama
「なかしゅーが多分世界で一番この環境強いんだよなー」
第13回戦の対戦前、齋藤友晴は「Hareruya Pros」同門であり、旧知の仲である中村修平についてこう評した。
『イクサラン』発売から3か月弱。リリース前には同種族をかき集めるシナジー環境かと目されていた。それは事実ではあったが、環境理解が深まると《吸血鬼の印》《風と共に》《向こう見ず》というコモンのオーラに加え、軽量コンバットリックや《海賊のカットラス》を積極的に使用するより攻撃的な戦術が開発されていった。
特に粘り強さもある白黒吸血鬼デッキは多大な人気を集め、事実プロツアー『イクサラン』では多くの勝ち星を重ねることになった(参考:プロツアー『イクサラン』ドラフト・ラウンド全勝者たち)
プロツアーに限らずグランプリ・香港2017やこのグランプリ・シンガポール2017でも白黒吸血鬼を決め打ちしている(と思しき)プレイヤーは数多く見られ、『イクサラン』環境最強アーキタイプの名をほしいままにしていった(ただし、グランプリ・香港2017の優勝者、佐藤レイがドラフトしたのは青緑タッチ黒のマーフォーク、彼いわく「春の『探検』祭り」だったが)。
プロツアー後、緑多色のような新たなアーキタイプが現れはしたものの、やはり白黒吸血鬼に代表される種族ベースのデッキが現在も『イクサラン』環境の本命に居座っていると言っていいだろう。
さて、話をふたりに戻そう。
冒頭のように齋藤が呟いたのには理由があった。新セット発売直後にプロプレイヤーたちがこぞって行うドラフト合宿。齋藤と中村はともに晴れる屋に所属するプレイヤーたちによる合宿(参考記事)に参加し、中村は最高勝率を叩き出したのだ。
それだけでなく、齋藤によれば中村は先ほどから言及している白黒吸血鬼のような有力アーキタイプのみならず、積極的にバリエーション豊かなアーキタイプを試行していたという。それはつまり、中村が本環境ドラフトにおける引き出しが多く、かつ経験豊富ということだ。
もともと世界的なリミテッド巧者である中村。齋藤がここまで彼を高く評するのは無理なからぬことだろう。
さて、最後になってしまったが、このふたりは言うまでもなく世界的な強豪プレイヤーだ。彼らの華々しい経歴を紹介して(とは言ってもあまりに彼らの実績は多く、かいつまんだものになってしまうのだが)、試合の模様に移ろう。
使用デッキは齋藤が「青緑マーフォーク」、中村が「青赤タッチ黒海賊」と、両者とも本命の白黒吸血鬼とは異なったデッキのドラフトとなった。
齋藤友晴
- プロツアートップ8入賞 5回(プロツアー・チャールストン2006優勝)
- グランプリ優勝 4回
- 2007年プレイヤー・オブ・ザ・イヤー
中村修平
- プロツアートップ8入賞 6回(日本人最多タイ)
- グランプリ優勝 7回(世界最多タイ)
- 2008年プレイヤー・オブ・ザ・イヤー
ゲーム1
齋藤が《深根の戦士》、中村が《深海艦隊の扇動者》というスタートだが、齋藤はいきなり《深根の戦士》に《川守りの恩恵》を打ち込むという荒業で、3ターン目にして4/4というアタッカーを誕生させる。一見、強引とも言える攻勢だが、この時齋藤の手札には他にプレイできるカードがなく、青マナさえ引けば《潜水》を構えられる状況のための決断だろう。
齋藤の一点集中突破に対し、中村は《セイレーンの見張り番》《無法の物あさり》と毎ターン順調に横へと戦場を展開する。
他方、結局《島》を引き込むことができず土地が《森》3枚で止まってしまった齋藤は、《大物群れの操り手》から《源流の歩哨》で地上を固め、4/4となっている《深根の戦士》でのゴリ押しを計るのだが、中村は《水罠織り》で《源流の歩哨》を寝かしつけると、ダメージレースをタイへと押し返す(ともにライフは8と早くも一桁となっている)。
他方、土地がいまだに《森》3枚から伸びない齋藤は、そっとカードを引き込むが......そこに見えたのは待望の《島》!......ではなく《森》だった。
中村は齋藤が《島》を置けず、そして何も展開せずにターンエンドしたのを見ると、ノータイムでフルアタック。齋藤は《噛み付く帆背びれ》を召喚しブロックに回るが、《噛み付く帆背びれ》の能力がスタックに置かれている間に《焦熱の連続砲撃》で《大物群れの操り手》ごと失ってしまう。
齋藤はここで待望の《島》をトップデッキすると、《マーフォークの枝渡り》から《川潜み》と連続で召喚し徐々に盤面を押し返していく。
中村は《セイレーンの見張り番》で攻撃すると、そのままターンを返す。そして《風を跨ぐ者》で《源流の歩哨》のアタックをいなそうとするが、ここに2枚目となる《川守りの恩恵》が飛び、《風を跨ぐ者》を失ってしまう。そして、ここが勝負の分水嶺となった。
中村は《水罠織り》で唯一のブロッカーであった《マーフォークの枝渡り》を対象に取る。これが解決すればライフが残り2点の齋藤に《深海艦隊の扇動者》が致命打を与えるはずだったが、それはもはや叶わない。仮に《風を跨ぐ者》が生き残っていれば勝負が決していたはずだ。
中村は《セイレーンの見張り番》のみでアタックをせざるを得ず、齋藤は返すターンにフルアタック。これで中村のライフが1まで落ち込んでしまうと、続くターン彼はドローを見るといつものように軽く頷いて、カードをすくい上げた。
齋藤 1-0 中村
ゲーム2
中村が短く「先攻」と一言発し、《難破船あさり》からゲームの口火を切る。またしても《森》を2枚並べた齋藤は《マーフォークの枝渡り》を展開。これは《難破船の歌い手》との交換となるが、中村の手札からは長期戦も見据えた《かき回すゴブリン》。
齋藤が《群棲する猛竜》を展開するのに対し、中村は先ほど展開し一度起動したばかりの《かき回すゴブリン》を手札に戻しながらの《嵐を変容する者》ですれ違いのダメージレースを挑む。
が、今度は《島》を引き込めた齋藤は《水罠織り》でこの《嵐を変容する者》を抑えると、中村は《かき回すゴブリン》の再展開といういささか弱いもの。
齋藤はまずは《セイレーンの見張り番》をプレイ。公開は《川守りの恩恵》で、これをライブラリートップへ残すと、《深根の戦士》を追加する。
盤面で圧倒されている中村は意を決してフルタップで《太陽鳥の祈祷》で齋藤のアクションを待つ。無事にターンが返ってくれば公開されるカード次第では盛り返すことも可能だろう。
......が、齋藤は中村に猶予を与えずゲームを決めにかかる。《川守りの恩恵》で《深根の戦士》と《セイレーンの見張り番》を強化すると、《襲撃》で《嵐を変容する者》を除去し一挙10点! これで中村のライフは一気に4まで落ち込む。
中村は《幻惑の旋律》X=4で《セイレーンの見張り番》のコントロールを得ると、ここで《太陽鳥の祈祷》の能力で《風を跨ぐ者》が召喚される。
ゆっくりとしていられない齋藤は損をするにもかかわらずフルアタックを敢行し、中村のライフを2とすると、不可侵クロックである《川潜み》をプレイ!
中村は《鉄面連合の海賊》で《無法の物あさり》をプレイ。《風を跨ぐ者》と支配権を得た《セイレーンの見張り番》で齋藤に6点を与える。齋藤がマーフォーク・クリーチャーをドローすることがなければ無事にターンを迎えることができるはず......
......だった。
齋藤が引き込んだのはマーフォークではなかったが、ゲームを決めるものだった。齋藤がどのクリーチャーにエンチャントするか逡巡していると、それを制止するかのように中村は手札を露わにしたのだった。
齋藤 2-0 中村
齋藤 友晴が準決勝進出!
試合後、中村はポツリと「雑だったかな...」と呟いた。傍から見ている分にはどこでそう感じているのか分からないのだが、トッププレイヤーの思考の中は計り知れないものだ。
ともあれ、中村のグランプリ優勝世界記録更新はならず、齋藤が準決勝へ進む権利を得ることになったのだった。
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