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グランプリ・静岡2017秋
決勝:チーム 阿部/早川/橘 vs. チーム Chew/Lee/Dezani
By Genki Moriyasu
200点に勝る0点。
2017年9月29日。
新セット『イクサラン』が発売された。
マジック・プレイヤーは初めて訪れる次元で、カードを通した旅をしていた。
『イクサラン』。
そこではドラゴンとは違う生態系を持つ『恐竜』が暴れる。
そこでは戦士のような『海賊』が略奪をする。
そこでは川に潜む『マーフォーク』が森に愛される。
そこでは夕暮れを愛する『吸血鬼』が讃美を歌う。
明確に4部族を中心にした新次元。
この新次元環境で、カードとカードが生み出すシナジーを活用する構築ができたチームが、グランプリ・静岡2017秋を勝ち抜いてきた。
グランプリ・静岡2017秋。
『イクサラン』発売翌日にあたる2017年9月30日より開催された。
1日目には、558組1674人のグランプリプレイヤーが集まった。
2日目では、128組384人にまで絞られた精鋭プレイヤーが残った。
スイスラウンド14回戦終了時、4組12人の決勝トーナメントプレイヤーが決まった。
そしてつい先ほど。
今大会最後に最強を争う2つのチームが輩出された。
チュウ/リー/デザーニチームと、阿部/早川/橘チームだ。
チュウ/リー/デザーニチーム。
参加表明時から優勝最有力候補の1つに数えられてきたチームだ。
準決勝では同じく強力なメンバーを揃えたチーム 石井/菅谷/小堺を下した。
Kelvin Chew(ケルヴィン・チュウ)。
シンガポール在住のプロ・プレイヤーはグランプリ・北京2017優勝を含め、リミテッド・イベントでの入賞経験を多数持つシールド・マスターだ。
Lee, Shi Tian(リー・シー・ティエン)。
プロツアー・サンデー、5回。この数年は毎年グランプリ・トップ8にも入賞している。
モダンやスタンダードといった構築戦のイメージも強いが、プロツアーでの上位入賞はドラフトの強さも同時に証明する戦績だ。
香港のスター・プレイヤーだ。
Jérémy Dezani(ジェレミー・デザーニ)。
プロツアー『テーロス』優勝。
2013-2014年度において世界で最も多くのプロ・ポイントを獲得し、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーの称号を得ている。
フランス人のプレイヤーだが、Hareruya Prosの一員として、最近は活動拠点を日本に移している。
アジアを中心に活動するプロ・チームとして、日本国内のグランプリでは見たことのあるプレイヤーも多いだろう。
マジックの花形プレイヤーとして、技術の高さと美しさをこの対戦でも見せてくれるはずだ。
阿部/早川/橘チーム。
ほぼ無名の日本人チームがこのプロ・チームと激突する。
チュウ/リー/デザーニチーム同様、あるいはそれ以上の優勝候補として名の挙がっていた、渡辺/中村/八十岡チームを、準決勝にてジャイアント・キリングした勢いがある。
阿部 倫央。
早川 翔。
橘 健太郎。
この3人がチームとして初めて組んだのはグランプリ・京都2013のとき。
4年間組み続け互いを信頼し合う、関係性の熟成したチームのようだ。
B卓(中央)に座る早川をリーダーとして、阿部と橘も全力で相手に立ち向かう姿勢を見せていた。
彼らはピックを終えてのデッキ構築中も会話を弾ませていた。
阿部は「1戦目(準決勝)よりマシ」と自らのピックを控えめに評価するが、マナ・カーブの綺麗な白黒を完成させている。
吸血鬼が主体のようだが、優秀な他の部族カードもいくらかピックできているようだ。
仮組みした40枚のライブラリーをシャッフルし、上から7枚の束を5回ひらいて、それぞれの束でマリガン・キープのチェックを繰り返す。
偏りがあるかないか、あるいは偏りがあったときにどういった手札になるのか。
現状であれば、どのくらいキープできるのかどうか。そうしたことを判断しているようだ。
これは準決勝のデッキ構築中にも確認していた。普段からの調整方法のようだ。
早川も、阿部と同じく白黒の吸血鬼主体だ。
アーキタイプとしてのパーツ枚数はいくらか足りないようだが、《輝くエアロサウルス》のように単体で強いカードを取れている。
ただし、それでも純正の白黒にするには若干枚数が足りないことを懸念しているようだが......どうなるのか。
最終的に一番リストを悩んでいたのは早川だったようだ。3人で細かく詰めて協議し、やがて決定に至る。
「『舞える』......かも!」 完成した40枚を見て、早川は声を出していた。溢れる情熱と零れる不安が混在しているようだ。
橘は色をハッキリと分けた青緑マーフォークの束を盤面に広げている。
2マナと3マナ域が厚く、ボムもしっかりと用意されたザ・ドラフトデッキだ。
「行くか!」と、阿部と早川を鼓舞していたが、そこにはもしかしたら自分自身への発奮も含まれていたのかもしれない。
つい今しがた、チーム 渡辺/中村/八十岡という最強チームの一角を打ち崩した彼らにとって、トップ・プロは萎縮する相手ではない。
勝てない相手でもない。「勝とう」。そう志す3人の想いは、熱く燃えている。
阿部/早川/橘チームがデッキリストを固めたころ、チュウ/リー/デザーニチームも同じくデッキリストをジャッジに提出していた。
もうじき、最終決戦が始まる。おのおの数分のひと息つく時間を経て、2チーム6人はカメラとスタッフ、そして観客に囲まれたテーブルについた。
ここまでで散っていった556組1668人のプレイヤーたちが遠く近く見守るなか、グランプリ・静岡2017秋、最終決戦が始まる。
A卓 阿部(白黒吸血鬼) vs. チュウ(緑白恐竜) ゲーム1
《キンジャーリの呼び手》から《ティシャーナの道探し》と先んじたチュウが、緑白の恐竜デッキであることを阿部に明示する。
阿部は《海賊のカットラス》から《縄張り持ちの槌頭》とプレイ。しかしそのまま《平地》3枚で土地が止まってしまい、チュウの「ボム」の1枚《原野を目覚めさせる者》が機能しはじめてしまう。
ケルヴィン・チュウ |
この《原野を目覚めさせる者》が6/6の土地・クリーチャーを完成させ、自身へ襲いかかってくるころに、ようやく4枚目の土地を引き込んだ阿部。
それは待望の黒マナを生む《沼》であり、手札には《崇高な阻止》も持っていて1ターンは凌げそうにも見えたが、阿部はそれよりも《沼》を見せないことを選んだ。
自らの正しいカラーリングとアーキタイプを相手に確定させないうちに投了することで、ゲーム2のプランメイクをさせにくくさせる目的だ。
この大一番で、阿部は冷静な判断で次ゲームへ視線を切り替えた。
慌てず、急がず、諦めず。
仲間たちに「1本落とした」と報告だけして、サイドカードを見比べていた。
阿部 0-1 チュウ
B卓 早川(白黒吸血鬼) vs. リー(赤黒海賊) ゲーム1
リーの《這い回る心止虫》が《もぎ取り刃》をかついで、手ごわい2/2接死持ちとしてダメージを刻み始める。
早川も《女王湾の兵士》からの《巧射艦隊の拷問者》強襲と応えた。
リーは土地こそ少なめだが、《火炎砲発射》で《巧射艦隊の拷問者》を焼き、《這い回る心止虫》の攻撃を通して宝物を生み出してゆく。
さらに《吸血鬼の印》をエンチャントして、戦闘系能力のオンパレード・マシーンを組み立てた。
しかし逆に言えば、これを対処されれば一度に多くのものを失う戦法でもあった。
早川は2枚展開した《血潮隊の聖騎士》で地上ブロックを盤石なものにしつつ、《不死の古き者》と《輝くエアロサウルス》で飛行クリーチャーを用意した。
宝物でマナのリソースをカバーしていた関係上、その供給が止まったリーが繰り出せる手立ては少なくなったようだ。
攻め手を失い、受け手も欠き、《不死の古き者》の能力起動へのコストも用意され続けている。
早川の軽いところから重いところまでをしっかり確認したリーが、潔くゲームを畳んだ。
早川 1-0 リー
C卓 橘(青緑マーフォーク) vs. デザーニ(赤緑恐竜) ゲーム1
橘が構築後、「行くか」と2人に声をかけたのと同じことなのだろうか。
ゲーム直前、笑顔のデザーニがチュウ、リーとハイタッチを交わした。自信の現れか、気合いを入れ直したのか。
あるいは「楽しもう」と2人に伝えたかったのか。
実際のゲームは、橘の《難破船あさり》から始まった。
《激情の猛竜》プレイで返したデザーニは、次の展開として《ティロナーリの騎士》2体を追加し、アタッカーたちを順調に増やしてゆく。
その間、《開花のドライアド》でマナ・ジャンプする橘。
いったん《水罠織り》でデザーニの打撃力を緩めた後に、《巨大な戦慄大口》を着地させて分厚い壁を打ち立てた。
構わず《激情の猛竜》と《ティロナーリの騎士》2体で10点の攻撃を仕掛けてゆくデザーニ。
これは橘当人にとってもコンバット・トリックの存在が見え透くアタックだが、通すのが10点というのは痛みが大きい。
《巨大な戦慄大口》で《激情の猛竜》をブロックし、これを一方的に打ち取ったあとに《稲妻の一撃》が合わさって《巨大な戦慄大口》が破壊される。
《確実な一撃》であれば一方的に《巨大な戦慄大口》だけを失っていたので、まだ許せる結果だろうか。
このやりとりの結果、互いに恐竜を喪失したことでダメージレースは急速に減速し、次手を待つこととなった。
橘が《財力ある船乗り》を示して《ティロナーリの騎士》を食い止める間、デザーニは3/2の《マーフォークの枝渡り》を横に並べて、一気呵成に仕留めるタイミングを見計らう。
橘は出したばかりの《開花のドライアド》で《マーフォークの枝渡り》をブロックしつつ、打開策を待ち続ける。
ジェレミー・デザーニ |
デザーニはこの攻勢が取れているタイミングを逃さず、《太陽冠のハンター》をプレイした。
そしてさらなる次手を続ける。《蠱惑的な船員》。
毎ターン、マナ以外のコストを要求しない《反逆の行動》を打ち続けるエンド・カードの1枚だ。
そして3体目の《ティロナーリの騎士》まで置いた。
いくらかのマーフォークに加え《源流の歩哨》といった頑強なブロッカーで身を固めた橘であったが、この頼れる硬さが《蠱惑的な船員》によって誘惑されてしまう。
ここまで優位な場をゆっくり着実に築きあげつつも攻撃宣言の声は少なかったが、「準備は整った」とばかりに一気に攻撃に回るデザーニ。
いったんは受けきれないわけではない橘だったが、次のターンにはすでに、ブロッカーが必要数を下回ってしまった。
橘 0-1 デザーニ
B卓 早川(白黒吸血鬼) vs. リー(赤黒海賊) ゲーム2
後手のリーが1ターン目から《火の祭殿の守り手》をプレイして、ゲーム・スタート。
早川の2ターン目《女王湾の兵士》スタートもまずまずの立ち上がりだが、威迫持ちの《火の祭殿の守り手》は止まらない。さらにリーの《探求者の従者》が探検の結果2/3に育って、サイズの面でも優位に立つ。
リー・シー・ティエン |
早川は《這い回る心止虫》で地上を固めたいが、リーは《流血の空渡り》で空から応えて、早川より一手ずつ上回る形だ。
そして続けざまに《火炎砲発射》を2発繰り出して、《女王湾の兵士》と《這い回る心止虫》を破壊する。速やかに早川のライフを攻め立てる算段をつけた動きだ。
早川も《軍団の飛び刃》や《血潮隊の聖騎士》といったカードで応えてゆく。ただ、リーの側に《這い回る心止虫》も追加されると、ライフかクリーチャーを一方的に犠牲にする消耗戦となった。
序盤に押し込まれた分で盤面を解決するカードを引く猶予も持てず、早川はゲームを畳んで3本目に賭けた。
早川 1-1 リー
C卓 橘(青緑マーフォーク) vs. デザーニ(赤緑恐竜) ゲーム2
《恐竜との融和》から《山》を探し、《巣荒らし》速攻を決めるデザーニ。多めの土地と《宝物の地図》でキープした橘は順当に《宝物の地図》が初動だ。
デザーニが追加した3ターン目の《身勝手な粗暴者》も橘のライフを削ってゆく。
橘は《探検の地図》で占術しながら、攻撃をもらいながらも《セイレーンの見張り番》から《深根の戦士》、《蔦形成師の神秘家》と続ける。
デザーニは自らの攻撃が通りにくくなる前に《稲妻砲手》もプレイして、別筋のダメージソースも用意した。
橘 健太郎 |
すでにライフも多く支払い、劣勢の橘であったが、「ボム」をプレイする準備はできていた。
これが着地した瞬間に、戦況は大きく変わる。
たった1枚の手札を公開し、橘は7マナのクリーチャー呪文を唱えた。
《轟く声、ティシャーナ》。
呪文が解決され、《轟く声、ティシャーナ》の戦場に着地する。
コントロールしているクリーチャーの数だけカードを引く、という強烈な誘発型能力がスタックに置かれる......が、その前に解決すべき事象が起きた。
《轟く声、ティシャーナ》の特性定義能力だ。
これは自らの手札にあるカードの枚数だけパワーとタフネスを持つ。つまり、現地点で手札を持たない橘のもとでは、0/0だ。
《轟く声、ティシャーナ》は、誘発型能力が解決される前に戦場から姿を消した。
もともと戦場に残っている2体のマーフォークの分、2枚だけ橘の手札が増える。
結果としてタップアウトとなり、クリーチャーが追加されなかったこのタイミングを、デザーニが見逃すはずはなかった。
また橘に、デザーニの猛攻を受け止めきるだけのブロッカーも用意できていなかった。
橘 0-2 デザーニ
A卓 阿部(白黒吸血鬼) vs. チュウ(緑白恐竜) ゲーム2
ゲーム1では白黒であることを隠した阿部の先手でゲームが始まる。
《自暴自棄の漂流者》から《軍団の征服者》、《プテロドンの騎士》と続ける阿部。
今度は色も量も安定して供給できているようだ。
チュウもクリーチャーの展開で応じる。
《猛竜の相棒》から《群棲する猛竜》、そして《プテロドンの騎士》の鏡打ちだ。
阿倍はさらに横へ展開するため《駆り立てる僧侶》、《女王の任命》とクリーチャーを増やし続ける。
チュウも《イクサーリの守り手》を《帝国のエアロサウルス》で飛ばしたあとに、《原野を目覚めさせる者》というバランス・ブレイカーを投入。
この《原野を目覚めさせる者》は返しに《弱者成敗》で落とされたため、《平地》1枚を2/2に変えるに留まった。
そしてこの《原野を目覚めさせる者》プレイを最後に、チュウの展開が止まった。
阿部 倫央 |
阿部は《崇高な阻止》と《縄張り持ちの槌頭》でアタックの道をこじ開ける。
さらに《継ぎ当ての翼》も用意して、地上のブロッカーに影響されないクロックを形成し、《吠えるイージサウルス》から《選定された助祭》と続け、吸血鬼・トークンを3/1にしてアタッカーを大量に用意する。
チュウにとって、この3ターンの間に一気に対処すべきカードが増えてしまっていた。
手札もマナも、ブロッカーもアタッカーも足りなすぎた。
阿部 1-1 チュウ
A卓・B卓ともにゲーム3への移行が決まった。
すでにマッチを終えたデザーニと橘が、2人を応援しつつ助言に入る。
A卓 阿部(白黒吸血鬼) vs. チュウ(緑白恐竜) ゲーム3
ここでマリガンの不運があった阿部だが、2ターン目《自暴自棄の漂流者》からの3ターン目《海賊のカットラス》というコンボ・ムーブを決めて4/4アタッカーを作り上げた。
チュウはこの4/4をしばらく止める手立てを持たず、能力で土地を引き込んだ《イクサーリの卜占師》はお役御免とばかりに即座にチャンプ・ブロックに回してゆく。
海賊シナジーを活用したあとは《女王の任命》からの《選定された助祭》という、吸血鬼ムーブを決める阿部。
吸血鬼・トークン1体と《猛竜の相棒》を相打ちさせつつ《女王湾の兵士》を用意し、その攻勢は保たれたままだ。
だがここで起死回生の1体とすべく、《殺戮の暴君》をプレイしたチュウ。
非常に強固な除去耐性とサイズを持つ、恐竜の王様ともいえる1体だ。
しかし阿部は攻め手を休めない。《女王湾の兵士》に《海賊のカットラス》を装備させ、《選定された助祭》でパワー修整をつけると、パワー6アタッカーの完成だ。
7あるパワーと異なり、タフネスは6しか持たない《殺戮の暴君》では、この攻撃を一方的には遮断できない。相打ちだ。
ライフレースで優位に立つ阿部は《プテロドンの騎士》を用意し、続けて《縄張り持ちの槌頭》で飛行を与える。
《海賊のカットラス》を持ち直して、攻撃を仕掛けていく。
チュウの展開した《聳えるアルティサウルス》や《葉を食む鞭尾》といったブロッカーは、そのライフを守りきってはくれなかった。
阿部 2-1 チュウ
「勝ったぞ」
阿部は隣の早川に、短く事実と想いを伝えた。
これでチーム成績、1勝1敗。
阿部と橘は、早川に想いを託した。
デザーニとチュウもまた、リーの実力を信じた。
全ての結果が決まるB卓ゲーム3は、すでに始まっていた。
B卓 早川(白黒吸血鬼) vs. リー(赤黒海賊) ゲーム3
《もぎ取り刃》から《自暴自棄の漂流者》と早川が続けたところで、「土地詰まった」と漏らした。
しかし4ターン目には無事3枚目の土地が手元に届いて、致命的な減速とはならなかった。
《軍団の飛び刃》も追加して、展開自体も止めていない。
その後、順調に引いてきた土地には《島》と《未知の岸》が含まれていた。
ここまで白黒以外のカードをかたくなに見せてこなかった早川。
明確に3色目の気配を漂わせる土地だが、果たしてそのカードは何なのか。その謎の解決は、今しばらく先だ。
リー側も《立ち枯れの守り手》と《結束した角冠》、《繁雑な火炎砲》でダメージソースの展開は十分だ。
そこで早川は《吸血鬼の印》を《軍団の飛び刃》にエンチャントし、ダメージレースを一気に加速させる。
一度はこれの攻撃を受けたリーだが、《探求者の従者》召喚から《結束した角冠》《火の祭殿の守り手》で攻撃後、《火炎砲発射》で強襲6点を《軍団の飛び刃》へ差し向ける。
しかし早川が待ったをかけた......《吸血鬼の士気》を同じく《軍団の飛び刃》へプレイ。
パワー/タフネスを5/7にまで育て、致死圏から逃げてアタッカーを生存させた。
そのまま早川はターンをもらい、《もぎ取り刃》を装備させて4点絆魂飛行で攻撃。生み出した宝物と合わせて4マナを捻出し、《饗宴への召集》で吸血鬼・トークン3体を用意した。
リーは《結束した角冠》という強烈なサイズでも絆魂と4体と殴り合いをするのは得策ではないとし、1体も攻撃に行かせず、動かない。
逆に早川はオール・アタックだ。
吸血鬼・トークンは《探求者の従者》と《結束した角冠》で止められるが、《軍団の飛び刃》は打ち落とされない算段だ。
リーの予定調和的な3体ブロック。《立ち枯れの守り手》は《軍団の飛び刃》を受け止める。
吸血鬼・トークン2体と《立ち枯れの守り手》がいなくなるはずの戦闘ダメージの解決前に、リーから待ったがかかる。
リーは《確実な一撃》を《立ち枯れの守り手》へ。これで4/1先制攻撃を用意し、そのまま先制攻撃分の戦闘ダメージを解決。そして通常の戦闘ダメージが解決する前に《繁雑な火炎砲》を起動。合わせて6点を《軍団の飛び刃》へ与え、《立ち枯れの守り手》を生き残らせつつ、《軍団の飛び刃》を処理した。
リーにとって最大の難関をあらためて突破した形となった。
......第2メイン・フェイズに示された早川のカードがなければ。
《深海艦隊の殺し屋》。
戦場に出ると、すでに1点ダメージを受けている《結束した角冠》を破壊する。
入れ替わり立ち代わりの激しい戦場となった。
最終的に早川の盤面に残ったのは《もぎ取り刃》を装備した《深海艦隊の殺し屋》と吸血鬼・トークン1体。
リーの盤面で生きるのは《探求者の従者》1/2と《立ち枯れの守り手》とタップ状態の《繁雑な火炎砲》だ。
ここまでの絆魂能力でライフレースは早川に傾いており、早川22に対してリーは9だ。
リーはこの状態から《立ち枯れの守り手》1体で攻撃を仕掛ける。そして第2メイン・フェイズの展開は《帆綱走り》強襲。
一見頼りなさげな小粒の先制攻撃持ちだが、先ほど同様、次のターンで《繁雑な火炎砲》を起こせば、先制攻撃ダメージとの合わせ技でアタッカーを止められる。《探求者の従者》とのダブル・ブロックも想定できる。
すでに手札を枯らしている早川にとってみても、嬉しいものではなかった。
......自らのトップ・デッキを確認するまでの、短い間は。
《幻惑の旋律》。
「白黒吸血鬼、タッチ青」。
ゲーム3も終盤を迎えつつあるころに、ようやく判明した早川デッキの3色目。
《島》と《未知の岸》から無理やりひねり出すほどにギリギリのマナ・サポートでの、ダブルシンボル・タッチだ。
早川 翔 |
「1戦だけ。1戦だけ回れば良いんだよ」
デッキ構築の際、《幻惑の旋律》を入れるか抜くかでチームで悩んでいたとき、早川が口にした言葉だ。
そして、4枚ほどしかデッキにないうちの2枚の青マナ源と《幻惑の旋律》が手札に来るゲームがこの大舞台の一度だけ、噛み合った。回った。
それは自らのピックと構築を信じた早川への、一度だけの贈り物だったのかもしれない。
たった1戦のためだけのドラフト・ピック。たった1戦のためだけのデッキ構築。
早川がデッキに賭けた想いは、ここに濃縮されていた。
B卓 早川(白黒青吸血鬼) vs. リー(赤黒海賊) ゲーム3......続き
「信じられない」。
リーは口にはしなかったが、額に手をやりながら《幻惑の旋律》を見つめた眼が雄弁に物語っていた。
結果として《帆綱走り》はリーの手元を離れ早川に寝返り、《深海艦隊の殺し屋》を打ち落とす手立てが一瞬にして崩壊した。
《もぎ取り刃》を装備した《深海艦隊の殺し屋》が通って、ライフはリーが5、早川が21。
リーにめぼしい動きはない中、早川の次のドローは《風と共に》。《幻惑の旋律》とともにタッチした青い呪文の1枚だ。
《深海艦隊の殺し屋》を飛ばし、《立ち枯れの守り手》をチャンプ・ブロックに回させる。
次のドローで6/5飛行を止めるカードを引かなければ、リーの負けが決まる。一気にそこまで追い込まれた。
その状況でリーは、ドローしたカードをそのまま戦場に送りつけた。
着地したクリーチャーは《鉄面連合の海賊》。
探検によって公開された《山》も戦場に置いたところで、リーは早川に握手を求めた。
敗者から勝者へ送る、賛辞だ。
早川 2-1 リー
早川がリーの握手に応じ、阿部/早川/橘チームの勝利が決まる。
「ジャイアント・キリング」。大金星。大物潰し。
呼ばれ方はともかくとして、阿部/早川/橘チームは前評判を覆しつづけ、優勝の座にたどり着いた。
後のインタビューで橘が想いを語った文節が特徴的であった。
「今日だけでプロ・ポイント200点くらい倒しました。こっち(3人で)0点なのに」
マジックの勝敗はプロ・ポイントの多寡では決まらない。
マジックの勝敗は、マジックでしか決められない。
橘は笑いながら語ったが、それはマジックのルールであり基本であり真髄だ。
そして今日、グランプリ・静岡2017秋において、その真髄に一番近いところにいたのが阿部/早川/橘チームだったのだ。
阿部/早川/橘チーム、優勝、おめでとう!
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