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グランプリ・北九州2013

観戦記事

第5回戦:高橋 優太(東京) vs. 豊田 弘記(岡山)

By Masami Kaneko

 かつて、「デルバーの夏」と呼ばれた夏があった。環境を《秘密を掘り下げる者》デッキが支配していた2012年の夏。

 中でも「現役最強」渡辺雄也が土地を19枚まで切り詰めた青白デルバーを引っさげ、数々のトーナメントを総ナメにしていたのは記憶に新しい。そのデルバーデッキは敬意を込めて「侍デルバー」と呼ばれていた。

 それから一年。《秘密を掘り下げる者》はその夏を支配した力を潜ませ、《さまようもの》として生きていた。空に憧れる彼はしかし、その秘密を解き明かせないでいた。彼が空に飛び立つ日はもう無いのだろうか。

 否。

 この夏、その「侍」の心を引っさげて、あの男が帰ってきた。

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 高橋優太(東京)。かつて日本国内のグランプリを「青黒フェアリー」で二連覇し「妖精王」と呼ばれた男。ここまで4-0の彼の使うデッキは、青白《秘密を掘り下げる者》。土地が19枚のまさに「侍デルバー」と呼ぶにふさわしいデッキであり、出来についても「自信作」とのことだ。

 『CARDSHOP晴れる屋』の店員でもある彼の持つコーナーはそういえば「価格を掘り下げる者」だ。しかしここではショップ店員としての「高橋優太」ではなく、プロプレイヤーとしての「高橋優太」に、シングルカードの価格ではなく秘密を掘り下げてもらおう。

 一方の豊田 弘記は、岡山のプレイヤー。地元コミュニティで研鑽を重ね、過去には日本選手権予選突破の経験もある実力派。Bye2から4-0まで勝ちを重ねており、調子の良さが伺える。ここで勝ち星を重ね、ぜひ二日目に進みたいところだろう。使用するのはラクドスカラーのビートダウン色の強いデッキのようだ。

 ビデオマッチに呼ばれ、高橋ははにかみながら、豊田は緊張した面持ちで席についた。

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高橋 優太(青白デルバー) vs. 豊田 弘記(ラクドスビートダウン)

ゲーム1

 《血の墓所》から《》と並べる豊田に対して、高橋は《思考掃き》を3連打からの《聖トラフトの霊》で攻勢に出る。対処手段の限られるこの伝説のクリーチャーに対して、しかしここに豊田の《ヴェールのリリアナ》が突き刺さる。残念ながらイージーウィンとはいかなかったようだ。

 となれば一転して苦しいのは高橋。《生命散らしのゾンビ》、《雷口のヘルカイト》、2枚目の《生命散らしのゾンビ》と脅威を続ける豊田に対して《本質の散乱》や《瞬唱の魔道士》で的確に対処していくが、受け手にまわってしまい3ターン目に着地した《ヴェールのリリアナ》に対応できていない。そんな中、ついに豊田の《ファルケンラスの貴種》が場に出てしまう。

 しかし高橋もここで折れるような男ではない。《修復の天使》で応じることによって《ヴェールのリリアナ》を退場させ、盤面を均衡状態に戻していく。豊田の追加戦力《灰の盲信者》も、高橋の場に《瞬唱の魔道士》を登場させるだけの結果に終わった。

 そして《聖トラフトの霊》《ルーン唱えの長槍》で盤面を圧倒したかに見えた、その刹那。

突然の火!!!

 その奇跡によってもたらされた、高橋にとって忌むべき炎は、高橋の盤面を、ライフを、勝利を燃やし尽くしたのだった。

高橋 0-1 豊田


豊田 弘記

 劇的な幕となったゲーム1。勝利した豊田は心なしか嬉しそうに、敗北した高橋は先ほどのゲームを反芻するように、ゆっくりと自分のデッキを、相手のデッキをシャッフルし、デッキを差し出した。

ゲーム2

 高橋が《秘密を掘り下げる者》の2連打して始まったこのゲーム。しかし秘密を解き明かせない二人は、空に飛び立てない。そして反転しないまま豊田の3ターン目に《忌むべき者のかがり火》が再び《秘密を掘り下げる者》を燃やし尽くす。秘密を解き明かせなかった二人の《さまようもの》はその生涯を終えた。

 今度は豊田の番だ。《灰の盲信者》を2体、さらには《ラクドスの血魔女、イクサヴァ》《ファルケンラスの貴種》と強烈な速攻クリーチャーを連打していく。

 しかし高橋もさるもの。一時はかなり厳しい盤面に見えたが、《雲散霧消》《送還》《瞬唱の魔道士》を絡め、高橋の《瞬唱の魔道士》2体だけが攻撃する場が出来上がった。もうあとひと押し。

......そう、あとひと押しなのだ。高橋の土地には《ムーアランドの憑依地》が、そして手札には《アゾリウスの魔除け》とさらに《修復の天使》が2枚! ひと押しどころかふた押しでも出来る十分な手札なのだが、何を隠そう白マナが出ない。唱えられない呪文はただの紙の束だ。

出待ちの天使

 引かない。引けない。その間に2人の《瞬唱の魔道士》は、三度吹き荒れる《忌むべき者のかがり火》によって燃え尽きてしまった。それでも白マナを引けず続々と投入される豊田の追加戦力に、高橋自身もついには燃え尽きてしまったのだった。

高橋 0-2 豊田


 勝負はどんな時でも残酷だ。

 勝利した豊田は、ニコニコ生放送のブースに呼ばれていった。敗北した高橋は、自身のプレイを反芻している。豊田は、ブースで嬉しそうに話している。高橋は、悔しそうに「1ゲーム目、間違えたかもしれない」と反省している。豊田は、嬉しそうに生放送を通して仲間に呼びかけている。高橋は、1ゲーム目の展開と自身のプレイからそもそものプランが間違っていたのではないかと過去の自分に問いかけている。

 そもそも3ターン目に《聖トラフトの霊》を出したのが早計だったのではないか。《血の墓所》と《》から《ヴェールのリリアナ》を想像できていれば。あそこで勝ちを焦らなければ、《生命散らしのゾンビ》を《本質の散乱》して、さらに次のゾンビに対しても《瞬唱の魔道士》から《本質の散乱》を合わせて、それから《聖トラフトの霊》をプレイしていれば、《ヴェールのリリアナ》などでは対処されず、聖なる霊の加護であの忌むべき炎が燃え盛る前にゲームを終えられていたのではないか。どこか途中で方針転換は出来なかったのか。引いたカードは強かった。選択肢は無数に有った。本当に勝てないゲームだったのか。

 ひとしきり検討した末に高橋は結論を出した。「1ゲーム目は、正しくプレイすれば勝てるゲームでした。」


 それでも、勝負は残酷だ。

 現実に、「もしも」は無い。

『敗北』という残酷な現実と向き合った高橋は、言葉を一つだけ残してフィーチャーエリアから離れた。

「また、必ずここに帰ってきます。」

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