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グランプリ・香港2017
第4回戦:大木 樹彦(群馬) vs. 中村 修平(東京)
By 伊藤 敦
プロツアーの権利を得たいプレイヤーにとって、参加人数が比較的少ないアジアGPは最大のチャンスとなる。
国内グランプリなら概ね2敗までで抑えなければならないところ、アジアGPならば3敗してもトップ8の可能性が残ることが多いからだ。
チーム戦のグランプリ・静岡2017秋では惜しくも3敗でプロツアーの権利を逃したブロンズレベル・プロ、大木 樹彦もそれを目論んで遠征に来ているプレイヤーの一人である。
だが、初戦を勝ってひとまずスコアを3-0とした大木に立ちはだかるのは、3不戦勝明けの殿堂プレイヤーにしてゴールドレベル・プロ、中村 修平。世界的にもリミテッダーとして知られる相手だけに、大木にとっては早くも正念場といったところ。
次代を担うホープとしての緑と、現役のプロとしての赤。対照的なユニフォームカラーの2人が握手を交わし、対戦がスタートする。
ゲーム1
決着は一瞬だった。
先手の中村が《アダントの先兵》から《司教の兵士》と立て続けに送り出したのに対し、大木は後手2ターン目に《猛竜の相棒》こそプレイしたものの、土地が《平地》2枚で詰まってしまったのだ。
こうなっては仕方がない。ターンを返し、さらに《深海艦隊の扇動者》+《軍団の飛び刃》とテンポ良く展開されたところで、ドローを確認した大木は決断を下した。
大木「......投了しまーす」
わずか4ターンの出来事であった。
大木 0-1 中村
中村「......この環境、 って感じやなー」
サイドボードに手を掛けながら中村がポツリと漏らした言葉に、大木は苦笑で応える。
後手の土地2枚キープは、3ターン目までの3枚のドローのうち1枚でも土地を引けばひとまず事故らない。1枚以上の土地を引く確率は、およそ85%。だから大木のキープはミスとは言えない。
だが、2マナと3マナのクリーチャーを重ねる高速アグロが組まれがちな『イクサラン』環境にあっては、序盤のもたつきは特に致命的となる。
しかも今回は、中村のぶん回りがそれに拍車をかけた。その不条理に対しては、しかし今は飲み込んで2ゲーム目に集中することが最も勝率の高い行動となる。
中村の言葉は土地事故を起こした相手に納得する余地を与えるものだ。マジックというゲームの性質がそうである以上、事故った相手に申し訳ないとは言わない。だがそれでも声をかけたのは、中村なりの優しさの表れなのかもしれない。
ゲーム2
マリガンスタートとなってしまった大木が、それでも《猛竜の相棒》から《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》という回りを見せると、《軍団の飛び刃》を送り出していた中村の口元が緩む。
そう、中村の3ターン目の動きも《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》。
何とも奇妙なめぐり合わせに大木も破顔するが、先に吸血鬼・トークンを出したのは《軍団の飛び刃》を出していた中村の方。これを見て大木も《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》を相打ち上等でレッドゾーンに送り出しつつ、《日の出の使者》をプレイ。「探検」でめくれた《深海艦隊の扇動者》を墓地に落とす。
大木 樹彦 |
だがサイドボーディングで白赤から白緑にスイッチしていた中村は、構わず《新たな地平》で《軍団の飛び刃》を2/4にして制空権を掌握すると、さらに《マーフォークの枝渡り》の「探検」で《襲撃》を公開してトップに維持する。
ここで4枚目の土地を引き込んだ大木は《イクサランの束縛》で中村の《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》を封印しつつ自身の《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》で攻撃、《マーフォークの枝渡り》と相打ちにして、空がダメなら地上とばかりに少しずつ盤面を切り拓いていこうとする。
中村「ハンドが......?」
大木「2枚です」
中村 修平 |
しかし返す中村は《ティシャーナの道探し》を追加。《日の出の使者》も《襲撃》で除去し、一方的に有利な盤面を作っていく。
盤面を整理すると、中村がコントロールしている2/4の《軍団の飛び刃》、吸血鬼・トークン、3/3の《ティシャーナの道探し》に対し、大木は《猛竜の相棒》と吸血鬼・トークンのみ。この状況で大木は吸血鬼・トークン1体のみの一見不可思議なアタックを敢行。
大木の手札が3枚であることを確認した中村が落ち着いてダブルブロックすると、大木は戦闘後に5枚目の土地を置いて《風雲艦隊の紅蓮術士》の「強襲」によって、合わせ技で《ティシャーナの道探し》を排除。ようやく地上を開通させる見通しが見えてくる。
中村「ハンドが今1枚?」
そんな大木に対し、中村が鋭く探るような声音で手札の枚数を確認する。
そう、中村は先ほどからタイミングを待っていた。大木が無理に攻めるためにリソースをすべて使い尽くしたこのタイミングを。
中村が送り出した切り札は、《戦場の詩人、ファートリ》!
大木「うわー! えーなんすかそのカード、ずるいなー......」
これに対し有効な解答を持たない大木は、《深海艦隊の扇動者》と《女王の任命》で戦線を横に伸ばすが、《戦場の詩人、ファートリ》の[-X]能力が《猛竜の相棒》とトークンを薙ぎ払うと、中村は[0]能力で恐竜・トークンの量産を始める。
それでも《稲妻砲手》を引き込み、《戦場の詩人、ファートリ》の忠誠度に対してのプレッシャーをかける大木だが、ならばと中村は[+2]能力を起動し続けるのみ。その間にも、空から止まらない《軍団の飛び刃》が大木のライフを少しずつ削っていく。
そしてラストターン、《残骸の漂着》をケアして慎重に《継ぎ当ての翼》を装備したクリーチャーと《軍団の飛び刃》の2体だけで攻撃した中村に対し、大木は右手で{W}{W}を含む土地4枚をタップするジェスチャーを見せ......
その右手を、そのまま差し出したのだった。
大木 0-2 中村
中村「相手の事故とマリガン。あと3回くらい、これくらい楽に勝てたら良いね」
大木がフィーチャーエリアを去った後に中村はそう嘯いたが、1ゲーム目はともかく2ゲーム目の試合運びは極めて緻密かつ丁寧で、《戦場の詩人、ファートリ》を出すタイミングはもちろん、リソースの管理において一切の取りこぼしもないと思えるほどだった。
デッキ相性的には、愚直なビートの大木に対してレアもあるミッドレンジの中村はそもそもすこぶる有利だったろうと思う。
だが、格下相手でも手加減なし。ゲーム内においては優しさが欠片も感じられない、しかしそれだからこそ、中村 修平という男はプロプレイヤーなのだ。
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