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グランプリ・北京2017

観戦記事

決勝:Kelvin Chew(シンガポール) vs. 川崎 慧太(大阪)

By Kazuki Watanabe

 人が言の葉を綴ることによって物語が生まれ、後世に伝えられる。

 今この瞬間にも、世界中で人の数だけ悲喜交交な出来事が起きている。このカバレージを読むことが読者諸賢の素敵な一日を損なわないことを願うばかりだが、何気ない日常もあれば、特別な時間を過ごしている人も居るだろう。ある場所で繰り広げられるのは恋人同士が言葉を交わす素敵な恋物語であり、また別のある場所では抱腹絶倒の喜劇や、涙無しでは語り得ない悲劇が巻き起こっているはずだ。

 そして、ここで綴られるような「手に汗握る戦い」も。

 どれだけ特別な出来事でも「記録」されることがなければ物語とはならず、当人たちの思い出として「記憶」の片隅に留まるのみとなる。

 一介の記録官である筆者に課せられた使命は、記念すべきこの戦いを当人たちの記憶の片隅に押し込めることなく、記録の舞台に立たせ、後世へと伝えることだ。

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 ここに綴るは、グランプリ・北京2017の決勝。Kelvin Chew(シンガポール)と川崎 慧太(大阪)の一戦だ。

 誰しもが主役になろうと立ち回り、誰にでも主役になる機会があるこの世界。今宵、北京科技大学体育館で開催される舞台の主役は、間違いなくこの両者である。

 さて、演者の名前は「決勝進出者」としてここに刻まれた。グランプリ優勝者として、「真の主役」として名前を刻むのは、果たしてどちらになるのだろうか。


ゲーム1

 スイスラウンド上位である川崎は先攻を選択。7枚の手札を見て、即座にキープを宣言。対するチュウは、じっくりと手札を見つめてからマリガンを選択する。

 川崎の《進化する未開地》から決勝戦がスタート。対するチュウは《平地》、そして《聖なる猫》を戦場へ送り出す。川崎は《進化する未開地》から《》、そして《》と動いてターンエンド。

 最初の攻撃は、《聖なる猫》による一撃だ。続けて《》、そして《ネフ一門の鉄球戦士》と続ける。

 川崎は落ち着きながら《呪われたミノタウルス》を唱えるが、戦場を見ていると悠長に構えている時間はなさそうだ。チュウは《聖なる猫》を追加。さらに《激情のカルトーシュ》で速攻を付与し、全軍で攻撃を仕掛けていく。

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 どうにか相手の攻勢を緩めたい川崎は、《野望のカルトーシュ》で《ネフ一門の鉄球戦士》を除去。

 それでも、チュウは攻撃を仕掛けていく。《強制的永眠》で《呪われたミノタウルス》を眠らせると、《聖なる猫》2体で攻撃。

 川崎は《頭巾の喧嘩屋》をひとまず立たせ、相手の攻撃に備えておく。

 続くターンは、《激情のカルトーシュ》をエンチャントした《聖なる猫》のみで攻撃。両者、変動したライフを口頭で確認しながら、メモに記していく。現在のライフは、13対25。《捷刃のケンラ》をチュウが唱えたことで、その差はさらに開きそうだ。

 それを良しとせず、川崎は《強制的永眠》を利用してライフを回復。さらに《大いなるサンドワーム》もサイクリングして、手札を入れ替えていく。ひとまず《不毛地の蠍》を唱えて、ターンを終える。

 ここで、チュウが長考。手札と戦場を見つめ、相手のライフを削りきる計画を練る。

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 盤面に目を向けてみれば、いまだに土地が2枚。限られたマナではあるが、それを感じさせることなく、力強くゲームを動かしていく。再び《激情のカルトーシュ》をエンチャントした《聖なる猫》で攻撃を選択し、《不毛地の蠍》によるブロックを受ける。そして、《療治の侍臣》を追加。

 ターンを受けた川崎。こちらは順調に土地を伸ばしており、7枚目。《大いなるサンドワーム》を唱えて、戦力を増強する。

 それでも、チュウは意に介する素振りを見せずに、クリーチャーを展開していく。《聖なる猫》に《結束のカルトーシュ》をエンチャントし、トークンを生成。さらにそのトークンに《激情のカルトーシュ》。そして、全軍で攻撃を仕掛けていく。

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 川崎は机を叩きながら、相手の打点とブロックの仕方を計算。ここでは生成されたばかりのトークンを《頭巾の喧嘩屋》でブロックすることを選んだ。通したダメージをメモに記す。残りライフは8。

 ライフを一桁まで削られた川崎は《ナーガの生気論者》を唱えてブロッカーを用意。ひとまず、これで数ターンは保つか、と思われたのだが、チュウの次なる1枚で、その計算が大きく狂うこととなる。

 全軍を強化する《結束の試練》が川崎の前に試練として立ちはだかる。チュウは、迷うことなく全軍で攻撃を仕掛けた。《ナーガの生気論者》で《捷刃のケンラ》を相打ちにすることはできたが、残りライフはわずか4。《聖なる猫》の絆魂で、チュウのライフは33まで伸びている。

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 風前の灯火となってしまった川崎。戦場に並べた8枚の土地をすべて倒してマナを生み出し、プレインズウォーカーに助けを求める。

 《自然に仕える者、ニッサ》。X=6!

 [0]能力を起動し、何らかのクリーチャーを呼び出すことができれば、と望みを賭ける!


 ライブラリートップは、《》。

 ターンを受けたチュウは、戦闘に入ると同時に手札からカードを唱える。

 《力強い跳躍》で、《自然に仕える者、ニッサ》と《大いなるサンドワーム》を飛び越えながら、ライフを削りきった。

チュウ 1-0 川崎


 ゲーム1を勝利したチュウは、サイドボードを手早く済ませてシャッフルを始める。

 白と赤の軽量クリーチャーを並べ、それらを《激情のカルトーシュ》や《活力の試練》といったカードで強化する、というシンプルなビートダウンプランを選択したチュウ。1ターン目から展開し、攻撃を繰り出す圧倒的速度をせき止めることは、至難の業であろう。

 トップ8プロフィール(英語版)を読むと、スイスラウンドの二度のドラフトで、二度とも白赤を選択し、6-0を果たしていたらしい。完成度の高さにも、納得がいく結果である。

 その速度と完成度の前に押し流された川崎は、じっくりとサイドボードを見つめながら、カードを入れ替えていく。

 ゲーム2は、どのような展開になるのか。チュウが再び圧倒的速度を見せつけてゲームを押し切るのか。それとも、川崎がその流れを止めるのか。


ゲーム2

 先手の川崎は《》、続くターンに《悪運尽きた造反者》と動き出し、土地を伸ばしながら《グレイブディガー》を唱えて戦線を構築。

 対するチュウは《》から《炎刃の達人》。続けて《道拓きの修練者》、さらに《激情のカルトーシュ》を《炎刃の達人》にエンチャントして、軽快にライフを削り始める。


「このままゲーム2もチュウが押し切り、この物語は終幕か......。」

 そう思われた矢先、川崎がシナリオに修正を加える。

 《潰滅甲虫》の登場により物語は一転。戦況を五分......いや、川崎有利にまで大きく動かし、新たな章が展開される!

 まずは、《潰滅甲虫》の効果で《悪運尽きた造反者》を墓地へ押し込み、ゾンビとして蘇らせる。さらに、《潰滅甲虫》が攻撃を仕掛ける度に振りまく-1/-1カウンターが、チュウの戦場を更地に変えていく。

 勘違いされやすいのだが、《潰滅甲虫》の能力は「-1/-1カウンターを乗せ換える能力」ではない。「取り除く能力」の対象が存在せずとも、「置く能力」は利用できる。

 その上、チュウが採用している軽量クリーチャーの多くはタフネス1。《潰滅甲虫》が攻撃を仕掛けるたびにあらゆるクリーチャーをタフネス0にして吹き飛ばし、戦場を文字どおり「潰滅」させることが可能なのだ。

 《激情のカルトーシュ》をエンチャントされた《炎刃の達人》こそ戦場に残ってはいるが、《潰滅甲虫》のスペックは4/5。ブロッカーとして利用しなければ、あっという間にライフが削りきられてしまう。

 この戦況において、《潰滅甲虫》は比類なき働きをする。それは川崎も分かっていただろうし、壊滅した戦場を目の当たりにしたチュウは、痛感していることだろう。

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 数回の攻撃が繰り広げられた後、チュウの戦場には土地だけが並んでいた。そしてその土地も、時を置かずに畳まれることになった。

チュウ 1-1 川崎


 見事にゲーム2を勝利し、優勝までの距離を振り出しに戻した川崎。チュウのデッキをシャッフルし、それを返すと同時に、

川崎「Good Luck(幸運を)」

 と一言。チュウはデッキを受け取りながら静かに頷き、その一言に応えた。

ゲーム3

 チュウはマリガン。川崎は、キープを選択。

 ゲーム3、最初に動いたのは《ただれたミイラ》を1ターン目に唱えた川崎だったが、次のターンにチュウは《血怒りの喧嘩屋》を唱えて4/3を戦場に降り立たせる。手札から捨てられたのは、《聖なる猫》だ。

 早速、《血怒りの喧嘩屋》で攻撃を仕掛け、《ネフ一門の鉄球戦士》を呼び、さらに《聖なる猫》を不朽して、あっという間に戦場を支配下に置いた。

 川崎は《頭巾の喧嘩屋》を唱えて、どうにか戦況を落ち着けようと試みる。

 その川崎の目論見を打ち砕くように、《強制的永眠》で《頭巾の喧嘩屋》を除去。《血怒りの喧嘩屋》、そして《ネフ一門の鉄球戦士》が督励しながら攻撃を仕掛ける。

 何度も盤面を叩きながら打点を計算し、川崎はスルーを選択。チュウは《戦場のゴミあさり》を追加して、勝利へ向かう。

 《ただれたミイラ》に《野望のカルトーシュ》をエンチャントして、《ネフ一門の鉄球戦士》を除去。これで少しは速度が緩まるかと思ったが、チュウは《療治の侍臣》を追加。クリーチャーの数は十分であるため、ここでは《血怒りの喧嘩屋》のみで攻撃を仕掛け、ブロッカーも用意しておく。

 川崎は、《呪われたミノタウルス》を唱えて時間を稼ごうとするが、相手の攻撃を全面的に受け止めるほどの戦力を用意できずにターンを終える。

 ターンを受けたチュウ。ドローは、《激情のカルトーシュ》。それを戦場に叩きつけ、全軍で攻撃を仕掛けた。

 対面から押し寄せる、攻撃の波。その波を掻き分けるかのように、川崎は右手を差し出した。

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 その手が掴むのは、傍らに置かれたトロフィーではなく、勝者の右手である。

チュウ 2-1 川崎




 勝利したチュウに「おめでとう。君の勝利を称えるカバレージを、これから書きあげるよ」と伝えたところ、

「ありがとう。今日は忘れられない日になったよ。それにしても、日本語を読めないのが残念だ。せっかくの記念なのに......。」

 と少し照れくさそうに、そして残念そうに答えてくれた。そして、こう続けたのだった。

「そうだ。せっかくだから、日本語で書いておいてほしいんだ。僕が優勝できたのはTeam MTG Mint Cardと、Team MTG Bent Cardのみんなのお陰だ、って。」

 もちろん構わない、チャンピオン。今宵の主役は、紛うことなく貴方なのだ。しっかりと、ここに記しておくよ。


 さて、筆者に課せられた「記念すべきこの戦いを当人たちの記憶の片隅に押し込めることなく、記録の舞台に立たせ、後世へと伝えること」という使命を果たすためには、最後に改めて勝者の名前を記さねばならない。その責務を果たして、この記録を終えよう。

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グランプリ・北京2017、優勝はKelvin Chew。おめでとう!

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