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エターナル・ウィークエンド・アジア2019

観戦記事

ヴィンテージ決勝:谷川 風太(神奈川) vs. 北野 孝俊(千葉)~魅入られた者たちの饗宴~

Hiroshi Okubo

「魔境」

「メンコ」

「マジックに似た別の何か」

 半ば冗談ながらも、他のフォーマットをプレイしているプレイヤーからはそのように揶揄されるのがヴィンテージというフォーマットだ。

 マジックの歴史に存在する26年分のカード、そのほぼ全てを使用することのできるヴィンテージでは、2ターンキルどころか1ターンキルさえ珍しくはない。他のフォーマットをプレイしているプレイヤーから見れば、明らかに異質・異様に映る光景だろう。

 そしてヴィンテージプレイヤーは、彼ら自身の愛するヴィンテージというフォーマットをそのように表現されることを否定しない。中にはそうした野次まがいの風評を好んで受け入れている者さえいる。

 それはなぜか。これは推論に過ぎないが、そんな派手なゲームに取り憑かれた者たちだからこそ、ヴィンテージという修羅の世界に入門しようと思ったからではないだろうか。

 筆者自身、これまでにも何度かヴィンテージのカバレージに関わってきて、1ターンキルや2ターンキルを目撃したことは少なくない。しかし、ヴィンテージで1ターンキルをされて不快そうにしている人は見たことがない。むしろ笑いが巻き起こるのが普通で、「これぞヴィンテージだね」そんな会話が当たり前のように繰り広げられる。土地さえ置けずにゲームが終わってしまったにも関わらず、だ。

 「ヴィンテージする」。それこそがヴィンテージプレイヤーの根底にある望みであり、対戦相手もそれを望んでいることが分かっているからこそ、「ヴィンテージした」者を祝福する。

 今日、この会場に集まったのは、128人分の「ヴィンテージしたい」という意志だ。

 エターナル・ウィークエンド・アジア2019。その2日間の締めくくりとなるのは、ヴィンテージ選手権の決勝戦だった。

 フィーチャーマッチで相見えるのは、谷川 風太北野 孝俊の2人だ。

 128人の中で最も「ヴィンテージしてきた」2人は、やはり対戦前も笑顔で、互いのデッキリストを見つめながら意見を交換する。これから始まる試合――最高の舞台に並び立つ好敵手との、最高に「ヴィンテージできる戦い」に思いを馳せながら。

 さあ、楽しいヴィンテージの時間だ。

 マジックを超えたマジック、その至高の戦いをここに刻もう。

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エターナル・ウィーク・エンド・アジア2019 ヴィンテージ選手権 決勝 谷川 風太 vs. 北野 孝俊

ゲーム1

 決勝戦は北野の先攻で幕を開ける。数ターンで勝敗が決することも珍しくないヴィンテージにおいて、先攻の利は他のフォーマットとは比較にならない。あるプレイヤーは2ターンゲームをプレイしたが、もう一方は1ターンしかゲームをしていない。そういった差に繋がるからだ。

 北野は第1ターンに《伝国の玉璽》を唱え、ライブラリートップに《Black Lotus》を仕込んでターンを終えた。準備完了、あとは勝つだけである。

 北野のデッキは青黒の一風変わった「ストーム」デッキである。無論、「ストーム」メカニズムを利用すること自体はヴィンテージでは珍しくないが、それ以外にも《修繕》+《荒廃鋼の巨像》コンボや《大いなる創造者、カーン》+《マイコシンスの格子》によるロックなど、さまざまな飛び道具が用意されているのが特徴的だ。

 この決勝戦では事前にお互いのデッキリストを確認してから対戦を行っているため、谷川にも「ネタ」は割れているが、勝ち手段が多い分、さまざまなルートでゲームが決まってしまうというのは対策も容易ではない。

 返す谷川は自身の展開よりも妨害を優先し、《露天鉱床》で北野の《》を破壊することを選ぶ。しかし、ターンが戻ってきた北野は割れた《》を意にも介さず仕掛けていく。

 《Black Lotus》から《太陽の指輪》、《暗黒の儀式》、《闇の誓願》……流れるような手さばきで呪文を唱え、ダメ押しに2枚目の《暗黒の儀式》でマナを得てヨーグモスの意志》!

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北野「ストーム1、2、3……十分。このあと墓地の呪文全部唱えて《苦悶の触手》します。マナも足りてますね」

谷川「ですね。次行きましょう」

 もはやそれ以上プレイを続けるのは野暮だと言わんばかりに、お互いに速やかにカードを片付け始める。先攻2ターン目の「ストーム」ルート。わずか2分ほどでゲームが終わり、ギャラリーも「これぞヴィンテージ!」と沸いた。

 谷川は「早いな~」と苦笑を浮かべながら、サイドボードに手を伸ばす。次こそは俺がヴィンテージする番だぞ、と。

谷川 0-1 北野

ゲーム2

 谷川は《Bazaar of Baghdad》をプレイし、《ゴルガリの墓トロール》を墓地に捨て、北野の《太陽の指輪》には《精神的つまづき》で対応。続くターンには「発掘」で墓地を肥やし始めて絶好のスタートを切る。

 北野が《水蓮の花びら》を絡めて2マナを捻出して《Demonic Tutor》をプレイすると、これには谷川の《否定の力》が刺さり、北野の第2ターンは終了する。初動の2アクションを挫き、谷川は一気にペースを掴む。


谷川 風太

 まずは《Bazaar of Baghdad》を起動して、さらに「発掘」。3ターン目にはライブラリーの半分以上が墓地へと送られていた。盤面に所狭しと広げられたカードは、たった1枚の《Bazaar of Baghdad》という狂った土地によって採掘されたものである。その驚異的な爆発力と、墓地というリソースを余すことなく利用する軸をずらした戦いこそが「ドレッジ」デッキの真骨頂と言えよう。

 (まだ3ターン目だが)いよいよゲームは佳境を迎え、谷川は墓地から《陰謀団式療法》をフラッシュバックし、目前に見える勝利を掴み取るために北野の手札を探りにかかる。

北野「これはダメですね」

 北野もこれ以上プレイしても無為と悟ったのか、《陰謀団式療法》の解決を待たずして苦笑を浮かべながら投了を宣言。第2ゲームはドレッジを操る谷川が、完璧なヴィンテージを演じて勝利を収めた。

谷川 1-1 北野

ゲーム3

 ここまで2ターンキル、3ターンキルで進行してきたため、いまいち実感は湧かなかったが、とにかくマッチの最終戦である第3ゲームが開始される。


北野 孝俊

 まずはと《Black Lotus》をプレイした北野は、続けて《新緑の地下墓地》から《Bayou》をフェッチし、《大いなる創造者、カーン》! 1ターン目に4マナプレインズウォーカーが出るという、非常にヴィンテージらしい展開だ。

 しかし谷川からは《意志の力》。これによって北野の初動は挫かれ、返す谷川は《Bazaar of Baghdad》をプレイしてターンを終える。

 だが、北野は《暗黒の儀式》を絡めて2枚目の《大いなる創造者、カーン》を唱える。谷川は対応して《Bazaar of Baghdad》を起動し、手札に控える《否定の力》のコストとなる青いカードを探しに行ったが、2枚ドローではたどり着くことができず、これの着地を許すこととなってしまった。

 しかし、この《Bazaar of Baghdad》の能力によって、谷川は墓地に《イチョリッド》を落としている。

 すなわち次のターンには戦場に戻ってきて《大いなる創造者、カーン》を攻撃するだろう。そこまでは既定路線としても、最悪なパターンはここで《大いなる創造者、カーン》の[-2]能力で手に入れたカードを(まだ墓地には見えていないとはいえ)《陰謀団式療法》によって捨てさせられることだ。かといって手に入れたカードを即座にプレイするには北野のリソースは足りていない。

 すなわち、《大いなる創造者、カーン》の[-2]能力を使用するのはこのターンではない。そこまで考え、北野はカーンの[+1]能力を空打ちして忠誠値を稼ぐのみでターンを終えた。

 谷川も《大いなる創造者、カーン》がろくなことをしないのは承知しているため、一刻も早く処理したいところである。「発掘」を進めながら《イチョリッド》で《大いなる創造者、カーン》の忠誠値を減らし、排除にかかる。

 さらに谷川の第2メイン・フェイズ。このターンの役目を終えた《イチョリッド》を《陰謀団式療法》の生け贄に捧げ、フラッシュバック。《黄泉からの橋》の能力が誘発して戦場にゾンビが湧き始め、北野の手札が明かされる。そこにあったのは《暗黒の儀式》1枚だったが、次の北野のドロー次第では厄介なことにもなりかねないと見て、2枚目の《陰謀団式療法》を唱えて捨てさせる。

 返す北野のターン。戦場には《Bayou》と《Mox Pearl》、そして忠誠値3の《大いなる創造者、カーン》のみ。手札は1枚。対する谷川は4体のゾンビ・トークンと《秘蔵の縫合体》をコントロールしており、ゲームの趨勢はほぼ決まっていた。

 《大いなる創造者、カーン》の[-2]能力で《ライオンの瞳のダイアモンド》を探し、戦場に出す。仕掛けることは……ない。というより、仕掛けられない。つまり――

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 つまり、ターンが帰ってきた谷川が再び《Bazaar of Baghdad》を起動して、ゲームの勝利を掴み取った。

谷川 2-1 北野

 北野は谷川を称え、谷川もそれに応じる。

 3ゲームを通して10ターンもかからない、あっという間のゲームだったが、とにかくこうしてヴィンテージ選手権の決勝は幕を閉じた。


 環境は魔境かもしれない。

 パワーカードの叩きつけ合いはメンコのようかもしれない。

 わずか3ターンの間に、たった1枚の土地がライブラリーを30枚以上削るところなどはマジックに似た何かであると錯覚してもおかしくない。

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 そう、いかにもそれがヴィンテージだ。今宵彼らがプレイしていたのは、間違いなくヴィンテージだったのだ。

 マジックにおける至高のカードの数々を駆使して、可能性を最大化させるべく頭を回転させ、それでもなおどうしようもないブン回りに笑顔で対応する。これが自分のしたかったゲームだと、ヴィンテージでしか得られない経験を胸に刻んで。

 そんなヴィンテージに魅入られた者たち、その頂点に立った者の名は。

 谷川 風太! おめでとう!

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