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アジア・エターナル・ウィークエンド2022
2022 Asia Eternal Weekend Vintage 決勝:Chris Schiver(愛知) vs 高桑 雄介(東京) ~一歩前へ進め、優位を奪還せよ~
ヴィンテージの隆盛
マジック・ザ・ギャザリングが誕生して30年、約2万種にも及ぶ膨大なカードのほぼ全てを使用できるヴィンテージは、現在3種類の土地カードが大きな影響力を持った環境となっている。
そのうちの二つは《Mishra's Workshop》と《ウルザの物語》。土地1枚から{C}{C}{C}を生み出し強力アーティファクトの運用を可能とする前者と、《Black Lotus》をはじめとする強力な軽量アーティファクトに自在にアクセスすることができる後者。ともにアーティファクトと関係しているため、《ウルザの物語》から生み出される構築物・トークンもあっという間に大きくなるという親和性の高さだ。ウルザとミシュラが手を取り合った世界がここにある。
そして残りの1枚が《Bazaar of Baghdad》だ。
こちらもヴィンテージにおいて常に存在する有力デッキのキーカード。そしてこれが「Asia Eternal Weekend Vintage 2022」で特別アートにてトロフィーとして優勝者に贈られることが発表されると、ヴィンテージを常に楽しむ界隈が大いに色めき立った。
絶対にあれが欲しい。
そのためにヴィンテージを愛好するプレイヤーは日々の調整にさらなる力を込めた。ある者はこれまでともに戦ったデッキをさらに磨き上げ、またある者は新しく生まれるカードに何かブレイクスルーとなるものがないかを追い求めた。誰よりも前へ、誰よりも先へ。プレイヤーが選択するのは王道か、邪道か。
それとも、第三の道か。
ゲーム1
クリス・シヴァー/Chris Schiver(以下「クリス」)のデッキは「Death&Tax with イニシアチブ」。
この「イニシアチブ」関連のカードはヴィンテージ環境において必ずしも目にするカードではない。ここ最近に誕生しただけに、多くのプレイヤーのマークは薄かったと言わざるを得ない。
実際にクリスが新しい1枚をプレイする度に、観戦しているプレイヤーやジャッジまでもが、オラクルに記された正しいカード・テキストを把握するべくスマートフォンを取り出す姿は実に象徴的なシーンであった。
クリス・シヴァー/Chris Schiver |
ただ1人、カードの全てを知り尽くしているクリス、結果予選ラウンドを6勝1分で突破すると、そのままの勢いで決勝トーナメントも勝ち進みここまで無敗。全く危なげなくポールポジションの座を維持している。そして、その勢いをそのままこのゲームでも見せつけてみせた。
ワンマリガンとなったクリスだがその差など苦にもせず、《平地》《Mox Ruby》から《スレイベンの守護者、サリア》と展開。
高桑も《天上都市、大田原》《Mox Ruby》《Mox Jet》と返し、クリスにぴったり付いていく姿勢を見せるのだが、クリスは《古えの墳墓》から《第三の道のロラン》で《Mox Jet》を破壊。高桑は《Ancestral Recall》で新たなマナ源を求めるのだがそれは成就せず。《スレイベンの守護者、サリア》の枷が非常に重くのし掛かる。
クリスは《練達の地下探検家》で状況の優位という名に加えて、イニシアチブという実をも得ると、間髪入れずに《露天鉱床》で《天上都市、大田原》を破壊するに至る。
それでも高桑は唯一残された《Mox Ruby》から《魔力の墓所》《多用途の鍵》と繋げ、大逆転への道を開かんとするのだが、クリスの直接の脅威を止めることはできずライフは7。さらに《魔力の墓所》はマナの対価としてライフを求め、これで4。クリスの脅威に抗する術もターンも、高桑には残されていなかった。
Chris Schiver 1-0 高桑 雄介
ゲーム2
「マジックには知らないことがまだまだいっぱいありますね」
そう試合後の高桑は語った。イニシアチブのルールも怪しかったという高桑はラウンド前・サイドボード中もクリスのデッキリストの1枚1枚を入念に確認し、頭に叩き込んでいく。
高桑は「日本ヴィンテージ選手権 2016冬」など、多くの大型大会で素晴らしい成績を残しているプレイヤーである。ヴィンテージやレガシーはもちろん、オールドスクールまでも愛し、そしてなによりもカードをプレイすることが大好きなプレイヤーでもある。それだけに「知らなかった」ことが目の前に現れたことにむしろ目を輝かせ、喜んでもいるようだ。
高桑 雄介 |
そんな高桑はゲーム1の意趣返しというわけでもないだろうが、このゲームでは一気にカードを展開してみせた。
すなわち、《ウルザの物語》と《魔力の櫃》でゲームを開始すると、クリスが送り込んできた《迷宮の霊魂》を退けてみせる。
《ウルザの物語》をⅢ章へと進めると、ここからマナを生み出しつつ《多用途の鍵》を調達。ここでマナを必要とした意味はすぐに明かされる。《厳かなモノリス》から《Time Vault》という形で。
わずか3ターン目に、無限ターンへの必須パーツを取り揃えてみせた。
この光景を前にしてクリスは静かに頭を振る。改めて手札を確認し、これ以降自分にターンが返ってこないことを悟ると、ターン終了ではなくゲームの投了を宣言することとなった。
Chris Schiver 1-1 高桑 雄介
ゲーム3
クリス、高桑ともに自身のデッキの力を見せつけ押し切ったこれまでのゲーム。挨拶を終えた2人はいよいよこのゲーム3でがっぷり四つに組み合うことになる。そこで繰り広げられたのは、ヴィンテージ環境でのイニシアチブの取り合いという誰もが想像しなかった一幕となった。
《Mox Pearl》《古えの墳墓》からいきなりの《白羽山の冒険者》という第一波を見舞うクリス。これを許容できない高桑は《意志の力》で撃退すると、逆に《ウルザの物語》《Mox Pearl》《Time Vault》《オパールのモックス》と猛反撃。ならばとクリスも《オパールのモックス》を《精神壊しの罠》で追放と、第1ターンからいきなりのフルスロットルのぶつかり合いを演じてみせることとなった。
それでも高桑は呪文を唱える順番の妙で《Time Vault》を残すことに成功している。再びの無限ターンまであと一歩。
クリスの第2ターンは《練達の地下探検家》。これで地下街に潜ることに成功すると、続くターンにはしっかりと《第三の道のロラン》で《Time Vault》を破壊してみせ、さらに《迷宮の霊魂》まで重ね、盤面の優位を確実なものにせんとする。
高桑の《ウルザの物語》がⅢ章を迎える。だがすでにそこには勝利への相棒は存在しない。ならばと頭を切り替えた高桑は《太陽の指輪》を入手し《ワームとぐろエンジン》を呼び込むと、構築物・トークンで攻撃。旗下のクリーチャーを差し出しても一方的に敗れてしまうクリスはこれを自身の体で受けることを選択。
これによりイニシアチブを獲得した高桑。クリスの後を追うように地下街へ侵入してみせる。
ジャッジにイニシアチブのルールを改めて確認する高桑の表情が少し生き生きしているように見える。
だがすぐにイニシアチブはクリスの下へ。そう《練達の地下探検家》は攻撃時にプロテクション(クリーチャー)を得るため、この進軍を止めることは相当に難しい。イニチアチブの第一人者はクリス、それを忘れてはいけない。
高桑の《ワームとぐろエンジン》の攻撃に対して、先ほど「地下墓地」で発見したスケルトンと《白羽山の冒険者》で相打つことを選択したクリス。これを見届けた高桑は《大いなる創造者、カーン》を唱えると、[-2]能力で入手した《ファイレクシアの変形者》を《練達の地下探検家》のコピーとすることで、イニシアチブを再奪取する。
だがそれでもクリスの攻撃が止まるわけではない。《練達の地下探検家》の攻撃により三度イニシアチブを手にすると、ついに地下街も最終エリアへ突入。公開されたカードの中からクリスが選び出したの《宮殿の看守》。イニシアチブに加え、ついには「統治者」ともなったクリス。完全に高桑の一歩前へと歩を進めることとなった。
だが高桑には最後の秘策が残されていた。
「何かないかな」
そう言いながら、再び《大いなる創造者、カーン》の[-2]能力を使用し、サイドボードを手に取る高桑。
そこには高桑の望んでいる1枚が残っていた。いや、高桑自身がゲーム前にメインデッキからサイドボードへと移しておいた1枚のカードがそのタイミングを待っていた。「何か」は高桑が作り出していた。
高桑のコントロールする構築物が、ワームが、さらには煌びやかな宝石たちまでもが一斉に大空を翔け、クリスへと攻撃を行う。戦場を制圧してみせたクリスであったが、はるか高い上空へはその手が届かない。
この瞬間、栄光は高桑の頭上に輝くこととなった。
Chris Schiver 1-2 高桑 雄介
最終ターン、高桑本人ではなく《大いなる創造者、カーン》を攻撃する選択肢もあったクリス。だがそれでは逆に《ファイレクシアの変形者》によってイニシアチブを取り返されてしまい、「闘技場」で《練達の地下探検家》が破壊される可能性があった。そうなると当面イニチアチブは高桑のものになる可能性が高い。
またこの試合はデッキ公開制で行われていた。《サイバードライブの起動者》は高桑のメインに配されている一枚だ。これがサイドボードから飛び出してくる可能性は低いと判断してもやむを得ない。
情報戦で優位に立っていたことを、高桑はその才知で最後に示してみせたのだった。
Asia Eternal Weekend Vintage 2022 優勝は高桑雄介! おめでとう!
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