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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

バランスの取れたフォーマットのための4つの決まり

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バランスの取れたフォーマットのための4つの決まり

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年9月29日

 

 こんにちは、そして「Play Design -プレイ・デザイン-」へようこそ。今回の記事でもまた、フォーマットのバランスについて個別のカードではなく、基本的な理念に焦点を当ててお話ししようと思います。

 この理念は主席デベロッパーのエリック・ラウアー/Erik Lauerが考えだしました。マジックのすべての理念と同じく話半分に聞いておくべきですが、スタンダード・フォーマットを作るときには常に考慮されています。

 始める前に、エリック・ラウアーについて知っておくべきことをいくつか挙げておきます。

  1. 彼はウィザーズに入って10周年を迎えたばかりです。
  2. 彼が好きなものは順番に数学、ステーキ、犬です。
  3. 彼はわたしが知っている中で最も頭の良い人の1人で、わたしは彼をとても尊敬しています。

 では前置きはこれぐらいにして、バランスの取れたフォーマットのための4つの決まりを見ていきましょう。

1.デッキには干渉手段があるべきである

 相手への干渉手段がない2つのデッキを用意して対戦した場合、純粋な速さ勝負になります。その時点で、その対戦にはプレイングの要素はなくなります。別々の部屋に分かれ1人回しをして、何ターンで勝ったかを相手に伝えて勝負を決めることもできます。これはマジックのとても楽しい遊び方とはいえません。

 一部のコンボ・デッキがこの問題に苦しめられています。ほとんどのコンボ・デッキはレガシーの《意志の力》やモダンの《思考囲い》のような干渉手段をプレイしています。対戦相手がやろうとすることを止める手段のないスタンダードのデッキを見かけることは、近年ではごくまれです。最も直線的な赤単アグロやバーンでさえも、何かしらプレイしています。

 《富の享楽》や《火を吐く稜堡》はどちらも対処が困難です。これらのカードをお互いに出し合った場合に純粋な速さ勝負になるので、干渉手段は必要です。もちろん、《》とクリーチャーだけをプレイする緑ストンピィなど干渉手段を持たないデッキもあるでしょう。この問題は、両方のデッキが干渉手段を持たない場合にだけ浮かび上がってきます。

回転

 わたしたちがフューチャー・フューチャー・リーグでデッキが干渉手段をプレイしていないことに気づいた場合、その理由がコンボ・デッキがコンボを決めるためにすべてのスロットを必要だからであっても、そのデッキが干渉手段をプレイするには直線的すぎるからであっても、わたしたちは干渉手段を強化することでその問題を軽減します。

 しかし、干渉手段が多すぎると次の問題が発生します。

2.デッキはリソース交換合戦をするものであってはならない

 対戦の鍵を握るのがリソース交換だけになった場合、カード・アドバンテージを多く得たほうが勝ちます。実際にどのカードがプレイされたかは重要ではなく、最も多くカードを持っている人がその対戦に勝つことだけが重要になります。こうなった場合デッキ構築での選択は無意味なものになってしまいます。

 この問題の現実世界における例の1つは、ドローゴー・コントロール・デッキです。このデッキが対戦相手のすることすべてに対して、マナ・カーブに沿って1対1交換を取るカードをプレイしていた時期がありました。1ターン目に《魔力の乱れ》、2ターン目に《対抗呪文》、3ターン目に《雲散霧消》、4ターン目に《放逐》です。カードを差し引き1枚得するので、ここでのキーカードは《放逐》です。この得をする交換を続けていれば、最終的に多くのカード・アドバンテージを得て必然的に勝利するでしょう。何で勝つかは問題ではなく、対戦相手は多分逆転できないでしょう。またこのデッキは1枚の呪文でカードを1枚得する方法として《不実》や《ミューズの囁き》もプレイしていました。

 カードを交換し、カード・アドバンテージを得ることは重要ですが、それが対戦の目的になるべきではありません。この問題を抱えている時、わたしたちは対処の難しい脅威や、強力なプレインズウォーカーなどの、遅いゲームで行う行動を増やすことでそれを軽減します。わたしたちは特定の対戦での切り札や、不利な場合に逆転する手段を幅広く求めています。

 しかしながら、これらのカード・アドバンテージ問題を軽減する遅いゲーム用のカードは異なる問題を引き起こす可能性があり、そのことが、決まりその3につながりました。

3.速い/遅いゲームの分化を避ける

 わたしたちはこの決まりを、序盤でしか勝てないデッキや速いゲームを生き残れないデッキがないようにするために定めています。

 これら2つのデッキが対峙したとき、起こるのは2つに1つです。速いデッキが序盤に勝つか、遅いゲームになって速いデッキが勝てなくなるかのどちらかです。《太陽の化身、ギシャス》や《秘宝探究者、ヴラスカ》はとても強力な遅いゲーム用のカードですが、デッキを速いゲームで生き残れるように構築する必要があります。同じように、《帆綱走り》は強力な速いゲーム用のカードですが、長いゲームで勝つのに十分な強さはありません。どちらの展開になっても、片方のプレイヤーはゲーム中に意味のあることを行えません。

 序盤でしか勝てないデッキの一例が、遅いゲーム用の火力や《尻込み》効果の入っていない赤単です。プロツアー『ドラゴンの迷路』(『ラヴニカへの回帰』ブロック構築)の時、わたしはこのデッキをプレイして散々な結果でした。このデッキはすべて1マナと2マナ域のクリーチャーで、火力はありませんでした。もし1ゲーム中に4枚より多く土地を引くと、わたしはどうやっても勝てませんでした。わたしの勝ちは辛勝で、負けは惨敗でした。幸運にもドラフト無敗の成績がわたしのプロツアーの成績を保ってくれました。

 このデッキの問題は次の基本セットで《かき立てる炎》と《ゴブリンの熟練扇動者》が加わったときに解決しました。何枚かの遅いゲーム用のカードを加えるだけでも、デッキを劇的に変えることができます。

 速くアグレッシブなデッキを倒せないデッキは競技的にうまくいかないので、遅いゲームだけのデッキはもっと稀です。マナ・カーブを考慮せず4マナと5マナ域をたくさんプレイするデッキはこの問題に苦しめられるでしょう。わたしたちは、アグロであってもミッドレンジであってもコントロールであっても、プレイヤーが望む速度で選択肢が持てるようにさまざまな呪文を作ろうとします。

 しかしながら、明確に遅い戦略に対処するためのカードを追加した場合、わたしたちはさらに別の問題を抱えることになり、その結果、決まりその4ができました。

4.すべての脅威には対策があるべきである

 1枚のカードが強すぎると、それは対戦の軸となるカードになり、それを最初にプレイした人が勝ちます。わたしたちはこの問題を回避するために、それらのようなカードに対する対策を加えました。

 『イクサラン』で具体的に言うと、《強迫》や《魔術遠眼鏡》はまさしくこの問題のために追加されました。すべての脅威には対策があるべきで、そしてそれらの対策はメインデッキに入れられるように十分な強さと多用途性を備えているべきです。わたしたちはゲームの特定の時点に達すると自動的に勝つようなカードが存在する状況は望んでいません。

 
魔術遠眼鏡》 アート:Kieran Yanner

 『ラヴニカへの回帰』の時期へ話を戻すと、わたしがこの分類に入ると感じたカードは《スフィンクスの啓示》と《霊異種》です。わたしは《スフィンクスの啓示》デッキをたくさんプレイして、この呪文を大量のマナで解決することは対戦相手が「絶望的」になると感じました。《スフィンクスの啓示》で5枚以上カードを引くと、そのゲームはもう終わりで、対戦相手は負けるまでただそこに座っているだけでした。

 《霊異種》は、この問題を《スフィンクスの啓示》を解決した後で速やかに対戦相手を倒す手段を与えることで解決しようとしました。しかしながら、このクリーチャーはこれ自体が除去できないという問題を抱えていました。マナを立ててこれが戦場にある状態になると、盤面から取り除く手段はなく、この極めて重要なカードを解決することがゲームを決めることが分かっていることになり、ミラーマッチはより一層不満がたまるものになりました、

 この問題へのより妥当な回答が、《真珠湖の古きもの》のようなものです。このクリーチャーも除去がとても困難ですが、土地を手札に戻さなくてはいけないので、対戦相手には危機を脱するチャンスがあります。対処の難しい脅威は常にあるでしょうが、これらの脅威に対する対抗手段と、対戦相手がもう無理だとは感じない、隙のできる瞬間が存在します。

 加えて、これら4つの決まりは厳格なものではなく、わたしたちがスタンダードのバランスを取るにあたって期待するガイドラインです。これらの問題を和らげる手段は数多くあり、プレイテストでこれらの問題を特定できた場合、適切なカードをそのフォーマットに追加することによって、解決できると考えています。

 お読みいただき、ありがとうございました。ではまた次回。

メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)

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