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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

霊気の道 その2

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霊気の道 その2

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年1月23日


 先週、『霊気紛争』のカード個別の話を始めた。Dまで進めたので、早速その続きに入ることにしよう。

銛撃ちの名手

 デザイン時によくやるクールなことの1つが、プレイヤーがやがて発見できるよう、一見して明らかだとは言えない機能を忍ばせることである。これが非常に重要な理由は、プレイヤーは自分が個人的に関係していると感じたものに情緒を感じるものであり、その関係性を作り出す助けとなる方法の1つが、プレイヤーに何かを発見できる可能性を作り出すことなのだ。そうすることで、それは単に我々が作ったものではなく、彼らが見つけ出したものになるのである。このカードで使った手法について説明することでこの目標は台無しになってしまうのだが、舞台裏を覗けるようにするために手品師のタネをお見せしよう。

 「1回で終わり」にするために、特に低いレアリティで大量の紛争カードが必要だった。つまり、1回だけ発生し、それ以降は意識しなくてもいいような効果にするということだ。そのための簡単な方法は、戦場に出たときの効果である。我々はもう1つ、色ごとの紛争との組み合わせ方も探していた。白と青について見つけた方法の1つが、明滅効果(パーマネントを追放し、その後で戦場に戻すこと)である。

 紛争の戦場に出たときの誘発型能力と明滅効果、この2つを組み合わせると、面白いことが起こる。《銛撃ちの名手》を例に見てみよう。対戦相手がタップ状態のクリーチャーを出していて、それに対処したいとする。そこで明滅だ。《銛撃ちの名手》を追放してから戦場に戻す。戦場に出たし、このターンに戦場を離れたパーマネント(それ自身だ)が存在するので、誘発してそのクリーチャーを破壊することができるのだ。

 プレイテスト中に、我々は発見の瞬間を作り出すために頭を捻り、そしてそれをデザインに注意深く組み込んだのだ。他にどんなカードがそうなっているかは、諸君が自分の目で見つけ出してほしい。

不許可

 呪文を打ち消すカードは大量にあるが、能力を打ち消すカードはそれよりずっと少なく、誘発型能力となるとさらに少なくなる。興味深いことに、その起こりは諸君が想像していないところだったのだ。なんと、緑である。

 史上初めて能力を打ち消したカードは、『レジェンド』の《Rust》であった。このカードは間違いなくトップダウン・デザインだったと確信している。Rustとは「錆」という意味である。相手のアーティファクトを錆びさせたら、使い物にならなくなるだろう。継続的効果を止めるのは難しいので(また、誘発型能力は当時と今では働きが違った)、このカードで止められるのはアーティファクトの起動型能力だけだった。初期のマジックでよくあったことだが、何か史上初のことをするカードがあったら、その能力はその色のものになるものなのだ。

 《茶色のアウフ》(『アイスエイジ』)、《束縛》(『インベイジョン』)、《アウフの蛮人》(『フィフス・ドーン』)は全て緑で起動型能力を打ち消すものだ。当時の例外はただ1枚、《阻止》(『テンペスト』)で、伝統的に打ち消しの色である青で打ち消している。その後、『ディセンション』で、呪文、起動型能力、誘発型能力を打ち消すシミック(緑青)のカードである《虚空粘》を作った。当時は、青が呪文を、緑が能力を打ち消すという発想だったのだ。

 疑問が起こったのは、『時のらせん』のときだった。緑は本当に能力を打ち消す色であるべきなのだろうか。我々は遡って《Rust》にたどり着いた。緑単色のカードの中で、《束縛》だけがアーティファクト以外の能力を打ち消すものだった。つまり、これは緑の反アーティファクト性を示す方法として始まったものだったのだ。我々はこの問題について会議を開き、能力を打ち消すのは青で筋が通ると判断を下した。それ以降、確固たる青の能力となったのだった。

 これが、《不許可》が《虚空粘》の緑なしでの再録になった理由である。

分散の技師

 リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldはマジックを作った時に、いくつもの素晴らしいアイデアを生み出したが、その中には比較的微妙で見失いやすいものもあった。中でも私の好きなものの1つが、「対象」という概念と単語である。リチャードはモジュール性に富んだゲームを作ろうとしていて、さまざまな要素すべてをクールな方法で組み合わせたかったのだ。そのための方法の1つが、呪文そのものを非常に柔軟にすることだった。説明臭く複雑なアイデアになりかねない対象を取るというアイデアを、単語1つにまとめたのだ。呪文が対象を取る、つまり、その呪文を何に使うかを選ぶ必要がある、ということである。

 対象を取ることは、ルールでできることを増やし、呪文の手順を単純化する上で非常に有用であるが、私が好きな部分はそこではない。私が好きな部分は、対象を取るというルールによってマジック上で非常にクールな瞬間が可能になるという部分である。「対象」という記述を読んで、その呪文のことを決めつけてしまうのはよくあることだ。《巨大化》を例に取ってみよう。

 このカードは、クリーチャー1体を対象にし、ターン終了時まで+3/+3の修整を与えるものだ。このカードを新規のプレイヤーに渡したら、そのプレイヤーは「ターン終了時まで、私のクリーチャーに+3/+3できる」と読むだろう。文章の曖昧さから、この呪文を何のためのものか決めつけてしまうことがある。これは、この呪文を非常にレンズ的なものにするという意味で重要なのだ。つまり、経験の浅いプレイヤーにはその複雑さを見せないまま、経験を積んだプレイヤーはその複雑さを活かせるようになっているのである。

 そして、何かの機会に、対戦相手のクリーチャーを《巨大化》させるのが正着手だという状況に気づくのだ。例えば、パワー4以上のクリーチャーだけを破壊できる《大物潰し》という呪文を持っているときがそうだ。カードを読みなおし、そして「対象」が予想していた以上に広く取れるものだと認識するのだ。そう、対戦相手のクリーチャーにも使うことができるのだと。

 最初に読み取った意図と違う方法でカードを使うのは、非常に強力な瞬間となる。プレイヤーが、マジック世界を支配し、普通するとは思われていないことをさせているような気分になれるのだ。自分が賢いと感じ、そしてマジックにはさらなる発見が残されているということに気づくのだ。それが、マジックにのめり込む瞬間なのである。

 《分散の技師》は、この種の「対象」の好例である。一見すると、このカードはテンポ・カードに見える。クリーチャーを出して、対戦相手にはアーティファクトをもう一度プレイしなければならなくするものだ。しかし、このカードを使い込んでいくと、これには他の使いみちがあることに気づき始めることになる。自分のアーティファクトをバウンスするのだ。《分散の技師》はただのナイフではなく、さまざまな使い方のあるスイス式アーミーナイフなのだ。このような一見単純なカードでそういったことができるのはリチャードがマジックを作る時に示した素晴らしい腕前の賜であり、「対象」という表現(やコンセプト)の素晴らしさなのである。

エンブロールの歯車砕き

 『霊気紛争』にはメカニズム的にいくつかの目的があった。1つ目に、物語の本質を表現すること。『カラデシュ』は発明を祝うもので、その発明は物事を積み上げるためのものだった。『霊気紛争』はそのコインの裏にあたり、物事を破壊するための発明の使い方に注目している。2つ目に、『カラデシュ』と組み合わせてうまくプレイできるものであること。ストーリーの流れは変わったが、同じブロックの一部であり、お互いにメカニズム的なシナジーがあるようにデザインしなければならない。3つ目に、『カラデシュ』の出来には満足していたが、物足りなかったのが「アーティファクト関連」テーマの部分だった。『霊気紛争』ではその方向をもう少し進められるようにしたかったのだ。

 《エンブロールの歯車砕き》は、この3つのアイデアを組み合わせて生まれたものだ。アーティファクトを生け贄に捧げて対戦相手にダメージを与える。これ以上に紛争らしさを表すものはなかなかない。『カラデシュ』には大量のアーティファクトがあり、大量のアーティファクト・クリーチャー・トークンを生み出す。これらはどちらも《エンブロールの歯車砕き》とうまく噛み合う。最後に、このカードが勝利条件となるようなアーティファクトの多いデッキをプレイする後押しとなるのだ。アーティファクトで可能な限りダメージを与え、《エンブロールの歯車砕き》で対戦相手に投げつけてとどめを刺すのである。

 フレイバーテキストで、スパナを使って歯車を砕いた後、それを対戦相手に投げつけるのだと暗示しているのも気に入っている。

極上の大天使

 ほとんどの場合、カードがどういう形になるのかはデザインするまでわからない。ただし、ときにはカードのイメージに関するクールなアイデアが浮かび、それをデザインする前にアーティストに描いてもらうことがあるのだ。旧『ミラディン』の《白金の天使》はその一例である。

 『ミラディン』のデザイン・チームは、アーティファクトの天使というアイデアが気に入っていた。天使はマジックの象徴的クリーチャーの一種であり(そして天使はクリーチャー・タイプの中でドラゴンに次いで2番目に人気が高い)、アーティファクトで作ったことはなかったのだ。金属の世界を舞台としていて、まさに作るべき時期だと思えたので、我々はクールなものを作るという約束でアーティファクトの天使を発注したのだった。アートが届き、素晴らしいものだった(Bromの手による)。こちらも素晴らしいものを作らなければならないという重圧を感じながら、さまざまなものを試した。そしてついに「あなたはゲームに敗北できない。」にたどり着いたのだった。

 《白金の天使》はすぐに人気を博した。スパイクは、強いカードだからと気に入った。ティミー(タミー)は、すごい能力を持っているからと気に入った。ジョニー(ジェニー)は、普通なら負けになるようなカードと組み合わせることで新しい空間を掘り下げられるからと気に入った。これほど人気なものができたら、我々デザイナーは同じようなことをする方法を探すものである。

 『時のらせん』の《天使の嗜み》は、《白金の天使》を元にしたインスタントで、その能力を1ターンだけ与えるというものだった。ケン・ネーグル/Ken Nagleは《白金の天使》を『ワールドウェイク』に合わせて《深淵の迫害者》を作った。{2}{B}{B}で6/6で、この逆の能力、つまり戦場にある間「あなたはこのゲームに勝利することができない」というものだった。

 《極上の大天使》は、《白金の天使》の最新版だ。天使で、敗北しないようにしてくれるが、1度だけである。ライフ総量を初期値に戻すことでしばらくの間安全にしてくれるのだ。ここで「初期ライフ総量」という表記を使っているのは、統率者戦などの20点よりも最初のライフ総量が多いフォーマットに配慮しているからである。

ゴンティの霊気心臓

 第1セットでよくあることの1つに、新しいメカニズムで何ができるかを見つけるために使ってみるということがある。何が可能かを掴むために広げていき、そして大体掴んだら線を引き、その向こう側は次のセットのために残しておくのだ。《ゴンティの霊気心臓》はそのようなカードの一例である。

 エネルギーの大きな効果を試していて、追加のターンを得るというものがもちろんあった。その能力の問題は、既に我々は教訓として理解していたが、複数のターンを得る可能性があるカードは危険だということである。エネルギーはリソースであり、充分溜めてしまえばそれが可能になると考えられたのだ。

 パズルのもう1つのピースは、自立したカードが必要だということだった。このカード単体でも追加のターンを得ることができるという夢を見られるようにしたかったのだ。我々は『カラデシュ』のデザイン中にさまざまな誘発条件でエネルギーを得られるものを試し、(結局アーティファクト・ブロックなので)この誘発条件にたどり着いたが、この誘発条件がこの効果と噛み合うかどうかはわからなかった。このカードは、『カラデシュ』のデザインから拾い上げられたものなのか、それとも最初に作ったときと同じ衝動に基づいて並行で『霊気紛争』のチームがデザインしたものなのかわからないカードの1枚である。

 『霊気紛争』のデベロップが施したとわかっている変更の1つは、これを伝説のアーティファクトにしたことである。デベロップ的な理由でクリエイティブ・チームに頼んで伝説にしてもらったのか、ゴンティの心臓だからとクリエイティブ・チームが伝説にするように言ってきたのかはわからないが、いずれにせよメカニズムとフレイバーの見事な融合である。

緑地帯の暴れ者

 『霊気紛争』におけるエネルギーの発展の中で、これが私のお気に入りだ。ただモードを持つということを隠したモードを持つ呪文というだけではなく、{G}で3/4のクリーチャーなのだ。エネルギーを作ったときに決めたルールの1つが、エネルギーを使うカードは必ずエネルギーを生成できるようにする、というものであった(エネルギーを生成するだけで消費する手段を持たないカードも存在するが、それはできるだけ少なくした)。そのため、エネルギーを追加のマナ・コストとして使うことは難しくなっていたのだ。

 《緑地帯の暴れ者》は、それを可能にする賢い解決策だった。エネルギーがなければ、これをクリーチャーとして出すことはできないがエネルギーを1つ得られる。そうすれば、やがてこれをクリーチャーとして唱えることができるようになる。クールなのは、他のカードでエネルギーを得ることができればこのクリーチャーを早く唱えることができるということである。また、これでエネルギーを生成できるので、回避能力を持たない3/4が実用的と言えないような長期戦でも役に立つことになる。

 これは、デザインしてみなければ明らかにならなかったデザインの1つである。もし、工程の早いうちに、ルールを守った上で(実質的に)唱えるためにエネルギーが必要なクリーチャーを作ることができるかと問われていたら、我々はおそらく不可能だと答えていたことだろう。そこで、私はこのカードをすべてのアマチュア・デザイナーに捧げたい。不可能なことだと認めるべからず。目の前にある問題を解決するための他の方法を探しているときに、最もエレガントなデザインが生まれることがあるのだ。

キランの真意号

 これはクリエイティブ・チームからのトップダウン要請によるもので、デザインするのが恐ろしいものだった。ストーリー上、主役たちは特別な飛行船に乗って領事府に一矢報いるのだ。機体のあるブロックなので、その船をカードにしないことはありえない。問題は、本当に特別なものだと感じるものにしたいということだった。もちろん伝説のパーマネントだが、メカニズム的にも他の機体と違う何かを必要としていたのだ。

 まず、我々は機体に可能なさまざまなことを試してみた。クリエイティブ・チームと話し合い、新しい機能のヒントとしてストーリーを使ったが、何もピンとくるものはなかった。そこで我々は他の方向からフレイバーにあわせる方法がないかと自問した。ゲートウォッチはキランの真意号に乗り込む(この名前はチャンドラの父親から取ったものだ)。機体がカード上でゲートウォッチのメンバーと相互作用する方法はあるだろうか。

 問題は、機体に搭乗するのはプレインズウォーカーではなくクリーチャーだということだった。このことから、プレインズウォーカーが機体に搭乗できるようにする方法を探すというアイデアに行き着いた。何を試したかすべて覚えているわけではないが、プレインズウォーカーが搭乗できるようにする方法をいくつも試したはずである。最終的に、我々は単純な忠誠カウンターの使い方で行くことにした。エレガントでフレイバーに富んだ、書きやすい方法だったからである。

凍り付け

 『カラデシュ』のデザイン中に、新しい道具として「かアーティファクト」を導入するという冗談が生まれた。アーティファクトでないパーマネント、大抵はパーマネントに影響を及ぼすカードを元にして、そこに「かアーティファクト」を加えるのだ。例を見せよう。「あなたの墓地からクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。」というカードがあるとする。

 ぽん。

「あなたの墓地からクリーチャー『かアーティファクト』・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。」

 厳密に言えば、パーマネント・タイプはアルファベット順に並べるのでアーティファクトのほうが先に来ることになるが、大枠はわかるだろう。アーティファクト・ブロックでは、単純に普通やることを元にしてアーティファクトにも影響を及ぼすようにするだけで新しいカードを作ることができるのだ。《凍り付け》はその一例である。特に、「エンチャント(アーティファクトかクリーチャー)」からはかなりの恩恵を受けている。

器具サイクル

 このサイクルは、色付きのコストを支払って生け贄に捧げることで起動できるその色の能力を持つアーティファクトのサイクルである。また、戦場から墓地に置かれたときにカードを1枚引けることも共通している。このサイクルは、複数の機能を同時に果たすことができたので存在しているのだ。

  1. 即席をサポートするという目的があった。そのため、充分な数の、特に最小のコストでタップに使えるアーティファクトが必要だった(逆に、アーティファクト・クリーチャーはタップしてしまうと攻撃したりブロックしたりすることができなくなる)。そのサイクルのカードは3マナ以下のコストで、早期に唱える助けになる。
  2. 紛争をサポートするという目的があった。このためには、必要な時に戦場を離れることができるカードが必要だった。
  3. 「アーティファクト関連」テーマを支えるため、カラー・パイを必要以上に乱すことなく開封比(テーマ内のカードがブースター・パックから開封される割合)を高められるよう、アーティファクトに色をさらに統合する必要があった。
  4. デッキの流れを良くする方法が必要だった。

 1枚のカードやサイクルで複数の機能を果たすことができた場合、私はデザイナーとして本当に満足を感じる。そして、この器具サイクルはそれをエレガントかつ効率的に果たした素晴らしい例なのである。

霊気の知恵

 本日はここまで。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、今回は「I」までしか進めなかったので、その3でお会いしよう。

 その日まで、楽しい紛争があなたとともにありますように。

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