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Making Magic -マジック開発秘話-
月を超えて その2
月を超えて その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年7月4日
『異界月』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、私は新しい合体カード(2枚の異なるカードが1枚のカードに変身する両面カード。何を言っているのかわからない諸君は先週を参照のこと)について語った。合体カードができるまでには長い歴史があるので、(デザイン・チームの紹介はしたが)前回のコラムすべてを使ってその話をしたのだ。
とはいえ、『異界月』には他にも多くの要素が含まれているので、今日はこのセットに含まれる他の多くのクールな部分について語り、そして一部のプレイヤーが長い間待ち望んでいたものである新しいプレビュー・カードをお見せしよう(いや、伝説の狼男ではない。それは先日すでにプレビューされている)。話すべきことは多いので、早速始めよう。
『異界月』とその裏側へ
『異界月』のデザインやデベロップにおいてどんな決定がなされたかを理解するために(今週紹介する新メカニズムは両方ともデベロップ中に作られたものであると明記しておこう)、まず一歩引いてこのセットのなすべきことを確認しておこう。
『イニストラードを覆う影』で、我らの主役であるジェイスがイニストラードにソリンを探しにやって来た。彼はイニストラードで何か異常が起こっており、人々の多くが、なにか見えざるものの影響によって、狂気に陥り、ゆっくりと変化していっていることにすぐに気がついた。そして、何が起こっているのかの謎に挑み始めた。タミヨウの日誌を頼りに、そして後にはタミヨウ自身の助けも得て、ジェイスは狂気の源が天使アヴァシンだと確信するに到った。ジェイスとタミヨウはアヴァシンを倒すことができなかったが、あわやというときにソリンが現れ、嘆きとともに彼の生み出した天使を滅ぼしたのだった。その結果、アヴァシンは問題ではなく、イニストラードを守っていた唯一の存在だったのだということがわかった。そして、アヴァシンが失われたことで、本当に恐ろしいものがこの次元に現れたのだった。
その恐ろしいものこそが、ソリンとソリンの次元に復讐するためにナヒリがイニストラードへと導いたエムラクールだった。『異界月』ではついにエムラクールが現れたときに起こる影響が描かれることになる。前のブロックである『戦乱のゼンディカー』がエルドラージに全力だった上に、それとは違うものでなければならなかったので、これは難しいことだったのだ。
そのために、我々はいくつかの決まりを作った。
無色のエルドラージ・カードの枚数を制限する
もちろんエムラクールは無色になるし、他にも数枚は無色にできるが、このセットにおける無色クリーチャーの開封比をそれほど高くしたくはなかった。イニストラードはゴシックホラーの世界であり、エムラクールの影響でそれを曇らせたくはなかったのだ。
欠色カードを作らない
欠色は、ゼンディカー世界を制圧していて自分たちの次元を取り戻すためにゼンディカー人が戦わなければならないほどの量のエルドラージがいるという描写のために必要な副産物だった。『戦乱のゼンディカー』を繰り返すつもりがないなら、同じ道具を使うことはできない。つまり、欠色カードは使えないのだ。
無色マナを多くし過ぎない
欠色を使わないのと同様に、あまりにも多くの無色/不特定マナ・コストを使うことも望ましくない。『異界月』には、通常とほぼ同じ量の色が必要なのだ。
単なるエルドラージでなく変質したイニストラードを描く
エムラクールの影響は新しいエルドラージを作ることではなく、イニストラード世界のクリーチャーを変質させることである。このセットではそれを示さなければならない。
『異界月』のデザイン上のパズルを解くということは、上記の決まりを守りながらやるべきことをやる方法を探すということである。我々が最初に目を向けたのは両面カードだった。両面カードには2つの大きな利点があった。1つ目が、フレイバー的に最初から変質が含まれているので、変質を表すのに有効でありうること。2つ目に、イニストラード独自の(ああ、『マジック・オリジン』にもあったが、『ゼンディカー』及び『戦乱のゼンディカー』ブロックに存在しないことが重要である)メカニズムであること。
イニストラード世界における両面カードのテーマは、いわゆる「闇堕ち」である。第1面は(通常)比較的無害なクリーチャーで、第2面が変身した後の闇の姿である。エムラクールの存在の恐ろしさを示すために、両面カードを最初から「怪物」にして、その後変質した姿に変身させるという方法がある。無害な方で怪物なのだから、状況は悪化していると言えるだろう。
つまり、第1面はこれまでにイニストラードに存在していたもの(有色アーティファクトと土地が例外となる)になり、第2面は無色になる。変質すると、そのクリーチャーはエルドラージ性を持つようになり、無色のエルドラージ枠で示されることになる。また、これは決まりの1つ目を守る助けにもなる、デッキのほとんどのカードは(第1面をオモテにしてプレイするから)有色になるのだ。
もちろん、このためにはカードのシンボルを変更する必要がある。第1面が太陽、第2面が三日月だったのを、第1面が満月で第2面がエルドラージ・シンボルになるように改めた。ただし1枚だけ、伝説の狼男である《爪の群れのウルリッチ》だけは旧来の太陽/月のシンボルを用いている。これに関する面白い話は、カード個別の記事で話すことにしよう。
両面カードのほとんどのデザインは非常に単純だった。イニストラードにあるものを第1面で描き、その後、変質してエルドラージ化した姿を第2面に描くのだ。狼男には多少問題があった。『イニストラード』『闇の隆盛』『イニストラードを覆う影』を通して、狼男は、同一の条件ですべてが太陽の面から月の面へ、また別の1つの条件で逆向きに、変身するというまったく同じ振る舞いをしていた。
我々は、すべての狼男を最初から狼形態にして、狼男のエルドラージ版に変身させることにした。これまで変身に使っていた誘発型能力はどちらもふさわしくないように思えたので、マナを支払って起動する変身能力を与えることにした。これは、他の狼男と組み合わせた時にもう1つの利点となった。『異界月』以外の狼男を変身させるときに余るマナを消費することができるのだ。我々は狼男も他の両面カードと同様に一方通行にすることにした。エムラクールによって変身させられたものは二度と戻らないのだ。
新メカニズム現出
両面カードのおかげで、無色パーマネントの開封比を低く抑えたまま無色のカードを作ることができた。我々はエムラクール・カードを作り、他に数枚の無色のエルドラージを作った。《約束された終末、エムラクール》以外の真の無色のエルドラージで最終的にセットに残ったのは《永遠の災い魔》1枚だけだった。
また、トークンを無色クリーチャーを扱う場として使うことができることにもなった。これによって、手札を無色カードでいっぱいにすることなく、戦場の無色クリーチャーの数を増やすことができるのだ。『エルドラージ覚醒』の0/1の落とし子や『戦乱のゼンディカー』ブロックの1/1の末裔は『イニストラードを覆う影』環境ではうまく働かなかった。呪文を唱えるマナとしてもうまく行かなかったのだ。様々な組み合わせを試した後で、デベロップはトークンを3/2の無色クリーチャーに定めた。我々はそれをエルドラージ・ホラーと呼び、変質したモノを表すために用いたのだ。
まだ何かが足りないということは明らかだった。このセットでエムラクールの存在が重要なら、それを反映したメカニズムが必要なのだ。しかし、決まりの2つ目と3つ目がそのメカニズムでできることにかなりの制約を加えていた。それらのカードは、カラー・パイを回避することなく、エルドラージらしさを纏わなければならない。我々はこのメカニズムですべての色がすべてのカードを使うようにするつもりはなあった。この問題を解決策として閃いたのが、忍者だった。
より正確に言えば、『神河謀叛』の忍術メカニズムである。私は、忍者の不意打ちっぷりを表すメカニズムとして忍術をデザインした。忍者は隠蔽の達人で、気づかれることなく攻撃してくるのだ。『異界月』のリード・デベロッパーを務めたサム・ストッダート/Sam Stoddardは忍術の大ファンで、これが解決のカギを握るかもしれないと考えたのだ。新しいメカニズムは「現出」と命名された。
彼が最初にこの能力に加えた変更は、生け贄をコストとして加えたことだった(一方、忍術はクリーチャーを手札に戻していた)。これによってエイリアンの寄生獣っぽさ、つまり変質したクリーチャーがもとのクリーチャーの中から飛び出してくるという感じが出るようになった。もともとは、現出は忍術と同じように作用しており、攻撃クリーチャーにしか使えなかったが、これはあまりにも制限がキツすぎるということになり、クリーチャーを唱えられるときならいつでも起動できるように変更された。
起動コストを有色にしたのは、「欠色を使わない」問題を解決する鍵となった。現出を持つクリーチャーは無色だが、有色マナと生け贄を使うことで唱えるのに必要なマナが1マナ減ることになる。これによって、これらのカードはどのデッキでもプレイできるが、色が合っているのが望ましいということになるのだ。現出能力は、青、黒、緑にだけ存在している。
時間とともに膨れ上がる問題
エムラクールの影響は『異界月』の大きな事件だが、このセットで表すべきはそれだけではない。問題解決のために訪れたゲートウォッチは、準備が足りないことに気がついた。助けを求めた彼らが出会ったのが、予想外の仲間、リリアナだった。エムラクールの影響を受けないクリーチャーは偶然にもゾンビだけで、彼女は偶然この次元にいる屍術師だったのだ。
このセットには、エムラクールを倒すための思いもよらない同盟を表すメカニズムが必要だった。興味深いことに、このメカニズムもまた何年も昔に私が作ったメカニズムをもとにしている。こちらのもとになったメカニズムは、『ミラディン』ブロックのものだった。
双呪(文字通り夢に見たことを2週前に話題にしたメカニズム)の話だ。サムは双呪を、魔除けや命令と組み合わせたのだ。多くの場合は3つの選択肢があり(いくつかは2つだが)、追加のコストを支払うことによって2つ目、さらには3つ目の選択肢を選ぶことができるのだ。
増呪は最初、白と黒にだけ存在しており、増呪コストは反対の色だった。しかし、これはあまりにも狭いということがわかった。デベロップ・チームは増呪コストをその色が支払えるもの(その色だったり、不特定マナだったり)に変更し、増呪が白と黒に赤も加えた3色に存在するようにした。増呪はこのセットやスタンダードに必要とされる、余ったマナを使う道具となったのだ。
古い革袋に新しい酒を
ここまで新しいメカニズムについては語ってきたが、古いメカニズムについては触れていなかった(「古い」というのは『イニストラードを覆う影』ブロックの話だ)。ここで1つずつ見ていこう。
両面カード
これは先週もここでもほとんど扱ったようなものだ。両面カードは太陽と三日月の「闇堕ち」から、満月とエルドラージ・シンボルの「闇の変質」ヘと変化した。また、3組の両面カードは変身して合体カードになる。
調査
物語上の手がかり集めの部分は終わっており、新しいメカニズムのための場所を確保しなければならなかったので、調査は取り除かれた。
マッドネス
マッドネスはそれほど変化していない。同じ色(黒と赤)のままで、吸血鬼と深く結びついているのも同様である。デザインもデベロップも、このメカニズムを持つ新カードを作っただけと言ってもいいだろう。
昂揚
『イニストラードを覆う影』では、デザインもデベロップもパワーやタフネスを大きく変化させることを避けていた。これは、両面カードと似ているというイメージを与えないようにするためだったが、両面カードが新しい方向へ向かったので、昂揚が両面カードのあったところに移動することができることになった。ほとんどの昂揚カードは、昂揚したクリーチャーが大型化するようになっている。また、これは変質というテーマを表す役にも立っている。
部族
5つの部族(人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)はそのまま残って、そのままの友好色のペアに存在している。狼男は上記の通りメカニズム的には変化している。我々は、様々な部族が構築環境に登場する機会があるように仕上げた。
色のペア
ドラフトにおける10個の2色ペアはすべてほぼ同じままになっているが、例外が1つある。『イニストラードを覆う影』では、緑青は調査に重点が置かれていた。『異界月』では、緑青は現出メカニズムと相互作用している。
そこから見えるプレビュー
今日の記事を終わりにする前に、1つやることがある。そう、プレビュー・カードだ! 長い間諸君が私に作ってほしいと言い続けていたものなので、これを選んだのだ。統率者戦が人気のあるフォーマットになって以来、このクリーチャー・タイプを軸にしたデッキを作りたいのにその統率者がいない、という声が届いていたのだ。最もリクエストが多かったのは伝説の熊だが、今日のプレビュー・カードは第2位に位置する。
そう、ついに登場したのがこの伝説の蜘蛛である。登場するまでにこれほど時間がかかったのは驚きだ。黒の起動コストを持たせたのは、固有色をプレイヤーがつねづね求めていた黒緑にするためである(《蜘蛛の発生》を蜘蛛デッキに入れたいのは当然だろう)。このカードは蜘蛛トークンを生成し、蜘蛛というクリーチャー・タイプを持っている。蜘蛛好きの統率者戦プレイヤー諸君、お聞きあれだ。
地平線の『異界月』
さて、この2部作が『異界月』のデザインの背景となった話だ。話すことは多くあり、私はこのデザイン・チーム、デベロップ・チームの仕事を誇らしく思っている。幸いにも、諸君はこれをプレイする機会を間もなく得ることになる。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『異界月』のカード個別のデザインの話でお会いしよう。
その日まで、現出と増呪の機会があなたとともにありますように。
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