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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

「何」の話

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「何」の話

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年11月16日


 5年前、私は「私は「クエスチョン・マーク一問一答」という大シリーズを立ち上げた。それぞれの記事を書くにあたって、Twitterのフォロワーに特定の疑問詞から始まる質問を募集するのだ。最初は「ハウ(どのように)」(ノウ「ハウ」その1その2)。

 次は「なぜ」("Why? Because We Like You"(リンク先は英語))。そして去年が「いつ」(「いつ」の話)。今日はこのシリーズの4作目となる、「何」の話だ。

 私はこんなツイートをした。

 私は今、一問一答の記事を書いていて、諸君の助けが必要だ。「何」から始まる質問を送ってほしい。質問はツイート1つで1問だ。


 素晴らしい反応が返ってきたので、可能な限りの質問に答えたいとは思うけれど、答えられない理由がいくつが存在する。

  • この記事は様々な言語に訳されるので、訳者や編集者のために、文章量を制限すべきだということがわかっている。質問が非常に多いため、その全てに答えることはできないのだ。
  • 他に同じ質問をした人がいる場合、できれば同じ質問をした中では一番早く届いたものに答えたいと思う。
  • 各一問一答記事で疑問詞を変えているのは、質問の種類を変えたいからである。従って、「何」から始まっていても「何」について聞いていると言えない質問は飛ばす。
  • 質問の中には、私が答えを知らないものや私の専門外のものがあり、正しく答えられないと思われる質問には答えない。
  • 話題にすることが禁止されている話題も存在する。そういった話題関連の質問には対応しない。

 それをふまえて、早速質問に答えていこう!

 マジックをよりよくするにあたっての障害はがありますか?


 何もない。我々は日々マジックを向上させることを目指して努力している。

 やり直したいと思っているセットやブロックを1つ選ぶとしたらですか?


 私が個人的にデザインに関わったものの中から選ぶなら、『シャドウムーア』だ。そうでなくてもいいなら、『神河物語』ブロック。

 からくりとはで、それを組み立てるとはどういうことですか?


 素晴らしい質問で、少し時間をかけて取り組んでいる問題である。知らない諸君のために言うと、私は『未来予知』にあった、からくりを軸にしたミライシフト・カードの《蒸気打ちの親分》の問題を、引退前に解決すると宣言しているのだ(ああ、今すぐ引退する計画があるわけではない)。

 手をつけるのが怖い(危険すぎると信じている)デザイン上の企画や発想はですか?


 6色目を追加すること。これはあまたの危険をはらんでいる。

 ドミナリアに戻る機会となるのはですか?


 我々は今、毎年2つの世界を訪れており、ドミナリアに深い思い入れを持つ長年のプレイヤーがたくさんいる。つまり、いつの日か我々はドミナリアに戻ることになると思うが、その前に解決しなければならない問題が多く存在するのだ。最大の問題は、9年以上の分のセットを踏まえて、ドミナリアを他の世界の持つ全体的な世界観と整合するような場所にまとめなければならないということである。

 マジックの将来について、一番心配していることはですか?


 私の最大の心配事は、今まで長年抱えてきた同じ問題である。常に新しい内容を作り続けなければならないので、複雑さが増して制御不能になり、新規プレイヤーがマジックの遊び方を学ぶのをやめ、最終的にはマジックを殺してしまう可能性があるということだ。

 ウィザーズで働くためには、をすればいいですか?


 私が言えることは1つだ。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストには求人ページがあり、そこで新規採用を募っている。このページを注視し、自分のできる仕事を見付けたら応募するのだ。さらにアドバイスするなら、応募の際には雇ってほしいと書くだけでなく、自分を雇うことの利点を説明するのを忘れないことだ。

 サイクリングや《霊体の地滑り》が再び見られる機会となるのはですか?


 サイクリングは間違いなく再び見かけることになるだろう。これまでにも何度も使っている素晴らしいメカニズムで、またマジックに戻ってくることは確実だ。一方、私はデベロッパーではないが、おそらく《霊体の地滑り》がスタンダードのセットに戻ってくることはまずないと言えるだろう。あれは強すぎる。ただし、何らかの調整を経て戻ってくることがあり得ないとは言わない。

 最近4つのブロックでデザインが施した変更の中で、お気に入りのものはですか?


 2ブロック構造(1年1ブロックではなく1年2ブロックにする)の採用は、素晴らしいことだった。唯一後悔していることは、これを今まで見付けられなかったことだ。

 信心のように「修正」したいメカニズムの筆頭はですか?


 計画をバラすことになるので、それは答えられないな。

 マジックのデザインにおいてやりたいと思うことの中でできないことを1つあげるとしたらですか?


 マジックそのものを最初から作り直せるなら、カード・タイプ、特殊タイプ、サブタイプの設計を全く違うものにするだろう。

 あなたが最終的に気に入ったデザインの中で、デザイン中に最も反対したものはですか?


 バントのミニチームで見たとき、賛美メカニズムの第一印象は最悪だった。しかし今はお気に入りのメカニズムの1つだ。

 「でかくて悪い」奴が次に多元宇宙に現れるきっかけとなるのはですか?


 クリエイティブ・チームは常にクールで新しい敵を考え続けている。「でかくて悪い」のが出てくるは当然だ。

 お気に入りのカードを1枚あげるとしたらですか?


 子供の中でお気に入りを1人選べと?

 私のお気に入りは、感情にまかせて選ぶなら、『ミラージュ』の《マロー》だ。このカードは私にあだ名をつけてくれただけでなく(私にちなんで名付けられたのだ)、私を私の愛するゲームの仲間に入れてくれたのだ。《マロー》は、マジック・インビテーショナルの、プレイヤーにカードを作らせるという企画の元になったカードである。2枚目を挙げるなら、これも感情にまかせて、『Unglued』の《Look at Me, I'm the DCI》だ。私はこのカードをデザインしただけでなく、名前をつけ、フレイバーを書き、しかもイラストまで描いたのだ(マジック史上最悪のアーティストだ)。自分のデザインしたカードの中から、情を廃してゲームプレイ上の観点だけで選ぶなら、旧『ラヴニカ』の《倍増の季節》を挙げておこう。

 レガシーのプロツアーを開催するのに必要なのはですか?


 最大の問題は、プロツアーの参加者全員が平等になるようにしなければならないが、世界のどこでも同じように競技レガシーに必要なカードを集められるわけではないということである。

 生け贄にする効果にマナを必要とする最近の風潮はがあったんですか? ただ生け贄にするだけというのが『ラヴニカへの回帰』や『イニストラード』では当たり前でした。


 理由は2つあり、1つはデベロップ寄り(パワー・レベル)、もう1つはデザイン寄りだ。私はデザイナーなので、2つ目の理由について語ることにする。我々は、プレイヤーの選択が択一的であるほうがいいゲームプレイになると感じている(択一的でない選択とは、何かを追加することを選べるというものである。これについては以前「Decisions, Decisions」(その1その2)(リンク先は英語)で書いている)。クリーチャーをマナなしで生け贄に捧げられるという場合、選択は択一的ではなくなりがちである。クリーチャーが殺される直前に生け贄に捧げてもいいし、実際に生け贄に捧げることが必要になったときに捧げてもよい。マナが必要であれば、生け贄に捧げようとするなら、呪文や他の起動型能力と言った他の機能と天秤にかけることが必要になる。また、マナを使うことで、対戦相手が待ち構えてつけ込めるような隙が存在することになる。マナなしでの生け贄があり得ないというわけではないが、マナなしでの生け贄が当たり前だということはなくなっているのだ。

 プレイテスト時に、プレイヤーが狙い通りの感覚を得ていると判断できるもっとも分かりやすい印はですか?


 第一に、デザイン上の何かが成功しているという目印になるのは、プレイテスターが笑顔を見せて楽しんでいることである。

 物語の中で、解決したのをもっとも見たいのはですか?


 一言だけ。私は今、あるセット(何年も先のセット)の先行作業をしていて、そこではその物語が解決されている。

 インスタントをやめて、瞬速持ちのソーサリーにするために必要なのはですか?


 その変更を出来る時期はもう過ぎたと考えている。最大の問題は、カード上に書かれた文章が新ルールの下でも作用はするが、その文章で言っているようには働かないカードが存在するようになることである(例えば、「ソーサリー1枚をあなたの手札に戻す」と書かれたカードは、元の機能と同じこともするが、文字通りに解釈すると違うことをしてしまうだろう)。

 あなたがデザインしたメカニズムの中で、もっとも反対意見が多かったのはですか?


 簡単だ。分割カードだ。『インベイジョン』のデザイン中、私は分割カードをビル・ローズ/Bill Rose(そのセットのリード・デザイナー)に見せた。彼は分割カードを気に入って、セットに採用した。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldも、これが面白いと思った。しかし、社内にいる中で賛成したのはその2人だけで、他は全員、文字通り全員が反対し、採用すべきでないと考えた。そのセットのリード・デベロッパーだったヘンリー・スターン/Henry Sternは、デベロップの初手で分割カードをボツにしようとした(私はデベロップ・チームに所属していたので、ボツにする前に試すように全員を説得したのだ)。ブランドもボツにしようとした。組織化プレイもボツにしようとした。ビルと私のウィザーズでの20年の中で最大の功績の1つが、分割カードをセットに残して印刷までたどり着かせたことである(これについては、記事「Split Decisions」(リンク先は英語)で詳しく書いている)。

 次に訪れる新しい次元を生み出す霊感はですか?


 プレイヤーから常々言われ続けて、そしていよいよその時だと感じたとき、それが霊感となるのだ。

 マジックに深く関わっているプレイヤーが、デザインやデヴァインについて持っている最大の誤解はですか?


 多くのプレイヤーは、我々がパワーレベルについて何もできないに等しいということを理解していない。我々はクールなメカニズムやカードを作ることが目的で、何を推すかは決定しないのだ。

 一番読者からの反響が多い媒体はですか?


 反響のほとんどはインターネットからで、その中でも一番多いのはTumblrである。イベントに出かけてプレイヤーと面と向かって話したりもするし、諸君が喋っているところに出向いてその会話を聞くためにかなりの時間を費やしてもいる。

 2016年春のブロックについて、一番気に入っていることはですか?


 そのセットは、我々が現在抱えているある問題を綺麗に解決していると思う。

 あなたがデザインした中で、個人的に最低評価のメカニズムはですか?


 私が作った中で、最も壊れたメカニズムは『ウルザズ・サーガ』ブロックの「フリースペル」メカニズム、次いで旧『ラヴニカ』ブロックの発掘メカニズムだ。『ギルド門侵犯』の暗号や『闇の隆盛』の窮地、『モーニングタイド』の補強はかなり失望する結果になった

 パイに4色しかなかったとしたら、が起こりますか?


 まず、マジックは今よりずっと悪いものになっていたと思う。仮定に基づいて答えろというなら、緑がなくて、自然という要素は残りの4色に配分されていたのではないか。そうなると、マジックの中心は、もっとも分かりやすい対立である、白と黒、青と赤の2軸の対立になるだろう。また、メカニズム的にも、他の4色に分割しやすい色を1つ挙げるなら緑になると思う。

 (これまでの)1週間の仕事の中で、一番楽しみにしているのはですか?


 新しいメカニズムを初めて試すときの、デザイン・プレイテストは楽しみなものだ。

 ドワーフがマジックに戻ってくるには、が起こらなければなりませんか?


 これは、ドワーフが戻ってくるかどうかの質問ではなく、ドワーフがいつ戻ってくるかの質問だ。実際、現在の7ヶ年計画の中で、少なくとも1つのブロックにおいてドワーフは重要な役割を果たしていることは事実である。

 『プレインチェイス』や『アーチエネミー』のような、『統率者』以外の多人数戦用商品が出る機会となるのはですか?


 実際のところ、その種のものが登場する可能性は非常に高い。多人数戦プレイヤーがかなりいるということはわかっているし、そういう人たちのための商品を出し続けたいと考えている。

 「部族」が戻ってくるために必要なのはですか?


 まず、ここで言っている「部族」がカード・タイプのことであり、クリーチャー・タイプを扱う主軸的テーマのことではないと断っておこう。前者は二度と採用されないが、後者は今後もマジックのブロックで登場し続けることになる。カード・タイプの部族が戻ってくるために何が必要か、と問われれば、何を持ってしてもそんなことはあり得ない、と言わざるを得ない。

 部族について詳しくない諸君のために説明しよう。『ローウィン』ブロックで、我々は部族テーマを取り上げ、クリーチャー以外のカードにクリーチャー・タイプを持たせて相互作用を生み出したいと考えた。その方法として、当時のルール・マネージャーのマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが作ったのが、クリーチャーでないカードにクリーチャー・タイプを持たせられるようにする新しいカード・タイプだった。

 しかし、すぐに問題が明らかになった。部族が存在すると、我々は何にでもタグ付けする必要が出てきた。一部のゴブリン関連カードがゴブリンなのに、他のゴブリン関連カードがゴブリンではない、という状況は作りたくなかったからである。そのため、我々は部族というカード・タイプをそこら中で使う必要があった。問題は、それが意味を持つ状況はほとんどないということだった。例えば、我々が部族・カードを『イニストラード』で使ったとすると、95%の状況では何の意味も持たない。部族テーマを色濃く有するセットにもかかわらずである。つまり、多くのカードに単語を増やすにもかかわらず、ゲームプレイ上の向上はほとんど見込めないということになる。そこで、我々は、使うのを止めるのが正解だと判断したのだ。

 デザイナーとして、もっとも失望したことはですか?


 『オデッセイ』を挙げよう。私が手がけ、非常に誇りに思っていたのに、実は完全に間違った理由で作っていたのだと気がついたものだ。良かった点を挙げれば、このセットで私はデザイナーとしていろいろな教訓を得た。自分の役目が、自分を楽しませることでも自分の能力を証明することでもなく、多くの人々が楽しんでプレイできる商品を作ることだということを理解できた。

 デザイナーとして最大の功績はだと(自分で)思いますか?


 プレイヤーの心理学的分析(ティミー/タミー、ジョニー/ジェニー、スパイク)だろう。これのおかげで、様々な種類のプレイヤーが様々な心理学的要求を持っていて、我々はそれを意識し続けなければならない、ということを開発部が理解できたのだ。純粋にデザインだけの話で言うなら、私の一番のお気に入りは分割カードと混成マナだ。セットという視点では、『イニストラード』と『ラヴニカ』が一番に挙げられる。

 プレインズウォーカー以外のカード・タイプの中で、デザインが最も難しいのはですか?


 プレインズウォーカーの次となると、もっとも制限が厳しくてデザイン空間が狭いのは土地である。

 新しい銀枠セットを作るのに必要なのはですか?


 銀枠セットを買いたいと声を挙げる大勢のプレイヤーが必要だ。『Unglued』も『Unhinged』も、販売上の問題があった(私は刷りすぎのせいだと思っているが、他の見解も存在する)。そして、3つめの銀枠セットを作るための鍵は、経済的に成立するだけのユーザーがいるのだと権力者を説得することである。

 先行デザインの一番難しいところはですか?


 先行デザインは問題を解決するものではなく、何がデザイン上で問題になるかを見付けるものだということを思い出してもらいたい。その大部分は、このブロックで何をするのか、このブロックがどうあるべきなのかを全体的に使うことになる。このポイントを見付け出すのが最も困難なことなのだ。

 お気に入りの次元はですか?


 私が初めてデザインしたセットの世界でもあり、私が作るのに協力して世界構築に深く関わったた次元でもある、ラースを挙げよう。なお、ドミナリアに上書きされたので、ラースはもう存在しない。

 カードをデザインするのが一番難しい色はですか?


 低いレアリティでデザインするのが一番難しい色は、2番目に呪文中心でありながら、青に比べて使える呪文の種類がかなり少ない色、赤である。また、土地破壊やマナ加速などの赤がすることの多くについて、我々は特にコモンにおいて頻度を引き下げている。高いレアリティで難しい色は、盗むとかクローンなどの様々な効果の頻度を下げている、青かもしれない。

 マジックが犯した最大の誤りはですか?


 どういう観点から見るかによって違うので、難しい質問だ。『フォールン・エンパイア』や『ホームランド』の刷りすぎは、マジックを終わらせかねないものだった。『ウルザズ・サーガ』ブロックや『ミラディン』ブロックのデベロップは、それぞれ多くのプレイヤーをマジックから去らせることになった。『ホームランド』や『プロフェシー』のデザインはマジックのゲームプレイを大幅に劣化させた。こう考えてみて、このリストで複数回名前が挙がっている『ホームランド』を選ぶことにしよう。


の話をしてるんだ?」

 今日はここまで。問題を送ってくれた諸君に感謝すると同時に、全ての質問に答えられなかったことに謝罪しよう。いつものとおり、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ポッドキャストに着想を得た記事(普段は逆のことが多い)でお会いしよう。

 その日まで、知識欲があなたとともにありますように。

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