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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ヘイトレッド(スタンダード『テンペスト』~『ウルザズ・レガシー』)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ヘイトレッド(スタンダード『テンペスト』~『ウルザズ・レガシー』)
by 岩SHOW
「無色エルドラージ」の一番えげつないムーブは?うーん...
「1ターン目《ウギンの目》セットからの《エルドラージのミミック》ミミックミミックの3連打。2ターン目に《エルドラージの寺院》セット《猿人の指導霊》追放して赤マナ出して5マナで《現実を砕くもの》、ミミックズが誘発型能力で5/5になり、パワー5×4体=20点でノックアウト!」
この2ターンキル・ムーブかな。カードを7枚も要求するのでそうそう決まらないが、ミミックが2体で15点、くらいなら実際にプロツアーでも見かけた光景で、そこそこ決めてくるから困ったもの。マジックプレイヤーはこのようなデッキが望める最高の動きを、ブン回りのその上であるとして「ドブン」と呼んだりする。どんな時代、どんな環境でも、このドブンと呼ばれるムーブができるデッキは強く、トーナメントで結果を残してきたものだ。
僕が初めて体験したドブンの光景は......それはもう、えげつないにも程があったなぁ。
16 《沼》 2 《裏切り者の都》 2 《不毛の大地》 -土地(20)- 4 《カーノファージ》 4 《ダウスィーの怪物》 4 《ダウスィーの殺害者》 2 《ダウスィーの大将軍》 2 《走り回るスカージ》 2 《ダウスィーの匪賊》 -クリーチャー(18)- |
4 《暗黒の儀式》 4 《強迫》 4 《肉占い》 2 《吸血の教示者》 1 《呪われた巻物》 3 《呆然》 4 《憎悪》 -呪文(22)- |
4 《夜の戦慄》 3 《呪われた巻物》 2 《恐怖》 3 《偏頭痛》 3 《非業の死》 -サイドボード(15)- |
1ターン目:《沼》セット、《肉占い》or《カーノファージ》を出してエンド
2ターン目:《裏切り者の都》セット、2/2ゾンビでアタック、《暗黒の儀式》を唱えて5マナから......
1ターン目にクリーチャーを出し、2ターン目に5マナ生み出せて《憎悪》が手札にあれば2ターンキル!!テンペスト・ウルザ期(※1)のスタンダードに存在した凶悪速攻デッキ、その名も「ヘイトレッド」。元々黒という色は《黒騎士》などの軽量クリーチャーとそれらの高速展開を後押しする《暗黒の儀式》、並んだクリーチャーを強化する《不吉の月》など、ウィニー戦略(※2)に長けていた。
(※1:この春『イニストラードを覆う影』が登場するとスタンダードは3ブロック制となるが、これまでのスタンダードは「3つのエキスパンションからなるブロック」2つと「基本セット」のカードが使えるフォーマットであり、使用可能なブロックの頭を2つ並べて○○・△△期と呼ばれる。このデッキは『テンペスト』『ストロングホールド』『エクソダス』『ウルザズ・サーガ』『ウルザズ・レガシー』『第6版』が使用できたタイミングで作られている。)
(※2:かつて使われていたマジック用語で、1マナ・2マナのWeenie(ちっぽけ)なクリーチャーを序盤から展開し、手数で殴りきるデッキの総称。「白ウィニー」「黒ウィニー」はマジック黎明期にはお約束のデッキタイプであった。最近はクリーチャーがちっぽけでもなくなってきたのもあってか、「○○ビート」「○○アグロ」といった用語にとって代わられている。)
特に黒のウィニー戦略は、コストパフォーマンスは良いが代償として自身のライフなどのリソースを失わせるカードによって支えられていた。このデッキを見ても、18点支払う《憎悪》を除いても実に10枚のライフ損失カードが採用されている。このテンペスト・ウルザ期および続くウルザ・マスクス期のスタンダードには、《肉裂き怪物》《ファイレクシアの抹殺者》《隠れ潜む邪悪》《殺し》といった「命を大事に」という概念を持たないカードが多数あり、これらを使用するデッキを「スーサイド・ブラック」と呼んだものだ。
このスーサイド戦略の最高峰が、この「ヘイトレッド」。前述の全力でライフを支払う《憎悪》絡みの2ターンキルが可能だが、相手に何か対策があった時点で即座に敗北しかねない(というかする)スリルが、全世界のスーサイド・マニア達のハートを刺激する。相手が《山》を置いてきた?《ショック》を握られていたら即時敗北?知ったこっちゃねぇ、本体《ショック》なんか怖くねぇ!野郎ブチのめしてやる!......《カーノファージ》で攻撃する時の脳内はこんな感じだ。ただ、このデッキ自体はそんなリスキームーブをせずとも、普通に黒ウィニーとしてクリーチャーを展開し手札破壊呪文で相手を阻害して勝てるデッキになっている。使用者は「浪速のヒゲ」こと東野将幸、使用されたトーナメントは日本選手権1999。同トーナメントには、「実部提示MoMa」「サバイバル・デス(nWo)」(※3)といった主軸を禁止カードにされながらもしぶとく生き残ったデッキがメタゲームの中心となったが、これらのデッキのガラ空きのガードを「ヘイトレッド」は的確に突き、見事優勝となった。
(※3:これらのデッキだけで記事一本書けてしまう...ので、すいません、いつか単品で取り上げます!)
同じ大阪のプレイヤーが使用して優勝し、しかも己の命も捨て去る覚悟の武士道精神あふれるこのデッキ、当時中学生だった僕は、自分が集められるパーツでなんとか「もどき」のデッキを作って、実際に2ターンキルを友人相手に決めて楽しんだものだ。
「お前の肉から皮膚を、骨から肉を引きはがしてやる。骨についてる肉片も全部こそげ落としてやる。それでもまだ十分じゃないんだ。」粋がってフレイバーテキストを読み、カッカッと笑う僕に対して、友人らが赤単同盟を結成し《ショック》をキープ基準とするまでにはそう時間はかからなかった......fin.
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