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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2012・第2回:プロはなぜ強いのか??オーランドにて
読み物
木曜マジック・バラエティ
2012.02.02
なかしゅー世界一周2012・第2回:プロはなぜ強いのか?~オーランドにて
By 中村 修平
アメリカの航空会社はサービスが悪い。
これは私がかねがね感じていることで、もちろん比較的という意味です。
ですがそう思っている人間は一定以上いるようです。
ちょうど今、空港の手荷物受取り所にて私の隣でともども途方にくれている英語/ポルトガル語バイリンガルなブラジルの彼もその一人。
予定が狂ったどころか、空港で待ち人来たらず、おそらく機上で連絡つかずの宙ぶらりん。ちょっと、いやかなり困りました。
なぜそういうことになっているか、前回の続きから順序立てて話すことにしましょう。
まだ日の出にも早いオースティン早朝。ホテルから空港行きシャトルへと乗り込み、思いのほかゲートをくぐり抜けるのに時間をロスしながら、それでもフロリダ行きの飛行機に乗り込め・・・たのも束の間、飛行機が動きません。
30分ほどでしょうか、そのまま機内で待機し、気がつけば空が明るくなってきた頃にようやく機長のアナウンスが。その内容は、
『サンダーストームで離陸できないよ、このまま5分から2時間くらい待機するよ』
というもの。
時間幅の大雑把さにはある種の感動を覚えなくもないですが、目的地のヒューストンで2時間後にフライトを待つ身としては、わりとシャレになりません。
とは言っても、私が介入できる要素は全くのゼロです。
おとなしく原稿を書いたり、持ち込んでいた小説本の消化に充てていると、ようやく飛行機がやる気を見せてくれました。
おおよそ時間いっぱいの2時間後、オースティンからヒューストンへ向けて離陸、その後はつつがなくフライトプランは進行し、2時間遅れでヒューストンに到着。
さてここからは私が介入できる部分です。
まず、降りたゲートで自分のフライトスケジュールを説明して、どうすれば良いか聞きます。
得られた答えは、
『サービスカウンターに行ってくれ』
まあ予想通りですね、しかしこれくらいで挫けるようではアメリカ人とは付き合えません。そのサービスカウンターとやらに行ってみましょう。
誰もいません。
これはなかなか予想外でした。
結局暇そうにしているスタッフを捕まえて、少し遠い場所にある別のサービスカウンターまで行き、状況を確かめてもらうと、旅程がプロテクションされていて、ゲート○○へと向かえとの指示。
それにしたがって行ってみると、
『お前を待ってたんだ、遅いよ!』
という有難いお言葉をいただけました。
まあそれでも予定より1時間遅れ程度で、目的地であるフロリダ・フォートローデルダール空港まで到着できたのですから良し。
・・・としたかったところなのですが、空港で合流予定でそのまま厄介になる予定だったベン・スタークの飛行機の状況を見てみると、赤い字で『未定』になっています。
困ってしまいました。電話をしてみても繋がらないところを考えると、私と状況は同じ、到着予定の見通しを、もしかすればと航空会社のデスクに聞いてみると、件のアメリカクオリティー。
かなり本格的に困ってしまいました。
こうなると、ベンに彼のルームメイトの電話番号を聞き忘れたのがかなり痛いです。
とりあえず他に連絡を取るアテを探すことにして、インターネットに接続することからスタートします。
不幸中の幸いか、空港は全エリアでフリーのインターネット回線があるのでとりあえず繋いでみると、同じ状態で路頭に迷っている仲間が増えたという次第です。
以上、説明終わり。
合流を果たしたパウロもそれはそれは素晴らしい応対を受けたようで、ひとしきりその話で盛り上がりますが、愚痴っていても事態は進展しないので解決策をなりません。
まずはというか、鉄板というか、一足先にベン家に到着しているはずの某チェコ人のフェイスブックの個人ページを見てみることにしましょう。
『また飲み過ぎで記憶無くして、新調したばかりのiPhoneを無くしちゃったけど、拾ってくれた人がいてオースティンでベンが受け取ってくれたって。超ハッピー。』
いろいろな意味で不思議な気分です。
今はまだ脳内のお花畑を駆けまわっている程度ですが、そのうち本当に彼岸まで駆けまわってしまうのではないかと心配になってきます。
何はともあれ見なかったことにして、次のプランについて考えていたところ、ようやくベンから連絡がありました。
『こっちの到着が深夜になるから、彼女のミッシェルに迎えを頼んどいた。そろそろ来るはず。』
空港に到着してから3時間あまり、ようやく解決しました。
この後30分程さらに待ったのですが、それとは関係なく本当に長い一日でした。
この二人、もちろんレベル8プレイヤーのパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサと、マーティン・ジュザ。
それにジュザの友人で同じ旅程を取るスターンもですが、帰りの飛行機は3月末、支給されるプロツアーでの旅券を使って、ずっとアメリカの誰かの家に滞在しつつ、ほぼ毎週開催される全米のグランプリに参加し続けるという旅程だそうです。
同じような旅程を、かつて日本で試そうとしたものの、制約と確認作業に諸々でカウンターされた身としては羨ましいかぎりです。もちろん、彼らとは語学力という決定的な差があるのですが。
アメリカ滞在用にとプリペイド携帯を購入をしているパウロを見て、次の旅程ではそういう要素を組み入れるのも面白いななんて考えてみました。
グランプリ・神戸後には、それこそ6週連続でアメリカでグランプリがありますしね。
都市 | 国 | 期日 | フォーマット |
神戸 | 日本 | 2月18~19日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
リンカーン | アメリカ | 2月18~19日 | モダン |
マドリード | スペイン | 2月25~26日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
バルティモア | アメリカ | 2月25~26日 | スタンダード |
リール | フランス | 3月3~4日 | スタンダード |
シアトル | アメリカ | 3月3~4日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
インディアナポリス | アメリカ | 3月10~11日 | レガシー |
ナッシュビル | アメリカ | 3月17~18日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
クアラルンプール | マレーシア | 3月24~25日 | スタンダード |
メキシコシティ | メキシコ | 3月24~25日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
メルボルン | オーストラリア | 3月31日~4月1日 | リミテッド(イニストラード-闇の隆盛) |
ソルトレイクシティ | アメリカ | 3月31日~4月1日 | スタンダード |
チュリン | イタリア | 3月31日~4月1日 | モダン |
と少し先のことについて考えながら、翌日からは緊張の反動からか、おもいっきりだらけていました。
昼頃まで寝て夜にはベンの運転する車で夕食に出かけ、帰りにボーリングなり、飲みに行ったりの繰り返し。
そういえば全員でベンの主戦場であるカジノまでホールデムポーカーに繰り出したりもしました。
渋るパウロを全員で簡単だからと説得しているうちに、俄然やる気になったパウロ。
ジュザあたりが「一番勝った奴が今夜の飲みは奢り!」なんて言い出して、みんなその気になり・・・
・・・なったものの、結果は全員が惨敗というひどいありさま、
私も私で、開幕僅か2ゲーム目の初手でエースのペアという最強の手札をもらったはずが、対戦相手の2のペア手が場の2のペアと併さって4カードにて撃沈。僅か5分で100ドルを失うという本当に散々でした。
彼が4カードのご祝儀で1000ドルまでもらっているのを尻目に小勝ちを数回しつつも、肝心なところで勝てないという、負ける時のお約束のような展開で、浮上の兆しが全く見えないまま時間になってしまいました。
帰りの車の中では誰がパウロを焚きつけたかというと戦犯探しが始まってましたが、結局、一番小負けだった口の立つチェコ人が一番悪いということに落ち着き、1杯だけ奢るということで決着しました。
こうやって思い返してみると、ベン家で過ごした1週間の間ほとんどマジックをしていません。
そしてそれは全くもってその通りなのです。
ほとんどこれといった手応えの無いまま、今年2回目のグランプリをオーランドで迎えることになったのです。
ところが結果は14位という予想以上のものでした。(グランプリ・オーランド カバレージページ(英語))
マジックにおける強さを考える時。
パウロやジュザ、私のような、いわゆるプロマジックプレイヤーは少なくとも平均的なプレイヤーよりは強い、というのは万人が納得してくれるだろうとは思います。
ですが平均値からどのくらい強いか、という程度の問題に落とし込もうとするとたちまち困難に突き当たってしまいます。
例えば、とあるプロは平均的プレイヤーの倍以上強い、としましょう。
これを証明するためには何をもって判断すればよいのか。
同じデッキで相手だけ毎ターン2枚ドローであったり、相手が2人の状態でマジックして勝敗の平均値を計る・・・なんてことをすれば、結果が酷い有様になっているのは考えるまでもないことですよね。
もう少し現実的な方法を考えるとすれば、同じデッキを持たせた平均的プレイヤーとプロに100戦やらせて勝率によって判断する。
確かにこれだとプレイヤー間での強弱がはっきりと解るでしょう。
ですが肝心の『2倍強い』というのはどうやって判断するのでしょうか。
勝率がプロ側からみて2対1=66%を超えればそれが2倍にあたるのか、と言われればそれはそれで違うのではないかというのは私だけではないはず。
同じように、トーナメントのスコアで優越を示すというのも『2倍』に値するものの定義ができないので難しいでしょう。
統計的な数字を出すことと、それを直接強さの指標にするというのには、その間にあるものを定義できない限りは、大きな隔たりがあると思うのです。
ですが、強さを数値化するというアプローチは非常に魅力的なのも事実。
私もよく戯れに考えることのひとつで、中でも最近気に入っているのが、
「プレイヤー間での強さの差というのは、選択肢が発生した際にできる精度の違い」
としてみる手法です。
例えば、プロプレイヤーは平均値から110パーセントで正確な判断をし続け、それがゲーム結果に累乗で影響し続けた場合、8回の分岐で200パーセント。つまり2倍に到達します。
この考えでは、強さとは数字ではなくて、機会なのです。
そしてその精度が高ければ高いほど、つまりよりプレイヤーが上手ければ上手いほど、より少ない選択肢で優越が発生します。
もちろん全てのプレイヤーが同じ、あるいは同程度のデッキを使うという前提には無理がありますし、プロ側がミスをすることもあります。
更にミスでも程度の差があり、ゲームに何も影響を与えないものから、勝敗を決定してしまうほどのものまで差があるのに、それにも関わらず全て同じ条件で扱ってしまっているという問題点もあります。
しかしゲームが進行すればするほど、複雑になればなるほどプロ側が有利になる、というのは私の実感にかなり近く、少なくとも何らかの関数を用意するよりは、だいぶ整合性がとれているように思えます。
と、なぜこんな話をしたかというと。
オーランドがこれの傍証になるような結果だったからです。
私が使用したデッキは、「ネタが無い」という理由で、ほとんど使ったことがない青白《秘密を掘り下げる者》デッキでした。
9 《島》 4 《金属海の沿岸》 4 《氷河の城砦》 3 《ムーアランドの憑依地》 -土地(20)- 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《不可視の忍び寄り》 4 《瞬唱の魔道士》 4 《大建築家》 2 《ファイレクシアの変形者》 -クリーチャー(18)- |
4 《ギタクシア派の調査》 3 《はらわた撃ち》 4 《思案》 4 《蒸気の絡みつき》 3 《マナ漏出》 4 《戦争と平和の剣》 -呪文(22)- |
2 《聖トラフトの霊》 2 《存在の破棄》 1 《神への捧げ物》 2 《否認》 1 《マナ漏出》 3 《機を見た援軍》 2 《忘却の輪》 2 《雲散霧消》 -サイドボード(15)- |
私の今回の好成績の原動力となったのは、大会中において、最もプレイ精度が結果に影響し、また使用者の多さから大量発生した、「同型対決」に全勝したことです。
標準的なデッキリストを使用した他のチャネル勢もだいたい同じようなトーナメント履歴で、同型に勝利して、負ける時は他のデッキ、というもの。
中でも私と同じく青白《秘密を掘り下げる者》デッキを触るのが初めてながら、初日全勝からそのままトップ8にまで行ってしまったパウロの言葉を借りると、
『同型対決は常に難しい勝負になるけど、一番楽だった。』
これがそのまま当てはまるように思えました。
青白《秘密を掘り下げる者》が、デッキとしての強さで頭ひとつ抜けている状態では、対策に余念がない他のデッキタイプと対決するよりも、自分の技量がほとんどそのまま勝敗に直結する同型のほうが格段にやりやすいという事情があります。
この同型対決でカード間のやり取りやキーとなる箇所は、去年のカウブレイドや、かつてのフェアリーといったアグロコントロール系のデッキの典型ともいえることで、
- 2ターン以上先のマナ効率まで考えたゲームプランの組み方
あるいは、
- ゲームテンポが重要なデッキ同士が行き着く先のアドバンテージの保持
のどちらかというゲームプランをちゃんと組めるか、そのプレイ精度の差が如実に現れるというものだったのです。
グランプリ・オーランドであまり練習時間を取っていなかったチャネル勢が活躍したのは、地力の差としか言いようのないものでした。
私としては無論、この傾向は歓迎です。
ですが、もしこのまま青白《秘密を掘り下げる者》デッキが優位が続くようであれば別の問題を生じかねません。
1つの要素が支配的になりすぎることは結果的に環境の硬直を招き、かつてのカウブレイドのように、マジックの強みである流動的な環境を脅かしかねないのです。
強者が勝ち続けてしまう環境も、マジックにはまた有害なのです。
ミラディンの傷跡ブロック+イニストラード環境では、様々なデッキが目まぐるしく登極を繰り返しましたが、直近の結果を見るかぎりではここが終着点のような気がします。
闇の隆盛入りへと環境が変わるのが、良い方向に作用するでしょうか。
次のプレミアイベント、プロツアー:闇の隆盛・ホノルルでは期待している反面、少し心配になっているというのもまた偽らざるところです。
去年のように強権を発動しなくてはならないという事態にならなければいいのですが。
そう思いつつも、一方で強いデッキを探さなければいけない身としては、解りやすく強いデッキがあればそれに越したことはないのです。
このところは、いささか二律背反的な心持ちにならざるを得ないというところですね。
今回はこのあたりで、
それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。
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