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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2011・第20回:9月、ニューヨークにて
読み物
木曜マジック・バラエティ
2011.10.06
なかしゅー世界一周2011・第20回:9月、ニューヨークにて
By 中村 修平
日本からは中島主税さんが4位入賞を果たしたプロツアーも終了し、それぞれが翌月曜日にはそれぞれの便で帰路に着いたフィラデルフィアの昼下がり。
遅めの朝食をプロツアー開催中に見つけたマーケットのサンドイッチで、というよりは肉の塊と格闘するところから私の一日は始まります。
ほとんどの日本人にとってはここまでがアメリカ行。ですが、私にとってはまだまだ折り返し地点。日本へと帰国するのは2週間後のグランプリ・モントリオールまで、私の米国滞在はもう少しだけ続くのです。
もっとも、当初は何も予定を決めずにアメリカ東海岸を思いついたままに適当に旅行しようなんて考えており、旅に不必要なマジックのカードをあらかた日本へ帰国する知人にお願いして持って帰ってもらう手はずをしてたのですが、それは同行者ができてしまい予定変更。
同じようにモントリオールまでアメリカに滞在するマーティン・ジュザと行き先を相談した結果、バスでわずか20ドルということもあり今週はニューヨークに行ってみようということになりました。
ニューヨーク、
かつて世界選手権が開催された地であり、アメリカ経済の中心地。
ここに私が行こうと決めたのには、もちろん移動費の安さや、交通の便の良さ、大きな空港が3つもあるので旅券も比較的取りやすいこともありますが、
前回、行けそうで行けなかったタイムズスクエアに行ってみたい、
後はニューヨークで(果たして本場なのかどうかはわかりませんが)ニューヨークスタイルチーズケーキを食べてみたいだの・・・
それとライフワークとなっている美術館巡り、というより好きな画家の作品があるところにはできる限り行くことにしているのですが、
ここニューヨークには世界4大美術館の1つ、メトロポリタン美術館があるのです。
と理由を1つずつ挙げてみれば相当な数が出てきますが、2つほど特別な理由がありました。今回の話はそれについてです。
その1 テニス・USオープン
これだけの頻度で海外に出かけていると、それなりに現地での大きな催し物にバッティングすることがあります。
例えば今年のイギリス王太子の結婚式。
私は行ったことがないですがアメリカ最大のゲームコンベンション、GenConではグランプリを併催するということをやっていた時期もありました。
そういえばいつぞやのシンガポールでは中国の旧暦正月を迎えてしまい、タクシー待ち渋滞で2時間待ちという悪夢を経験したりもしましたね。
スペインで台風とバッティングして会場が水没というのもありましたが、まああれも一種のバッティングといえばそうかもしれません。
ですが重なるようでいて重ならないもののがあります。
国際的なスポーツイベントです。
こういう類のものはシーズン中、ホテル代が跳ね上がることからおそらく意図的に開催日をずらしています。
それが最も分かりやすいのが自動車レースのF1グランプリ。
同じグランプリという名称で年20回程度、開催している都市もかなり似通っているのですが一度たりとも同日程でマジックのグランプリが開催されたことはありません。
確かにホテル代が高くなるというのはあまり歓迎できない事態ですし、ありがたいことなのですが、一度くらいは生で世界的なスポーツイベントを見たいというのも本音。
その世界的なスポーツイベントが、9月初旬にはニューヨークで開催されているのです。
テニスの4大大会の1つ、USオープン。
私がニューヨークに向かうことを決めた理由の1つは、テニス界の両巨塔、生ロジャー・フェデラーと生ラファエル・ナダルをその目で観戦することでした。
と意気込んでみたものの、
テニスのTV以外での観戦など初めて、チケットの取り方に至っては完全に未知の領域です。
ニューヨーク近郊のロングアイランドに居をかまえるマジックプレイヤーで、滞在先になってくれたマシューに完全に頼りっきりです。
そのマシューによると、当日のチケットは会場に行けば買えるというシステムではない上に、ダフ屋は州法で禁止されているらしいので広告代理店を通じてチケットを買うしかないようです。
その上平日の試合と夜からの試合では格段に料金が違います。
しかしこの夜のカードはフェデラー対ソンガの準々決勝。この週のアメリカ東海岸は雨の日が多く、雨天順延が続く試合日程と旅程を考えれば、テニス界のカイ・ブッディが見れる最初で最後のチャンスかもしれません。
ということで決めました。少々高い料金になりますが観戦ツアーに出発です。
スタジアムまでは電車で、まずは近くのホテルでチケットを引き換えてもらい決戦の場へ。午前の部で行われていたもう一つの準々決勝のカードが途中棄権での決着により、予想より少し早い開場です。
もぎりを通過して、スポンサーブースや記念品販売の売店が立ち並ぶ一画を通過し、スタジアムの内部へ。
ちょうど選手の入場に間に合いました。しかし流石はテニス史上最強のプレイヤーです。アメリカ人ではないのに声援の量が違います。
あまり調子が良くないとは聞いており、実際いきなりゲームブレイク、先行圧倒的優位のテニスでゲームを取られるという展開ですが、それでも気がつけばフェデラーのペースです。
先手後手が入れ替わる次のゲームをブレイクバックしてタイに戻すと、もう一度ゲームブレイク。そのままリードを守りきり1セットを奪取。
第2セットに入り、調子は尻上がりのようです。すぐさまゲームをブレイクしてここからは一方的な展開かと思われましたが、審判がグラウンドに降りて何やらコールをしています。
雨による一時中断。
すでに時刻は午後8時半、
もちろんジュザと私は待ち続けます。
午後9時過ぎ、
何時とも知れない中断に、観客の半分くらいは帰ってしまいました。
雨ということもあって気温は急激に低下しています。季節は夏だというのにジャケットを着ていても肌寒いという状況です。
午後9時半。
ようやくコートに動きがありました。何やらコート隅で偉そうな人達が話し合っています。
午後9時40分、ついに再開です。
結局午後11時過ぎまで、試合を堪能することができたのでした。
翌日はテニス界のジョン・フィンケル。ラファエル・ナダルの観戦です。
この日のナダル、というよりここまでのナダルは別次元の強さを見せていて圧倒的なパフォーマンス。
対戦相手のロデックもかつてのUSオープンチャンピオンであり、アメリカ人であることから大声援があったのですが、ゲーム後半になるとゲームをキープしただけで拍手が送られるくらいのありさま。まさに完勝という内容でした。
昨夜とはうってかわっての炎天下。気温が高いのはもちろんですが日差しが非常に厳しいです。
それにも関わらずついつい観戦に熱が入ってしまい、翌日からは日焼けで酷いありさまになってしまいました。
ですが高い木戸銭を払って生で見る価値は十二分にありました。
その2 9・11、マンハッタン
ニューヨークに行くことにした理由は数あれど、
最も大きな要因はこの日曜日、9月11日をここで迎えたいからでした。
ちょうど10年前の2001年9月11日の午前8時46分。
当時、ニューヨークのランドマークの1つでもあった世界貿易センタービルに、ハイジャックされた2機の飛行機が突っ込みました。
世界を変えてしまった日です。
ご存知のように、この10年でありとあらゆるものが姿を変えました。
色々な偶然に支えられている私の生活も、実はこの事件がなければできなかったでしょう。
事件後に訪れた極度の航空機需要の冷え込みから航空会社が次々と倒産するという事態になり、その副産物として航空券の価格の自由化、低価格化が進んだからです。
一方でまた、こういう言い方もできます。
空港というエリアにおいて、テロからの警戒が日常となってしまったという世界しか、私は知りません。入出国時に厳密なチェックが入り、手荷物に液体物は持ち込めず、自動小銃を構えた兵士を至るところで見かける・・・
ちょうどインターネットで世界とつながっていなかった頃を想像するしかない今の子供のように、私は変わってしまった世界の方しか知らない、それより前の頃を、想像でしか語ることができない9・11後の世代です。
10年前の午後10時あたりに、ブラウン管から眺めていた光景をこの目で見たい。
式典の会場になっているグラウンド・ゼロ。世界貿易センタービル跡地までにはニューヨーク市警による3度もの検問があり、それを通過したところまで、1ブロック前までが一般参加者が到達できるラインでした。
進入禁止ラインをなぞるようにして移動した先で教会を見つけ、裏手の墓地から特設モニターと建設工事が進む新世界貿易センタービルを眺めていました。
そう、ただ眺めていたのです。
式典は粛々と進み、いつ終わるとも知れない犠牲者の名前を読み上げる次第に入っています。
不思議なほど何も去来しないのです。
犠牲者を悼む気持ちがないわけではありません、ですがそれは実際に式に参列している犠牲者の家族と比べることすら礼に欠く程度のものでしょう。
それは左手で何かについてシュプレヒコールを上げている一団が考えていることとも、もっと大多数のこの場にいるアメリカ人とも、あるいは外国人観光客と比べてもそうなのかもしれません。
この場にいる大多数の人は多かれ少なかれ、何らかの共有認識を持ってこの場に立っています。
それは哀しみであったり、抗議であったり、願いであったり、はたまた愛国心であったりと、10年前の出来事ではなく、そこから起因する何かを持ってこの場にいます。
ですが私にとってそれは最も希薄な一部分でしかありません。
この場に来たいがためだけに、この場にいるのです。
自ら選んだといえ、目の前で見せつけられているものに対して痛痒を感じない程には無神経でもない、感傷と疎外感、それと羨望を感じながら帰路に着くことにしました。
時間にすれば、わずか1時間ほどです。
これが初めてという訳ではありませんし、これから先も幾度となく体験するのでしょうが、それでも私はこの1時間の自身の感情の変遷を忘れることはできないでしょう。
それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。
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