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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2011・第19回:Inside the CFB
読み物
木曜マジック・バラエティ
2011.09.22
なかしゅー世界一周2011・第19回:Inside the CFB
By 中村 修平
このところ隔週化の影響もあって、当連載でマジックの話をしていなかったので、久々にマジックオンリーの話にしようと思います。
具体的にはプロツアー・フィラデルフィアでのチャネルファイアーボール勢が、そして私が持ち込んだデッキについてですね。
1 《森》 1 《平地》 1 《ドライアドの東屋》 1 《寺院の庭》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《繁殖池》 1 《聖なる鋳造所》 1 《神聖なる泉》 1 《蒸気孔》 1 《地平線の梢》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 2 《湿地の干潟》 1 《沸騰する小湖》 1 《地盤の際》 -土地(22)- 4 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《タルモゴイフ》 1 《ガドック・ティーグ》 1 《クァーサルの群れ魔道士》 4 《聖遺の騎士》 -クリーチャー(18)- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 3 《稲妻のらせん》 3 《バントの魔除け》 4 《緑の太陽の頂点》 2 《遍歴の騎士、エルズペス》 -呪文(20)- |
3 《エイヴンの思考検閲者》 3 《瞬間凍結》 2 《統一された意思》 2 《法の定め》 1 《精神壊しの罠》 1 《袖の下》 2 《ギデオン・ジュラ》 1 《地盤の際》 -サイドボード(15)- |
最終的にジョシュ・ウッター=レイトンを決勝まで導き、後一歩というところまで漕ぎつけただけではなく。デッキの出来としても珠玉の出来だったのですが、そのデッキに到るまでには紆余曲折、というか散々だったのです。
大会前日のチャネルメンバーの顔色の悪さぶりは、それこそ近年でもっとも青かったんじゃないでしょうか。状況はピッツバーグが終了してからプロツアーまで残り3日と迫ったフィラデルフィアからです。
パスポートをあわやのところで回収し、フィラデルフィアへと到着したのは良かったですが、私たちには重大な問題がありました。
プロツアーに向けてのデッキが決まらないのです。
至高のデッキを求めて山奥の山荘、チャネルファイアーボール虎の穴へと向かった訳ですが、そこでの生活を簡単に表現すると、
昼前に起きる、
誰彼ともなくマジックをする。
ドラフトをする。
ご飯を食べる。
それ以外はマジックオンラインをする。
何処かで見たような生活。
というより日本でやっていることとあまり変わりがありません。いや、むしろ日本での調整風景と全く同じものがそこにあります。
しかも、どちらかというと「調整が行き詰まっている時のどうしようもない状態」になっていたのです。
そこらかしこでコウブレイドを持ち込んだプロツアー・パリの時は楽だったな、というため息が聞こえてきます。
どんなグループでも駄目な時は駄目なものなのですね。完璧超人なぞこの世には本当の本当に極稀にしかいないもの。
良い時も悪い時も地道に作業をこなしていくしかないのです。
数々のネットデッキを試しては解体を繰り返す日々。
何度も新しいデッキを持ち出しては12ポストの前に敗れ去るか、対策カードさえなければというデッキタイプ、メインボードのみなら最強の、そしてサイドボード後を考えると悲惨の一言につきる《紅蓮術士の刈り痕》ストームがその猛威を奮って当落線上で浮き沈みを繰り返しするというのを繰り返していました。
そんな状態の山荘からフィラデルフィアに移動しても状況はあまり変わりませんでした。
ですがそこに一見すると刈り痕ストームと同じようなタイプのデッキが加わります。
ルイスとジョシュが仕入れてきた青黒毒殺デッキは、《荒廃の工作員》と《疫病のとげ刺し》、そして《墨蛾の生息地》に《猛火の群れ》で《刈り取りの王》を投げつけて一撃必殺というもの。
そもそものスピードで最速2ターンと他のあらゆるコンボデッキより早く、コントロール系のデッキには《否定の契約》などでのバックアップもあるのでやはり有利が付くというデッキです。
別ルートでチェコ勢とジュザも青黒よりも更に高速で後先を考えない青黒「8契約」型の黒緑バージョンを仕入れてきており、チェコ勢はこのデッキに絞りこんだようです。
《大霊堂の戦利品》で特定のカードを持ってきて、ライフ損失負けにならない確率の計算式を持ち出してきてるあたり完全に殺る気です。
ですがその最速バージョンにしても、ビートダウンに致命的に弱いという欠点は隠せませんでした。
とにかく毒クリーチャーが貧弱なのが問題で、相手メインフェイズの《稲妻》でほぼ完全にシャットアウトされてしまうのです。
対親和に至っては、普段はマナ加速的な意味合いでしかない《羽ばたき飛行機械》を中々超えられないという始末。
なによりも「こんな不安定でリスキーなデッキを使うべきじゃない」というパウロと、ギラついちゃってるジュザの間で大論争に発展し、収拾ができなくなっている状態にまでいってしまいました。
議論の後半にまでなるともはや感情論以外の何者でもなくなったりしてましたね。
まあ、そんな人間味的には面白い再発見も、週末のデッキを考えるという点では最悪な状態、対策しなくてはいけないデッキがひとつ余計に増えただけで、決して使いたいデッキがあるということにはならないのです。本当によくある末期症状の一幕。
ですが、個人的には希望が無くもない状況だったのです。
チャネル合宿の参加者の一人、ブライアン・キブラーが持ち込んできた、緑白赤に青を加えたビートダウンデッキ、通称Zooです。
旧エクステンデッドでは長らく頂上に位置していてたデッキですが、ラヴニカブロックの二重土地、ショックランドがローテーション落ちしてしまったために大幅に弱体化してしまい、近年では見かけなくなったなっていたアーキタイプです。
ところがモダン構築ではショックランドが再び使えるようになったばかりではなく、新たに《緑の太陽の頂点》という強力な追加戦力を得ることになりました。
《緑の太陽の頂点》は、特定の相手に対して非常に有効なものの、複数枚引いてしまうとデッキの足かせになってしまう《ガドック・ティーグ》《クァーサルの群れ魔道士》というカードたちを1枚差しにすることを可能にし、中盤以降に《タルモゴイフ》《聖遺の騎士》といった主戦力を持ってくることもできます。
そればかりかX=0で打つことで、1ターン目から《ドライアドの東屋》を擬似《ラノワールのエルフ》として出し、マナ加速カードとして使用することもできるのです。
そして頂点自身が唱えた後にライブラリーに戻るというのも大きなメリットです。
ただでさえZooデッキはゼンディカーのフェッチランドを多用する為、ライブラリーの総土地枚数が圧縮されていくのですが、主戦力となる《聖遺の騎士》の土地を探してくる能力によって、わずか2~3ターンの間にライブラリー内の土地はほとんどなくなってしまい、次の頂点を引く確率は飛躍的に高まります。
《緑の太陽の頂点》のお陰でクリーチャー切れとマナの心配が少なくなり、その分除去と決め手のカードを投入できる。その結果、最速で対戦相手のライフを削りにいくタイプのZooや親和に対して、相当有利に戦いを進めることができるのです。
さらに特筆すべきはサイドボードです。
まだこの段階では8枚しか決まっていなかったのですが、その構成が
という、サイド後は実質的に「ナカティルを設置して後は全部カウンターする」というクロックパーミッションデッキとして機能するのです。
ビートダウンデッキとしても優秀で、サイド後は相手によって戦い方を変化させる。
奇襲性に富んでいますし、対戦相手から見て対処に非常に困る。
少し時間を遡りますが、赤ちゃんの泣き声がドルビーサラウンドで迫ってくるバスの車内で現実逃避気味に考えれば考えるほど、理に適っている構成です。
フィラデルフィアに到着する頃には、それまで混沌としていたデッキ選択に、ついに選びうる候補ができたことに喜んでいました。
ですがこの時点ではあくまで候補。無条件で使用するということではなく、セカンドベスト、次善のデッキという位置付けでした。
これは私だけではなく、最終的にZooを使用したチャネルメンバーも全員同じような考えでした。
私はかなり決断が早く、キブラーとブラッド・ネルソンの次くらい、火曜日の夜あたりでこのデッキを使うことに決めていましたが、それこそ大部分のメンバーは大会前日の木曜日夜になっての決断だったのです。
理由は明白で、メインボード戦で不利な相手が多いということ。
メイン戦は最強の《紅蓮術士の刈り痕》ストームはもとより、大会で最大勢力と目されるコントロール系で最強の12ポストに対しても著しく不利な勝負になってしまいます。
もちろんサイドボードでの調整の結果、テストプレイで五分五分以上、対戦相手が不慣れになることを考えると充分に勝てるという相性差にすることはできましたが、その代償として実に対12ポスト用に12枚ものサイドボードを投入しています。
これだけのサイドボードを取っても1本目はほぼ負けてしまうので、2本目、3本目をマリガンしてしまうと厳しい勝負になる。また他のデッキに対してのサイドボードが薄くならざるを得ない。
付け加えるなら12ポストは環境のおそらく一番人気である。
このあたりはどれかを対処しようとすると、どれかに対してガードを下げざる終えないというループ状態になってしまって、デッキを使う上での不安要素を挙げていくとキリがありません。
地力はある。コンセプトの優秀さは誰もが認めるところ。
ですがこれもまた一種のギャンブルではないか。
大会前夜に、ルイスが私に自嘲混じりに言った、
『Zooを使わざるを得ない』
が、今回のチャネル勢の内側から見た正直な感想だったのです。
ところが蓋を開けてみれば、それは杞憂でした。
第二勢力だった《欠片の双子》コンボデッキを想定していなかったという、一歩間違えれば致命的にもなりかねない見落としがいきなりありつつも、私たちが持ち込んだキブラー式Zoo、本人が命名した「カウンターキャット」は会場で一番強いデッキだったのです。
12ポストに有利、双子にも有利、Zoo同系に対しても有利と、上位3強はおろか、ほとんどのデッキに互角以上の戦いを展開できるものでした。
私の構築ラウンドでの成績は3勝2敗、3勝1敗1分。ドラフトが2勝1敗、2勝1敗の合計10勝5敗1分けというものでしたが、
今回ほど、2連続土地事故でマッチごと落としてしまった構築ラウンドとドラフトラウンドでの2敗を悔やんだことはありません。
大会が終わって、各マッチを思い返してみれば、今回はかなりトップ8に近かったプロツアーなのです。
もし使ったデッキを今からやり直せるにしても、私はこのデッキを、最終的に他のチャネル勢よりも対コンボにカードを割いていた、自分ののバージョンを使うでしょう。
もちろん、もし「今日」にもう一度プロツアー・フィラデルフィアがあるなら、それはそれで少し構造を変えているでしょうけどね。
それではまた次回、久々にマジック的な内容だったので次は観光話になると思います。
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