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戦略記事

渡辺雄也の「リミテッドのススメ」

第22回:LSV & Kaddy

読み物

渡辺雄也の「リミテッドのススメ」

2011.06.20

第22回:LSV & Kaddy


 こんにちは。渡辺です。

 今回は先週と同じく、プロツアー・名古屋の決勝ドラフトについて書こうと思います。


 本題に入る前に、突然ですが、皆さんは名古屋のTOP8のデッキリストを全てご覧になりましたか?

 リミテッドのデッキリストはその日のその時にしか使わないものなので、構築戦のデッキリストのように後から見返して得られる情報はほとんどありません。
 せいぜいそのイベントのカバレッジを楽しむための追加要素程度の存在です。
 特に結果が出てから見る分には、優勝者のデッキくらいしか見ないという方も多いんじゃないでしょうか。

 基本的には一番強いデッキが優勝するのがほとんどですし、実際に先週取り上げた優勝者・David Sharfmanのデッキはかなり強いものでした。
 しかし、今回のプロツアー・名古屋のTOP8のデッキの中で最強のデッキがSharfmanのデッキであったかと問われれば、それには「否」と答えます。

Luis Scott-Vargas 角岡 利幸
Luis Scott-Vargas 角岡 利幸

 個人的にTOP8のデッキの中で一番デッキが強いと感じたのは「アメリカ最強の男」Luis Scott-Vargasのデッキ。
 それに次いで日本の新鋭・角岡利幸のデッキ。
 8人全員のデッキリストを見たとき、この二つのデッキが他のデッキと比べ頭一つ抜けているという印象を受けました。

 デッキの強さ的にこの二人が決勝まで勝ち上がってきてもおかしくないレベルのデッキパワーなのですが、運命の悪戯か、はたまた周りとの協調の結果なのか、この二つのデッキが準々決勝で相見えることになりました。

 観戦者の間で「事実上の決勝戦」と囁かれたマッチアップ。
 今回はこの対決を実現した、二人のドラフティングを追ってみようと思います。

 今回は細かくピックを分析するわけではないので、詳しいピックが見たい方はドラフトビュアーをご参照ください。


1stパック・新たなるファイレクシア

ルイス

1 《髄掘り
2 《囁く死霊
3 《盲目の盲信者
4 《不気味な苦悩
5 《強制された崇拝
6 《金切り声の猛禽
7 《黒死病の魂喰い
8 《ファイレクシアの愛撫
9 《変異原性の成長
10 《ヴィリジアンの背信者
11 《血吸いの噛み付き
12 《防御姿勢
13 《邪悪の気配
14 《屑鉄場の斉射


角岡

1 《ファイレクシアの摂取者
2 《グリッサの嘲笑
3 《グリッサの嘲笑
4 《納墓の総督
5 《突き刺しモズ
6 《呪文滑り
7 《生命の接合者
8 《盲目の盲信者
9 《鞭打ち炎
10 《黒死病の魂喰い
11 《屑鉄場の斉射
12 《毒の屍賊
13 《金屑の悪鬼
14 《邪悪の気配

 ルイスの初手は《髄掘り》とまぁまぁ。
 角岡君の初手は《ファイレクシアの摂取者》と文句なし。
 この時点で角岡一歩リード。

 その後ルイスは2手目の《囁く死霊》から感染路線へ一直線。

 対する角岡君は純粋なパワーピックをしています。6手目《呪文滑り》7手目《生命の接合者》といった、本来ではありえないような巡目で強力カードを手に入れていますね。
 またルイスが3手目で取った《盲目の盲信者》、7手目で取った《黒死病の魂喰い》を、角岡君はそれぞれ8手目と10手目で確保できています。

 カードのクオリティ等の面を考えても、1パック目の段階では角岡君優勢と言った感じですね。
 というか角岡君カード取れすぎ(笑)。


2ndパック・ミラディン包囲戦

ルイス

1 《病気の拡散
2 《疫病のマイア
3 《不純の焼き払い
4 《ファイレクシアの十字軍
5 《太陽の宝球
6 《ファイレクシアの巨大戦車
7 《腐敗狼
8 《ファイレクシアの巨大戦車
9 《ファイレクシアのハイドラ
10 《圧壊
11 《陰惨な再演
12 《コスの急使
13 《ファイレクシア化
14 《大あわての回収


角岡

1 《飛行機械の組立工
2 《病的な略取
3 《ヴィダルケンの解剖学者
4 《ヴィリジアンの密使
5 《ヴィリジアンの密使
6 《宝物の魔道士
7 《鋼の妨害
8 《ピスタスの一撃
9 《ロクソドンの非正規兵
10 《ダークスティールの板金鎧
11 《カルドーサの首謀者
12 《ヴィダルケンの注入者
13 《剃刀ヶ原のサイ
14 《らせんの決闘者

 2パック目の各々のファーストピックは、
 ルイスが《病気の拡散
 角岡君が《飛行機械の組立工
 とまたもルイスがコモンに対して、角岡君は爆弾レア。

 これが勢いなのかと思うようなレア引きですが、この包囲戦ではルイスが怒涛の追い上げを見せます。

 1~3手目まではあまり奮わなかったルイスですが、4手目の《ファイレクシアの十字軍》を皮切りに、2枚の《ファイレクシアの巨大戦車》。感染のエースクリーチャー《腐敗狼》、さらに1周してきた自分のパックには《ファイレクシアのハイドラ》の姿が!
 正に感染フィーバー。感染をプレイしてるプレイヤーが卓に少なかったとはいえ、この流れははっきり異常といえます。

 角岡君も万能タッパー《ヴィダルケンの解剖学者》や《飛行機械の組立工》のサーチ要員として《宝物の魔道士》等を取ってデッキの完成度を上げていますが、ルイスがこの包囲戦で得たものに比べるとやはり見劣りしてしまいますね。

 2パック目の包囲戦はルイス優勢。新たなるファイレクシアでのビハインドを取り返してきました。
 では注目の3パック目、各々にとってデッキを仕上げるための最後のパックを見てみましょう。


3rdパック・ミラディンの傷跡

ルイス

1 《オキシダの屑鉄溶かし
2 《疫病のとげ刺し
3 《絡み森の鮟鱇
4 《きらめく鷹の偶像
5 《憤怒の三角護符
6 《精神隷属器
7 《苦行主義
8 《屍気の香炉
9 《疫病のとげ刺し
10 《飛行の呪文爆弾
11 《水膨れ地掘り
12 《突撃の鈍化
13 《飛行の呪文爆弾
14 《回収の斥候


角岡

1 《嚢胞抱え
2 《堕落の三角護符
3 《真っ二つ
4 《闇の掌握
5 《漸増爆弾
6 《ニューロックの模造品
7 《刃の翼
8 《分散
9 《マイアの貯蔵庫
10 《剃刀ヶ原の打つもの
11 《エズーリの射手
12 《オーガの装具奪い
13 《着実な進歩
14 《着実な進歩

 3パック目の各々の初手は、
 ルイスが《オキシダの屑鉄溶かし》、
 角岡が《嚢胞抱え》。

 遂にレアではないカードをファーストピックした角岡。パックが噛みあわず初手ではあまり取りたくない《嚢胞抱え》を泣く泣くピック。
 一方ルイスはデッキのベースは黒緑ですが、2パック目で《太陽の宝球》と《不純の焼き払い》を取っていて3色目の受けもばっちりの状態だったので、文句なく《オキシダの屑鉄溶かし》を。

 その後はお互いにデッキに足りない部分を補ってゆくピックを進めます。

 ルイスは感染生物やゲームスピードを上げる《憤怒の三角護符》等を確保。

 角岡君は初手こそ奮わなかったものの、その後に《堕落の三角護符》《真っ二つ》《闇の掌握》と取ってデッキを大幅に強化。

 お互いに取れた枚数は多くないものの、デッキに必要な部分を確保できていますね。
 3パック目の傷跡は判定で引き分け。

 では各々の作り上げたデッキを見てみましょう。

Luis Scott-Vargas
プロツアー・名古屋2011 Top8 / ミラディンの傷跡ブロック・ブースタードラフト[MO] [ARENA]
8 《
7 《
2 《

-土地(17)-

1 《疫病のマイア
2 《疫病のとげ刺し
1 《ファイレクシアの十字軍
1 《囁く死霊
1 《盲目の盲信者
1 《腐敗狼
1 《ヴィリジアンの背信者
1 《絡み森の鮟鱇
1 《オキシダの屑鉄溶かし
1 《髄掘り
1 《黒死病の魂喰い
1 《ファイレクシアのハイドラ
2 《ファイレクシアの巨大戦車

-クリーチャー(15)-
1 《変異原性の成長
1 《憤怒の三角護符
1 《血吸いの噛み付き
1 《不純の焼き払い
1 《太陽の宝球
1 《不気味な苦悩
1 《病気の拡散
1 《ファイレクシアの愛撫

-呪文(8)-
1 《苦行主義
1 《水膨れ地掘り
1 《突撃の鈍化
1 《圧壊
1 《防御姿勢
1 《邪悪の気配
2 《飛行の呪文爆弾
1 《強制された崇拝
1 《大あわての回収
1 《きらめく鷹の偶像
1 《陰惨な再演
1 《コスの急使
1 《精神隷属器
1 《屍気の香炉
1 《ファイレクシア化
1 《回収の斥候
1 《屑鉄場の斉射
1 《金切り声の猛禽

-サイドボード(19)-


 ルイスのデッキは黒緑タッチ赤の感染デッキ。
 入っているカードがどれも強く、非の打ちどころのないようなデッキに見えますが、一応不満点を挙げるとするなら《ファイレクシアの十字軍》や《ファイレクシアのハイドラ》のようなメインカラーのダブルシンボルがそれなりあるのにデッキが3色という点。
 《太陽の宝球》を引ければ問題なさそうですが、引かなかった時は色マナに苦労しそうです。

 それ以外はほぼ文句のつけどころのないデッキに仕上がっていて、流石アメリカ最強の男と言ったところですね。

角岡 利幸
プロツアー・名古屋2011 Top8 / ミラディンの傷跡ブロック・ブースタードラフト[MO] [ARENA]
8 《
7 《
3 《

-土地(18)-

1 《エズーリの射手
1 《呪文滑り
2 《ヴィリジアンの密使
1 《ニューロックの模造品
1 《嚢胞抱え
1 《盲目の盲信者
1 《宝物の魔道士
1 《生命の接合者
1 《納墓の総督
1 《ヴィダルケンの注入者
1 《黒死病の魂喰い
1 《飛行機械の組立工
1 《剃刀ヶ原の打つもの
1 《ファイレクシアの摂取者

-クリーチャー(15)-
1 《漸増爆弾
1 《堕落の三角護符
2 《グリッサの嘲笑
1 《闇の掌握
1 《病的な略取
1 《真っ二つ

-呪文(7)-
1 《刃の翼
1 《ダークスティールの板金鎧
1 《分散
1 《邪悪の気配
1 《突き刺しモズ
1 《カルドーサの首謀者
1 《ロクソドンの非正規兵
1 《マイアの貯蔵庫
1 《オーガの装具奪い
1 《ピスタスの一撃
1 《剃刀ヶ原のサイ
1 《屑鉄場の斉射
1 《金屑の悪鬼
1 《らせんの決闘者
2 《着実な進歩
1 《鋼の妨害
1 《毒の屍賊
1 《ヴィダルケンの解剖学者
1 《鞭打ち炎

-サイドボード(20)-


 角岡君のデッキもルイスと同じく3色ですが、ルイスのような感染というアーキタイプではなく、カードパワー重視のグッドスタッフといった感じの構成になっています。
 《ファイレクシアの摂取者》と《飛行機械の組立工》とい2大レアと、《飛行機械の組立工》をサーチできる《宝物の魔道士》に加え、それらを相手の除去から守る《呪文滑り》と豊富なパーツを擁しています。

 3色というマナ面での不安も、土地18枚と2枚の《ヴィリジアンの密使》でマナ体制は万全と言ってよいでしょう。

 ところどころメインで見かけるちょっと臭いパーツもありますが、どれもちゃんと役割があって、《エズーリの射手》は飛行が全く止まらないこのデッキの飛行に対する回答。《剃刀ヶ原の打つもの》は《宝物の魔道士》での「種切れ」防止用として入っています。
 これらの微妙なカード群を上手く使えている辺り、本人の高いリミテッドスキルを感じさせますね。

 サイドに《ヴィダルケンの解剖学者》が落ちているのですが、これはデッキリスト提出の際《ヴィダルケンの注入者》と間違って記入してしまってサイドボードに落ちてしまったという経緯らしいです。
 初めてのプロツアーサンデーということでちょっと緊張してしまったのでしょうが、これはちょっともったいなかったですね。


デッキの相性

 さて、見事にドラフトを終えた二人が相見えた準々決勝

Match

 観戦記事を追っている方ならお存知の通り、日本の若武者がアメリカの英雄を下すという快挙を成し遂げました。

 ただこの結果を僕はフロックではないと思っています。
 角岡君本人の力量も当然ありますが、それに加え角岡君とルイスのデッキに相性差があったと感じたのが私見です。

 ルイスのデッキは感染クリーチャー達をサポートして戦ってゆく戦法ですが、角岡君のデッキのエースクリーチャーである《飛行機械の組立工》が機能してしまえば、その戦法はほぼ達成できません。
 角岡君のデッキは《飛行機械の組立工》をサーチできる《宝物の魔道士》もあるので、概ね《飛行機械の組立工》が出てくるようなゲームになるでしょう。

 ルイスのデッキは除去カード自体は豊富ですが、《飛行機械の組立工》に対処できるカードは《オキシダの屑鉄溶かし》と《病気の拡散》の2枚だけ。
 更に角岡陣営にはその2種類の除去から《飛行機械の組立工》を守れる《呪文滑り》があるのです。
 これはルイスにとっては悪夢そのものですね。

 ゲームが長引いては勝機のないルイスは《疫病のとげ刺し》や《囁く死霊》などの航空戦力で早期決着を狙うべきなのですが、そのプランも角岡君の《エズーリの射手》と《堕落の三角護符》が阻みます。

 どのプランでも厳しいルイス。
 デッキのパワー自体はルイスの方が上なのですが、角岡君のデッキがルイスのデッキに強い構成になっています。
 お互いのデッキの強さが拮抗している時はこういった細かな構成で差が出てきますね。


 ちなみに順当に決勝まで上がった角岡君ですが、決勝では先週も紹介したアメリカのSharfmanに敗れています。

 私的にですが、このマッチはSharfmanが有利に感じられます。

 角岡君の一番の攻め手である《飛行機械の組立工》に対して、《呪文滑り》が出ていても対処できる《鋼の妨害》と《核への投入》を擁しており、《呪文滑り》が無い時なら更に《粉砕》《オキシダの屑鉄溶かし》《金屑化》と豊富な除去手段をデッキの中に持っています。

 またSharfmanはサイド後からは《コスの急使》が2枚になり、角岡君のデッキは《コスの急使》に非常に対処し辛い構成になっています。
 何とか相手の構成を捌いて後半までゲームを進めても、Sharfmanも《ファイレクシアの摂取者》《カルドーサの炎魔》と持っているので後半戦も問題なく戦ってくるでしょう。

 以上の点を総合的に判断して、角岡-Sharfmanのマッチアップは角岡君が不利なマッチアップと言えるでしょう。


 リミテッドのデッキ相性という要素は、構築ほど顕著ではありませんが、それでも確かに存在します。
 そういったデッキ相性というものを作るのは、それぞれのピックと環境理解です。

 今回のように《コスの急使》を確保しておいて決勝での相性差を作ったSharfman然り、ルイスのプランを完全に打ち砕いた角岡君の《エズーリの射手》然り。
 強いカードはただ普通に使って強いですが、このような普段では使わないようなカードを駆使してマッチアップの相性を少しでも有利にすることが、今回の結果で如何に大事なことかが分かりますね。


 弱いカードを如何にして上手く使うか。
 リミテッドにおいてこれほど難しく、これほど重要で、これほど楽しいことは他にありません。
 どんなカードでも工夫して使えば、可能性があるのです。
 中には上で挙げたように、マッチの勝敗に関わってくる場合もあります。

 ピックした42枚の中からデッキを組むのはあなた次第。
 そこから作る40枚のデッキにきちんと意味を持たせてドラフトすることを心がけましょう。

 では今回はこの辺で。また来週お会いしましょう。


2011年日本選手権予選

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