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木曜マジック・バラエティ
三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第3回:欧州からの手紙 ジュザ&マリーン
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木曜マジック・バラエティ
2011.03.31
三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第3回:欧州からの手紙 ジュザ&マリーン
By 三田村 和弥
始めに、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震で被災された方へ心からお見舞い申し上げます。
自分が住む千葉では、揺れがひどかったと言う程度で大した被害を受けずに済みましたが、報道で地震、特に津波での被害状況を見せられるとその惨状に言葉を失う以外にできることがありませんでした。
被災した地域ではあれから3週間たった現在も不自由な生活を強いられていることかと思いますが、復興に向けて立ち上がろうとしている姿を見ると自分にも何かできることはないのかと考えさせられます。
周知の通り、翌週(3月19~20日)に開催される予定だったグランプリ・神戸は4月23~24日に延期されました。
プロツアーやグランプリの転戦・コラムの執筆など、プロのマジックプレイヤーとして活動させていただいてる身として、できることは何かと考えた結果、今回のグランプリ・神戸で獲得した自分の賞金を全額被災地へ義援金として寄付しようと思います。プロスポーツ選手ができる額とはそれこそ桁違いではありますが、少しでも手助けになればと思い決めました。
奇しくも阪神・淡路大震災の被災地神戸でのグランプリと言うこともあり、ウィザーズ社には賞金の全額を被災地に寄付するチャリティーマッチとしてこのグランプリを開催してもらいたい所ですが、そうもいかないでしょうからせめて私の考えに賛同してくれた方が同調してくれればと思います。自分の獲得賞金が0では意味がないですから、少しでも多くの参加者に広まってくれればと思います。
それではいつものスーパースター列伝に戻りましょう。
スーパースター列伝では直近のトーナメントで活躍したプレイヤーをなるべく取り上げて紹介していこうと思い人選を行っているのですが、グランプリ・神戸が延期された関係上、プロツアー・パリ以降では大きなトーナメントが開催されませんでした。
フランスが誇る、ギヨーム・マティニョン/Guillaume Matignonとギヨーム・ワフォ=タパ/Guillaume Wafo-tapaのチーム・ギヨームも参戦する予定であると聞いていたので、ここはワフォ=タパに頑張ってもらい彼を取り上げようなどと言う青写真を描いていましたが、またの機会にということになってしまいました。
彼ほどの実力なら放っておいてもまた取り上げる機会がすぐ訪れるでしょう。彼のファンの方は少々お待ちを。
ご存知の通り、マジック:ザ・ギャザリングはインターナショナルなゲームです。
10年20年前に比べ、野球のメジャーリーグや欧州各国のサッカーリーグで活躍する日本人選手も増え、また、インターネットが格段に普及したということもあり、日本人から見て欧米はより身近なものとなってきたという実感があります。
それは、欧米人から見ても同じなようで、日本の文化や日本料理などに人気が集まっていると言う論調を見ることも多いことでしょう。特にマジックの世界ではプロツアーに参戦・活躍してる日本人の数が多いということもあり、日本勢は一大勢力を築いています。
そうなると交流も多くなってくるわけで、今回の震災でも報道を見て、すぐに筆者の安否の確認をしてくれた二人のヨーロッパ人がいました。そのときに送られてきたメールを原文ままで紹介しましょう。
are you ok ?! this is so sad :(
(大丈夫ですか?!これはすごい悲しいことだよ。)
Hello Chief-san,
I heard about the big earthquake on the news. Everything ok there?
Regards,
Marijn
(こんにちは、チーフさん。大きな地震があったことをニュースで聞きました。そちらはなんともないですか?
それでは、マリーンより。)
一つ目はチェコのマーティン・ジュザ/Martin Juzaから。二つ目はベルギーのマリーン・リバート/Marijn Lybaert。もちろん二人だけが日本の心配をしてくれたというわけではありませんが、いち早く連絡をしてくれたのがこの二人でした。そんな二人の心優しきヨーロッパ人を、今回はスーパースターとして紹介しようと思います。
マーティン・ジュザ/Martin Juza
主な戦績:
- プロツアー・ベルリン2008 ベスト8
- プロツアー・オースティン2009 ベスト8
- チェコ選手権2005 優勝
- チェコ選手権2006 優勝
- グランプリ・ポートランド2010 優勝
- グランプリ・ボーフム2010 優勝
ジュザはチェコのプレイヤーです。チェコと言うとフランス・ドイツ等西欧諸国と比べるといまいちピンとこない方が多いでしょう。
ヤクブ・スレマー/Jakub Slemr |
逆にマジックのオールドファンからすると世界選手権1997優勝等、90年代後半から2000年代前半に活躍したヤクブ・スレマー/Jakub Slemrを思い出すのかもしれません。話の筋とは関係ありませんが、1997年当時にヤクブが使った5CB(黒中心の五色デッキ)を今見返すと当時のカード水準に関してノスタルジックな気持ちになります。
ヤクブが活躍していた当時にチェコ勢がプロツアーを席巻していたかと言うとそうでもなく、彼の次にプロツアーで活躍するチェコ人が現れるのは、ジュザのプロツアー・ベルリントップ8まで待たねばなりませんでした。マジック黎明期といっていい時期に、ヤクブのような類稀なタレントが出現したというのは突然変異だったのかもしれず、タレント出現に空白の時期が生じてしまうのは、人口1000万人ほどの小国では仕方のないことかもしれません。
前述の通り、ジュザがプロマジックシーンでブレイクを果たしたのはプロツアー・ベルリン2008でのことでした。とはいえ初めてのプロツアー参加でトップ8入りというシンデレラストーリーを演じたと言うわけではなく、それまでにチェコ選手権を2連覇した実績もあり、またプロツアー・ベルリンの前2回のプロツアーでそれぞれ10位、19位と頭角を現し始めていたので、もういつ結果を残してもおかしくないという段階にいたのも確かです。
その後も翌年2009シーズンは2度のグランプリ準優勝に加え、プロツアー・オースティンでベスト8、さらに2010シーズンにはグランプリ2勝と全く調子を崩さずに勝ち続けています。個人的には世界最高のプレイヤーであると思っているルイス・スコット=バルガス/Luis Scott Vargasですら昨シーズンは届かなかった、プロプレイヤーとしては最高のステータスであるレベル8の座も2年連続で射止め、その実力に疑いの目を向ける者はもはやいないと言えるでしょう。
小国チェコ出身のジュザが世界有数のプレイヤーにまで上り詰めた、そのバックボーンが一体何なのかの分析を行ってみましょう。同国の先輩ヤクブの場合、突然変異だったとしましたが、これは正直世代がずれていて、というか古くてよく知らんと言うのが本当のところです。
それに対しジュザの場合、彼の成功の理由は明らかです。ジュザもまた、ブラッド・ネルソン/Brad Nelsonやベン・スターク/Ben Starkのように、現在のプロツアーで次々に成功を収めているマジック・オンライン(MO)出身のプレイヤーの一人で、週に何十時間プレイしているのか分からないというほどのMO中毒患者です。
それだけプレイしていれば理にかなった正確なプレイが身に付くもの当然で、特にリミテッドにおいてそのプレイスキルが発揮されているように思います。それはトップ8に残ったグランプリ(優勝2回・準優勝3回)その全てがリミテッドであることからも伺えることだと思います。
「MOのドラフトは無料。なんでチーフはやらないんだ。」とジュザに言われたこともありますが、それはジュザほどのプレイスキルがあるからで筆者には当てはまらないわけで・・・。
一方、構築戦の方はどうかというと、毎日のようにMOをやっているので現在進行形で流行しているデッキの情報に関しては非常に詳しいものの、新戦略お披露目の場であるグランプリやプロツアーではいまいち成功していないようです。
人との違いを生み出すようなデッキのアイディアを考え出すのが苦手という、リミテッドが得意なプレイヤーにありがちな傾向(日本で言えば中村 修平がそうであるように。←悪口ではありませんよ。悪しからず、中村さん。)からはジュザも逃れられていないようです。
ジュザといったらあのデッキだというイメージは全くありません。その点は自分でも十分に理解しているようで、自分で作成したデッキを試合に持ち込んだりはせず、アメリカからはChannel Fireballのデッキをヨーロッパ各国からもデッキの情報を節操なく仕入れ、その中から最も良さそうなデッキを選ぶというスタイルを貫いているように思います。
それが良いかどうかは別にして、ジュザはMOというツールを最大限に利用した情報収集により、小国出身でも大きな成功を収めることが可能であるというモデルケースになったのではないでしょうか。
今までのスーパースター列伝の登場人物では基本的にブラッドやルイスのようにファーストネームで表記していました。しかし、ジュザに関してはマーティンではなくジュザとしています。これは表記揺れというわけではなく、筆者がスーパースター達を呼ぶ時の名前で表記しているからです。まあ、「マーティンさん」と呼ぶこともないわけではないのですが、マーティンだとありふれた名前過ぎて「誰?」となってしまうことを避けるためですね。
チェコ人グループはジュザを呼ぶ時にジュザーマと呼んでいるようです。ジュザとマーティンをくっつけて、いらんところを切り離す。日本でいったらなかしゅーみたいなもんですか。《Juzam Djinn》のJuzamとも掛かっているダブルミーニングで本人も気に入っているようなので、日本に遠征してきたジュザに話しかける時はジュザーマと呼んであげると喜ぶかもしれませんね。
ちなみに、ジュザが知っている日本語は「牛丼」と「ランドですか?」くらいなので注意。「ランドですか?」と聞くと「ランドでないです。」と返してきます。面白いので試してみるといいですよ。グランプリ・神戸の参加には前向きとの事なので、(本人曰く、日本行きのチケットが高騰してしまって大変らしいですが)楽しみにしていましょう。
マリーン・リバート/Marijn Lybeart
主な戦績:
- プロツアー・ジュネーブ2007 ベスト8
- プロツアー・ハリウッド2008 ベスト8
- プロツアー・アムステルダム2010 ベスト4
- 世界選手権2009 ベスト8
ご存知マジック界のハリーポッター、マリーンの出身国ベルギーは主に二つの公用語、オランダ語とフランス語が用いられている国です。
マリーンはそのうちのオランダ語を母語にしています。一つの国に複数の言語があると何ヶ国語も喋れるようになれて良いな、と思うかも知れませんが、マリーンは特にフランス語が得意というわけではないようです。直近のプロツアーでベスト4まで残ったベルギーのフランス語話者ヴァンサン・ルモアン/Vincent Lemoineとは英語で喋っていたので。パリのファーストフード店でも英語で注文していましたしね。
マリーンがハリーポッターに激似であるというのは世界中で有名なトピックであるのは読者の方なら良くご存知のことかと思いますが、それでは彼のニックネームが「ポッター」なのかというとそうではありません。彼のことをポッターと呼ぶと「ポッターじゃねえ!」とキレるのです。理不尽なものです。
ちなみに筆者のニックネーム「チーフ」というのはマリーンが始めに言い出したもので、「カッコーの巣の上で(One Flew Over the Cuckoo's Nest)」という映画に出てくる登場人物に良く似ているということから周りもそう呼び出したというのが由来です。もう割と浸透してしまっているのでいまさら訂正するつもりもありませんが、あまり格好のいいキャラクターではありませんね。我が家にマリーンからもらった「カッコーの巣の上で」のDVDがあるので、見たい方は声を掛けてもらえれば。ただしオランダ語版なので筆者も見てませんが。
人には映画のキャラクターのニックネームをつけておいて自分はダメという傍若無人な振る舞いのマリーンさん。彼の表のニックネームは何かというと普通にマリーンです。日本語のカバレージでは彼の名前をマリジンと表記していることも多いかと思いますが、それは彼の名前がオランダ語で日本人にはあまり馴染みのない綴りになっているからです。
ちょっとここからはオランダ語講座。日本人にとってあまり馴染みのない綴りというのは「Marijn」の「ij」の部分ですね。オランダ語特有の綴り「ij」は簡単に言うと「y」の古語的な綴りで、乱暴に言うとiとjを傾けてくっ付けたらyじゃんという説明で良さそうです。日本語で言えば「い」と「ゐ」の関係のようなもので、読み方は英語のyとほとんど同じで良いようです。
ちなみにサッカー選手、ファン・ニステルローイ(van Nistelrooy)の最後のyも英語表記でなく元のオランダ語ならijとなります。「マリジン」と呼んでも「マリジンじゃねえ!」とキレるので、要は「Marijn」は「まりゐん」と読め、ということです。
このスーパースター列伝ではできるだけ名前は原音に近いカタカナで表記するようにしているので、他で記載されているものと異なる場合もあるかもしれません。その点は注意してもらえるとありがたいです。
グランプリ・トゥールース2006にて |
マリーンの呼称についてはこの辺りにしておいて、プレイヤーとしてのキャリアの紹介に移りましょう。マリーンが最初にトーナメントシーンに登場したのは、グランプリ・トゥールース2006のこと。決勝で津村 健志に敗れ惜しくも準優勝であったというカバレージ中で、「それでもマリーンにとっては最高の週末であった。」と書かれているあたり、彼がまだ駆け出しであったという事の表れでしょう。トップページの写真には浮かれた様子でピースサインをしている津村の後ろであきれた感じでピースしているマリーンが印象的です。(編注:この段落のリンク先は英語です)
次にマリーンが結果を出したのは時のらせん-次元の混乱ブースタードラフトで争われたプロツアー・ジュネーブ2007でのトップ8入りになります。このジュネーブでは津村 健志も一緒にトップ8入りしていたこともあり、まだ注目の若手プレイヤーの域を出ていなかったマリーンにとって、その頃に全盛期を誇り、また自分の前に立ちふさがった津村はアイドル的存在であるようです。
昨年のプロツアー・アムステルダムで久々の復帰戦を戦った津村を傍目から見ていたマリーンは津村のサインを欲しがっていたのですが、普段の傍若無人キャラが邪魔をして素直に貰いに行けなかったようです。
その後もプロツアー・ハリウッド2008でベスト8、世界選手権2009ベスト8、プロツアー・アムステルダム2010でベスト4と次々にプロツアーで成功を収め、いまやヨーロッパの強豪という座を揺るぎないものとしたのでした。
マリーンの傍若無人なところはプロツアー界隈では割と有名なところです。チームドラフトの際にチーム名とのデッキが弱すぎるからといってゲーム前にチームの投了を決めてしまったり、グランプリのフィーチャーマッチ席で友人がプレイしていると椅子を持ち出してフィーチャーマッチエリア内で座って観戦するなど(筆者も隣に座られました。ジャッジには「チーフにはメンタルサポートが必要だから、いいだろ?」と説明していました。そんなんでいいのか? ジャッジ・・・。)、やりたい放題です。
マティニョンの回で紹介したエピソードの「間違った方のギヨームが勝ってしまった。」と言ったのも実はマリーン。ただのDQNです。まあ地震があった際に安否の確認をしてくれる辺り、DQNというより「ジャイアン」的気質なのかもしれませんね。
筆者はマリーンとは普段プロツアーの獲得賞金の折半をしているのですが、筆者が高額賞金を獲得したプロツアー・ホノルル2009は大学のテストを優先して欠席。欧米の大学のテストは厳しいらしいですからね。マリーンは筆者からの千載一遇とも言うべき「おこぼれ」にあずかることができなかったのです。
マリーンの方はその後も前述のようにプロツアーで好成績を残し続けており、いまいち振るわない筆者の方に一方的に折半代が転がり込むという構図が出来上がってしまいました。そんな状態にマリーンのガールフレンドはいつも怒り狂っている、とのこと。申し訳ない。
そんなマリーンは今年その彼女と結婚するそうで、筆者も結婚式に来いと呼ばれたのですが、さすがにベルギーまで行くのはちょっとということで、この場を借りて祝福をさせてもらうことにしよう。マリーンおめでとう。
そういえば、昨年の世界選手権後の打ち上げでは「パーティーなのに女はいないのか、女は!」と言って暴れていたような。ま、いいのか。
第三回目のスーパースター列伝はいかがだったでしょうか?前回はアメリカ編で今回はヨーロッパ編となったわけですが、次回はどうなるかはいつものように未定です。
次回までに大きなトーナメントはグランプリ・バルセロナ(3/27-28)とグランプリ・ダラスフォートワース(4/9-10)があるのでそこで活躍したスーパースターを第一候補に人選しようと思います。それではまた4週間後。
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