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木曜マジック・バラエティ
浅原晃の「デッキタイムトラベル!」 Part1?青黒コントロール
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木曜マジック・バラエティ
2011.01.20
浅原晃の「デッキタイムトラベル!」 Part1-青黒コントロール
By 浅原 晃
はじめに
歴史を学ぶことに意義があるのは、それが勝者の辿ってきた変遷だからだろう。三国志の曹操しかり、ヨーロッパのナポレオンしかり、織田信長しかり、中村修平が旅行記を続けられることもまたしかり。勝つということには理由がある、そして、歴史の勝者である彼らもそのさらに昔の歴史から何かを学んで彼らの歴史を作っている。
歴史から何を学ぶのかは、受けとる人によって様々だろう。ただ、本当の学ぶとは知ることではなく理解することにあるというのは忘れてはいけない。このコラムはその理解の手助けとなることを目指すところになる......たぶん。
何はともあれ、今年から定期連載となってしまったわけなので、赤単を紹介した特別編に続いて、今回は青黒コントロールを取り上げていきたい。2010年世界選手権で優勝したことでスタンダードでも一躍有名になったデッキタイプである青黒コントロールが、はたしてどういう変遷を辿ってきたのか。それでは、勝利を紐解く鍵を探しにレッツタイムトラベル!
1994年 マジック黎明期
マジック黎明期において活躍した青黒のデッキは、現代のような形のものとは大きく異なる。
3 《島》 3 《沼》 3 《Badlands》 2 《Bayou》 2 《Tropical Island》 4 《Underground Sea》 3 《Volcanic Island》 -土地(20)- 1 《惑乱の死霊》 2 《凄腕の暗殺者》 2 《魔術師の女王》 2 《マハモティ・ジン》 1 《幻影獣》 -クリーチャー(8)- |
4 《精神錯乱》 4 《対抗呪文》 1 《Ancestral Recall》 1 《Time Walk》 1 《Timetwister》 1 《Regrowth》 1 《Braingeyser》 1 《Demonic Tutor》 1 《Wheel of Fortune》 1 《分解》 1 《火の玉》 1 《Black Lotus》 1 《Mox Emerald》 1 《Mox Jet》 1 《Mox Pearl》 1 《Mox Ruby》 1 《Mox Sapphire》 1 《Sol Ring》 1 《Forcefield》 2 《破裂の王笏》 3 《拷問台》 2 《支配魔法》 -呪文(32)- |
このデッキは94年のアメリカ選手権を優勝したデッキで、今ではヴィンテージでしか使えないような制限カードで埋められている。リバイスドまでの基本セットのみで作られており、あまりにも現代のゲームとはかけ離れているため想像しにくいかもしれない。しかし、4枚投入されている《対抗呪文》と《精神錯乱》の2つのカードを見ればその動きは良くわかる。
《対抗呪文》→マナ加速→《精神錯乱》→勝ちだ。《精神錯乱》は名前も禍々しいが、その効果も非常に強力で、ある程度マナが出る状態で使えば相手の手札を全て落とすことも簡単で、捨てさせる効果がランダムであるため、相手の手札を全て落とせないとしても大きな打撃を与えることができた。
このデッキはパーマネントに触れる手段が多くはないが、そもそもカードを場に多く出されることを想定していない。それほどまでに《精神錯乱》は強力なアドバンテージで、そして、それを防ぐことができるかもしれない《対抗呪文》もまた必要なカードだったと言えるだろう。
このデッキの直接的な勝ち手段は数枚のクリーチャーか《拷問台》になっている。クリーチャーも《マハモティ・ジン》以外は打撃力ではなく盤面をコントロールする《魔術師の女王》や《凄腕の暗殺者》を採用している。《精神錯乱》は当然ながら、盤面には影響がない。ただ、相手の手札から対抗する手段を奪えば、システムクリーチャーは最大の働きをすることができる。相手の引きに対するケアを考えるとこういった形は理に適っているといえる。
《精神錯乱》が他のカードに比べ、ここまで制限されていなかったかは推測の域を出ないが、この時代を象徴するもう一つのカード《黒の万力》が原因なのかもしれない。《黒の万力》は「相手の手札-4」点のダメージを与える1マナのアーティファクトだ。《拷問台》と対になっていてマナコストも一緒だが、その凶悪さは比較にならない。何故ならマジックは初手が7枚であり、《黒の万力》は最初からダメージを与える条件を達成しているのに対し、《拷問室》はその手札を減らさなければ効果を発揮しないからだ。相手の手札を減らすことを前提としたデッキでは《黒の万力》は使いにくい。単純に言えば、他にも強力なカードが多く存在したといってしまえるかもしれない。
しかし、他の強力なカードに遅れはしたものの、《精神錯乱》もすぐに制限カード入りすることになる。
このデッキは厳密には青黒ではなく4色デッキだが、青と黒以外はあくまでスプラッシュされたものだ。このデッキでは黒は手札破壊、そして青は打消し呪文であるという特徴を《精神錯乱》と《対抗呪文》といった2つの強力なカードが印象付けている。ただ、このデッキは言うなれば、《精神錯乱》デッキとも言ってしまえるものでしかない。
まだ、青黒コントロールという形がアーキタイプとして認識されるのは先のことになる。
1995~1998年 パーミッションとコントロール
今では使うことが少なくなったが、パーミッションという言葉がある。パーミッションは青に特化したコントロールの一種で、青主体の極度にカウンター呪文に依存したデッキを指す。パーミッションとは許可するという意味があり、パーミッションを相手にした場合は、呪文を解決するたびに許可をもらわなければいけないということからその名前がついた。
このパーミッションがもっとも隆盛だったのはミラージュブロックからテンペストブロックにかけてのことだ。ターボゼロックス、ドローゴー、ユーロブルーといった青単色デッキの名前を聞いたことがあるという人も多いだろう。
カウンター呪文の弱点は戦場に出てしまったパーマネントに触れないことだが、《ネビニラルの円盤》といった強力なリセット能力を持ったアーティファクトや小型クリーチャー対策となる土地《流砂》が存在したため、戦場に出てしまったパーマネントに対しても一定の耐性を持つことができた。《虹のイフリート》というマナさえあれば無敵のフィニッシャー、優秀なカウンター呪文の《雲散霧消》や《放逐》、テンペストブロックから恒久的なアドバンテージとなるバイバック呪文の《ミューズの囁き》や《転覆》を加えて、より隙の少ないデッキとなっていた。
ファイナル97では、その青主体のパーミッションに黒をタッチしたデッキがベスト8に入っている。
13 《島》 4 《沼》 2 《地底の大河》 2 《湿原の大河》 4 《流砂》 -土地(25)- 1 《虹のイフリート》 2 《大気の精霊》 -クリーチャー(3)- |
4 《対抗呪文》 4 《雲散霧消》 3 《放逐》 3 《魔力消沈》 2 《ミューズの囁き》 3 《衝動》 1 《回想》 3 《悪魔の布告》 3 《強要》 2 《ロボトミー》 4 《ネビニラルの円盤》 -呪文(32)- |
2 《スークアタの火渡り》 1 《転覆》 4 《水流破》 2 《魔力流出》 2 《非業の死》 1 《悪魔の布告》 1 《強要》 1 《破裂の王笏》 1 《フェルドンの杖》 -サイドボード(15)- |
この青黒パーミッションの黒の役割はあくまでメタゲームに合わせたサポートの一つでマスターピースというわけではない。青単色でデッキとして成立しているものに、手札破壊というオプションを追加したというのが正しいだろう。テンペストで加わった《ロボトミー》は非常に強力な手札+デッキ破壊であり、コンボデッキ、コントロールデッキ相手には絶大な働きをした。
しかし、この当時の手札破壊は《強要》なども含め、比較的重いものが多く、メインで大きなアクションをするのはデッキ性質上、リスクが大きかった。特に相手のマナを使わせた上で打ち消せるカウンター呪文に比べ、こちらがマナを使った上で1対1交換を行う手札破壊はカウンター呪文と性質上噛んでいない。ゆえに、あくまでこの組み合わせはサイドボードの《非業の死》なども含めたメタゲーム上の選択であったと言えるだろう。サイドボードの優秀さというのは黒の一つの利点で、それは青黒という組み合わせを後押しするものではある。
多色化することはデメリットも多く含む。多色地形が《地底の大河》といったダメージランドが主体だった時代であり、長期戦を狙うデッキにとってはそれが致命傷になるということもあった。それによって、この時代は青と黒の組み合わせのコントロールよりも青単色が好まれることが多かった。
また当時は、青のドローアドバンテージというのは強いものではなく、むしろ黒には《ネクロポーテンス》といった色拘束の強い独自のアドバンテージリソースがあったため、それぞれが独立した活躍ができる時代だったのも大きな要因の一つだろう。青と黒の単色のデッキは十分強く、多色化するメリットよりもデメリットの方が基本的には大きかったのだ。
余談だが、現代においてパーミッションという言葉が廃れているのは、信頼に足るカウンター呪文が少なくなったからだ。本来パーミッションというのは長期戦になればなるほどに有利になるタイプのデッキだが、《対抗呪文》が《マナ漏出》になればそれは逆転してしまう。長期戦になれば、《マナ漏出》は相手の土地を3枚寝かせるだけの呪文になってしまうだろう。それが、現代のコントロールとパーミッションの大きな違いだ。
本格的に青と黒の共闘関係が組まれたのは、マスクスブロック構築からになる。
1999~2001年 フィニッシャーの変遷
コントロールには支配的なフィニッシャーが不可欠だ。フィニッシャーの条件はいくつかあるが、もっとも重要なのはタフであること、除去されにくいというのが絶対条件にある。簡単に死んでしまうようなものはフィニッシャーになりえない。
マスクスブロック構築では、レベルという白のシステムが環境を支配していた。特にネメシスから《果敢な勇士リン・シヴィー》が加わるとたった1枚のカードすら致命傷になる、そんな状況になっていた。それに対抗するには、マナを縛る《水位の上昇》、もしくは恒久的なコントロール手段を用いる必要があった、その盤面の制圧と攻撃を兼ねたフィニッシャーとして使われたのが、《のたうつウンパス》や《隆盛なるエヴィンカー》だ。
青と組み合わせたこれらのデッキは、「カウンターウンパス」や、「カウンターエヴィンカー」と呼ばれた。青のフィニッシャーは飛行能力があっても盤面をコントロールする力は基本的に弱い、また青には除去もなかったため、黒から優秀な単体除去とフィニッシャーを借りてくる形が環境にマッチしていた。
あくまでこれらはブロック構築レベルのデッキではあったが、インベイジョンが発売されると、これのさらなる発展系として「ネザーゴー」というデッキがスタンダードでも主流になっていく。
11 《島》 4 《沼》 4 《地底の大河》 4 《塩の湿地》 1 《ラースの果て》 -土地(24)- 1 《マハモティ・ジン》 3 《冥界のスピリット》 -クリーチャー(4)- |
4 《蓄積した知識》 2 《目くらまし》 1 《テフェリーの反応》 4 《対抗呪文》 4 《嘘か真か》 3 《撃退》 1 《誤った指図》 2 《強迫》 3 《血の復讐》 2 《サーボの命令》 2 《はね返り》 4 《蝕み》 -呪文(32)- |
3 《氷河の壁》 1 《大気の精霊》 1 《マハモティ・ジン》 2 《墓所の天使》 2 《反論》 2 《眠りの秘薬》 1 《死体焼却》 1 《強迫》 2 《仕組まれた疫病》 -サイドボード(15)- |
ネザーゴーはネザーこと《冥界のスピリット》を攻防に据えたパーミッションデッキだ。《冥界のスピリット》はメルカディアンマスクスのクリーチャーで、当時はさほど注目はされなかった。《冥界のスピリット》は直線的に攻めてくるクリーチャーには無限のブロッカーになるものの、数で攻めてくるレベルや飛行クリーチャー主体のブルースカイには無力で、それならば《隆盛なるエヴィンカー》などの方がはるかに制圧力が高く優秀だからだ。
しかし、インベイジョンが加わると状況は変わる。《ウルザの激怒》というカウンターできない火力の登場によって、そもそもタフネス3のフィニッシャーの存在価値が一気に下がってしまったのだ。そして、除去られてもよいという、究極の耐性を持った《冥界のスピリット》の評価は相対的に高まった。
さらに、《嘘か真か》という最強クラスのドロー手段が加わり、能動的に《冥界のスピリット》が落としやすくなったこと、《蝕み》というカウンター呪文によって、ライフの水準を下げた相手には、十分フィニッシャーとして機能することが大きなプラス材料になった。メタゲーム的にも、《ブラストダーム》といった触れないクリーチャーを止められることでネザーゴーは一気に主流になっていく。死ににくいに比べ、死んでもよいとはなんという安心感だろう。
また、ウルザズサーガで《強迫》が加わったことも青黒コントロールの助けになった。《強迫》は効果の強さ以上に軽いという最大の利点があり、それが、カウンターと手札破壊の共存には必要不可欠には要素だったからだ。今でも《強迫》はサイドボードのオプションとして、あらゆる環境で最高のものの一つだろう。
色の弱点を補完しあっている「ネザーゴー」は最初に青黒で完成されたコントロールデッキといってもいいかもしれない。
インベイジョンブロック構築ではフィニッシャーへの注目点、そして、プロツアーでの快挙という点で外せないのが、2000年に行われたプロツアー東京で藤田剛史が使用し準優勝に輝いた「カウンターシャンブラー」だ。
11 《島》 9 《沼》 4 《塩の湿地》 -土地(24)- 4 《貪欲なるネズミ》 2 《ファイレクシアの盾持ち》 2 《アーボーグのシャンブラー》 -クリーチャー(8)- |
3 《禁制》 4 《除外》 2 《排撃》 4 《嘘か真か》 4 《頭の混乱》 2 《ヨーグモスの行動計画》 3 《はね返り》 4 《蝕み》 2 《悪意 // 敵意》 -呪文(28)- |
4 《反論》 4 《夜景学院の使い魔》 2 《ファイレクシアの盾持ち》 2 《アーボーグのシャンブラー》 1 《ヨーグモスの行動計画》 2 《脊髄支配》 -サイドボード(15)- |
「The Rats」とも呼ばれるこのデッキは、インベイジョンとプレーンシフトだけ使えたプロツアー・東京でのソリューションデッキだ。
ソリューションというのは、優勝したZviが使ったデッキの名前だが、その名前の本質は環境にもっとも多く存在するデッキタイプに対して有利なデッキを構築すること、解決(ソリューション)を提示することにある。Zviは青白でそれを見せたが、このデッキは青黒でそれを見せている。色こそ違うが、本質的な部分は変わらない。
このときのインベイジョンブロック構築の主流のデッキは赤緑のステロイドと赤黒の《虚空》デッキの2つ。それに対応して、このデッキのキーとなるクリーチャーも《貪欲なるネズミ》と《アーボーグのシャンブラー》の2つだ。《貪欲なるネズミ》はタフネス1の多い赤緑には2対1交換のカードであり、《アーボーグのシャンブラー》は赤黒の《夜景学院の使い魔》をタダで除去できるだけでなく、延々と戻ってくる《火葬のゾンビ》を封殺した。
これらのクリーチャーに除去耐性はないが、このデッキはリソースの取り合いを制することで最終的に勝利する。消耗戦となっても《ヨーグモスの行動計画》によって、墓地のカードを再利用し、相手のリソースを完全に枯渇させることが可能だったからだ。アポカリプス後のブロック構築環境は一気に激変するため、これ以降、このデッキがソリューションとなることは無かったが、この大会においてはベストなデッキの一つであったのは間違いない。
2001-2003年 サイカトグ
2001年、オデッセイブロックが加わり、インベイジョンが退場すると、史上でも類を見ないほど強力な青黒のフィニッシャー《サイカトグ》が登場する。
最初こそ《影魔道士の浸透者》が注目を集め、「フィンケルゴー」というデッキもうまれるが、環境に《野生の雑種犬》がおり畏怖の能力が生きなかったこと、そもそも《サイカトグ》強すぎたことなどの理由から、前評判以上に使われることはなかった。《影魔道士の浸透者》の代用カードとして《サイカトグ》を使っていたら、《サイカトグ》の方が強い局面が多く、プレイしているうちに全て《サイカトグ》になったなんていう話もあった。
10 《島》 3 《沼》 4 《地底の大河》 4 《塩の湿地》 1 《ダークウォーターの地下墓地》 2 《セファリッドの円形競技場》 -土地(24)- 4 《夜景学院の使い魔》 4 《サイカトグ》 -クリーチャー(8)- |
3 《チェイナーの布告》 3 《堂々巡り》 4 《対抗呪文》 3 《狡猾な願い》 3 《綿密な分析》 3 《嘘か真か》 3 《記憶の欠落》 4 《排撃》 2 《激動》 -呪文(28)- |
1 《棺の追放》 4 《強迫》 1 《嘘か真か》 1 《反論》 3 《恐ろしい死》 1 《冬眠》 1 《枯渇》 1 《はね返り》 1 《殺戮》 1 《テフェリーの反応》 -サイドボード(15)- |
《サイカトグ》は《冥界のスピリット》と入れ替わるように入ったが、その性質は大きく違っている。《冥界のスピリット》は青黒の防御の部分での弱点を補うための要素が強いのに対し、《サイカトグ》はより攻撃的な使い方ができた。
言ってしまえば《サイカトグ》の本質はもはやコントロールではなく、コンボデッキのようなものだ。それは、《激動》を抜きにしてもである。このデッキの盤面に触る要素が、《排撃》と《チェイナーの布告》、そして2枚の《激動》だけに留まっており、後はカウンターとドローで埋め尽くされていることからもわかる。《サイカトグ》が居れば、それだけで十分なのだ。
青黒のコントロールデッキが流行するときは、それに伴った壊れたフィニッシャーが居ることが多い。それは何故かというと、青と黒はともに不完全な色であるためだ。手札破壊とカウンター呪文はある特定の相手の行動を封じることには長けているが、全てを封じることは難しい。しかし、《嘘か真か》と共に使われた《サイカトグ》デッキは《サイカトグ》さえ守れれば、大抵のことでは負けず、すぐに勝負を決めることができた。そういった《サイカトグ》をひたすらに生かし、相手から《サイカトグ》だけを守るならば、青と黒はそれに長けている色といえる。
《サイカトグ》の支配力はその決定力にある。マジックはライフが少なくなれば行動が制限される。《サイカトグ》のパワーが潜在的にプレイヤーを殺しうるものなら、それが戦場にいるだけで多くの相手の行動を制限することができる。そして、《サイカトグ》のパワーはこちらの手札を相手が少し想像するだけで、相手にとっては簡単に20に見えてしまう、《サイカトグ》の支配力の強さはそこにあった。
《激動》も強いカードではあるが、その強さは相手が対策カードを入れてきたときに発揮された。どんな対策をしても、《激動》が全て無に帰してしまう、どれだけ手札にサイカトグを除去できる呪文を抱えていても駄目。この時代の《サイカトグ》が一線級の強さとしてずっと留まっていたのは《激動》があったことも大きいが、《激動》を使わずとも勝てるということこそがこのデッキの強さの真髄を表している。
2002年は日本選手権、世界選手権ともに《サイカトグ》が席巻する。それを「サイカの夏」と呼ぶ人も多い。
《サイカトグ》はその強さから、下の環境でも強さを発揮した。2005年に話は飛ぶが、PTロサンゼルスでは、アントニー・ルーエルが青黒の《サイカトグ》を使って優勝を果たしている。
7 《島》 1 《沼》 2 《教議会の座席》 1 《囁きの大霊堂》 4 《汚染された三角州》 3 《湿った墓》 2 《セファリッドの円形競技場》 1 《雲の宮殿、朧宮》 2 《隠れ石》 -土地(23)- 4 《サイカトグ》 1 《不可思議》 -クリーチャー(5)- |
3 《ブーメラン》 4 《堂々巡り》 4 《対抗呪文》 1 《綿密な分析》 3 《嘘か真か》 4 《魔力の乱れ》 1 《けちな贈り物》 2 《マナ漏出》 4 《留意》 2 《選択》 2 《燻し》 2 《知識の渇望》 -呪文(32)- |
2 《暗黒破》 4 《強迫》 3 《恐ろしい死》 1 《曇り鏡のメロク》 2 《剃刀毛のマスティコア》 1 《占骨術》 1 《燻し》 1 《隠れ石》 -サイドボード(15)- |
このデッキの注目点は《狡猾な願い》が採用されていない点だろう。《狡猾な願い》は汎用性をもたらしてくれる変わりにサイドボード枠を犠牲にする。それは、黒のサイドボードが強さといった利点を削ってしまうことにもなる。さらに、《狡猾な願い》の3マナは決して軽くないといった判断もあるのだろう。
とにかく息の長い活躍を見せたのが《サイカトグ》というデッキであり、この時代にマジックをプレイしていれば、青黒のデッキと言えば《サイカトグ》と答えてしまうだろう。
オデッセイブロックにはもう一つ、これは面白いデッキで「バベル」というデッキも生まれた。
45 《島》 29 《沼》 4 《地底の大河》 4 《塩の湿地》 4 《ダークウォーターの地下墓地》 4 《シヴの浅瀬》 4 《硫黄泉》 4 《アーボーグの火山》 -土地(98)- 4 《マハモティ・ジン》 4 《果敢な弟子》 4 《マーフォークの物あさり》 4 《深淵の死霊》 4 《ファイレクシアの憤怒鬼》 4 《貪欲なるネズミ》 4 《朽ちゆく巨人》 4 《ヴォーデイリアのゾンビ》 4 《影魔道士の浸透者》 4 《夜景学院の使い魔》 1 《サイカトグ》 -クリーチャー(41)- |
4 《対抗呪文》 4 《記憶の欠落》 4 《中略》 4 《蝕み》 4 《除外》 4 《撹乱》 4 《集中》 4 《嘘か真か》 4 《手練》 4 《選択》 4 《のぞき見》 4 《調査》 4 《頭の混乱》 4 《強迫》 4 《排撃》 4 《はね返り》 4 《闇への追放》 4 《恐ろしい死》 4 《火 // 氷》 4 《悪意 // 敵意》 4 《魔性の教示者》 4 《汚れた契約》 4 《悪魔の意図》 1 《死体焼却》 1 《ロボトミー》 1 《激動》 1 《脊髄支配》 4 《説得》 4 《機知の戦い》 1 《押収》 1 《ヨーグモスの行動計画》 -呪文(106)- |
4 《冬眠》 4 《反論》 4 《最後の儀式》 3 《洗い流し》 -サイドボード(15)- |
このデッキはコンボデッキのように振る舞っているが、《機知の戦い》は戦場に出してターンが返ってくれば勝てるので厳密にはコンボしていない。実際は単純なフィニッシャーである。その強力無比なフィニッシャーを生かすために、コントロールという形態を取っているデッキだ。245枚から《機知の戦い》を探すことが重要だが、最速でそれを適えるのはデッキの枚数からいっても安定性があるとは言い難い。ターンを経てもカードの価値が劣化しにくい、除去とカウンターとドローで埋めたコントロールこそがこのデッキにとって理想的なパーツといえる。また、クリーチャーで勝つといったパターンも多くあった。弱いカードを入れなければ、デッキの枚数がいくら多くとも戦える。単純だが明確な理論がそこにあった。
余談だが、筆者も2005年のFinalsで《機知の戦い》を使ったデッキで出場したことがある。強いデッキだが、最大の敵は「シャッフル」でこのデッキ主流になることは無いと感じた、物理的にだけども。
2003~2005年 雌伏の時
青と黒は不完全な色であるというのは少し話に出したが、それが如実に現れたのはミラディンブロックが現れてからだ。不遇の時代と隆盛の時代がはっきりと分かれているのはその不完全性が原因であり、強力なフィニッシャーとそれをサポートするパーツが不足している環境では、弱点の方が顕著に表れてしまう。そして、青と黒が苦手とすることの一つはアーティファクトを破壊できないという点にあった。
ミラディンブロックで生まれた「親和」デッキはアーティファクトを中心とした高速ビートダウンでそれに対抗するためには、目いっぱいのアーティファクト破壊を詰め込むか、恒久的にそれを封じ込めるシステムが無いと勝つのは難しかった。後に禁止カードとなるが、《頭蓋骨絞め》など、アドバンテージを取りながら攻撃してくるビートダウンはコントロールにとっては天敵に近い。コントロールする=相手のリソースを枯渇させるということが難しいからだ。
また、ミラディンの一つ前のブロック、オンスロートブロックは赤白サイクリングと部族というシステムに支配されており、青と黒のデッキも《ルーンの解読》で大量に落としたゾンビを墓地から《総帥の召集》で甦らせるクリーチャー主体のデッキ、コントロール要素を持ったビートダウンが印象に残っているくらいだ。
15 《沼》 5 《島》 4 《汚染された三角州》 1 《邪悪な岩屋》 -土地(25)- 4 《腐れ肺の再生術師》 4 《朽ちゆく猛禽》 4 《復讐に燃えた死者》 4 《有毒グール》 3 《萎縮した卑劣漢》 2 《屍肉喰らい》 2 《ナントゥーコの鞘虫》 2 《墓生まれの詩神》 2 《よじれた嫌悪者》 -クリーチャー(27)- |
4 《ルーンの解読》 4 《総帥の召集》 -呪文(8)- |
4 《ただれたゴブリン》 4 《蔓延》 3 《金属殻のカニ》 2 《戦慄をなす者ヴィザラ》 2 《墓生まれの詩神》 -サイドボード(15)- |
そういった背景から、青黒のコントロールデッキにとってこの時代は不遇といっていいだろう。ビートダウンを抑え込めるコントロールを目指すなら、青白の方が優れており、さらに、この時代の白のコントロールカードは《永遠のドラゴン》を中心として高いレベルで纏まっていたからだ。
その流れはラヴニカブロックが登場し、ミラディンブロックが退場するまで変わらなかった。
2005~2006年 《対抗呪文》無き青の復権
しかし、ラヴニカブロックが退場した後の世界選手権では、青いデッキは一番人気となり、一気に勢力を拡大する。《呪師の弟子》をドローソースに据えたことから「呪師コン」と言われることが多いが、日本では神河ブロック構築で八十岡翔太が使ったデッキのスタンダードバージョンという認識があり「ヤソコン」とも言われた。ただ、ヤソコンはこれ以降ブランド名として使われることが多く、ややこしいのでここでは「呪師コン」と表記していこう。
9 《島》 1 《水辺の学舎、水面院》 1 《嘆きの井戸、未練》 1 《雲の宮殿、朧宮》 1 《死の溜まる地、死蔵》 4 《沼》 4 《地底の大河》 4 《湿った墓》 -土地(25)- 3 《巻物の君、あざみ》 1 《鬼の下僕、墨目》 4 《呪師の弟子》 1 《潮の星、京河》 3 《曇り鏡のメロク》 -クリーチャー(12)- |
3 《ブーメラン》 3 《撹乱する群れ》 2 《忌まわしい笑い》 4 《邪魔》 3 《最後の喘ぎ》 3 《マナ漏出》 2 《真髄の針》 3 《巻き直し》 -呪文(23)- |
2 《すべてを護るもの、母聖樹》 2 《暗黒破》 1 《忌まわしい笑い》 2 《抗い難い知力》 3 《迫害》 1 《真髄の針》 4 《不忠の糸》 -サイドボード(15)- |
「呪師コン」には青単色と青黒の2つのバージョンがある、その中で人気のあったのは黒を交えたバージョンだ。《呪師の弟子》は確定パーツとして、さらに《巻物の君、あざみ》、もしくは《闇の腹心》を恒久的なドローソースとして中核に据えることが多い。恒久的なドローソースと組み合わせて強いのは、相手のカードと能動的に交換が可能な手札破壊、軽く1対1交換が可能なインスタントで動ける除去呪文であり、それが黒との組み合わせになった理由の一つだろう。
また、ギルドランドと呼ばれる《湿った墓》の加入で色マナトラブルが解消されたのも大きい、エキスパンション毎のギルドでその色の組み合わせがあるかどうかが決まるラヴニカブロックでは、このとき青白のギルドランドは存在しなかった。マナ基盤の存在も青黒にシフトしていった原因の一つだ。
フィニッシャーとしても《曇り鏡のメロク》は最高のクリーチャーの一人に数えられる。一回ターンが返ってくれば、全ての土地を1/1飛行に変えることも可能で、防御面を考えるなら《サイカトグ》を越えるフィニッシャーにも成りえるクリーチャーだ。多くのクリーチャーを生み出すという点から《梅澤の十手》と併用されることも少なくなかった。
これをさらにブラッシュアップしたバージョンも存在する。これも「ヤソコン」ではあるが、氷雪コントロールといういい方もされる。
4 《占術の岩床》 8 《冠雪の島》 4 《冠雪の沼》 4 《地底の大河》 4 《湿った墓》 -土地(24)- 4 《闇の腹心》 2 《曇り鏡のメロク》 4 《ファイレクシアの鉄足》 -クリーチャー(10)- |
3 《ブーメラン》 2 《撹乱する群れ》 4 《邪魔》 1 《迫害》 4 《差し戻し》 2 《霊魂放逐》 2 《巻き直し》 3 《師範の占い独楽》 3 《呪文嵌め》 2 《梅澤の十手》 -呪文(26)- |
3 《最後の喘ぎ》 2 《交錯の混乱》 2 《ネクラタル》 1 《迫害》 2 《真髄の針》 1 《魂の捕縛》 1 《呪文嵌め》 3 《不忠の糸》 -サイドボード(15)- |
コールドスナップ発売後の2006年日本選手権で使われたデッキだ。《占術の岩床》と《闇の腹心》でアドバンテージを取っていき、《曇り鏡のメロク》で勝負を決める。メインの黒いカードはほぼ《闇の腹心》のみだが、サイドボードには多くの黒いカードを用意している。大量にカードを引き、そのカードを出来る限り相手のカードと交換していく、ドロー偏重の青黒のコントロールデッキはそういった戦略に支えられていることが多い。また、かつてのカウンター全盛期の時代に比べ、よりトータルな戦略へと変わっていくことになるのは第8版への移行で《対抗呪文》を失ったのも大きいのだろう。
パーミッションというスタイルから、コントロールのスタイルへ移行していくきっかけは、《対抗呪文》が居なくなったときからである。
2007~2008年 《滅び》の世界
世界にはコントロールジャンキーと呼ばれるプレイヤーが多くいる。日本では八十岡翔太が有名だが、世界ではフランスのワフォタパがもっとも有名であり、彼の顔を見たらコントロールを想像するのはプロプレイヤーなら誰にとっても同じことだ。彼が一回赤単のデッキを使ったときに対戦した三田村和弥はワフォタパのデッキをコントロールと勘違いしマリガンをしてしまい負けたということもある。
そのワフォタパが優勝したのが、2007年の横浜で行われた、時のらせんブロック構築のプロツアーだ。
青黒コントロールが完全なもっともコントロールに近づいたのもこのときになるだろう。その理由は黒に《滅び》が加わったことが大きい。時のらせんブロックの次元の混乱は平行世界をテーマとしており、色違で同じ効果を持ったカードというのが多くあった。その中でも黒くなった《神の怒り》こと《滅び》が環境に与えたインパクトは絶大だった。不完全な除去しか無かった黒が完全な除去を手に入れたことが、青黒のコントロールデッキにとってマスターピースとしてきっちり嵌っていた。
10 《島》 1 《沼》 4 《戦慄艦の浅瀬》 4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 1 《溶鉄の金屑場》 1 《アカデミーの廃墟》 1 《ウルザの工廠》 4 《広漠なる変幻地》 -土地(26)- 2 《永劫の年代史家》 2 《吸収するウェルク》 2 《ザルファーの魔道士、テフェリー》 1 《トリスケラバス》 -クリーチャー(7)- |
4 《取り消し》 4 《入念な考慮》 4 《滅び》 1 《消えない賛歌》 3 《神秘の指導》 4 《虹色のレンズ》 1 《応じ返し》 2 《突然の死》 2 《堕落の触手》 2 《熟慮》 -呪文(27)- |
1 《山》 1 《平地》 3 《砕岩を食うもの》 1 《運命の盗人》 1 《解呪》 1 《根絶》 3 《早すぎる埋葬》 2 《永遠からの引き抜き》 1 《突然の死》 1 《時間の孤立》 -サイドボード(15)- |
カウンターが優秀というわけではない環境にあったので、基本的にはドロー呪文と除去を多く積んだ、ボードコントロール重視のデッキになっている。特徴的なのは4枚の《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》で色マナ基盤の安定と《堕落の触手》のライフ回復を最大限生かす作りになっていることだろう。
基本的な動きとしては《神秘の指導》から《ザルファーの魔道士、テフェリー》をサーチし、そこから各種クリーチャーや呪文へとアクセスするというものだ。アドバンテージを取る道筋がはっきりしており、クリーチャーへの対処も強い、ライフ回復も可能で、手札破壊でアドバンテージを作ることができる。膠着した局面には《トリスケラバス》を《アカデミーの廃墟》で使いまわして勝利できる。本来は青白が行うような完全なコントロールを青黒が行った初めてのデッキといってもいいかもしれない。このデッキは衝撃的であるとともに、その形の素晴らしさから多くの賞賛を受けた。
《滅び》の登場以降、青黒コントロールは様々な形で現れる。
2 《島》 4 《湿った墓》 3 《地底の大河》 3 《戦慄艦の浅瀬》 3 《ウルザの鉱山》 3 《ウルザの魔力炉》 3 《ウルザの塔》 1 《ウルザの工廠》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(23)- 3 《ザルファーの魔道士、テフェリー》 2 《骸骨の吸血鬼》 -クリーチャー(5)- |
4 《ディミーアの印鑑》 2 《イゼットの印鑑》 4 《強迫的な研究》 2 《連絡》 3 《滅び》 3 《巻き直し》 3 《差し戻し》 2 《マナ漏出》 2 《呪文の噴出》 2 《霊魂放逐》 1 《徴用》 1 《突然の死》 1 《機知の終わり》 -呪文(30)- |
3 《夜の飾り紐》 2 《根絶》 3 《死の印》 1 《吸収するウェルク》 1 《機知の終わり》 4 《併合》 1 《徴用》 -サイドボード(15)- |
その中でももっとも理解不能として、ワフォタパのデッキとは違った意味で賞賛を受けたのが、この青黒トロンだ。トロンと呼ばれるウルザ地形は当時多くのデッキで使われていたが、それは4枚ずつ入れるのが常識とされていた。それが、このデッキは3枚ずつしか入っていない。ただ、実際はしっかりとした理論で考えられており、逆に固定概念に縛られていたことを感じさせてくれるものだった。
この時代のコントロールはカウンター呪文そのものに重きを置いてはいない。特に青黒トロンなどでは一定の型にはめるための時間を稼ぐものといった形になっている。《差し戻し》といったカウンター呪文が強かったのは、自身のドローを進めながら時間を稼げる、つまりアグロな動きが出来るスタイルだったからだと言えるだろう。コントロールの意味が昔とは変化してきているのは間違いなかった。
2008~2009年 最速のコントロール
アグロなコントロール、もしくはビートダウン、又はパーミッションデッキ。そんな全てを集めたようなデッキが生まれたのはローウィンブロックだ。青黒が環境を席巻するとき、強力なフィニッシャーが存在することが多い。部族がテーマのオンスロートブロックで青黒を主体とするのはフェアリーであり、その力を飛躍的に上昇させたのがモーニングタイドの《苦花》だ。《苦花》によって環境は激変し、実際に2008年の世界選手権で優勝した。
1 《フェアリーの集会場》 6 《島》 4 《変わり谷》 4 《人里離れた谷間》 4 《沈んだ廃墟》 2 《沼》 4 《地底の大河》 -土地(25)- 4 《霧縛りの徒党》 2 《誘惑蒔き》 4 《呪文づまりのスプライト》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(12)- |
4 《苦悶のねじれ》 4 《苦花》 3 《砕けた野望》 4 《謎めいた命令》 3 《霊魂放逐》 1 《恐怖》 4 《思考囲い》 -呪文(23)- |
4 《瞬間凍結》 2 《エレンドラ谷の大魔導師》 4 《蔓延》 2 《ジェイス・ベレレン》 1 《思考の粉砕》 1 《思案》 1 《誘惑蒔き》 -サイドボード(15)- |
基本的にフィニッシャーとはコントロールデッキが最後の詰めとして出すものである。しかし《苦花》は2ターン目に出せるフィニッシャーだった。フェアリーが何デッキかと言えば僕自身はコントロールデッキと考えている。コントロールとは盤面を支配する状況を作り出すデッキだ。それが余りにも早いというだけでしかなく、本来コントロールデッキが最後に出すものを最初に出しているだけにすぎない。フィニッシャーを最初に出して、後はゆっくりとコントロールする、後は自然と対戦相手のライフは0になるというのが、フェアリーというデッキなのだ。
もちろんこれは個人的な感覚ではあるが、《苦花》は出してから数ターンはコントロールデッキの助けとなり、最終的には対戦相手のライフを0にしてくれる最高のフィニッシャーであることに異議を持つ人はいないはずだ。また、相手が動かざるを得ないという制限を与えることもできる。制限を与えることの強さは《サイカトグ》のときに言った通りで、《苦花》は対戦相手にとっては時間制限のある爆弾であり、こちらにとっては勝利のカウントダウンになるだろう。
そして、《謎めいた命令》という最高の切り札もフェアリーを最強のデッキへと押し上げた。フェアリーデッキにとって全てのモードが優秀に機能し、とくにクリーチャーを全て寝かせる効果によって、劣勢を逆転し勝利することも決して少なくない。
《苦花》にはライフの損失といったデメリットもあるが、ライフを失う《思考囲い》と一緒に使われていると考えるとそれがいかに些細なことが分かるだろう。フェアリーは、コントロールまでの速度が圧倒的に早いコントロールデッキである。しもべ、そして《苦花》が無くとも戦える地力も持っているのだから、たちが悪い。
フェアリーは今のエクステンデッドでももっとも活躍しているデッキで、プロツアー・名古屋の予選やこれから行われるグランプリ・神戸などでよく見かけることになるだろう。先の世界選手権のエクステンデッド部門でも多くのプレイヤーがフェアリーデッキを選択している。
3 《島》 2 《沼》 4 《忍び寄るタール坑》 4 《闇滑りの岸》 4 《変わり谷》 4 《人里離れた谷間》 3 《沈んだ廃墟》 2 《地盤の際》 -土地(26)- 4 《霧縛りの徒党》 2 《誘惑蒔き》 3 《呪文づまりのスプライト》 4 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(13)- |
4 《苦花》 4 《謎めいた命令》 1 《破滅の刃》 2 《精神を刻む者、ジェイス》 4 《マナ漏出》 4 《思考囲い》 2 《燻し》 -呪文(21)- |
3 《絡み線の壁》 3 《蔓延》 2 《弱者の消耗》 2 《ジェイス・ベレレン》 1 《思考の粉砕》 1 《強迫》 1 《コジレックの審問》 1 《誘惑蒔き》 1 《ワームとぐろエンジン》 -サイドボード(15)- |
2010年 世界選手権2010
全ての勝利には理由がある、しかし、その理由がただの偶然であるかもしれないのはマジックというゲームの面白いところでもあり難しいところだろう。
4 《忍び寄るタール坑》 4 《闇滑りの岸》 4 《水没した地下墓地》 5 《島》 1 《霧深い雨林》 3 《沼》 4 《地盤の際》 1 《新緑の地下墓地》 -土地(26)- 3 《墓所のタイタン》 2 《海門の神官》 -クリーチャー(5)- |
1 《取り消し》 2 《弱者の消耗》 2 《見栄え損ない》 2 《破滅の刃》 1 《強迫》 3 《コジレックの審問》 2 《ジェイス・ベレレン》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 4 《マナ漏出》 4 《定業》 4 《広がりゆく海》 -呪文(29)- |
1 《剥奪》 2 《見栄え損ない》 1 《破滅の刃》 2 《強迫》 2 《瞬間凍結》 3 《記憶殺し》 3 《漸増爆弾》 1 《ソリン・マルコフ》 -サイドボード(15)- |
多くの海外のプレイヤーが選択した青黒のコントロールデッキは、トップ8中5人を送りだした。それだけでもこのデッキが例えば何かの偶然によって勝ち進んだという可能性は低い、しかし、青黒のデッキの強さとは、一体何か?という点を考えるとよりはっきりと見えてくる。
青黒のデッキはアグロに自分の望む形へと盤面をコントロールする能力を持っている。それを通すための手札破壊、そして、時間を作るためのカウンター呪文も存在している。このデッキならば《コジレックの審問》、そして《マナ漏出》がその助けとなるだろう。ただ、これらのカードの賞味期限は長くはない、致命的なカードは手札から落とせず、十分なマナを持った相手の呪文は打ち消すことができないといった欠点があるからだ。
優秀なフィニッシャーが存在し、そして、盤面をコントロールする形が明確に存在する、アグロなスタイルの青黒コントロールに必要なものはその2つだ。そして、このデッキの2つのポイントとなるカードは《精神を刻む者、ジェイス》であり、《墓所のタイタン》だ。
かつて隆盛を誇った青黒のコントロールデッキ同様にこのデッキの強さは実は証明されている。《精神を刻む者、ジェイス》は《苦花》や《呪師の弟子》であり、《墓所のタイタン》は《サイカトグ》や《曇り鏡のメロク》だ。世界選手権はスタンダードが6回戦しかなくもっとも偶然に左右されやすい大会形式だが、歴史が強さを証明しているこのデッキが勝ったのは必然だろう。
《精神を刻む者、ジェイス》や《墓所のタイタン》をもっとも生かせるデッキ、活かせるようにプレイできるデッキはこの青黒コントロールだったということだ。
今回のデッキ紹介はここまで。これから先も青黒のコントロールを見かけることがあると思う。そのデッキの本当の強さを知りたいときは歴史を調べてみるのも悪くないことではないだろうか。
おまけ 個人的にお気に入りの青黒デッキ
最後におまけとして、個人的に好きな青黒デッキを紹介します!
12 《島》 4 《沼》 4 《Underground Sea》 1 《知られざる楽園》 -土地(21)- 4 《影魔道士の浸透者》 2 《マスティコア》 1 《Krovikan Horror》 3 《ゴブリンの太守スクイー》 -クリーチャー(10)- |
4 《ゾンビの横行》 4 《対抗呪文》 3 《冬の宝珠》 2 《目くらまし》 3 《噴出》 2 《対立》 4 《蓄積した知識》 4 《Force of Will》 3 《直観》 -呪文(29)- |
3 《ファイレクシアの抹殺者》 4 《強迫》 3 《基本に帰れ》 3 《冬眠》 2 《虐殺》 -サイドボード(15)- |
2001年エクステンデッドのGP仙台を優勝した、筆者が作ったデッキ! マイクロングにも褒められた! 実はデッキ名は「アサハラゾンビジム」という謎のものだったが各所で完全に無視されたといういわく付きのデッキです。だから何だという話ですけどね。
それではまた次回会いましょう。
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