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MAGIC STORY
タルキール覇王譚
テイガムの策謀
テイガムの策謀
Matt Knicl / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2014年10月1日
テイガムと呼ばれる男は「シディシの手」として、スゥルタイのカンの個人的執行者として知られている。だがテイガムはずっとスゥルタイの者だったのではない。そして彼のかつての氏族員達はそれを忘れていない。
スゥルタイについて更に学ぶには、「プレインズウォーカーのための『タルキール覇王譚』案内」を読んで欲しい。
マラング川はスゥルタイの領土を貫いて密林深くに、そして彼らの最も華々しい宮殿の多くを囲むように流れている。それらの宮殿から遠く離れた川沿いには、華々しさに欠ける居住地が存在する――木製の柱と足場の上に建てられた、農民や漁民の住居が。多くの者にとって湿地帯の密林は生きにくい場所だが、そこに生活を営む意味を見つけた者も存在する。だがかろうじて生活できているだけに過ぎない。彼らの胃袋はその財布と同じように空っぽで、キシュラの小さな街はスゥルタイに搾取されている。それが税金なのか公然の強請なのか、彼らは思い出せない。だがシディシの手がそれを集めているということは知っている。その街の指導者と言える男女の小集団は、スゥルタイと交渉する時にただ集められるだけの者達だった。
《宝船の巡航》 アート:Cynthia Sheppard |
船が船着き場へと引かれた。それはゆっくりと動き、船の舳先から水中へと綱が伸びているのを村の指導者達は見た。水は浅く、不死者シブシグの下僕達が船を引いていた。数体の頭が一部、喫水線の上に見えていた。その多くは今訪れているその村にかつて住んでいた者達だった。若い指導者の一人は船着き場の脇に嘔吐した。過去にもスゥルタイと取引をした他の者達は冷静を保った。シブシグとは対照的に、船そのものは華やかで、黄金に飾られていた。微風が香料と香辛料の匂いを指導者達まで運んできた。人間のスゥルタイ執行者が指導者達へとタラップを下ろし、船に乗って甲板下へ向かうよう促した。
硬貨が鳴る音だけが響いていた。テイガムは彼の椅子、絹の敷妙をあしらった華麗な黄金の玉座に座していた。彼はその手を剥頭のこめかみに当て、目を閉じ、その音を押しのけようと試みた。かつてはできた――あらゆる雑念から心を閉ざす。だがそれは彼がジェスカイであった時のこと。弱く、理想に溺れた氏族。だがテイガムは苦も無く、心の平穏無事を強さと引き換えたのだった。
「貴方が空中から黄金を引き出しでもするのであれば、更に手に入るとは思います。でなければ以前よりも少ないでしょう」 テイガムは苛立って言った。
低い笑い声が彼の隣で轟いた。
「俺がそのような隠し芸をするとでも?」
「できるかどうかは疑いません。貴方が、他者から奪うのを好まれるかどうかだけです」 こめかみをさすりながらテイガムは言った。
再び、低い笑い声があった。
「お前はその頭痛をどうにかするべきだな。国民が待っているではないか」
再び笑い声があり、そして硬貨の鳴る音が続いた。
テイガムは常に、さらに多くを渇望していた。若い頃、彼はその意味するものを知ることはなかった。ジェスカイの要塞の影の中、漁民の小さな村に生まれ育ち、彼は知識が意味するものを常に考えていた。そうさせたのは彼の父だった。知恵は尊敬の基となる。尊敬は安定した人生の基となる。彼はその寓話を信じていた、少なくともしばらくの間は。彼は他の僧達のように肉体的な闘士ではないと気付いた。だが彼の力の多くは心の中に眠っていた。他の者達が真珠道やカマキリ乗りに熟達する中、テイガムは巻物の内容と教師からの授業を吸収した。彼は闘士でもあったが、巻物の方を好んだ。彼はジェスカイのカン、ナーセット直々の訓練を受ける栄誉に与りさえした。彼女はかつて、テイガムは自身の最も優れた弟子の一人だと認めた。テイガムはその言葉を大いに誇らしく感じたが、同時に、彼がジェスカイで得ることのできる高みとは何処になるのだろうという疑問を感じた。尊敬か? 名誉か? 安定した人生か?
《テイガムの策謀》 アート:Svetlin Velinov |
彼は他の氏族に加わるために旅立ったのではなかった。事実、彼は放浪の戦士の道を進むことを選んでいた――もしくは、ナーセットや共に訓練をしていた他の僧達へとそう告げていた。彼は魔術の異なる修行法を見つけ出すことを、できれば戦いの異なる型を学べればと願っていた。テイガムは塩路近くの交易所、プルギールへと旅をした。教師か護衛かどちらかとして仕事を見つけられればと思っていた。彼は常にスゥルタイを、退廃的な怪物達だと聞いていた。それには概ね同意したかったが、プルギールを通過する彼らの貴族達数人を見ると、それらは彼の興味に火をつけた。彼らは高価な衣服を身に付け、鋭敏な観察眼を持っていた。だがテイガムは彼らの興味にも同じように火をつけた――仕事を探すジェスカイというのは妙だった。
その夜、彼が眠る宿屋に一人のラクシャーサが彼を訪ねた。ラクシャーサは強大なデーモンであり、スゥルタイの力と不死者の多くは、古の時代に彼らと交わした取引に由来していた。エビーリという名のそのラクシャーサは、テイガムとの取引を求めた。聡明なるテイガムの最も謙虚な下僕になるという特権と引き換えに、彼にスゥルタイの素晴らしい富と力をもたらすと。テイガムは何かしら騙されているとわかっていた。だがその、即座の力の確約は彼の判断力に打ち勝った。契約が成され、テイガムは力と引き換えに、その人生をラクシャーサへの奉仕に捧げると誓った。
テイガムはスゥルタイのカン、シディシの首席助言者へと成り上がった。群れの暴君はテイガムを、宮殿の外で彼女の命令を執り行わせるために送り出した。それは素晴らしく名誉あることだった。彼女は通常、疑念を抱いた相手を近くに置く。その者の人生をすぐに終わらせられるよう。テイガムはスゥルタイ領のあらゆる所でシディシの支配を執行した。全て、彼を縛りつける真の主エビーリの監視の下で。
農民達は臭かった。湿ったシブシグを覆う香辛料と香料でさえも、テイガムの前に立つ田舎者達の臭いは取り除けなかった。彼らは悩んでいるように見えた――常に悩んでいるように見えた――口を開いていいのか、それともテイガムが話し始めるのを待つべきなのか定かでないようだった。テイガムは満足げに彼の椅子に座り、少々の間彼らを悶えさせていた。それらは真のスゥルタイではなかった。彼らはスゥルタイの領土内に生まれた不幸な者達に過ぎず、とはいえスゥルタイへと税と食物を提供する義務を負う。シディシにとってはシブシグほどの価値もない存在だった。
このあたりでは珍しい、やや年老いた男が口を開くために進み出た。テイガムが驚いたことに、その者は最初に喋ったにも関わらず、その髪に白いものすら混じっていななかった。
「我が主テイガム様」 彼は言った。頭を低く下げ、近づきながら。「次の積み荷は今回の割り当て以上のものになると思われます。そのため、前回の積み荷の不足分を補えるかと存じます」
その男は明らかに、何故スゥルタイがそこにいたのかを推測していた。そしてそれは良い推測だった。テイガムは穏健な反応に失望した。彼は楽しみを求めていた。
「何故お前は上位の者の前にひざまずかない?」 テイガムは嘲るように笑いながら尋ねた。
その男は屈み、ひざまずいた。テイガムが咳払いをすると、その男は姿勢を正して額を床につけた。影の中で、ラクシャーサのエビーリが笑った。
「貴方が彼に頭を下げさせたいのなら、彼は甲板の下からお辞儀をせねばならんでしょうよ」
テイガムは声に怒りを込めて言った。
「お前の子供は何人いる?」
その男は平服したまま動かなかった。
「三人ございます、我が主様」
「今からは二人だ」 テイガムは言った。彼は人間の衛兵へと頷くと、その者は頷き返して船を出ていった。
船の外。川にて、シブシグが水の中に立ち、テイガムの小船を舫っていた。かすかな人影がシブシグ達の頭を飛び石のように使い、水の上を駆けていった。
テイガムが送り込んだ衛兵が仕事を行うために船を出ると、半ダースもの小さな短刀が彼の身体をめった刺しにし、彼は何が起こったかを実感することもなく倒れて死んだ。その人影は綱へと走り、その仕事を行う準備をした。
《跳躍の達人》 アート:Anastasia Ovchinnikova |
テイガムにその残忍性を楽しむ時間はなかった。船の両脇から、かすかな人影が三つ、窓を通って部屋へと飛び込んだ。三人のジェスカイの僧たちが拳を握り締めて立っていた。彼らはテイガム目がけて駆けた。農民達は反対の方向に逃げ、入り口を目指した。
「ナーセット様の御意志により!」 彼らの一人が叫んだ。
テイガムは抵抗しようと動いた。彼は最初の拳を避けることはできたが、次の一撃は彼の肩をとらえ、彼は床に転がされた。テイガムの技能は錆つきこそしているものの、実戦を完全に忘れてはいなかった。彼は落下の勢いを利用して最初の僧へと蹴りを放った。それは膝近くで脚をとらえ、僧の脚を逆の方向に曲げた。その僧は苦痛に悲鳴を上げて倒れた。
エビーリが影から現れた。残った僧の一人がテイガムへと短刀を投げたが、ラクシャーサがその方向へと唸り声を上げると、それらは不可視の壁に衝突したかのように床へと落ちた。通常は背を曲げているエビーリだが、その猫のデーモンがまっすぐに立つと、その頭は天井に当たるほどだった。テイガムは床から何とか立ち上がり、混乱の中でそのデーモンから解放される好機を見た。ラクシャーサが暗黒の魔術を願うと、その両眼から紫色の霧が現れて僧の一人へと向かった。テイガムは足首から一本の短刀を抜いてそのデーモンへと向かった。暗殺者達は彼を殺すためにやって来たのだが、テイガムは知っていた、彼の人生において最大の脅威は常にそのラクシャーサなのだと。
《ラクシャーサの大臣》 アート:Nils Hamm |
残る僧がテイガムの腕を掴んだが、スゥルタイは身体をひねって避け、別の手に短刀を持ち替えてラクシャーサを攻撃した。その短刀はエビーリの脇腹に突き刺さり、彼の集中を妨げた。宙に浮かび、煙に窒息させられていた僧が床に落ちた。エビーリは吼え、テイガムと彼を掴んでいる僧の二人を逆手で打った。彼らは共に壁に叩きつけられたが、その僧は思い留まらなかった。彼はテイガムの喉を突き、その息を詰まらせた。ラクシャーサはその僧の衣服を掴んで引き寄せ、その頭部を掴んだ。そしてそれを握り潰し、脳と頭蓋骨が船室中に弾け飛んだ。無傷の僧は体勢を立て直していたが、エビーリは呪文を続け、暗黒の魔術で僧を絞殺した。
テイガムはようやく息をついた。そして巨体のラクシャーサが彼の服を掴んで引き寄せた。スゥルタイの顔は彼の口の横にあった。
「お前は俺のものだ」 エビーリは唸って言った。
ラクシャーサがテイガムを落とすと、彼は立ち上がった。まだ生きている僧が一人いたが、脚の怪我から動くことはできなかった。
「誰がお前達を送り込んだ?」 テイガムは尋ねた。
「ジェスカイのカン、ナーセット様だ」 彼は苦痛に怯みながらも、テイガムへの軽蔑を込めて言った。
「彼女のやり方とは思えない」 テイガムは返答した。「彼女がお前を送り込んだのか、それともお前が彼女の名で行動していたのか?」
その僧は返答しなかった。テイガムがエビーリへと頷くと、そのラクシャーサは僧の胸を踏みつけ、そして潰した。
「ジェスカイのカンが暗殺者を使ってお前を殺す、そう考えるか?」 エビーリが尋ねた。
「そうは思いません」 テイガムは言った。「奴らは熱狂しているだけです。ほとんどの者は彼女ほどの知識もなく行動するでしょう。今も多くのジェスカイが、私のように誤った者が退場するのを見たがっているのは確かです。そして近頃ではこういった揉め事が増大しています。そのため私も、愛しの老ナーセットが最終的にさらなる脅威にならないとは断言できません。覚えておきます」
エビーリは唸った。
「心しておきます」 テイガムは力強さを込めて言い直した。
エビーリは応えなかったが、影へと戻った。テイガムはシブシグへと、小船を動かし続けるように合図した。そして彼は黄金の制服を着せるべく、損なわれていない僧の死体の背格好を測り始めた。
KhansofTarkir タルキール覇王譚
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