MAGIC STORY

ブルームバロウ

EPISODE 04

第4話 占術と嵐呼び

Valerie Valdes
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2024年7月5日

 

ヘルガ

 長川に翻弄されて負傷し、疲れ果て、ようやく陸に這い上がると骨だらけの洞窟につかの間の避難場所を見つけた。そんなヘルガは、自分と他の者たちを取り囲むラットフォークの一団とその武器をぼんやりと見つめることしかできなかった。数日のうちに三度も死にそうな目に遭い、そして今また脅かされている。反抗心や恐怖の火花はとうに彼女の内から消え、残るのは灰だけだった。

 「お気づきではないかもしれませんが」彼女はそう訴えた。「来ようとして来たわけではないのです。どこに辿り着くのかもわからなかったのです」

 「関係ない」ラットフォークは短剣を振り回して言い放った。「出て行け、さもないとお前たちの死体が虫の餌になるぞ」

 ハグスは驚くほど優雅に立ち上がり、うなり声をあげた。フィニアスは跳んで避けようとするかのように緊張し、ゲヴの両目は橙色に燃え上がった。

 「早まらないで」メイブルは武器を持たない片前足を上げて言った。

 「狙いを決めて不意討ちする準備はできている」ラルはそう言い、腕当てに稲妻をまとわせた。

 引きずるような足音が洞窟の入り口から近づいてきた。ラットフォークたちが後ずさりすると、貝殻で飾られた外套をまとう皺だらけの姿が現れた。かつてはもっと黒かったのであろうその毛皮は、今では薄い灰色に褪せていた。その老ラットフォークは持ち手にカタツムリの殻をつけた杖に寄りかかり、動きは骨が痛むかのようにゆっくりだった。頭巾の下からこちらを見つめる目は、片方は黒く、もう片方は赤かった。

 「このよそ者らは他とは違う」老ラットフォークの声は柔らかく、少し咳が混じっていた。「川がわしらのもとへ連れてきたのだ。歓待せねばならんよ」

 彼らは武器を鞘に収め、あるラットフォークはヘルガが立ち上がれるように前足を差し出した。ヘルガはためらい、そして応じた。

 「こちらへ」老ラットフォークが言った。「わしはカフィー。そなたらは先へ進む前に、休息と食事が必要であるな。そなたらの探求に力添えができるかもしれぬ。良いかな?」

 メイブルはひげをひくつかせたが、身体からは力を抜いた。「それは、本当に感謝いたします」

 カフィーが杖を振るうと、うねのある二枚貝の殻が横にずれ、ハグスが屈むことなく入れるほど広いトンネルの入り口が現れた。暗闇からはカビとキノコの匂いが漂ってきた。ヘルガは改めて考えた――この見知らぬ者たちに従うのは重大な過ちではないだろうか?

 「本気なのか?」ラルは尻尾を泥に打ち付け、そしてびくりとして自らの尻尾を睨みつけた。まるでそれが自分を怒らせたかのように。それでも、彼はメイブルの後についた。

 ラットフォークたちはカフィーの歩調に合わせ、石灰岩の迷路の中を進んでいった。穴だらけの壁面には貝殻の模様や曲線、渦巻き模様が厳然たる歴史を刻み込んでいた。ラットフォークがそれらを彫ったという明白な証拠は見当たらなかったが、床は滑らかでわずかに凹んでおり、長い年月の間に数えきれないほどの足が通行してきたと示していた。ラットフォークたちが近づくと魔法の燭台に光が点り、通り過ぎるとそれらは消えた。脇道や、空の寝台が並ぶ簡素な部屋が時折現れた。

 「ここは何なんだ?」ラルが尋ねた。

 「わしらの村だ」老ラットフォークは言った。「かつては太古の巣穴で、遥か昔に巨大な昆虫が作ったものだ。今ではすっかり忘れ去られている。ああ無論、わしら以外の誰もに忘れ去られているという意味だ」

 ヘルガは震えていたが、それは岩の奥深くに降りていくにつれて空気が冷たくなったからだけではなかった。

 「皆さんはここで何をされているのですか?」メイブルが尋ねた。

 「わしらは伝承の守り手だ」カフィーの息遣いは、穴のあいたふいごのようだった。「ブルームバロウと渓間の歴史を内に保存している。わしらが見つけた物語、岸に打ち上げられた伝説の断片はすべて、次の世代のために骨壷に保管している。過去が現在を、そして未来を形作るのだ」

 何度も角を曲がり、ヘルガはもはやどう脱出すればいいかがわからなくなっていた。そしてとある木製の扉に辿り着くと、カフィーがそれを開いた。彼は全員に中に入るよう促し、ラットフォークの護衛たちは彼らがいるべき隠れ場所へと静かに戻っていった。

 ヘルガが驚いたことに、その部屋は広々としながらも寛げそうな雰囲気だった。天井から明かりの籠がひとつ吊り下げられており、中には淡く光る真珠が詰まっていた。座り心地のよさそうな椅子が壁のそばに置かれていた。壁は天井まで続く本棚で埋め尽くされており、その一部には螺旋階段を用いて辿り着くようになっていた。本が何列も並び、積み重ねられ、また様々な小物が置かれていた――光沢を放つ青い甲虫の殻の彫刻、蛾の羽を鱗のように貼り付けた箱、色を塗られた流木でできた仮面。石の床には柔らかな敷物とクッションが置かれ、鉄樹液のストーブが部屋を暖めていた。中の泥炭は煙が出ないように呪文がかけられているらしい。海藻と湿った土の香りが、淹れたてのカミツレ茶のそれと混ざり合っていた。ティーポットの向こうに、焦げ茶色のモグラフォークが立っていた。彼は両膝に継ぎ当てのあるキルトの上着をまとい、鼻に眼鏡を乗せていた。

 カフィーは椅子のひとつに腰を下ろし、杖を近くに置いた。小さなダンゴムシが隅の籠から身を出し、彼へと駆け寄ってきて足元に落ち着いた。

 「飲み物が欲しい者はおるかね?」カフィーは尋ねた。

 「はい、お願いします」メイブルが言った。「全員、いりますね?」

 カフィーはそのモグラフォークへと顔を向けた。「タッカー、頼んでも良いかね」

 タッカーは雑多な茶杯を取り出して一同に茶を淹れ、それから種入りのケーキを切り分けはじめた。自分が確保したクッションに身体を預け、ヘルガはありがたく茶をすすった。長い間ハグスにしがみついていたために腕も脚も痛み、荒れ狂う川の流れに漂流物をぶつけられてできた痣も目立っていた。他の皆も同じような状態だったが、おそらく一番酷い目に遭ったのはハグスだろう。全員が座っていたが、ラルだけは本の背表紙を見つめ、時折一冊を引っ張り出しては中身を流し読みしていた。

 「敵意ある出迎えをして申し訳なかった」カフィーが切り出した。「客は滅多に来ない上に、他所からの者らがここを通過するのはここ数日で二度目なのだ。最初の者らはあろうことか騒ぎを起こし、以来わしらは警戒を強めておる」

 「他所からの者とは?」黒い瞳で刃のように鋭く見つめ、メイブルは身を乗り出して尋ねた。

 「傭兵だ」カフィーは杖を振り上げ、宙に円を描くとカタツムリの殻の柄から青紫色の魔法が螺旋を描いた。その中心に、ゆらめく映像がひとつ形を成した――頭巾付きの赤い燕尾服をまとうイタチフォークが、腕甲をまとう片前足でレイピアを振り回している。その右目には、爪で引っ掻いたかのような斜めの線が三本、恐ろしい傷跡として走っていた。

 「この者が残虐爪だ」カフィーは続けた。「沼地で手下を率いて好き勝手に盗みを行い、それに続いて夜のフクロウが大惨事をもたらした」

 「私たちもそのイタチフォークを探しているんです!」ヘルガは叫び、そして両手で口を覆った。両親に何度も言い聞かせられたように、感情を爆発させるのは礼儀正しいこととは言えない。

 メイブルはそれを叱らなかった。「私たちは、夜のフクロウによって壊滅させられた村で、彼の部下らしき死体使いに遭遇しました。襲撃の原因を知っていたようでしたので追いかけたのですが、三本木市の港が洪水のガーに襲われて。それで見失ってしまいました」

 「洪水のガーですと?」タッカーが甲高く叫び、茶を零した。メイブルは立ち上がって布で拭き取るのを手伝った。

 「残虐爪を止めねばならない」カフィーは強調するように語った。「更に多くの災厄の獣がこの狂気に加わる前に」

 「ですが、残虐爪はどうやってあんな攻撃を起こさせているのでしょうか?」ヘルガは困惑しながら尋ねた。「災厄の獣よりも大きな力を持つなんて誰にもできません。ヒイラギ葉の騎士団の時代の、偉大な織り手でも無理です」

 「残虐爪は何かを盗み、それがあの者自身に、あるいは雇い主である何者かにそのような力を与えたのかもしれぬ」カフィーは心を痛めるかのように目を閉じた。「わしらの斥候は、あの者が災厄の獣の卵を所持していたと報告してきた」

 ヘルガは息を呑んだ。ひびの入ったティーポットから水が流れ出るように、血の気が引くのを感じた。

 「その卵ってのは……重要なのか?」ラルが尋ねた。額に載せたゴーグルの下、灰色がかった青い目が狭められた。

 「その卵から、いつの日か新たな災厄の獣が生まれるのです」タッカーが説明した。そのようなものがいかなる魔法の力を秘めているのかなど、誰にも分かりません」

 「全く何もないかもしれません」メイブルは自身の茶杯をとって座り、考え込んだ。「卵の価値はおそらく、そこから何が孵化するかによって決まるのでしょう。残虐爪に命令を下している者がいるのなら、見つけなければなりません」

 「見つけたなら」左右で異なるカフィーの両目が石炭のように輝いた。片方は明るく、もう片方は暗く。「どうするのだ?」

 メイブルの声は決然としていた。「私たちが、卵をあるべき所へ戻しましょう」

 フィニアスが跳び上がった。「メイブル、駄目だ! 何を考えているんだ? オリヴァーはずっと君を英雄と呼んでいたが、これはちょっと行き過ぎだ。僕はただの農夫だし、ゾラリーネは一介の聖職者だし、ゲヴとハグスのことなんて誰も知らない――」

 「おい?」ゲヴは息を鳴らして尻尾を熱く輝かせた。「シマシマ愚連隊は傭兵なんて恐れないぞ。災厄の獣だって」

 ラルは笑いをこらえて息を詰まらせ、メイブルは抑えつけるような視線を送った。ゾラリーネが身じろぎをし、翼を広げて逆さまのまま部屋を見回した。

 「卵の窃盗は世界の均衡を崩しました」彼女はそう言った。「調和を取り戻さない限り、星々の音楽は不協和音を奏で続けるでしょう」

 その言葉の具体的な意味はわからなかったが、誰も災厄の獣の卵を持ってうろつくべきではないということにはヘルガも同意だった。特に、夜のフクロウが彼らを追いかけて災難を引き起こしているならなおさらだ。けれどフィニアスと同じように、彼女も不確かだった――果たして自分は何らかの力になれるのだろうか?

 「参考までに」ラルが言った。「君たちについて俺は何も知らないが、ヘルガが俺とベレレンとを繋ぐ唯一の手がかりである以上、全員を生かすために力を尽くしてやるからな。たとえそれが、フクロウだの巨大魚だのと戦うことを意味するとしても」彼はそこで一呼吸を置き、独り言のように付け加えた。「ここに中継塔を設置するかもしれないし」

 既に話した以上のことは何も知らない、ヘルガはそう抗議したかったが黙っていた。

 メイブルは茶杯を床に置いて立ち上がった。「私たちはこの問題について知りました。すなわち、私たちは責任を負っているのです。卵を見つけ出さなければ、渓間にどのような危害がもたらされるかわかりません。私たちの家族や友達に。そしてそうではなくとも、誰かの家族や友達である方々に」メイブルは部屋中を見回し、各々へと順番に目を向けた。「皆さんは勇敢で、賢く、機敏で、強く、親切です。私たちはここまでやって来て、一緒に努力し、一緒に戦ってきました。だから、この問題も一緒に解決できます」

 ヘルガは失敗した呪文を思い出した。あのせいで、戦いの最中にメイブルは地面に落ちそうになったのだ。周りの誰もが戦っている中、自分はうずくまっていた。自分は勇敢でも、賢くも、機敏でも、強くもない。親切だろうか? そうであると願ってはいるが、親切さで何ができるというのだろう?

 「残虐爪を止めたいのだとしても」フィニアスが抗議した。「奴がどこにいるのか、どこへ向かっているのか、僕たちは全く分からないのだよ。奴を見つけられなければ、阻止することなんてできやしない」

 「その問題は、ヘルガさんが解決してくれるかも」メイブルが言った。

 「私?」ヘルガは胸に手を当てた。「私に何ができるのですか?」

 「占いの術を用いて残虐爪を見つけるのです」

 抗議は言葉にならないうちに消え、ヘルガは不安な笑みをメイブルへと向けた。そんなことを頼まれるのは初めてだった。そんなことができると信じてくれた相手すらほとんどいなかった。両親も、兄弟姉妹も、近所の皆も……支えてくれたのは祖父母だけだった。それも、愛情から甘やかされているだけなのかもしれないとずっと疑っていた。

 けれどメイブルは信用してくれた。信じてくれた。そしてラルは、全くの部外者であるというのに、自分の絵の中に真実を見出して、守護者となってくれると誓ったのではなかったか?

 「やって……みます」ヘルガはゆっくりと言った。「大きな水盤が必要です」

 磨かれたカタツムリの殻でできた水盤と水差しをタッカーが持ってくると、ヘルガの近くの床に置いた。彼は一滴も零すことなく水差しから水を注いだ。カフィーが身振りをすると籠の中の真珠が放つ光が弱まり、淡い桃色をした水面にほんのりと輝くだけになった。

 ヘルガは防水袋を開けて日記帳を取り出し、長川で水びたしになっていなかったことに安堵した。そして夜のフクロウが襲撃してくる直前に描いた、奇妙な鷹の絵に目を向けた。何か繋がりがあるのだろうか?

 「それは何だ?」ヘルガの肩越しに覗き込み、ラルが尋ねた。

 「よく分かりません。私も、こんなものは見たことがありません」

 「その頭と翼、見覚えがある気がするんだよな」彼はそう呟いた。「そのうち思い出すか。君は君の仕事をしてくれ」

 ヘルガは白紙の頁を見つけ、鉛筆を紙に当てた。部屋は静まり返り、一番大きな音はカフィーの咳混じりの息だった。彼女は澄み切った静かな水を見つめ、心を落ち着かせ、自身の内へ、幻視が湧き出す場所へ辿り着こうとした。

 何も起こらなかった。

 辺りは気を散らせるもので溢れていた。影の中の本棚、泥炭と湿った衣服の匂い、布地のこすれる音、耳やヒゲのわずかな動き。鉛筆の先端を紙に押し当てると、左目の裏に痛みが生じた。頑張りすぎていることはわかっていた。力を抜かなければ。ただし、成功しなければ。残虐爪の居場所や目的地の手がかりが見つかるかどうかは自分にかかっているのだ。自分がまた失敗したなら、それは全員の失敗を意味する。そしてどうなる? 夜のフクロウの襲撃が続くのだろうか? もっと多くの村が破壊されるのだろうか? 想像もできないほど悪いことが起こるのだろうか? 胸が締め付けられ、呼吸は浅く小さくなっていったが、水は依然として何も示さなかった。

 ゾラリーネが優しく触れ、ヘルガははっと驚いた。「光はあなたの中にありますわ」そのバットフォークが囁いた。「無理に光らせる必要はありません。ただ、露わにすればいいのです」

 ヘルガは反射的にその言葉をはねつけようとしたが、そうはせずによく考えた。確かに、自分の占いは他の織り手のように、意識して引き出すものではない。集中していたなら制御はできない。落として散らばったビーズみたいな方がいいのだ。池のほとりであの陰鬱な日にやったように――つまり日記帳を持って座り、落書きをするだけ。

 ゆっくりと深く息を吸い、ヘルガは鉛筆の握りを緩めた。目的のない螺旋をひとつ描いた。それをカタツムリの殻にした。そして視線を水盤に戻した。色は均一ではなく、水面も完璧に平坦ではなかったが、綺麗に澄んでいた。似た色をしたサポナリアの花を見たことがあったが、あれはもっと暗い桃色だった。もう咲き始めているのだろうか? まだだとしても、もうすぐ……

 時は濡れたインクのようにぼやけた。誰かがヘルガの手から日記帳を奪い取った。視線を上げると、メイブルが日記帳を裏返して皆に見せていた。何があったの? ヘルガは呆然としたが、やがて自分の作品を見た。

 睡蓮の葉が点在する池に三段重ねの巨大な噴水がそそり立ち、その頂上には優美な水の尖塔がそびえていた。ヘルガは絵についてはそれなりの腕前だと自負していたが、たとえそのスケッチがそこまで上手ではなかったとしても、それが何であるかは渓間の誰もが容易に認識できただろう。

 「噴水港へ行ったのですね」ヘルガは囁き声で言った。

 「では、私たちも」メイブルが言った。「お見事でした」

 他の者たちも同じように称賛した。ただヘルガは手放しで喜ぶことはできなかった。グラルブ王の領土へ、つまり自分の最大の失敗の地へ戻ることになるのだから。


メイブル

 もてなしへの心からの感謝をカフィーとタッカーに告げ、一行は旅を再開すべく出発した。快適な隠れ家でもう少し休みたくはあったが、残虐爪とその傭兵たちは頭ひとつ先んじているのだ。いや、頭どころか肩や胸まで。

 「そなたらの成功を祈ろう」カフィーは彼女へとそう告げた。「獲物を追跡するために、わしらも少しだが戦える者らを送り出した。会ったなら助け合えるかもしれぬな」

 助けはありがたかった。残虐爪の部隊にどれだけの傭兵がいるのかはわからないが、死体使いたちはそれだけで軍隊ひとつに匹敵するのだ。

 タッカーは匂いから判断して――泥よりも草の方が強い――来た道とは異なるトンネルを通って彼女たちを案内した。やがて一行は午後遅くの陽光の中、湿地帯の端に出た。遠く北と西にはネズとオーク樹の森が広がっていた。東には子供のおもちゃが捨てられたように、荒々しい岩がぼんやりと見えた。岩と岩の隙間には赤いシダやトキワサンザシの群生が点在していた。

 「噴水港はどちらの方角ですか?」メイブルが尋ねた。

 「東北東ですよ」タッカーは眼鏡の上から彼女を見つめて答えた。「まず北へ、それから東へ向かえば、森の中に村が幾つかあります。休憩したり、食糧を調達したりできるでしょう。その経路で行きますと丘にはリザードフォークの家が数軒あるだけですが、道はバードフォークが飛ぶようにまっすぐです」

 メイブルは星図をじっと見つめた。夜になってゾラリーネが目覚めたなら助言してもらえる、けれどそれまでは……

 「近道、知ってる」ハグスが低い声で言った。

 ゲヴが尋ねた。「あのタンポポ野原か?」ハグスは頷き、リザードフォークは溜息をついた。

 「その近道には何か問題があるの?」メイブルが尋ねた。

 「ヤブジラミだらけなんだよ。とにかくくっつく種をハグスの毛から取るのに一生かかるんだ」

 くっつく種など、これまでに自分たちが直面してきたものに比べたなら簡単な問題だった。だが残念なことに、タッカーも口を挟んだ。

 「今はその道は危険かもしれません。何日か前ですが、大嵐が恐ろしい生き物を連れてきたのです。とても危険です」

 「どんな生き物だい?」フィニアスは弓を握りしめ、耳を後ろに傾けながら尋ねた。

 タッカーは眼鏡を直した。「私自身で見たわけではありません。災厄の獣ではないと聞いていますが、とても近しいようだと。私たちの歴史には、それに似たものについての記録はありません」

 ヘルガは不安にうめき声を発した。

 「もしかしたら、別の次元から来たのかもな」ラルが呟いた。

 「別の、何だって?」フィニアスが尋ねた。

 「何でもない」

 メイブルは好奇心とともにそのカワウソフォークを見つめたが、今は詮索している場合ではない。「そのタンポポ畑の方が近道なのであれば、そちらにしましょう。必要に応じて東や南に進路を変更します」

 タッカーはトンネルの出口に立っていたが、メイブルたちが遠ざかるにつれ下がっていった。ヘルガが最後にもう一度手を振ると、タッカーも厳粛に振り返した。

 太陽がほとんど動かないうちに、一行はハグスの言うタンポポ野原に辿り着いた。彼とゲヴが先導し、細い草の中に伸びる花茎と、より繊細なヤブジラミの花の間をかき分けて進んだ。明るい黄色の花弁がそよ風に揺れ、強い突風に、あるいはハグスが肩をかすめると白い綿毛が時折飛び、種が風景に漂っていった。傭兵たちの気配も嵐の気配もなく、蝋燭の煙のようにかすかな雲だけが流れていた。

 やがてその沈黙はフィニアスの不安をかき立て、それは憂鬱な気分を上回ったようだった。彼はラルに矢のように質問を投げかけ始めたが、ヘルガに見せた時よりもその陽気さはわざとらしかった。

 「どこの出身なのか聞いてもいいかな?」

 「遠くだ」

 「外森よりも?」

 「もっとだ」

 フィニアスは跳ねて石を避けた。「故郷に家族はいるのかい?」

 いかなる理由からか、ラルはその質問に一瞬置いて答えた。「旦那がいる。トミクって名前だ」彼は尻尾で花を叩いたが、それは偶然ではなく故意にだったようで、フィニアスは次にと用意していたらしい質問を矢筒の中に留めた。彼はハグスのすぐ背後まで足早に歩き、一方ラルは歩みを緩めて他の者たちと距離をとった。

 メイブルは歩調をラルに合わせ、足元ではタンポポの葉がざわめいた。一匹のてんとう虫が草の茎を這い上がり、羽音を立てて飛び去った。蟻の行列がミミズの糞の山を通り過ぎ、謎めいた任務を遂行していた。ぼんやりと、メイブルは出発前にタッカーが押し付けた種入りのケーキ一切れを取り出し、小さくちぎって味見した。美味しい――キャラウェイの量が丁度良い。ラルに少し差し出すと、彼は鼻に皺を寄せた。

 「美味しいですよ。本当に。私の生業は菓子作りですから」

 「そうなのか?」ラルは彼女の剣を見つめ、信じられないという様子で尋ねた。「じゃあ、どうしてわざわざこんな所で揉め事を解決しようとしてるんだ?」

 「そちらは、どうして家からそんなに遠くでお友達を探しているのですか?」

 「ちょっとな……」ラルは種入りケーキを少し取り、口に放り込んだ。

 「夫に会いたいです」メイブルは言った。「子供たちにも。皆の匂い、声、優しく抱きしめてくれる……」

 ラルはしばし黙っていたが、やがて言った。「俺も旦那に会いたいよ」彼は手首に結んだ白い布を無意識にこすりながら、自身の発言に驚いたように見えた。「誰かに会えなくて寂しいなんて、一度も思ったことはなかった。それに、ベレレンを見つけ出すことに集中していたから、そんな気持ちも無視できてた」

 メイブルは彼の腕を軽く叩いた。「きっとすぐに帰って、再会できますよ。離れ離れになったことで、その方のありがたみをもっと強く感じるでしょうね。その方もあなたを」

 「そんなふうに楽観的に考えられればいいんだけどな」ラルは呟いた。「ベレレンはウナギみたいに掴み所がなくて、何を企んでるのかもさっぱりわからん」彼は腕甲でタンポポの茎を叩き、種を飛ばした。

 そのウナギというものが何なのかはわからず、だが一瞬メイブルの毛皮が逆立った――天空に輝く星々のように、自分の理解を超えた巨大で不可解な何かがあるという、とても奇妙な感覚。そのベレレンと同行者たちを、あるいはラルも含めて警戒するべきなのだろうか?

 まるでずっとそこにいたかのように、ゲヴが彼女たちの間に現れた。「俺は渓間の端っこにあった昔の家が懐かしいよ。あそこの石はすごく暖かかった。永久燃えの樫ほどじゃあなかったけどね」

 「永久燃えの樫に行ったことがあるのですか?」ヘルガは尋ねた。

 「そりゃあね」ゲヴは頭を素早く上下させながら言った。「シマシマ愚連隊はブルームバロウのあらゆるところに脚を伸ばしてるのさ」

 だが巨大な影がひとつ彼女たちの上を横切り、ゲヴの次なる言葉は消え去った。メイブルは空を見上げ、一瞬して剣を握りしめた。彼女の隣でラルは身体を強張らせ、青灰色の目に稲妻を輝かせながらゴーグルを下ろした。他の者たちも行進を中断した。

 「あれが何かはともかく」ラルは厳しい表情で言った。「嵐を呼んでる」

 その断言の通りに、黒雲が上空にかかった。畑を横切る鋤のようにうねるのではなく、水が穴から抜けるように渦を巻いており、その中心ははっきりとは見えなかった。風が強まり、花々が首を低く垂れるほどの勢いになった。それによって視界を遮るものが減り、メイブルはついにその荒々しい魔法の源を目撃した。

 一体の巨大な生き物が宙を舞い、その身体は紫色の稲妻をまとっていた。鳥のような姿というところは太陽の鷹に似ているが、その怪物は二枚ではなく四枚の翼を持っていた。それらの先端はバットフォークのような皮膜になっており、頭部にはリザードフォークに見られるようなトサカがあった。背中の羽根は泥の色で、隠羽も同じだが、初列と次列の風切羽は白く、尾には縞模様があった。鋭い爪はとても大きく、ハグスすらも難なく運べるのではと思えた。

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アート:Victor Adame Minguez

 「あれは何だ?」フィニアスは地面に伏せ、声を震わせながら囁いた。

 「ドラゴンだ」ラルは囁き返した。「動物に変化してる。予想通りだ。ドラゴンホークってとこか」

 「どういうことです?」ヘルガが尋ねた。

 「黙って聞いてくれ」ラルは静かに、それでいて力強く返答した。「あの生き物はブルームバロウのものじゃない。君たちが言う災厄の獣と同じように、すさまじく危険だ。気付かれたらやばいことになる」

 危険という点についてはメイブルにも疑問はなかった。「進み続けましょう。身体を低くして、糖蜜が注がれるようにゆっくりと。きらきらするものは隠して、お喋りもしないこと。ゲヴ、先頭に立って。他の皆はハグスの近くにいて。私は最後尾を行きます」

 ゲヴは瞬膜のまばたきで命令を承諾し、緑の中へと姿を消した。ハグスの大きな身体を隠すのは難しかったが、彼はカタツムリが速いと思えるほどの足取りで進んでいった。上空からその姿は小さな岩か、それに似たもののように見えるだろうか。ドラゴンホークの興味を引くようなものに見えなければ良いのだが。フィニアスは耳をぴんと立てて彼の隣に屈み、ヘルガもまた驚くほど静かに進んだ。ラルは腕甲が光に当たらないよう胸に押し当て、メイブルは剣を鞘に収めた。

 慎重を期したにもかかわらず、ハグスが目立たないようにするのは苦労を要した。突風が吹くたびにタンポポの綿毛が彼に当たり、種が宙に舞い上がって軌跡を残した。それは自分たちの動きを隠してくれるものであって、暗くなりつつある空を旋回する生き物に居場所を知らせるものではないことをメイブルは願ったが、望みは薄いように思えた。

 一本のタンポポがハグスの肩に当たり、白い綿毛がゾラリーネの顔をこすった。メイブルが恐怖したことに、眠っていたそのバットフォークはくしゃみとともに目を覚ました。その音は、風に吹かれる花や草のざわめきの中でも耳障りなほどに大きかった。全員が凍りついた。ゾラリーネは鼻をこすって翼を広げ、困惑しながら辺りを見回した。

 「ここはどこですの? なぜ皆様、そんなにも静かなのです?」

 ゲヴはゾラリーネの口に両手を叩きつけて塞いだが、既に遅かった。

 物騒に湾曲したドラゴンホークのくちばしが開き、長く二股に分かれた紫色の舌が露わになった。

 洞窟のようなその口の中で稲妻が閃き、激しい音を立てた。そしてそれは驚くほど深く耳障りな叫びをあげた。鳴き声というよりは咆哮だった。ドラゴンホークは一行をめがけて急降下し、彼女たちはそれぞれ身を屈めあるいは逃げ出した。死のように鋭い鉤爪がハグスのすぐ上の宙を掴み、その生き物は再び襲いかかるべく上昇した。渦巻く嵐雲はグレイビーソースのように濃さを増し、太陽を覆い隠して大気から暖かさを奪った。

 ラルがメイブルの隣に滑り込み、歯をむき出しにして言った。「幸運なことに、嵐は俺の管轄だ。けど残念だがドラゴンはそうじゃない。それに俺の魔法がここでどれほどうまく機能するかもわからない」

 「どんな助けでも大歓迎です」メイブルは言った。「私たち全員のためにも」

 「殺すことはできないかもしれないが、嫌な気分にすることはできそうだ」ラルは腕当てを軽く叩いた。「避雷針をくれ、導線に使えそうなものを」

 フィニアスは銅線が巻かれた矢をかばんから取り出した。「あれに何か噛むものをくれてやるよ」

 ラルは頷いた。「全員に、俺の合図で逃げるよう伝えてくれ」

 ドラゴンホークは再び急降下したが、フィニアスが放った銅の矢が口に刺さるとハグスから離れた。そして苛立つうなり声をあげながらまたも上昇した――矢はしっかりと刺さっていた。その間に、メイブルは自分たちを守ってくれるであろう隠れ場所を探した。森は北西かなり遠くにあったが、東の丘はしばらく懸命に走れば辿りつけそうだった。

 ドラゴンホークは今一度通過し、だが今回はゾラリーネが不気味に震える高音を発して相手の感覚を混乱させようとした。その生き物は目がくらんだかのようによろめき、再び舞い上がった。矢はそれでもまだ、湾曲したくちばしの横に刺さったままでいた。

 ラルの青灰色の両目が力に閃き、その力は彼の黒い毛皮を波打たせ、そして腕甲に収束した。うねる雲の上では、閃光に続いて不吉な轟音が響いていた。

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アート:Chris Seaman

 「ちょっとした雷は好きだろう? そうら、そっちのバッテリー容量を確かめてやるよ」ラルは腕甲をつけた腕を上げて叫んだ。「逃げろ!」

 「ついて来て!」メイブルは岩に向かって走り、他の者たちにもそうするよう促した。ゲヴはすぐに彼女を追い越し、フィニアスもすぐ後に続いた。ゾラリーネを背負うハグスはやや遅かったが、長い歩幅がそれを補った。彼はヘルガのそばを離れず、ヘルガはまるでお守りのように片手に杖を握っていた。

 頭上の分厚い灰色を、稲妻に次ぐ稲妻が切り裂いた。その明るさは二つめの太陽のようにも思えた。メイブルは立ち止まりたい衝動をこらえた。ラルの魔法のすさまじさに圧倒されながら、その光景を見つめたかった。荒々しい自然のエネルギーが雲から裂けてドラゴンホークの頭を直撃し、そのカワウソフォークへと集まった。確信はなかったが、圧倒的な雷鳴の中でラルの笑い声が聞こえたような気がした。

 ドラゴンホークは悶え、吠え、両目を荒々しく輝かせ、皮膚の下にはエネルギーの嵐が渦巻いていた――だが落ちてはこなかった。メイブルは顔をしかめた。反撃してくるだろうか?

 いや。その四枚の翼は紫色をまとう力で宙を叩き、やがて、かつては青かった午後のカンバスに今なお厚く垂れこめる雲塊の中へと姿を消した。それでも、メイブルは疲れた足を全力で動かして、丘陵地帯の岩に向かって走り続けた。

 一時間にも感じるほどの緊張した数分間が過ぎ、やがて本棚の中に一冊だけ入れられた本のように傾いた巨石の下に、ラル以外の全員が集まった。空が開き、雨が降り始めた。ヘルガは小声で呟きながら杖を掲げた。その先端のビーズはかすかな青に輝いていた。落ちてくる水滴は岩に垂直な薄い障壁となって固まり、最悪の雨をはね返した。メイブルは自分たちが逃げてきた方向へと目をこらした。

 やがて水のカーテンが割れ、ラルがゆっくりと歩いてくる姿が見えた。水はラルに触れていないようだった。ヘルガのように彼も雨を曲げているのだろう。

 避難場所に着く直前、彼は羽虫を払いのけるように空へと片前足を振った。降り続ける雨は薄い霧へと弱まっていった。雲は薄くなり、分かれ、一筋の陽光が差し込んだ。そして疲れたアニマルフォークたちの苦しい呼吸音以外に、ドラゴンホークの痕跡は何も残っていなかった。

 「これだけは言えるね、すごくいい魔法だったよ」ゆっくりと耳を上げて前に向け、フィニアスが言った。

 ラルは彼へと頷いた。「そっちもな。いい狙いだった」

 ゲヴは石の裏側にしがみついたまま、憤然として鼻先を舐めた。「で、俺が完璧な隠密行動をとったことと、あの怪物の注意を引かなかったことに対する褒め言葉は誰がくれるんだい?」

 「あなたも役割を素晴らしく果たしてくれたわよ、ゲヴ」メイブルが言った。

 そのリザードフォークは下瞼をあげ、だが受け入れたようだった。「結構結構。俺にはこれからやることがあるんでね。親愛なる友ハグスの毛皮にひっつきむしが沢山ついたから剥がさないといけない」

 ハグスは鼻を鳴らしたが、それが面白がってなのか嘲笑なのかはメイブルにはわからなかった。イースト入りのパンのように、彼女の腹の中に甘くて軽い笑いがふくらんだ。

 やがて雨は完全に止み、ヘルガは泡を弾けさせるように呪文を解いた。雨上がりの匂いが風景に満ち、これから泥だらけの地面を歩くことになるという予感にもかかわらず、心を和ませた。何せ自分たちはまだ無事に、生きている。そうでなかった可能性の暗い深淵に比べたなら、どれほど分厚いぬかるみだったとしても、大したことはないように思えた。

 「それでは、行きましょう」メイブルはマントの湿気を払いながら言った。「噴水港が待っているわよ」

 笛のような微かな音が聞こえ、皆の注意がハグスの背中に引き寄せられた。ゾラリーネは心配事など何もないかのように、小さな寝息を立てていた。耳の裏にタンポポの種が一粒くっついていた。


(Tr. Mayuko Wakatsuki)

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