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Magic Story -未踏世界の物語-
グルールの才気
読み物
Uncharted Realms
グルールの才気
Adam Lee / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2013年1月2日
やあどうも。
アダム・リーだ。私のことを知らない皆のために自己紹介すると、私は新ファイレクシア、イニストラード、ラヴニカといった世界を君達へと届けるために休みなく働くイゼット的機械、マジックのクリエイティブ・チームの一部だ。イゼット的と言ったのは、いつ何時にも、私達の頭の一つが創造の歓喜で爆発しかねないからさ。
私はジェンナからこの記事を引き継いで、彼女が届けてくれていた楽しさと興味とマジックの物語への洞察を君達へと伝えられると思っている。
時折、私はまた世界創造過程で何が起こっているか、そして最終的にマジックの物語の一部となるものの幾らかをどうやって思いつくのか、それらにかかるカーテンを引いてお見せしようと計画している。だけど大抵は、私達が創造した無数の次元の、ほとんど知られていない場所へとスポットライトを当てて、世界の中にある物語を語るつもりだ。
楽しんでくれますように、そして読んでくれてありがとう!
イゼットには常に最良の呪文があった。
カルはグルールの生まれだったが、それは彼の呪文を操る才能が正しく評価され得ないという意味ではなかった。彼はイゼットを長い間観察し、いかにしてマナを複数の流れへと動かし、エネルギーの弧を混沌のダンスへと繋げるかを見ていた。それは常に機能するわけではなかった――結局のところ、彼らはイゼットなのだ――そして彼らの失敗はしばしばその成功よりもずっと劇的なもので、カルは笑いをこらえたり驚きで息を飲むことになるのだった。彼の役目はイゼットを観察することであり、かつ隠れ続けることだった。だが彼はイゼットを観察することで何かを学んだ。彼は師へと革新的な考えを持ち帰ったが、彼の熱狂は高く評価はされなかった。そのようなやり方はグルールの呪術的伝統にそぐわなかった。
だがカルは思いとどまりはしなかった。彼は知っていた、イゼットの狂気へと至る道筋があることを。
《霊感》 アート:Izzy |
毎朝、カルは瓦礫帯沿いを歩き、ずいぶん昔に見捨てられたオルゾフ聖堂の尖塔の廃墟へと上った。そこから彼はイゼットが最近占有した工業地帯を注視することができた。奇妙な装置、蒸気パイプ、そして不可解な穴がいたる所にあった。彼らが何を調査しているのかカルには考えもつかなかったが、彼はそれを面白いと思った。彼はイゼットの化術士とギルド魔道士達が巨大な超帯電奇魔を召喚し、それらが穴を掘り機械を動かすのを観察した。時折、カルは大きな爆発音を聞いた。膨大な数のゴブリンの助手の一人が注意散漫にも巨大な奇魔に近づきすぎて、そのクリーチャーが持つ強力なマナフィールドの中で瞬時に蒸発する音だった。これは往々にして自然と「押してポン」というゴブリンの悪戯になるのだった――化術士達からは許可されていないものだ。カルはイゼットを監視するために、彼の部族の長である旧き道のニーキャによって送りこまれた。イゼットがザル・ター族の縄張りへと入り込まないように、もしくはもっと悪い場合、彼らの部族がラヴニカ地下で眠り続けると信じる神をかき乱さぬように。カルはシャーマンであったが、グルールの者は皆狩人として育てられており、静かに移動し獲物を追跡する彼の能力はイゼットよりも遥かに注意深く、この任務を簡単なものにしていた。
だがカルは、グルールのシャーマンのほとんどが理解することのない魔法への感受性を持つことを示していた。彼はイゼットの奇妙な魔法を感じることができた。その熱狂的な、弾ける音を立てるような、そして予測不能のエネルギーは、カル自身がまるでその中に浸されたように感じることのできる何かだった。彼はイゼットの呪文全ての中にある、その興奮と不確定さが好きだった。そして彼は蔦に覆われたバルコニーに座って、イゼット魔術師の躁的な働きを、彼らがマナを動かす方法を静かに観察していた。この若きシャーマンは、イゼットのマナコイルが深いかき鳴らし音を立てる真ん中で、日が暮れるまでそれをとてもよく吸収した。
「皆殺しがあったんだ」
ザル・ター族の若き斥候デューリが、雑草だらけの池を見下ろす壊れた壁にカルと共に座っていた。彼女は捕えて焼いていたライチョウの肉を摘み、頬張りながらカルへと話した。
「セレズニアの野営地が攻撃された。そこらじゅう血だらけだったと聞いている。馬鹿なセレズニア共、瓦礫帯へようこそ、だね」 デューリは肩ごしに骨を投げ捨てると次の一本を頬張った。そして思い出したかのように彼女はカルへとライチョウの胴体を差し出し、眉を吊り上げて頷いた。カルは断った。
「癒し手の野営地? そいつらは大丈夫なのか?」ザル・ター族の何人かが瓦礫帯のセレズニアの癒し手の野営地を利用していたことを、だが何かが起こってニーキャが彼らを疑っていたことをカルは知っていた。
「ほとんどは死んだと思う。ラクドスの仕業だってオグレスは言っていた。あいつから聞いたよ、ニーキャは石を噛み砕くかってくらい気が狂ったようだったって」 デューリはその瞳に炎のきらめきを宿してカルへと微笑んだ。「いくさになるな」
カルは池を覗きこむとデューリの脈絡のない、邪魔なお喋りに答えた。彼は壁から石ころを水面へと投げ、カエルを驚かせた。「いくさに加わったことはあるのか?」
デューリは刺青の入った手で鼻を拭うと、物思わしげにその黒髪をかいた。「本当のいくさはまだ。ちょっとした略奪ならね。ちょっと壊して、ゴルガリ......か何かを......何人か撃った。だけどいつも疑問だった、いくさってどんなものか。話に聞いていただけなんだ」
「ああ、俺もだ」 カルは火の玉をラクドスの凶漢達のど真ん中に放る自分の姿を想像した。それはカルへと、もっと魔法を練習しようという気にさせただけだった。彼は自身の力を証明したかった。グルールの者は全て、自身の力を証明したがっている。
アート:Chippy |
戦団が戻ってきた時、カルはまだ不機嫌なドローマッドが立てる口蓋音を制していた。カルは戦団が廃墟と化した街道をやって来るにつれ、その緊張を感じることができた。
ニーキャが呼びかけた。「ザル・ター族よ、集まれ!」 彼女は乗騎から降りると、部族へと呼びかける演台の石塊へと上った。ニーキャは厳めしい顔つきでそこに胡坐をかいた。
カルは彼の部族に変化を感じ取り、ぞくぞくした。何か大きなことが起ころうとしている。カルは小さな丸石に上り、部族仲間が集まってくるのを観察した。囁きの波が戦士達の間を走っていた。
全員が彼女の元に集合すると、ニーキャは口を開いた。「血は流された。無辜の者は殺された。我々の地が穢された。掟の元に、我々には血罪を主張する権利がある。ラクドスへの復讐だ」
その言葉を聞き、部族は同意の雄叫びを上げた。瓦礫帯のラクドスへと多くの痛みを、そして遠くウトヴァラまでも。快楽殺人者と殺戮ギャング達はラヴニカの無法地帯で血への渇望を満たしている。アゾリウスとボロスの目を逃れて――グルールが縄張りを主張する地で。
ニーキャが杖を掲げると、喝采は静まった。「ラクドスの数は少ないが、怪物に率いられている。この辺りをさまよい、セレズニアのような簡単な獲物を探している。奴等がその悪魔の巣に戻る前に捕えねばならない。復讐を成さねばならない」
ザル・ター族は喝采を上げ、武器を宙高くに振り上げて長の言葉を待った。ニーキャは演台から降り、瓦礫帯を徘徊する巨大マーカのように動くと、戦士達が手に持つ武器へと触れ始めた――彼女の戦団を選んでいるのだった。部族の長が何千年もの間そうしてきたように。カルはデューリが掲げた剣にニーキャが触れ、彼女がその名誉にひれ伏すのを見て、自分もその隣で戦えればと願った。カルが跪く石塊へとニーキャが近づいてくるまで、まるで何年もかかったかのように感じた。だが彼の全身全霊の欲求にもかかわらず、彼女の手が彼の差し伸ばした武器へと触れることはなかった。
「ザル・ターの者よ、備えよ」 ニーキャが命令した。「すぐに発つ、歩きでだ。ラクドス狩りだ!」
アート:Dave Kendall |
カルは距離をとって戦団を追跡していた。彼は瓦礫帯を熟知していたが、発見されないようザル・ターの戦士達について行くために技術と神経を尖らせた――もし発見されたなら、それは追放か死を意味する。だがカルは引き返そうとするたびにデューリがラクドスの刺撃ちの群れへと突撃する様を思い、それは彼を前進させた。友を見捨てることはできなかった。
カルは距離を維持しながら、そして彼の部族を視認はできなかったが、彼らが近くにいることはわかっていた。ザル・ター族は音もなく移動し、またラクドスを待ち伏せするために巨大な乗騎の獣を背後に残していた。
ラクドスは通常やかましく、統率されておらず、そして辺りに注意を払ってはいない。
彼が建築物の巨大な塊を周るべく急いで石によじ登っていると、頭の高さに槍先が突きつけられた。
「この野郎!」 ジャニクという名の戦士がカルを叱った。「お前を刺す所だったじゃねえか! こんなとこで何やってんだ?」 ジャニクは彼を万力のように掴んだ。「ニーキャに串刺しにされっぞ、ガキ。お前は掟を――」
叫び声が響き渡り、グルールの戦士達の咆哮がそれに続いた。ジャニクは悪態をついてカルを放した。燃え立つような爆風が薄暮を照らし、近くの瓦礫の塔の影を描き出した。
「お前のことは後だ」 ジャニクは言った。彼はカルを地面へと押しやり、戦いへと全力で駆けていった。ラクドスのオーガ達のうなり声が、グルールの戦鬨と苦痛の怒号とともに大気を満たした。
アート:Aleksi Briclot |
カルはジャニクに続いて駆け、壊れた梁を跳びこえ崩壊した石材の下をくぐり、荒廃した街路へと向かった。燃え立つ炎が彼の頭越しに発せられ、数ヤード向こうでわめき立てるデビルを直撃した。それは金切り声を上げ、気が狂ったように鳴きながら地面を転がり悶え苦しんだ。
そして彼は乱闘全てを見ることができた。
ニーキャは岩塊の上に立ち、詠唱していた。巨大な蔦の壁がラクドスの逞しいオーガを絡め取り、それは怒りの咆哮を上げて狂乱した獣のように蔦の壁を引きちぎった。
至る所にラクドス教団員がおり、瓦礫の割れ目や穴からまるで蟻のように湧き出していた。そしてカルはデューリを探して半狂乱に首を振って辺りを見た。彼の部族は見たところ優勢のようだった。グルールの戦士達は古の戦歌を詠唱しながら、早口にわめくインプ達を打ちのめし、ぼろ布を着た熱狂者達を見すぼらしい塊にしていった。
カルは遺棄された建物から眩しい光が放たれ、血魔女の輪郭を描き出すのを見た。彼はラクドス内でも選ばれし者、リックス・マーディの権力を握る魔道士達の噂を聞いたことがあった。何故血魔女達がここにいるのか、カルが知る筈もなかった。だが彼はわかっていた、それはニーキャの考慮外であると。彼は近くで叫びを聞いた。数体のゴブリンが赤く輝くと、彼らは吐き気を催すような球と化した、まるで目に見えない手に潰されたかのように。そして彼はその臭気を感じた――腐敗して、辛みのある――デーモンのような臭気を。
「デーモンだ!」 彼はザル・ター族の一人が叫ぶのを聞いた、そして巨大で湿った鉤爪が地面から弾けた。石と泥が邪悪な熱望に押しのけられて、滑やかで蝙蝠に似たデーモンが、耳をつんざくほどの咆哮と圧倒的な悪臭の波とともに立ち上がった。
「ザル・ター族よ、私に続け!」 デーモンの轟然たる翼の向こうを一瞥し、ニーキャが叫んだ。グルールの戦士達が闇と煙の中から現れ、ラクドス教団員へと反撃を開始した。カルはデューリが長へと駆けて行くのを見たが、何かがカルの足首を掴むと彼は不格好に転んだ。深い傷が彼の脚を裂き、カルは泥を頬張る羽目になった。フレイル使いが彼を捕えたのだった。絡んだ鎖が彼の腿に深く食い込み、彼は仮面のオーガへと引きずられていった。
彼はもがいたが、理路整然と考えることはできなかった。鎖の一引きごとに苦痛の稲妻が身体に走った。
「カル!」 彼の名を呼ぶデューリの声が何処かから聞こえた。
「カル!」 フレイル使いはあざ笑い、彼をさらに引き寄せた。
カルの精神が高速で回転した。あまりに多くのラクドス教団員がいた。あまりの多くのデーモンがいた。
洞察の閃きがカルの内に生じた。イゼットの奇妙な魔術を観察していた時間。彼らが電気を四散し弧を描いていたやり方。彼は自身の内で炎のように怒りと絶望が燃え上がるのを感じた。まるでイゼットの稲妻のように。
炎と稲妻は近しいもの。
共に熱く、とらえどころのないもの。
もしも......
アート:Daarken |
歯をむいて笑うフレイル使いを炎の突風が焼き尽くした。その腕と脚は吹き飛び、空中へと煙の航跡を螺旋状に描いた。だがそれで終わりではなかった。エネルギーの円弧がカルから流れ出てデーモン達を薙ぎ倒した、まるで燃え立つ鎚がそれらを、叫びを上げる炎の柱へと変えてしまうように。そしてデーモンの炎は溢れ出て、炎の稲妻が地面を焦がし、眩しい閃光の中でラクドス教団員の残りを骨と灰へと変えた。
目覚めた時、ニーキャの硬質な視線がカルを見ていた。「あの女はやりました?」 カルはかすれた声を出した。
「虐殺少女、と呼ばれている」 ニーキャは厳しい口調で言った。「あの悪党の屍らしきものは無かった。だがお前の呪文がその一人を殺した」 ニーキャは血魔女の焦げた首を掲げた。「実にいいみやげだ」
ニーキャが近寄った。「カル、私はお前が生まれる前からグルールの魔法を振るってきた。だがあれは何だ? お前はどこであんな呪文を学んだのだ」
「わかりません、あれが何だったのか」 カルは返答した。「ですが、イゼットを見張っている間に学んだのだと思います」
そこで、デューリが笑顔で割って入った。「あんたはイゼットから学んだのかもしれないけどさ、カル。周りを見てみなよ」 彼女は腕を広げて示した。カルはラクドス教団員の煙を上げる屍が、ねじ曲がった操り人形のように散らばっているのが見えた。「あたしには、凄くグルールっぽく見えるな」
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