READING

戦略記事

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

第104回:最新「青白Delver」分析と日本発・赤緑の新アプローチ

読み物

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

2012.05.31

第104回:最新「青白Delver」分析と日本発・赤緑の新アプローチ


 こんにちはー。

 Magic Online(以下MO)上でのリリースイベント(参考:KJの今週の記事の後半)も折り返しを過ぎましたが、みなさんお目当てのカードは手に入りましたか?
 僕はついつい色んなレアを買ってしまい、春休みの間に貯めておいたチケットがなくなりかけてピンチに陥っていますが、新しいカードを手に入れるのもマジックの楽しみのひとつなので、少し資産が増えたらまた買い物をして、というのを繰り返してしまっています。

 そんなこんなで、僕も含めたMOプレイヤーたちもようやく本格的に新スタンダードをスタートさせました。世界各国で行われるワールド・マジック・カップ予選もあることですし、プロツアー・ラヴニカへの回帰予選もスタンダードフォーマットを用いて開催されるので、夏に向けてスタンダード熱は高まる一方ですね。(開催予定はイベント情報をご参照ください。)


 さて、今週はそんなワールド・マジック・カップ予選に向けてスタンダードの最新動向をチェックしていきましょう。まずはいつものように「StarCityGames.com オープントーナメント」の結果を見てみます。


~StarCityGames.com オープントーナメント・ナッシュビル トップ8デッキ~

(結果とデッキリストは StarCityGames.comのページより)

優勝 「青白Delver」
準優勝 「青白Delver」
3位 「青白Delver」
4位 「青白Delver」
5位 「青白Delver」
6位 「青白Delver」
7位 「黒青ゾンビ」
8位 「黒赤ゾンビ」

回転

 先週にも増して圧倒的なパフォーマンスを披露した「青白Delver」デッキ。他のデッキが霞んでしまうほどの輝きを放っていますし、ワールド・マジック・カップ予選でもこのデッキが台風の目となることは間違いないでしょう。

 先週は純正2色のものについてはあまり触れることができなかったので、今週は最新型の「青白Delver」をチェックしていきましょう。先週MOでたまたまBrad Nelson(2010年度年間最優秀選手)とこのデッキについて話す機会があったので、その辺りも交えつつ見ていきたいと思います。


「青白Delver」

Gerry Thompson
StarCityGames.com スタンダードオープン・ナッシュビル 優勝 (2012-05-27)[MO] [ARENA]
9 《
2 《平地
4 《氷河の城砦
4 《金属海の沿岸
3 《ムーアランドの憑依地

-土地(22)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《瞬唱の魔道士
4 《聖トラフトの霊
3 《修復の天使

-クリーチャー(15)-
3 《ギタクシア派の調査
1 《はらわた撃ち
4 《蒸気の絡みつき
4 《思案
2 《思考掃き
4 《マナ漏出
1 《神への捧げ物
2 《四肢切断
2 《饗宴と飢餓の剣

-呪文(23)-
3 《幻影の像
1 《ファイレクシアの変形者
2 《聖別されたスフィンクス
1 《神への捧げ物
2 《漸増爆弾
3 《機を見た援軍
1 《材料集め
2 《幽霊街

-サイドボード(15)-


 最新型の「青白Delver」を駆り「StarCityGames.com オープントーナメント」を制したのは、StarCityGames.comの看板ライターでもあるGerry Thompsonでした。ちなみにGerryは翌日開催のレガシー大会でも準優勝に輝いており、優秀なのはデッキじゃなくてプレイヤーだと言わんばかりの見事な成績を収めています。

 先週は色々な形の「Delver」デッキをご紹介させていただきましたが、今大会で勝ち残った6つのリストは全て純正2色のものでした。『アヴァシンの帰還』から加わったカードはごくわずかしかないのですが、その新戦力が与えた影響は見た目以上に大きかったようです。

 スタンダードのみならず、イニストラード・ブロック構築でも大暴れしているこの天使は、「青白Delver」にこれ以上ないほどフィットしています。
 この手の「構えながら攻める」デッキにとって、「瞬速」は戦略に合致する便利な能力ですし、インスタントタイミングで出てくる「飛行」持ちの3/4はデッキに入っているだけで相手の選択肢を狭めてくれます。
 今まででも、このデッキと対峙する際には《蒸気の絡みつき》、《マナ漏出》、そして《瞬唱の魔道士》などの様々な要素を考慮しつつ動かなければなりませんでしたが、現在ではそこに《修復の天使》が加わっているのです。

 そのせいで戦闘は今まで以上に困難なものになっていますし、《修復の天使》には《雲隠れ》能力まで付いているので、今後は単体除去を撃つタイミングも今まで以上に慎重に選ぶ必要があります。その《雲隠れ》能力もおまけとしては十分すぎるものであり、前述の通り単体除去からクリーチャーを守ったり、《瞬唱の魔道士》を再利用したり、戦闘で死にそうな《聖トラフトの霊》を守ったりと、実に幅広い活躍が期待できます。

 Gerryのリストに《四肢切断》が2枚と多めに採用されているのも、この天使の存在を意識してのことだと思われます。Nelsonと話した内容も《修復の天使》に関わることがほとんどで、それは主に以下の4点でした。

  1. 4マナ域のチョイス:《地下牢の霊》or《修復の天使
  2. 除去のチョイス:《はらわた撃ち》or《四肢切断
  3. 装備品のチョイス:《戦争と平和の剣》or《饗宴と飢餓の剣
  4. 装備品に頼れないマッチアップにおけるサイドボードプラン

 ひとつめは4マナ域の選択。従来であればこの枠は《地下牢の霊》しか選択肢がありませんでしたが、今では嬉しいことに《修復の天使》との二択から選ぶ、または併用することができます。

 ここまで散々《修復の天使》の長所ばかりを見てきましたが、個人的に唯一気になっているこのカードの短所が《戦争と平和の剣》に対して耐性がないことです。
 もちろん、《瞬唱の魔道士》でブロック→《修復の天使》で隠して次のターンもブロックといった動きで延命はできますし、《蒸気の絡みつき》や《マナ漏出》を駆使して《戦争と平和の剣》でのアタックを妨害することも可能です。

 ですが《地下牢の霊》であれば、単体でも《戦争と平和の剣》に対して著しくテンポアドバンテージを取れますし、複数枚引けば相手のアタッカーを全て抑え込んで勝利することもできるでしょう。
 実際に僕は「赤緑ビートダウン」を使っていて、《戦争と平和の剣》の設置には成功したものの2~3枚の《地下牢の霊》の前にアタッカーを完封されるという事態に何度も直面しましたし、《戦争と平和の剣》耐性に関して言えば、《地下牢の霊》に軍配が上がると思います。

 そのため、環境に《戦争と平和の剣》を使うデッキが多い場合は《地下牢の霊》を優先する理由になると思いますし、そのような状況下でも他のメリットを重視して《修復の天使》を使うのなら、《戦争と平和の剣》に対して何かしらの工夫が必要だと感じていました。

 そんな中でGerryが取った戦略はと言いますと、メインから《神への捧げ物》を採用することでした。

 《神への捧げ物》は、装備品が必ず入っている、そして現環境で最も直面する確率の高いミラーマッチでの活躍が見込めますし、これまた装備品を大量に活用している「赤緑ビートダウン」に対しても効果的です。
 他のTier1~2のデッキを見てみても、「赤緑《ケッシグの狼の地》」には《太陽の宝球》と《墨蛾の生息地》が、「黒青ゾンビ」には《迫撃鞘》があるので完全に無駄にはなりませんし、「《出産の殻》」デッキのようにアーティファクトを軸にしたデッキには劇的な効果を発揮してくれる1枚です。

 ふたつめとみっつめも、どちらも《修復の天使》に関する項目で、《昆虫の逸脱者》や《聖トラフトの霊》を問答無用で打ち取れるこの天使は、「青白Delver」側の視点から見ても大きな脅威です。
 そのため、それに対処できる《四肢切断》を増やした方がいいのではないかというのがNelsonの主張でした。

 最初はライフ損失の大きさゆえに《四肢切断》を2枚入れるのを躊躇していたのですが、実際に《修復の天使》の入ったデッキと対峙してみたところそれも納得で、対戦相手の《修復の天使》を意識するとアタックしづらい局面も多かったため、《修復の天使》の入ったデッキが増えると予想される今後は《四肢切断》を2枚採用した方が良いと思いました。

 みっつめの装備品に関しては、《修復の天使》というインスタントタイミングでプレイできるカードが加わったことで、《饗宴と飢餓の剣》の「土地をアンタップする」能力がより真価を発揮できるようになったため、《戦争と平和の剣》と入れ替えてもいいのではないかというものです。

 前述の通り個人的には《四肢切断》を2枚採用したいので、そのライフ損失を補う意味合いでも《戦争と平和の剣》のままでいいように感じていますが、とにもかくにも《修復の天使》の登場は装備品の選択にまで再考の余地を与えてしまったわけなんですね。

 よっつめは《修復の天使》とは何の関係もないもので、多くのプレイヤーがこのデッキに対して《神への捧げ物》や《古えの遺恨》をサイドインしてくる中で、装備品に頼れない状況をどう乗り切るかという問題でした。
 ここは《機を見た援軍》や《聖別されたスフィンクス》といった単体のカードパワーが優れたものを搭載し、サイド後はコントロールデッキのような立ち振る舞いをするのがいいのではないかと思っていましたが、Gerryはそこに《材料集め》を入れて長期戦に備えています。

 この戦略は実にすばらしいもので、今回は時間がなくて試せませんでしたが、《審判の日》と《月の賢者タミヨウ》まで入れて、もっともっとコントロールに寄せた構築もできるのではないかと気付かせてくれました。
 現状でも環境のトップに位置するデッキではありますが、サイド後のプランも含めまだまだ成長の余地を感じてくれるデッキですね。

 「青白Delver」の解説は以上です。先週に引き続き「Delver」系のデッキばかりを特集してしまって申し訳ありませんが、間違いなくワールド・マジック・カップ予選を含む今後のスタンダードを担うデッキということでご紹介しました。


 ここからは、『アヴァシンの帰還』のカードを大量に取り入れた新型の「赤緑ビートダウン」をご覧いただきましょう。


「赤緑ビートダウン」

Susumu Endou
第110回五竜杯 3位(6-1)[MO] [ARENA]
10 《
2 《
4 《銅線の地溝
4 《根縛りの岩山
4 《ケッシグの狼の地

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《ラノワールのエルフ
4 《絡み根の霊
2 《国境地帯のレインジャー
4 《高原の狩りの達人
4 《ウルフィーの銀心

-クリーチャー(22)-
4 《緑の太陽の頂点
4 《忌むべき者のかがり火
4 《戦争と平和の剣
2 《情け知らずのガラク

-呪文(14)-
3 《士気溢れる徴集兵
2 《虚無の呪文爆弾
2 《電弧の痕跡
2 《焼却
2 《帰化
1 《古えの遺恨
3 《饗宴と飢餓の剣

-サイドボード(15)-
(デッキリスト:DRAGONS GUIDE より)


 4枚ずつ投入された《ウルフィーの銀心》と《忌むべき者のかがり火》が印象的なこのリスト。通常時のキャスティングコストが若干重い《忌むべき者のかがり火》を何枚採用すべきか悩むところですが、初手に2枚以上引く確率はたかが知れていますし、それよりも中盤以降に引いた場合の「奇跡」の威力がすさまじいので、4枚採用も頷けます。

 《ウルフィーの銀心》はとりわけクリーチャー戦と火力呪文に強い新戦力。ミラーマッチにおいては《高原の狩りの達人》以上のインパクトをもらたしますし、《修復の天使》と同じくこのカードの登場もまた、環境全体の《四肢切断》の使用率を上げる一因になるのではないかと感じています。

 そして遠藤さんのリストで最も感銘を受けたのが《国境地帯のレインジャー》です。

 上記2枚のカードに加え、《緑の太陽の頂点》《戦争と平和の剣》《ケッシグの狼の地》と意外なほどにマナ喰い虫なこのデッキは、マナクリーチャーを除去された際に動きがぎこちなくなるという欠点を抱えていました。
 しかし《国境地帯のレインジャー》があれば4~5マナへの到達が非常に楽になりますし、それゆえに《緑の太陽の頂点》でこれを導く機会も多かったです。
 《国境地帯のレインジャー》を採用したことでマナベースにも余裕が生まれ、それにより《ケッシグの狼の地》の4枚フル投入をも実現していますし、《ケッシグの狼の地》が安定して引けるのなら《ウルフィーの銀心》と《戦争と平和の剣》はなおのこと真価を発揮しやすくなります。
 同じ3マナ域でも単体性能で勝る《ウルフィーの報復者》についつい目がいってしまいがちですが、《国境地帯のレインジャー》も十分に検討に値する1枚ですね。
 特に《地獄乗り》を入れたリストはマナベースが厳しいので、《国境地帯のレインジャー》を採用すると動きが安定して良いでしょう。

 あとはサイドボードに入っている《焼却》にも注目です。

 《秘密を掘り下げる者》《地下牢の霊》《修復の天使》《刃砦の英雄》などを1枚で対処できる優れ物で、今の「青白Delver」には必ずと言っていいほど《地下牢の霊》か《修復の天使》が採用されているので、以前よりも活躍の機会が多いでしょう。


今週の一押し~「緑単感染」

sparow (3-1)
Standard Daily #3891107 on 05/28/2012[MO] [ARENA]
18 《
4 《墨蛾の生息地

-土地(22)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《荒廃のマンバ
4 《胆液爪のマイア
1 《腐敗狼

-クリーチャー(13)-
4 《変異原性の成長
3 《はらわた撃ち
3 《不自然な捕食
2 《レインジャーの悪知恵
3 《使徒の祝福
3 《剛力化
4 《野生の抵抗
3 《活線の鞭

-呪文(25)-
1 《呪文滑り
2 《腐敗狼
2 《精神的つまづき
1 《外科的摘出
1 《はらわた撃ち
1 《レインジャーの悪知恵
1 《使徒の祝福
2 《帰化
4 《腐食の突風

-サイドボード(15)-

 最後を飾るのは「緑単感染」デッキ。実はMO上ではすでに少し古いくらいのデッキで、『アヴァシンの帰還』で登場した《野生の抵抗》が「感染」デッキの再起を促した形です。

 《野生の抵抗》さえあれば《巨大化》系のカードたちはとんでもないカードに化け、手札に2~3枚のスペルがあれば対戦相手を瞬殺することが可能です。
 相手の火力呪文に対しても耐性が付きますし、自身の《はらわた撃ち》が《巨大化》になったりもしますね。

 現在はメインに《神への捧げ物》のようなアプローチが登場していますが、ことエンチャントに関してはマークが甘くなっているので、《野生の抵抗》が残りやすいのが追い風と言えます。

 「緑単」以外にも《荒廃の工作員》のために青を足したリストもあるようですし、「感染」ファンの方は「What's Happening?」をぜひご覧になってみてください。


 今週は以上です。MOでも『アヴァシンの帰還』がリリースされたので、今後は今まで以上に各デッキの研究、開発が進んでいくことでしょう。
 果たして「青白Delver」の天下は続くのか、それとも他のデッキが王座を奪取するのか。まだ見ぬ新デッキも出てくるかもしれませんし、「What's Happening?」から目が離せませんね!

 それでは、また来週ー!

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索