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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
第102回:番外編・イニストラード・ブロック構築からスタンダードへ
読み物
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
2012.05.17
第102回:番外編・イニストラード・ブロック構築からスタンダードへ
こんにちはー。
先週末にブロック構築とリミテッドを用いたプロツアー・アヴァシンの帰還」が開催されました。僕は翻訳のお手伝いをさせてもらいながらの観戦になりましたが、決勝ラウンドの盛り上がり方はすごかったですね。
あそこまでの盛り上がりを見せたのにはいくつか理由があると思いますが、まずはJon Finkelのトップ8入賞が挙げられるでしょう。
2月に行われたプロツアー・闇の隆盛に引き続いてのトップ8入賞をはたしたのがJon Finkelその人であり(他にDenniz Rachidも該当)、これで彼のプロツアートップ8入賞回数は14回という高みへと到達しました。
2005年度に殿堂入りするまでは、少しマジックから遠ざかっていたようですが、殿堂入りしてからは以前と同様の輝きを取り戻し、プロツアー・クアラルンプール優勝を含む3度のトップ8入賞を記録しています。
余談ではありますが、Finkelはプロツアー・アヴァシンの帰還の前に「もし俺がトップ8に入ったら賞金の半分を寄付する。Kai(Budde)が入ったら追加で1000ドルも寄付しよう。」と公言していたのですが、それをあっさりとやってのけるあたり、さすが生ける伝説と称される人物は格が違うなと思い知らされました。
今回のトップ8での紳士的な振る舞いもかっこよかったですね。
ちなみに僕はFinkelの家でドラフトしたことがあります!・・・すいません、この一文はただの自慢です(笑)
ふたつめは、行弘(賢)君とシミチン(清水 直樹)さんのトップ8入賞。どちらもGaudenis Vidugirisとのフルセットの接戦の末に敗れてしまいましたが、プロツアーで日本人が複数名決勝ラウンドに残るのは、昨年のプロツアー・名古屋以来となる快挙です。
二人とも仕事の合間を縫っては練習を重ね、それでいてこのような好成績を残すのは並大抵の努力ではなかったと思いますし、僕はなかなかふたつのことを同時にできないので、仕事とマジックの両立をやってのけるのは本当にすごいことだと尊敬してしまいます。彼らはmtg-jp.comの看板ライターでもあるので、その辺りの秘訣が今後明かされることに期待しましょう。
そして最後に、今回の決勝ラウンドは異様なほどにフルセットが多かったことが印象的でした。これはただの偶然にすぎないでしょうが、準々決勝4試合、準決勝2試合、決勝戦の計7試合で、フルセットに及んだ試合は実に6試合にも上ります。自称カバレージオタクの僕の記憶によれば、これほどまでに僅差の試合ばかりの決勝ラウンドは滅多にないことなので、これもまた決勝ラウンドが盛り上がった要因ではないかと思います。
さて、相当に前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ本題に移りましょう。今週はせっかくなので、プロツアー・アヴァシンの帰還でトップ8に入賞した「イニストラード・ブロック構築」デッキの中から、今後スタンダードで通用しそうなテクニックを見ていきたいと思います。
トップを飾るのは最も大きな注目を集めたこのデッキから。
「青白"奇跡"コントロール」
13 《島》 10 《平地》 4 《進化する未開地》 -土地(27)- -クリーチャー(0)- |
4 《思考掃き》 4 《戦慄の感覚》 4 《熟慮》 1 《雲散霧消》 4 《壊滅的大潮》 4 《終末》 4 《時間の熟達》 4 《天使への願い》 4 《月の賢者タミヨウ》 -呪文(33)- |
4 《大聖堂の聖別者》 2 《瞬唱の魔道士》 3 《聖トラフトの霊》 2 《深夜の出没》 3 《雲散霧消》 1 《天使の慈悲》 -サイドボード(15)- |
「奇跡」というキーワード能力を初めて見た時、みなさんはどのような印象を受けましたか?
普通のキャスティングコストが重くて使いものにならない? 「奇跡」なんてそうそう都合よく起こるわけがない? それとも、《有毒の蘇生》や《思案》で人為的に「奇跡」は起こせるから強いはず?
僕の意見は前者寄りの考えで、正直なところ「奇跡」カードに対してあまり好意的な印象を抱いていませんでした。ちょうどアヴァシンの帰還のプレビューに《天使への願い》が追加された日は、ナック(中村 修平)さんとご飯を食べに行っていたのですが、その時の僕らの《天使への願い》、そしてその他の「奇跡」カードに対するファーストインプレッションは「重くて使いものにならない」というものだったのです。
しかしながら、Hayneさんのリストを、そして実際に試合を見てみて、その考えを改める必要があると悟りました。そうです、Hayneさんは「奇跡」カードを大量に入れるという大胆なアプローチを用いてプロツアーを制したのです。
《壊滅的大潮》から始まり、豪華16枚もの「奇跡」カードを搭載しているのがHayneさんのリストの特徴的なところです。
もちろんこれによりマリガンの回数もそれなりに増えるというリスクも生じるでしょうが、逆に初手に「奇跡」カードがない、または少量しかない場合、あなたは圧倒的な潜在的アドバンテージを持った状態でゲームを開始することができます。それもそのはず、《天使への願い》以外の「奇跡」コストは全て2マナか1マナなので、序盤から毎ターンドローの度に大幅に得をできる可能性があるためです。
特に《壊滅的大潮》と《終末》の費用対効果はすさまじいものがありますし、《時間の熟達》もコントロールデッキならばただ単に《探検》として使っても上々の効果と言えます。
そして《天使への願い》は言わずと知れたフィニッシャーカード。「奇跡」コストの重さゆえに、序盤に真価を発揮できないデメリットこそありますが、中盤戦から終盤戦にかけての強力さは目をみはるものがあります。
実際にHayneさんは決勝戦の5本目にて、《天使への願い》「奇跡」から5体のトークンを用意し、一撃で対戦相手を葬り去り栄光のプロツアーチャンピオンの座を手に入れています。
これらの「奇跡」カードを《思考掃き》、《熟慮》と併用することで相手のターンにも使用できますし、そうすることでより一層劇的な場面を演出しやすくなっています。
おそらく僕と同じように、「奇跡」カードに対してあま良い印象を抱いていないプレイヤーもいたのではないかと思いますが、Hayneさんのデッキはそれを解消してくれるすばらしいリストだったと思います。
イニストラード・ブロック構築と比べ、スタンダード環境ではマナコストが全体的に軽いので、《壊滅的大潮》だけは微妙かもしれませんが、その他のカードはスタンダードでも通用するポテンシャルがあるでしょう。
そんなわけで、荒削りですがHayneさんのリストを参考にスタンダードのバージョンを作ってみました。
5 《平地》 4 《島》 1 《沼》 4 《金属海の沿岸》 1 《闇滑りの岸》 4 《氷河の城砦》 3 《水没した地下墓地》 1 《孤立した礼拝堂》 3 《進化する未開地》 -土地(26)- -クリーチャー(0)- |
4 《思案》 4 《思考掃き》 4 《熟慮》 4 《未練ある魂》 2 《審判の日》 4 《終末》 4 《時間の熟達》 3 《天使への願い》 3 《月の賢者タミヨウ》 2 《ギデオン・ジュラ》 -呪文(34)- |
|
前述の通りまだまだ荒削りな感は否めませんが、とりあえず「奇跡」嫌いだった僕がこんなデッキを使いたいと思うくらい、Hayneさんが与えたインパクトは大きかったということです。
イニストラード・ブロック構築では《未練ある魂》は禁止なので使えませんでしたが、《月の賢者タミヨウ》さんと相性も良いですし、《天使への願い》の前に全体除去を使わせたいこともあり、スタンダードならぜひとも採用したい1枚ですね。
さてさて、そんなわけでHayneさんの見事な「奇跡コントロール」が優勝をさらっていったわけなんですが、他にも要注目かつ今後スタンダードに影響を与えそうなカードが活躍していました。
「Wolves and Angels」
10 《森》 2 《山》 1 《平地》 4 《断崖の避難所》 2 《ケッシグの狼の地》 1 《ガヴォニーの居住区》 4 《進化する未開地》 -土地(24)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《軽蔑された村人》 4 《国境地帯のレインジャー》 3 《ウルフィーの報復者》 4 《高原の狩りの達人》 4 《修復の天使》 4 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(26)- |
3 《火柱》 4 《硫黄の流弾》 3 《忌むべき者のかがり火》 -呪文(10)- |
2 《士気溢れる徴集兵》 1 《火柱》 1 《信仰の盾》 3 《墓掘りの檻》 1 《大物潰し》 1 《高まる残虐性》 3 《小悪魔の遊び》 1 《忌むべき者のかがり火》 2 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
今回のプロツアーのカバレージをご覧になった方であれば、《ウルフィーの銀心》がどれほど環境に大きな影響を与えていたかをご存じでしょう。
その証拠に、トップ8に残ったデッキのうち、先ほど紹介したHayneさんの「奇跡コントロール」と後述する行弘君の「リアニメイター」以外の6つデッキは、全て《ウルフィーの銀心》を採用していました。
《ウルフィーの銀心》がこれほどまでに活躍できた要因として、イニストラード・ブロック構築環境に除去呪文が少なかったことが挙げられる(参考:特集記事)ようですが、単純なカードパワーだけ見てみても、今後スタンダードで活躍する可能性は十分にあると思います。
特に「赤緑《ケッシグの狼の地》」と「赤緑ビートダウン」のような除去を火力でまかなっているデッキが多い状況だと、《ウルフィーの銀心》が一度「組」になってしまえば相手の除去で死ぬことはほとんどないでしょうから重宝することでしょう。
第96回で紹介した、「赤緑ビートダウン」のサイドボードに潜む《高まる残虐性》と似たような役割で、1マナ重くなっている分カードパワーが大幅に向上したようなカードです。環境にどのようなカードが流行っているかで大きく評価が分かれるカードではありますが、火力が多いメタゲームなら大活躍間違いなしです。
《ウルフィーの銀心》が他にどんな使われ方をしていたか、もう少しだけ見てみましょう。
「Geists」
9 《森》 2 《島》 1 《平地》 4 《内陸の湾港》 4 《魂の洞窟》 4 《進化する未開地》 -土地(24)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《不可視の忍び寄り》 3 《絡み根の霊》 4 《聖トラフトの霊》 3 《地下牢の霊》 4 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(22)- |
3 《豊かな成長》 3 《静かな旅立ち》 4 《幽体の飛行》 4 《高まる残虐性》 -呪文(14)- |
3 《ウルフィーの報復者》 4 《解放の樹》 2 《アンデッドの錬金術師》 3 《雲散霧消》 1 《魔女封じの宝珠》 2 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
こちらはスタンダードでもお馴染みの《不可視の忍び寄り》《聖トラフトの霊》といった「呪禁」クリーチャーに、《高まる残虐性》や《ウルフィーの銀心》といったカードで爆発力を付与するタイプになっています。
ちょうど第91回で紹介したリストに似ているので、これはすぐにスタンダードで応用できそうですね。
「リアニメイター」
3 《森》 2 《山》 4 《平地》 1 《沼》 4 《断崖の避難所》 4 《森林の墓地》 1 《魂の洞窟》 4 《進化する未開地》 -土地(23)- 4 《大聖堂の聖別者》 4 《国境地帯のレインジャー》 4 《悪鬼の狩人》 3 《高原の狩りの達人》 3 《ファルケンラスの貴種》 3 《栄光の目覚めの天使》 4 《グリセルブランド》 -クリーチャー(25)- |
4 《信仰無き物あさり》 4 《根囲い》 4 《堀葬の儀式》 -呪文(12)- |
3 《修復の天使》 1 《ファルケンラスの貴種》 3 《霊誉の僧兵》 3 《墓場の浄化》 2 《魔女封じの宝珠》 3 《冒涜の行動》 -サイドボード(15)- |
最後を飾るのは行弘君の「リアニメイト」デッキです。
浅原さんの記事にあったリストをそのままブロック構築に移行させたようなリストですが、行弘君はこのデッキを使用して8勝1敗1分という好成績を残しています。
実はフランス勢もこれに似たようなリストを持ち込んでいたのですが、個人的には《グリセルブランド》を入れている点、「無限ライフ」システムを用いている点で、行弘君のリストの方が圧倒的に好みです。
《グリセルブランド》を入れている方が《堀葬の儀式》をより効果的に使うことができますし、「無限ライフ」のような面白い要素をきちんと実用レベルまで引き上げるのは、類い稀な発想力と構築能力が必要ですからね。
この《グリセルブランド》+《堀葬の儀式》はスタンダード環境でもお目にかかる機会も増えるでしょうし、もしかすると「無限ライフ」システムも日の目を浴びることになるかもしれません。
これほどまでにすばらしいリストを組み上げた行弘君にはぜひとも優勝してほしかったところですが、それはまた次回に期待することにしましょう。
今週は以上です。
イニストラード・ブロック構築をほとんどやっていない僕が解説をするのも野暮に感じましたが、みなさんの発想力と数々の激闘に熱が上がってしまい、特集を組ませていただきました。
この中からスタンダード環境に浸透してくるテクニックもあると思いますし、もしカバレージをまだご覧になっていない方は、ぜひデッキリストとともにご覧になってみてください。
プロツアー:アヴァシンの帰還・バルセロナ イベントカバレージ
今週末にはようやくMagic Online(以下MO)でも「アヴァシンの帰還」がリリースされるということで(参考:KJの記事)、2~3週間後くらいにはカードも集まってもう少し内容の濃い記事にできると思います。カード集めのためにもMOプレリリースに参加しようと思っているので、もしあたったらよろしくお願いいたします。
それでは、また来週ー!
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