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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
第80回:「The Perfect Standard Deck」
読み物
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
2011.11.24
第80回:「The Perfect Standard Deck」
こんにちはー。
大盛り上がりだった世界選手権は、個人戦、団体戦ともに日本勢が制する結果で幕を閉じました。個人戦を優勝した彌永君、団体戦を優勝した日本代表のみなさん、本当におめでとうございます。
スタンダード以外のトピックは他の方の記事に任せるとして、今週はトップ8に残ったスタンダードデッキの中から、要注目の2つを解説していきたいと思います。まずは全体のデッキ分布から見ていきましょう。
~世界選手権メタゲーム・ブレイクダウン~
デッキタイプ | 人数 | % |
「緑白トークン」 | 63 | 16.80% |
「イリュージョン」 | 59 | 15.73% |
「赤単」 | 50 | 13.33% |
「太陽拳」 | 38 | 10.13% |
「赤緑《ケッシグの狼の地》」 | 38 | 10.13% |
「白単《鍛えられた鋼》」 | 19 | 5.07% |
「青黒コントロール」 | 19 | 5.07% |
「エスパー(青白黒)コントロール」 | 14 | 3.73% |
「青白人間」 | 14 | 3.73% |
「青白コントロール」 | 13 | 3.47% |
「《出産の殻》」 | 11 | 2.93% |
「グリクシス(青黒赤)コントロール」 | 8 | 2.13% |
「《純鋼の聖騎士》」 | 5 | 1.33% |
「感染」 | 4 | 1.07% |
「テゼレイター」 | 4 | 1.07% |
「青赤《秘密を掘り下げる者》」 | 4 | 1.07% |
「青白トークン」 | 3 | 0.80% |
「Delver-Go」 | 2 | 0.53% |
「青白-Blade」 | 2 | 0.53% |
「青白赤コントロール」 | 2 | 0.53% |
「《燃え立つ復讐》」 | 1 | 0.27% |
「Grand Heart-chitect」 | 1 | 0.27% |
「赤青緑人間」 | 1 | 0.27% |
ある程度事前に予想されていた通り、全体的にビートダウンデッキの多さが目を引きます。世界選手権前にMagic Onlineで話題騒然となった「青白イリュージョン」は、実際に本戦では59名ものプレイヤーが使用し、一大勢力となりました。全勝ラインにこそいなかったものの、4勝2敗以上を記録したプレイヤーは実に22名。現実世界でもこのデッキは通用するという良い証明になったと言えるでしょう。
(参考:スタンダード部門成績優秀者デッキリスト(4勝2敗以上))
6回戦の激闘を終え、全勝を記録したデッキは「赤緑《ケッシグの狼の地》」×2、「赤単スライ」、「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」、「青白ビートダウン」、「青白コントロール」の6つ。
そこからさらにドラフト6回戦、モダン6回戦を経て、トップ8に進出したデッキは以下のようなものでした。
優勝 | 「赤緑《ケッシグの狼の地》」 |
準優勝 | 「緑白ビートダウン」 |
3位 | 「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」 |
4位 | 「赤単スライ」 |
5位 | 「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」 |
6位 | 「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」 |
7位 | 「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」 |
8位 | 「青白ビートダウン」 |
なんとなんと「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」が4人も残る結果となりました。さきほどの表をご覧になっていただけると分かるように、「白単《鍛えられた鋼》」の使用者はわずか19人、全体のおそよ5%にしか満たないものでしたが、使用していたプレイヤーたちが世界の最強チームである「ChannelFireball」の面々だったこともあり、このような異様なトップ8が形成されたというわけですね。
相も変わらずの絶好調っぷりを全世界に披露した「ChannelFireball」ではありましたが、世界選手権2011の主役は、結果も含め間違いなく彌永君でした。
「赤緑《ケッシグの狼の地》」
6 《山》 5 《森》 4 《銅線の地溝》 4 《墨蛾の生息地》 4 《根縛りの岩山》 3 《ケッシグの狼の地》 -土地(26)- 1 《極楽鳥》 1 《最後のトロール、スラーン》 4 《業火のタイタン》 4 《原始のタイタン》 4 《真面目な身代わり》 -クリーチャー(14)- |
4 《感電破》 2 《小悪魔の遊び》 2 《緑の太陽の頂点》 1 《ショック》 4 《不屈の自然》 3 《金屑の嵐》 4 《太陽の宝球》 -呪文(20)- |
4 《秋の帳》 2 《古えの遺恨》 1 《金屑の嵐》 1 《ヴィリジアンの堕落者》 2 《最後のトロール、スラーン》 1 《内にいる獣》 2 《饗宴と飢餓の剣》 2 《解放の樹》 -サイドボード(15)- |
パーフェクト。僕は普段なかなかこの言葉を使いませんが、ここまで複雑を極めた現スタンダード環境でこの言葉を使うことになるとは夢にも思っていませんでした。
彌永君がデッキの安定性を重視したと語るように、従来の《不屈の自然》、《緑の太陽の頂点》→《極楽鳥》の動きに加え、《太陽の宝球》まで搭載したこのリストは、「2→4→6」というマナ域のジャンプアップを安定して行えるようになっています。
しかしながら、マナ加速をすることだけがこのデッキの安定性を向上させているわけではありません。
《不屈の自然》や《太陽の宝球》のような「マナ加速」というのは、相手のデッキを度外視して、あくまで自分の展開だけを指す絶対的なものですが、このデッキには相手の速度を落とすことで相対的に6マナ域への到達を楽にするカードが数多く含まれています。
それこそが、このデッキ最大の特徴とも言える《感電破》《ショック》《小悪魔の遊び》、そして《金屑の嵐》の存在です。
「赤緑《ケッシグの狼の地》」の代名詞と言える《金屑の嵐》は、このアーキタイプならば採用されてしかるべきカードですが、その他の3種類は事情が異なります。
そもそも、この枠には《原初の狩人、ガラク》が入っていることがほとんどであり、もはや「赤緑《ケッシグの狼の地》」の確定パーツとして認知されていました。
理由としては、単純なカードパワーはもとより、5マナというコストがこのデッキのマナカーブを埋めるという意味でもデッキに合っていること、[-3]のドロー能力が《原始のタイタン》や《ケッシグの狼の地》と恐ろしいほど噛み合っていることが挙げられます。
しかしこれに待ったをかけたのが、冒頭でも紹介したビートダウン過多の今現在のメタゲームです。グランプリ・広島以前であれば、どれくらいの数がいるか予想しづらかった「緑白/青白ビートダウン」が、今となっては押しも押されぬTier1になったのは周知の事実ですし、それらのデッキの主戦力は、緑デッキの天敵とも言える《ミラディンの十字軍》です。
いかに《原初の狩人、ガラク》が自身のデッキ戦略に合致していると言えど、《ミラディンの十字軍》の前では赤子同然。戦場に《原始のタイタン》のようなパワーの高いクリーチャーがいなければ、3/3トークンを出して《濃霧》するだけの存在に成り下がってしまいます。
さらに《原初の狩人、ガラク》の不採用に追い打ちをかけたのが、先週紹介した「青白イリュージョン」のような《秘密を掘り下げる者》を軸にしたデッキです。《秘密を掘り下げる者》や《幻影の熊》のような軽量クリーチャーのみならず、カウンターや《蒸気の絡みつき》を搭載しているこのデッキもまた、《原初の狩人、ガラク》が真価を発揮しづらいデッキのひとつです。
それらのデッキが多いことを見越したうえで、彌永君は《原初の狩人、ガラク》ではなく、ビートダウンデッキに強い軽量除去を優先したのでしょう。これだけの数の除去が入ったリストであれば《ミラディンの十字軍》に手を焼くことはほとんどないでしょうし、「青白イリュージョン」の息切れを誘発させることも容易いでしょう。
これらの軽量除去で戦場に平衡を保っておけば、仮にマナ加速せずとも「安全に」6マナに辿り着けるわけですね。
さらにフィニッシャーも《ワームとぐろエンジン》ではなく、小型クリーチャーに強い《業火のタイタン》を優先する徹底っぷり。従来の「赤緑《ケッシグの狼の地》」対「緑白/青白ビートダウン」の相性差を覆す、実に画期的な構築と言えます。
ですが、これはメタゲームを完全に読み切る力がなければできない高等技術であり、軽量除去を入れる代償として抜いたカードが《原初の狩人、ガラク》のようなデッキの核であれば、なおのことこの難しい決断だったはずです。
そのうえで、実際の結果として世界選手権のメタゲームにおいて「緑白/青白ビートダウン」、「青白イリュージョン」の合計使用者数は3割を超えており、この変更は彌永君をスタンダード無敗のまま優勝の座へと導く大きな原動力になったことでしょう。
なお、《原初の狩人、ガラク》を軽量除去に変更したことで、対コントロール戦に多少弱くはなっていますが、火力構成に《小悪魔の遊び》を加えることで、対コントロール戦にて火力で焼き切れる可能性を高めています。僕だったら単純に《感電破》4枚、《ショック》3枚にしてしまいそうなものですが、この辺りのバランス感覚もさすがと言うほかないですね。
メインボードで対ビートダウンを強く意識している分、サイドボードには対コントロール用のカードが多めに取られています。
《秋の帳》は「青黒コントロール」のカウンターと除去の両方を弾けるたった1マナの優良カードで、1枚で劇的な場面を演出できるビッグマナ系統のデッキにピッタリのカードです。
そしてコントロール対策として、最早お馴染になった《最後のトロール、スラーン》も、メインボードと合わせて当然の3枚採用。通常は2枚だけ採用されていることが多い《ケッシグの狼の地》を、このリストでは3枚に増やしていますが、これは特に《最後のトロール、スラーン》で殴り続ける展開で素引きしたいがためだと思われます。
実際に《ケッシグの狼の地》で計算を狂わせるのは非常に有効な手段なので、コントロールデッキへ耐性を付けたい時は、このアプローチも検討してみてください。
優勝という最高の結果を残した彌永君と、このデッキを共に組み上げたというライザ(石村 信太郎)君。2人がどれほどの時間をかけてこのリストを完成させたかは定かではありませんが、優勝するに相応しい素晴らしいリストに仕上がっていると思います。
彌永君とライザ君が世に送り出したこのデッキは、年末年始の戦いに向けて、メタゲームを更なるステージに突入させました。
余談ではありますが、彌永君はモダンでも見事な「《神秘の指導》コントロール」デッキを持ち込み5勝1敗の好成績を残しています。環境を問わず、高い構築能力を世界に示したこの2人。今後も2人の力作には要注目ですね。
「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」
9 《平地》 4 《墨蛾の生息地》 4 《金属海の沿岸》 2 《ムーアランドの憑依地》 -土地(19)- 4 《メムナイト》 4 《信号の邪魔者》 4 《きらめく鷹》 4 《大霊堂のスカージ》 4 《刻まれた勇者》 1 《月皇ミケウス》 -クリーチャー(21)- |
4 《急送》 4 《オパールのモックス》 4 《起源の呪文爆弾》 4 《鍛えられた鋼》 4 《きらめく鷹の偶像》 -呪文(20)- |
3 《呪文滑り》 3 《刃砦の英雄》 2 《四肢切断》 4 《忠実な軍勢の祭殿》 1 《忘却の輪》 1 《機を見た援軍》 1 《氷河の城砦》 -サイドボード(15)- |
彌永君たちとはまた違ったインパクトを与えたのが、世界最強のチームである「ChannelFireball」でした。いくら全員が優勝を目指してプレイしているとは言え、75枚同じデッキが、まさか4つもトップ8に残るとは、おそらく彼ら自身も想像していなかったのではないかと思います。
16勝2敗という圧倒的なスコア(しかもその2敗はチームメイトに対するもの)で予選ラウンドを勝ちあがったConley Woodsを筆頭に、Luis Scott-Vargas、Paulo Vitor Damo da Rosa、Josh Utter-Leytonの計4名をトップ8に送り込みました。
これにはドラフトとモダンの成績も関わってくるので一概には言えませんが、何にせよこのチームの圧倒的な力を、改めて世界に知らしめる大会結果になったと言えます。
惜しくも優勝とはいかなかったものの、この結果は「白単《鍛えられた鋼》」の持つポテンシャルをも、世界に示すことになりました。このデッキの強さは、「どのタイミングで使うか」その1点に集約されていると言っても過言ではなく、やはりマークがあまくなった瞬間には必ずと言っていいほど結果を残してくるという印象です。
このデッキが理想のまわりをすると、1ターン目から
こんな展開だったり、2ターン目から
こんな展開を見せたりするので、今後もマークが甘くなれば再びチャンスが巡ってくるでしょう。
ただし今後このデッキを選ぶ場合は、今まで以上に慎重になる必要があります。当たり前の話ではありますが、勝った直後というのは、最もメタられやすいタイミングでもありますからね。使うにしろ使わないにしろ、常に頭の隅にはおいておきたいデッキ。それが「白単《鍛えられた鋼》」というデッキです。
僕の拙い翻訳で申し訳ないですが、「ChannelFireball」と「StarCityGames」の面々がどういう風にこのスタンダードに取り組んできたか、という記事も掲載されているので、お時間のある方はぜひそちらもご覧になってみてください。
「緑白トークン」
残るトップ8のデッキは、最近紹介する機会が多かったので、今週は4勝2敗以上の成績を残したデッキの中から、僕が少しだけ調整のお手伝いさせてもらった森田(雅彦)さんの「緑白トークン」デッキを紹介したいと思います。
今回は調整の過程もお伝えできればと思っているので、まずは比較的珍しいこのデッキを選んだ理由から。
~「緑白トークン」に注目した理由~
僕がこのデッキに目を付けたのは、先週の記事を書くためにMOで「青白イリュージョン」をまわしていた時のことでした。何試合かを行い、最終的に5敗ほどを喫したのですが、その中で最も印象に残った敗北が「緑白トークン」に対するものだったのです。他の敗戦は、どちらかというと自分のマリガンミスやプレイングミスによるものが多かったのですが、「緑白トークン」だけは特別で、明らかに相性が悪いと感じました。
なぜならば、「青白イリュージョン」の弱点のひとつに、数で押されると厳しい、というものがあるからです。
これは「青白イリュージョン」デッキのカード選択(リストは先週の記事参照)を見てもらえれば分かるように、《蒸気の絡みつき》も、《はらわた撃ち》も《四肢切断》も、普通のクリーチャー相手には強いものの、例えばこのデッキに含まれる《忠実な軍勢の祭殿》や《エルズペス・ティレル》のようなカードに対しては無力に等しいですからね。
それに加え《迫撃鞘》や《審判の日》、さらにサイドから《機を見た援軍》まで投入されるとなれば、苦戦は必至。カウンターの少ない「青白イリュージョン」だと、これら全てを捌くのは相当に困難でした。
さらに「緑白トークン」は対「青白イリュージョン」のみならず、デッキの構造上ほぼ全てのビートダウンデッキに対して相性が良く、コントロールデッキが少ないと考えられた世界選手権ではチャンスがあるように思えました。
そんな話を世界選手権に参加する森田さんにしてみたところ、なんと森田さんはすでに「緑白トークン」を使用候補に入れていたのです。それも限りなく第一候補に近いという驚きの内容でした。
実際にどれくらいの数がいるかは分からないものの、やはり「青白イリュージョン」の存在を相当に意識していたそうで、「青白イリュージョン」に強いのはかなり魅力的だったとのこと。その後も色々とこのデッキのことを教えてもらい、せっかくなので調整のお手伝いをさせてもらうことになりました。
それでは、調整開始時点でのデッキリストをご覧ください。
9 《平地》 1 《森》 4 《剃刀境の茂み》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《ガヴォニーの居住区》 3 《幽霊街》 -土地(25)- 4 《宿命の旅人》 4 《刃の接合者》 -クリーチャー(8)- |
4 《無形の美徳》 4 《忠実な軍勢の祭殿》 4 《深夜の出没》 3 《忘却の輪》 3 《審判の日》 3 《迫撃鞘》 3 《情け知らずのガラク》 3 《エルズペス・ティレル》 -呪文(27)- |
4 《はらわた撃ち》 3 《帰化》 2 《天界の粛清》 4 《機を見た援軍》 2 《内にいる獣》 -サイドボード(15)- |
普通の「緑白ビートダウン」よりも、トークン戦略を主観に組まれたデッキが「緑白トークン」です。
先ほど紹介した《迫撃鞘》と《審判の日》だけでなく、《情け知らずのガラク》と《エルズペス・ティレル》までもがメインから入っていますし、このデッキの対ビートダウンへの勝率はおそろしいものになっています。
サイドの《機を見た援軍》も「青白イリュージョン」や各種ビートダウンに劇的に強い1枚ですし、環境でも屈指のビートダウン耐性を誇るデッキと言っていいでしょう。
一見地味に見える《無形の美徳》はこのデッキのキーカードのひとつで、これさえあれば《深夜の出没》や《エルズペス・ティレル》で戦場を簡単にコントロールできるようになります。《無形の美徳》と何体かのトークンを出すだけで、ビートダウンデッキには大きな脅威となるので、それもこのデッキがビートダウンデッキに強い理由のひとつです。
そしてクリーチャーのサイズアップが重要なのは対ビートダウン戦だけと思われるかもしれませんが、これは対コントロール戦においても、非常に重要な役割をはたします。
ここまでお伝えしてきた通り、このデッキはビートダウン相手に無類の強さを発揮するのですが、その代わり対コントロール戦、とりわけ《大修道士、エリシュ・ノーン》、《忘却の輪》、《審判の日》擁する「太陽拳」を苦手としています。
カウンター呪文の総数の多い「青黒コントロール」も厳しい相手ですが、これらに打ち勝つには先手2ターン目ならば無条件で戦場に出る《忠実な軍勢の祭殿》がいちばん手っ取り早いです。しかしそうは言っても毎回引けるわけではないので、そうなってしまうと1ターンに1回のアクションしか取れないこのデッキは、カウンター呪文の前にいいようにやられてしまうことが多いんですね。
そこで活躍するのが《無形の美徳》と《深夜の出没》です。通常であればただの2点クロックでしかない《深夜の出没》は、コントロールデッキから見れば大した脅威ではなく、無視されることがほとんどでしょうが、しかしこちらの戦場に《無形の美徳》があるとどうでしょうか?
《無形の美徳》さえあれば、《深夜の出没》は4点クロックをインスタントタイミングで生み出せる高性能のカードとなり、多くの場合はカウンターや除去などの対処を強制できるようになります。そうなれば《情け知らずのガラク》や《エルズペス・ティレル》、または少し遅めに引いてしまった《忠実な軍勢の祭殿》を通すタイミングが作りやすいので、対コントロール戦でも《無形の美徳》は非常に良い働きをしてくれるのです。
~雛形リストの特徴と課題~
この雛型リストの特徴は、一般的には《刃砦の英雄》が入っていることの多いスロットに《宿命の旅人》を採用しているところでしょう。
これには主にふたつの理由があり、ひとつ目は2マナ以下のカードがあまりに少なすぎるため、4ターン目や5ターン目に1回しかアクションが取れないことを嫌ってという理由。そしてふたつ目の理由が特に重要で、単体除去を打ちたい対象がほとんど存在しないこのデッキに《刃砦の英雄》を入れても、相手の手札に余っている単体除去の絶好の的になるだけ、というものです。
これらの理由は至極真っ当なもので、僕も《刃砦の英雄》は入れずに《宿命の旅人》を採用したリストから始めることにしました。そして夜な夜なMOのチャットで意見交換を交わしながら調整は続き、いくつかの課題を残しつつも、少しずつ完成形に近づいていきました。
その課題とは、具体的には以下のようなものでした。
- 非常にサイドアウト率の高い《宿命の旅人》の必要性
- 対コントロール戦に抱える不安
1番目の項目に関しては、この時点で2枚まで減っていた《宿命の旅人》をどうすべきかというものでした。(代わりに入れたカードは4枚目の《審判の日》と《エルズペス・ティレル》)
僕は対「青黒コントロール」、「太陽拳」以外の相手にはほとんど《宿命の旅人》をサイドアウトしていましたし、コントロールデッキ相手に対してサイドアウトしないとは言え、そのマッチアップで特別強いわけでもなかったので、どんな相手にも強い《情け知らずのガラク》の4枚目などに変えたいと思っていました。
仮に《宿命の旅人》の枠を違うカードに変更したとしても、ビートダウンへの勝率の高さが激減するようなことはないと感じたので、それもこのカードの必要性に疑問が生じた理由のひとつでした。
しかしこの部分は結局最後の最後まで結論が出せず、今回の調整で失敗だったなと反省する要因となりました。
2番目はこのデッキの課題そのもの。緑マナの少なさゆえに《最後のトロール、スラーン》に頼るわけにもいかず、具体的な解決策は《秋の帳》くらいしかありませんでした。
ですが、《秋の帳》を使ってまで通したいカードがあまりにも少ないことが懸念され、これも結論が出せずじまいでした。ただしこの項目に関しては、もともとこのデッキを選ぶ理由の中に、「世界選手権ではほとんどコントロールデッキがいないだろう」というものがあったので、そこまで大きな問題には感じていませんでした。
ついでに「赤緑《ケッシグの狼の地》」にも弱かったりするのですが、これもまた、比較的選ぶ人が少ないだろうというわけで無視することにしました。
そんな課題を残しながら、森田さんはアメリカに旅立ってしまいました。幸いネット環境があるおかげで連絡が取れるとのことだったので、森田さんがアメリカに着くまでに、思い切って最後に《宿命の旅人》を抜いた調整をしてみることにしたのです。
9 《平地》 3 《森》 4 《剃刀境の茂み》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《ガヴォニーの居住区》 1 《幽霊街》 -土地(25)- 4 《刃の接合者》 -クリーチャー(4)- |
4 《無形の美徳》 4 《忠実な軍勢の祭殿》 4 《深夜の出没》 3 《忘却の輪》 4 《審判の日》 4 《迫撃鞘》 4 《情け知らずのガラク》 4 《エルズペス・ティレル》 -呪文(31)- |
3 《はらわた撃ち》 2 《秋の帳》 3 《帰化》 2 《天界の粛清》 4 《機を見た援軍》 1 《内にいる獣》 -サイドボード(15)- |
《宿命の旅人》を抜いてしまった悪影響はあまり感じられなかったので、メインボードはこれで固定して、いよいよサイドボードを確定させる段階に。
《はらわた撃ち》は「青白イリュージョン」を筆頭に、多くのデッキ相手に強かったのですが、《迫撃鞘》4枚、《はらわた撃ち》4枚にしてしまうと、中盤以降の息切れがすさまじかったので3枚に。「青白イリュージョン」がいなかったら0枚にしたかったくらいなんですが、それくらい「青白イリュージョン」の与えたインパクトはすごかったという裏付けでもあります。
最大の課題であった、コントロール対策は結局《秋の帳》になりました。しかしこれを試そうと何十試合もやったんですが、1回しかコントロールデッキに当たれず、このカードの良し悪しは分からずじまいで調整は終了。
最後までかなりバタバタしてしまいましたが、国際電話を駆使して森田さんに調整過程を伝えて、初日の結果を待つことになりました。
9 《平地》 2 《森》 4 《ガヴォニーの居住区》 4 《剃刀境の茂み》 4 《陽花弁の木立ち》 2 《幽霊街》 -土地(25)- 2 《宿命の旅人》 4 《刃の接合者》 -クリーチャー(6)- |
4 《無形の美徳》 4 《忠実な軍勢の祭殿》 4 《深夜の出没》 3 《忘却の輪》 4 《審判の日》 3 《迫撃鞘》 3 《情け知らずのガラク》 4 《エルズペス・ティレル》 -呪文(29)- |
3 《はらわた撃ち》 2 《天界の粛清》 3 《帰化》 4 《機を見た援軍》 2 《内にいる獣》 1 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
結果は「青白イリュージョン」×2、「青赤《秘密を掘り下げる者》」、「青黒コントロール」に勝ち、「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」と「太陽拳」に負けの4勝2敗。
負けてしまった「白単タッチ青《鍛えられた鋼》」の試合は、3マナしかなくて《審判の日》をキャストできなかったためで、「太陽拳」は、相手のデッキに《漸増爆弾》4枚、《審判の日》4枚、《死の支配の呪い》2枚が入っていて、相性的にどうしようもなかったとのこと。
《宿命の旅人》を0枚にしてからの調整にあまり時間がかけられなかったために、枚数をどうすべきか結論は出せず、2枚のままでした。
前述の通り、今回の調整で本当に後悔したのがこの部分で、2人ともに全く同じリストを使って調整したことに問題があったと思います。森田さんが《宿命の旅人》を入れて調整するなら、僕が最初から《宿命の旅人》を入れていないリストを使えばよかったんだと、最後の最後になって気付いたのが残念でしたね。
世界選手権の結果を受けて、今後は「赤緑《ケッシグの狼の地》」、そしてそれをメタってカウンター多めのコントロールデッキが増えると思うので、このデッキには厳しい状況になるかもしれません。
しかし圧倒的なビートダウン耐性は依然として大きな魅力ですし、動きも面白いので、ぜひ一度手に取ってみてほしいデッキです。
今週はここまでになります。
もし、今後MOで2人以上で調整をしてみようと思う方は、2人とも同じリストではなく、あえて違うリストを使用したりだとか、違うデッキを使用するといった工夫をすると、時間を短縮できていいかもしれません。もちろん、時間があれば全てを試すに越したことはありませんが、なかなかそうはいかないと思うので、みなさんも自分たちなりの調整法を探してみてください!
来週は世界選手権で4勝2敗以上を記録したデッキの中から、面白いデッキを見ていきたいと思います。
それでは、また来週ー!
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