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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

第38回:《起源の波》デッキと、デッキリストを知ること

読み物

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

2011.01.19

第38回:《起源の波》デッキと、デッキリストを知ること

 こんにちはー。

 MO上でも、メタゲームに特に変化の見られない今日この頃、みなさんいかがお過ごしですか?

 そんな訳で今週は「Decks of the Week」からではなく、「StarCityGames」主催で行われた、2つのビッグイベントのカバレージの中から、Conley Woodsの使用した「Genesis Wave」デッキに焦点を当てていきたいと思います。

 StarCityGames.com Standard Open - Kansas City
 StarCityGames.com Standard Open - San Jose, California

 みなさまのおかげで、今回で38回目を迎えたこの連載なんですが、今までの記事の多くは、デッキリストについて言及したものでした。
 今週はそれらとは違い、僕が練習段階で特に意識している部分を書いてみたので、そこに注目して読んでみてください。

起源の波》デッキ

 まずはConley Woodsのリストをご覧ください。

「Genesis Wave」
Conley Woods:StarCityGames.com Standard Open:2nd place[MO] [ARENA]
4 《
4 《
4 《霧深い雨林
2 《新緑の地下墓地
1 《沸騰する小湖
4 《カルニの庭
3 《ハリマーの深み
4 《地盤の際

-土地(26)-

4 《ジョラーガの樹語り
4 《水蓮のコブラ
4 《草茂る胸壁
4 《酸のスライム
4 《霜のタイタン
3 《原始のタイタン

-クリーチャー(23)-
4 《広がりゆく海
4 《精神を刻む者、ジェイス
3 《起源の波

-呪文(11)-
1 《絡み線の壁
4 《強情なベイロス
1 《嵐潮のリバイアサン
2 《睡眠発作
2 《漸増爆弾
2 《召喚の罠
2 《決断の手綱
1 《精神隷属器

-サイドボード(15)-


 いつも摩訶不思議なデッキ選択で我々を驚かせてくれるアメリカのホープConley Woodsですが、今回は、世界選手権でも何名かのプレイヤーが使用していた、「Genesis Wave」を持ちこんできました。

 決勝戦では惜しくも「ボロス」デッキに負けて2位でしたが、この連載ではまだ紹介していなかったので、良い機会だと思い、紹介させていただくことにしました。

 基本的には大量のマナ加速から《精神を刻む者、ジェイス》《霜のタイタン》《原始のタイタン》をいち早くキャストし、相手を圧倒していき、必要とあらば《起源の波》がゲームを決める事となります。
 《広がりゆく海》と《酸のスライム》による「疑似ランデス」モードもあり、思っていたよりも多彩な動きが出来るのがこのデッキの魅力でしょう。何と言っても、先週お伝えしたように、環境全体から除去の枚数が激減した今、このデッキのようにクリーチャーにマナ加速を頼ったデッキは、以前にも増して輝きを放つようになりました。

 その爆発力ゆえに、どんなデッキを相手にした場合でも五分以上の戦いが出来ます。しかしConley Woodsという有名なプレイヤーが使用して結果を残してしまったため、カウンター呪文が入っていないという事実を多くのプレイヤーが知ってしまった今となっては、躊躇なく飛んでくる《審判の日》などにあっさりと負けてしまう事態も増えてしまいました。

 それを改善すべく、サイドボードに改良を加えたのが以下のリストになります。

「Genesis Wave・改」[MO] [ARENA]
4 《
4 《
4 《霧深い雨林
2 《新緑の地下墓地
1 《沸騰する小湖
4 《カルニの庭
3 《ハリマーの深み
4 《地盤の際

-土地(26)-

4 《ジョラーガの樹語り
4 《水蓮のコブラ
4 《草茂る胸壁
4 《酸のスライム
4 《霜のタイタン
3 《原始のタイタン

-クリーチャー(23)-
4 《広がりゆく海
4 《精神を刻む者、ジェイス
3 《起源の波

-呪文(11)-
2 《絡み線の壁
4 《強情なベイロス
4 《マナ漏出
2 《漸増爆弾
3 《召喚の罠

-サイドボード(15)-


 メインボードはConleyのものと全く同じですが、《審判の日》擁する「青白コントロール」への勝率を上げるべく、サイドボードに《マナ漏出》を入れました。

 青系のコントロール相手には、《広がりゆく海》4枚と《起源の波》3枚を抜いて、4枚の《マナ漏出》と3枚の《召喚の罠》を入れるだけになっており、Conleyのリストよりサイドボーディングも簡単になっています。

 リストが知れ渡ってしまった、と言う事によるデメリットは確かにありますが、それにより生じるメリットもあります。

具体例:2つのケース

 ここからが今週の本題である、対戦相手のデッキのアーキータイプ、またはデッキリストを知っている事で生まれるメリット、デメリットのお話です。

 少し前の話にはなりますが、僕がフルタイムのプロプレイヤーとして生活していた数年間は、僕は環境にあるTier1、Tier2に属するデッキのリストをほぼ完璧に記憶していました。今思えば結構すごい事ではないかと自分を誉めてしまいたくなりますが、実はみなさんも知らず知らずの内に、これを実行しています。

 例えば、以下のような2つのケースを想定します。前提として、

・あなたの使用デッキは「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」
・対戦相手のデッキが何であるかは知っている
・どちらのケースも、あなたは後手

 とします。
 初手を書いたりしているのは状況をより理解してもらいやすくするためであり、そこに深い理由はあまりありません。僕の行う選択も、正解・不正解を含め、そこまで深く意識してもらう必要はないです。

・ケース1 VS「赤単」

 相手は7枚の初手をキープし、一度マリガンしたこちらの初手は《》《》《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》《稲妻》《カルニの心臓の探検》《原始のタイタン》です。

 対戦相手は1ターン目に《》から《ゴブリンの先達》を出してアタック。見えたカードは2枚目の《カルニの心臓の探検》で、相手はターンを終了しました。

 ここで《》を置いて《稲妻》を構えるか、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を置くか。

 人によって分かれるかもしれませんが、多くの人は《稲妻》を構える事の出来る《》を置くでしょうし、僕もそうします。

 対戦相手の2ターン目は《ゴブリンの先達》でアタック、見えたカードは《進化する未開地》。

 さて、突然ですがここで問題です。みなさんならどこで《稲妻》をキャストしますか?
 僕の答えとしては、相手のターン終了時まではキャストしません。
 なぜならば、対戦相手が戦闘後に《板金鎧の土百足》や《窯の悪鬼》をキャストした場合、《ゴブリンの先達》が生き残った場合と比べ、受けるダメージが遥かに多いからです。対戦相手が戦闘後に何もキャストしなかったなら、そこでようやく《ゴブリンの先達》へと《稲妻》をキャストします。

 ですが、今回の記事の意図として、「このターンのどこで《稲妻》を使うか」はあまり重要ではないので、「僕は1ターン目に《》を置き、相手の2ターン目の間には絶対に《稲妻》をキャストする」と言うところだけ覚えておいてくだされば結構です。

・ケース2 VS「白単アーマー」

 今回も対戦相手は7枚をキープし、あなたは不幸にもまたマリガンしてしまい、偶然にもケース1と同じ初手、《》《》《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》《稲妻》《カルニの心臓の探検》《原始のタイタン》をキープしたとします。

 対戦相手の動きは、《平地》から《羽ばたき飛行機械》、最後に《きらめく鷹》をキャストし、《羽ばたき飛行機械》を回収してターンを終えました。

 こちらのドローは2枚目の《カルニの心臓の探検》と仮定して、次なる問題です。今回のケースなら、みなさんはどの土地をセットしますか?

 僕は《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》をセットしますし、これもまた多くの人に賛同していただけるはずです。理由としては以下のようなものが挙げられます。

・《聖なる秘宝の探索》が無い7枚をキープしたと言う事は、《石鍛冶の神秘家》《コーの装具役》のコンボ、または1枚で勝てる《肉体と精神の剣》がある可能性が高い。

・青系のデッキには有効な動きである、先手2ターン目の《石鍛冶の神秘家》か《戦隊の鷹》がある。

 「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」デッキにとってどうでもいい《戦隊の鷹》は除外するとして、それ以外の場合では装備品の動きに合わせて《稲妻》を使う方が、テンポアドバンテージ的に最も《稲妻》を上手く活用出来ると言う訳ですね。

相手のデッキを知っていること

 しかし上記の理由を度外視して、もっと根本的な、みなさんが無意識レベルで日々行っている行為が今回の記事の趣旨になります。

 それは、「白単アーマー」には《稲妻》のような火力呪文が入っていない、というものです。

 あまりに抽象的な答えに拍子抜けした方も多いかと思いますが、これが答えです。
 今一度、ケース1の問題を考えてほしいのですが、あなたはなぜ《》を置いて《稲妻》を構えようと思ったのですか? ケース2で《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を置いたその理由は?

 僕の答えは、それらのデッキに火力呪文が含まれているかどうか、になります。

 極端な話をしてしまうと、あなたは「白単アーマー」の《きらめく鷹》に9回アタックされても、もう一度アタックされるまでにゲームに勝つ、あるいは相手のクリーチャーを抑え込めばいいのです。「白単アーマー」には火力呪文は入っていないので、アタックしかダメージ源がありませんからね。
 そのためには、ゲームに唯一負ける可能性のある「高速での装備品展開」を防ぐことが勝利への近道であり、それ以外は無視しても構いません。

 ですが、「赤単」のように火力呪文の入っているデッキ相手と対峙した場合には、これは当てはまりません。《稲妻》《噴出の稲妻》などで残りライフを削りきられないよう、出来るだけ高い水準でライフを維持するのがセオリーとなります。

 これらが「セオリー」と言われるのは、みなさんが対戦相手のデッキの内容や、特性をきちんと把握しているからに他なりません。

発展形:デッキリストの流行を目安にする

 もう少し踏み込んだ話をすると、デッキリストの変化を事細かに覚えておくと、ライフをどこまで下げられるか、ということまで決められるようになります。

 例えば「ボロス」デッキは、少し前までは《稲妻》4枚、《噴出の稲妻》2~4枚という火力構成が主流でしたが、最近では《稲妻》4枚だけに抑えられたデッキリストがほとんどです。前述の通り、火力の入ったデッキ相手には出来るだけライフを残しておきたいものですが、それが叶わない場合もあるでしょう。

 そんな時、「ボロス」デッキのリストの流行を知っていれば、火力で削られるライフは多くても6点が目安になると分かります。
 微々たる差ではありますが、つまりこちらのライフが7になるようなアタックに対して、無理をする必要が無くなります。

 あなたが大会に参加する前の週に、グランプリやプロツアーがあれば、デッキリストの特定はより簡単になります。
 ありえない話ではありますが、そのグランプリやプロツアーでトップ8に残ったデッキが全て「ボロス」だったと仮定してください。その8つのリスト全てが、火力呪文が《稲妻》しか入っていないものだとしたならば、あなたの目の前にいる「ボロス」使いは、はたしてそれ以外の火力呪文を採用しているでしょうか? 僕はそうは思いません。

 そうは言っても人によりリストは違いますし、先程も申し上げた通りライフは多ければ多いほどいいので、本当に目安程度ではありますが、プレイングの指針にはなりえるでしょう。
 これがデッキリストを知られるデメリットであり、僕が多くのリストを見る事を推奨する最大の理由です。

実用例:自分に必要な情報だけ知っておく

 調整時間の無い方は、多くのアーキータイプの細部までを記憶しておく事は難しいでしょうが、何も全てを覚えておく必要はありません。

 例えば、「ボロス」の項目で例に出したように、「このデッキに火力呪文は4枚」だとか、「青黒コントロール」なら「カウンター呪文は《マナ漏出》4枚と、《剥奪》《取り消し》《冷静な反論》の中から2枚の合計6枚が主流」など、あなたのデッキにとって必要な情報を覚えておくだけで、これだけでも随分とゲーム中の思考を整理しやすくなるかと思います。

知られているなら、変えてしまう

 さて、相当に前置きが長くなってしまいましたが、Conleyのリストの話に戻りましょう。

 以上の理由のように、このデッキに「カウンター呪文が入っていない」という事実をすでに多くの人が知っており、それを把握した上で、皆が《審判の日》のような重要な呪文ですら戸惑いなくキャストするようになってきています。

 しかしそこでコピー元とは違うカード、今回の件で言えばカウンター呪文を採用していれば、対戦相手の思惑を容易に崩す事ができ、ゲームを掌握する事すら可能となります。

 有名なデッキであればあるほど、少しの変更で大きな成果を得る事が出来る。これこそが、デッキリストを知られているからこそ生じるメリットですね。


 あまりまとまりの無い文章になってしまいましたが、今週はこの辺でお別れです。

 実は今週の記事は「ローグデッキの優位性」について語ったものなんですが、僕自身つい最近MO上で見た事もないデッキ相手に、プレイングもサイドボーディングプランも分からぬまま負けてしまった事もあり、自分が思っていた以上に、普段眺めているデッキリストの情報は大切なんだと再認識し、このような記事を書かせていただきました。

 そのデッキはまだ「Decks of the Week」に載っていないのですが、見つけ次第、今後の連載で紹介したいと思います。自分が使っていないアーキータイプのデッキリストを見る事を少し面倒に感じる人もいるかもしれませんが、これを機に色んなデッキを見るようになっていただければ幸いです。

 それでは、また来週ー!

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