読み物
Savor the Flavor
君は窮地にあるか?
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2012年3月7日
原文はこちら
20
君のライフは20だ。君はイニストラード次元にいて、太陽はまさに沈んだところだ。君は夜を生き延びることができるだろうか? さあ、ゲームの開始だ。
道程を外れて
聖なる都市スレイベンへと続くこの森林に覆われた道は、雨水の溜まったくぼみだらけで、君の馬はつまずいて鼻息を荒くしている。彼女のひづめは雲をまとった月を不穏に映し出すぬかるみで飛沫を上げた。路傍の祠は全て力を失ったために、狼男達は森のこの区域を彼らの狩り場とし、ここに踏み入ろうとする人間は誰もいない。
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《》 アート:Vincent Proce |
君以外は。だから最後の祠で君は伝統的な祈りの句を唱えた。他に、君にできる事はあまりない。スレイベンへと確実に辿り着くために可能な事は何であろうと行う、ただそう思うだけだ。
上腕に銀製の聖印を結びつけた。君の父親がくれた、二羽の白鷺のくちばしのように湾曲したアヴァシンのシンボル。それは君の利き腕のバランスを変え、肘を曲げる時には袖の上から皮膚に食い込みさえする。だが君は少しもそれを気にしない。それは君に、庇護されているという感覚を思い出させてくれる。どうだろうか? アヴァシンは世界を見捨てたと言われている。だが何者かがまだそこにいて、君を見守っているかもしれない。
道はついに完全なぬかるみとなった。肌寒い霧が立ちこめてきて、影を抜けようと君が馬を操ったら、君は崩れた墓石からなる墓地に立ち入っていたことに気がついた。戦墓だ。
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《》 アート:Lars Grant-West |
決断の時だ。君はどうする?
引き返し、君の馬をこの場所の周囲にある開けた場所へと向かわせる。
できるかぎり迅速に、全速力で墓石を飛び越えながら墓地を突っ切って行く。
馬を降りて剣を抜き、ゆっくりと注意深く、馬を引きながら墓地を進む。
いい考えだ。君と君の馬は戦墓の反対側により堅い地面の道を見つけた。ライフを失わない。
君と君の馬は不快な墓地を抜け、勾配のある、樹木茂る谷間へと入った。
君の馬はその計画に同意した。君は間違いなく眠らぬ死者の墓を急いで飛び越えた。一度、君の馬は不器用に着地し、君は戦墓の途中にある石の霊廟に肩を強くぶつけることになった。2点のライフを失う。
君と君の馬は不快な墓地を抜け、勾配のある、樹木茂る谷間へと入った。
勇敢だ......あるいは、あまりに勇敢すぎだ。飢えたグールが3体、戦墓の中ほどに姿を表すと、骨が露出した指を君へと突き出してきた。君はどうにか奴等をたたき切って祝福されし眠りへと返そうとしたが、その前に奴等の1体が君の大腿骨へと獰猛な攻撃を与えた。深刻な腐敗は免れたとは思うが、その傷により4点のライフを失う。
君と君の馬は不快な墓地を抜け、勾配のある、樹木茂る谷間へと入った。
出家蜘蛛の橋
地面はほどなく、木々の密集した暗い峡谷へと落ち込んで行った。峡谷を降りて反対側へと上るには何時間もかかるだろう。そこで解決策のように、木製の橋が近くにあった。だがその橋はそれ自体に問題を抱えていた。
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《》 アート:Vincent Proce |
死んだように静かに、巨大な蜘蛛が橋の下に潜んでいた。君は、宙に静止する鳥達がいなければそれを見逃す所だっただろう。君は当初、その鳥達は何かの理由で空中に凍りついているのだと考えたが、それらは実際のところ、ほとんど目に見えない蜘蛛糸のマットにはりついた、羽根がついたままの鳥の残骸だった。この古い橋は、かつて使われてきたどんな罠よりも油断できない罠だった。
どうする?
蜘蛛が反応する機会を得る前に渡り切ることを願い、猛烈な速度で橋を突っ切る。
君の馬を単体で進ませて蜘蛛型の怪物への供物として捧げ、君はこっそりと通る。
蜘蛛の巣に何か飛行クリーチャーの類が引っかかるのを待つ。
君は拍車を蹴って祈りを唱え、橋を越えようと駆けだした。蜘蛛は即座に振動へと引きつけられ、君へと多数の脚を伸ばしてきた。それは致命的に強靭な肢で君の脚を突き刺したが、君はどうにかもがいて自由になった。君の馬はそこまで幸運ではなかった。君はよろめきながら、蜘蛛が君の信頼する馬をむさぼり食らうのを見ないように努めた。5点のライフを失う。
とても賢明な案だ。その蜘蛛は君の馬を幸せそうに捕えて食い尽くす間、君を無視した。君は肉体的には無事だったが、それでも、蜘蛛が馬を食らうボリボリという音を受け入れるのは困難だった。精神的重圧から、2点のライフを失う。
君は静かに待ち、蝙蝠や鳥、もしくは吸血鬼といった何かが蜘蛛の手中に滑りこむのを期待した。だがその代わりに、ついに蜘蛛は君の接近を感じ取り、君を攻撃すべく峡谷をよじ上ってきた。君は剣を振るってその毛深い肢を受け流し、浅い傷を受けたにとどまった。君の馬は勇敢にも後脚で立って蹴りを浴びせ、蜘蛛の注意をひいた。君は君の馬が蜘蛛の夜食となるさまを度肝を抜かれながら見て、ついに何とか脱出することができた。負傷から4点のライフを失う。
捕虜
君は先へと進む、悲しいことに今や信頼する馬はいない。君は我が家へ向おうと決めた時に、もはや安全な道程ではないとわかっていたが、今や君は生きて帰ることが可能かどうかさえ疑問に思っている。唯一の選択肢は、スレイベンの安全な城壁へと向かって夜通し進むことだ。
悲しげな叫びが木々の間を通って君の耳へと届いた。君は聖印と剣を構えながら注意深く静かに進んだ。だが君は近づくと、悲しげな声は人間のものだと理解した。森の中に小さく開けた伐採地へと踏み入ると、ひと続きの、吊るされた檻を見た。吸血の檻、将来の食事のために吸血鬼達が犠牲者を蓄えておくものだ。そのひとつに1人の男性が捕えられており、君を目にして大声を上げた。
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《》 アート:Zoltan Boros |
「助けてくれ!」その男は叫んだ。「ここから出してくれ! 奴等が戻ってくる!」
「ちょっと待ってくれ」君は言った。「奴等って? ファルケンラスか? 流城家か?」昇る月の光の中、君は男の肌に噛み跡が穿たれているのを見た。その噛み跡は吸血鬼のものとしては奇妙に見えた。野卑で、荒々しかった。
「知らん。あいつらは恐ろしい......歯、飢え、唸り声......奴等が戻ってくる前に俺を出してくれ!」
唸り声? 吸血鬼は普通唸ったりはしない。この男は何に耐えているのだろう? 君は祝福されし銀の試しをしようと決め、君が持つアヴァシンのシンボルをその男の肌へと押しつけた。彼は非人間的な咆哮とともに後ずさりし、君の腕を引っかくと、君の大切な聖印を袖から引き裂いて草むらのどこかへとやってしまった。吸血の檻が揺れ、変身がその男を圧倒し始めた。彼の、怒りに震える声とともに。
「次はお前だ、迷子め。お前のか弱い心は怒りの中に消え、群れの一員となるのだ」
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《》 アート:Zoltan Boros |
そして、彼は檻を内側から破り開けた。月の光の下、その姿はほとんど狼のように見えた。内側から人間を破り開けた怪物。変身は衝撃的なほどに素早く、裂ける音と拳が爆ぜる音は恐ろしいものだった。その狼男は牙をむき出しにして、君へと飛びかかった。
銀の聖印はどこかに失われてしまった。そして君は新たに自由となった、巨体の狼男に対峙している。どうする?
茂みへと飛び込み、君の聖印を取り戻そうと試みる。
君の剣でその獣の心臓を貫く。
逃げる。
君は狼の鉤爪を避け、茂みへと転がりこんだ。捕食者は素早く立て続けに君の踵に食らいつくが、君はどうにかその顔面を蹴り、手間取らせた。そいつが体勢を立て直し君へと飛びかかったちょうどその時、君は何か銀の輝きを掴んだ。君は聖印を握りしめ、迫りくるその狼男に向き直った。そのクリーチャーが顎を君の腕へとめり込ませる中、君は狼男の胸深くへと聖印を埋め込んだ。両方が完全に破壊された。君は生きているが、3点のライフを失う。
君は剣を構えて前へと突進し、堅実な一撃を与えたが、その獣はあまりに頑健だった。その鉤爪は君の胸と顔面をひっかき、檻へと君を押した。君はどうにか、揺れる吸血の檻の一つを利用して狼男を地面へと打ち倒し、君は走り去った。それは死んではいなかったが、君は全速力で夜の中へと駆けだすことができた。君はもはやその吠え声が聞こえなくなるまで速度を緩めなかった。君は生き残ったが、6点のライフを失う。
君は踵を返して逃げだした。イニストラードでは決して悪い案ではない、今を除けば。その狼男はたやすく君を捕まえ、その鉤爪で君の背中を引っかいた。君は倒れ、戦う君達は地面を転がりもつれた。君は何とか、剣の幸運な一撃で狼男の腹を裂くことに成功し、それは断末魔とともに崩れ落ちた。君は酷い傷によろめいた。8点のライフを失う。
カスパー伯父
今、聖印を奪われ、そして傷によろめきながら君はそれでも進む。スレイベンの安全さを切望しながら。だが落胆が這い寄ろうとしている。君の周りの森はとりわけ陰鬱に弱っている、それともそれは君の衰えゆく希望をただ反映しているだけなのだろうか? 呻く人々の群れが丘を引きずられるように君へと向かってきている? それとも、それは君自身の心の絶望をうめきとして聞いているだけなのだろうか?
いや......違う。そうだ、奴等は神聖を汚す者、肉に飢えたアンデッドの軍勢。だが不思議なことに、君はその中に見知った顔を見た。君の伯父、カスパーだ! 彼のお気に入りの帽子から君は彼をすぐに認識した! 彼はグールに追われているのだろうか? 彼を救うことができるかもしれない!
「カスパー伯父さん!」君は叫び、半狂乱で手を振った。「こっちです!」
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《》 アート:Zoltan Boros |
いや......いや、違う。カスパー伯父は彼らの一員だ。彼はグールになった。ああ、カスパー伯父さん、貴方に何が?
君はそれら腐ったグール達とやり合うか、彼らに加わるかだ。そして君は既にいくらかの傷から生き延びてきた。君の血の匂いが既に彼ら神聖を汚す者の飢えをそそっていることは疑いようもない。君が持つ全ては、剣とぼろぼろの衣服だけだ。
どうする?
アヴァシンへと祈る。
ゾンビの群れへと君の剣を投げつける。
心を決め、それら不死の悪鬼達とただ戦う。
誰も君を責めることはできない、大天使の防護の力がほとんど消え去っていてさえも。驚くべきことにその呪文は君の剣に聖なる輝きをもたらし、天使でさえ不可能な時に、君自身の絶望的な信念が呪文に力を与えた。君はゾンビの軍勢の中を切り裂き突き進むことができる。だがゾンビ達も君に傷を与えた。
窮地だ! 2点のみライフを失う。
誰も君を責めることはできない、大天使の防護の力がほとんど消え去っていてさえも。驚くべきことにその呪文は君の剣に聖なる輝きをもたらし、天使でさえ不可能な時に、君自身の絶望的な信念が呪文に力を与えた。君はゾンビの軍勢の中を切り裂き突き進むことができる。だがゾンビ達も君に傷を与えた。
7点のライフを失う。
その剣は見事な弧を描き、カスパー伯父の額へと正確に穴をあけた。彼は倒れた。だが今や君は丸腰だ。
窮地だ! 君は絶望的に、アドレナリンに煽られてカスパー伯父の身体へと飛びかかる芸当をこなし、グール達を飛び越えてどうにか死をかいくぐった。ライフを失わない。
その剣は見事な弧を描き、カスパー伯父の額へと正確に穴をあけた。彼は倒れた。だが今や君は丸腰だ。
グール達はその腐った鉤爪で君を切り裂き、君は6点のライフを失う。
君はつかの間包囲されたが、絶望を力に変えて雄々しく戦った。哀れなカスパー伯父を含むゾンビ達は君を中心としてあらゆる方向に倒れた。
窮地だ! 君の死への怖れは不幸な大胆不敵さとなり、グール達を倒して進路を切り開き脱出した。その過程で1点のみライフを失う。
君はつかの間包囲されたが、絶望を力に変えて雄々しく戦った。哀れなカスパー伯父を含むゾンビ達は君を中心としてあらゆる方向に倒れた。
グール達の致死的な歯が君を捕え、4点のライフを失う。
今や窮地の時だ。だが君に残されたライフがある。
君は先へと突き進むに十分なライフがある。だが窮地の時は近づいている。
夜の呼び声
月は高く昇り、雲の仮面の後ろで満ちている。君の衣服はぼろぼろになって血で汚れている。君と、別のものと。君は剣をどこで失ったのか、そしてスレイベンの城門はどれほど遠いのか確かではない。君が考えられること全ては、見たところガヴォニーの果てしない緩やかな山麓が君の前に広がっていることと、口に感じる硬貨のような味だけだ。
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《》 アート:Jung Park |
最悪なのは、君は狼男からの傷を明らかに確実に負っているということで、君は意図的に避けていたらしい何かを思い出したようだ。その傷が君を獣性で悩ますのに十分かどうかは定かではない、だがその考えは君の魂に影を落としている。
君ができること全ては、とぼとぼと歩くことだ。君が考えられること全ては、君へ向かって開く高都市のどっしりとした扉と、君を歓迎するべく広げられた腕だ。それら暖かな、優しい腕。快適で、暖かくて、肉の、血の通った、美味しそうな腕。
ちょっと待て、今のはなんだ?
君は考えを振り払うべく首を振った。これらの考えは君を解決には導かない。君はそんな考えを全て頭から拭い去れるようと願い、そして身体を動かすことに集中した。そうだ。意識をどこかにやって、道を行く一人になろう。起伏する丘の一人に、前足の下の大地の一人に。
待て。待つんだ。何だ? 待てってば!
ああ、なんてことだ。
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《》 アート:David Palumbo |
どうする?
走る。スレイベンへ向かって、できる限りの速度で走る。
歩き続ける。家と暖炉と、今やもう去ってしまった愛する者達の事を考えながら。
横になり、休む。
つらかったが、君はその傷にもかかわらず急いだ。
君は転び、よろめき、傷を悪化させてしまった。5点のライフを失う。
君は心をそういった、家族や友の喜ばしい思考に保った。
君の思い出は大いなる絶望をもたらすだけだった。君は残りの(人間としての)ライフを失い、狼男となった。君は新たな人生を始め、一地方を破壊し人々を殺戮した。
君は、休息の時がいくらかの力を取り戻させてくれることを期待した。
君の出血は多量で、7点のライフを失う。
つらかったが、君はその傷にもかかわらず急いだ。
窮地だ! 痛みは君の心を保つ助けとなり、君の内なる野生が頭をもたげるのをぎりぎりで押しとどめた。2点のライフを失う。
君は心をそういった、家族や友の喜ばしい思考に保った。
窮地だ! これらの記憶は君を強くし、前へと進ませてくれる。3点のライフを失う。
君は、休息の時がいくらかの力を取り戻させてくれることを期待した。
窮地だ! 不退転の気持ちが君を圧倒し、休息は君によく役立ってくれた。君はライフを失うことなく進み続ける。
君は先へと突き進むに十分なライフがある。だが窮地の時は近づいている。
今や窮地の時だ。だが君に残されたライフがある。
城門での評決
いくつかの奇跡によって、君はスレイベンの城門へと辿りついた。人間の衛兵が君を中へ入れてくれたが、彼らは銀の穂先がついた槍で君を指し、何が起こったのかを知るべく問いただした。
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《》 アート:Jason Felix |
君は実際、かなりの自信を持っていた。今、君にとって物事は差し迫ったようには思えず、即座に聖戦士に殺される危険を冒すよりも、熊か何か他のありふれた獣に襲われたのだと言うのが最良だと判断した。彼らは君を通し、傷の手当てをした。だが次の夜、君は治療師のベッドから起き上がった、獰猛な狼男に変身して。君はスレイベンのいたる所を暴れ回り、その鉤爪で無辜の人々を切り裂き、犬科の大きく硬い牙で喉を引き裂いた。君の狂乱は狼男狩人の一団がついに君を殺した時にようやく終わった。彼らは君のような怪物の見せしめとして、君の死体をスレイベンの城壁に突き刺した。
君の負けだ!
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《》 アート:Dan Scott |
窮地の時だ! 君は道義心を思い出し、狼男の呪いが降りかかったかもしれないことを認めた。彼らは君を連れて行き、傷の手当てをしたが、君を銀で象眼された分厚い木の独房に閉じ込めた、君自身の保護のために。司祭と聖戦士に君を癒す力はないが、彼らの祈りと好意は安心をくれた。君はほとんどの時間において自分自身の人間の心を持ち続けた。そして少なくとも君は生きており、誰も傷つけはしなかった。もしかしたら、何かがいつの日か君を救い出すかもしれない。
君の勝利だ!
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《》 アート:Ryan Panacoast |
君は生き残ることができただろうか? ああ、知っているよ......エンディングは実に冷酷だってことを。でもね、今は闇の隆盛、夜明け前が一番暗いんだ。遊んでくれてありがとう、また来週!
そして、君は傷により命を落とした。