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Savor the Flavor
法則を破るという恐怖
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法則を破るという恐怖
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-supervised by Yohei Mori
2012年2月22日
死ぬであろうという時に死なないもの達がいる。ゴキブリ。未来からやって来たオーストリア人型殺戮ロボ(訳注:映画「ターミネーター」で殺戮マシーンを演じたアーノルド・シュワルツェネッガーを指す)。指数関数的に頭が再生するハイドラ。不気味にシンバルを叩くぜんまい仕掛けのおもちゃの猿(死んでしまえ、騒々しい類人猿の悪鬼め!)。
今日、我々は不死のメカニズムについて、そして予想を裏切ることからいかにして恐怖が生じるのかについて話そう。
目覚めの瞬間
「取引も通用しないし、話を聞く相手でもない。奴に感情はないんだ。憐れみも、恐怖心も。一度狙ったなら最後まで諦めない、絶対に。君の命を奪うまで。」
カイル・リース、映画「ターミネーター」(1984年)より
怪奇ものやホラー映画には、しばしば主人公がついに追跡者をどうにか打ち砕き、呆然とした表情で......最初は昇る朝日の光へと向かい、更には額の汗をぬぐい、安堵の貴重な溜息にふけるひと時がある。だが映画によっては、そのひと時は更なる恐怖を引き起こさせるだけだ。映像作家は、物語がどう進んでいるのか、元気づけるような音楽、カメラワークと照明、そして安堵という間違った気持ちを創造する俳優の演技を用いて観客の予想をもてあそぶ。だがその後映画は最後の衝撃を運んでくる、じれったい安全状態によってよりいっそう高められた恐怖状態へと再び観客を投げ込むために。
《執拗なスカーブ》 アート:Karl Kopinski |
フレイバーの表現において、不死はその「ああ、それは私達が考えていたよりもずっと悪い」瞬間をとらえようと試みている。そのメカニズムの全任務は、「残忍で止められない怪物達」という雰囲気を作り出して恐怖感をかき立てることだ。イニストラードの夜に潜むクリーチャー達は、主人公達が彼らを殺そうとする最大限の努力を生き残ってきただけでなく、かつてよりも強くなって戻ってくる。何が恐怖なのかというと、君は追跡者から逃れていないというだけでなく、君の最良の、最も勇敢な奮闘でもその怒りを刺激することに成功したに過ぎないという事だ。今やアーノルド・シュワルツェネッガー型ロボの皮膚ははがれ落ち、以前よりもずっと恐ろしい様相を見せている。今やハイドラの首の数は以前の倍ある。今やおもちゃの猿のゴム製の顔は君の斧によってめちゃめちゃに切り裂かれ、君の奮闘のお陰でもはや瞼もなく、君がその腕をある程度破壊したためにそれは今や曲がったシンバルを......わずかにゆっくりと......打ちつける、君へと向かって再びよろめき歩き出すべく元に戻りながら。
悪夢の元だ。だが何故それはそんなにも怖いのだろう?
法則を破ること
その鍵は、知覚し、パターンを信頼するようになるという人間のやり方だ。観察によって君は、どんなのパターンが世界に保たれているかを知り、そして時間とともにそれらのパターンが未来においても継続して保たれているだろうと予想する。ショットガンの見事な攻撃は恐るべき獣を殺すだろう。心臓を貫いた剣は脅威の殺人者を止めるだろう。これらは経験則、我々が未来を予測するために使用し、それらの予測に基づいて行動する法則だ。反例が生じた時、それらのパターンが破られた時、そしてそれらの予測が誤りであったと判明した時、そしてそれらの行動が君を危険から逃すのではなく、危険へと導く結果に繋がった時......恐怖の結果となる。
これが法則だ。マジックのクリーチャーのタフネスに等しいダメージを与える、もしくは「破壊する」効果を食らわせることによって、それを墓地へと転がしてゆく。そして君は両手をぬぐって君のライフを保ち続けることができる。それはマジックプレイヤーとしての予想で、我々はそれを信頼するよう成長してきた。そしてその法則を破る闇の隆盛の獣たちが参上だ。
《盲いたグール》 アート: Svetlin Velinov |
前に出ろ。そいつの脚をたたっ切れ。火をつけろ。お前の下僕達を送り込んで戦闘で袋叩きにしてしまえ。《燃える油》をぶっかけろ。君はたぶん皮膚の外層をいくらかそぎ落とせるかもしれない、もしかしたらその帽子や礼儀正しい目隠しを払い落すかもしれない。だけどその行動が君にもたらすのは、そいつの眼窩から甲虫が這い出て来るのを見ることだ。何が起ころうと、そのグールはそのままではいないだろう。そいつは祝福されし眠りへと静かに赴きはしない。そいつを殺すことは、そいつをより恐ろしくするだけだ。
それは法則を破る。それは我々の予想を裏切る。それは我々とその大脳が取るに足らないものでしかないと感じさせ、そして我々は取るに足らなさを憎む......憎む憎む憎む憎む。死は、我々が確かに当てにしていた現象のひとつだと思っていたのに! アンデッドの全コンセプトはその信念を歪め、我々の原始的な脳葉に険悪なうずきをもたらす。
ストーリーを語る道具としてのメカニズム
不死は「怪物のメカニズム」として題された。つまり、君はその能力を人間の騎士や友好的に見えるスピリットにさえも見ることはないだろう。闇の隆盛でのその役割はただ「生け贄に捧げる」効果と「死亡」による誘発でプレイを面白くすることではなく、そのブロックのストーリーを支え、その世界の人間達にとって怪物達の物語がより恐ろしく、より致命的になってきているということを伝えるのに役立ってくれる(フレイバーに満ち、ストーリーを意識したメカニズムのこのやり方を、次週我々が窮地のメカニズムについて語る時にさらに多くを見るだろう)。
《近野の忍び寄り》 アート:Michael C. Hayes |
理想を言えば、君は対戦相手の戦場に不死持ちのクリーチャーを見た時、夜に棲む手強いクリーチャーと対決するイニストラードの住人達と同じ感情をいくらか経験する。「この吸血鬼とどうやり合えばいい? 2回殺さなきゃいけなくて、しかも次は5/2になるって? 俺のクリーチャー一同の身体と除去呪文をそいつの目覚めに残しておくべきか、でなければそいつが俺を殺すかのどちらかだ。恐慌フェイズに入ります。」
「不死」の命名
ちょうどカード名やフレイバーテキストと同じように、クリエイティブ・チームはキーワード能力と能力語の最終的な名前を考え出す責任を負っている。数週間に渡って葛藤しながら、我々は「不死」という用語を決めなかった。「Relentless」が最有力候補で、それは「恐ろしいほどに止められない」適切な雰囲気と、クールな響きがあった。だが闇の隆盛のキーワード名を完成させている間に、イニストラードのヴェールに呪われたプレインズウォーカー、《情け知らずのガラク》の名前が早くも決まっていた。《情け知らずのガラク》は情け知らず(と呼ばれていた能力)を持っていない。そして我々は、それはきまりが悪いと考えた。そのきまりの悪さは「情け知らず」をキーワード名論争から蹴り出すのに十分だった(とはいえ我々はそれでもその表現が好きだ、「Relentless」の単語を《執拗なスカーブ》へと再利用するのに十分なほどに。そのカードは今や不死として知られる能力を持っている)。
我々は「不死」という響きが気に行った。だがその単語はそれ自身に不幸な問題を抱えていた。不死持ちのクリーチャーの注釈文を見て欲しい。
技術的な表現において、「不死を持つクリーチャーが死亡した時」のような文章は憂い顔だ。それどころか最近、クリーチャーが墓地に行くことの公式なゲーム的表現としてマジックが「死亡」を採用したお陰で、「不死」は少々滑稽な英語表現となってしまった。幽霊にとって「死亡」とは何を意味するのか、スケルトンにとって「死亡」とは何を意味するのか、我々は早くも思案する必要があった。そして今我々には何かが「死亡」した時にのみ誘発するこの「不死」能力がある。加えて、不死を持つが既に+1/+1カウンターの乗ったクリーチャーは死ぬことができるのか、死ぬのか。全部まとめよう、何故「不死」なのか?
時に君達は後退し、君達自身の異議は実際に正当なものだということを確かにする必要がある。我々クリエイティブ・チームはR&Dのメンバーであり、それは我々が躊躇することなく討論のための筋肉を動かす傾向にあることを意味する。時々君達は、一体何が現にとても取るに足らない道理なのか、という何か悪い考えのために自身と会話する。結局、我々は不死がクールな表現であり、そのメカニズムがいかにして機能するかというフレイバーに上手くはまると決定した。そして不死は闇の隆盛がそうであるべきセットとなることを手伝ってくれている。その言葉について批判する人々がいるかもしれないが、ほとんどの人々はその変な注釈文によって実際に当惑したりしないだろうと我々はみなした。言い換えれば、我々は自分らの異議を聞きとった。そして、いずれにせよ正しい選択をしたと考えている。
《死せざる邪悪》 アート:Kev Walker |
もし君達が私を許してくれるなら、私はこの宇宙における自分の取るに足らなさをどうにもできないという無能さについて、実存主義の危機に陥りはしないだろう。私はおもちゃの猿を消火器で打ち壊しに行かないといけない。
《ゲラルフの精神壊し》 アート:Steven Belledin |
今週のお便り
今日は手短なものを二つ、二週間前の記事「クリーチャーの戦い」を受けたものだ。
親愛なるダグ・ベイアーへ
「クリーチャーの戦い」を読ませて頂きました。
貴方が示した「治癒」に対しての私の感想を言わせて下さい。タフネスは、クリーチャーが耐えることのできるダメージを意味するものではなく(それが通常、どんな新規プレイヤーにも説明されている表現であるにもかかわらず)、むしろクリーチャーが戦闘で死なねばならない可能性だというのが私の信条です。
詳しく述べさせて下さい。《月の帳のドラゴン》は簡単に4体の兵士トークンを踏みつけることができますが、5体目がその瀕死のブレスでの防護をかいくぐって心臓を突くことができます。同様に1体のゾンビは、プレインズウォーカーが直接《稲妻》を刻むのに十分なほど長く、ドラゴンの気を散らすことができます。
これはプレインズウォーカーにも適用できます。私は、どんな人間もプレインズウォーカーも《大祖始》から腹を直接攻撃されて耐えることができるとは考えません。むしろ貴方が受ける「ダメージ」は、貴方が身をかわし、命のために逃げまどうにつれて対戦相手のクリーチャーが得る、戦闘におけるアドバンテージです。貴方のライフが0になった時、運は尽きて刺されます。ゲームオーバー。
このことは接死や萎縮といったメカニズムとは矛盾を生じるかもしれません。ですがそれは、クリーチャーが戦闘の間我慢している浅い切り傷や裂傷によるものであると言い逃れできます。通常の傷は鍛錬を受けた戦士を衰弱させはしませんが、もしそれが膿んでしまったなら彼らの戦闘能力は減少し、もし即死攻撃を与えたなら、それがどうなるかを我々はよく知っています。
とは言うものの、私はターンがほんの僅かの短い時間ではなく、短すぎない間続くと予想しています。勿論プレインズウォーカー達は立ち止まり、敵がやって来るのを待ちはしないでしょう(通常の場合は。何故なら戦略は様々ですので)。攻撃は瞬時に行われ、貴方が放つ呪文は、一瞬の興奮の中で記憶から摘出することが可能なものに限られます。一度その攻撃の瞬間が過ぎたなら、引き続く強襲との合間、殺す機会は去り、そして貴方は再び動きたいとうずうずするクリーチャーとともに残されます。
以上が(私の心の中で)クリーチャーの戦闘がどう行われるかです。
敬具
ネイサンより
非常に興味深い解釈だ、ネイサン。私はこれといくらかの共通点がある、ダンジョンズ&ドラゴンズにおけるヒットポイントについての何人かの解釈を聞いたことがある。私はクリーチャーのタフネスとプレイヤーのライフの総量のフレイバーを近づけ、一つにしようとするその解釈が好きだ。どちらの場合も、問題となるのは最後のライフポイントだけで、残りは今のところいかに上手に、究極的な致命的攻撃を避けているかの表現に過ぎないということだ。ありがとう、ネイサン!
次のもう一つはブライアンから我々に届いたものだ。
親愛なるダグ・ベイアーへ
「クリーチャーの戦い」を読ませて頂きました。
貴方が描写した二人のプレインズウォーカーの間の戦闘は、私にはまさしくターン毎の展開を前提にしたものに見えました。
対戦型カードゲームは、一人のプレイヤーが自身のターンにのみ攻撃することができて、対戦相手のターンにはブロック/防御するというターン毎の展開を原則としていることを私は理解しています。
ですがフレイバーの面から私は疑います、もし二人のスーパーパワーを持つプレインズウォーカー達が互いに戦っているなら、彼らは攻撃の際に、対戦相手が防御を立ち上げるのを待つのだろうかと。彼らは異なったクリーチャーと異なった呪文で、攻撃と防御の両方を同時に行っていると私は考えます。もし私がプレインズウォーカーであり別のプレインズウォーカーとの戦いで生命の危険にさらされていたら、私達両方が休むことなく呪文に続く呪文を次々に放つか、もしくはブロックする機会しか与えないでしょう。フレイバーの面からは、貴方は対戦相手のターンに攻撃することができます。彼らが貴方にも同じことをするように。
私の意図は伝わりましたでしょうか?
ブライアン・Gより
伝わっているよ。私が、プレインズウォーカーが戦う映画を心の中で観賞している時、我々がカードゲームで行う通常の攻撃とブロックのワルツよりもあまり整然とせずにクリーチャーが戦っている所を見るのは確かに真実だ。私は明確な意図を持って、メカニズム部門に十分近いフレイバーの変化球を守っている。何故なら我々が皆ゲームをそのようにプレイしているからだ。
《天秤》 アート:Randy Gallegos |
だが、そうだ。ゾンビと獣性の怪物達の寄せ集まった軍勢が無秩序に、僧侶と紅蓮術士の軍勢にぶち当たる。ずるい不意打ち攻撃と側面攻撃の展開、スカーブを召喚して敵の背後から攻撃を開始する。真のプレインズウォーカー・ファイトはマジックが許す限り腹黒く、暴力的なものであろう......ちょうど、ああ、総合格闘技のルール無用の物騒さと、オリンピックのフェンシングの、比較的ルールに統制された世界との違いのように。だがプレインズウォーカー・ファイトの任意の単位時間を切り取れば、それでも攻撃とブロックという行動へと分解することができると私は考える。それらはカードゲームのようによく秩序立っては起こらないかもしれない。だがもし君が少しの抽出と時間の単純化を考慮にいれるなら、ワルツの背後に混沌を見ることができる。
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