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Savor the Flavor
信仰の現状
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Savor the Flavor
信仰の現状
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-supervised by Yohei Mori
2012年1月25日
《獄庫》はその中にアヴァシンを固く閉じ込めている。その銀の牢獄は破壊しえぬ全ての悪魔的クリーチャーを監禁するためのものであったが、彼女の武器は彼女自身に牙をむいた。グリセルブランドという名のデーモンがアヴァシンへと挑戦し、最後の瞬間に形勢を逆転した。獄庫の力をもってグリセルブランドと同じその魔法的拘置施設に彼女を捕えさせると、守護者不在のイニストラードが残された。
《獄庫》 アート:Jaime Jones |
アヴァシンはその中で意識を保っているのだろうか? 月の銀塊の外側ではどれほどの時が経ったのかを知っているのだろうか? 彼女は、イニストラードの哀れな人々が彼女の不在に耐える恐怖を知っているのだろうか? そうだとしても、獄庫の表面に彼女のかすかな声さえ漏れ出さない。出入りが完全に一方通行であるからこそ、それはデーモンの牢獄として有用となっている。そして沈黙する塊はスレイベン大聖堂と崖の突端との間に鎮座しており、その中身と収監者について物言わぬまま、教会をよろめかせている。今日我々は、闇の隆盛における物語展開の中の、アヴァシン教会とそれに依存してきたイニストラードの人間達への衝撃を見よう。
教会の反応
イニストラードの時間軸の直前、アヴァシンが獄庫へと引き込まれた直後。彼女の運命の証人となったアヴァシン教団の聖職者達は恐怖の中に取り残された。大天使が護ることになっていた、イニストラードの民に何が起こりうるだろうか? 教会の制度に、そして吸血鬼殺しや狼男狩人の任務に何が起こりうるだろうか?
《アヴァシン教の僧侶》 アート:Greg Staples |
そしてより当面の問題として、四州全土の一般大衆へと何を告げることができるだろう? 彼らは上手く真実を伝えることはできなかった。あらゆる人々を震え上がらせる情報を発布することを想像してみよう。例えば。
「遺憾ながら我々は告知する、光の運び手にして我らが信仰体系の頂点アヴァシンはデーモンの王によって出しぬかれ、扉のない牢獄へと永遠に引き込まれた。我々が今まで頼りとしてきたあらゆる祈り、防護魔法、儀式、祝福を受けし武器の有効性は次第に衰えさせてゆくものと予測される、恐るべき暗黒の波が我々全てを圧倒するまで。旧アヴァシン教会」
駄目だ。即座に大恐慌が引き起こされてしまうだろう。更に、イニストラード全土の人々と信者が突然そのような知らせによって信仰を失ってしまったなら、アヴァシン教の僧侶や聖戦士が今も振るう力を消耗させてしまうかもしれない。そしてそれは邪悪の隆盛を早めることになる。そういった理由により、アヴァシンの不在に関する噂や流言が飛び交う中、教会は何が起こったのかという真実を表沙汰にせずにいる。
教会の最高位の司祭、《月皇ミケウス》はその悲劇の証人となった数人の司祭達へと秘密厳守を誓わせた。それ以来、書信は厳しく統制されるようになった。村人や教区の僧侶が高位の聖職者へと質問を送った時、彼らが受け取る回答は何か元気づけられるような、だが同時に曖昧で僅かに脅迫的な語調を含んでいた。
「アヴァシンの力は変わることなく、そしていついかなる時も我々とともにある、忠実なる信者がその事を決して忘れずにいる限り。」
「心を休めるがよい。アヴァシンへのあらゆる祈りは今も届き、今も聞き入れられている。我々が求めるよりも捕え難い形であろうとも。」
「噂とは裏腹に、我々はアヴァシンに仕える天使達が、彼女に代わって大天使の完全な保護を伝えるべく近頃も現れる姿を頻繁に見ることができる。もし今も、貴方の教区の敬虔なる支持者達が、我々の全能たる希望の天使の信頼性について疑問をお持ちであれば、彼ら自身の危機の真の源を見つけるべく自らの内を見るべきであろう。」
《月皇ミケウス》 アート:Steven Belledin |
月皇の司祭達からの書信は噂を抑制し、アヴァシンが近頃姿を見せないことを重要視させないよう意図されていたが、それらはより多くの憶測を招き、より多くの疑惑を起こさせるだけであった。高地都市スレイベンの城壁内では、グール、吸血鬼、狼男の影響は数件の散発的な事件を除いては今のところ感じられなかった。しかし州の外では、「緊急の援助に向かっている最中です」以外の伝言を聞くことは難しくなった。
各州での信仰
ステンシアでは、吸血鬼の家柄が暗黒のルネサンスを繰り広げており、その権力の誇示はイニストラードに彼らが登場した最初期の時代と変わらない。吸血鬼達はこの次元で、一種の気味の悪い名士という身分を常に楽しんでいる。幕の下ろされた、極めて設備の整った馬車が、蝙蝠が飛び交うステンシアの山岳地帯から曲がりくねって降りてくる。そしてそれは残忍な魅力と村人達の興奮した噂を残して、人間の村を通過して行く。だが今、よりいっそう、一流の血統に連なる吸血鬼達はそれが当然であるように人間達の中に滞在し、飲み騒ぎ、狩り、血のグラスが決して空になることのない大騒ぎを何日にも渡って続けている。吸血鬼達は彼らをつけ狙う聖戦士を見せしめとした。血の貴族達は人間が持つ生木の杭で彼らを突き刺し、しなびたその身体を路上へと投げ捨てた。希望と激励の書信はステンシアの教区の僧侶達へと届いてはいるが、アヴァシン教会の権威はこの地では急速に失墜しつつある。ステンシアの人口比は吸血鬼の好き勝手によって傾き、早くも劇的に変化している。ソリンが危惧する人間不在の世界がよりいっそう現実味を帯びてきている。
《ファルケンラスの貴種》 アート:Igor Kieryluk |
ネファリアでは、教会の任務が屍術使いのグール呼びや屍縫いのスカーブ師のふるまいから人間達を安全に保ってきた。今神聖なる魔術はその力を失い、既に脅かされている商業の前哨地や港町へのアンデッドの攻撃は、よりいっそう悪化している。地下の違法な死骸取引はたけなわで、暗黒の魔術に取り入れたいと願う者達へと貴重な死体を運んでいる。幽霊は海霧とともにやって来る。休むことを知らぬ霊魂は難破船から次々と現れる、もしくはアヴァシン教の墓地への祝福の衰えとともに、祝福されし眠りから目覚める。ネファリア人達は彼らの銀の武器の先に、愛した者達の顔や身体部位を一様に見る。時折それらの顔は情け深くも腐敗して認識不可能となっているが、都市の門を守っていた敬愛する僧侶その人が不死者となって攻撃してくることは、彼らにとって珍しいものではない。
ケッシグ州ではあらゆる平民達の、アヴァシンへの信仰を基礎とした儀式が無様に廃止されるようになった。人々が農業に従事するあらゆる姿が見られなくなってきている。羊の群れも羊飼いも狼男達によって多くが殺され、幽霊は荒野から現れ、人里離れた田舎道で収穫物を満載した荷馬車を進める農夫を苦しめている。古の幽霊が列をなして彷徨うために、農地は休閑地とされた。農夫達の民謡と田舎の諺は、かつてはアヴァシン教会の力を吹き込むものであったが、今や寒々とした息遣いでしかない。ケッシグ人達は既に、輝くブーツを履き門限を振りかざす高地都市の司祭へと大きな不信を感じている。今やケッシグの人々は困窮した旅人へと彼らの扉を開けることさえしない。
《信仰無き物あさり》 アート:Gabor Szikszai |
スレイベンを擁し獄庫が位置するガヴォニー州、そこは最も奇妙な変化が起こっている地かもしれない。ガヴォニーに生きる多くの者達にとって信仰はあまりに生活の中心であるがゆえに、アヴァシンの喪失はとりわけこの地を揺るがしている。とても多くの人間が埋葬されていることから、ガヴォニーにおいて肉体であろうと霊であろうとアンデッドは常に問題となってきた。だが多くの事件は大目に見られていた。安心感の失われた今、飢えたグールの目覚めや子供の声をした幽霊の深夜の徘徊は、あらゆる村を恐怖で掌握している。小さな教会は聖日の間でさえ見捨てられるようになった。アヴァシンの伝説を大切に抱く共同社会はばらばらになった。あるいは、最も不穏なのは、デーモン崇拝のスカースダグ教団がこの暗黒の時に勢いを増していることだろう。ヴォルパグ僧正、野蛮な心を持つアヴァシン教会の司祭は密かにスカースダグのために働き、彼の主グリセルブランドが獄庫へと落ちたことを耳にした。ヴォルパグは後にスカースダグとの関わり合いをより公にし、彼のデーモン贔屓の宣託は、頼りにすることのできるどんな制度をも願ってやまないガヴォニーの聴衆を集めている。現に人間の中にも、自発的にスカースダグの手へと進み出て生け贄となる者がいる。自身が物事を動かそうとしていることを、イニストラードを覆うように脅かす闇のうねりへと影響を及ぼしていることを感じるために、
《墓所粛正》 アート:Zoltan Boros |
怪物達が立ち上がり、人類がその真に暗き時間へと突入する、今週末の闇の隆盛プレリリースを君達が楽しんでくれることを私は願ってやまない。
今週のお便り
クリエイティブ・チームにとっては目の回るような数週間だった。我々は闇の隆盛カードプレビューとストーリーライン展開への反応を注視していた。そして私のメールボックスは騒然としっぱなしだ。受信トレイを空にする記事が近いうちに必要なようだと私は考える。だが今は、ソリンの創造物についての質問を掘り下げよう。
どうも、ダグ。
私は「銀の牢獄」をいつものように楽しみました、ですがソリンがアヴァシンを創造したと明かされて以来ずっと、何かが我がヴォーソス脳にうるさく語りかけています。
大天使一体を創造するためにはどれほどの力が必要なのでしょうか? 思うに、我々は次元全体の頂点についての話をしましたが、その評判の天使そのものについてここで話したことはありません。
《B.F.M.》から《Little Girl》にまで至る「あらゆる」生物が、偉業の中でも最もありふれた行為、生命を創造する可能性を持っているというのは興味深い考え方です。力を持つ存在がより並はずれた創造を行えるだろうというのは、理にかなっています。
セラは自身手製の次元に居住させるために、天使種族をまるまる創造しました。そしてカーンはミラディンを創造し、そこに《メムナーク》を住まわせました、多様な文明を誘拐してくるに十分なほど強大な存在を。こういった、非常に印象的な話がいくつかあります。
ドミナリアを救った大変動はプレインズウォーカーの灯を弱体化させました。平均的プレインズウォーカーが次元を創造する行動はもはや不可能だと私は思いますが、ソリンはとても歳を経ているので、たぶん彼はそれ以前に生まれたのではないでしょうか。
たとえ、アヴァシンやメムナークほどに強大な創造物がもはや不可能であると我々が認めたとしても、それは今も変わらずに私の心を悩ませています。プレインズウォーカー達は、自分自身の次元を創造できるなら、どうして現存する次元を訪れるのでしょうか? 手製の伝説的な戦士達を形作ることができるというのに、何故彼らはゴブリンやドラゴンを召喚するのでしょうか?
もしかしたら、そのような行動は我々が聞いたこともない個人的な犠牲を必要とするのでしょうか? ソリンのような吸血鬼のプレインズウォーカーが、アヴァシンのような次元の希望と救済の標を創造するために何を捧げる必要があるのか、私は疑問に思います。そして彼はどこでその芸当を習ったのでしょうか?
――ジェイ・Tより
ジェイ、質問をありがとう!
はっきり言うが、「次元を守護する大天使を創造する」というのは、君が最初の徒弟魔道士達の週末外泊キャンプで教わるような呪文ではない。ソリンのような数千歳のプレインズウォーカーにとっても、そのような偉業を試みるためには知識やマナ、その他神秘的資源を集めて行う、(吸血鬼の寿命という条件下でさえも)人生に一度の魔法的離れ技かもしれない。
《イニストラードの君主、ソリン》 アート:Michael Komarck |
それはゲームと背景ストーリーとの間にある興味深い相違点だ。トレーディング・カードゲームとしてのマジックは、一生にただ一度だけ唱えることのできる呪文や、計り知れない個人的犠牲を本当に必要とする事柄ではない。君は本当に信頼することのできるカードをデッキに入れ、またゲームに投入し、外そうと望むだけだ。そして実際、プレイヤーとして君は真に生命を震わせる変化を作り出すことに本当に関心があるわけではない。ただ天使のカードを戦場へと出すだけだ(ああ、もしかしたら彼女は本当に、本当に印象的かもしれないが)。だがストーリー内では、この生涯をかけた、比類のない魔法的行為の類が時折起こる。そしてその行動は魔術師としてのプレインズウォーカーの全経歴を変えてしまうことがある。ジェイ、君が言及してくれた通り、ソリンは彼にとってとても愛しいものを捧げねばならなかったと私は思う。マナと魔力に加えて、アヴァシンを創造するために必要な魔法を一つに集めるために。ちょうどリリアナが力と若さを永遠のものとするために大悪魔からの助けを必要としたように。ソリンが大修復以前にいかれたほどのパワーメーターを叩き出していたとしても、彼は魔術師にとっての重要な切り札を持ち出し、そしてマニュアルにない何かを行わねばならなかった。もしかしたら彼はどんな次元のどこにも存在さえしない知識を活用し、多くの世界を渡り歩く彼の休むことのない旅から引き出した秘術的理論を組み合わせて使用しなければならなかったのかもしれない。もしかしたらソリンは彼自身の小さな、取り戻すことのできない一片を断ち切って、それを彼の創造物へと与えたのかもしれない。彼女へと真の、永続の、世界を守護する生命を与えるために。私はそれが盲腸や足指の先なんかだと言うつもりはない。何かもっと深い、奇妙な、より貴重なものだ。アヴァシンがソリンにどんな影響を与えたか、そして彼が彼女に、そして彼らがこの次元にどんな影響を与えたのか。ソリンとイニストラードの物語が進むにつれ、皆がそれを見たいと願うことを私は確信している。
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