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Savor the Flavor
プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 ケッシグと狼男
プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 ケッシグと狼男
Magic Creative Team / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2011年10月5日
ケッシグ州は、貪欲に勢力を伸ばす深く暗い森に囲まれた、ゆるやかに起伏する農地からなる。森は狼男、幽霊、その他の超自然的脅威を隠している。農地はケッシグの人間たちの割に遭わない田舎暮らしを支えている。
霧の森、ウルヴェンワルド
ポプラ、カバノキ、カエデからなる、遠吠えに取り憑かれた森がケッシグ州境を縁取っている。森はほとんど超自然的と思えるほどに密集し、黒ずんで曲がりくねった木の幹と絶えず立ちこめる霧で満ちている。木々はくすんだ赤、金、そして緑色の広葉樹で、森の地面は湿った落ち葉に覆われている。ウルヴェンワルドによってケッシグは他の州から隔てられている。森を通り抜ける旅人は狼男の獲物となり、あらゆる類の原初の霊魂に取り憑かれ、そして霧の中で謎の失踪を遂げる。夜には、ウルヴェンワルドの秋らしい色合いは月の銀色の輝きのもと、荒涼とした鋼色となる。その中で色を持つのは、獣たちの輝く瞳とゆらめき光る霊炎だけである。
Adam Paquetteによるコンセプト・アート |
ケッシグ人の文化:庶民と農業従事者
ケッシグ人にとって人生とは働くことである。ケッシグ人は農民、粉屋、織工、石工である。彼らは土地に縛られ、日々の食事のために一生懸命働く。このことは彼らを自主自立、実用本位、そして率直な人柄にしている。あるケッシグ人は道具を一般的な店で買うことはせず、それらを自分で鋳造する。彼女は算数を習ったり、王族の名を覚えたりはせず、収穫の日取りと食用となる雑草の形を覚える。彼は文学の大作から引用したりはせず、それを彼自身の単純な言葉で見たように呼ぶ。
ケッシグ人とアヴァシン
ケッシグ人たちは現実的で控えめな人々であり、アヴァシン教会の直接的な現実主義は彼らの世界観に正しく一致する。ケッシグ人たちは「足元の耕した大地、手斧で砕いた周りの石壁、そして頭上の天使」を信じている。とはいえ、彼らは大都市の聖戦士の新品の深靴、ガヴォニーの幽霊狩りたちの整った指先、スレイベンの高地都市の貴族が下す非現実的な布告を信用していない。
《根囲い》 アート:Christopher Moeller |
銀の携行令
昨年アヴァシンが姿を消してからずっと、スレイベンの教会は天使の失踪の真実をイニストラードの住民たちに隠している。ケッシグ人たちはアヴァシンが以前よりも姿を見せなくなっていることを彼らなりに知っており、疑念と噂が、彼女の身に何か起こったのではと考える者たちの間に広がっている。一方で狼男の攻撃はより悪化し、霊魂に苛まれることもより頻繁になった。田舎のあらゆる所で、恐慌の気配が持ち上がりつつある。
最近、新たな布告が地方司祭と聖戦士たちを通して出された。狼男などの夜の狩人たちから市民を守るためとして、ケッシグの民は日没後に外出する際は祝福を受けた銀の護符を携帯しなければならないという法が定められた。護符は高地都市スレイベンで製造されて祝福を受け、獣人に対して確かな効き目を持つ。だがそれらは限られた数しかなく、そして聖職者たちの中は好意もしくは保護の約束と引き換えに、内密にそして優先的にそれらを与え始める者もいた。銀の携行令以来、ケッシグとガヴォニーの関係は悪化している。ケッシグ人の中には、ガヴォニーへの物資の輸送を断ったり、その州から来た旅人の世話を拒否し始めた者もいる。
Jung Parkによるコンセプト・アート |
自然の世界における礼儀作法
迷信と超自然的クリーチャーへの怖れは、ケッシグにおける礼儀作法のあり方を生みだした。初めて会う相手には、銀製の品を身につけていることを示すのが礼儀とされる(銀はたやすく偽造され、そして祝福を受けた銀だけが本当の防護力を持つにもかかわらず)。生木の花輪は墓所へのありふれた捧げ物であり、また子供が生まれたばかりの家の玄関にもしばしば飾られる。子供の生命を吸血鬼たちから守る行為を意味している(生木とその効力は数日で消えるにもかかわらず)。旅の前には酸っぱい根のスープを飲むことと、長旅の前日には断食をすることが通例となっている。これは狼男や他の餓えた獣へと、自分は美味しくないと訴えるための慣習である。
眠りのお祭り騒ぎ
ケッシグにおいては、ある人物の人生をその年忌に祝うことが伝統となっている。それは眠りのお祭り騒ぎと呼ばれる楽しい式典である。死者が長きに渡り無事に大地に留まっている限り(グールや幽霊、その他超自然的怪物として現れない限り)行われる。祖先が平穏な眠りを続けることは、むしろ生存している親類が歳を重ねて生き続けることよりも大いなる祝福であるとみなされている。
ケッシグの超自然的クリーチャー
ケッシグは狼男、幽霊、その他超自然的なもの達の故郷である。
ケッシグの狼男
いくつかの吠え群れがケッシグを狩り場にしており、単独で行動する狼男もまた数多く存在する。ほとんどの季節の間、この地では月唸りの吠え群れが最も力を持つ。だが新月の季節の間は虚の瞳の吠え群れがケッシグ人の村々に恐怖を振りまく。より小さい、名もない吠え群れもまた月とともに盛衰しながら、ウルヴェンワルド内の縄張りを主張している。
《森林の捜索者》 アート:Tomasz Jedruszek |
「ケッシグにおいて、狼男は聖職者よりも数で勝っている」。かつてガツタフの古老が宣言した有名な言葉である。単独の狼男が多数、ケッシグ人の中で密かに生活している。彼らは自身の正体が明かされることを極めて怖れながら、だが同時に彼らの家族を愛し、またケッシグに根付いており立ち去ることができずにいる。疑惑と憶測がケッシグの庶民の間に広がっており、怯えた誇張と誤って伝わった逸話にたきつけられている。ケッシグ人たちは相反する視点を抱いている。狼男をいかにして発見し狩るのか、それとも癒すのか。どれほど多くが存在し、彼らを寄せ付けずにいるにはどうすればいいか。そして人類のためのあらゆる手段を求めている。
《捕食》 アート:Dave Kendall |
ケッシグの幽霊
ケッシグ人にとって幽霊の出現は狼男に次ぐ脅威であり、幽霊はより大きな精神的損害の原因となることもある。ケッシグの幽霊は荒々しい自然の霊魂であり、文明化された人生をなじり、もしくは恐怖を引き起こそうとする。彼らは冷たく燃える非現実的な霊炎となり、悪戯なポルターガイストとなって物質世界に彼らの憤りを伝え、もしくは血の霧で生者を覆って貪る。彼らは美しい自然の霊魂として現れることもある。蔓や刺で編まれ、凶暴な獣の口や瞳にゆらめく光を宿らせる、獣に憑く幽霊。もしくは農場主やドルイド僧を悩ます執念深い作物泥棒となることもある。
ケッシグの他の超自然的存在
ケッシグは狼男にひどく荒らされており、よって他の多くの超自然的存在はそこから追い出された。とはいえ稀な個体が時折出現する。ケッシグは小悪魔やデーモンに脅かされた事はほとんどないが、州境の小高い石の丘に、悪魔の裂け目と呼ばれる煙を吐く地割れが横たわっている。そしてまもなくデーモンが暴れ出すという前兆を示している。また、錬金術的に創造されたゾンビ(スカーブ)たちは大都市の邪悪を象徴するような存在となっている。ケッシグ人たちはしばしば、屍錬金術を闇市場の取引、堕落、宗教的異端、残忍な陰謀と同一視している。
平均的ケッシグ人は吸血鬼たちに対して曖昧な見解を持っている。表向きには、吸血鬼の一家は洗練された邪悪の頂点であると言われているが、内心では、ケッシグ人たちの好色な噂話は吸血鬼たちの優雅さと名声への憧れを示している。現在までケッシグにおいて吸血鬼との遭遇はほとんどない。それゆえに留め針の道を日よけのある優雅な四輪馬車がやって来た時はいつでも、その噂は速やかに広まる。
ケッシグの主な場所
Daarkenによるコンセプト・アート |
危険すぎる馬車道
他の州からケッシグへと続く主な道はわずかである。ウルヴェンワルドを貫いて続く、そして油断ならない坂道を越えてゆくそれぞれの交差路は危険をはらんでいる。そこを旅する者たちは可能な限り歩調を速めて進む。ケッシグ人は時折これらの道をまとめて「危険すぎる馬車道」と呼ぶ。
Vincent Proceによるコンセプト・アート |
脅かされた牧草地、ラムホルト
ラムホルトは羊、ヤギ、牛の牧草地の中央に位置する農村である。街に近い牧草地は、かつてはウルヴェンワルドの一部であった深い森と入り混じっていた。だがこの地のケッシグ人たちが農場の土地を確保するために、わずかな木々を残して切り倒した。野に生きる者たちは彼らの森の破壊であると憤慨し、狼男たちはラムホルトの家畜と人間たちを頻繁に襲っている。
ラムホルトの村人たちは赤い月が昇るとともに収穫の祭りを祝い、かがり火の明りのもとで夜遅くまで働き、そして新鮮な肉と野菜で素晴らしい御馳走を作る。後に、ラムホルトを守る聖堂の力が弱まるとともに、狼男の攻撃はより頻繁なものとなり、収穫祭の趣旨は変わった。今やそのハイライトは偉大なる狩人コンテストであり、戦士や聖職者の闘士たちがウルヴェンワルド周辺で狩りを行い、最も強大な超自然的クリーチャーを狩ってくるのを競う。参加者の多くは二度と帰って来ない。
《平地》 アート:Eytan Zana |
失われた州都、ホロウヘンジ
木材と煉瓦の廃墟がケッシグ州の中心地に残っている。ほんの一年前、それはアヴァブルックと呼ばれる荘園の、小さいながら繁栄する街であった。今もまだ材木の破片や壊れた門に陽気に描かれた「アヴァブルック」の名を見つけることができる。だが新たな名がついた。野卑な名、庶民の名。ホロウヘンジ。一年前、アヴァシニアンの防護魔法が衰えはじめた後、アヴァブルックの中央聖堂、聖レイバン寺院を囲む護法が力を失った。この防護の裂け目を狼男たちが発見するまでわずか二晩しかかからなかった。月唸りとして知られる吠え群れが街を蹂躙した。彼らはその道を塞ぐものは全て殺し、寺院へと一直線に押し寄せた。彼らは聖堂を包囲し、壁をかきむしり、彼らに攻撃を企てた者を貪った。市長は街から脱出するよう命令したが、伝達は混乱し、そして多くの住民が家に籠ることを選択した。
《吠え群れの頭目》 アート:Svetlin Velinov |
月唸りの占拠から七日、野蛮な狼男たちは何とも知らぬ血の儀式を行った。神秘的な、激しく振動する力が街を中心から外へと平坦にならし、街のほとんどの建物を平らになるまで破壊して何百もの人々の命を奪った。アヴァブルック最外縁の建物だけが残り、内側の惨状を囲む円形の「環状列石」となった。救助を試みた者はより多くの狼男の攻撃に遭った。
時間が経つにつれ、吠え群れにさえも街は見捨てられた。今やただ野生の、恐ろしい霊と時折やって来るゴミあさりの狼男が廃墟の間を走り回るだけである。聖堂を破壊した衝撃波によって死んだ者たちはまだホロウヘンジの城壁内に居残っており、彼らの故郷を再建しようと無駄な努力をしている、もしくは死んだ愛する者を蘇らせようとしていると言われている。深い怒りを抱く霊魂や、凶暴なワイトが廃墟内部を探す者全てを危険にさらしている。危険にもかかわらず、旅人たちはしばしばケッシグの二つの主要な幹線道路の傍に位置するかつての州都、ホロウヘンジの近くを通過する。
悪魔の棲家
街からも、荷車を痛めつける道からも遠く離れ、悪魔の棲家として知られる地割れが原初の森の覆いを貫いて大地に開いている。煙と熱が深い淵から漂い、その深みをぼやけさせ、そして不気味な呟き声とかん高い笑い声が響く。罠師たちはその近くで文字通りの悪魔を見たと主張している。とはいえケッシグにおいて悪魔の力の影響は強く感じられてはいない。
Steven Belledinによるコンセプト・アート |
狼男は二面性を持つクリーチャーであり、彼らは永遠に二つの世界の間に引っ張られている。怪物と人間、自然と文明、理性的思考と荒々しい凶暴性との間に。
《夜毎の狩りの呪い》 アート:Daarken |
殺人者か被害者か:獣人への見方
狼男の中には、自分たちは飼い馴らすことが不可能な殺人者の魂による呪いを受けた犠牲者であるとみなす者たちがいる。その他の者は彼ら自身を、文明の嘘という檻に囚われた栄光ある自然の末裔とみなしている。イニストラードの人間社会のほとんどで、獣姿の狼男による大量殺人の恐怖に関心が集まっており、獣人は不実な月に自我を繋がれた痛ましい存在、もしくは自然に内在する荒々しさの化身とみなされている。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
人間の姿:わずかに持ちこたえる上辺の礼儀
獣性に苦しむ者は永遠に自身の衝動と本能に疑念を抱くことになる。狼男は人間の姿をとっている時、礼儀正しい社会に溶け込もうと努力している間でさえも、狼の本質の衝動を感じている。獣人の心臓では感情が戦争を繰り広げている。そして月が満ちるとともにその良心、信仰、そして自制といったものは何も効果をなさなくなる。満月による変身は免れないが、実際のところ、何か強い感情やトラウマ的経験が獣性を呼び覚ます引き金となり、それが変身を引き起こす。
《ガツタフの羊飼い》 アート:Mark Evans |
獣の姿:生まれつきの殺人兵器
獣の姿をとった時の狼男たちは、比類なき凶暴性と強さの体現である。彼らの身体構造は完璧に、殺すためのものである。顎は骨を噛み砕き、鉤爪は自身を遥かに凌ぐ体格の獣の内臓を引き裂くのに十分な鋭さをもつ。彼らの精神では本能とアドレナリンが爆発し、殺すこと以外の認識を曇らせながらも、強まった五感から超自然的知覚が満たされる。彼らは直立二足歩行で手を器用に使うことも、四足で素早く駆けることもできる。彼らの遠吠えはその内にある狼の魂の解放であると言われており、大気を曇らせ夜を凍えさせる痛ましい音である。獣姿の狼男たちは人間の言葉を話すことはできないが、野生の犬科動物がそうであるように、狩りや優劣、そして群れの内の序列について互いに意思疎通をすることは可能なようである。
《ガツタフの咆哮者》 アート:Mark Evans |
変身
獣姿への変身の過程は痛ましく、そしてどんな目撃者にとっても信じられないほどに不快なものである。まず瞳が変化する。白目が曖昧になり、光彩が色で満たされる。次に鉤爪である。手が引き延ばされ、ナイフのような鉤爪が指先から伸び、そして親指が鉤爪となって手首の方向に後退する。鼻面が人間の頭蓋骨から前方に押し出され、歯は鋭く尖って歯茎を突き破る。骨は砕け、音を立てて再配列する。骨髄は血流となってこぼれ、肋骨と頭蓋骨が割れ、はめ込まれる。厚く硬い毛皮が皮膚を貫いて生え、しばしば人間の体毛を押し出す。尾骨が伸びて毛深い狼の尻尾となる。代謝は加速し、血流を増し、酸素供給を増し、そして内分泌腺は蛋白質と脂質を切望してわめく。変身の際に身につけていた衣服は通常ずたずたに引き裂かれて落ちる。もし狼男が獣の姿で死亡したなら人間の姿へと戻る。その過程は死後反転と呼ばれている。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
余波
人間の姿に戻ったばかりの狼男は通常裸で、まごついており、瓦礫や傷、昨晩の狩りの血痕に覆われている。彼もしくは彼女は、しばしばパニックの発作ではなく不随意の心臓発作やアドレナリンの衝撃を伴う獣時の記憶を一瞬だけ保持している。変身後の数日、正常のふりをしようともがき、アリバイを組み立て、残忍な罪の証拠を隠す間にはしばしば羞恥、自責、意気消沈、そして抑圧本能でその心が満たされる。
懺悔者対不貞者:呪いとともに生きる
人間の姿に戻った後、ほとんどの狼男は獣時の記憶を部分的に有している。そして彼らは自分達が引き起こした破壊の爪跡をはっきりと見る。これは獣人たちを意気消沈、羞恥、そして他者に対する敵愾心の苦悶へと突き落とす。しかしながら少数の獣人は狼としての本能を受け入れ、獣の状態へと戻る手段を積極的に探し求める。彼らの獣性をののしる狼男たちは懺悔者、野生を受け入れた少数の者は不貞者とそれぞれ呼ばれている。しかし獣の姿をとっている間はあらゆる狼男たちが獰猛な獣であり、人間性の痕跡は全て失われる。
《ウルヴェンワルドの根源》 アート:Dan Scott |
信仰:変身に対抗する守り
人間たちは狼男と判明した者を可能ならば狩る。全ての獣人たちは忌まわしき者、大量殺人者とみなされている。だが狼男たちは直接対峙するにはあまりに危険なクリーチャーである。それゆえ受動的に獣性を抑えつけるために、広範囲の魔法的予防がしばしば用いられる。
系統立った、そして繰り返されるアヴァシニアンの魔法が、獣の姿への変身を防ぐ助けとなる。路傍の聖堂、祈祷、天使の儀式、熟達のクレリックによる祝福、そして聖印の存在は全て、狼男の人間性を強固なものとし、人間の姿を維持する助けとなる。懺悔者の狼男たちはしばしば都市の区域内に滞在し、仲間たちと宗教の影響下で過ごす。反対に不貞者たちはしばしば、狼としての真髄を妨害する護法と聖職者から遠く離れた荒野へと向かう。しかし満月は、強力な宗教的警戒さえ上回る。加えて最近、天使の魔法の力は衰えてきている。狼男の変身はよりありふれたものとなり、予測が困難となっている。
《古えの遺恨》 アート:Ryan Yee |
獣人と月
月が狼男たちを支配し揺さぶっているのは疑いようもない。月の相が変化するごとに、狼男を支配する獣性の力も変化する。満月が近づくにつれ、神聖魔法の効力は削がれ、狼男たちはより容易に変身する。
祝福された銀
獣の姿をした狼男たちは超自然的な程に強く頑丈であり、アヴァシニアンの魔法が弱まって以来、狼男を傷つけることができる、もしくは彼らを追い詰められる防護呪文はほとんど存在しない。だが狼男たちには弱点が存在する。力を持つアヴァシンの聖職者が儀式を行って祝福した純粋な銀は、狼男たちへと激しい苦痛を与えることができる。錬金術師たち曰く、物質としての銀の純粋性がたやすく神聖魔法を吸収するのだという。祝福された銀で製造された矢じり、槍の穂先、そして他の武器は狼男と戦うための強力な武器となりうる。
《昇る満月》 アート:Terese Nielsen |
銀と月
魔道師たちは、月と銀の関係を何世紀にも渡って推定してきた。だがその関係の本質については謎のままである。名高い星術師であるジェンリックはかつて、実はイニストラードの月は銀のごく小さな粒からなる広大な砂漠であると仮定した。彼はイニストラードで見つかるあらゆる銀は、実のところ月の銀の砂漠に源を発したものであり、それら陸生の銀は月の力との関係を持つと信じた。銀が狼男を傷つけるというのに、何故月が彼らに力を与えるように見えるのか、それはよくわかっていない。
獣性の呪いと性質
いかにして獣性がもたらされ、広がるのかについては多くの説がある。アヴァシン教会のほとんどの宗派は、獣性はデーモンの類の憑依の一種であるとしているが、悪魔払いの儀式はその悩みの種を清めることに成功していない。最も苦しんでいるのは狼男として生まれた者ではなく、彼らの人生の何処かで狼男と化したと思われる者たちであり、とはいえ散在する(そしてぞっとする)子供の狼男の話が僻地には存在する。多くの錬金術師たちと狼狩人たちは、狼男たちは不妊であり、獣性で人間を呪うことによってのみ繁殖すると信じている。しかしながら多くの人々は、人間との異種交配ができるのではないかと、そして親類に狼男が生まれるのではないかと怖れている。
《噛み傷への興奮》 アート:Randy Gallegos |
真の呪い
獣性とは、犠牲者の精神的真髄を、狼を象徴とする自然の荒々しい真髄と混ぜ合わせてしまう超自然的呪いである。結果、獣人は二つの魂、もしくは二つに分かれた一つの魂を持つことになる。二つの真髄は絶えず犠牲者を支配すべく戦う。野生の狼の真髄が勝利した時、狼男への変身が起こる。この事は何故狼男たちがそれほどまでに人間を頻繁に狩るのかを説明しているかもしれない。狼の真髄は人間性を破壊すること、人間性に打ち勝つことを欲し、そして人間を残酷に殺害することによって象徴的にそれを行うのだと。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
呪いの伝達:呼び声と最初の狩り
獣性の呪いは一夜にしてその人物へと襲いかかる。一体の、もしくはより多くの狼男たちが夜に吠え、犠牲者を呼ぶ。犠牲者はその後すぐに荒野の中、銀の月の下で、夜の闇に輝く瞳に囲まれた自身に気付く。犠牲者の意思は既に汚されており、野生の真髄がその中に入り、良心と戦う。そして犠牲者と狼男たちは共に森を急襲し、その夜の間獲物を狩り、殺す。通常は森林地帯の狩場で行われるが、人間たちは無論、他の獣人さえ弁明を聞いてはもらえない。
呼び出された犠牲者は夜の間じゅう、狼としての特徴を明白に示し、血のしたたる肉へとその歯を沈めるごとに呪いは目に見えて根を下ろし、初めて完全な獣の姿をとる。そして骨まで凍りつくような吠え声のコーラスとともに、最初の狩りが完了する。後に、新たな獣人は通常、文明社会へとよろめきながら帰る。半裸で、血や内臓や野生のごみからかろうじてその人物と判別可能な状態で、そして恐怖と恥ずべき記憶からほとんど狂乱している。それ以来、その狼男は祈りと用心とともに、狼の真髄が人間性を再び圧倒しないように油断なく警戒し続けなければならない。
看破
どちらの姿でも、狼男は人間姿の狼男を臭いによって判別することができるようである。そして、狼男が暴れまわる間に不可解にも危害を与えられない人間たちはしばしば彼ら自身が狼男ではないかと疑われる。
既知の治癒法はない
治療法、祝福、儀式、どれも獣性の呪いを有効に清め落とすものは知られていない。かつて最もそれに近づいたのは錬金術師セオドラ・グリックが、地域の警備隊に捕らえられた狼男ガスリルを詳細に調べることによってもたらしたものであった。トリカブトがちりばめられた神秘的な環と、祝福された銀糸で織られた毛布、そして稲妻の嵐を必要とする複雑な儀式の間、グリックはガスリルを人間の姿へとどうにか逆戻りさせ、3回の月周期の間、彼を人間に留めていた。不幸にもその儀式は一時的でしかなく、ガスリルは以前よりも強くなって再び変身した。彼はガヴォニーにあるグリックの研究所を完全に破壊し、夜へと走り去った。
吠え群れ
狼男たちの多くは孤独なハンターであり、都市環境の奇妙な怪物のように人間へと忍び寄り殺す。だがいくらかの狼男たちは吠え群れと呼ばれる緩く発達した社会的群れを形成する。吠え群れの頭数は月のように増減する。個々の獣人たちが彼らの獣状態の変化によって出入りすることによって構成員を得たり失ったりする。何体かの狼男たちは彼らの吠え群れへと定期的に戻るようである。彼らは何度も、人間の外面を落とすなり直ちに吠え群れへと戻り、野生へと再び加わる。吠え群れはほんの数体の小さな猟団であることも、百体を越える巨大な群れであることもある。一つの吠え群れはしばしば群れを支配する一頭の頭目(雄でも雌でも)に率いられている。頭目は挑戦者たちを戦闘において打ち負かすことによってその地位を守らなければならない。
三つの大きな、常在する吠え群れがある。爪の群れ、月唸り、虚の瞳である。
爪の群れ:イニストラード最大の吠え群れ
平均的なイニストラードの人間が想像する狼の群れ、それが爪の群れである。爪の群れは数十年にわたっていくつかの形で存在してきた。どんな時でも50から200体以上の狼男たちが獲物の見込みと月の相によって吠え群れを構成している。最も雑多な連中からなる吠え群れである。爪の群れには懺悔者と不貞者が混在しており、イニストラードの全州から構成員を引き寄せている。現在の爪の群れの頭目はウルリッチという狼男、狡猾で明敏な不貞者であり、人間の姿に戻っていてさえも彼は吠え群れとともに荒野に残り、駆けている。
《野生の血の群れ》 アート:Greg Staples |
月唸り:肉体儀式主義者
月唸りの吠え群れは約60体の狼男たちで構成され、自然界の暗黒の血魔術を行っていると言われている。彼らの頭目トヴァロスは寡黙な銀毛の狼男であり、彼の群れが行う虐殺と吠え声の歌を先導する。そして誰も彼が人間に戻るのを見たことがない。月唸りの狼たちは歴史的に文明の中央から遠く離れ、農地や田舎の共同体、僻遠の修道院のみを獲物としている。だがアヴァシンの護法が力を失ってきてから、月吠えの縄張りは都市へと近づいて来ており、彼らの暗黒の魔術は上流階級の生活に降りかかるかもしれないと言われている。
《無慈悲な捕食者》 アート:Michael C. Hayes |
虚の瞳:新月の殺人者
虚の瞳を知る者はほとんどいない。イニストラードの最も危険な捕食者である狼男の比較的小さく緊密な群れだが、ほぼ全ての者が彼らの大量破壊の話を聞いたことがある。珍しいことに虚の瞳は満月の時に変身するよりも、新月の闇夜の下で喜んで狩りを行う。彼らは子供の肉と内臓を好み、しばしば家庭や孤児院の煙突や半開きの窓を通ってそれらを手に入れる。虚の瞳の頭目はスカハーラという名の黒毛の狼女であり、犠牲となる一家が血縁以外の農場労働者や使用人を節約している間、一夜にして一族郎党全員を殺してしまうやり方が有名である。
プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 目次
- 序説
- ガヴォニーと人間
- ケッシグと狼男
- ネファリアとアンデッド
- ステンシアと吸血鬼
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