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ReConstructed -デッキ再構築-

『From the Vault: Twenty』

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ReConstructed

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『From the Vault: Twenty』

Gavin Verhey / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV testing

2013年8月6日


 私はWebページを眺めていた。親指と人差し指の間に顎を置いて、表情は穏やかだったと思う。心に乱れはなく、落ち着いていた。私の周りには何枚もプリントが置かれていて、そこにはデッキリストとそれが使われた日付、そして世界王者の名前が印刷されていた。右手側にあるメモ帳には、「20周年を記念するセット。各年につきカード1枚」と書かれた文字が丸で囲まれている。それは、私にしか解読できないような走り書きだった。私は研究室にこもる科学者のようで、そこにあるのは、私とカードだけだった。

 私は世界選手権2010へのリンクをクリックした。と、その瞬間、すべてが変わった。

 顔を手から離した。鼓動が早まる。頭脳は倍の速さで回り始めた。もし眼鏡をかけていたなら、私はそれを押し上げて外していたことだろう。

 私はディスプレイを凝視した――私の思考を一気に加速させたものをじっと見つめた。

 できるのか? そんなことが本当に?
『From the Vault』に《精神を刻む者、ジェイス》を収録するなんてことが?
 そんなの......無理だろう?

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 20周年記念特集へようこそ!

 今週は、いつものデッキを調整するコラムはお休みだ。ああ、分かっているとも――さぞかしがっかりしたことだろう。でも、今日は良い知らせを持ってきたんだ。きっとみんな許してくれると思う。

 本日は、『From the Vault: Twenty』のすべてを語るつもりだ。アイデアの起源、開発中の裏話......ああ、そうだ、それから「20枚のカードすべてを」明かそう。これでみんな機嫌を直してくれるよね。

 それじゃあ始めるぞ。

初めに、「無」があった

 ......そこから「有」が生まれた。それは灯。アイデアだ。

 始まりはこうだった――私がウィザーズ社で働き始めて3ヶ月になろうかという頃、『From the Vault』のリーダーだったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは、デザイン・マネージャーとしてより多くの責務を負う予定になっていた。私はデザインとは関係ないものの『From the Vault: Realms』に携わっていて(とりわけ、カードのテキスト欄を埋めるのが私の仕事だった)、そのおかげでこのシリーズの面白さを感じていた。このプロジェクトを引き継げる者を探していたゴットリーブは、私にバトンを手渡したのだ。

 2013年に出る『From the Vault』の開発! なんて素晴らしい。それで......どうすればいいんだ?

 私はほぼ白紙の状態から始めた。ゴットリーブは将来の『From the Vault』についてもいくつかアイデアを書き留めていたけれど、この製品は今や私のものだ。いわば私の子供。そう、私の! 私のかわいい......

 それがマジックの20周年記念に発売されるものだ、ということはすぐにわかった。そしてそのとき、あるアイデアをひらめいた――記念すべき大きな年にふさわしい何かをしてやりたい。私はマジックの歴史の中で最も象徴的なカードをいくつか挙げて、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerに投げ込んだ。すると彼は、今回の『From the Vault』の収録枚数を各年で1枚ずつの20枚に増やす、というアイデアでさらに私を後押ししてくれたのだ。

 私はそのアイデアに夢中になった。

 誰もがそのアイデアを認めた。そのことを知るより先に、私はデザインを始める準備を終えていた。

時空を巡る大冒険

 目標は見えた。マジックの歴史を物語るような製品を作ることだ。そのための最善の方法は何か? それぞれの年を表現してやればいい――その年の大会と、発売されたセットの両方を。

 つまりどういうことか? 私は、(現在まで続くブロックというコンセプトが始まった『ミラージュ』から)各ブロックを代表するカードを1枚ずつ収録しようと考えたのだ。

 また、私はマジックの大会の歴史も感じさせたかった。これを達成するため、各プロツアー・シーズンでのプロツアーや世界選手権の優勝デッキに見られるカードを収録することにした。

 このふたつの方針を絡ませる(あるいは今の時代に合わせて言うなら「融合」させる)と、次のような解答に近づいた。各ブロックから1枚ずつ収録し、それらはプロツアー・シーズンに沿って選ぶ、というものだ。プロツアーのスケジュールは何度か変更されているため区分をつけにくいものもあるけれど、この方針でいくことになった。

 こうして、一筋縄ではいかなそうな手ごわい目標がふたつ出揃った。しかし、私はその上にさらにもうひとつ目標を掲げていた。

 それぞれの製品には、それぞれ簡潔に言い表せる目標がある。ある製品は新規プレイヤーにマジックを教えるため。またある製品はデッキ・ビルダーの心を惹きつけるため、という風に。

『From the Vault: Twenty』での目標、それは「こいつはスゴイ」と思わせることだ。

 ちょっと遠回しになるが、別の言葉で言うなら、「プレイヤーたちが持っていたくて、かつ、使ってみたいと思われるような、愛すべきカードの数々を収録する」ということだ。

 すべてのキューブマスターや統率者のプレイヤーのために。歴史愛好家やコレクターのために。そして世界中のエヴァン・アーウィン/Evan Erwinのために、この『From the Vault: Twenty』があるのだ。(豆知識:この製品を開発しているとき、わたしは度々「エヴァン・アーウィンはどれだけ喜んでくれるだろう? 『エヴァン・メーター』はどの数値を指し示すだろう?」というのを基準にしていた)。

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 私は、収録されるカードすべてに目的を持たせたかった。すべてがスゴイものになって欲しかった――マジックの歴史を感じさせるために収録されるカードでも、わくわくするようなものじゃなきゃいけない。

『From the Vault: Twenty』は、マジック20年目の誕生パーティだ。マジックは本当に良い仲間たちに恵まれている。すべての『From the Vault』がマジックの誕生日を祝うものではないけれど、20周年の記念となれば特別なものになってもいいだろう。

『From the Vault: Twenty』の開発は、時間をかけて慎重に行なった。これは私が手がける初めての製品で、同時にマジック20周年を記念するものだった――ちゃんと正しい方向に進んでいるか確認したかった。私は収録カードの初期リストをいくつか作り、オフィス中のみんな(開発部であるかどうかに関わらず全員――開発部じゃない人の意見こそ大切なのだ!)に見せて、どのリストが一番喜んでもらえそうか意見を聞いた......それからリストを洗い直してまた意見を聞き、気に入ったリストの基礎ができるまでそれを繰り返した。

 そこからさらに私は延々とカードを入れ替え、ついに君たちがこれから目にする形になった。収録カードについては何度も考えて何度も入れ替えて、また大量のデッキリストを何度も繰り返し見て、開発には数ヵ月を費やした。それでも今回の『From the Vault』は、これがマジックの歴史を並べたショーケースとして世に出るのを心から誇りに思えるような、そういう製品になった。

 さあ、20周年記念特集にふさわしいTop20カードをお見せしよう。きっとみんなが心惹かれるような――『From the Vault: Twenty』に収録される20枚を!

(ドラムロールを鳴らす)

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『From the Vault: Twenty』収録カード

#1:1993年


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 すべてはGen Conで始まった。

 1993年、当時は世界選手権がなかった。ウェブキャスト放送も、DailyMTG.comもなかった。携帯電話で利用できるインターネットもなかった。しかし、マジックというまったく新しい駆け出しのゲームには、ある特別な出来事があった――史上初のDCI認定大会だ。

 Gen Conで開催されたこの大会が、マジック初のイベントだった。第3ゲームをこのように取り今大会を制したのが、アレックス・パリッシュ/Alex Parrishだ。(リンク先は英語記事)

 その結果を除いて、この大会の記録は残っていない。すべてが時間と共に失われた。マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterのようなマジックの歴史愛好家でさえも、この大会当時の人たちとはもう繋がりがない。この大会は、今でも謎に包まれたままなのだ......

『From the Vault: Twenty』にとって、優勝デッキに含まれるカードが一躍大切なものになったため、私はアレックス・パリッシュを探し出しこの大会について彼と話をすることに全力を挙げた。彼自身が歴史の一部そのものであり、もし可能なら失われた歴史を掘り起こすつもりだった。

 努力の末ついに私はアレックスと連絡を取り、インタビューを行なった。そのときのやり取りは、今回の記事の最後に載せておこうと思う――読みごたえのある素敵なインタビューだったし、彼のマジックに対する視点は本当に感動的だった。しかしながら、当時使ったデッキについて覚えていることを彼と話し、その内容を深く検討した後、私は彼との連絡がつかなかった場合に備えて選んでおいたカードを再検討した――それが《暗黒の儀式》だ。

 《暗黒の儀式》はマジックの歴史を象徴する1枚だ。黎明期の「《暗黒の儀式》、《惑乱の死霊》、ターンどうぞ」という動きから、これを燃料にした技巧的なコンボ・デッキまで、《暗黒の儀式》はマジックの歴史が始まって以来ずっとその存在が意識されてきたカードなのだ。私は、このカードがお気に入りだと話してくれたプレイヤーをたくさん見てきた。さらに、驚くなかれ、唯一残った試合の記録に、アレックスが《暗黒の儀式》を使う場面があったのだ。そこから、彼のデッキに《暗黒の儀式》が入っていたことがわかった。

 《暗黒の儀式》は、まさに「これしかない」という選択だった――アレックスと連絡を取ってインタビューができたことは、心から嬉しく思っているよ。(この記事の最後に載せるインタビューをぜひ見て欲しい。本当に)。それでは、もうひとつ「これしかない」選択の話をしよう......

#2:1994年


/

 《剣を鍬に》もマジックの歴史を象徴する1枚だ。

 発売当時は有用なカードだった? これからご説明しよう。現在のレガシーでも欠かせないカード? その通り。キューブ・ドラフトでも絶対に取りたいカード? そうとも。統率者戦でもよく見られるカード? 間違いない!

 このカードは、ザック・ドラン/Zak Dolanが世界選手権1994を勝ち取った際に使用した、かの有名な緑白青コントロール・デッキに採用された。ザックのデッキには《セラの天使》のような勝負の決め手と共に、この1マナのインスタントが4枚フル投入されていたのだ。

 君たちが《剣を鍬に》を使用できるフォーマットで遊ぶプレイヤーなら、きっとこのカードに心惹かれることだろう。私はこのカードの収録が可能だと気づくと同時に、マジックの歴史を表現するのにぴったりなカードであることがわかった。

 鋭い視点を持ちよく注意して観察した人は、この《剣を鍬に》が実は再録セットからの採用であることにお気づきだろう! 《剣を鍬に》は元々『アルファ版』に収録されたカードで、ザックのデッキに入っていたのも『アルファ版』だ。しかし『アルファ版』からはすでに1枚採用が決まっていて――それが《暗黒の儀式》だ――、そのため《剣を鍬に》は再録版を採用することになった。私は『From the Vault: Twenty』を、マジックの歴史を代表するようなスゴイ製品にしたかったのだ。ちなみに、次点の候補は《宿命》だった。

 《宿命》と《剣を鍬に》を天秤にかけた結果、私は《宿命》を採用して製品のチェックを安心してできるようにするよりも、マジックを代表するカードである(実用的にもぴったりな)《剣を鍬に》の採用を選んだ。それに、《剣を鍬に》が入っていた方が『From the Vault: Twenty』を開封するプレイヤーたちは喜んでくれる、と私は考えたのだ。なお、再録セットからの採用はこのカードだけだ。

ザック・ドランの「エンジェル・ステイシス」
世界選手権1994 優勝[MO] [ARENA]
4 《Savannah
4 《Tropical Island
4 《Tundra
2 《露天鉱床
1 《Library of Alexandria

-土地(15)-

1 《極楽鳥
2 《Old Man of the Sea
1 《草原のドルイド僧
1 《時の精霊
1 《クローン
4 《セラの天使
1 《Vesuvan Doppelganger

-クリーチャー(11)-
1 《Black Lotus
1 《Mox Emerald
1 《Mox Jet
1 《Mox Pearl
1 《Mox Ruby
1 《Mox Sapphire
4 《剣を鍬に
2 《弱者の石
1 《Ancestral Recall
1 《黒の万力
1 《象牙の塔
1 《魔力の櫃
1 《セイレーンの呼び声
1 《太陽の指輪
2 《解呪
2 《停滞
1 《吠えたける鉱山
1 《Mana Drain
1 《Regrowth
1 《Time Walk
1 《冬の宝珠
1 《回想
1 《Timetwister
1 《ハルマゲドン
1 《支配魔法
1 《氷の干渉器
1 《宿命
1 《神の怒り

-呪文(34)-
1 《Diamond Valley
1 《魔法改竄
1 《臨機応変
1 《Chaos Orb
1 《赤の防御円
1 《Copy Artifact
1 《魔力消沈
1 《北風
1 《In the Eye of Chaos
1 《ダメージ反転
2 《因果応報
1 《Floral Spuzzem
1 《宿命
1 《主の存在

-サイドボード(15)-

#3:1995年


/

 おや、これはゲームの開幕から《暗黒の儀式》と組み合わせるのにもってこいのカードじゃないか......

 マジックの黎明期を象徴するカードがまたひとつ収録される。1994年11月、『Fallen Empires』の発売以来、《Hymn to Tourach》が撃ち込まれるたびにそれを受けたプレイヤーたちは顔をしかめてきた。このカードはまたたく間にマジックの根幹を成し、次の年の世界選手権ではアレクサンダー・ブルンク/Alexander Blumkeの黒をベースにした《拷問台》デッキに、この凶悪なソーサリーは4枚積まれた。(大変興味深いことに、このデッキにはここまでプレビューしてきた2枚――《暗黒の儀式》と《剣を鍬に》――も採用されていた。まさに歴史を感じるデッキだ!)

 キューブ・ドラフトでもレガシーでも、《Hymn to Tourach》の凶悪さは今なお健在だ。そうそう、キューブ・ドラフトと言えば、そのときに使われたイラストはどう思う?

『From the Vault』に携わる中で楽しいことのひとつは、どのカードのイラストをそのまま残し、どれを新規イラストにするか考えることだ。(後で詳しく話すけれど、もちろんどのカードについても議論が起こっている)。その一方で、Magic Onlineで行われるキューブ・ドラフトでは、多くの人気カードのイラストが現在の枠に合わせたものへ描き直されていた。偶然にも――私たちは、ちょうど昔の人気カードに焦点を当てた『From the Vault』を発売しようとしている! 今回の製品は、Magic Onlineのサーバーのどこかにしまってあるイラストを実際のカードとして印刷する、この上ないチャンスだったのだ。

 その結果、『From the Vault: Twenty』は、これまで印刷されたことのない新しいイラストに満ちた、驚くほど充実した製品となった。(新規イラストの数は9枚にものぼる!)さて、このまま印刷されたことのないイラストを持つカードの話を続けよう......

アレクサンダー・ブルンクの「拷問台コントロール」
世界選手権1995 優勝[MO] [ARENA]
12 《
4 《ミシュラの工廠
3 《アダーカー荒原
3 《平地
1 《底無しの縦穴
1 《露天鉱床
1 《地底の大河

-土地(25)-

3 《惑乱の死霊
1 《凄腕の暗殺者
2 《センギアの吸血鬼

-クリーチャー(6)-
2 《Zuran Orb
4 《暗黒の儀式
3 《拷問台
1 《土地税
1 《魂の絆
1 《剣を鍬に
4 《Hymn to Tourach
3 《Dance of the Dead
3 《解呪
2 《恐怖
1 《天秤
1 《精神錯乱
1 《魔力消沈
1 《闇への追放
1 《破裂の王笏
2 《氷の干渉器
1 《黒死病

-呪文(32)-
1 《青霊破
1 《土地税
1 《魔法改竄
1 《臨機応変
2 《赤の防御円
1 《秘宝の防御円
1 《黒の防御円
1 《虹色の護法印
4 《憂鬱
2 《ストロームガルドの陰謀団

-サイドボード(15)-

#4:1996年


/

 マジックの歴史を詰め込んだ製品に1マナのエルフが入っていなかったら、一体どうなってしまうだろうか?

 緑のデッキの概念そのものと言っても差し支えない1マナ域のマナ加速役は、黎明期からその中心にいた。正直に言えば、たぶん《ラノワールのエルフ》の方が良く知られているのだが――この製品の方針に沿っているのは《Fyndhorn Elves》なのだ。(加えて、《ラノワールのエルフ》はもう十分に行き渡っていると思った)。

 《Fyndhorn Elves》の採用はまた、殿堂顕彰者オーレ・ラーデ/Olle Radeと《巨大トタテグモ》を用いた彼の赤緑デッキの活躍を、余すところなく紹介する機会にもなった!(序盤の展開に《Fyndhorn Elves》が貢献したことは疑いないだろう)。弱冠16歳にしてプロツアー・コロンバス1996を制したこの天才は、のちにマナ・エルフの力を活かした自身のインビテーショナル・カードを作ることになる。

 《Fyndhorn Elves》を採用するもうひとつの利点は、新規イラストで印刷できたことだ! このカードはこれまで1度しか印刷されたことがなく、紙の方には新しいイラストを与えるチャンスがなかった。Magic Onlineでキューブ・ドラフトを遊ぶプレイヤーたちの多くが、他でもこのイラストが使えることを望んでいる、と私は聞いていた。そして今、ついにそれが実現したのだ。(ジャスティン・トレッドウェイ/Justin Treadway、君のためにね!)

オーレ・ラーデ
プロツアー・コロンバス1996 優勝 / アイスエイジ・ブロック構築[MO] [ARENA]
7 《
7 《
4 《カープルーザンの森

-土地(18)-

4 《Fyndhorn Elves
1 《ゴリラのシャーマン
4 《巨大トタテグモ
4 《Woolly Spider
2 《Orcish Cannoneers
2 《嵐のシャーマン
4 《命取りの昆虫

-クリーチャー(21)-
4 《ウルザのガラクタ
2 《Lodestone Bauble
2 《巨大化
4 《火葬
2 《Lava Burst
1 《紅蓮地獄
3 《略奪
2 《嵐の束縛
1 《ジョークルホープス

-呪文(21)-
1 《Zuran Orb
2 《紅蓮破
2 《紅蓮地獄
1 《Primitive Justice
2 《Essence Filter
2 《難問の秘儀具
1 《Anarchy
1 《氷の干渉器
1 《道化の帽子
1 《Monsoon
1 《ジョークルホープス

-サイドボード(15)-

#5:1997年


/

 《衝動》は当時の大会常連のカードで、今でもキューブ・ドラフトや統率者のデッキに必ず見られるものだ。数年前までは、たまにレガシーでも《High Tide》デッキで見られたほどだった。これは間違いなく一時代を築いたカードであり、このカードの戦略や使い方、果ては《衝動》が各自のプレイ・スタイルに合致していると仮定して、様々なプロ・プレイヤーに使わせるとどうなるか、といった(冗談も混じった)ものなど、《衝動》に関する記事は数え切れないほどあった。(興味があるなら、まだインターネット上に残っている記事を見つけることはできるだろう)。

 このように実に多くの場所で見られた《衝動》というカードだが、おそらくマジックの歴史上最も象徴的な場面は、マイク・ロング/Mike Longが用いたプロツアー・パリ97だろう。(この大会の逸話として、マイクがデッキに入っている唯一の《生命吸収》を追放した上で勝利した、という話を聞いている人がほとんどだろう――しかし実は、その話は真実ではない(リンク先は英語))。マイクは彼の生み出した「プロス・ブルーム」デッキ――《死体の花》、《資源の浪費》、《繁栄》を中心としたコンボ・デッキ――でスター揃いのトップ8を勝ち抜いた。《衝動》はこのデッキのキー・カードで、マイクはコンボを完遂するのに必要なカードをこれで探したのだ。

 《衝動》はマジックの歴史において重要な一角を占めるだけでなく、『From the Vault: Twenty』に新規イラストで収録されることになった。あの巻物を引っ掻き回す見た目が怖い狂った男の絵ではないのだ。(まあたとえどんなイラストでも、どう見えるかは君たち次第だろう)。アート・ディレクターであるジェレミー・ジャーヴィス/Jeremy Jarvisが、このカードの新イラストをとにかく求めていたことを私は知っている。歴史を持っていて、素晴らしい新規イラストを得るチャンスを持っていて、さらに非常に高い実用性を持っているこのカードは――言うことなしだ。

マイク・ロングの「プロス・ブルーム」
プロツアー・パリ1997 優勝 / ミラージュ・ブロック構築[MO] [ARENA]
7 《
6 《
5 《
4 《知られざる楽園
3 《湿原の大河

-土地(25)-


-クリーチャー(0)-
4 《吸血の教示者
1 《エメラルドの魔除け
4 《衝動
4 《繁栄
4 《資源の浪費
2 《記憶の欠落
1 《魔力消沈
4 《冥府の契約
1 《生命吸収
1 《三つの願い
4 《自然の均衡
1 《エルフの隠し場所
4 《死体の花

-呪文(35)-
4 《エレファント・グラス
3 《エメラルドの魔除け
2 《根の壁
1 《記憶の欠落
1 《魔力消沈
3 《孤独の都
1 《エルフの隠し場所

-サイドボード(15)-

#6:1998年


/

 《花の壁》が大好きな人はたくさんいる。

 ブロックができてキャントリップも持っている《花の壁》だが、しかし何よりもこのカードは懐かしさに溢れている。このカードが弱いと言うつもりはないけれど――いや実際強力なカードだ――、多くの人たちにとって《花の壁》は、1998年夏のワシントン大学に戻れるような楽しさの方が際立っているのだ。

 ブライアン・セルデン/Brian Seldenが「RecSur」デッキで大会を支配したとき感じたような楽しさは、君たちも知っていることだろう。(「RecSur」は《繰り返す悪夢》と《適者生存》の英語名をまとめて略したものだ)。ブライアンがシアトルで行われた世界選手権を勝ち取ったとき、《花の壁》はブロックに回ったり、カードを引く効果のおかげで《貿易風ライダー》の最高の相棒になったりと、実に様々な役割をこなした。あまりの楽しさにしばらくは盤面を進めるつもりがなかったのだろうと、私は確信しているよ!

 マジックの歴史にしっかりと名を残し、現在でも大いに愛される《花の壁》は、特に苦労なく『From the Vault: Twenty』に採用された。

ブライアン・セルデンの「RecSur」
世界選手権1998 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
8 《
3 《真鍮の都
2 《カープルーザンの森
2 《反射池
2 《地底の大河
2 《知られざる楽園
1 《宝石鉱山
1 《
1 《ヴォルラスの要塞

-土地(22)-

4 《極楽鳥
4 《花の壁
2 《根の壁
1 《オークの移住者
1 《スラルの外科医
2 《スパイクの飼育係
2 《ウークタビー・オランウータン
1 《大クラゲ
2 《ネクラタル
1 《雲を追う鷲
1 《スパイクの織り手
1 《貿易風ライダー
1 《新緑の魔力
1 《夜のスピリット

-クリーチャー(24)-
2 《炎の嵐
4 《適者生存
2 《巻物棚
4 《繰り返す悪夢
2 《ロボトミー

-呪文(14)-
3 《エメラルドの魔除け
2 《夜の戦慄
2 《ファイレクシアの炉
2 《紅蓮破
1 《宝石の広間
4 《沸騰
1 《堅牢な防衛隊

-サイドボード(15)-

#7:1999年


/

 ウルザ・ブロックについて考えると、思いつくのは大抵これになる。それはマナ加速だ。

 世界が「コンボの冬」に沈んでいた頃は、(実際に《記憶の壺》や《トレイリアのアカデミー》のコンボを回すのには時間がかかったものの、少なくともターン数で見れば)ゲームは凄まじい速さで終わっていた。

 やがて、(全体を見ればまだコンボ・デッキは暴れ回っていて、あくまでも比較的だが)その状況は改善され始め、カイ・ブッディ/Kai Buddeという誰もが聞き覚えのある名前の小さな魔道士が、世界選手権1999を制した。《スランの発電機》は彼の《燎原の火》デッキの心臓だった。《欲深きドラゴン》を戦場に留め、《燎原の火》が盤面を噛み砕いてもマナを残し――あるいはそう、単純に、《ミシュラのらせん》を憎らしいほどに強くできた。

 豆知識:私がマジックを始めた2ヶ月後が私の誕生日で、母が誕生日プレゼントにカイ・ブッディの『World Championship Decks 1999』を買ってくれた。(ウィザーズ社は世界選手権トップ8のデッキを金枠カードで製品化し販売していたのだ)。11歳といううってつけの時期にカイのデッキが持つ力を味わったことは、今の私を作る上で大きな刺激となったものの一部だった。(ジョン・フィンケル/Jon Finkelの《水位の上昇》デッキもプレゼントでもらったけれど、こちらは11歳の私には完全にわけのわからないデッキだった。あまりにも勝てないので、当時の私は「これはドラフトのデッキに違いない」という結論に至ったものだ)。

 そして今、私はデザイナーとして再びカイのデッキに光を当てる、という素晴らしい巡り合わせの中にいるのだ。

カイ・ブッディ
世界選手権1999 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
13 《
4 《裏切り者の都
3 《古えの墳墓

-土地(20)-

3 《マスティコア
4 《欲深きドラゴン
1 《銀のゴーレム、カーン

-クリーチャー(8)-
4 《呪われた巻物
4 《通電式キー
4 《緋色のダイアモンド
4 《厳かなモノリス
4 《束の間の開口
2 《摩滅したパワーストーン
4 《スランの発電機
2 《ミシュラのらせん
4 《燎原の火

-呪文(32)-
3 《地震
2 《破壊的脈動
4 《呪文ショック
2 《荒残
2 《沸騰
1 《ファイレクシアの処理装置
1 《ミシュラのらせん

-サイドボード(15)-

#8:2000年


/

 カイ・ブッディを記念するカードは収録した。私がこのままジョン・フィンケルを象徴するカードを収録せずに、このマジックの歴史を物語るセットを世に出すと思うかい?

 《からみつく鉄線》は、史上最も有名な決勝戦のひとつに勝利したデッキから採用した。時は世界選手権2000、フィンケルがもうひとりの偉人ボブ・マーハー/Bob Maherを相手に繰り広げた奇跡の3ゲームからだ。また、このカードは史上最も成功したアーキタイプのひとつから採用した――それが「ティンカー」だ。《からみつく鉄線》は、ジョン・フィンケルのデッキから採用した。この選択がマジックの歴史を体現している。

 《からみつく鉄線》自体はどうだろうか? このカードは私が聞く限りでも様々な呼ばれ方をしていた――ここで改めて呼ぶことはしないけれど、使われていらいらするという意見が多いカードのひとつだった。(私としては、そうだな、「お気に入り」のカテゴリに入るカードのひとつだ。「スタックの積み方が重要なカード」だからね)。でもこれだけは言っておこう。ザック・ヒル/Zac Hillは、キューブ・ドラフトにおいて最強のカードは《からみつく鉄線》だと、何度も私に教えてくれた。そしてその主張が的外れだった場面には遭遇したことがない。私も熱心なキューブ・プレイヤーのひとりとして言わせてもらうなら、《からみつく鉄線》は対戦相手に使われるのが最も怖いカードのひとつだ。それは言うまでもなく強力な1枚なのだ。

 それから、今回は昔のイラストを新規イラストに変える絶好の機会だった、ということを再度言っておこう。

ジョン・フィンケル
世界選手権2000 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
9 《
4 《水晶鉱脈
4 《リシャーダの港
4 《サプラーツォの岩礁

-土地(21)-

4 《金属細工師
4 《マスティコア
1 《ファイレクシアの巨像

-クリーチャー(9)-
4 《渦まく知識
4 《通電式キー
4 《厳かなモノリス
4 《からみつく鉄線
4 《修繕
4 《ファイレクシアの処理装置
4 《スランの発電機
1 《崩れゆく聖域
1 《ミシュラのらせん

-呪文(30)-
4 《無効
4 《寒け
4 《誤算
2 《水位の上昇
1 《ミシュラのらせん

-サイドボード(15)-

#9:2001年


/

 私たちはこれまで時代を作るカードをたくさん見てきたが、おそらく『インベイジョン』時代を定義するカードはこの4マナのインスタントをおいて他にないだろう。あまりの強さに、「EOTFOFYL」なる略語が生まれるほどだった。初めて知ったという方のために説明すると、これは「End Of Turn Fact Or Fiction You Lose(エンド前、《嘘か真か》、君の負け)」の頭文字をとった略語だ。

 スタンダードに続きエクステンデッドでも一時代を築くとなれば、ブロック構築でも決め手となる活躍が期待できるだろう――殿堂顕彰者ズヴィ・モーショヴィッツ/Zvi Mowshowitzは、「ソリューション」と名付けた白青デッキにこのカードを4枚詰め込んだ。彼の組んだデッキはまさに環境への解答(Solution)で、ズヴィはトップ8ラウンドで接戦を繰り広げた末に優勝を掴んだ。このとき勝利の大部分を運んできたのが、《嘘か真か》なのだ。

 私はほとんど常に、《嘘か真か》を『From the Vault: Twenty』に収録したい、と意識し続けていた――何度も議論を重ねた大きな部分は、どのイラストを使うかということだ。なぜここでこの話題を持ち出したかというと、君たちの多くがそこに目をつけると確信できるほどに、私たちもイラストについては開発中に話し合ったからだ。

 論点はどこにあったか? 『デュエルデッキ:ジェイス vs. チャンドラ』に収録されたイラストもフォイル加工は施されておらず、元のイラストとどちらを採用するかで議論はふたつに割れた。ひとつは懐かしさを呼び起こすという意見で、すでにキューブ・ドラフトに向けて多くのカードを新規イラストにしている今、象徴的な昔のカードをそのまま残すのも良いことだった。

 しかし一方で、元のイラストの《嘘か真か》はもう新枠でフォイル仕様のもの(FNMプロモ版)があり、まだフォイル加工を施されていないイラストをフォイル仕様にする、というのも私が目指すところだった。どちらの議論も充実したものだった。

 最終的に、私はクリエイティブ・チームやアート・ディレクターのジェレミー・ジャーヴィスに相談して、今回は元のイラストがふさわしいだろうという結論に至った。《嘘か真か》は人気のあるカードなので、今後も機会は無数にある、ということを付け加えておこう。いつの日か、ジェイス vs. チャンドラ版のイラストでフォイル加工がされたプロモ・カードが作られたとしても、驚くことはない。プロモ・カードには、まだまだエキサイティングなものになって欲しいと私は思うのだ。

 開発部が度々やらなければいけないことは、将来の製品に向けてイラストを取っておくように気をつけることだ。『From the Vault: Twenty』ではすでに、今後出る製品まで待つこともできたレバーを引いてしまったかのように大盤振る舞いを見せている。今回の《嘘か真か》がなぜこのイラストになったのか、と疑問を持ったみんなへ、その理由は以上の通りだ。

ズヴィ・モーショヴィッツの「白青」
プロツアー・東京2001 優勝 / インベイジョン・ブロック構築[MO] [ARENA]
10 《
10 《平地
4 《沿岸の塔

-土地(24)-

4 《嵐景学院の弟子
4 《真紅の見習い僧
4 《ガリーナの騎士
4 《翻弄する魔道士
4 《万物の声

-クリーチャー(20)-
4 《吸収
4 《除外
4 《排撃
4 《嘘か真か

-呪文(16)-
4 《撹乱
3 《反論
2 《オーラの旋風
3 《完全な反射
3 《聖戦の騎士

-サイドボード(15)-

#10:2002年


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 この年の採用候補には素晴らしいカードがたくさんあった。

 真っ先に思い浮かぶカードのひとつは、《サイカトグ》だろう......だがちょっと待って欲しい。《サイカトグ》は世界選手権2002を支配し、カルロス・ロマーオ/Carlos Romaoの手に勝利をもたらしたが、大会を支配していた《サイカトグ》デッキにはすべて《チェイナーの布告》が入っていた。その後ブロック構築で行われたプロツアー・大阪2002で、《チェイナーの布告》はトップ8中合わせて20枚もの採用率を誇り、再び大会を牛耳ることになった......この大会は、ほぼ黒単コントロール・デッキに制圧されていたのだ!

 《激動》も手堅い選択肢のひとつだ。とはいえ、《激動》はキューブ・ドラフトには欠かせないカードであるものの、統率者戦では禁止されている。また、構築においては他の選択肢と比べて象徴的であるとは言えない。

 結果的に、私は『From the Vault: Twenty』に優秀な黒の除去呪文を採用したいと考え、また《チェイナーの布告》はこの時代をしっかりと思い起こさせるカードだと思った。加えて、元のイラストとはまったく別のずっと素敵な新しいイラストを与えるには、《チェイナーの布告》がうってつけだったのだ。

カルロス・ロマーオの「青黒サイカトグ」
世界選手権2002 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
10 《
4 《塩の湿地
4 《地底の大河
3 《
2 《セファリッドの円形競技場
1 《ダークウォーターの地下墓地

-土地(24)-

4 《夜景学院の使い魔
4 《サイカトグ

-クリーチャー(8)-
4 《対抗呪文
3 《チェイナーの布告
3 《記憶の欠落
4 《排撃
3 《堂々巡り
3 《狡猾な願い
3 《綿密な分析
3 《嘘か真か
2 《激動

-呪文(28)-
4 《強迫
3 《恐ろしい死
1 《棺の追放
1 《反論
1 《テフェリーの反応
1 《冬眠
1 《枯渇
1 《はね返り
1 《殺戮
1 《嘘か真か

-サイドボード(15)-

#11:2003年


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 マジック黎明期の頃より、白の全体除去はこのゲームに欠かせないものであり続けた。《神の怒り》と《ハルマゲドン》が印刷されたのは『アルファ版』の時代まで遡り、その後幾度となくデッキに採用されてきた。全体除去を使うデッキは、1度それらを撃ち込めばかなりの優位を取れるように組んであるので、「平等に被害を受ける」ことによる影響はほとんどないのだ。

 私は、マジックの歴史を網羅する今回のセットのどこかに全体除去を収録したい、と思っていた。ちょうど折り良くその機会をくれたのが、オシップ・レベドヴィッツ/Osyp Lebedowiczだ。『オンスロート』ブロック構築で行われたプロツアー・ヴェニス2003の優勝をもって、彼はサイクリングもできる全体除去がどれだけ強力か見せつけてくれたのだ。

 これだけは言っておかなければならないだろう。私は、ジェレミーがこのカードの新規イラストを欲しがるとは期待していなかった......だが嬉しいことに、彼は新規イラストに興味を示したのだ。このイラストは私を心酔させ、数あるカードの中でもお気に入りの1枚になった。近いうちにキューブ・ドラフトで使えることを、楽しみにしているよ。

オシップ・レベドヴィッツの「アストラル・スライド」
プロツアー・ヴェニス2003 優勝 / オンスロート・ブロック構築[MO] [ARENA]
10 《平地
9 《
4 《忘れられた洞窟
4 《隔離されたステップ

-土地(27)-

2 《宝石の手の焼却者
2 《ダールの奉納者
4 《賛美されし天使
2 《獅子面のタイタン、ジャレス

-クリーチャー(10)-
4 《稲妻の裂け目
4 《アクローマの祝福
4 《霊体の地滑り
4 《星の嵐
3 《新たな信仰
4 《アクローマの復讐

-呪文(23)-
3 《啓蒙
3 《優雅の信奉者
2 《宝石の手の焼却者
1 《奉納
4 《アヴァラックス
2 《怒りの天使アクローマ

-サイドボード(15)-

#12:2004年


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「スイレン/Lotus」。マジックの世界では、この言葉にはかなりの重みがある。起源にして頂点である《Black Lotus》から《睡蓮の花》のような亜種まですべて、スイレンと名のつくものは同時に力を連想させた。実際に、私は実物のスイレンを見たり、店名に「Lotus」が入るタイ料理屋で食事をしたり、スイレンの絵柄がプリントされたシャツを目にしたりするたび――そういったものなら何でも――、すぐさま《Black Lotus》を思い浮かべるのだ。私は、なんとかして今回のセットに「スイレン」を収録したかった。そして幸運にも、うってつけなカードがあった。それは《金粉の水蓮》だ。

 力と言えば、2004年は異常な年だった――『ミラディン』が発売されるやいなや、どんなことでも可能になったのだ。プロツアー・ニューオーリンズ2003は、さながら西部の荒野のごとき様相だった。突如として、非常識なまでに強力なアーティファクトの数々が《修繕》や《金属細工師》のようなカードを使用できる世界に解き放たれ、何でもできるようになった。エクステンデッドへの影響はその上の環境にも矛先が向けられた――まるで、動物園のふれあいコーナーに恐竜の一団が襲いかかったようだった。

 当時を知らない人から見れば、誰の目にも明らかに狂った大会だった。そこで起きることに心当たりのある者はひとりもおらず、すべての試合において、目玉が飛び出るようなまったく新しい独自の戦略が見られることになった。ここまでの混乱を目にしたのは、他にはモダンが初めてプロ・レベルの大会に導入された、プロツアー・フィラデルフィア2011くらいだ。

 あるラウンドでは、「使用に耐えない」カードであるはずの《ぐるぐる》や《エネルギーの炸裂》のようなカードで《金粉の水蓮》をアンタップし、《精神の願望》へ繋げる「ぐるぐるデザイア」の姿が。またあるラウンドでは、《ゴブリンの溶接工》と《精神隷属器》によるロックが決まる場面が目に飛び込んでくる。そして、これでもう全部だろうと考えたそのとき、《等時の王笏》に刻印された《最後の賭け》に続いて......《修繕》から《白金の天使》が現れるのを目にするのだ! 瞬きでもしようものなら、《マナ切り離し》からの《ゴブリンの放火砲》でプレイヤーが倒れる様子を見逃してしまうことだろう。

 こうした狂乱の中で頂点に立ったのは、リカルド・オステルベルグ/Rickard Osterbergが「ジョージ・W・『ボッシュ』」と名付けた、《ゴブリンの溶接工》と《修繕》を用いたデッキだった。このデッキに入った《金粉の水蓮》は1枚だけだったけれど、それに騙されてはいけない。このカードは重要な《修繕》先だったのだ。

 余談だが、《金粉の水蓮》の元のイラストが「金粉」をまとっていないことを、ジェレミー・ジャーヴィスはいつも嘆いていた。『基本セット2013』でもそのチャンスは巡ってこなかったのだが(《金粉の水蓮》はプレイテストを通すと安全でないことがわかるかもしれない、という懸念が開発部内にあり、念のため新規イラストを用意しなかったのではないかと私は予想している)、今回ついに絶好の機会が訪れた。新しいイラストにこんにちはしましょう――本当の「金粉の」水蓮に!

リカルド・オステルベルグの「ジョージ・W・『ボッシュ』」
プロツアー・ニューオーリンズ2003 / エクステンデッド[MO] [ARENA]
4 《古えの墳墓
4 《裏切り者の都
4 《教議会の座席
4 《シヴの浅瀬
3 《真鍮の都
2 《大焼炉

-土地(21)-

4 《ゴブリンの溶接工
4 《金属細工師
1 《マスティコア
1 《ペンタバス
1 《白金の天使
1 《鉄のゴーレム、ボッシュ

-クリーチャー(12)-
3 《通電式キー
2 《彩色の宝球
4 《厳かなモノリス
3 《稲妻のすね当て
4 《からみつく鉄線
4 《知識の渇望
4 《修繕
1 《シタヌールのフルート
1 《金粉の水蓮
1 《精神隷属器

-呪文(27)-
4 《溶接の壺
3 《防御の光網
2 《破壊的脈動
3 《荒残
1 《エルフの模造品
1 《精神隷属器
1 《トリスケリオン

-サイドボード(15)-

#13:2005年


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『神河物語』ブロックは、「伝説」テーマを大々的に引き戻した。突然、「伝説」であることが重要になったのだ。日本風の神話を背景にしたこのセットは、忍者を含む新たな世界観をマジックにもたらしてくれた! 《鬼の下僕、墨目》は現在でも統率者戦やキューブ・ドラフトで人気があり、どこからともなく現れては墓地にあるクリーチャーから一番良いものを奪っていって、たくさんの人を驚かせている。

『神河物語』ブロック構築で行われたプロツアー・フィラデルフィア2005は、ゆったりとした相互作用に満ちた環境だった。《師範の占い独楽》や《桜族の長老》、それから《木霊の手の内》といったカードが道をしっかりと固め、そこから伝説のドラゴンか、あるいは《花の神》と《天空のもや》、《魂無き蘇生》を用いたピタゴラ装置的な《けちな贈り物》ロックへと繋いだ。

 この環境への解答を探しているなら、攻撃において伝説のドラゴンと十分に渡り合うだけでなく、再生を持ち――さらに、その後墓地に落ちた伝説のドラゴンを奪うことができるクリーチャーより良いものがあるだろうか? 《鬼の下僕、墨目》はゲイディエル・シュライファー/Gadiel Szleiferを勝利へと導き、アメリカ勢の手にプロツアー・タイトルを取り戻したのだ。

ゲイディエル・シュライファーの「Ken Bearl LOL」
プロツアー・フィラデルフィア2005 優勝 / 神河ブロック構築[MO] [ARENA]
9 《
7 《
4 《氷の橋、天戸
1 《
1 《先祖の院、翁神社
1 《平地
1 《死の溜まる地、死蔵

-土地(24)-

1 《花の神
4 《桜族の長老
1 《曇り鏡のメロク
2 《鬼の下僕、墨目
2 《夜の星、黒瘴

-クリーチャー(10)-
4 《師範の占い独楽
1 《天空のもや
1 《魂無き蘇生
1 《墓場の騒乱
1 《摩滅
4 《木霊の手の内
4 《不快な群れ
1 《崩老卑の囁き
4 《けちな贈り物
3 《忌まわしい笑い
2 《頭蓋の摘出

-呪文(26)-
1 《
4 《鼠の墓荒らし
1 《摩滅
2 《崩老卑の囁き
1 《頭蓋の摘出
3 《北の樹の木霊
1 《鬼の下僕、墨目
1 《潮の星、京河
1 《夜陰明神

-サイドボード(15)-

#14:2006年


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 ラヴニカ・ブロックは、本当に信じられないほどの影響をマジックに刻んだ。このセットが世に出ると、誰もが数々のギルドに夢中になった。大成功を収めたラヴニカには、君たちもご存知の通り、最近「回帰」したところだ。

 この年は候補になりそうな素晴らしいカードが多くあり、多色推奨のブロックなだけあって優秀な金色のカードもたくさんあった。しかしながら、私は少なくとも1枚は純正の赤いカードを収録したいと考えていた――そして私にとっては、《黒焦げ》が赤を体現するカードなのだ。こちらも少々ダメージを受けるものの......赤の魔道士が重視するのはその結果だろう。

 《黒焦げ》は火力呪文を代表するカードであるだけでなく、かの有名な《稲妻のらせん》トップデッキへ続く流れの一部でもある。クレイグ・ジョーンズ/Craig Jonesは相手ターンの終了時にこの《黒焦げ》を放ち、アンタップ後《稲妻のらせん》を引き込んでその試合を勝ち取ったのだ。

 人生においては、それを目にしたとき自分がどこにいたのかはっきりと憶えているほど、強烈に心に残る出来事というものがある。クレイグのトップデッキも、そういう瞬間のひとつだった。私はそのときフェニックスにいて、キッチン・テーブルの前に座り、ホノルルからの生中継を観ていたのを憶えている。右手側には青リンゴが半分食べかけで置いてあった。後ろで母がテレビを観ていた。そして私は、この瞬間を目にしたのだ。

 このときのプレイヤーたちの反応や、実況のランディ・ビューラー/Randy Buehlerの歓声を聞くと、私は今でも背筋が震える。なんて劇的な瞬間だろう。

 この瞬間への繋ぎの部分を評価する人はいないだろう。しかし、このときの《黒焦げ》が無かったら、クレイグの《稲妻のらせん》は事を成し遂げられなかったのだ。

 さて、クレイグの《稲妻のらせん》トップデッキについては当然のように話題になる一方で、多くの人が忘れている事実がある。彼は決勝で敗れているのだ! このときの栄冠は、スタンダード環境の見通しをガラリと変えたグルール・デッキを用いるマーク・ハーバーホルツ/Mark Herberholzが獲得した。彼のグルール・デッキの中でも最大の目玉カードは? そう、《黒焦げ》だ!

 そしてもちろん、その後行われたチーム戦のプロツアーにおいても、《黒焦げ》はチーム「Kajiharu80」の優勝に無くてはならない存在だった。

 直接火力は、今回の『From the Vault』に必ず入れたいと考えていたものだ――《黒焦げ》はその枠に収まり、また同時に多くの歴史を持っているのだ。

クレイグ・ジョーンズの「Zoo」
プロツアー・ホノルル2006 準優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
4 《戦場の鍛冶場
4 《聖なる鋳造所
4 《踏み鳴らされる地
4 《寺院の庭
2 《
1 《低木林地
1 《永岩城
1 《カープルーザンの森
1 《平地

-土地(22)-

4 《今田家の猟犬、勇丸
4 《密林の猿人
4 《サバンナ・ライオン
4 《番狼
3 《古の法の神
3 《炎樹族のシャーマン

-クリーチャー(22)-
3 《ショック
4 《稲妻のらせん
2 《照らす光
4 《黒焦げ
3 《血の手の炎

-呪文(16)-
4 《梅澤の十手
3 《ゲリラ戦術
2 《ブリキ通りの悪党
1 《血の手の炎
3 《狩り立てられたウンパス
2 《巨大ヒヨケムシ

-サイドボード(15)-

#15:2007年


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『時のらせん』ブロックは、通常と異なる奇想天外なものだった。そんなブロックを代表するカードに、中心的な登場人物である《造物の学者、ヴェンセール》を差し置いてふさわしいものがあるだろうか? バウンスと擬似的な打ち消しという形の独特な能力で、このブロックが持つ「時間の歪み」というテーマを表現する《造物の学者、ヴェンセール》は、画期的な活躍を見せている。

 プロツアー・ヴァレンシア2007で――金曜日の初日に会場全体が水浸しになったプロツアーだ!――、レミ・フォルティエ/Remi Fortierが《造物の学者、ヴェンセール》の持つもうひとつの要素――ウィザードであること――を上手く活用した。レミは《激浪の研究室》を用いて、《造物の学者、ヴェンセール》を何度も繰り返し使ったのだ! 決勝でアンドレ・ミューラー/Andre Muellerの《不朽の理想》デッキを下したフォルティエは、「MVPカード」に《造物の学者、ヴェンセール》の名前を挙げた。ミューラーの繰り出すエンチャントをバウンスし、《不朽の理想》は擬似的に打ち消すという能力の組み合わせが、フォルティエに優位をもたらしたのだ。

 それからというもの、《造物の学者、ヴェンセール》はスタンダード、エクステンデッド、モダン、そして少数ながらレガシーでも見られるカードであり続けた。そしてもちろん、キューブ・ドラフトや統率者戦でも常に人気のカードだ。加えて、『ミラディンの傷跡』ブロックでの出来事を経て、ヴェンセールがすぐに戻ってくることはなくなった。そのため、今回の『From the Vault』は彼を思い返すのにこの上なく良い機会なのだ――プレインズウォーカーになる前の姿を、新規イラストで迎えよう!

レミ・フォルティエ
プロツアー・ヴァレンシア2007 優勝 / エクステンデッド[MO] [ARENA]
4 《溢れかえる岸辺
4 《
4 《汚染された三角州
1 《アカデミーの廃墟
1 《繁殖池
1 《
1 《神聖なる泉
1 《平地
1 《教議会の座席
1 《蒸気孔
1 《
1 《湿った墓

-土地(21)-

4 《闇の腹心
4 《タルモゴイフ
3 《粗石の魔道士
2 《造物の学者、ヴェンセール

-クリーチャー(13)-
4 《金属モックス
1 《トーモッドの墓所
3 《師範の占い独楽
2 《もみ消し
1 《仕組まれた爆薬
4 《対抗呪文
2 《相殺
2 《梅澤の十手
4 《知識の渇望
3 《不忠の糸

-呪文(26)-
2 《トーモッドの墓所
2 《仕組まれた爆薬
1 《真髄の針
3 《古えの遺恨
3 《仕組まれた疫病
2 《化膿
2 《ロクソドンの教主

-サイドボード(15)-

#16:2008年


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「多相」は、部族がテーマの『ローウィン』ブロックを結びつけてまとめる役目を担っていた。数ある多相持ちのクリーチャーの中でも、《カメレオンの巨像》より優れたカードは無いだろう。

 4マナ4/4というサイズをさらに倍化する能力を持つ《カメレオンの巨像》は、それだけでもすでにこの時代の枠を争っているが――そこへ除去呪文と《苦花》の生み出すトークンをかわすプロテクション(黒)が加わり、このカードを頂点へと押し上げている。プロツアー・ハリウッド2008において、チャールズ・ジンディ/Charles Gindyが彼の緑黒エルフ・デッキに《カメレオンの巨像》を採用することで、その完成度を究極的に上げた。3ターン目に早くも《カメレオンの巨像》が繰り出される、というのは大いに恐れられた。《レンの地の克服者》のようなカードに続いて現れる《カメレオンの巨像》の威容は、序盤にして盤面に脅威を与えたのだ。

 《カメレオンの巨像》は『ローウィン』ブロックを良く表すカードであり、またキューブ・ドラフトには度々姿を現し、統率者戦でもたまに見ることがあるカードだ。現在でもその力に衰えはない。

チャールズ・ジンディ
プロツアー・ハリウッド2008 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
4 《光り葉の宮殿
4 《ラノワールの荒原
4 《変わり谷
4 《樹上の村
3 《
2 《
1 《ペンデルヘイヴン
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ

-土地(23)-

4 《ラノワールのエルフ
1 《ボリアルのドルイド
4 《タルモゴイフ
4 《レンの地の克服者
4 《護民官の道探し
4 《傲慢な完全者
3 《カメレオンの巨像

-クリーチャー(24)-
4 《思考囲い
4 《恐怖
3 《不敬の命令
2 《野生語りのガラク

-呪文(13)-
2 《殺戮の契約
4 《台所の嫌がらせ屋
2 《突風線
2 《原初の命令
2 《叫び大口
3 《雲打ち

-サイドボード(15)-

#17:2009年


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 マジックには、対戦相手に手渡してそれを読んでいる姿を眺めるのが格別に楽しいカード、というものがある。そのカードが何をするのか読み進めるにつれて相手の顔が変わる瞬間を見るのが、私は大好きだ......中でも、《残酷な根本原理》は私のお気に入りのカードだ。

 《残酷な根本原理》は、まるでたちの悪い宣伝のようなカードだ。テキストのすべての行に「まだまだ、なんとさらに!」と書かれていて、明らかに過剰だとわかる非常識なまでの数の能力が並べ立てられ、読む人の注意を捕らえて離さない。《残酷な根本原理》は、ゲームを完全にひっくり返すことのできるカードだ。このカードによってできた差を埋めるのは至難の業だろう。

 さらに、これでも飽き足らないのか、《残酷な根本原理》は他にも信じられないような瞬間を演出している。プロツアー・京都2009で、殿堂顕彰者ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifは《残酷な根本原理》を主力として用いた5色のコントロール・デッキを使っていた。壁際まで追い込まれながらも、彼はまだ小さなチャンスが残っていることを感じ取っていた......

 大歓声。ナシフは《残酷な根本原理》を引き当て、そこでゲームがひっくり返った。彼はそのまま決勝でルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasを下してプロツアーを制し、そして《残酷な根本原理》を歴史に残したのだ。

 《残酷な根本原理》は、私の中で「今年使いたいカード」のリストに常に入っていたカードだ。こいつは完全に常軌を逸した性能を持つだけでなく、『アラーラの断片』ブロックを表す一例でもある。{U}{U}{B}{B}{B}{R}{R}というとんでもないマナコストもまた、規格外のカードとしてひと目見た者をとりこにするのだ。

 元のイラストも良いけれど、新規イラストの採用はまさに大成功だった。これはニコル・ボーラスの部下であるサルカンがちょっと「お叱り」を受けている場面だ、と言っておこう。サルカンが手札を大切に貯め込んでいないことを願うよ!

ガブリエル・ナシフ
プロツアー・京都2009 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
4 《反射池
4 《沈んだ廃墟
4 《鮮烈な小川
3 《
3 《鮮烈な湿地
2 《滝の断崖
2 《風変わりな果樹園
2 《鮮烈な岩山
2 《鮮烈な草地
1 《秘教の門

-土地(27)-

3 《羽毛覆い
3 《崇敬の壁
4 《熟考漂い
3 《若き群れのドラゴン

-クリーチャー(13)-
1 《真髄の針
4 《砕けた野望
1 《天界の粛清
1 《恐怖
4 《エスパーの魔除け
4 《火山の流弾
4 《謎めいた命令
2 《残酷な根本原理

-呪文(21)-
4 《遁走の王笏
2 《否認
1 《天界の粛清
1 《霊魂放逐
2 《蔓延
1 《薄れ馬
2 《神の怒り
2 《噛み付く突風、ウィドウェン

-サイドボード(15)-

#18:2010年


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『From the Vault: Twenty』には一流のカードがいくつも収録されているが......《精神を刻む者、ジェイス》と比べればそのすべてが霞んでしまう。『From the Vault: Twenty』が発表された後のみんなの考察を見ると、収録されたらスゴイものとして《精神を刻む者、ジェイス》の名前が度々挙がっていたけれど、「まあ、実際ウィザーズにはできないよね」と続くのが普通だった。

 そこでこのサプライズだ!

 どのようにして実現に至ったのだろうか? まず、先に述べたように、私は収録カードの初期リストを作ってオフィス中のみんなに見せ、どのリストが好みか投票してもらった。リストを作り始めて早い段階で、私は《精神を刻む者、ジェイス》が収録され得る選択肢であることに気がついた。初めは、馬鹿げた案だと思った......しかし時間が経つにつれて、考えが変わり始めた。やはり、普通では考えられないアイデアを持った人々によって世界は変えられるものなのだ。

 私はこの20周年を記念するボックス・セットに、プレインズウォーカーを収録したいと思っていた。そして、中でも花形として君臨するこの最も象徴的なカードのことが、どうしても頭から離れなかった。まさにジェイス依存症のように、ジェイスばかり思い浮かぶのだ。

 結局、私は《精神を刻む者、ジェイス》をリストに入れて同僚たちに見せた。すると、みんなひと目で気に入ってくれたのだ。このカードは20周年の記念セットにふさわしいと感じた。《精神を刻む者、ジェイス》を解禁するボタンを押すなら、記念日しかないと。

 ジェイスは今の時代を最も表現するカードのひとつで、ストーリー上でも主役のひとりを演じている。《精神を刻む者、ジェイス》は、これが使用可能だった時期すべてにわたって、プロツアーでその存在感を見せつけてきた(この年の世界選手権でも、ギョーム・マティノン/Guillaume Matignonに栄冠をもたらしている)。また、今でもレガシーで多く採用されているのを見ることができる......現在ある中で最もデッキへの採用基準が厳しいフォーマットで、たくさん使われているのだ。このカードについて歌うラップ曲だってあるぞ! とはいえ、私たちは《精神を刻む者、ジェイス》をスタンダードで使えるようなセットに再録するつもりはない。パワー・レベルが違いすぎるのだ。

 そう、《精神を刻む者、ジェイス》をスタンダードで使えるようなセットに再録するつもりはなく、それでいて流通量を増やしたいなら、今回のセットを逃す理由はないだろう?

 時々、特に早くすべてを決めてしまわないといけない場合や、収録するか今回は見送るかの間でせめぎ合いが起こる場合、どのカードを採用すべきかを感じ取るのは難しい。(私が『From the Vault: Twenty』の収録カード選択に没頭したのは、1年前くらいだ。ちなみに、次の『From the Vault』の収録カード選択はすでに終わっているぞ!)それでも、今回の製品の目玉である《精神を刻む者、ジェイス》を手にとってもらうため、私たちはこのカードの採用を決めたのだ。

 ここ最近で最も印象的で、最も強力で、最も愛されたカードが『From the Vault: Twenty』でマジックの歴史を表現する助けとなることに、私は納得している。ジェイスよ永遠なれ!

ギョーム・マティノン
世界選手権2010 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
5 《
4 《忍び寄るタール坑
4 《闇滑りの岸
4 《水没した地下墓地
4 《地盤の際
3 《
1 《霧深い雨林
1 《新緑の地下墓地

-土地(26)-

2 《海門の神官
3 《墓所のタイタン

-クリーチャー(5)-
4 《定業
3 《コジレックの審問
2 《見栄え損ない
1 《強迫
4 《マナ漏出
4 《広がりゆく海
2 《破滅の刃
2 《ジェイス・ベレレン
1 《取り消し
4 《精神を刻む者、ジェイス
2 《弱者の消耗

-呪文(29)-
2 《見栄え損ない
2 《強迫
3 《漸増爆弾
2 《瞬間凍結
1 《剥奪
1 《破滅の刃
3 《記憶殺し
1 《ソリン・マルコフ

-サイドボード(15)-

#19:2011年


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 ライブラリーからカードを探してそれを戦場に出す、というのは歴史的に見てもかなり強力な効果だ。『ミラディン包囲戦』から採用されたこのカードも、例外ではない。たった1マナ多く払うだけで、デッキに入っている緑のクリーチャーなら何でも好きなときに呼び出せるのだ!

 《緑の太陽の頂点》は、《酸のスライム》や《スクリブのレインジャー》、《ドライアドの東屋》、《ガドック・ティーグ》などを探し出し、スタンダードからレガシーまですべてのフォーマットで使われてきた。また、キューブ・ドラフトのようなフォーマットにも欠かせない1枚だ。しかし中でもとりわけ印象的なのは、世界選手権2011を制した彌永淳也のケッシグ・デッキで、主に《極楽鳥》か《原始のタイタン》を持ってくるのに使われたことだろう。この汎用性の高いソーサリーは、《原始のタイタン》へ繋がるマナ加速を助け......また《原始のタイタン》そのものにもなるのだ!

 あるカードに夢中になって、それを探し出すカードに注意を払わないのは自殺行為だ。そのため、然るべきデッキで使う《緑の太陽の頂点》は、地味ながらもそのデッキで一番重要なカードのひとつと言える。《緑の太陽の頂点》はデッキに安定性をもたらすと同時に、状況に合わせて1枚挿しのカードを運用できる手段となる。複数のフォーマットにまたがって活躍するこのカードの力と汎用性が、『From the Vault: Twenty』への採用に繋がったのだ。

彌永 淳也
世界選手権2011 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
6 《
5 《
4 《銅線の地溝
4 《墨蛾の生息地
4 《根縛りの岩山
3 《ケッシグの狼の地

-土地(26)-

1 《極楽鳥
4 《真面目な身代わり
1 《最後のトロール、スラーン
4 《業火のタイタン
4 《原始のタイタン

-クリーチャー(14)-
4 《感電破
1 《ショック
4 《不屈の自然
4 《太陽の宝球
2 《小悪魔の遊び
2 《緑の太陽の頂点
3 《金屑の嵐

-呪文(20)-
4 《秋の帳
2 《古えの遺恨
2 《饗宴と飢餓の剣
1 《内にいる獣
1 《金屑の嵐
1 《ヴィリジアンの堕落者
2 《最後のトロール、スラーン
2 《解放の樹

-サイドボード(15)-

#20:2012年


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 《Library of Alexandria》や《ミシュラの工廠》のようなカードを筆頭に、何か能力を持った土地は常に環境の中心にいた。私は『From the Vault: Twenty』のどこかに土地を1枚収録したいと強く思っていて、すると『イニストラード』の登場で強力な起動型能力を持つ土地がたくさん現れた。しばらくは《墨蛾の生息地》を検討していた私だが、ブライアン・キブラー/Brian Kiblerがケッシグ・ランプでプロツアー「闇の隆盛」を制すると、まさに私が探し求めていたカードを見つけたのだ。

 キブラーのデッキは、前年の彌永のものとは少し違っていた。キブラーは最新のセットから《高原の狩りの達人》を採用し、元々強力なアーキタイプをさらにクリーチャー重視の方針へ伸ばしたのだ。その上、彌永同様《原始のタイタン》とマナ加速はしっかりと積み込んでいた。さらに《ケッシグの狼の地》によって、《原始のタイタン》が持ってきた土地もすべてダメージ源に変わった。たとえ《原始のタイタン》を除去できても、《墨蛾の生息地》と《ケッシグの狼の地》が残り、素早く対戦相手を倒すことができたのだ。

 《ケッシグの狼の地》は、彌永とキブラーの両者が活躍したスタンダード環境を特徴づけたカードだ。そして、それは今でもスタンダードのデッキに姿を見せ続けている! この事実は、呪文のような能力を持った土地がいかに強力なのかを如実に物語っているのだ。

ブライアン・キブラー
プロツアー「闇の隆盛」 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
6 《
5 《
4 《銅線の地溝
4 《墨蛾の生息地
4 《根縛りの岩山
2 《ケッシグの狼の地

-土地(25)-

1 《極楽鳥
4 《高原の狩りの達人
3 《真面目な身代わり
1 《最後のトロール、スラーン
1 《酸のスライム
4 《原始のタイタン
2 《業火のタイタン

-クリーチャー(16)-
4 《感電破
4 《不屈の自然
4 《太陽の宝球
2 《緑の太陽の頂点
1 《鞭打ち炎
4 《金屑の嵐

-呪文(19)-
1 《秋の帳
2 《古えの遺恨
2 《焼却
2 《帰化
1 《鞭打ち炎
2 《内にいる獣
2 《最後のトロール、スラーン
1 《原初の狩人、ガラク
2 《解放された者、カーン

-サイドボード(15)-

マジカル・アニバーサリー

 アメリカ合衆国が宇宙探査機「ボイジャー1号」を打ち上げる際、機内にちょっとした「おまけ」も搭載した。地球上の生物の画像や様々な音、私たちが太陽系のどこにいるのかというメッセージ、多くの言語で行われる挨拶などを収めた、「ゴールデン・レコード」だ。なぜそんなものを? 万が一探査機が地球外の生物と遭遇した場合に、私たちのことを少しでも伝えるためだ。

 私は、『From the Vault: Twenty』にそういった役目を担って欲しかった。

 もし、マジックについて何も知らない文明にこのゲームの歴史と多様性を伝えるためひとつだけ製品を送るとしたら、私はこの『From the Vault: Twenty』を送るだろう。(できればこんな風に書かれたメモも添えたいな。「親愛なる宇宙人の皆様へ:まず基本土地というものがあって......」)

 この20年間でマジックが成し遂げたことを改めて確認し、また将来成すであろうことに思いを馳せると、この素晴らしいゲームとコミュニティの一部であることに喜びを禁じ得ない。20周年を記念する『From the Vault』に携われたこと、そしてマジックの深い歴史を表現できたことを、私は誇りに思う。

 マジックは本当に偉大なゲームだ。

 自分の人生の中で大きな決断や出来事があったことを振り返るたび、私は「ここは別の人生への分岐点だったのかもしれない」と思えるような瞬間に出会うことがある。築けていたかもしれない人間関係、就くことになったかもしれない仕事、そして決して持つことのない情熱を目にすることがある。マジックの遊び方を覚えたというのは、そんな私の将来を決定づけたことのひとつだ。正直な話、マジックを始めなかったらどうなっていたか、まるで想像がつかない。

 私は今、マジックを始めたての頃を思い出している。リビング・ルームに敷かれたカーペットの上で、兄弟と一緒だった。私たちは(でたらめな方法で)クリーチャーを出し合って遊んでいた――幼いガヴィン少年の前には、そこから長い旅路が広がっていた。

 当時は知るよしがなかったけれど、マジックは私にとって、ただのゲーム以上の存在になった。私の人生に決して欠かせないものになった――まるで互いに絡み合って建物を囲むように成長を続ける2本のツタのように、私とマジックは一緒に育った。マジックは私に、他では絶対に得られなかったであろう一生ものの友人と、一生ものの思い出と、そして一生ものの大冒険をもたらしてくれたのだ。

 君たちの中には、私と同じことを感じてくれている人が、きっとたくさんいるだろう。数ヶ月ほどマジックを遊んで、その魅力のすべてがまだ地平線のかなたにあることを感じた人が、きっとたくさんいるだろう。そして、マジックを始めたばかりの人も、きっとたくさんいるだろう。

 こんにちは。ようこそ。また会えたね。マジックを支えてくれてありがとう。

 そしてマジック:ザ・ギャザリング20周年おめでとう。どうかこれからも、末永く続かんことを。

Gavin / @GavinVerhey


おまけ――初代マジック・チャンピオン、アレックス・パリッシュに5つの質問!

(1)どれくらいマジックを遊んでいますか? 最近も続けていますか?

 私が初めてマジックの遊び方を覚えたのは15歳の頃で、高校生のときはこのゲームに熱中していました。その後大学ではあまり遊びに時間を割くことができず、続けるのは難しくなりました。さらに、その頃はお金がなかったんです。せっかく集めたマジックのカードを学費のために売らなければいけなくなったときの悲しさは、今でもはっきりと覚えています。(ちなみにGen Conで行われた大会の優勝賞品は、〈今では『アルファ版』とか『ベータ版』とか呼ばれている〉第一弾のカードを1ボックスと、額縁に入った証明書、それから「無敵の」デッキを持っていると自慢するウィザーズ・オブ・ザ・コーストの社員たちへの挑戦権でした)。カードを取り戻したいという気持ちはあったのですが、当時は数週間分の高い学食(マカロニ・アンド・チーズ)にお金を注ぎ込んだり、授業を受け続けたりする方が大切だったのです。

 今は私も大学教授になり、再びこのゲームにお金を使う余裕ができました。Xbox Liveアーケードで簡易版のゲームが手に入ると知ったときは嬉しかったです――込み上げてくる懐かしさはどうしようもありませんでした。私は回線速度が許す限りの速さでそれをダウンロードし、すっかり夢中になりました。これまでも、ゲーム好きの教授友達たちが私を再びマジックの世界に引き戻そうとしていましたが、たぶん近いうちに彼らの誘いを受けることになるでしょう。もう遊ばずにはいられません。

(2)大会当時、どれくらいの参加者がいましたか?

 1993年にGen Conで開催された大会は、現在皆さんが見るようなしっかりと整備されたものではありませんでした。マジックというゲーム自体がまだ世に出て間もない頃で、またGen Conへの訪問者も開催地がインディアナポリスに移ってからほどではなかった、と聞かされています。当時は全日程が1日で終わりました。参加者は200人を下回っていたでしょう。

 試合はすべて一対一で行われましたが、3ゲーム目まで行く試合はほとんどありませんでした。当時のデッキは、お互いの予想通りに一方的な展開になるものばかりだったのです。決勝戦は、私の黒赤デッキと対戦相手の緑白デッキとの対決でした。この時点では発展途上だったマジックでも2色の組み合わせは十分使えて、この試合はまさに古典的な一戦でした。あのときは、選手たちよりもウィザーズ社員たちの方が熱くなっていた、と私は思います。彼らの中で主要な色の組み合わせが確立されたのですから。

 あの決勝戦の記録はWeb上で見られるので詳細は控えますが、私は才能ある対戦相手からなんとか勝利をもぎ取ることができました。相手が本当にナイス・ガイだったのを覚えています。私はもう大興奮で、来年もまたこの大会に参加しようかなとも考えました。しかし、会場が変わる前にGen Conに行ける機会は今回が最後だと決めていたのです。

(3)この大会に参加するまでの経緯は? はじめから参加するつもりでGen Conに来たのでしょうか? それとも偶然参加することに? この大会の裏話を聞かせてください。

 変だと思われるかもしれませんが――マジックの大会があるということすら知らなかったんです。Gen Conの運営が私の事前予約情報をなくしてしまい、私は参加したかったイベントの多くに参加できなくなりました。私は会場中をさまよい、その週末にできることを探しました。マジックの大会が行われるということはほとんど宣伝されていませんでしたが、それでも私はパンフレットにあるのを見つけて、冗談半分で参加登録をしました。毎年参加していた「リスク」の大会でこてんぱんにやられた直後だったので、面目を取り戻したかったのです――そしてそれが上手くいきました。

 私のゲーム好きは周りに受け入れられていますが、それでも「マジック:ザ・ギャザリング初の全国大会で優勝したんだよ」と人に言うのはちょっと気恥ずかしいですね。

(4)使用したデッキの中で一番のお気に入りカードは?

 デッキ内容についての質問には積極的に協力したいな、と考えていたところです。《黒の万力》は、対戦相手のライフを削り取ったりプレイの幅を狭めたりと、かなり有効なカードだったことを憶えています。あとは《邪悪なる力》も、私の戦略に欠かせないものだったと思います。

(5)ほぼ20年を経て、当時のことをどのように振り返りますか? この大会で一番の思い出は?

 マジックで遊んでいた時間を振り返ると、月並みですがとても愛おしく感じます。それは、関わった人たちのおかげだと思っています。マジックで遊んでいるときに、口論になったり嫌な気分になったりした記憶はありません。大会を運営していた人たちも、私が勝つと心から喜んでくれたんです。その後もたくさんの人たちから勝負を挑まれたり、デッキ構築についての話を求められたりしました。本当に素敵な経験でした。こういった人との繋がりが、マジックを現在のような大人気ゲームに押し上げる一因だったのではないかな、と私はそう思います。デザイナーの皆さんは面白いゲームで遊びたいと願い、その思いを形にして富を得ました――これはボード・ゲームやカード・ゲームの業界ではとてつもない偉業なのです。作り手側の楽しい気持ちがプレイヤーにも伝わり、マジックとそのコミュニティに対して、誰もが前向きな気持ちを持つようになったのでしょう。

 こうして大人になってからマジックやボード・ゲーム、それからロール・プレイング・ゲームで得た経験を振り返ると、こういったゲームは現代に生きる上でとても大切なことを教えてくれるように思います。プレイヤー間のリテラシーや助け合いの精神を育てるだけでなく――はっきり言いますが、プレイヤーの年齢に関係なく社交的なスキルは役に立ちますよ!――、ゲームとそれを売るお店が合わされば、放っておくと「良くない」遊びを見つけてしまう子供たちにとって安全な場所になるのです。カート・ヴォネガット/Kurt Vonnegutが著書『国のない男』で述べるように、人生の大部分はやるべきこととは別の無駄なことに費やされ、特にティーンエイジャーの頃はその傾向が強いと私は考えます。創造性の健全なはけ口がないと、あり余る時間とエネルギーを消費する方法を他に求めるようになるのです。

 私も自分の子供を持ち、その子が興味を示したら、マジックという健全な遊びを与えようと考えています。(とはいえその頃には私も絶対に復帰して練習をしているので、簡単にはやられませんよ)。


(今週(8/20)のデッキ募集はありません。編集)

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