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開発秘話

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現実世界のデータの活用

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現実世界のデータの活用

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年2月11日


 マジックのセットを1つ作り上げるのに大体2年かかります。それについて少し考えてみましょう。


ぼんやり》 アート:Ben Thompson

 少なくともデザインの部分には他と関係なく完了させられることになっている作業がたくさんあります。メカニズムを考え出し、楽しいものでファイルを作り上げ、そしてそれをデベロップされるまで保存しておきます。デベロップの目的がカードをお互いにバランスが取れて同じパワー・レベルに保つことだけなのであれば、2年分のカードを1年で仕上げることが理論的に可能です。しかし我々はそうしません――そしてそれは我々が2050年までの製品の開発を終わらせてしまうと仕事がなくなることを心配しているという理由だけではありません。

 確かに、我々は2030年のマジックの秋セットに今取りかかり、それを仕上げ、発売を待つだけにすることもできます。しかしそれにはいくつかの深刻な品質上の懸念が存在します。

 例を1つ挙げると、我々は確実に過程を改善することにより、年月をかけて内部の物事を改善しています。もし我々が『フォールン・エンパイア』『アイスエイジ』『ホームランド』時代に100セット作り、それが現在にまで居座っていたなら、あなたはそれを気に入らないだろうと私は思います。

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『ホームランド』への回帰! 本当にそこまで悪いものでしょうか?

 しかし最も重要なのは、自分たちの好きなものに捕らわれすぎて現実世界の結果を無視することは我々にとって危険だということです。我々が常に100%正しいなら素晴らしい働きをしますが、実際にそれが真実であると仮定するべきものではありません。セットが発売されたとき、我々はソーシャル・メディアやフォーラム、戦略サイトのレビューを読み、YouTubeの動画を見て、ゴッドブックを研究し、組織化プレイの動員とセットの売り上げを見ます。これらのデータ全てを活用することにより、我々はセットで何が機能し何がそうでないか、状況をかなり良く把握することができます。我々はその後、それらの情報を将来決定を行うときに影響を与えるために活用します。

 これは何も一般的な反応に限った話ではありません――これはまた、どのカードが我々の想定よりも強かったり弱かったりしたかについての実際の証拠になります。現在のところ、マジックのセットを作るスケジュールは、我々が大きなミスを何も犯さないようにするためその名を冠したプロツアーに紐付いています。このアイデアは、プロツアーの後に我々がそのセットがどうなったかや人々がどのような反応を示したかを検討し、デベロップ中の次のセットが完成する前に何か変更が必要ならばそれを考え出せるようにするというものです。

 我々は全てを決定しなければならない時までにスタンダードがどのようになるかを完璧に把握することはできませんが、十分に近い予測はできるので、潜在的に危険なものに対する安全弁的なものを加えるような調整をいくつか加えることができます。スタンダードの残りの期間にそれの存在を妨げるものは何もないでしょうが、メタゲームの大半を占め始めるようなら、それを対策することができるものです。

禁止報告

 マジックのために意味のあるデータを得るためには多くのゲームをする必要があります。問題は各マッチには大体50分かかり、ただトーナメントを見ているだけならば週ごとに非常に限られた数のマッチしか参考にできないということです。さらに、我々は人々がどのデッキをプレイしたかを実際に記録しているわけではないので、プロツアー予備予選のデータをかみ砕いて重要なデータをたくさん得ることもできません。我々が見ることができるのは、どのデッキが勝ったか、独立トーナメント・シリーズのトップ8、そしてそれを基準値として人々が何を楽しんでいるか、何が成功しているかです。

 幸運にも、我々は「Magic Online」から多くのとても有用なデータを得ています。リーグとオンデマンド・キュー、プレミア・イベントを通して、我々は勝っているデッキを知ります。何が勝っているかだけでなく、我々はメタゲーム中のデッキの割合や、対戦組み合わせのとても正確な割合を知ることができます。これらのデータ全てを分析することにより、我々はメタゲームがどれぐらい健全かかなりはっきりした見解を得ます。

 まず第一に、探すべき最も明らかなことは、他の主要な全てのデッキに対して有利なデッキがあるかどうかです。一番不利な組み合わせがミラーマッチの場合、禁止される可能性がかなり高くなります。例え現実世界で、そのデッキが多くのトーナメントを勝っていないとしても、これはそのデッキがある時点で乗り越える耐性ができていて、多分我々はすぐに行動を起こさなければならないという明確なサインです。

 また我々はそのフォーマットの残りのデッキを見て、多様性があるようにします。もし使用人口による上位10デッキが全て同じ基本戦略を使っていた場合、我々は恐らく何か禁止するか(そのフォーマットに既に禁止されているカードがあるなら)解禁するかしなければならないでしょう。それらの問題はスタンダードのローテーションによって解決されるということですが、我々はスタンダードで禁止カードを出さないわけではありません。単に我々は10年に1回以上そうしたくないというだけです。

そしてこれら2枚はそんなに大昔のものではありません......

 カードを変更できない紙のカードゲームを作る苦労の1つは、十分な時間があればほとんどのフォーマットはいずれ解明されてしまうということです。これはただ1つのデッキが存在するということではなく、他のデッキよりも優れた3つのデッキが存在して、それらのうち1つを選ばなければならず、その3つはじゃんけんになっているということかもしれません。

 幸運にも、基本的に解明されるまでの時間はフォーマットの寿命よりも長く、そして我々は新しいカードを加えたりローテーションさせたりして解明に対するノイズや時間稼ぎを行います。しかしあるデッキが他の全てよりも強い場合、新セットはカードパワーのインフレなしに物事を変化させることがとても難しくなるかもしれません。

 そのようなわけで、我々は時々ローテーションのないフォーマットで新鮮さを保つために禁止カードを出さなければなりません。同時に、かつてそれ自体が強すぎたカードや、他のカードとの組み合わせで強すぎたカードが新しいカードの発売や新しい戦略の台頭によって安全になり解禁されます。我々が得られる様々なデータにより、我々は可能な限り全てのフォーマットをベストなものにしたいと望んでいます――ほとんどのプレイヤーを満足させ、多様性に富んだ楽しいゲームの体験を提供するものです。

リミテッドを評価する

 1つのセットに取り組むとき、我々は色のバランスを取り、各色のトップコモンを大体同じピック順位になるように十分近いカードパワーにするよう試みます。これについての詳細は今後の記事に譲りますが、要約すると我々は各色のコモントップ3を見て、それら全体で同じぐらいのパワーレベルになるようにします。

 我々はそれらのコモンに人々がリミテッドでのデッキを組む決定をするための妥当なチャンスがあるようにしたいのですが、誰もが同じものを追いかけているわけではありません。また我々は決断が「とりあえず除去を初手に取る」ような単純にならないように、これらのコモンの多様性が十分あるように努めます。

 セットが発売されたとき、プロの間にいくつか選択の不一致が起こることは、我々にとって重要なです。それがない、とそのフォーマットはとても楽しく興味深いものではないのです。同時に、我々は経験の少ない人々が完全に迷ってしまわないように十分な一致もあるようにしたいと考えています。これは狙いをつけるには狭い目標ですが、我々は(全体的には)ここ数年でしっかりと捉えてきたと思います。

 先ほどの構築フォーマットでの例と同じく、我々は将来のフォーマットの決定に影響を与える多くの有用なデータを「Magic Online」から得ています――リミテッドでカードがピックされる機会の平均や、勝っているデッキリストに入っている頻度などです。

 我々が明確に興味を示す部分の1つは、どのカードが人気はあっても勝率が低いか、そしてどのカードが人気がなくても勝率が高いかです。どちらもある程度の量があることは重要です。もし1つのセットでの固まったピックの優先順位が存在し、人々が毎回最も強いことだけを行うならば、我々は多分どこかで間違ったことをしていたのでしょう。

 例として『戦乱のゼンディカー』リミテッドを見てみるみと、我々は緑が弱すぎるというかなり確実なデータを持っています。我々は事例の証拠からそれを知っていましたが、我々は現在緑を最初にピックした場合の勝率の下がり方だけでなく、緑のデッキのほとんどにおいて、最初のコモンのピックが緑でないカードだという事実も目にしてきています――人々が緑を災難のように避けているという確実なサインです。

 このデータを使って『戦乱のゼンディカー』や『ゲートウォッチの誓い』に対して我々ができることは何もないのは明確ですが、我々はこのデータを間違っていたことを解明して、再発を防止し将来のセットを改善するために活用することができます。

意向を探る

 突き詰めると、マジックにおける我々の目標は、マジックを作り手にとってだけでなく、プレイヤーにとっても最強のゲームにすることです。顧客の求めるものを探し出さず、切り離された考えの中で我々の好むことだけに大きく焦点を当てることはとても簡単です。もちろん人々の求めることを全て行うことはできませんし、またそうするべきではありませんが、我々は発売した製品で失敗したことや発売できたかもしれない製品で見落としていたことを見つける方法を求めています。

 『統率者』のような製品は、プレイヤーの統率者戦向けのカードがもっと欲しいという要望と、それを可能な限り最高の方法で実現したいという我々の願望によりもたらされました。ミラディンやラヴニカ、ゼンディカー、そしてイニストラードといった次元に我々が回帰しても驚くべきではないのは、それらの次元に戻ることを人々が常に我々に求めているからです。奈落の中の多くの人々、中でもマーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterは、プレイヤーの要望を聞くことに多くの時間を費やし、それを実現させようと望んでいます。

 カードごとのレベルでは、我々は人々の要望と人々がセットの中で好きなものに耳を傾けます。《タズリ将軍》の存在する大きな理由は、我々が5色同盟者を可能にする統率者を人々が求めていることを知っていたからです。我々がセットに再び取りかかるときには、たとえ人気のあるカードを全て再録できないとしても、それらを楽しくしているものを再現しようとします。我々はその時に100%正しくはできませんが、既存のプレイヤーの満足と新しいプレイヤーの参入しやすさの両方で我々がよい仕事をしているのはその努力によるものだと、私は考えています。

 今週はここまでです。来週は『ゲートウォッチの誓い』のフューチャー・フューチャー・リーグのデッキリストをご紹介します。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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