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Latest Developments -デベロップ最先端-
スタンダードのパワー・レベル
スタンダードのパワー・レベル
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年2月5日
私が人々から聞かれることが最も多い質問の1つは、今現在のスタンダードにないカードは強すぎるのかどうか、というものです。大抵それらは人々のお気に入りのカードか、実際にセットに入っているものよりちょっと効率が良いように見えるカードです。
実のところ、それらの質問に対するほとんどの答えはNOです――しかしその理由は人々の考えるものとは違うかもしれません。
確かに環境とは無関係にスタンダードには強すぎるというカードはありますが、ほとんどの場合問題になっているカードは、スタンダードに存在している他のカードとの相互作用がそれを強すぎるものにしている点を除いては問題ないカードです。再録の問題点の1つは、数字を我々が調整できないところにあります。
例えば、我々は《ヴェールのリリアナ》を『基本セット2015』に入れようとして、彼女がスタンダードで強すぎることを発見しました。すでに黒単デッキがとても強かったからというのも理由ですが、単にそれが優秀すぎたからでもあります。結局のところ、このカードはモダンでもレガシーでも使われているのです。そしてこのカードが最初にスタンダードにあったときに圧倒的ではありませんでしたが、我々は基本的にそのフォーマットで最強だったカードを意図的に再録しようとはしません。それは停滞につながり新しい物事の繁栄の妨げになります。将来のスタンダードで《ヴェールのリリアナ》と同等かそれ以上のカードが出てくるかもしれませんが、それは単に我々がデベロップの段階でそのカードの強さを見誤っていただけなのです。
そしてそれで構わないのです。私はそのようなパワー・レベルの間違いが(やり過ぎない限りは)マジックを楽しくしていると思います。よくある間違いは、しばしばブロックでまったく支援されていなかった戦略で使われる1枚のカードの強さを判断した結果、強すぎるわけではないと誤解し、そしてその後我々がその戦略にとって普通のレベルのセットでカードを印刷するとき、最終的に強すぎるものを作ってしまうというものです。
環境と無関係にスタンダードでは強すぎるカードはたくさん存在します――それらは我々がカードに設定したラインを越えているだけです。あるカードがモダンやレガシーで禁止されていて、それがいくつかの変なコンボのせい(《罰する火》や《弱者の剣》など)でないなら、それはスタンダードで強すぎる可能性が高いカードです。
同時に、モダンのトップ・カードの多くはスタンダードで強すぎる可能性があります。《タルモゴイフ》はスタンダードで強くないというが、プロツアー・バレンシアと 世界選手権2007の両方を勝ったではないかという苦情を私はよく聞きます――それがスタンダードで使える間に開催されたプロ・レベルのトーナメントはこの2つだけです。私は近い将来に《タルモゴイフ》が再録されるとは思いませんが、おかしなことは起こります。つまり、オーストラリアはエミューの群れと戦争して負けています。そのようなことです。
《Force of Will》も似たような立ち位置にあって、多くの人々はそのアドバンテージの喪失が問題にならないような酷いフォーマットでのみ強いと信じています。これは実際には真実ではありません。このようなカードをスタンダードに入れると、タップアウトでプレインズウォーカーを出したときに、マナを使わずにそれを守る手段が保証され、その後アンタップすればさらに守りは堅くなり、脅威的な強さになります。このカードを中心にフォーマット全体が歪んでしまうので、これは我々が積極的にスタンダードに入れたいカードでは全くありません――どんなカードであっても私はそれに見合わないと考えています。気まぐれなバスやスタンダードの方向性に劇的な変化が起こらない限り、近い将来のスタンダードで使えるようにはならないと私は想定しています。
フォーマットを定義するもの
ほとんどの場合、1つのフォーマットはそのもっとも強力なカード群によって定義されています。たとえ単体の最強カードがすぐに分からなくても、これは明確に見えるべきです。「唱える」と「ゲームに勝つ」の関係性が大きい、強くて派手なカードを見るのは簡単ですが、その派手なものを支援するカードを評価するのは困難です。
支援が必要なカードの最たる例が《石鍛冶の神秘家》です。これがスタンダードにいた最初の年のように、《信頼おける山刀》や《バジリスクの首輪》を探してきていたのであれば、これは完璧に大丈夫なカードです。これがもし 剣や《殴打頭蓋》を探してくるようなら問題が起こります。そういうわけで、《石鍛冶の神秘家》はそれを支援するカードが存在する場合にのみフォーマットを定義します。しかしながら剣や《殴打頭蓋》はそれ自身が明らかにとても強力なカードなので、《石鍛冶の神秘家》は最良の例ではありません。補助的なカードが無害であるか、それらが周りに永遠にあり常にそのフォーマットに固定されているように見える場合、簡単にミスが起きてしまいます。
《秘密を掘り下げる者》デッキがスタンダードのトップに立っていたとき、私は多くの人々が《秘密を掘り下げる者》について文句をいい、それを禁止するように言っていたところを見ました――それがそのデッキで実際に問題になっているカードではないということに気づかず。それはしばしばゲームを決め、時々ライブラリー操作なしで2ターン目に変身して腹が立つカードですが、私は《思案》(と程度は劣りますが《ギタクシア派の調査》と《マナ漏出》)が、《秘密を掘り下げる者》をかなり強いカードからそのフォーマットの定義の一部に変えてしまったと考えています。《思案》がローテーションしてドローを整える具体的ないい手段がなくなり、《秘密を掘り下げる者》はレガシーのスーパースターの役割をよそに『イニストラード』・『ラヴニカへの回帰』の年にはすっかり弱くなってしまいました。我々が《思案》を『基本セット2013』に残すか、ライブラリーの一番上を簡単に積み込む別の効果を収録していたなら、その年も同じように昆虫が蔓延していた可能性があります。
したがって、デベロップの明確ではないかもしれない課題とは、できるだけ多くのカードに機能に必要かつ適正で、他の物事が沈黙するほど多すぎない量の支援があるようにすることです。結局のところ、派手で強力なカードは識別しやすいので、大抵は適正なものにするのが簡単なのです。本当の課題は、そのフォーマットが我々の新しいテーマに強すぎずに現すことができる適正な数と種類のサポートするカードを持たせ、それら全てをリミテッドで機能させることです。
最近のスタンダードを見てみると、《包囲サイ》か《ヴリンの神童、ジェイス》のどちらかが環境を定義している要素であるというのは簡単でしょうが、本当はそのどちらでもありません――環境を本当に定義しているのはマナ基盤なのです。『タルキール覇王譚』の多くが支配を続け、そしてとても多くの4色デッキを見かける理由は、我々がフェッチランドと2色土地を使った強力なマナ基盤をスタンダードで実験したからであり、結果的に我々の予想を上回るカード・パワーになりました。
スタンダードでのバトルランドとフェッチランドのマナ基盤を振り返ってみると、フェッチランドと基本土地タイプを持つ土地をスタンダードに入れる見込みは、しばらくの間そして多色に偏ったセットを推していないときにはないでしょう。これは我々が試し、そして最終的にスタンダードの楽しさと多くのプレイヤーにとっての取っつきやすさを損なったものです。これは完全に失敗した実験というわけではありません――このことは我々に良いデータをもたらし、将来のより良いセットにつながるでしょう。スタンダードは依然として多様性があり、そして私はかなり楽しいと思っていますが、私個人としては『イニストラードを覆う影』がやってきて、ローテーションがマナ基盤の変化をもたらし、新しいデッキのチャンスがスタンダードに発生することにワクワクしています。
スタンダードの定番の変化
必ずしも強すぎるというわけではありませんが、様々な理由で我々がスタンダードに求めないカードが存在します。その理由は、しばしば我々が物事をより楽しくしようとするからであったり、それらのカードが新セットが発売されてもスタンダードの変化を少なくしてしまうからだったりします。
『基本セット2014』と『テーロス』のときに、我々は《変わり谷》と《思考囲い》をスタンダードに収録しました。我々はそれらが人気のあるモダンのカードであり、それらをスタンダードに入れてみたいことが分かっていました。私は結局これらのカードはどちらも脅威的に強く(そして広く使われ)、スタンダードの楽しさを損なってしまったと思います。スタンダードにこれらのカードが出回っている場合、クールなことをするのがとても難しくなります。これには人々が強いカードをプレイできる(そして強いカードは大抵楽しいものです)という利点もありますが、予想外の物事や興味深い物事を行うのがとても難しくなるという欠点もあります。
スタンダードの目標は、マジックを単に強いだけの効果とは対照的な新しく独特なもので決着をつけるようにすることで、そして私は《変わり谷》と《思考囲い》のどちらもそれを表す妥当な仕事をしていると思います。良かった点としては、それらは《群れネズミ》をスタンダード2年目のオールスターにした大きな要因であり、その点では評価できるでしょう。
独特な雰囲気のスタンダードを新しく多様性のあるものにするために挑み続けていることとして、我々は時折、このスタンダードの定番に見えるカードを変更しなければなりません。バニラな全体除去である《審判の日》は、それがスタンダードにあることで人々が4マナの全体除去だけをプレイするという深刻な問題を抱えていました。つまり我々は、これを基準としてアグロ・デッキのバランスを調整しなければならず、新しさを感じさせるためにこれに能力をつけることができないということでした。
無条件全体除去を5マナにしたことで、《衰滅》のようなカードを4マナにすることができ、我々の様々なデッキ用の興味深い全体除去を作る能力は大きく改善され、そして人々が今週は《対立の終結》をプレイし、来週は《次元の激高》をプレイするということも可能にしました。
同様に、《エルフの神秘家》がスタンダードから退場したのも強すぎたからではありません、というのは正確ではありません。私は《エルフの神秘家》がスタンダードにあった時、このフォーマット最強の1枚であると言っていました。これは緑のデッキの個性を定義し、それら緑のデッキの多くは1ターン目に《エルフの神秘家》をプレイしたかどうかで強さの定義が違いました。《極楽鳥》のようなカードも同じ問題を抱えていましたが、2ターン目に多色カードをプレイできるかどうかということになるのでもっと深刻でした。
我々は今のところ、スタンダードで1マナのマナ加速を取りやめており、大部分で2マナのマナ・アーティファクトからも離れています。その理由の一部は、それが(我々が実際に意味深い追加事項を2マナのマナ・エルフにつけているので)プレイされるカードの幅を広げると信じているからと、そして強力な緑の2~3マナ域のカードを《エルフの神秘家》に基づいたバランスにしなくてよいからです。
《稲妻の一撃》は強すぎるから落ちたのではありません。《稲妻》は......ええ、そんなことは言いませんが、モダンでもっともプレイされているカードがすぐにスタンダードでヒットしなくても驚かないでください。これはモダンで最もプレイされたカードであり、それはつまり恐らくスタンダードで最もプレイされたカードで、それを中心にメタゲームを歪めてしまうということです。
《稲妻の一撃》はスタンダードに適正なパワー・レベルですが、かなり退屈です。そして我々はいつでも、かなり退屈でありながら多くのデッキに4枚入るカードを取り上げて追加のテキストを加えるたびに、我々は将来のセットで代わりにプレイされるかもしれないカードの可能性を潰しています。スタンダードでのマナ加速の違いをつける実験と同じように、我々は火力呪文の選択肢を多く作り、一方でそれらを全部はデッキに入れられないようにして、最終的にモダンのバーン・デッキに入らないようにする方法を実験する時期にさしかかっています。
スタンダードの経験を提供する
マジックができて23年経ち、我々が新しいカードを作るために全てを改善できるわけではないことを明らかにするべきです。それを可能にする十分なコストがありません。我々が毎年ヴィンテージ級のカードをたくさん作ることは、他のヴィンテージ級カードよりも強くするという敷居が馬鹿馬鹿しいほど高いため不可能かもしれません。
しかし我々は、スタンダード向けに作るカードをコントロールすることができます。そしてそれらを作るに際して、その多くはモダンでも適正なパワー・レベルにあって、そのフォーマットを増大させる助けになるでしょう。そしてそれらのうち一部はレガシーでも使われ、年に2~3枚はヴィンテージにまで達するでしょう。
もし最も強いカードをプレイしたいのであれば、エターナル・フォーマットに太刀打ちできないので、スタンダードではそれに異論を唱えるのは困難です。スタンダードの目的は、新しい経験を可能にし、各セットのテーマとメカニズムを輝かせることです。その意味の一部はつまり、時とともに新しいものを導入できるようにするために聖域を排除し、ある効果の基準だと我々が考えているものを変更することです。
あなたがマジックの『第6版』に取りかかっているところを想像してみてください。あなたはどのカードを再録しないかという議論をしていて、《暗黒の儀式》が話題に上がりました。「ああ、しかし《暗黒の儀式》なしでは黒は弱すぎる!《暗黒の儀式》は黒の定番の大部分を占めていて、これなしでは話にならない」というのは簡単でしょう。
ええ、それ以前のセットではそれは真実だったかもしれませんが、そのカードがひとたびこのフォーマットから取り去られたなら、多くのデザイン空間が切り開かれるようになります。黒の強さの多くは1ターン目の《暗黒の儀式》で3マナ域(もしくは1マナを3つ)を出すことによるものであり、したがって全ての3マナ域は1ターン目に出ることを前提にバランスを取らなければなりません。我々は《暗黒の儀式》を『第6版』で取り除き、黒は最終的に時間をかけて良いものになっていきました――同じように我々は青から《対抗呪文》を、赤から《稲妻》を、白から《剣を鍬に》をスタンダードから取り除き、全ての色でプレイされるカードの幅が広がりました。
これは、我々がこのような種類のカードにこれまで行った変更やこれから行う変更が100%正しいということではありません。我々は内部でたくさんのテストを行い、良いと思うものを見つけ出し、それを世界に向けて発売します。我々は基本的にスタンダードで強力なものを考え出すことができますが、人々の好みを測定することは困難です。我々は時々カード・パワーの評価を誤ったり、プレイスタイルの好みに合わないからと十分に強力なデッキを回避することに気づいたりします。
フューチャー・フューチャー・リーグのデッキリストと、現実世界でのそれらのデッキの使われ方と、それらのデッキの最終的な強さを比較することで、我々は繰り返してカードの評価が高すぎたり低すぎたりした部分を解き明かそうとし、将来のセットでそれらを調整することができます。我々が何かに挑んでそれが最終的に予想よりも強かった場合、その結果を見て、将来それらのようなカードをもっとテストするようにすることで、人々がそれらのカードを楽しむようにすることができます。
今週はここまでです。来週はこれらの項目をさらに掘り下げ、カードセットのバランス調整に情報を与えるために現実世界のデータを使っている方法についてお話しします。
それではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
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