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Latest Developments -デベロップ最先端-
パズルのような環境
パズルのような環境
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" kaoru
2015年10月16日
今回の「Latest Developments」では、我々がどのようにして環境を作り上げているかについてのお話をしようと思います。プロツアーの参加者にとって興味深く、視聴者にとって楽しく、その一方でプロツアーの後にそのフォーマットが解明されないことを保証するような方法で、我々は環境を形作っています。
スタンダードの多様性
プロツアー『マジック・オリジン』を振り返ってみましょう。そのわずか数週間前には、人々はこのフォーマットを《包囲サイ》と《時を越えた探索》が支配していると感じていました。そしてそのどちらの戦略も多くプレイされ、とても人気があったにも関わらず、このプロツアーのトップ2のデッキ、は多くの人々がプロツアー前には意識しなかった赤単と赤青アーティファクトでした。
さらにこのようなトップ8の結果にもかかわらず、最も多くのプロが最高のデッキであると同意したのは――特にトップ8に近かったわけでもないブライアン・キブラー/Brian Kiblerがプレイした緑白アグロでした。そこで、多くのプロが次のグランプリでそのデッキを使うことに決め――最終的にグランプリのひとつで勝利を挙げたのは青赤《スフィンクスの後見》でした。まさに皆の期待通りでした。
私がもし去年のスタンダードの大部分における「ベスト・デッキ」を選ばなければならないとすれば、それは間違いなくアブザンです――しかしそれはカウ・ブレードやジャンド全盛期のように支配的だったということではありません。このデッキは最も人気のあるデッキの1つかもしれませんが、白緑中隊や赤緑信心のような苦手な相手がいました。ベスト・デッキがあったとは思われますが、この環境のメタゲームは解明されませんでした。毎週、イベントごとに新しいデッキが現れ、異なるデッキがイベントで優勝しました。
このように定期的な新しいデッキの出現を伴うメタゲームの激変は、スタンダードを他の主要な構築フォーマットとを分ける中核となるものです。レガシーやモダンも、似たような傾向をそのフォーマットが作られた初期や禁止の後、または非常に影響の大きなセットが発売された後に見せましたが、このような激変はどちらのフォーマットでも標準的なものではありません。
《風への散乱》 アート:Raymond Swanland |
マジックの極意は完璧なメタゲームが存在しないところにあります。モダンやレガシーは非常に多様性のあるメタゲームである一方で、また頻繁にかなり停滞してしまいます。去年トップだったデッキが今のトップであるデッキからかけ離れているとは言えません。
その理由は、基本的にそれらのフォーマットを解明不能に保つほどの意味のある変更を行うカードが(フォーマットの大きさに比べて)十分に増えないからです。目立った変化を起こせる超強力なカードを多く、毎セット印刷することは可能ですが、そうするとスタンダードに大きな反動が発生し、そして人々がローテーションのないフォーマットを好む理由の1つが変わってしまうと私は思います――それは1つのデッキを選んで何週間、何ヶ月、あるいは何年間でもプレイし続けられることです。
バランスを見つけ出す
もし我々がバランスの取れたメタゲームを作ることにしか興味がないなら、3~5個のデッキを他よりもはるかに強力にして、それらだけがメタゲームに存在するようにすることもできます。そのような環境はバランス面ではアドバンテージがあるかもしれませんが、我々が作りたいと望むようなスタンダードの経験ではなく、またファンが楽しめると我々が信じるようなゲームプレイでもありません。
レガシーやモダンのクールな事柄の1つは、非常に広大なカード・プールと禁止カードリストによって、とても多くの種類のデッキが存在できることです。スタンダードのカード・プールはその性質上狭く、そして我々は可能ならばスタンダードで禁止カードを出すことを避けようとします。このような理由で、革新と発見の要素を全て取り除いてしまうことと引き替えに完璧なバランスを取ることは見合わないのです。
同時に、ただフォーマットを多様性があるようにするだけでは実際に有用ではありません。昔のマジックのスタンダードは、多様性があるように見えてしばしばとてもアンバランスでした。低いレベルの競技では機能できる多くのデッキが存在しましたが、トップレベルのプロの競技に行くとプレイヤーが「しなければならないこと」がすぐに明らかになりました。
そのようなわけで、我々はスタンダードのプロツアーを行わないで年月を過ごしました(1996年から2008年の間に2回しか行われていません)。頻繁にスタンダードが壊れ、そのメタゲームでは明らかに1つか2つのデッキだけが中心になっていました。プロツアーとプロツアー予選からスタンダードを隔離したことで、大量のイベント・カバレージと競技の記事がほとんどの人々が地元のお店でプレイしているフォーマットについて触れなくなっていました。スタンダードを第一線に出すことにはいくらかリスクがありますが、私はマジック全体に大きな恩恵があると信じています。
スタンダードのメタゲームがバランスと多様性を兼ね備えたものであることを確かにするために、我々はスタンダードの見方とセットの外から予想されるものが大きく異なる戦略を使いました。各セットがそのブロックのフォーマットをとても強力することで、そのセットと基本セットだけのスタンダードが楽しくなるようにするのではなく、物事をより全体的に平等にしようとしました。
昔を振り返ってみると、ブロックの戦略はそれぞれで全く違い、しばしば互いの戦略が逆を向いていることもありました。つまり、あるブロックが前のブロックより少し弱い場合、『神河物語』で見たように全く変化が起きなくなるということです。
『神河物語』は現在の標準からすればかなり強力なセットです。しかし『ミラディン』のカード・パワーには全く敵わず、『ミラディン』ブロックの戦略に組み入れることもできませんでした。『ミラディン』ブロックを可能な限り強くするようにしたせいで、親和デッキは機能するために他のブロックのカードを全く必要としなかったのです。事態は信じられないほど停滞しました。
我々は現在、『タルキール覇王譚』にフェッチランドを入れたように、新しいブロックのデッキがスタンダードに十分な影響を与えられるようにするための足がかりとなる種を確かに蒔いています。しかし我々はその種を機能させるために新しいブロックのカードだけを頼っているわけではありません。我々はその次のセットに過ぎ去ったカードの代わりを印刷することもできますが、それはブロックの怪物を作ることを防ぐ多くの知識があってこそ可能になっているのです。
《見えざるものの熟達》 アート:Daniel Ljunggren |
パズルを作る
じゃんけんは多様性に富んだゲームではありませんが、とてもバランスが取れています。もしあなたが大きなじゃんけん大会を運営するなら、それぞれの選択の勝率が33%にかなり近いことに気づくでしょう。それは理想的な状況に見えるかもしれませんが、実際そこには楽しさや新しいハプニングはないでしょう。じゃんけんのメタゲームは解明されています。3つのデッキが存在するマジックのメタゲームがお互いにこのような勝率だった場合、とてもつまらないものになります――ランダムな対戦の当たりが何よりも大事になるでしょう。そのような状況下で良いデッキを選択しようとすることはかなり困難です。
そうではなく、我々がマジックにおいて目指しているのは、多様性と、メタゲームを解明するのが非常に困難になるだけの十分な複雑さのある環境です。我々の目標は解明できないメタゲームを作ることではありません。それは基本的に不可能です。そうではなく、我々は特定のメタゲームが存在するよりも、コミュニティがそのメタゲームを解明することに(平均的に)時間がかかる十分な多様性と柔軟さがメタゲームにあるようにしたいと思っています。
したがって、『戦乱のゼンディカー』のスタンダードの場合、プレイヤーがそのフォーマットを解明するのが『ゲートウォッチの誓い』が発売される2月よりも遅くなるのが理想的です。『ゲートウォッチの誓い』はその後十分な新しい多様性を加え、それは『Tears』が発売されて『タルキール覇王譚』と『運命再編』がローテーションするまでパズルであり続けることでしょう。
多様性のあるメタゲームを作り出すために、フューチャー・フューチャー・リーグでは多くの深い取り組みが行われています。FFLのテストでカードを見落としていたことや、実際は弱いデッキを強いと信じていたことについてとても辛辣なコメントを受けることがありますが、重要なのは我々は失敗するということです。我々がセットの最終バージョンに費やせる時間は、世間が費やすよりもはるかに少ないのです。
事実、我々は『戦乱のゼンディカー』だけのスタンダードを最終バージョンの『戦乱のゼンディカー』のカードでプレイしたことがありません。その代わり、『ゲートウォッチの誓い』に取り組んでいるときにその環境が『戦乱のゼンディカー』のどのカードによっても邪魔されないようにするために『戦乱のゼンディカー』の仕上げを行いました。常にカードに変更が行われている中で、実際にどのデッキが最強であるかを定着させることはとても困難です。我々の目標は様々な多様性を持つアーキタイプを可能にし、我々のテストで近いパワーレベルの適正なカードを作り出すことです。
我々はその後それを世界に解き放ち、それらが作り出すものを目にします。大抵それは我々の予想通りになりますが、時々はそうではないものになります。我々はその現実世界のデータを使い、翌年のセットがスタンダードの多様性を保つために必要な手段を持つようにしています。
今週はここまでです。来週は欠色メカニズムと、無色の性質がどのように『戦乱のゼンディカー』でデベロップされたかについてお話しします。
それではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
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