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物語のためのデベロップ
物語のためのデベロップ
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年8月21日
デベロップは数字の調整だけをするグループであると思われがちですが、我々の仕事の多くはデザイン・チームがプレイヤーに与えようとするビジョンの実行を保証することです。我々は数字の大部分を調整しますが、『タルキール覇王譚』のような楔をプレイしたいセットではそれらのテーマが浮き出るように多くのカードの再デザインも行います――楔のカードを適切な強さにするだけではなく、リミテッドでもスタンダードでも、楔の戦略を食い物にするような戦略をなくしました。
クリエイティブは世界と何人かの活躍させたいキャラクターを作り出し、デベロップはそれらを輝けるようにします。『タルキール龍紀伝』の大部分は、クリエイティブの作った龍王とそのキャラクター・デザイン、物語、そしてアートをプレイヤーが全てのレベルで興奮するカードにすることで、その輝きを最大限に発揮するようにすることでした。大多数の龍王とカンが大きなトーナメントのトップ8で見かけられたという事実は、私が思うにデザインとデベロップとクリエイティブがこのセットを特別な雰囲気にし、マジックの物語の流れの中で最高の部分を強調させるためにともに取り組んで大きな役割を果たした良い例です。
伝説の存在とプレインズウォーカーは、それらの正確なパワー、タフネス、能力を表すだけに留まらないアートを持っており、それらは後になってからのデザイン変更に対する柔軟性を可能にしました。これらはデザインからデベロップに引き渡す際に、通常は最も大事ではない部分です。デザインはそのキャラクターを表現し、そして新しく独特な能力を考え出そうとしてできることを行いますが、デベロップはそれらのカードがゲームプレイで彼らの約束を果たすようにします。
《龍王アタルカ》 アート:Karl Kopinski |
伝説に応える
『レジェンド』はかなり素晴らしいセットであり、新しい2つのコンセプト――金色のカードと伝説――をマジックに導入しましたが、それらのデザイン空間をほとんど使うことができませんでした。『レジェンド』の問題点の一部は当時のクリーチャーのパワー・レベルが絶望的に低く、そのセット自体にもサイズの大きいカードは何枚かあったのですが、そのほとんどが全くもって使えるようなものではなかったことです。これは(その後)以下のようなレジェンドというクリーチャー・タイプがあった頃には多くは語られていませんでした。
これらのカードは有名で強力な多元宇宙から来たキャラクターを意図していましたが、実際にはとても弱いカードで意味の分からない能力を持っていました。《Riven Turnbull》のパッケージを見たとき、それは何を訴えてきますか? そのキャラクターを気にしたりしますか? どうしてこれは適当なオークやデーモンにしなかったのでしょうか? 理屈の上では、伝説のクリーチャーは何か思い起こすものがあるはずなのですが、このカードは全くそうではありません。
さて、これでは全く美しくありません。『レジェンド』には《沼地の王ソルカナー》、《Hazezon Tamar》、《ニコル・ボーラス》などの面白いカードもいくつかありましたが、全体としては不満が残るものでした。その問題の一部は濃度にあります。もし『レジェンド』の伝説のクリーチャーがもっと少なく、けれどもそれぞれがエキサイティングであったなら、このセットは《Mana Drain》や《Moat》よりも、それらのレジェンドたちが思い出されるものになっていたかもしれません。
マジックに物語をもっと前面に押し出すことが求められたとき、我々は複数年にわたる『ウェザーライト』サーガを始め、《ゴブリンの太守スクイー》や《熟達の魔術師アーテイ》、《航行長ハナ》などのとても良いレジェンドとともに成功を収めました。同時に、我々は主人公である《ジェラード・キャパシェン》で問答無用の大失敗をしでかしました――彼の叙事詩的な立場に沿うべきであったそのクリーチャーは、そうならずに永遠にクソレア箱に追いやられてしまったのです。そしてこれが伝説のカードを作ることの問題でした。我々は何度も、プレイヤーが物語上のキャラクターをそのカードからなかなか切り離すことができないところを見てきました。強力で楽しい伝説のカードが、プレイヤーがそのキャラクターを本当に関心を持たせる助けになる一方で、退屈で弱いカードはプレイヤーにそっぽを向かれてしまうことが分かりました。我々は将来《ジェラード・キャパシェン》と《イマーラ・タンドリス》により公正な評価をしたいと望んでいます。
《航行長ハナ》 アート:Terese Nielsen |
これは全ての伝説のカードがトップクラスの構築フォーマット向けカードでなければいけないということではありませんが、これらのカードは人々に愛されるものであるべきです。またそのカードは人々がそのキャラクターに合致していてそれを好きになれるように、そのキャラクターを内包したものであるべきです。『マジック・オリジン』を見てみると《牢獄の管理人、ヒクサス》は近い将来のスタンダードを支配するようなものではありません(少なくとも私はそう思いません)が、楽しく興味深いカードです。さらにこれはあなたにダメージを与えたクリーチャーを罰し、そして戦場にいる限りそれらを捕らえておくというトップダウンの看守を実際に表現しています。私はこのカードが彼のキャラクターの定着に貢献し、プレイヤーが彼について考えるときに把握できるものを与えることに役立つと考えています――たとえそのプレイヤーが 「Uncharted Realms」を読んでいなかったとしてもです。
つまりこういうことです。もちろん我々は、より知識を求めたり「Uncharted Realms」や他のものを読んで我々が提供しようとしているものを掘り下げようとするプレイヤーに恩恵があるようにしたいと思っていますが、皆がそうするのではないことは分かっています。多くのプレイヤーが物語の流れをカードだけから掴もうとし、そして開発部はそれらのプレイヤーが十分な経験を得られるようにする義務があります。我々はまた、そのプレイヤーが後から知識を掘り下げようとしたときに、お気に入りの伝説のクリーチャーの、物語とカードでの違いに驚くことがないようにしています。我々はそれらが満足のいく方法で並んでほしいと思っています。
もし《ジェラード・キャパシェン》が1マナ2/2バニラの伝説のクリーチャーとして世に出ていたならば、彼ははるかに多くトーナメント・プレイで見かけられはるかに強いカードになっていたことは保証します――が、しかしそれでは彼のキャラクターがそぎ落とされてしまうでしょう。それは彼のキャラクターを何も伝えず、実際に多くプレイされるところを見かけたとしても、人々は今よりもそのキャラクターに対する理解度が低くなるだろうと私は思います。
出来事の瞬間を把握する
マジックの物語の伝え方を新時代に移行するにあたり、我々はそのキャラクターだけでなく、出来事の瞬間をカードで表そうとしました。我々はセットに目を通すプレイヤーに物語の流れがどんなものであるかを理解してほしいと、そして少なくとも何か大きな収穫があってほしいと思っています。私がウィザーズで働き始めた頃に聞いた面白い話の1つは、マイク・チュリアン/Mike Turianが『インベイジョン』が侵略についてであると学んで驚いたという話でした。彼は物語に時間を注いだ人物ではなく、ドミナリアの人々がファイレクシア人と闘うイメージは彼にとって何の意味もありませんでした。もし『戦乱のゼンディカー』が、物語に興味のないプレイヤーでもゼンディカーでゼンディカーの住人対エルドラージの戦いがおこなわれていると伝わるようにしないなら、我々は失敗したことになると思います。そのプレイヤー層にプレインズウォーカーたちがゼンディカーで何をしたかを知らせなかった場合も、我々はやはり失敗したことになると思います。そして物語上の決定的瞬間をカードの形で把握することは重要なことです。
《精神力》 アート:Keith Parkinson |
個人的には、モダン以前にこれを最も上手くできていたのは《精神力》だと思います。物語に興味のあるプレイヤー達はこの時点で大きな収穫があり、ウェザーライト号がラースから脱出しただけでなく、ウルザがまだ生きていてこの出来事の中心にいたことを表しています。これは少なくとも私にとっては本当にマイクをカードに投げかけているようなものでした。そしてまた重要なのは、このカードが1~2ターンで勝ってしまい禁止を余儀なくされるような強すぎるデッキ全てに入っていたとしても、これがトーナメントで見かける独特で強力なカードであるということです。
『マジック・オリジン』はこのモデルのプレビューのようなものとしての役割を果たし、各キャラクターの物語上重要な場面をカードにしています。5つの物語をこのセットに収める必要があったので、全てが将来の重大な出来事において同じぐらい重要ではありません。『マジック・オリジン』では、我々は物語に興味のないプレイヤーが少なくとも物語の進行の感覚をつかめるように、各キャラクターの物語の重要な部分をカードで表現するようにしたいと考ました。そして彼らが「Uncharted Realms」を読んだり『マジック・デュエルズ・オリジン』のキャンペーンをプレイすることにした場合、カードと矛盾する物事よりもそのカードを補強するような物事を発見するでしょう。進行の例として『マジック・オリジン』のニッサのカードをいくつか見てみましょう。
従来の方法の、物語を伝える方法におけるカードセットの課題の1つは、プレイヤーはどの順番でもカードを見ることができるということです。プレイヤーに《ニッサの天啓》が彼女の灯が点った瞬間であることを分からせるようにするのは困難でした。彼女は後にローウィンに旅をし、ドゥイネンに出会い、目腐り狩りを見て、恐怖に襲われ、その後《大オーロラ》によって変化が始まったときにその次元を離れました。我々ができることは、これら個別の瞬間を表したカードで物語の瞬間をメカニズムに混ぜることを成功させて、もっとそれをやってほしいと思うプレイヤーを残そうとすることです。同時に、物語から入ったプレイヤーは、彼らの見たり読んだりした話の展開が明確で正確な方法で描かれていることから、これらのカードをそのセットを開いたときに見て、とても興奮することになります。
《大オーロラ》 Sam Burly |
我々がマジックの新しい時代に進むにあたって、物語、アート、デザイン、デベロップの間で物事を適正にするために多くの努力がありました。『戦乱のゼンディカー』以降にとってそれが意味するものを見て、私はとても興奮し、そして我々があなたに約束していることについてとても良い仕事をしたと思っています――さらに強く、より統合されたマジックの物語です。皆さんが私と同じぐらいそれを楽しんでもらえればと思います。
今週はここまでです。来週はリミテッドについてと、我々が自分のセットを他とは異なった雰囲気にするために使う手段についてお話しします。
それではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
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