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タルキール回顧録

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タルキール回顧録

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年6月12日


 『モダンマスターズ 2015年版』が出て数週間経ち、そして『マジック・オリジン』が迫ってきています。この時期こそ『タルキール覇王譚』ブロックを振り返り、去年のブロックの全体像を通して、私がどのようにデベロップを信じているかについての考えを皆さんに伝えるのに最適な時間でしょう。我々がこのブロックで行った決定、我々がこれらを改善するために過去から用いたもの、そして我々がこれらから将来のセットを作るために学んだと信じているもの、そうしたものにこそ注目したいという点で、マークのデザイン演説の記事とは少し異なります。


龍王アタルカ》 アート:Karl Kopinski

リミテッド

 『タルキール覇王譚』3つの環境は我々がこれまでに発売した中で最高のドラフト環境の1つであると、私は信じています。『運命再編』1つと『タルキール覇王譚』2つの環境と、『タルキール龍紀伝』2つと『運命再編』1つの環境はどちらも良いものですが、その2つの異なるドラフト環境で変化するセットを作るという目標によって、結局それぞれのフォーマットは我々が好むものよりも洗練度が足りなくなっています。

 それでも、デベロップの視点から、これは大成功であると私は見ています。我々はこの独特なブロックを機能させるというとても難しい仕事を与えられ、『ラヴニカへの回帰』『ギルド門侵犯』『ドラゴンの迷路』で失敗したことを全体としてうまくやったと思います。そして成功した理由の多くは、『ラヴニカへの回帰』『ギルド門侵犯』『ドラゴンの迷路』では気づくのが遅すぎて対処できなかった問題を解決したことによります――特に、我々は『ギルド門侵犯』に意味のある変更をするには遅すぎた時まで(そして『ラヴニカへの回帰』は完全に完了していました)、ブロック全てのセットのドラフトを実際にせず、そのことが「常に『ギルド門侵犯』のギルドが選ばれる」というバランスの悪さにつながりました。この失敗により、我々は『タルキール龍紀伝』・『運命再編』と『運命再編』・『タルキール覇王譚』のドラフトを実際にもっと行うようになりました。『タルキール覇王譚』に変更を加えることができなくても、我々は両方のフォーマットを上手くプレイできるようにしました。最終的に、『タルキール龍紀伝』・『運命再編』フォーマットにより多くの時間をかけたという事実は、『運命再編』の2つの表情を強くすることにつながり、どちらの環境でも正しい場所にあると感じられると思います。

 2ブロック構造により(少なくとも分かっている範囲では)このような経験を試すことは不要になりますが、我々がより複雑なドラフト環境に取り組む場合、それを成功させるための知識を持っている自信があります。


スタンダード

 『タルキール覇王譚』ブロックのスタンダードに対する不満の1つは、ミッドレンジに偏重しているということです。これは真実であり、偶然ではなく『タルキール覇王譚』ブロックのためにデザインが作り上げた目標を達成させるための我々の戦略でした。


龍を操る者》 アート:Chris Rallis

 デベロップはデザインの作り上げる全てのカードを適正なコストに設定する以上の多くのことを行い、デザインの作り上げるパッケージに届けなければなりませんでした。スタンダードでアーティファクトが問題にならないミラディンに行くことや、全ての部族要素がたわごとでしかないローウィンに訪れるのはどんな感じでしょうか。スタンダードはいつも打ち消し呪文や汎用的な2対1交換、火力呪文ができるわけではありません――各セットは新しいものを加える必要があり、それぞれの年は去年と異なる雰囲気でなければなりません。時には、そのフォーマットの独立した環境を作るよりもマジックを長期的な視点で良いものにすることを優先するということです。

 『タルキール覇王譚』ブロックでは、これは3色セット(多色と楔にもかかわらず)から単色セットへ、そして最終的にドラゴンに基づいたセットへ変化し、その間ずっとスタンダードを楽しく興味深いものに保ち続けるということです。これはいくつかの理由からなる課題であり、その中にはこんなものがあります。

  • 楔セットでの課題は、単色や2色よりもマナ基盤が悪いにもかかわらず、実際に3色デッキがプレイされるようにすることです。
  • コントロール・デッキは性質的にミッドレンジに有利ですが、我々は2番目のセットでスタンダードに影響を与え揺るがす必要がありました。2番目のセットでコントロールを大きく強化した場合、我々は『タルキール龍紀伝』で向かう場所がありませんでした。

 もし『タルキール覇王譚』ブロックをある意味やりやすい方法でもう一度作るならば、龍のセットから始め、2番目のセットをアグロ・デッキのセットにし、そして3番目のセットで『運命再編』発売時に現れてコントロールを捕食したアグロ・デッキを捕食する楔のミッドレンジ(とそれをプレイするのに十分な2色土地)を持ってくるでしょう。実際は、我々は2色土地で導き、単色や2色デッキ以外をプレイする理由があることを人々に1年かけて説得する必要がありました。

 とはいえ、デベロップがしばしば最も簡単ではない道をたどることは良いことだと私は思います。スタンダードを機能させることは難しく、リミテッドも同様です。しかし最終的には、マジック開発部の皆が誇りを持てる完成した製品を出していると、私は信じています。

 これを振り返ってみて、私は『基本セット2015』にペインランドを入れたことにとても満足しています。これらがセットに収録されることが決まったのはとても遅かったのですが、私はこれらが2色と3色のミッドレンジ・デッキの相互作用を可能にすることにとても役立ったと思います。概ね3色バージョンのデッキは、そのタイプの2色バージョンに対して強いのですが、ペインランドのダメージがアグレッシブなデッキに対して少し不利にさせています。

 全体的には、私は『タルキール覇王譚』ブロックのスタンダードは大成功だったと思います。このフォーマットは期間全体を通して多様性に富み、主要なデッキのアーキタイプが常に現れ、それら全てが上手く機能した素晴らしい例です。


モダン/レガシー/ヴィンテージ

 我々が把握していた『タルキール覇王譚』ブロックがモダンに与える最大の影響は、友好色のフェッチランドでした。モダンのほとんど全てのデッキが敵対色であることは驚くべきことではなく、そして私はその理由の大部分が、敵対色のデッキが友好色のデッキよりも簡単に基本土地を持ってくることができ、《血染めの月》に対抗できるからだと考えています。


時を越えた探索》 アート:Ryan Yee

 我々は《包囲サイ》がこれほどモダンで使われるとは予想していませんでした。《包囲サイ》はスタンダードでアブザンをプレイする最大の理由になることは分かっていましたが、モダンで同じように定番になるとは保証していませんでした。これは我々がモダンをどのように形作っているかを表す完璧な例の1つです。我々はトップメタのデッキの範囲をかなり広くできるように、最も悪化したカードとデッキを抑圧しようと試み、それらの環境は新しく印刷されたカードが活躍するさらなる機会と、このフォーマットのさらなる進化をもたらすことになります。

 探査はまた別問題です。デベロップがデザインに探査をこのセットに入れようと提案したとき、我々はそれがエキサイティングなメカニズムであり、スゥルタイのフレーバーにピッタリだと思ったのでそうしました。これはスタンダードでのことを考えようとする方法だったので、我々は古いフォーマットに関してそれほど気にしていませんでした。確かに《墓忍び》はレガシーやエクステンデッドでいくらか見かけられましたが、存在してもよいタイプのカードに見えました。スタンダードのためにカードのバランスを取ることにはある種の挑戦が含まれていますが、私は我々がそれらを適正な場所に置くかなりいい仕事をしたと思っています。それらはただ古いフォーマットで強すぎただけなのです。

 誤解のないように言うと、我々は《時を越えた探索》や《宝船の巡航》が古いフォーマットで強いことを見落としていたわけではなく、ただこれらのカードが古いフォーマットをどれだけ歪めてしまうかを少なく見積もってしまっただけなのです。私は古いフォーマットの新鮮さを保つために、時々スタンダードで使えるセットにそれらのフォーマットに影響を与えるカードを入れることは良いことだと信じています。少なくとも私が共感した主な訴えは、モダンとレガシーでの《宝船の巡航》がこれらのフォーマットの優雅さの多くを取り去ってしまったというものです。プレイヤーが自分のカードでゆっくりとカード・アドバンテージを積み上げる有意義な決定を楽しんで、一度にわずかなカードで、そして《渦まく知識》や似たようなカードを最大限に活かせるまで限界まで待っていましたが、《宝船の巡航》は基本的に手札を使い切って墓地を増やし、次の探査呪文を手に入れる競争をするデッキを意味していました。

 これは我々が作った、我々の予想以上に古いフォーマットに影響を与えた最初のカードでもなく、最後になるカードでもありません。結局のところ、個人的にはモダンの健全さと成長にはかなり満足しており、次の年もこのフォーマットが進化し続けることを願っています。


物語と伝説のクリーチャー

 私が『タルキール覇王譚』ブロックで個人的に最も成功したと考えているものを最後に語りたいと思います。

 あらゆるカンと龍王がトップレベルの構築フォーマットのプレイで見かけられ、アナフェンザやアタルカ、オジュタイ、シルムガル、シディシはスタンダードで最も重要なカードの一部です。我々がセットの発売後にウェブサイトで行った解説は、マジックの物語を知る人、そしてそれに関心を抱く人の数を増大させました。


揺るぎないサルカン》 アート:Aleksi Briclot

 これには多くの理由があります。1つめは明らかにクリエイティブ・チームがこの1年の「Uncharted Realms」で本当に素晴らしい進歩を遂げ、物語を見られるようにし、それらを見てみたい人がすぐにそれらを手に取れるという脅威的な仕事を成し遂げたからです。2つめはデベロップがこれらのキャラクターすべてをすごくてエキサイティングなカードにし、人々がそれを愛するようにする大変な努力をしたからです。我々は10の龍王とカン全てを、少なくとも1枚はスタンダードで強力なことをするように狙いをつけたカードになるようにしました。

 プレインズウォーカーを別にすれば、我々は過去に本当に素晴らしい物語のキャラクターのカードを作った大きな実績を持っていませんでした。そのうちのいくつかは、古いレジェンド・ルールが構築フォーマットにとって本当に素晴らしいものではなかったからですが、多くは構築フォーマットで楽しく興味深いカードにしようとすることとは対照的に、クリエイティブの目的を満たしすぎたからです。これらのカードは平均的なカードよりも重要なので、デザイン、デベロップ、そしてクリエイティブはこれらのキャラクターを確定させるために、さらに多くの時間を費やすようになっています。私はこの決断が去年においてよく成果を挙げたと思います。

 ジェラードやカマール、グリッサ、ラーダのようなマジックの物語の重要なキャラクターの何人かは、何もしないカードしか作られませんでした。そして私は、我々がそれらのセットにおいて人々がそのキャラクターで興奮する機会を逃したと考えています。同時に、人々が歴史的にテフェリーやスクイー、カーン、ヴェンセールなどのキャラクターを好む理由の1つは、本質的に面白いだけではなく、それらのカードで人々が興奮し、その伝承をより深く掘り下げたいと思わせる、とても良い仕事を我々がしたからです。

 誤解のないように言うと、これから5年間の全ての伝説のクリーチャーが構築フォーマットでのトップ・カードになるというわけではありません。我々はただそのカードのデザインが十分機能してそのキャラクターで人々が興奮し、それらのカードが誰であるかを実際に表すようにしたいだけです。アヴァシンは確かに『アヴァシンの帰還』で最強のトーナメント・カードではありませんでしたが、我々は何とか彼女が強くなる居場所を見つけ、最終的に彼女はとても人気のあるキャラクターになりました。彼女はその名を冠したセットを得るということでほとんどのキャラクターよりも少しの支援を受けましたが、私はそれだけではないと考えています。

 『マジック・オリジン』、『戦乱のゼンディカー』、その先の展望として、『タルキール覇王譚』ブロックはまさにカードと物語の融合と、マジックの物語の流れ全体の始まりであると言えます。我々は近年よりもはるかに野心的になっていますが、過去数年で学んだことを取り上げ、現実に起こしたいことを作るのが本当に上達しました。私は皆さんがこれからの数週間、『マジック・オリジン』のカードと物語を目にするのを楽しみにしています。

 ではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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