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デベロップ・チームをリードして学んだ教訓・トップ8
デベロップ・チームをリードして学んだ教訓・トップ8
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年12月5日
今週はトップ8特集であり、そして今回私がお話ししたいことは私がデベロップ・チームのリードを務めたことから学んだ教訓についてです。そのチームとは何のセットのものか? 恐らくあなたは今までに聞いたことがないものでしょう。少なくともあなたがこの記事の掲載時に読んでいるなら、知らないものです。いずれは分かることですが、それまでには少し我慢が必要です。これほどの先だったタイムトラベル効果は腹が立ち、皆さんがしばらくは見ることのできない、私が自分の仕事の成果について興奮している時には、特にそうかもしれません。それでも私が話せることは、私がそこから学んだ将来のセットの仕事に専念できる教訓についてであり、もしかしたら、あなたもあなた自身の人生から学ぶことができることかもしれないと思います。
1.優れた過程に勝るものなし
開発部で働き始める人の多くは、その人の学校や社会環境の中で最も優れた存在であることに慣れています。ですが、とても頭のいい人であふれ、しかもその多くの人がマジックのことについて多大な時間を費やして考えている開発部で働き始めたら、恐らくそうではなくなってしまいます。もしあなたが開発部に入ったとして、初日から上手くやれると思っているならば、多分あなたは自分自身をだましているのでしょう。開発部には多くの学ぶべきことがあり、最初の数ヶ月はしゃべるよりも聞くことのほうがずっと多いものなのです。
時とともに明らかになったことは、単に賢い人々でいっぱいの部屋にいるだけでは、我々のすることが全て自動的に機能するわけではないということです。つまり、我々は物事を目測して突然答えを思いつくわけではないということです。これは時には屈辱的なことですが、マジックのセットを作ることで生じる問題はたくさんあり、その答えは簡単ではなく、ただの知恵だけでは大抵解決できません。優れた過程が必要です。
《知性の捧げ物》 アート:Mark Winters |
優れた過程の素晴らしいところは、巨人の肩に立つようになるところです。マジックは過去21年に渡り作られてきており、その間我々は多くのことを学んできました。誰かが何の予備知識もなしに入ってきて成功を収めることも可能なのかもしれませんが、私はそうは思いません。そのセット自体の中だけでなく他の人々の仕事にどのように対処するかという現実、そして多くの連結した役割を考えると、セットを1から作るときに発生する落とし穴を全て知ることはほとんど不可能でしょう。
誰もがマジック開発部に加えることができる最も有用な手段のひとつは、より良いことを行う方法を考え出すことです――そのときの製品を改善するだけではなく、それ以降作られる全ての製品を改善するからです。我々が自身の過程を改善すればするほど、完成した製品はより良いものになります。
2.繰り返せ、繰り返せ、繰り返せ
そしてその過程を完了した場合、何回かそれを繰り返します。優れた過程が定まっていることの素晴らしいところは、我々に製品を繰り返して、絶えず改良する時間を与えてくれるところです。我々はリミテッド環境の基礎を機能させるために何か月も費やすことなく、大抵たった数週でそのフォーマットをかなり合理的なものにすることができます――そうすることで、我々はそのフォーマットを改善し続ける時間を多く取ることができます。このことは我々に(良し悪しはさておき)新しいことに挑戦し、その環境に特徴を与えるために実際に我々が加えうるカードを考え出す、十分な時間を与えてくれます。
マジックのセットを――もしくは何でも実際に何かを――作るということは、最初の草稿では答えを得られないということです。あなたは多分6回目、7回目で正解を得られることになるでしょう。それは常に完璧ではないかもしれませんが、何度も見直すことによって、最終的により良いものになるでしょう。結局のところ、我々はスケジュールに従ってマジックのセットを作っています――我々は将来のかなり先の日付まで、主要なセットの発売予定日として設定しています。我々はその日付を破ることはできず、従ってそれは「締め切り」の瞬間です――しかし、我々は基本的に、手を離れたその時点でのセットに自信を持っています。
3.数字は直感よりも信頼できる
私は自分自身を数学的な人間だとは思いません。実際、全てのデベロッパーについて考えてみると、私は数学や自然科学の経歴がないただ1人の人間です。そういうわけで私が働き始めたとき、この仕事がどれだけ数学によって決まるかを理解するのに時間がかかってしまいました。そして自分の直感がどれだけ私に嘘をつくことになるかも。確かに直感は答えを得る助けになりますが、数字と一致しない場合は当てになりません。
私がかなり初期に学んだ教訓は、数字は嘘をつかないということです。我々がリミテッドのプレイテストを行っているとき、記録しているもののひとつに「各色のカードのプレイされている枚数」があります。我々はそれを合計して表にまとめます。大抵のプレイテスト中には、その事柄が適正だと感じるものです。しかし数字を見てみた場合、それがバランスが取れた状態にほど遠いことに気がつくでしょう。この場合、各個人が小さな視点でだけプレイテスト全体を見ていて、そして単一の青緑デッキが1つの赤緑デッキ、1つの白黒デッキ、1つの黒緑デッキと対戦していた、ということがあります。しかし数字を見てみると、8人中6人が緑をプレイしていて、白を使っていたのが1人だけということがすぐ分かりました――このセットの色のバランスが何かおかしいという明らかなサインです。またある1色をプレイする人数は適正でも、誰もが除去のためにタッチするだけで、実際には赤をメインの色にしている人がいない可能性もあります。この場合も、数字はそれをすぐに我々に教えてくれます。数字の集計が各色を使う人数をすぐに伝えてくれなければ、物事がどのようにおかしいか気づくことなく、個別のプレイテストをたくさんすることになるかもしれません。
前の教訓で書いたように、このことの多くは巨人の肩の上に乗ること、私がまだ始める前からの先人や手順を学ぶことによって成り立っています。
4.全部を一度に修正しようとしてはいけない
我々はセットのデベロップにどれぐらいの時間がかかるかによってスケジュールを設定しています。我々は各セットのデベロップの中で週に1~2回プレイテストをする傾向にあり、全てを完了するのに合計で大体20週前後の時間を持っています。これは長い時間とは言えませんが、物事を理解し実験するのには十二分です。おそらく最も重要なことは、その時間は正しくない事柄を試して正解を得るのに十分な時間であるということです。重要なのは、特に初期のプレイテストは完成したセットを示すものではなく、問題を解決する答えを試すものであるということです。
《強者破り》 アート:Raymond Swanland |
私の場合、しばしば各プレイテストでセットの核心を突いて全てを完璧にしたいという望みがありました。これの問題は、何が起きようとも改良の余地があるものは常に存在するということでした。あるプレイテストから次回までに多くの変更を行いすぎ、そして依然として上手くいかない場合、実際に次に進むためにはどうすれば良いかがはっきりしないでしょう。もしかすると、変更の半分は機能して、もう半分が機能していないのかもしれません。私が妥当な数の変更をした場合、次の会議までにどうすれば前進するかがはっきりするでしょう。もし変更が多すぎるなら、ほぼ確実に、前に進めたところから少し引き返す必要があるでしょう。そうなると結局は、妥当な数の変更を行った場合よりも多くの時間がかかってしまうことになります。
変更の数を制限することで、何が改善されて何がそうでないかを伝えることが簡単になります。間違っていると思われる事柄を会議に持って行くことはかなり恐ろしいかもしれません。しかしながら私は、過程を信じることが重要で、落ち着いて継続的なペースで改善を行うことは、常に大きく変更を行って全てが正解であることを望むよりも基本的に良いと知りました。
5.最初に間違った方法を試せ
これは変に見えるかもしれませんが、繰り返しという思想と関係しています。問題に取り組んでいるとき、多くの場合は2つの選択肢があります。片方は75%ぐらいの確率で機能し、もう片方は25%ぐらいの確率で機能します。最も確率の高いものを最初に試すことの問題点は、大抵それが機能することが分かるものの、もう片方がより良く機能するかどうかが分からないことです。常に安全で確率の高い選択肢を選ぶことも可能ですが、そうすると多くの興味深い事柄が残されることになり、リスクのより高いものを試してそれがもっと良いものかどうかを知ることはできないでしょう。
さて、間違った方法を試すことは1~2回のプレイテストの失敗につながるので、全てのプレイテストでそうすることはできません。しかし我々には、基本的に1回のプレイテストが時々失敗するリスクを負うぐらいの時間は十分にあります。もっと大きなリスクとは、我々があらゆるリスクを避けて常に安全策を取ることです。もし我々がそうしていたなら、この20年間で最も人気のあったメカニズムやカードは存在していなかったでしょう。
6.変更は素敵で......そして恐ろしい
初めてデベロップ・チームで仕事をして以来最も私の心を震わせたものは、セットがデベロップ初日から最後の日までに行うことのできる変更の多さでした。いくつかの理由で、私はデベロップの仕事のほとんどはデザインからカードを渡されて、何枚かのカードのコストを調整し、プレイテストをして、また何枚かのコストを調整することだと想像していました。それはほぼ違いました。デベロップの過程で、デザイン・ファイル中の大量のカードが削除されたり大きな変更が加えられたりすることはざらにありました。
デベロップの目的は、個別の構成要素の多くを変更しつつ、そのセットの魂を無傷で維持することです。我々はデザインがセットの構造上重要であると考えるカードを維持しようとしますが、過剰に神聖視することもしません。そうでないと、我々はセットを可能な限り最良のものにすることができないでしょう。
機能している物事に追加をするのはとても簡単です。大抵、初期のプレイテストで最良の部分は、1ヶ月を経て最終的に最悪のものになります――これは絶えず改善される事柄の美点です。このことはしばしば予期せぬ方向へと進み、時にはそのセットを阻害しているものが1ヶ月前には好まれていたものであることが明らかになって、会議が気まずいものになります。
突き詰めると、人々が楽しんでプレイするクオリティの高いセットを作り出すための目標は、プレイテストのときにすごい回答を考え出してどれだけ賢いかを見せることではありません。我々がきっちり仕事をこなした場合、プレイヤーにはデベロップの過程がどれだけスムーズか、もしくは不安定かは全く分からないでしょう。オリジナルのファイルがどんな感じであるかについての考えも全く持たないでしょう。その代わりに、プレイヤーたちは理想的な完成した製品を手にします。
7.反対意見に耳を傾けよ
これは私にとって最も学ぶのが難しい教訓でした。前のほうで書いた繰り返しが実際に成果を上げ始めるまで、セットのデベロップ初期はかなり不安定なものになるかもしれません。物事がいったん機能し始めたなら、楽しい時間を過ごしたという人の言うことを聞いて、そうではない誰かの言うことを聞かないのは簡単かもしれません。なぜなら批判的であり続けるよりも、出来上がったものが良かったということを聞くほうがすぐに満足できるからです。
《苦しめる声》 アート:Volkan Baga |
これは、人々が何かを楽しんでいないという場合は基本的に間違いがないということです。誰かを座らせて、「他の人はこれが好きって言ってるからお前は間違ってる」と伝えることはできません。我々のプレイテストに来てプレイをする人たちは、それぞれプレイヤーのある部分を表現しています。そしてテストプレイヤーの誰かが楽しめなかった場合は、現実世界で誰かが同じ経験をする可能性がかなり高いということです。これは、その1人を楽しませるために全体の経験を総点検しなければならないということではありません。しかし大抵の場合、何が機能しなかったかを見つけ、何か他にそのプレイヤーが満足するようなものをそのセットに加えようとすることは可能です。
結局のところ、我々は各セットをできるだけ広い客層のために作ろうと努力しますが、常に全ての人を喜ばせることは不可能だということを分かっています。ここ数年で最も受け入れられたセットから判断すると、少なくとも過去10年の中で最も好きだという投稿をした人を見つけるのは私には簡単です。また私が特に優れていないと思っているセットと、そしてそれをお気に入りだという人を見つけるのも簡単です。人の好みはそれぞれで、全てを解決する確実な答えというものは存在しません。しかし我々が開発部の中で協力して、誰もが何か楽しめるものがあるように働けば働くほど、皆さんはますます我々のセットを全体的に楽しめるようになると思っています。
8.マジックのセットを作るのは本当に難しい
「Making Magic」と「Latest Developments」の両コラムで10年以上に渡り、マジックのセットを作ることの多くの要素について書いてきたのは言うまでもありません。我々は世界最高のゲームだと信じているものを作っていますが、それはマジックが本質的に楽しいということではありません――それには、マジックのセットを楽しくする要素をもたらす多くの働きが必要です。それが難しくないことならば、我々はデザイン・ファイルに取り組むときにたくさんのメカニズムを検討しようとはしないでしょう。そしてリミテッドでの色のバランスが基本的に取れているところにたどり着くために数ヶ月を費やし、プレイヤーが2回、3回、もしくは30回目のドラフトでも十分発見があるようにする必要もないでしょう。
自分が作り出したものに執着するのはとても簡単で、そして我々はマジックのセットの先行デザインから実際のブースターパックに至るまでの間に多くのものを作り、何度も何度もカードやメカニズムを作ってはそれが失敗するのを見ることは相当苛立たしいことかもしれません。すぐにボツになってしまうこともあります。またあるときは、上手くできたように見えるカードが、最後の瞬間に殺されてスタンダードでバランスを取るための合理的な何かに置き換えられることもあります。世の中そんなものです。大事なのは、開発部で働く人は皆マジックのことを深く気にかけているということです。そして1人1人が、例え自分が作ったものが日の目を見ないことになったとしても、マジック全体にとって最も良いものを望んでいます。私は我々が自分が作ったもの全てを脳から直接ブースターに送りたいと思っていますが、そんなことは選択肢にありません。
同時に、セットの欠点を長所にする方法を評価するのではなく、全てのバランスを取ることに集中しすぎるのもよくやってしまうことです。誰でもマジックの好きなものの優先順位や、そうでないものに対する許容範囲はそれぞれ異なります。完璧なマジックのセットは存在せず、そしてこれからも現れることはありえないというのは事実です。我々が行おうとすることは、最新のセットでプレイヤーを苛立たせるものを見つけ出し、そしてそれを長所に変えることです。『タルキール覇王譚』を例に取り上げてみましょう――プレイヤーは色事故を好まない傾向にあり、そしてこのセットは平均的なセットよりも高い確率でそれが起こりえます。我々が行ったことは、色事故を防ぐために2色デッキを使うこともでき、もしくは2色土地を使うことで5色全てをプレイすることができる手段を作ることでした。
来年のセットは金色のセットではないでしょう。人々は色事故を起こすことが少なくなり、そしてあるプレイヤーが興奮して、他の誰かが苛立つ何か他のものがあるでしょう。そして我々はそれを前面に押し出し、そのセットのセールスポイントにするでしょう。これは毎年(もしくはもうすぐ、ブロックごとに)、物事は他のセットより楽しくないと感じる誰かを犠牲にしながら、異なる雰囲気になるということです。
内部的には、我々は可能な限りで最良なバージョンのセットを作ることについて議論していますが、それぞれセットの要素に対する許容範囲が違うので、かなりの議論を巻き起こすかもしれないということを意味しています。我々は皆セットを作り出すために一緒に取り組んでいますが、個々のセットのリーダーは自分のセットのためのビジョンを持っており、ゴール・ポストをどこにするかについて難しい決断を下しているのです。
ではまた来週お会いしましょう。
サムより (@samstod)
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