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エンチャント・テーマを作ること
エンチャント・テーマを作ること
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年5月2日
セットの完成形はデザインとデベロップのメンバーの共同作品です――デザインの仕事はビジョンを示すことで、そしてデベロップの仕事はそれを可能な限り最も楽しいプレイ経験ができるようにすることです。カードのパワー・レベルはデザインの範疇外のことなので、デザインはそれをあまり気にしないようにします。デザインが目指すものは楽しく芳醇な素晴らしいカードを作ることであり、それがどれぐらい強力であるかは関係ないのです。デベロップの仕事はカードにとって適正なパワーレベルを解明することであり、プレイヤーが関心を抱き続けるようにそのセットに新しい事柄が十分に入るようにします。
《アジャニの存在》 アート:Raymond Swanland |
しかしながら、我々の仕事はこれだけではありません――我々はまた、競技マジックにそのセット独特のテーマや雰囲気が反映されるように試みており、従って毎年のマジックの風景はその前の年とは違ったものになります。もちろん、開発部のそのセットについての考え方と、プレイヤーたちのそのセットについての考えは必ずしも同じになるわけではないでしょう。代表例は最初の「エンチャント」ブロックである『ウルザズ・サーガ』ブロックです。『ウルザズ・サーガ』ブロックに159枚ものエンチャント・カードが収録されていたことをご存知でしょうか? これは『テーロス』ブロックよりも多い数です。エンチャントにまつわるカードが大量にあったにもかかわらず、このブロックのアーティファクトが人々がこのブロックをアーティファクトのブロックだと考え得る方向へと導いてしまいました。
ですが、これは本当に間違いと言うわけではないのは、そのブロックのカード・パワーの存在する場所のせいです――それはアーティファクトとそれに関連するカードであり、そしてエンチャントはそうではありませんでした。ええ、《補充》や《オパール色の輝き》、そして《ヨーグモスの取り引き》のようなカードもありますが、ほとんどのプレイヤーが『ウルザズ・サーガ』ブロックについて考えたとき、彼らは《トレイリアのアカデミー》、《マスティコア》、《記憶の壺》、《ゴブリンの溶接工》、そして《修繕》のことを思い浮かべるでしょう。トーナメントのメタゲームはヴィンテージからブロック構築に至るまで、このセットのアーティファクトによって全て定義されてしまいました。その部分がこのセットへの注目のほとんどを引きつけ、そしてデザインが完遂しようとした多くのテーマから注目を奪ってしまったのです。
我々が再びエンチャントを取り上げたブロックを作ろうとした場合、エンチャントを前面に押し出そうとすることになるのは分かっていました――しかしそれはまた、いくつかの注意点を示し、我々をマジックの過去の怪物たちについての議論をすることに導きました。
親和から学んだこと
我々がカード・タイプをテーマにしたセットについて話すときは、いつも親和が話題に上ります。その目的は我々が何をするかに関わらず、もう二度とスタンダードで親和のようなデッキを出さないことです。ご存知ない方のために説明すると、親和は旧『ミラディン』ブロックのアーティファクト・土地、《電結の荒廃者》、《頭蓋囲い》、《大霊堂の信奉者》、やいくつもの他のアーティファクトが入ったデッキです。それは強力すぎて我々が禁止するまでに、スタンダードとブロック構築の両方で環境の他のデッキにメインから4枚から6枚のアーティファクト除去呪文が入ってもまだそのデッキを止めることができませんでした。いくつかの鍵となるカードが禁止されるまで、これは1年以上スタンダード最強デッキの座に君臨し続けました。さらに驚くべきことは、このデッキはスタンダードの他のブロックからほとんど得るものが無かったことです――これはつまり『神河物語』が発売したときにこのデッキのパーツが何もローテーションしなかったということです。「マジックやらかしちゃったこと」リストを作るとき、親和デッキはかなり上位にランクインする、我々が再び繰り返さないようにとても注意している過ちです。
「ブロックの怪物」はデベロップがとても気にしている事柄です。その考え方は1つのブロックに極めて集中しているテーマがあり、そのテーマでスタンダードでも十分強いデッキを作った場合、その後スタンダードがローテーションしてもそのブロック構築のデッキはスタンダード内のどのデッキよりもはるかに強くなるだろうということです。『神河物語』がスタンダードにローテーションしてきたとき、多くのプレイヤーはそのセットを無視して親和をプレイし続けました。何故でしょうか? 親和だけが引き続き存在した唯一のデッキだったわけではありませんが、『神河物語』がメタゲームにもたらしたどのデッキよりも強かったからです。これは親和と対戦するのに辟易していたプレイヤーにとっては残念なお知らせでした。もしあなたが『神河物語』のクールな、そして全てのカードが好きだったとしても......それらを実際にプレイすることはなく、去年のカードをプレイしていたはずです。我々は過去のものと相性の良いカードを求めており、あなたのカードがそのスタンダードで使える期間全体で有用であるようにしたいのですが、ゲームの健全さのためにはある種の浮き沈みが必要です。我々は単純に毎年出すブロックを去年よりも強くすることだってできますが、それでは実際に長い期間持ちこたえることはできません。
浮き沈みが起こるのを助けるために、我々は将来のセットのテーマのために、そのセットが発売された時に最も効果的になるカードをその前のブロックと基本セットに仕込んでいます。これは我々にいくつかのカードをローテーションさせる能力を与えてくれて、もし強すぎるデッキがあっても、少なくとも何らかの変化が起こります。『ミラディンの傷跡』の前年に出た《鋼の監視者》を思い出して見て下さい。一部のとても鋭いマジックのプレイヤーたちは、『ラヴニカへの回帰』や『基本セット2014』のエンチャント・サブテーマに気づいて、『テーロス』がエンチャントのブロックであると正しく推測しました。我々は『テーロス』でエンチャントがどのように使われるかを知る前に、《天上の鎧》、《安全の領域》、《古樹の誓い》のような、『ラヴニカへの回帰』がスタンダード落ちしたときにいくらか弱体化する、強力なエンチャントを必要とするデッキを作るようにする目的のカードを巧く作りました。これらの全てがエンチャント・デッキで使われるわけではありませんが、我々にブロックを作る足がかりを与えてくれました。
今、エンチャント・テーマを作ること
『ウルザズ・サーガ』ブロックの問題がエンチャント以外に強力なカードがあったことならば、我々は『テーロス』に取り組むときにエンチャントがトーナメントで勝つデッキの中で大きな割合を占めるようにするには、少なくとも最強のカードを何枚かエンチャントにしなければならないことを分かっていました。
神々とその武器が現在のデザインになったころには、我々はプレイヤーたちのデッキに入る強力で魅力的なカードを作るという点ではかなり良い出発点にあると分かっていました。これは必ずしもプレイヤーが『ミラディンの傷跡』の金属術や《鍛えられた鋼》デッキのようなアーティファクトに利益をもたらすデッキや、『オンスロート』の部族デッキと同じように全てがエンチャントのデッキをプレイするということではありません――その代わり、これは『イニストラード』の《瞬唱の魔道士》とフラッシュバック・カードの入った墓地活用デッキが《思考掃き》で自分のライブラリーを削ったり《信仰無き物あさり》でカードを捨てた後にそれらを唱えられる方法に似ています。私はこれでいいと思っています――全ての戦略が「デッキに全部のカードを詰め込むと上手くいく」べきではなく、マジックを長期に渡って変化させ続けるためにはある程度の多様性が必要です。
ブロックの進行に伴い我々が狙ったのは、デッキに入るクリーチャー・エンチャントを拡大し、エンチャントである単体で素晴らしいカード――例えば《クルフィックスの狩猟者》――を作り、そして授与クリーチャーがスタンダードで使われるようにすることでした。我々が行った『テーロス』のプレイテストでは、《加護のサテュロス》や《夜の咆哮獣》はもっとスタンダードで見かけるのにふさわしいパワー・レベルだと感じました。『神々の軍勢』には《悪意に満ちた蘇りし者》や《責め苦の伝令》のようなクリーチャーがいくつか収録されていました。『ニクスへの旅』では《モーギスの悪意》、《惑乱のセイレーン》、《節くれの傷皮持ち》が加わりました。我々の計画はこれらのクリーチャー・エンチャントの、少なくともいくつかがそれ自体の強さによってプレイされるところまで近づき、そして『ニクスへの旅』で星座を使おうとするプレイヤーが使わない人とは違う種類のカードを使ってデッキを作れる十分な報酬――《開花の幻霊》のような――を収録するというものでした。
このブロックでデベロップするのが最も難しい部分の1つは、デザインがエンチャントの数をブロックの進行とともに増やし、そして第3セットに大きな見返りを持って星座が登場する、というビジョンを持っていることでした。それはつまり、『テーロス』がセットとして完成するまで我々は星座を本格的にテストできないということであり、結果的に『テーロス』のカードのいくつかで、星座がやりたいことのほとんどをできるようにするために少し自重することになりました。
私には星座デッキがどれぐらいいるか、いたとしてもプロツアー『ニクスへの旅』のトップ8に残るか、またスタンダードに新風を巻き起こすかどうかは分かりませんが、このデッキはかなりいいところまで行くと信じています。我々はここに綱渡りで行き着いたようなものですが、この出来映えには満足していますし、結果を見るのを楽しみにしています。私は『ニクスへの旅』が発売されるとともにエンチャント・デッキが輝き続けるのを見ることになると思いますが、それらは来年のスタンダードの健全さを害するような圧倒的なものにはならないでしょう。
ではまた来週お会いしましょう。
サム(@samstod)より
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