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Mファイル・『テーロス』編

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Mファイル・『テーロス』編

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama /TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年11月8日


 今回の記事から、サムがマルチバース・ファイルを探索するこのシリーズは「Mファイル」と装いを新たにお送りします。あなたがこのシリーズのファンならこのMファイルの画像が現れるのを楽しみに待っていてください!

―― DailyMTGの編集者、マイク・マカトール/Mike McArtor

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 マルチバースへの回帰の時間がまたまたやってまいりました! 熱心な読者の皆さんは、マルチバースがマジックのカードを既に印刷されたものも、デザインの初期のものも、その間の全てものも記録するために使う社内のデータベースであるとご存知でしょう。デザイナーとデベロッパーの使命の1つは時折マルチバースのカードを訪れること、そしてコメントを残していくことです。1年前のファイルを振り返ることは、デザインとデベロップの過程についての洞察と、そしていくらかの笑いを提供してくれます。あなたはこの記事でそのどちらも見ることができるでしょう。

 それではまず演者の紹介です。

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DH―デイブ・ハンフリー/Dave Humphreys
マジックのデベロップ・マネージャー。

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EEF―イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
マジックのデザイナーにしてギリシャ神話の専門家。

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EVL―エリック・ラウアー/Erik Lauer
『テーロス』のリード・デベロッパー。

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ID―イアン・デューク/Ian Duke
マジックのデベロッパー。

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KD―ケリー・ディグズ/Kelly Digges
『テーロス』のリード・エディター。

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KEN―ケン・ネーグル/Ken Nagle
マジックのデザイナー。

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Max―マックス・マッコール/Max McCall
マジックのデジタル・デベロッパー。

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MJG―マーク・グローバス/Mark Globus
マジックの上級プロデューサー。

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MJ―モンス・ジョンソン/Mons Johnson
デュエルマスターズ/kaijudoのデベロッパーでマジックのテストプレイヤー。

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MR―マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater
『テーロス』のリード・デザイナー。

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SM―ショーン・メイン/Shawn Main
マジックのデザイナー。

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SPS―サム・ストッダード/Sam Stoddard
わ・た・し・で・す。

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SW―スティーブ・ワーナー/Steve Warner
デュエルマスターズ/Kaijudoとマジックのテストプレイヤー。

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TML―トム・ラピル/Tom LaPille
マジックのデベロッパー。

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ZH―ザック・ヒル/Zac Hill
マジックの元デベロッパー、今はマジックの語り手。


 紹介はこれぐらいにして、ファイルを見てみましょう。


未知の岸

EVL 6/18: 5色土地です。

EVL 9/14: 《進化する未開地》の代わりです。

SPS 9/21: いい変更だと思います。色を散らすのは決断が必要で、基本的に自由にできませんから。

TML 10/15/2012: 《ゆらめく岩屋》の同型再版に差し替え。

SPS 11/1/12: わぁい、同型再版。

 このカードは最初は《進化する未開地》で、それは機能していましたが『テーロス』は金色のカードが少し多く、そして授与クリーチャーの多くが色マナを1つしか必要とせず、結果として色のタッチが多発しました。『ラヴニカへの回帰』ブロックだけなら2色に向かおうとする方が良かったでしょう。このカードの枠は《堆石堤》から始まって、最終的に今日あなたが見ることのできる《ゆらめく岩屋》の同型再版へとたどり着きました。

 大事なことは我々がプレイヤーがリミテッド、特にシールドで色を散らすことを望んでいないのではなく、単に見合ったデメリットが含まれるようにしただけだということです。理想的には色を散らすことは不正解ですが、特定の状況においては正解になりえます。


DH 10/11: これがここにあるのはいいね。こういうのをプレイするのは嫌だったんだが皆が作ってくるから考え直してる。

EVL 11/21: タフネスを増加。

DH 11/26: 同じセットの《森の女人像》にちょっと似すぎているな。1/1として見るより他に何か違った機能があったほうがいい。

EVL 11/26: OK、1/2にしましょう。

SPS 11/29: 角にいい使い道ができましたな。

 これは最初は0/1で弱そうに見えたために多くの(多分そのほとんどは不当な)怒りを買いました。これはリミテッドで役に立つのですが、多くのプレイヤーはこれを使うべき時にも使いませんでした。これを少し強化すると、プレイヤー達は怪物や重い授与がたくさんある時にこれをデッキに入れ始めました。


魔女の目

EVL 8/29: 『Romans』より拝借。ケン、申し訳ない!

KEN 8/29/2012: 目がああああぁ(⊃゚ Д)⊃≡ ゚

 時々デベロップが進むにつれて、我々は好ましくないカードを見つけそれを削る必要が出てきます。その穴を埋める最も簡単な方法の1つは、同じブロックの後のセットに使えるカードがないかを見ることです。今回の場合は、ケンの『神々の軍勢』のファイルから失敬してきました。すいません、ケン、しかし幸いにもこの目玉はとても役に立ちました!


EVL 8/3: 赤青占術デッキ用です。

SPS 8/30: いいですな。

SM 8/30: 面白い。ケンの目玉が役に立って嬉しいね。

 我々は2色のペアにリミテッドで何か「動き」を作ろうします。赤青は呪文をテーマにした組み合わせで、占術にも焦点を当てています。我々はこれを行うとき、異なる色のペアを行うプレイヤーに報いる方法として、その「動き」をしないと大抵強くないが、そうできた場合には強力になるようなアンコモンを作ります。例えば《定命の者の宿敵》は黒緑用です。《魔女の目》が『テーロス』に移ってきたことは、この赤青デッキの《炎語りの達人》にもう1つの素晴らしい誘発手段を与えました。


DH 7/20: すごい怪物っぽい感じがする。

TML 7/20/2012: このカードを守るとき、実際に守りきったらすげえ英雄的に感じるよ。

 ハルク・スマッシュ!


 (これは当時2/7でした)

ZH 7/20: あのスプレッドシートに書き込め! ;)

Max 8/30: このカードは緑らしくない。黒か白みたいだ。

EVL 9/3: 3/7なら緑らしい?

Max 9/6: イエス! :)

 エリック・ラウアーは過去数年間で1から6の各組み合わせのバニラ・クリーチャーを作ろうと企んでいました。彼は『ラヴニカへの回帰』の《地下墓地のナメクジ》でそれを成し遂げましたが、彼はさらに1から7への組み合わせを作ろうと進んでいきました。


 ここからは長くイカれた《霧裂きのハイドラ》の歴史をお送りします。

EEF 8/17/11: 新しいカードです。

 このカードは最初{2}{R}{R}の12/12で、「12個以上のパーマネントをコントロールしていないと攻撃できない」を持っている、ヘラクレスを意識したカードでした。クリエイティブは『テーロス』最大のクリーチャーが人間であることに不満で、そしてこれは{2}{G}{G}のこのテキストを持ったハイドラになりました。

ID 8/30: これは好きになれないな、これがうまく使おうとしてイライラする経験をしそうだ。

DH 9/4: 緑のマナ加速や格闘、あるいはトークンと相性が良さそうだな。

Mago 9/11: 緑のレアと神話レアの両方が{2}{G}{G}のハイドラなのは変な感じだな。

MJ 9/13: これで殴ろうとせずに《ボーラスの信奉者》をプレイしたほうが良さそうだ......

TML 10/15/2012: {3}{G}のジョニー向けカードに変更。

EVL 12/6: コントロール対策の新しいデザインへ。

 このカードはFFLであった《太陽の勇者、エルズペス》入り青白コントロールだけでなく、現実世界の《スフィンクスの啓示》デッキに対して有利に戦える何かに変更され、そして《拘留の宝球》で殺せないクリーチャーが作られました。

〈十二頭のハイドラ/Twelve-Headed Hydra〉
{3}{G}{G}
トランプル
あなたは[カード名]を墓地か追放領域から唱えてもよい。対戦相手がカードを引くたび、+1/+1カウンターを[カード名]の上に置く。
5/5

MJ 12/14: 私の意見ではこれはテストしてみて強すぎるように思う。4/4ならOKかな。

EVL 12/18: いくつかテキストを削除。その代わりプロテクション(青)と打ち消されないように変更。

EVL 12/31: 新しいテキストに変更。

 これは我々が「プロテクション(色)」のサイクルを作っている間の時で、そしてそれはこのカードに我々が求めるものを変更しました。

 このカードはその後こう変更されました。

霧裂きのハイドラ
{X}{G}
速攻、プロテクション(青)
[カード名]は、+1/+1カウンターがX個置かれた状態で戦場に出る。
対戦相手の手札が5枚以上ある場合、あなたは[カード名]をあなたの墓地から唱えても良い。
0/0

MR 1/03/13: このカードからは優雅さを感じない。デベロップのやらんとするところは分かるがもう少しフランケンシュタインのようなつぎはぎ感を減らせるのではないかね。

 見た目の奇妙さに加えて、このハイドラを墓地から唱えられることは「戦場に出たとき」の誘発が{G}だけでできるという問題がありました。これはいただけません。

EVL 1/10: 新しいテキストに変更。


霧裂きのハイドラ
{X}{G}
トランプル、速攻、プロテクション(青)
[カード名]は打ち消されない。
[カード名]は、+1/+1カウンターがX個置かれた状態で戦場に出る。
[カード名]の上から+1/+1カウンターを2個取り除く:[カード名]を再生する。
0/0

Sw 1/14:これは普通のカードよりちょっと能力をつけすぎてる気がします。{X}{G}{G}にするか速攻を無くすのがいいかなと。青相手以外には壊れてるとは思いませんが、ちょっとやりすぎですね。

EVL 1/15: 再生を削除。

Max 1/23: 来年の青いデッキに対しても強力だと不満を抱くことになりそうだね。

KD 1/28: トランプルを削除して、小さいクリーチャーにはブロックされないように変更。

 トランプルと速攻がついているとこのカードは緑のデッキの多くでメインに入る十分な強さになり、そしてそれは我々が考えるこのカードの居場所ではありませんでした。我々はこれを、環境が青に傾いていればメインデッキにも入るにせよ、基本的にはサイドボード用のカードにしたいと考えていたので、トランプルを削除しました。我々はその時まだ緑のデッキの《太陽の勇者、エルズペス》に対する答えに困っていたので、このカードは次のように変化しました。

霧裂きのハイドラ
{X}{G}
速攻、プロテクション(青)
[カード名]は打ち消されない。
[カード名]は、+1/+1カウンターがX個置かれた状態で戦場に出る。
[カード名]はパワーが1以下のクリーチャーによってはブロックされない。
0/0

KD 3/28: エリックより、パワー1以下のクリーチャーにブロックされない擬似トランプルを削除とのこと。

 デベロップも大詰めのとき、《狩猟の神、ナイレア》の能力が変更されて他の全てのクリーチャーにトランプルを与えるようになりました。これはまさしく緑のデッキのエルズペスに対する回答を与える変更であり、これによって我々は《霧裂きのハイドラ》の最後の極めて不恰好な一文を削除でき、より理にかなった場所に落ち着きました。


ID 12/10: これはサイクルの他のカードに比べて余りに残念な子すぎるね。呪禁とかブロックしたクリーチャーが次に起きないとか、なんかボーナスつけるべきじゃない?

EVL 12/12: 素晴らしいアイデアですね。

KD 3/18: テンプレート更新。 《Joven's Ferrets》の能力をつけてブロック前でも後でもこれを唱えれば固めることができる。

 エディターが『Homelands』にテンプレートを見つけに行くことはそうそうありません。《Joven's Ferrets》は我々が必要とした一文を提供してくれましたが、なぜ《Joven》がフェレットを好きなのかは永遠の謎です。


EVL 9/7: 《ロッテスのトロール》対策に再生できないように変更。

KEN 9/10/2012: 《ロッテスのトロール》はとっととデカくなるかでなきゃ家に帰れ!

MJG 9/11/12: これは赤の2枚目の再生対策だね。多すぎやしないか。

TML 10/29/2012: 再生対策をやめて追放に変更。

ID 11/12: 《復活の声》対策として効果的なのはいいね。赤と白の全体除去にいい対比ができている。

 我々はいつでも赤の強力な全体除去を作っているわけではありませんが、赤にミッドレンジの選択肢を与えてビートダウンだけしか能のない色からの脱却を試みました。《紅蓮の達人チャンドラ》は赤のアグロ・デッキの最高のカードとして、もしくはミッドレンジのカード供給係として既に活躍していました。また我々は信心が雪だるま式に加速する危険なメカニズムであることは認識していたので、複数の色に全体除去があるようにしてスタンダードに進化の余地を残しました。《神々の憤怒》はそれらの問題を解決する正しい位置に存在しています。


EVL 9/21: 対象を取って英雄的を誘発するというような誤解を避ける新しい能力に変更。

EVL 11/21: 双頭巨人戦向けにテンプレート変更!

EVL 1/2: 誘発コストをタダに!

ID 1/8/13: 誘発をタダにする問題点は、ブロックが確定してから誘発を忘れていると巻き戻せないことだね。自分がそうなってイライラするのが目に見えるようだよ。

EVL 1/9: イアン、良いところに気がつきましたね。試してみる価値はあると思います。

TML 2/6/2013: 私は今の誘発のほうがいいな。これとパワーかタフネスが上昇することは同じであるべきだと思うし、タフネスが上がる能力は何であってもターン終了時までにしないと突然死んでしまうことが起きる。

KD 2/7: 攻撃時の誘発型能力なので誘発型能力にします。あと双頭巨人戦向けに「あなたのコントロールする」を削除。

 元々のバージョンのこのカードは攻撃したときに対象の人間1体に飛行を与えるものでした。

 我々が『テーロス』の初期に得た意見の1つは、テストプレイヤー達が誘発型能力が英雄的を誘発しないか時々分からなくなったと言うものでした。我々はそのような英雄的の機能をちょっと試してみましたが、《護民官のサーベル》ようなカードを《迷宮の勇者》に装備するとマシンガンになることを考えるとそれは不可能で、このセットには既にいくつかの装備品が存在していました。

 代わりに我々が行ったことは、少なくとも低いレアリティでは自分自身のコントロールするクリーチャーを対象とする能力を持つクリーチャーを取り除くことでした。依然として何枚かは残っていますが、それらのほとんどは自分のクリーチャーを対象に取ることができたほうが良かったのでそのままにされました。我々はまた誘発しないバージョンも試し、それはいくつかルール上の利点もありましたが、それが戦闘時に殺されるとある巨大な破裂が起こり、我々は代わりに現行のバージョンを選択しました。


EEF 5/24/12: {5}{R}2/3→{2}{R}3/1に変更。コモンからアンコモンへ。

EVL 11/21: コストとタフネスを増加。

DH 11/26: これを4/2にはできないかな? 私はアンコモンなのにこいつが《アスフォデルの灰色商人》に完全に勝っているとは思わない。

EVL 11/26: OK、クリエイティブが賛成するなら4/2にしましょう。

 信心は調整の難しいメカニズムで、我々は信心を持つカードの多くが予想以上に強いことにすぐに気付きました。《モーギスの狂信者》の場合は、その強さのほとんどが《炎樹族の使者》、《灰の盲信者》、そして《ボロスの反攻者》によるものでした。これを4マナにすることは1、2、3マナとクリーチャーを展開して対戦相手の4ターン目にライフが8点(もしくはそれより少ない)にすることができなくなったことを意味しています。マナ・コストが上がったことで対戦相手は《モーギスの狂信者》が出てくる前に何とかするチャンスが増えました。


 というわけで今回のMファイルはこれまで。

 ではまた来週お会いしましょう。

 サムより。 (@samstod)

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