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カードパワーのインフレに対処する
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カードパワーのインフレに対処する
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年8月9日
マジックは今年二十歳になり、そして我々はこれまでに13,000枚を超えるカードを印刷してきました。その中には明らかに他よりも優るものがいくつかあり、それらはゲーム内のバランス取りの性質に起因するものです。先週、私は我々がどのようにカードパワーを定義しているか、そしてそれがカードのセット内での位置付けにどう関係しているかをお話ししました。今週はカードパワーのインフレ、もしくはカードが時間を経てどんどん強くなっていることについて議論したいと思います。
《不気味な人形》 アート:Matt Stewart |
私はしばしば急激なカードパワーのインフレについて、メールを受け取ることやフォーラムのコメントを読むことがあります。その原因は、ときに我々の印刷したカードが、以前に存在したカードの完全上位互換であるからです。あるいは、我々が強力なカードを印刷するたびにカードパワーのインフレだと判断する方もいます。ある意味ではそれは正解です。しかし、我々はわざわざ好んで全てのセットの古いカードを時代遅れにするわけではなく、むしろ可能な限りそうする回数を減らそうと努めてきました。しかしながら、その問題を全て避けることは実に筋が通らないので、我々はそうすることを選びません。我々は年に4つのセットに入れるカードを作らねばならず、今までに印刷されたカードを全部並べてそれより強いバージョンのカードを作らないようにするよりも、構築とリミテッドのバランス取りのような他の仕事に労力を費やしたほうが良いでしょう。これはまた、そのフォーマットの状況に基づいてカードの中身を変更することによって、我々が自由に問題を解決できることと、他の13,000枚ぐらいのカードにどのような影響を与えるかを心配しなくて良いことを意味しています。
我々は以前のカードと一緒にプレイできるエキスパンションを発売しているため、ある程度カードパワーのインフレは避けられません。多くのゲーム、とりわけMMORPGでは、コンテンツの拡張といえばレベルの上限引き上げとより強力なアイテムの導入のことです。その拡張の大部分は「高さ」の拡張で、プレイヤーのキャラとアイテムはより強力になっていきます。追加の能力、階層の追加、新たなエリアなどの新要素もありますが、それらは新しくより強力なアイテムの入れ物です。これらの利点はプレイヤーに新たなコンテンツを体験するべき理由を伝えるのが簡単なこと(さらなる力をこの手に!)で、そして欠点は数日、もしかしたら何週間もかけて手に入れようとしたそのアイテムがより強力なアイテムによってすぐに型落ちになってしまうことです。
《墓所を歩くもの》 アート:Scott Chou |
一方、マジックの拡張は「広さ」の拡張です。これは皆さんに、新しく以前とは違う動きをするものを、以前のカードと同じカードパワーのレベルで提供することに焦点を当てています。レガシーのようなフォーマットを見てみると、各エキスパンションのカードがトーナメントでプレイされているのを見ることができるでしょう。10年前に好きだったデッキ? それらのうちいくつかはトップメタではないとは言え、まだレガシーでプレイできるチャンスがそれなりにあります。もちろん、いくつかのカードは他のカードよりも長く時の試練に持ちこたえてきましたが、我々は過去20年間のマジックの関連した全ての年代のカードを維持することに関して全体的に良い仕事ができたと、私は信じています。
インフレの源
構築ではルールによって同じカードを4枚しかデッキに入れられないので、同型再版は明らかにインフレを起こします。我々が《稲妻》を違う名前で印刷したなら、そこから突然デッキは稲妻を8枚積めるようになりその量はとんでもないものになるでしょうが、第2の《柳のエルフ》を印刷しても同じような影響はおよぼさないでしょう。同様に、一部のデッキは少しだけ弱いバージョンのほぼ同じカードを印刷することによって爆発的に強くなりえます。さらに、モダンやレガシーのバーンデッキを見てみると、他の3点を与える1マナのソーサリー呪文もインフレをしているとみなされます。このインフレを止める現実的な方法は、新たなこの種の火力呪文を印刷するのを止めるしかないでしょう。
我々はしばしば、エキサイティングなカードとして同じマナコスト、パワー、タフネスのクリーチャーを印刷します。これは状況によって各カードの能力のどちらが強いかが変化するためです。多くの人々が「カードパワーのインフレ」という言葉で表すこれは、どれが最初に印刷されたかに関わらず、実際にカードパワーのインフレでしょう。他の原因としては、我々が以前は構築フォーマットでプレイされるのに十分な強さではなかったものの、その欠点を調整しようと決定し、欠点を今回は理解したカードを作るということがあります。最後に、ときに我々は適正なパワーレベルのカードを印刷したと思っていてもいくつかの可能性を見逃しており、そしてそのカードは我々の予測よりも強くなってしまうことがあります。これらの可能性はマジックの持つ無限の拡張性と同じように、このゲームをとても深いものにしている事柄の1つです。このマジックのカード間の相互作用の複雑さは、このゲームに取り組む我々がこれらのカードを発売したときに、そのカードについての全てが分からないように十分な難しさが必要です。もし我々が全てを分かっていたなら、このゲームは現在のような深さはなかったでしょう。
マジックには多くのフォーマットがあり、相互作用への依存が極めて高いため、カードパワーのインフレは相対的です。《ネクロポーテンス》は多くの相互作用を必要とせず特定のフォーマットで最強の1枚かもしれませんが、《死儀礼のシャーマン》は相互作用をが欠かせません。これが必要とするものはフェッチランド、《忌まわしい回収》の類です。我々はこれらのカードが真価を発揮するためにどのような相互作用を必要としているかに基づいて、異なるフォーマットで異なるパワーレベルになるようカードを作ることができるのです。もしそうしなければ、我々が発売する各セットは絶えず新しいカードをヴィンテージに供給するにはひどく不十分で、新しいカードの強さを徹底的に上げるか、古いカードをどんどん禁止していくしかないでしょう。
インフレの原点
マジック20年の歴史の中で最強のセットは『アルファ版』(ええ、《Volcanic Island》と《黒の防御円》がないので厳密には『ベータ版』ですね......)このセットの禁止制限カードの枚数は断トツで、我々が現在の基準から見て「間違い」と定義しているカードをまとめた最大のリストの1つです。あなたはどれぐらいのカードパワーのインフレがこのゲームに存在できるか質問するかもしれません。バランスの観点から、現在の厳密な基準に最初のセットを当てはめるのはフェアとは言えないでしょう。『アルファ版』以前にはマジックそのものが存在しなかったことを考えると、全体的なパワーレベルはかなり良いものだったと言えます。
デュアルランド10種全て
《Ancestral Recall》
《動く死体》
《ハルマゲドン》
《ミシュラのアンク》
《天秤》
《Berserk》
《Black Lotus》
《黒の万力》
《青霊破》
《チャネル》
《黒の防御円》
《青の防御円》
《緑の防御円》
《赤の防御円》
《白の防御円》
《Chaos Orb》
《支配魔法》
《変換》
《対抗呪文》
《暗黒の儀式》
《死の掌握》
《Demonic Tutor》
《Fastbond》
《野火》
《憂鬱》
《因果応報》
《生の躍動》
《魔力の櫃》
《精神錯乱》
《Mox Emerald》
《Mox Jet》
《Mox Pearl》
《Mox Ruby》
《Mox Sapphire》
《魔力消沈》
《Regrowth》
《赤霊破》
《Sinkhole》
《Sol Ring》
《剣を鍬に》
《Time Vault》
《Time Walk》
《Timetwister》
《津波》
《Wheel of Fortune》
《冬の宝珠》
《Word of Command》
マジックは最初に作られたときからかなり改善されましたが、クリーチャーと呪文の相対的なパワーはそうではありませんでした。『アルファ版』を見て多くの呪文が強すぎるのは簡単に分かりますが、それは過程に少し不慣れだったからであり、またクリーチャーの相対的カードパワーは正しいものだったと思います。『アルファ版』を見ると、パワーレベルが原因で我々が再録しないクリーチャーの数はゼロです。バンドを持った《ベナリアの勇士》のような変り種や、カラー・パイから外れているので再録しないクリーチャーはいますが、それらのカードのパワーレベルのせいではありません。右のリストにあるのは我々が現在のスタンダードで使用可能なセットに印刷するには強すぎると判断したカードです。
そしてこのリストにはアンティ関連のカードや《Illusionary Mask》、《Cyclopean Tomb》、《Camouflage》のような挙動がおかしすぎて印刷できないカードは含まれていません。《Word of Command》や《赤霊破》、《青霊破》は《Sol Ring》や《Ancestral Recall》や《Black Lotus》などよりも大分ましなものですが、それらのカードを我々が今作ることはないでしょう。これらのうちいくつかは今でもレガシーや統率者戦で使用可能ですが、「マジックとは何であるか」はこれまでの20年で変化しました。かつて強力だった呪文と弱かったクリーチャーを、我々は徐々に同じぐらいの強さになるよう近づけており、スタンダードには《復活の声》や《ボロスの反攻者》、《静穏の天使》のようなクリーチャーがいる一方で、《スフィンクスの啓示》や《遥か見》、《忌むべき者のかがり火》のような呪文が存在します。
初期に何人かのデザイナーとデベロッパー達が『アルファ版』のパワーレベルで作ろうと年月を費やしたとき、そのセットのクリーチャーと呪文のカードパワーの不均衡が問題を引き起こしました。重ねて言いますが、このゲームは新しく、ほとんど未知の領域にあり、彼らが「{R}で4点のダメージを与えるインスタント」や「{2}{U}{U}で追加の2ターンを得るソーサリー」を印刷しない方向に向かったことを私は嬉しく思っています。また、除去のカードパワーの上限を《剣を鍬に》にしている一方でクリーチャーのカードパワーの上限を《セラの天使》にしている場合、問題が生じます。このリストのカードの多くは「調整された」バージョンのカードが印刷されましたが、それらは極度にカードパワーを下げられてもなお、そのフォーマットのどのクリーチャーよりも強力でした。《渦まく知識》は《Ancestral Recall》よりも劇的に弱くなりましたが、それでもまだ『アルファ版』のどのクリーチャーよりも、そして恐らく現在のスタンダードのほとんどのクリーチャーよりも強力です。
インフレを操作する
ある程度のインフレがマジック全体として避けられない場合、それをどうやって完全に食い止めるかではなく、恒久的にマジックの好調を維持するためにどうやってそれを管理するかが問題です。初期の数年で行われた中で最も重要なことは、間違いなくスタンダード・フォーマットが作られたことでした。それ以前のトーナメントにはローテーションががなく、このゲームの最初の年は《Library of Alexandria》、《露天鉱床》、《Mishra's Workshop》、《Moat》、《The Abyss》、《Mana Drain》などが既に印刷されていました。これらのカードに張り合おうとする更なる試みはこのゲームは滅ぼし、例え生き残ったとしても我々を現在とは似ても似つかないようなゲームへと導いたでしょう。常に違う方向へカードを推す試みは、前の年に印刷されたカードに近いパワーレベルのカードが印刷される場合にだけ機能します。1ターン目の《Library of Alexandria》に対抗できなかったり、《Black Lotus》と作用しなくてはならないようでは、そのセットの最新のカードがどれだけ興味深くても話にならないでしょう。何かが、このゲーム全体の健全さのために行われなければなりませんでした。
《忍び寄る腐食》 アート:Ryan Pancoast |
マジックには最近のカードだけを使用する、ローテーションの行われるフォーマットの概念が導入されました。これは我々に、多くの昔のカードの、よりふさわしいパワーレベルに「調整された」バージョンを印刷し、我々に過去の過ちを正すことを可能にしました。もちろん、これら調整されたバージョンのカードの多くは、なおも我々が現在実際に印刷しているものよりも高いパワーレベルにありましたが、それは適正な方向へ向かう一歩でした。バランスのとれた楽しいマジックのカードを作るのは確かに難しい仕事であり、デザインとデベロップがその本領を発揮するまでに数年かかりました。スタンダードはこのゲームを常に改善し続け、常に過去の遺物に囚われないようにすることを可能にしました。
我々は各セットの中で数枚のカードをレガシーやヴィンテージを狙ったものにすることができますが、このゲームの全てのカードをそれらのフォーマットに向けたものにするのは現実的ではありません。プレイヤーがそれらのフォーマットの競技に必須でないカードの使い道を持っているという事実は、より多くの楽しく興味深いカードの余地が存在することを意味しています。スタンダードでは、我々は《動く死体》や《再活性》と競う必要がない、《忌まわしい回収》や《堀葬の儀式》を使ったデッキを使うことができます。このデッキがスタンダードの中で最も強力なデッキでありうる理由は、そのデッキのカードがスタンダード環境の中で競技レベルにあるからで、今までに印刷された全てのカードに対抗できるからではありません。これらがスタンダードを離れるときも、モダンはレガシーよりもカードのパワーがスタンダードに(全体的に)近いので、依然としてモダンでも有用性を見つけられるでしょう。
適正なバランスを見つけ出す
我々がここ数年で試みていることは、マジックを全体的に、少なくともスタンダードを考慮して同じパワーレベルにすることです。これにより、1つのセットや1つのブロックがスタンダードにある他のセットよりも(例えば『ミラディン』ブロックと『神河物語』ブロック期の『ミラディン』ブロックや、『ローウィン』ブロックと『アラーラの断片』ブロック期の『ローウィン』ブロックのように)突出せず、また単純により多くのデッキが存在し以前の時代よりもはるかに多様性のある環境が作り出されました。もちろん我々はいくつかのカードで「強すぎ」たり「強さが十分でない」方向に向かうこともありますが、パワーレベルを安定させることによって、このフォーマットはそのようなカードの被害をそれほど受けないでしょう。
《忍び寄るタール坑》 アート:Jason Felix |
我々がスタンダードで予想以上に強力なカードを作るミスをしたとき、しばしばそのカードはインフレの結果のように見えますが、そのうちのいくつかは、それがこのゲームで最も強力なカードだからではなく、スタンダードの中で他のカードと比較して強力だからです。例えば《スラーグ牙》はスタンダードで我々が意図していたよりも強力ですが、私はこれがマジックの歴史の中でも最強の1枚だとは思いません。もし私が《スラーグ牙》か《台所の嫌がらせ屋》のどちらかを加えてスタンダードのデッキを作るなら、ほとんど全ての状況で《台所の嫌がらせ屋》を使うだろうと思います。《台所の嫌がらせ屋》は現在の《スラーグ牙》の立ち位置と同じではないかもしれませんが、これはカードのメタゲームの中での相対的な強さが増加する明確な証拠ではありません。クリーチャーは以前よりもはるかにスタンダードのメタゲームの大きな部分を占めており、そしてモダンのメタゲームも拡張していますが、私はそれを悪いことばかりではないと思っています。我々の考えではこのバランスは現在、かなり正確なところに近づいています。我々は時間を経てもこれを変更したくないというわけではなく、何が強いかが激しく揺れ動くことで、マジックは興味深いものに保たれます。
未来に立ち向かう
我々は過去20年間のインフレからマジックを維持することについてはかなり良い仕事をしたと考えていますが、我々の目標はマジックを我々が機械の体を手に入れでもしない限りその誰よりも長生きさせること、ひいてはマジックを超音速の宇宙旅行時代のデュエルの到来を告げるぐらい長生きさせることです。いずれにせよ、我々はマジックをカードパワーの根本的な増加をさせることなく楽しく、興味深く、そして新しくし続けるために取り組み、物事を未来に開いておくことが求められます。未来においてマジックの複雑さが増していくリスクと同じように、カードパワーのインフレはこのゲームを期せずして傷つけます。このゲームをエキサイティングなものに保つためにパックに入れる新しいカードのパワーを増加させる必要がある場合、その後我々は速やかに過去のカードを時代遅れにして、将来の物事を推すためのさらなる要求を作り出すでしょう。開発の義務の1つは、セットのカードパワーの拡散により起こる事態を防ぎ、何が強力であるかを絶えず変更してそのカードパワーがコントロール不能にならないようにし、未来へ向かう余地を残すことです。
我々は毎年違った雰囲気のスタンダードを作るように努力し、絶えず新しい方向にそのフォーマットの方向を変えることに焦点を当てています。我々がブロック内でのシナジーを用意する理由は、新しいカードを入れ替わる2年前のカードより単純に強くしなくてもプレイされる良い立ち位置を確保できるからです。『イニストラード』を見てみると、最強の相互作用のうちいくつかは墓地関連で、『ラヴニカへの回帰』ブロックの最強のカードのほとんどは金色です。来年のブロックはエンチャントに関係しているので、最強のカードはエンチャントかそれに関係したカードでしょう。しかしそれについて話せるのはもう少し先で、『テーロス』について話し始めることができるときに、それがどのように組み立てられたかをお話しします。
ではまた来週お会いしましょう。
サムより
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