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プレインズウォーカーのための『霊気走破』案内 その2
2024年12月11日
ギラプール・グランプリが近づいています。『霊気走破』は多元宇宙的大波乱に満ちたレース、成功を狙うチャンスです。「プレインズウォーカーのための『霊気走破』案内」は、このセットの次元やキャラクターや歴史についての解説記事です(その1はこちら)。来年早々、2025年1月13日に開始する『霊気走破』の物語とともに、ここでレースが始まります。メインストーリーと同時にオーディオブックもThe Magic Story Podcastにて配信されますので、好きな媒体でハイオクタン価のアクションを楽しむことができます。
『霊気走破』は2025年2月14日発売、現在予約受付中です! プレイ・ブースター、コレクター・ブースター、統率者デッキなどをお近くのゲーム店、Amazonなどのオンライン小売店、その他マジック:ザ・ギャザリングの製品を扱う販売店で予約注文できます。
『霊気走破』では、第2回多次元間ギラプール・グランプリの3つの開催次元であるアヴィシュカー、アモンケット、ムラガンダでの出来事を追いかける。セットの焦点はレースとそれに参加する10のチームだが、開催次元にもスポットライトを当てよう。
そのためこの項目では、アヴィシュカー、アモンケット、ムラガンダの現状について触れる。
アヴィシュカー
アート:Titus Lunter |
《森》
アヴィシュカー、かつてのカラデシュは隆盛期にあり、実現した民衆革命の旗印の下に人々は団結している。新たな次元政府であるアヴィシュカー議会は、この次元の11の行政地区から民主的に選出された代表者集団だ。彼らの最初の行動は象徴的なものだった――次元の名称を変更することで、領事府以前の君主制時代、初期の領事府、そして霊気紛争後の新領事府の修辞的な重圧を脱ぎ捨てたのである。各地区からの民衆の動員に支えられ、現在はアヴィシュカー議会によって統治されているアヴィシュカーは、再建と多元宇宙の主導権の掌握を目指している。
ファイレクシアの侵略と藍革命
改革された領事府だったが、存続できたのはその革命と侵略の間の空白期間だけだった。かの「霊気紛争」では人気はあるもののイデオロギー的には乱雑なグループが――改革派が――暴君的な大領事を打倒し、領事府の名はそのままに改革志向のシステムへと置き換えた。この改革された新領事府は、公平性を目指して旧領事府の政策、法律、慣行の多くを改定しようとした。アヴィシュカーの民は当初この変化を歓迎したが、時間の経過とともに新政府に不満を募らせていった。新領事府は、現状にわずかな変更を加える能力や意欲しか持たなかったためである。アヴィシュカーのほとんどの人々の生活は、改革派が約束したようには変化しなかった。保守派と進歩派の両方が新たな世論喚起活動を開始し、アヴィシュカー内のさまざまな集団が不満をくすぶらせるようになった。だが形のある政治的対立が表面化するよりも早く、エリシュ・ノーンの指揮のもとに新ファイレクシアが多元宇宙への侵略を開始した。
ファイレクシアの侵略はアヴィシュカーを打ち負かすことはできなかったが、領事府の背骨を折った。領事府は差し迫る大惨害の警告を繰り返し受けていたものの、それを無視していた。そのためアヴィシュカーは後手に回ってしまったのである。設立以来妥協的な政府であったこの実質的に変わらない領事府は、侵略の後に崩壊した。領事府による次元の防衛は、霊気紛争後の政府の状態をまざまざと見せつけた――足枷となった立法と司法、紛争後の未処理業務を背負う自治体システム、保守派の反抗的な残党、今なお居座る旧領事府の人員、そして霊気分配政策という分野を超えた次元統治に対する改革派たちの自由放任主義的アプローチは、すべて領事府が次元防衛を組織できない要因であった。都市や地区レベルの相互組合、犯罪組織、そしてより過激な革命家たちがその空白に踏み込んで混乱を収拾し、ファイレクシア人へと反撃した。侵略が終わると、勝者たちは以前の状態に戻ることを受け入れなかった。彼らは一致団結して領事府に退陣を要求し、生き残った人員はそれに従った。
これが藍革命である。新領事府の急進派メンバー、新進文化党のもとに集ったギラプール中の遊撃革命家、そして様々な労働者、農民、学生団体によって組織された、ほぼ無血の革命的な権力移譲だった。彼らの不満は多かったものの、ふたつの大きな点について意見が一致した。ひとつは新領事府がファイレクシアの侵略への備えと対処に失敗したこと。これはアヴィシュカーのほぼ全住民に影響を与えた自明の失敗である。もうひとつはアヴィシュカー中の霊気の分配に関するもの。これは旧領事府の統治下で実施され、新領事府によっても十分に変更されなかったシステムである。
アート:Florian de Gesincourt |
旧領事府の統治下においてアヴィシュカーの労働者階級は、段階的な霊気割当量や賃金帯や厳格な流通規制のシステムのもとで働いていた。霊気は無限の自由エネルギーであるため、理論上このシステムは水平社会を保証するはずであった。だが実際には、霊気の精製と分配は領事府の人為的ボトルネックとなり、また領事府による霊気産業の直接的な規制は政治的権力者の帳簿の水増しに役立った。エネルギーが自由かつ豊富に分配されるのではなく、アヴィシュカーは人為的な欠乏条件下で苦しんでいたのである。貧しい人々は、侵略以前のアヴィシュカーを支配していた経済システムによって貧しくなっていたという事実。このシステムは霊気紛争と領事府の改革後も存続した。不名誉な大領事と旧領事府を単に否定した後も、同じ役人や官僚や領事の多くがそのまま残っていた。このことは改革志向と進歩主義を唱える領事たちの抗議と不満を煽った。その筆頭は、かつての改革派の人気ある指導者ピア・ナラーだった。
藍革命は革命家たちを連想させる藍色にちなんで名づけられた。その動きはファイレクシアの侵略に続く混乱に乗じてギラプールとアヴィシュカーの市民防衛隊を結集し、旧政府を一掃し、アヴィシュカーの11地区から選出された議員による議会が取って代わった。次元政府の全面的な刷新(およびそれに続く次元の改名)は、多元宇宙の画期的な発見と領事府制度の大失敗があったからこそ可能となったものだった。歴史はアヴィシュカーの人々に主導権を与え、彼らはそれを受け入れた。生き残った者たちは領事府を一掃し、アヴィシュカー議会を設立した。新政権は代表制の原則を堅持しており、新領事府の生き残りが地区の代表として選出されることさえ認めている。にもかかわらず、アヴィシュカーの新政府はほぼ完全に新議員によって構成されている。目の前にある課題は膨大だが、当面は進歩の名のもとに根本的な変化を起こすという民衆の支持を得ている。
アヴィシュカー議会
アヴィシュカーの新たな指導部は、ファイレクシア侵略後の多元宇宙においてふたつの使命を帯びて活動している――ひとつは侵略からの復興、もうひとつはアヴィシュカーを多元宇宙の覇権次元として確立し、同盟と非軍事的ソフトパワーの防衛によって多元宇宙の危険から次元を守ることである。旧領事府の辛辣な重荷を下ろし、次元の新たな名をさらに確固たるものにするために、新政府は自らをアヴィシュカー議会、または単に議会と呼んでいる。
アート:Leon Tukker |
ファイレクシアの侵略後においてアヴィシュカーは、その政府が多元宇宙の他の次元との関係における自らの構想を発展させ、その構想を次元内および次元間の政策に導入し始めた数少ない次元のひとつである。アヴィシュカーの政治と経済に関する構想がどのようなものであれ、アヴィシュカー議会の革命家たちは、多元宇宙の生物と次元が新たな自分たちの世界に及ぼす脅威について無知ではない。領界路は、かつては悪夢に過ぎなかった脅威を現実のものにするのである。移動経路を統制し、接続された次元に前哨基地と在外公館を設立し、自分たちの次元の境界を越えた多元宇宙の知識を発展させることにより、アヴィシュカーを次元外で知られる勢力として確立することを議会は目指している。
この奮闘の中で、アヴィシュカーはラヴニカを最大のライバルと認識するようになった。他にもドミナリアやゼンディカーなど次元はあるものの、それらは強大な勢力を複数抱えながらも次元全体を統括する体制を持っていない。アヴィシュカー議会はラヴニカとそのギルド、そしてそのリーダーであるニヴ=ミゼットを(今のところは)敵ではなく、多元宇宙という舞台で自分たちの力に匹敵する唯一の次元とみなしている。そのために議会は外交的・文化的に策略を巡らせ、多元宇宙の他の次元にとって最も魅力的な覇権次元としての地位を確立しようとしている。アヴィシュカーの資金、交易品、贅沢品、文化的な輸出品が使節団や特使や著名人、民間企業によって多元宇宙の様々な次元に流れ込み、その見返りとして貿易や外交の協力者たちがギラプールや他の特別経済区に招かれている。
アート:Izzy |
この進行中の文化的外交キャンペーンに続いて、アヴィシュカー議会はこの新たな多元宇宙の権力ゲームで最初の勝利を収めた。多元宇宙の様々な次元において、アヴィシュカーの霊気精製および測定基準と並行して、領界路を分類するアヴィシュカー標準システムの採用が増えている。これはギラプール・グランプリの解説者、レーサー、ファンが使用する用語から広まったものだ。GGPはファンや参加者にとっては名誉あるスポーツイベントかもしれないが、アヴィシュカーの新政府にとってはそれ以上のものだ。GGPは、誰がより優れた機体を作ってレースできるかを競うコンテストではなく、誰が多元宇宙の方向性を指揮できるか、また指揮すべきかを競うコンテストなのである。
領界路の分類
公式のアヴィシュカー式領界路分類システムは、領界路を3つの認識可能なカテゴリにまとめるための単純かつ口語的なシステムである。産業または学術用途の技術的な分類システムではなく、多元宇宙全体の人々が一般的に使用する簡易参照システムとして意図されている。
「恒常的領界路」は、ファイレクシアの侵略をきっかけに開かれ、まだ閉じられていない安定した領界路である。恒常的領界路は周期的領界路に、あるいは非恒常的領界路に格下げされることもある。ギラプール・グランプリで使用される主要な領界路(アヴィシュカー~アモンケット、アモンケット~ムラガンダ、アヴィシュカー~ムラガンダ)は恒常的領界路であり、最初の出現以来ずっと開いたままである。
「周期的領界路」は、規則的かつ予測可能な周期で開閉するという点で安定している。多くの周期的領界路がアヴィシュカーで開閉しており、「近隣」の次元(アヴィシュカー~アラクリア、アヴィシュカー~ケイレムなど)へと接続する。
「非恒常的領界路」はその他の領界路であり、最近開かれ、安定性や規則性を判断するための評価を現在受けているものを含む。これらの領界路は、開閉のスケジュールがそれぞれ固有のものであるため「非恒常」と言われている。例として、アヴィシュカー~ダスクモーンの領界路が開かれたのはほんの数秒間だったが、アヴィシュカー~ガスタルの領界路は数日間開き続けた。スピード・ブルード、ゴブリン・ロケッティアーズ、ガイドライト・ボヤージャーズ、キールホーラーズがアヴィシュカーにやって来た領界路も、すべて非恒常的領界路の例である。
アート:Hardy Fowler |
アモンケット
《森》
王神。灯争大戦。ファイレクシアの侵略。アモンケットは多元宇宙最悪の邪悪や暴君の侵略に長らく苦しめられ、それ自身の歴史はほとんどが忘却の彼方に消え去っている。だが傷ついたこの次元に夜明けが近づいている。『霊気走破』で私たちが目にするアモンケットは、初めて自らの歴史を認識し、自らの運命を真に掌握しているアモンケットだ。自らの運命を自ら動かす――領界路が開かれると、その希望からアモンケットはアヴィシュカーからの代表者を迎え入れ、ギラプール・グランプリへの参加を選択した。
アート:Brian Valeza |
アモンケットは、黄昏の次元ではないことを是非とも証明したがっている。血を流しても敗北してはおらず、アヴィシュカーと同じくアモンケットも熱意とともにその夜明けに立っているのだ。そのためアモンケットに建設されたコースは、ナクタムンの指導者が使用を許可した廃墟や構造物の上のみを進む。この次元の歴史の深さは計り知れず、最も年経た不死者でさえ思い出せない支配者や神々の記念碑が点在している。それらを道路や観覧席で潰してしまうのは、砂に飲み込まれるままにするのと同じこと。逆に、アモンケットとその民にこれらの土地の利用を許可すれば、貿易や技術の交換によってアモンケットに利益がもたらされる。アモンケットは、遠隔地のレースにおいて遺棄地を横断することも許可するつもりである。それは彼らの次元における未知の領域を探り、生命と憤怒を乾いた砂の風景に送り出し、何が反応するかを(反応するものがあるのなら)確かめる良い機会なのだ。
アート:Carl Critchlow |
そのうえ、アモンケットはこのレースにチームを参加させる栄誉に浴している。チャンピオンのザフールとその従者たち、そして灯を失った元プレインズウォーカーのバスリ・ケトは、アモンケットの生者と死者の団結した希望を体現している。アモンケットの人々は沿道に並び、観客席を埋め尽くす群衆となるだろう。祝うために、恐怖ではなく希望の歓声を上げるために、必ず訪れると確信している勝利に歓喜するために集まる。それはとても久しぶりのことなのだ。
ナクタムンと浄化されたルクサ川
『霊気走破』の出来事に先立って、ファイレクシアの侵略はアモンケット全土に及んだ。そしてその中心はナクタムンの街、ボーラスの統治と灯争大戦を生き延びた生者たちの最後の砦だった。侵略に見舞われた他の次元と同様に、ファイレクシアがもたらした次元存亡の危機はかつての敵同士の協力を余儀なくさせた。だがそれは侵略の期間を越えては続かなかった。侵略の間、ハゾレト神はナクタムンにおいて蝗の神・スカラベの神と肩を並べ、この次元を守るために生者と死者の団結した軍勢を指揮した。ヘクマは崩壊していたものの、彼らは防衛を成し遂げた。
ファイレクシア軍が敗北し、アモンケットの民は勝利したとも言えた。スカラベの神と蝗の神は遺棄地へと去っていった。ハゾレトはナクタムンの生者と忠実な不死者たちとともに、追撃しないことを選択した。その代わりに、彼女は生存者たちとともに都市の再建に取りかかった。これはとてつもない努力を必要とし、生者と死者の両方を動員し、大まかにふたつの大きな仕事に分かれていた――ひとつはヘクマの崩壊後に遺棄地をさまようはぐれた不死者たちから都市を守ること、もうひとつは再建という大事業に着手することである。だが侵略の終結に続いて希望の兆しが訪れた。長い間汚れていたルクサ川が澄み渡り始めたのだ。生者たちはナクタムンの壊れた壁へと駆けつけ、途切れないが目標も持たないさまよう不死者の波を食い止めた。これらの哀れで危険な生き物たちは、生者たちに引き寄せられて都市へ向かい、消えゆく魂の最後の残響に駆り立てられて都市を自分たちのものにしようとしたのだった。生者たちは彼らを阻止するために戦った。
アート:Dominik Mayer |
一方、ナクタムンの不死者たちは重大な決断に直面していた。ファイレクシアの侵略により、何万というアモンケット人が死んだ。彼らは放浪の呪いによって新たに蘇ったものの、従順なミイラ化という古い秩序に従うことを熱望してはいなかった。彼らは解放されたがった。そしてそれは再建の始まりに、生者が自分たちを最も必要とする時にのみ可能であることを認識していた。ボーラスの統治下で(そしてその後も)ミイラ化された古い不死者たちは長期的な見方をしていた――アモンケットの死者(忠誠な者もそうでない者も)は生者より多いとはいえ、その数を利用して次元を自分たちのものにするのは長期的な目標としては良くないと。放浪の呪いは不死者を保つわけではない。彼らは緩慢にではあるが、それでも朽ちてゆく。生者が死滅して不死者だけが支配するなら、この次元は時とともに衰え、死んでいくだろう。つまり、忠実な不死者たちは、アモンケットに未来をもたらすためには生者が生き残り成長することを必要としていたのである。ナクタムンの忠実な不死者たちは一丸となり、都市を防衛する生者たちに懇願と約束を提示した――「我々を解放してくれ。そうすれば、ナクタムンが守られる様を誰もが目にするだろう」と。生者たちは同意し、生者と忠実な不死者たちは都市の防衛に共に携わり、さまよう死者の波を食い止めた。
アート:Julie Dillon |
現在、ナクタムンは何年もの荒廃から復興を遂げつつある。生者と死者が力を合わせて街路を片付け、修復可能な建物は補強し、修復不可能なほどに破壊された構造物を撤去している。都市の中心部は片付けられたが、郊外の地区では作業が続いている。ルクサ川の両岸では、農民たちが畑に真水を引くための新しい灌漑用水路を掘っている。ナクタムンに緑が戻るにつれ、収穫物を売る行商人の声が鎚音や労働歌とともに届く。復興には長い時間がかかるだろうが、その最初の夜明けから毎日が、長らく暴君の影に隠れていた次元にとって新たな自由の日なのだ。
アート:Victor Sales |
アモンケットの新たな神々
ファイレクシアの侵略による最も重大な影響のひとつが、ヘクマの崩壊だった。ヘクマとはナクタムンをこの次元内において隔離し、外敵から守る魔法の障壁である。これは間違いなく、アモンケットの住人にとっての懸念事項となっている。彼らは脆く、遺棄地からさまよい出るかもしれない危険な獣や軍勢にさらされている。だが同時に、彼らは自由でもある――自由にさまよい、探検し、比較的安全な都市から飛び出して、故郷と呼ぶ次元の歴史と現状を発見することができるのだ。この故郷を守る、未開地を探検するというふたつの衝動は、アモンケットでハゾレト神と共に歩む二柱の新たな神々の内に生きている。それが夜明けの獅子ケトラモーズと、ルクサの新たな母サブ=スネンである。
日々の記
ボーラスの統治の間、「刻の書」がアモンケット人の主要な宗教文書となっていた。ボーラスはアモンケットの歴史を人々から隠し、代わりに悪夢のような幻想を作り上げた。自らを王神と位置づけ、王神を称える記念碑を建てさせ、次元の神々を自分に仕えるように歪めさえした。ボーラスの嘘が暴露されると、アモンケットの人々の信仰は打ち砕かれた。それでも信仰は残り、人々は拠り所を求めたのである。破滅の刻とファイレクシアによる侵略の恐怖から抜け出すと、アモンケットの生存者たちは新たな文書の作成に取り掛かった。これは激動の過去にあった切なる信仰と、より良い日々が来るという慎重な希望を組み合わせたものである。それが「日々の記」であり、一致団結してのみ築くことができる黄金時代への道筋を示している。この文書には三柱の神々が明記されている。既知の神はハゾレト、もう二柱はファイレクシアの侵略後にアモンケットの人々の前に姿を現した新たな神々、サブ=スネンとケトラモーズである。
アート:Chris Rallis |
ハゾレトはアモンケットの人々から厳粛な距離を保ち、少数の精鋭戦士だけを率いて遺棄地へと赴いてこの次元の未知の部分を偵察している。そこで彼女たちは蝗の神とスカラベの神の足跡をたどり、「キチン宮廷」とそれを崇拝する無数の「君主」たちの噂を追っている。彼らはナクタムンへと増援を求める伝言を送るとともに、ボーラス以前のアモンケットから回収した遺物と遺棄地の新たな地図を預ける。人々はハゾレトを「求道神」と呼び、彼女と仲間たちに敬虔な(とはいえ幾分畏れ混じりの)祈りを捧げている。
アート:Valera Lutfullina |
サブ=スネンはアモンケットの人々に姿を現す前からその存在を示していた。ファイレクシアの侵略が終わるとルクサ川は増水し、ナクタムンに氾濫して血や油や機械の屍を洗い流した。街は浄化された。洪水の後にさらなる雨が降り、カエルが現れ、太陽が昇った。緑の生命が芽生えた。ナクタムンは生き返ったように見え、ルクサ川は再び静かで豊かな清流となった。周囲の農地では長く干上がっていた灌漑用水路に水が戻ってきた。人々は祝し、その祝賀と感謝が最高潮に達したとき、サブ=スネンがついに姿を現した。この神は黄金のカエルの頭部を持ち、再生の象徴を携えた人間の女性の姿をしている。
アート:Maaz Ali Khan |
若き神ケトラモーズは、アモンケットの生者と不死者それぞれの強固な意志から生まれた――生き延びるという生者の意志、その生者を守るという不死者の意志から。ケトラモーズは迫る夜明けと明日に待つ未来、生者と名誉ある死者、希望、団結、忍耐、そして農民の神である。彼はサブ=スネンの到来に続いて誕生した。ナクタムン内の復活したルクサ川の岸に生えた葦から生まれ、ファイレクシアの侵略が終わった後にそのきらめく水から出でた。この神はオケチラのそれを彷彿とさせる弓を携えており、筋肉質の若い戦士の身体に金色の獅子の頭部を持つ。
サブ=スネンとケトラモーズを崇拝する教団がアモンケットの生存者たちの間に結成され、彼らを称える新たな神殿が建造された。この神々はアモンケットの人々から敬愛されている――ようやく自分たちの神々が自分たちのものになったのだ。よそ者の暴君によって歪められたり堕落させられたりしたわけではなく、また偽の神の嘲笑によって死から蘇ったわけでもない。不確かな未来に直面するアモンケットの人々の切望から生まれた、新時代の最初の神々なのである。
遺棄地、君主、キチン宮廷
遺棄地
ナクタムンの外には、いわゆる「遺棄地」が広がっている。太陽に焼け焦げて乾いた砂の海、うねり進む砂丘、遺跡。そしてその中に潜む怪物、デーモン、死者。アモンケットの生者たちはこの地を恐れるように教えられてきたが、何年もそこをさまよった後で真実に気づいた――遺棄地は恐れるべきものではなく、アモンケットの他の場所と同様に、癒されるべき場所なのだと。だがそれは遺棄地が危険ではない、または危険が潜んでいないという意味ではなく、幽霊に怯えていてもアモンケットを取り戻すことはできないというだけである。今こそ勇気を出す時だ。失われた同胞、祖先、希望を秘めた遺跡、そして答えを探すため、神々の勇者に率いられた志願兵たちがナクタムンから旅立つ。
アート:GodMachine |
遺棄地の流砂の中には不気味な遺跡が潜んでいる。ボーラスの出発とファイレクシアの侵略の後、それらはざわめいている。死して久しい王や女王の墓、功績によって亜神の地位を得た勇者たちの記念碑、そして砂の下に埋もれた都――それらは中に閉じ込められた哀れな魂の墓所にして大都市だ。アモンケットでは死者の数が生者のそれを上回っており、生者は何処へ冒険に赴こうともこの事実を思い起こさせられる。砂漠で遭遇する放浪の民の小さな集団でさえ、死者たちの近くにいる。生者と不死者の混合集団が一緒に働き、あるいは放浪している様を目にすることは珍しくない。生者は動く死者に世話され、動く死者は生者から感謝と崇拝を捧げられている。
君主たる不死者
ナクタムンの利益のために働く死者の数は多いが、アモンケットを落ち着きなくさまよう死者のほとんどは生者と共に働くことを好んでいない。彼らは君主的な死者、つまり君主である。ボーラスの統治の隆盛期と初期、そしてそれ以前の時代からやって来た者たちであり、遺棄地の封じられた墓所で途方もなく長い年月の間幽閉されていた。
アート:Piotr Dura |
君主たる死者たちは、ボーラスの統治以前からの嫉妬深い王や女王や皇帝の混成であり、その数は膨大だ。今やその玉座には王家の子孫や競争相手が群がり、古い土地の境界は遺棄地の砂の下に失われた。そしてアモンケットで唯一の不変にして聖なるものであるルクサ川の岸辺には、奇妙な都市が――ナクタムンが――栄えている。君主たちの数はナクタムンの現存する人口やアモンケットの勇者たちをはるかに上回るが、彼らはまだその都市を脅かす統一戦線を張ることはできていない。君主たちは互いにライバル意識を燃やしており、自分たちのうち誰がアモンケットの事実上の支配者であるかを決めるべく争っている。彼らに唯一共通する不変の事実、そして新たなアモンケットの将来にとって最も危険なのは、ほぼ全員がボーラスの統治以前に彼らの神であったキチン宮廷に忠誠を誓っていることである。
キチン宮廷
蝗の神とスカラベの神はアモンケットに残っている。その力は弱まってはいるものの神性は失われておらず、辺境のオアシスやナクタムンの忘れ去られた片隅に居座るカルト教団によって信仰されている。この二柱はキチン宮廷の神々の生き残りであり、遥か昔に死んだ同胞たちの亡骸を蘇らせようとしている。彼らを崇拝するのはボーラス時代の死者、ラゾテプによって強化された僅かに残る永遠衆、そして遺棄地をさまようその他無数の不死者だ。信者の中で最も多いのはボーラスの統治よりも遥か以前の死者、つまり古の君主たちであり、彼らはこれらの神々をアモンケットの真の神として崇めている。
アート:Wayne Wu |
遺棄地の君主とその追随者たちは、キチン宮廷の神々が神性を維持するには十分すぎるほどの源泉ではあるが、完全な力に戻すにはまだ足りていない。それまでは、キチン宮廷の神々はじっと計画を練り、神聖な武器を研ぎ澄まし、ボーラス以前の死者たちの新たな軍団を集めている。キチン宮廷にとって新たな神々は忌まわしいものだ。それらはボーラスの創造物(ハゾレトの場合のように文字通りに、あるいはケトラモーズとサブ=スネンの場合のようにボーラスに汚された地から生まれたものとして)であり、アモンケットの真の神ではないと彼らはみなしている。キチン宮廷の計画は長期にわたるものであり、彼らの未来像も同様だ。信者を集め、規模を拡大し、キチン宮廷の倒れた同胞たちを復活させる。そうして初めて、自分たちが築いた次元を取り戻すのだ。
アモンケットのレーサーや住民は、遺棄地にキチン宮廷の出現を告げる暗い兆しがあると囁いている。脱皮した昆虫の抜け殻が乾いた川のように砂丘を流れていく、激しく渦巻く砂嵐の中に蝗の神やスカラベの神のそびえ立つ影が見える、古代の王や皇帝の墓が内側から暴かれて空になり、石棺が砕かれ、武器棚が乱されているなどである。これらの兆しはまだナクタムンの指導者や神々の耳に届くほどではないが、近いうちに届くと思われる。
放浪の呪い
他の多くの次元とは異なり、アモンケットにおいて生と死の境界は薄く、形而上学的または存在論的な要素というよりも階級によって定義されている。死者は生者と共に歩き、働き、奉仕する。かつてはニコル・ボーラス時代のアモンケットの慣習と慣行によって、彼らは奴隷のように生者に従属していた。今や死者は自由かつ生者の数を上回っているが、それでもアモンケットの人民である。死者が統治する国家を望む者もいるかもしれないが、生者が次世代を産み続けて初めてこの次元の未来は保証されることを死者たちは理解している。「放浪の呪い」はボーラスの統治以前から存在する根本的かつ古い魔法であり、今もアモンケットを苦しめている。これが続く限り死者は塵になるまで歩き、そして朽ちていく。成長し、繁殖し、次元の存続を保証できるのは生者だけなのだ。アモンケットでは死者の方が生者より多いものの、死者は成長することはなく朽ちていくだけである。生者がいなければ、最後の死者が朽ちてアモンケットが滅ぶ日がいつか来るのだ。
アート:Cristi Balanescu |
だがアモンケット最大の災厄である放浪の呪いは、ファイレクシアの侵略の際には救いとなった。放浪の呪いは古代の魔法であり、ニコル・ボーラスの統治以前の失われた時代から存在している。この呪いは死者を安息に導かず、不死者として維持する。そして骨の塵になるまで第二の人生を生きるのだ。ボーラスの時代には生者たちは放浪の呪いを怖れ、服従に甘んじた。だがファイレクシアが侵略に訪れると、死者たちはアモンケットを守るために押し寄せた。この数には遺棄地の忘れられた死者も含まれていた。彼らはボーラス以前の時代の王や女王、亜神の英雄に率いられ、埋もれた墓から大挙して堂々と行進した。その密集軍はナクタムン守護隊の隊列を強化し、光素によって弱体化したファイレクシア人を共に一掃した。
翌年、生者と死者は和解を始めた。かつてニコル・ボーラスは、この次元の人々を大量虐殺した後に死者を用いて生者の新世代を育てた。それと同じく、アモンケットの死者も途方もない暴力の後に生者の新世代を育て始めている――ただし今回は、昼の光に満ちた知識の中で。ボーラスの命令によらずアモンケットの死者は孤児を育て、治癒の場を世話し、自分たちよりも数の少ない生者と共に働いている――アモンケットが存続するように。一方、生者は死者を賢明な教師、居続けてくれる祖先、そして彼らの存在がなければ次元が衰退してしまうであろう冷静な守護者とみなしている。それでも、生者と死者の両方が何世代にもわたる偏見と服従に立ち向かい、それらを克服しなければならない。死者を束縛する生者は謙虚にならねばならない。死者は許すことを学ばなければならない。両者とも真実に立ち向かうのだ――自分たちは闇の存在の意志の道具にされたのだという真実に。過去の不正を許すことは、その時の責任を負うこと。今、あるいは将来、残酷さや優しさは自分自身に返ってくるのだ。
アート:Danny Schwartz |
この和解の過程は平坦ではなく、新たな世界の支配権を主張するアンデッドの君主それぞれとの新たな交渉を必要としている。ナクタムンの生者に対して友好的で、彼らが神々の好意を受けていることを認めている者もいる。だがそうではない者は次元の防衛に成功した後、不死者の戦士の集団とともに古代の墓所へと撤退し、自らの威厳と統治の復活を企てている。不満を抱くこれらの死者たちは、前史の墓所の周囲に集結している。これはナクタムンから遠く離れた遺棄地の広大な一地域、流砂から出現した古代遺跡である。そこでは、ニコル・ボーラス以前の時代の遥か昔に死した王や女王たちの評議会が砂まみれの玉座に座し、議論し、軍を動かし、復活を企てている。彼らは自身の王朝を賭け、スケルトンの軍団を繰り出して砂漠で戦争を繰り広げている。
ムラガンダ
《森》
ムラガンダは生命と自然のままの魔法が満ちる原始の次元だが、ずっとそうだったわけではない。遠い過去のある時点で、ムラガンダ全土を支配していた文明が魔法を発見し、その後崩壊した。これは生き残った人々の記憶の外にあるが、生存者によって刻まれ、子孫によって維持されてきた印刻に記録されている。次元の月は粉々に砕け散り、その残骸は今なお降り注いでいる。
アート:Nicholas Gregory |
月の破片の墜落が沈静化し、生存者が集団や部族や王国を形成するにつれて、ムラガンダは何世代もかけて変化していった。月の落下、軟泥、文明崩壊で解き放たれた荒々しい魔法、そして初期の惨禍によるその他多くの余波によって、ムラガンダは今日私たちが目にするような場所となった――緑豊かな密林、極めて危険な生命、謎めいた遺跡、そして荒々しく容赦のない風景が広がる、活気に満ちた力強い原始の次元。かつてこの次元を支配していた古い文明の残影は、寂れた遺跡で見ることができる。だがそれらはこの次元の新たな原始時代にほとんどが埋もれ、新たな文化と文明が魔法の力を最大限に発揮する方法を今一度学ぶ場所となっている。
ムラガンダのグランプリ
グランプリのムラガンダ・ステージは、おそらくレーサーたちが経験する中で最も危険なステージとなるだろう。露出した力線、月の隕石、噴火する火山などで荒々しく変化する地形、既知と未知の巨大な野生生物。そして動的な好奇心をもつ現地の文化。この次元はアモンケットがレースに同意したようにレースを受け入れることは決してなく、身体が感染症を攻撃するように反応した。
アート:Brian Valeza |
アヴィシュカーの先遣隊は、レース開始の1年前にムラガンダに派遣された。4つの部門(交渉、建設、保守、警備)に分かれたこの遠征隊はムラガンダに(時には文字通りに)道を切り開き、その自然世界を混乱させた。アヴィシュカーの代表団は、レースの建設用地は適切な場所であるという保証を、支配勢力であるサウリド独裁政権から得ていた。だがその後、交渉チームの相手が確保した条約は地図についてのみであり、地形や獣や軟泥、またはそこに住む無数の部族は含まれていないことをレースの警備および保守チームは突き止めた。実際、独裁政権にとってアヴィシュカーとの合意は、非常に巧妙な政治的策略だったのだ。その地役権と協定により、独裁政権はレースコースに沿って国境を拡大し、インフラと技術の交流を確保し、次元の「代弁者」としての主要な地位を確保した。とはいえアヴィシュカーは最近、最も有力な魔道士集団との交渉においてゆっくりと着実に外交的進展を遂げており、当初の協定における特定の欠陥を発見することは確実である。
アート:Javier Charro |
ムラガンダでのレースは、この次元の最も美しくも過酷な環境への陽気なツアーへとチームを連れて行く。珊瑚の穴や空を貫く間欠泉の上に掲げられた危険なコースから、古の密林の緑壁を突き抜ける狭い森林の回廊まで、ギラプール・グランプリのムラガンダ・ステージは、これまでにないほどにレーサーたちへと試練を課すだろう。広大で不気味なアモンケットの砂漠は、レーサーたちにとって夢の中のような場所だ。一方ここムラガンダでは、彼らは歩く世界軟泥、荒々しい魔法によって歪んだ恐竜、そしてサウリド独裁政権が受け入れた条約の条項に決して署名も同意もしない恐れ知らずの略奪者たちに遭遇するのだ。
ムラガンダの軟泥
軟泥は恐竜と並んでムラガンダの象徴的な存在であり、「擬態の原形質」という既知の独立個体の存在がそれを体現している。ムラガンダの軟泥は奇妙な生物であり、その起源については様々な推測がされている。力線の魔道士たちは、軟泥とはムラガンダのどこかの深部で、この次元での魔法の誕生に反応して生まれた一種の次元的抗体であると考えている。傷痕の妖術師たちは、軟泥とは月の遺跡の存在であり、最初の月の隕石とともにムラガンダに墜落し、その後の墜落の度に再生するのだと主張している。サウリドたちは、軟泥とは自分たちが崇拝する祖先の生きた本質であり、死後の世界の物質から融合した存在であり、過去の神聖なる独裁者たちの知恵を有すると主張している。テルーセット族は、軟泥とは恐怖と悪夢であり、子供を寝台からさらい、緩慢な潮流となって村を飲み込む貪欲な生物であることを知っている。牙ドルイドたちはそれらを歩く栽培エンジンであると、つまり奇妙で独特な植物のまさしく宝庫を内部に宿して運ぶタイムカプセルのようなテラリウムとみなしている。
アート:Helge C. Balzer |
軟泥の起源の真実は、ムラガンダの最初の世界を終わらせ、この新しく活気ある次元へと進めた月の落下で失われてしまった。現在、軟泥はムラガンダのすべての生物群系で見ることができ、その大きさは水滴ほどから歩く湖まで広範囲にわたる。同様に、それらの知性の程度も様々である。軟泥は容器のようなものであり、消化した存在の記憶に合わせて形を変える。その中で最も高い知能を持つのは、知的生命を消化したもの――通常は名誉ある生贄とされたサウリド、または不運な人間だ。そのような軟泥はゆっくりとその残骸を処理し、記憶を吸収し、それによって元である存在を模倣して初歩的な知性を示す。
ムラガンダにて出会う人々
ムラガンダは荒々しい生命に満ちた原始的な次元かもしれないが、他の次元と同様に文明が成長している。ムラガンダでは人型生物が台頭し、その先祖が魔法と金属を見出して以来初めて権力を握っている。サウリドは密林に刃を向け、荒野に王国を築いている。他の組織形態――ドルイドの隠者たち、魔道士団、死神都市の異教集団、正反対の都ふたつを構える巡礼者集団もまた権力を競い合っている。ムラガンダの文明は、この次元の特徴である危険な生命と同じ程に原始的で残忍で、勝者総取りである。
サウリド独裁政権
この次元で最も強大な国家はサウリド独裁政権だ。これは人型の恐竜サウリドと、サウリドが柔皮と呼ぶ人間の臣民からなる王国である。サウリド社会は厳格なカースト区分によって階層化されており、支配的な王朝の専制君主一族が広大で入り組んだ社会ピラミッドの頂点に君臨している。このピラミッドの頂点は贅沢で享楽的であり、サウリド社会の他部分が体験するものとは意図的にかけ離れている。中間層は官僚、司祭、軍司令官の不健全な混成だ。統一の達成以来彼らは内部政治、下層階級の取り締まり、自分たちの貴重な官僚制度の維持をめぐって口論を続けている。このピラミッドの広大で騒然とした下部はサウリドの無数の労働者階級で構成されており、その更に下に専制トカゲの下位種とされる柔皮がいる。そしてそれらすべてが独裁政権の唯一の指導者、神聖君主として崇められる僭王の絶対的な統治に服従している。
アート:Leonardo Santanna |
ムラガンダの他の集団と比較すると、この独裁政権は途方もない工学的・インフラ的偉業を成し遂げている。彼らはすでに要塞都市の中に巨大な寺院を建設しており、そこからはこの次元初の舗装道路が国の全体に伸びている。高架の灌漑用水路は高山の湖や貯水池や川からサウリドの土地に水を供給し、そこでは外輪エンジンが鉱山と製錬工場を動かしている。サウリドは完全に肉食性であるため、彼らは畑や穀物倉ではなく産業用牧場や屠殺場、燻製工場、そして広大な地下塩蔵工場を維持している。独裁政権の支配下にある人間には、食料確保のために共同の小区画にて野菜や穀物の栽培が許可されている。
サウリドはムラガンダの軟泥と密接な関係を保っており、それらを亡くなった祖先の物理的・超自然的な残滓として崇拝している。彼らは特に擬態の原形質を、生き神ではないにしても偉大な存在とみなしている。軟泥は食した生物を包み込み、その形をとる。敬愛される年長者たちが死ぬと(または臨終の床につくと)、サウリドは彼らを軟泥へと与える。その聖なるゼリーの中で永遠に生きられるようにするのだ。
牙ドルイド
ムラガンダの深い密林には牙ドルイドが隠れている。この次元の鼓動と密接に同調する、ドルイドの大型類人猿と人間の文化集団だ。牙ドルイドの大半はゴリラだが、仲間として数えられる他の類人猿も混じっている。人間のドルイドは一般的ではないものの、他の類人猿と同じ権利と名誉を与えられている。サウリド独裁政権とは異なって牙ドルイドに種族的階級はなく、ただ知恵と年長者に従う。ドルイドの道を歩まない類人猿と人間は、農業や畜産やドルイド集団の共同防衛といったドルイド生活のより日常的な側面を担っている。
アート:Nino Is |
牙ドルイドはムラガンダのクレータージャングルと密接に繋がっている。『霊気走破』では、緑獄林の牙ドルイドが登場する。緑獄林は古代の魔法戦争で形成された巨大クレーターの中に広がる密林地帯だ。牙ドルイドにとって学習と成長のための場所であり、グランプリの侵略に対抗してこの地を維持し続けるために彼らは活動している。ここでは、古い武器と新たな武器の両方が理解のために、そしてより効果的な防衛のために破壊されている。
テルーセット
サウリド独裁政権の国境には、同盟相手であるテルーセット氏族集団が5つ存在する。それぞれ首長が統べるこの5つの人間氏族は、独裁政権とテルーの廃墟の間にある荒涼として厳しい国境地帯で暮らしている。その廃墟はテルーセット族の故郷であり、かつて魔法で引き裂かれたその地から彼らは逃れてきた。現代のテルーセット族は質素な生活に慣れ、その文化において武術の腕を重要視しているが、故郷の富や知識を失ってはいない。彼らは熟練の乗り手や金属細工師であり、特に織り手は最も枯渇した収穫物からでも素晴らしい織物を作り出す。テルーセット族の騎兵と魔道士狩人は、独裁政権の国境軍と膠着状態になるまで戦った猛烈な戦士たちであり、定期的に力線魔道士の塔を襲撃している。
アート:Arthur Yuan |
テルーセットの氏族集団は熱烈な反魔法主義者たちだ。これは何世代も以前に戦争を繰り広げた魔道士たちによってテルーが魔法で破壊されたことに遡る。彼らは自分たちの民に魔法の萌芽がないかどうかを、厳しくかつ用心深く監視している。テルーセット族に許されている魔術は無の魔法、つまり無効化魔法だけだ。これは一部の人間が幼い頃に、または特定の軟泥を摂取することで発現する抑圧的な反魔法である。
力線魔道士と印刻狩人
力線魔道士と呼ばれる強大な魔術師たちがムラガンダ中に散らばっている。彼らは力線の噴出口の上や近辺に同調のための塔を建て、そこから噴出する荒々しい魔法を研究するとともに糧にしている。力線魔道士たちは魔法の使い手とその家族、従者、弟子からなる小さな集団を形成している。この魔道士たちはムラガンダ中に散らばる力の印刻、強力な力線噴出口、そして魔法を利用し制御する力や技術や適性を持って生まれた者を探し求めている。
アート:David Alvarez |
力線魔道士は力線と、それによって物理的および形而上的世界を理解する方法の中に膨大な知識の可能性を見出している。ムラガンダにおいて、彼らは力線やマナの概念、および次元の世界魂との接触への理解に最も近い存在である。ただし毎年開催される討論会を除き、力線魔道士が情報や知識を集めたり共有したりすることは滅多にない。力線魔道士がライバルとみなす相手へと寛大に接することは稀である。また力線魔道士にとって、他の力線魔道士やそれが率いる集団よりも大きなライバルは存在しない。
力線魔道士たちには印刻狩人が仕えている。印刻狩人とは力線魔道士の塔の近隣の町や村から来た勇敢で向こう見ずのレインジャーたちであり、マナに焼けた荒野や月の隕石の野へと進んで赴き、失われた古い世界の遺物を探す。
傷痕の妖術師
傷痕の妖術師たちは極めて独特で、縄張り意識が強く、冷酷だ。彼らは月の隕石が最初にムラガンダを襲った暗く非常に寒いクレーター地帯、ガラダクの傷痕とその周辺で見ることができる。青白い亡霊のような存在である彼らは、消えゆく記憶だ――かつてのムラガンダの、消えかけの幽霊だ。彼らは自分たちの世界の残骸にしがみつき、ひとつの目を空に向けつつ嫉妬深く遺跡を守り、かつての世界のさらなる記憶をもたらしてくれるかもしれない月の隕石の兆しを天に求めている。
アート:Samuele Bandini |
魔法をより巧みに制御するため、傷痕の妖術師は微影歩みや死神と契約を結ぶ。そうすればそれらは魔法の守護者となり、ムラガンダの荒々しい魔法を利用するにあたって適切で安全な方法を教えてくれるのだ。背が高く孤独にさまようこれらの怪物は生と死の境界を旅し、夜が昼を食らう薄暗い死の領域を浮遊している。微影歩みや死神はチャイムの音と共にやって来る。傷痕の妖術師は守護者の外見を真似るため、ヴェールや鐘を身にまとう。
暁を追う巡礼者
暁を追う巡礼者と彼らの太陽の像はムラガンダにおける非アニミズム、つまり一神教の始まりを象徴している。この放浪集団は金の装いをまとい、大きな車輪付きの荷車に祭壇を載せて運ぶ。彼らは古の道をたどってムラガンダを歩き、夜が朝に変わる暁の時間に影に背を向けて真実を探し求める。
アート:Mark Poole |
暁を追う巡礼者たちはムラガンダのそれぞれ反対側に位置するふたつの魔法的重要地点、夏の都と冬の都を構えている。そこに立ち寄って彼らは暁のランプを満たし、日時計の武器を研ぎ、定かな夜明けと心を通わせる。年に二度、適切な時期に彼らはこれらふたつの都市に集まり、太陽を崇拝する祝祭を一週間にわたって開催する。
放浪の書記官
アート:Samuele Bandini |
放浪の書記官は修道会的組織である。彼らは新たな書き言葉や記録保存の習慣、そして言葉を保存するための代替可能で軽量な媒体を――紙を作成する技術を開発した。書記官たちは王や族長、高司祭、魔道士、商人と契約して奉仕を提供する雇われの記録保管者として、この世界でよく見かけられる。
ムラガンダの略奪者たち
グランプリをムラガンダで開催することが決定し、最初の先遣隊が安定したアモンケット~ムラガンダ領界路を経由して到着すると、この原始の次元の諸文明は反応した。好奇心を抱く者もいた――例えば多くの力線魔道士の集団はギラプールの代表団に接触し、多元宇宙についてもっと学びたいと(そして自らの力を高めたいと)熱望した。だがほとんどの者は、故郷たるこの世界で未知あるいは不確かなものに立ち向かうことを学んできたため、剣を抜き鎧を身にまとうことで反応した。
アート:Brian Valeza |
ムラガンダの略奪者は、テルーセット族またはサウリド独裁政権に所属していることが多い。テルーセット族の略奪者は熟練の魔道士狩人、虚無魔道士、および彼らに雇われた一般的な戦士たちから成る――テルーセットに属する専業の兵士と同等のプロ集団だ。独裁政権の略奪者は通常、装甲をまとう平背ラプトルや大型の獣に乗る不滅者、脱皮者、および柔皮の騎兵の混合部隊で構成される。両グループとも、耐久レースの速度という点ではグランプリの参加チームに敵わない。そのため彼らはコース上の完璧な難所に忍び寄り、罠や待ち伏せを仕掛け、通過時の混乱を利用することを狙う。両者とも目的は同じだ――グランプリが自分たちの土地へとさらに侵入するのを防ぐ。ただ求める具体的な結果が異なるだけである。テルーセット族は魔法の使い手を全員殺したがっている。一方で独裁政権はグランプリがもたらす驚異的な技術を手に入れ、解析調査することだけを望んでいる。
レーサーたちに対面し、グランプリの歴史を学び、彼らが競争をするコースを知りました。さあ、来年初めに開催される空前絶後のレース、『霊気走破』へと身構えましょう。
2025年1月13日に始まる『霊気走破』ストーリーで優勝者を確かめ、2025年2月14日にセットが発売されたら自分自身の勝利を追い求めてください。『霊気走破』はお近くのゲームストア、Amazonなどのオンライン小売店、およびマジック製品を販売しているその他の場所で今すぐ予約注文できます。
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