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『カルドハイム』のセットデザインをリードする

Dave Humpherys
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2021年1月19日

 

 私の直近のデザイン・リードは『ドミナリア』で初めてリードをした時と似ています。『カルドハイム』はその直前にリードした『灯争大戦』や『イコリア:巨獣の棲処』のようにデザインの限界を広げるものではありませんでした。これまでに見てもらえたと思いますが、それでも新しくてエキサイティングなものがたくさんあります。セットデザインが受け取った引き継ぎ内容に関して、私はクリエイティブ的にもメカニズム的にも大いに信頼していました。私は楽しく、芳醇で、多彩なデザインにあふれたセットとしてそれらを具体化できたと思っています。セットデザイン・チームおよびウィザーズ・オブ・ザ・コーストのその他の多くの人々のおかげです。

 北欧とバイキングの伝承に影響される準備はいいですか? では一緒にこのセットのいろいろな風景がどのように1つになったのかを見ていきましょう。

予顕

 展望デザイン中に、予顕は我々がカードを裏向きのままにしておいて裏向きにした次のターンだけでなく何ターン経過した後でもプレイできるほうが良いということを思いつきましたが、それ以降大きな変化はありませんでした。

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 予顕で得られる満足感は即座には分かりません。カードをそのゲームの残り大半の間、脇にどけておくことにメリットがあります。ゲームが長引けば長引くほど、そこに存在することによる疑念は大きくなっていきます。一体何を伏せているのでしょう? もしそれが想像している通りのカードなら、使われるべき局面で使われていたのではないでしょうか? ゲームが何ターンも長引いてから、予顕したカードで明らかに計画していた通りの強力な動きをしてみせて、他のプレイヤー全員に仕掛けた罠にはめるために自分がどれだけ我慢したかを知らしめるのはとてもクールです。

 そういう瞬間は素晴らしいのですが、カードを、特にパーマネント・カードを予顕して、次かその次のターンぐらいに唱える状況もたくさんあります。そうすることの恩恵は大抵何もすることがないターンに2マナを支払い、そのカードを唱えるターンに大きな成果とともに投資したマナを回収することです。予顕は2ターン目に何らかの行動ができるようにして、盤面のマナ源の数よりも少ないマナで効果が得られるようにし、必要な色マナを得ながら展開することを助ける円滑化メカニズムとしてうまく機能します。

 私は予顕が好きで、これは同じく私が好きなメカニズムの変異とさまざまな意味で似ています。特定のカードの秘匿情報に焦点が当たりますし、そしてこれらのメカニズムはゲームプレイを円滑にする性質を持っています。変異のように、予顕してまだ予顕コストで唱えていないカードをゲームの終了時に公開する習慣を身につけなければならないでしょう。

 予顕は変異とは違い、《ショック》で焼かれるクリーチャーの形でカードを危険にさらす必要はありません。確かに速攻を持たない予顕クリーチャーがダメージを与え始めるのは変異よりも少し時間を要します。カードを予顕すると、そのカードは追放されている間、除去呪文だけでなく手札を捨てさせる呪文からも守られます。予顕には2つの大きな利点があります。1つ目は仕込みに必要なマナが変異の3マナに対して2マナであるというのは大きな差があるということ。2つ目は予顕のデザインはインスタントとソーサリーのデザインをもたらすということです。

 『カルドハイム』において、予顕は白と黒の、そのターンの2つ目のを呪文を唱えるたびボーナスを得るというミニテーマにつながりました。通常のマナ・コストよりも軽い予顕コストで唱えるとコンボ・カードをまとめて唱えて大きな効果を少ないマナで起こすことができ、そして1ターンに2つ目の呪文を唱えられる可能性が高くなります。そのプレイパターンの仕込みをしたプレイヤーが報われるのは見ていて楽しいものでした。

 このセットには多くの予顕カードが存在します。これは我々がこのメカニズムに推測要素を維持する上で重要なことでした。幸い、プレイテストでのこのメカニズムの人気を踏まえると簡単に予顕をつけられるものが多く含まれていました。

モードを持つ両面カード

 神々を第1面に神、第2面にそれにまつわるパーマネントが描かれた、モードを持つ両面カード(MDFC)にするというアイデアを私は最初から素晴らしいと思っていました。我々はさらなるMDFCのアイデアも検討しましたが、スタンダードに過剰な数のMDFCがあることから来る倦怠感を懸念したので、神々と『ゼンディカーの夜明け』から始まった2色土地サイクルを完成させることに全力を尽くすことにこだわりました。

カードをクリックで別の面を表示
 

 『ゼンディカーの夜明け』のMDFCは、序盤に土地を供給し後半に呪文を(もしくはそれぞれ必要に応じて)供給することでドロー円滑化の面で素晴らしい仕事をしてくれました。『カルドハイム』のMDFCにはそのような多用途性はありませんが、結果的により費用対効果の優れた呪文にすることができました。神をMDFCにすることのエレガントな要素の1つは、伝説のカードを複数引くことに対する簡単な回避方法を提供するということです。本来、2枚目の伝説のカードは手札でだぶつく可能性がありますが、神のMDFCはもう1つの面でプレイすることができます。我々はお互いの面の相性が良いものを多くすることで、そのプレイパターンへ寄せていきました。それぞれの面が異なるマナ・コストを持つことに加えて、我々はそれぞれの面が得意とするゲームの状況が異なるデザインを発見し、カードの少なくとも片面は満足できる方法で展開できる可能性を高くしました。

誇示

 誇示は展望デザインから引き継ぎをしたときにはこのセットに存在していませんでした。このメカニズムはブライアン・ホーレイ/Bryan Hawleyの提案が元になっています。ブライアンはアグレッシブな戦闘に関するメカニズムがあるようにすることに一番熱心で、「栄光/glory」というメカニズムを提案してきました。その意図と挙動はこのメカニズムの完成形にとても近いものでした。いくつか調整と「誇示」という名前に変更をした後、私はこのメカニズムにこのセットの構成要素として惚れ込みました。ブライアンのバージョンでは能力を攻撃中に使わなければいけませんでしたが、我々は誇示クリーチャーが攻撃クリーチャーに指定されたターンの間ならいつでも能力を使えるのが一番分かりやすいと判断しました。そうしなければこの能力は戦闘ダメージが与えられた後、誇示クリーチャーがまだ攻撃クリーチャーである短い期間の間に能力を使うように奨励されるものになってしまうところでした。

 このメカニズムのデザイン後期に行われたもう1つの小さな変更は、これを能力語から本格的なキーワード能力に変えたことです。これはルールを掘り下げることなく他のカードの誇示を参照することができるということです。

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 大部分の誇示は白、赤、黒に見られます。誇示が最も面白いのはクリーチャーをリスクにさらすときだったので、我々は誇示のデザインを埋めていく中で、この能力を回避能力を元から持っているクリーチャーにつけることをほぼ避けていました。我々は生き残るためにコンバットトリックを使い、また後日誇示することを奨励したかったのです。誇示の毎ターン繰り返し使えるという性質により、我々はその効果が雪だるま式かどうかに気をつける必要がありました。このような効果はゲームをスローダウンさせ、対戦相手が巻き返すチャンスを得られるのに十分な高さのコストにする必要があります。

氷雪

 「雪だるま」といえば、氷雪は展望デザインの引き継ぎの中には全く存在していませんでした。北欧やヴァイキング風のマジックの設定にどんなものが入るかを考えている人たちの話を聞いていると、氷雪はそのリストの一番上近くにあり続けていました。

 私はこのメカニズムに対する内部の疑念に気づかないまま雪の積もった道に乗り出しました。『モダンホライゾン』にも氷雪が入っていることを踏まえると、私は新しいことができるセットでは新しいことをを試してみるべきだと感じました。氷雪を探求していく過程の初期段階で、私はこれがパーマネントでないカードにとって何を意味するのかということを熟慮しました。最終結果は特に革新的なものではありませんでしたが、氷雪インスタントと氷雪ソーサリーをマジックに追加できたという結果に関しては満足しています。

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 特に氷雪ソーサリーや氷雪インスタントを作ったことで、頻繁に氷雪カードを参照したいという誘惑が存在しました。残念ながら、大きな部族の要素があるセットの中では、これは後追いをしているもう1つの部族要素のように感じられました。結果的に、氷雪カードの大部分は氷雪マナを支払っているか、氷雪土地をプレイしているかを参照するものに限られました。これは我々が土地以外のタイプ行を参照し続けることが最高のゲームプレイであると判断したことの例外の一部です。氷雪は青、緑、黒にほぼ集中していますが、プレイヤーが自分の好きなフォーマットにこれまでよりも氷雪的なマナ・ベースで取り組む新しい方法を見つけることを期待して、すべての色に存在します。

英雄譚

 「Saga」という言葉は古ノルド語が由来です。このセットでそれを行うことにはとても正当性があるように感じられます。それぞれの色のペアを強調している領界に焦点を当てて、私はシンプルに色を織り交ぜた初の2色英雄譚のデザイン空間を探求しようとしました。完成したセットには各領界に最低1枚の英雄譚が存在しますが、一部の英雄譚はその領界の色のペアとは異なる色を持ち、その領界の物語を伝えるのに適したものになっています。

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部族を選ぶ

 セットデザインの開始時にはクリーチャー・タイプを選ぶように求められるとても大きなテーマが引き継がれていました。個別に見るとそれらのカードの多くはとても楽しいものでしたが、リミテッドのゲームプレイ中に過剰に気を使うものになっていました。一度ペガサスを選んだのは良かったのですが、デッキに何枚入っているか思い出すのに苦労したり、各クリーチャー・タイプをすでに何枚ピックしたかをダブルチェックしないといけなかったりで、その良さが相殺されてしまいました。

 我々は何枚かの「クリーチャー・タイプを選ぶ」カードを高レアリティに残し、後から引いてくるクリーチャー・タイプの重要性を抑えた形に変更しました。その書式はどの部族が一番多いかだけをチェックするものに変更されました。全体的に、リミテッドでクリーチャーのサブタイプを意識することの占める割合は少なくなりましたが、我々の構築フォーマット向けのお気に入りは残されました。

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 「クリーチャー・タイプを選ぶ」という制限のなさは、斬新な瞬間を伴ってとても楽しいことがよくありましたが、現代の部族デザインは特定の部族と関連するカードを増やすように求めているという制限が存在します。各部族は特定の物事を行い、そうすることで得られる恩恵はその動きに向かっています。ボーナスがどの部族にも適用されるデザインでそれを行うのは非常に困難です。

 クリーチャー・タイプを選ぶ要素を減らすにあたって、我々はこのセットの部族にメカニズムとクリエイティブの両面でのサポートを追加しました。最初に追加されたものの1つが、このセットで取り上げられているクリーチャー・タイプに付属するアンコモンの装備品サイクルです。

 さらに、巨人を巨人らしく、エルフをエルフらしく感じさせ、それ自身の部族を参照するときには特にそれらしさが強くなるカードをたくさん作ろうとしました。加えて、ドラフト・ブースターで出てこない追加カードの内容はエルフ、巨人、ドワーフ、多相の戦士を主に取り上げるべきだと私は判断しました。またデッキ構築の可能性を大きくするため、あるカードのテキストが他のクリーチャー・タイプに影響を与えるのに適していた場合、もう1つ部族を持たせた二重部族カードの実験をしました。

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 別の意味で『モダンホライゾン』に似るというリスクを冒して、我々は多様な部族戦略間の隔たりをつなぐ優れた架け橋にするため、そしてそれが青緑の領界であるリトヤラにマッチすると感じたため、セットデザイン時に多相メカニズムを追加しました。

個別カード・デザイン

 このセットにはルーンや戦死者を弔う葬火メカニズムとして考え出された墓地のクリーチャーを追放するカードなど、細かい要素がいくつか存在します。これらの要素もセットに様々な側面を与えます。

 結局のところ、私が『カルドハイム』で最も気に入っているものはさまざまな個別のデザインです。このセットには独特なキャラクターや出来事を伝える魅力的なカードがたくさんあります。各領界の雰囲気を伝え、領界とその住人がどんなものなのかを具体化するために、我々は多くのデザインを作り出しました。

おっと! ここで何をしている?

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 おそらく皆さんは私の話で盛り上がっていただけでしょうが、ヴォリンクレックスの最後の段落の切り捨てに関する多くの内部議論の後、我々はこの恐るべき捕食者が相手の英雄譚を止めることにしました。それでは、また次の機会に……

 読んでくれてありがとう、どうか『カルドハイム』をお楽しみください!

――デイブ・ハンフリー

(Tr. Takuya Masuyama, TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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