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翻訳記事その他
イコリアの世界構築
2020年4月7日
2018年にウィザーズ社で働き始めた私の最初の仕事は、コードネーム『Cricket』こと『イコリア:巨獣の棲処』のコンセプト進行を設定することでした。ようやくこの世界を皆さんと共有することができて、大変興奮しています。
すでに皆さんのもとには「プレインズウォーカーのためのイコリア案内」が届いていますが、ここは時間を戻し、イコリア次元の独特なテーマ、クリーチャー、環境がどのように創造されたのかを、ダグ・ベイアー/Doug Beyer、アンドリュー・ヴァラス/Andrew Vallas、ジュアン・チュウ/Jehan Chooの三人に尋ねます。またサム・バーレイ/Sam Burleyはこのプロジェクトの早期において、首席コンセプト・アーティスト兼コンセプト進行アートディレクターとして非常に大きな役割を担いました。このインタビューには参加できませんでしたが、会談の議題をいくつか提案していただきました。
アート:Viktor Titov |
問:自己紹介と、『イコリア:巨獣の棲処』における役割についての説明をお願いできますか?
ダグ:ダグ・ベイアーです。マジックの世界構築チームにおける、首席クリエイティブ・デザイナーです。『イコリア』でもクリエイティブ統括を務めました。クリエイティブ統括の役割は、セットの創造的一貫性とゲームプレイや製品の意図が一貫性を保つようにすることです――基本的に、優れた人々の間の想像力的接着剤です。そして優れた人々の名簿は常に分厚いんですよ!
アンドリュー:アンドリュー・ヴァラスです。サム・バーレイから『イコリア』のアート統括を引き継ぎました。ワールドガイド製作の監督とセットのためのカードアート依頼を担当しました。第二段階と最終段階の依頼を提出した後、残念ですが個人的な事情からウィザーズ・オブ・ザ・コースト社のこの地位から退かざるを得なくなりました。すべてが完成した姿を見ることができてとても興奮しています!
ジュアン:ジュアン・チュウです。マジック:ザ・ギャザリングのイラストレーターであり、現在はウィザーズ社のマジック・クリエイティブチームの上級コンセプト・アーティストです。確か、私がシミック連合のために描いた狂気の混種生物(《ヒレバサミダコ》を含む)をいくつか見たサム・バーレイが(コンセプト進行に加わらないかと)接触してきたんです。
アート:Nick Southam |
問:世界構築は一つのチームに率いられているかもしれませんが、このセットの創造的一貫性に貢献する「優れた人々の分厚い名簿」には他にどなたがいらっしゃいますか?
ダグ:イコリアの詳細な世界構築についてはライターと協力しました。ワールドガイドの概観や雰囲気についてはアートディレクターやコンセプトイラストレーターと、世界とゲームプレイが上手く調和するようにデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysのセットデザイン・チームと、スケジュールや製品一式はプロデューサーやプロダクト・アーキテクトのマイク・チュリアン/Mike Turianと、カードアートに関してはアートディレクターや才能あるフリーランスのイラストレーターと、ブースター・ファンの形式や展望のためにはさらに別のアートディレクター、イラストレーター、グラフィックデザイナーと、名称やフレイバーテキストはさらに別のライターや編集チームと、物語についてはフランチャイズ・チームと、セット内容の公開や発表の方法についてはマーケット担当やコピーライターたちと協力して進めました。
マジックのセットというのは怪物ですね――こんなにもたくさんの人間を食らうのですから!
問:イコリア次元はどういった発想から始まったのでしょうか?
ダグ:サム・バーレイが、自由気ままな進化が跋扈する世界というアイデアをくれました。それをしばらく煮詰めて、やがて誰かが「怪物の島」というフレーズで表現し、それに全員が興奮しました。サムが「そのイメージ」を描いた時、すべてがひとつになりました。
アート:Sam Burley |
誰もがこの絵に足を止めてコメントをくれました――怪物と人間の絆には誰もが惹かれると言っていいでしょう。この絆という感情が、この世界に魅力と情緒ある心をくれたのです。そしてスケジュールを組み立てに入りました。上司たちがこのセットアイデアに青信号を出し、私たちの仕事が始まりました。
問:このセットの世界構築過程にはどのように取り組みましたか?
ダグ:世界構築ライターのチームは毎週集まり、アイデアをブレインストーミングして全体的な方向性を決めていきました。私と一緒に働いているとわかるでしょうが、同僚がアイデアを叫んでいる間、私はホワイトボードの前に立っているのが大好きです。
私たちがこのセットで初めて採用した楽しい手法の一つに、私が「群れのうなり声」と呼んだものがあります。世界構築の途中のある時、私はチームに、今現在のこの世界について考えた上で、世界構築についてプレイヤーから聞かれるかもしれない批判を言ってくれないか、と頼みました。そのマインドセットに入るのは難しくありませんでした。私たちは自分自身を完全に解き放ち、耳にするかもしれない意見でホワイトボードを埋め尽くしました。
そしてこれは、これまでのブレインストーミングの弱点を補い、私たちが向かっていた雰囲気の方向性に取り残されたと感じるかもしれない客層を特定するのに役立ちました。細部の軌道修正を行い、世界全体をより強固なものにしました。これはクリエイティブの武器庫において優れた道具となり、以来、他のセットでも使用してきました。
問:世界構築からカットされたアイデアはありますか?
ダグ:当初、怪物だけでなく景観も進化するのはどうだろうかというアイデアがありました。溶岩流、プレートテクトニクス、島嶼の並び――「変化し続ける世界」という全体テーマです。クールなアイデアではありましたが、ゼンディカーの「乱動」に似すぎていました。そのためその部分は、ゲームプレイに非常に合致しているとわかった「成長、突然変異しそうな怪物」に焦点を当てることを優先して棚上げになりました。
アート:Jason A. Engle |
問:『イコリア』のビジュアルや物語にも深く結びついているメカニズム、変容について詳しくお話しいただけますか?
ダグ:私が覚えている限り、『Cricket』の最初の方向性は、クリエイティブの段階にあった「怪物の島」というアイデアから導かれました。ですがマジックのほとんどのセットや世界と同様に、機械的なゲームプレイとクリエイティブ的表現の間には相互作用があるものです。
この相互作用の大きな例として、変容メカニズムの開発があります。変容の機能は当初、かなり限定的でした。変容持ちのクリーチャーは、それとクリーチャー・タイプを共有するクリーチャーにのみ変化できるというものだったのです。「猫」は「猫」にだけ、「恐竜・ビースト」は「ナイトメア・恐竜」や「ビースト・エレメンタル」に、といったようなものです。このメカニズム的方向性は、当時私たちが取り組んでいたクリエイティブ的な意図に基づくものでした。絶え間ない変化の中にある怪物というのはどのような外見なのか、私たちには多くのクールなアイデアがありました。恐竜の棘やライオンのたてがみ、または重厚な獣の蹄を得るのです。
アート:Sam Burley |
そのクリエイティブ的方向性から、5つの主要な怪物種族(猫、エレメンタル、ナイトメア、恐竜、ビースト)が決まりました――機能的に関係する種族の数を適度に少なく保ちながら、幅広い怪物の姿を作り出せるように選択されました。
ダグ:ですがそのセットをプレイすると、種族の厳密なマッピングがゲームプレイを狭くしすぎていることがわかりました。変容はこのセットでも最も楽しい部分の一つですが、「猫は猫に」のルールはたくさんの楽しい遊びを妨げていたのです。私はデイブと話し、怪物が人間以外になら何でも変容できるように、ゲームプレイをもっと開放してみることにしました。その調整によって、世界構築的に人間・兵士が不意に猫・ナイトメアになることは解禁しませんでしたが、怪物が怪物へ変容するというのは同じまま、変容をずっと頻繁に楽しめるようになりました。おまけに、変容メカニズムを使いながら、もっとずっと奇妙なクリーチャー・タイプへ向かうことのできる怪物を作成できます。以上、変容メカニズムがどのように変容していったかという話でした。
アート:Sam Burley |
世界構築の初期段階が終わると、コンセプト進行に移行しました。客員アーティストと社内のコンセプト・アーティストを集め、この世界ならではのビジュアルについて3週間をかけてブレインストーミングと反復を行うのです。この時にワールドガイドに掲載されるすべての参考画像が作られ、それらを元にイラストレーターがカードアートを製作し、今、プレビューシーズンに皆さんが目にしているものとなります。『Cricket』では、サム・バーレイがイコリアの野生生物や環境に取り組むチームを集め、ダーケン/Daarken、ジェスパー・ユージン/Jesper Ejsing、ジェイソン・A・イーグル/Jason A. Engle、カーステン・ザンギブル/Kirsten Zirngibl、ジュアン・チュウ、そして社内コンセプト・アーティストとしてレベッカ・オン/Rebecca Onとニック・サザン/Nick Southamがいました。
猫の怪物は、群れの中をうろつく獰猛な肉食動物。
問:ジュアン、マジックのコンセプト進行に初めて加わった感想を聞かせてください。
ジュアン:えー……素晴らしいものでした。私は『フォールン・エンパイア』(1994年発売)からマジックのファンで、いつかこのゲームのイラストを担当するのが夢でした。コンセプト進行に招待されること、私が感服しながら育ったマジックのアーティストの皆さんと一緒に仕事をすることは、夢の実現を遥かに超えたものでした。
問:コンセプト進行の間、視覚的なインスピレーションを何処に求めましたか?
ジュアン:すでに有名なインスピレーションのいくつかから引き出しました。怪獣映画、動物の相棒との物語、ちょっと変わったアニメなどです。また、ジェスパー・ユージンがひねり出していた素晴らしいスケッチのすべてを横目で覗くという特権にあずかりました。
問:最も解決が難しかったものは何ですか?
ジュアン:奇妙なことに、ビーストやエレメンタルといった普遍的クリーチャー・タイプについては、本当に困難でした。非常に多様なクリーチャー・タイプに固有の何かを思いつくのは難しいものです。
エレメンタルは驚異的で、老いることのない、神秘の存在。
問:『イクサラン』でも恐竜を扱いました。『イコリア』の恐竜をそれらと差別化するために、どのようなアプローチを取りましたか?
ジュアン:羽毛を生やさないことです! もっと伝統的な恐竜の姿、ですが鎧と少々の棘でやりすぎてみました。
怪物の中でも恐竜は、うねる溶岩のあらゆる暴力と激怒を体現している。
問:ナイトメアの開発について聞かせてください。イコリアのナイトメアはどのようなところが特別なのでしょうか? 他のセットのナイトメアと、どのようなところが視覚的に異なるのでしょうか?
アンドリュー:ナイトメアの開発は私にとって特別に面白く、まさにコンセプト進行の成功に対する興奮そのものでした。ナイトメアは私たちがコンセプトを進める中で最も自信が持てなかったクリーチャーでしたが、それでも最初も最初のスケッチの段階からピースはひとつになっていました。他のもっと単純なクリーチャー・タイプよりも遥かに苦労せずにそのコンセプトを追求し、洗練させることができました。
アート:Daarken |
ダグ:私たちは、少し怖い、気味が悪い、または奇妙な怪物の友を持つのが好きな人々にアピールできるタイプの怪物を探していました。イコリアには山盛りの「わあああ! 逃げろ!!」(伝統的な巨大で狂暴な怪物)や豊富な「あら~~~」(世界構築では「肩乗り」と呼ばれた、可愛らしい小動物のカテゴリー)がいましたが、「こいつは……何だ?」の類が欠けていたのです。よくいるアドレナリン全開の肉食獣の恐怖から脱却し、謎や影や異質さに対するもっと原始的な恐怖に訴えかける怪物が必要でした。そこをナイトメアが埋めてくれたのです。
アート:Jason A. Engle |
ジュアン:ナイトメアは、これまではただ恐ろしい見た目のクリーチャーが放り込まれるカテゴリーでしかありませんでしたが、今やひとつの種族として以前よりずっと統一されました。イコリアのナイトメアにはより具体的な外見的特徴があります、(少なくとも!)6つの目、6本の肢、複数の尾、細い煙を発している、というようなものです。こういった、以前よりも明確な特徴は、別のクリーチャー・タイプがナイトメアへと変容したことが簡単に認識できるように導入されました。
ナイトメアは影のような、不安にさせる、隠れ潜む捕食者。
アート:Sam Burley & Jesper Ejsing |
問:人型ではないクリーチャーに多くの焦点を当てた世界の構築から何を学びましたか?
ダグ:ショーの主役は怪物であったとしても、それらと関わる人間のあり方が必要とされます。イコリアは極めて「人間の世界」です――人類がスケールと視点を提供することで、この世界の怪物は怪物でいられるのです。「怪物の島」というアイデア全体も、恐怖や愛や憎悪や憧れや、他にも怪物に対するあらゆるポジティブな感情を表現する人々がいなければ成り立たないのです。
アート:Jesper Ejsing |
問:イコリアで一番好きなクリーチャー・タイプは何ですか? どんなクリーチャーの眷者になりたいですか?
アンドリュー:本棚の上から2匹の猫が私を見つめているあたり、私はたくさんの猫っぽいクリーチャーの中から選ぶ必要を感じています。ですが正直に言うと、容易な分類をはねつける、このセットの愛らしいへんてこクリーチャーの方が好みです。私にとって確かな勝者は[カードプレビューまで検閲]ですが、準優勝の子たちもたくさんいますね。
アート:Jesper Ejsing |
ダグ:私はこの世界のビーストと繋がりたいですね。垂れ耳の優しい巨人、けどそれでも私をぺちゃんこに叩き潰してしまうような。つまり、私にとってこの世界は成就した願いそのものです。私を朝食にするか足跡型の水たまりにする能力が一番ありそうなクリーチャーを発見する、そのアイデアが大好きです。
ビーストは力強く、止められない、優しい巨人たちだ。巨体の草食動物に似ている。
ジュアン:ナイトメア! 驚くほど可愛らしくもあるんですよ!
アート:Jehan Choo |
問:このセットで最も誇れるものは何ですか?
ジュアン:私のナイトメア・リス。
ダグ:『イコリア』は危険と愛とがひとつになったものです。両方を組み合わせて刺激した時、マジックの世界構築は歌い出すのです。
アンドリュー:私が最も誇れると思うのは、セットの視覚的な目標の規定と、各アーティストが自身の創造性と技術を用いて各々のクリーチャーを想像する、その2つの領域を隔てるのではなく重ねることができたというものです。その自由が、結果としていくつもの非常に注目せずにいられないクリーチャーを生み出したと思います。
アート:Jesper Ejsing |
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(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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