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翻訳記事その他
セットデザインの怪物
2020年4月7日
『イコリア』のセットデザイン
怪物! 巨大で凶暴なものからかわいらしくて気まぐれなものまで、『イコリア:巨獣の棲処』のあらゆる怪物たちが私に語りかけてきました。私は常にこの動物世界の多様性と驚きに惹かれていて、その娯楽世界の幻想的な解釈に影響を受けて理論的にどんな怪物が存在できるかを検討してきました。私がフルタイムのゲームデザイナーになって丸16年経ちましたが、その前はマサチューセッツ工科大学でクローンマウスを使った後成遺伝子学の実験で博士号を取得していました。私の本質はシミックです。リードを務めるセットのすべてが得意分野というわけではありませんが、『イコリア』は間違いなく得意分野です。
『イコリア』は私がセットデザインのリードをした3つ目のセットです。『ドミナリア』が1つ目、『灯争大戦』が2つ目です。最初の2セットと同じぐらい野心的なセットを引き受けることになるのはしばらく後になるだろうと思っていましたが、この3つのセットの中で『イコリア』は多くの面で最も挑戦的で斬新なセットでした。
変容
変容は我々が新しくて恐ろしい怪物を作り出すための主要な手段です。展望デザインが終わった時点では、変容できるのはクリーチャー・タイプか引き継ぎ可能なキーワード能力を共有しているものだけでした。引き継ぎ可能なキーワード能力はほとんどが常盤木能力で、そして我々は変容をサポートするためにいくつか新しいものを作ることも検討しました。新しいクリーチャーはキーワードをキーワード・カウンターの形で引き継いでいました。どれが引き継ぎ可能か定義するだけでなく、プレイヤーがそれを覚えやすいようにしなければいけませんでした。変容できるものを厳しく制限することはフレイバーの面から見ると良いことでしたが、このセットのデザイン構造にいくつかの大きな問題が生じました。特に、この制限はこの荒削りな状態のメカニズムを機能させるためにクリーチャー・タイプとキーワード能力の被りをとても多くし続けなければいけないということを意味していました。
もしあなたが『灯争大戦』にキーワード能力を持っていて少し変わったクリーチャー・タイプの低コストのクリーチャーがいたのを不思議に思ったことがあるなら、今その答えが分かります。《力線をうろつくもの》《幸運な野良猫》《戦慄猫》そして構築フォーマットで活躍する《樹上の草食獣》はすべて、初期の変容メカニズムで変容できるクリーチャーの密度を充分にするのを助けるため、クリエイティブ側のダグ・ベイヤー/Doug Beyerから引き出した譲歩でした。この段階では、『イコリア』には各色ごとにメインとなるクリーチャー・タイプが存在していました。これは変容にクリーチャー・タイプが必要ないように変更された今でもある程度は保たれています。白には猫が、青にはエレメンタルが、黒にはナイトメアが、赤には恐竜が、そして緑にはビーストがたくさんいます。
セットデザインでは、わずか2週間で変容に最初の修整が行われました。変容クリーチャーは変容元のクリーチャーからキーワード能力だけでなくすべてのテキストを引き継ぐようになりました。これにより、プレイヤーは怪物たちの無茶苦茶な組み合わせをずっと簡単に作ることができるようになりました。この変更による重大な影響は、変容による誘発が増え続けるので、クリーチャー1体に変容をすべて集めることが促されるようになったことでした。これはたしかに反対者もいましたが、可能な限りで最も変容されたクリーチャーを作り出すという爆発的な性質に対する好意的な反応が数多くありました。
この反復工程によって改善されましたが、このメカニズムが生き残るには不十分でした。1か月後、人間でないクリーチャーがその他の制限なしで変容できるようになりました。クリーチャー・タイプの一致を不要にしたことで、セット構造の柔軟性と多様性が大きく増加しました。構築フォーマットのデッキ構築にこのような狭い選択肢がなくなったことで、とても魅力的なものになったように見えました。リミテッドでは、プレイヤーはこれまではドラフト中に自分のカードプールの中のクリーチャー・タイプとキーワード能力を詳細に記録するというとても重い負担をかけられていました。我々はその制限が少しのフレイバーを出すことを知っていましたが、この変更はデッキ構築の自由度を高めました。『イコリア』では、この変更によりフレイバー上の理由で、この次元にいる唯一のヒューマノイドは人間であるということになりました。
この後で数字に関する反復工程と可能な変更に関する議論がたくさん行われましたが、このメカニズム自体を完成形にするために必要な変更はほぼ1つだけでした。4か月後、私たちはクリーチャーの上だけでなく下にも変容できるようにしました。この変更は主に唱える順番を決めるのを簡単にするために行われました。あなたは目前にある課題に対して、常に最適のスタッツを維持できるようになりました。
変容はこのセットの重要な部分であり、すべての色で十分サポートされています。最もサポートが多いのは緑青です。これは《領獣》の完成品の一例です。
キーワード・カウンター
私は『アモンケット』の最終デザインとデベロップをリードしていましたが、このセットで使うパンチアウト・カウンターをカードでどのように作るべきかについて情報を提供する手伝いをしました。 その時期に、私はこのデザイン空間でキーワード・カウンターを使うという可能性に気づきました。『アモンケット』ではすでにあまりに多くの物事が進行していたので、私はこのアイデアを将来のために取っておくことにしました。私はセットのアイデアのために内部で活動するミニ・チームにこのアイデアを売り込み、そしてこのセットでそれが採用されました。
展望デザイン・チームはキーワード・カウンターについて時間をかけて掘り下げました。クールなデザインの多くは展望デザインの過程で生じ、私のセットデザイン・チームはさほど手を加えていません。またキーワード・カウンターは最初期のバージョンの変容と重要なつながりがありました。そうでなくなった後でさえも、キーワード・カウンターは作り上げた怪物を強化する素晴らしい方法であることに変わりはありません。一部のデザイナーたちはキーワード・カウンターを不要だと感じましたが、私はできる限り最高に贅沢な怪物を作り出すことに全力をかけました。
導師サイクルは展望デザイン初期のサイクルの1つです。私が行った唯一の意味のある調整は、対応するキーワード・カウンターを持ったクリーチャーに+1/+1カウンターを置く起動型能力を、1体ではなく全部にしたことだけです。
この変更はいくつかのキーワードをほとんど部族のようなデザイン空間として機能させるという、私が『イコリア』で行おうとした大きな変化を反映していました。このセットの友好色のペアの主要な特徴の1つは、青白は飛行、青黒は瞬速、赤黒は威迫、赤緑はトランプル、白緑は警戒と言った感じで、特定のキーワード能力を軸にしたデッキを組むことを促す助けとなる4つのカード・サイクルです。ここで要注意なのは、瞬速はキーワード・カウンターが意味をなさないので、黒の導師は例外であり絆魂に関するものになっているということです。
私は多くのカードについて、1体のクリーチャーに同じキーワード・カウンターが複数置かれることを避けようとし、もし複数置かれている場合それがめったに問題にならないようにし、そして我々のこのデザイン空間への最初の進出にあたって基本的にカウンターの移動を最小限にしようとしました。とは言え、セットデザインの5か月目にアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheから以下のような書き出しのメールが送られてきました。
このセットで遊んだ(そして楽しんだ)。このメールでこのセットに入りそうだと思うカードのアイデアをいくつか送る……
- カードを周りに動かせる《Giant Fan》型のカード(おそらくレアのアーティファクト)……
このメールは最終的に、物語が中心になっているカードの1つのデザインに繋がりました。
これは《硬化した鱗》デッキのパーツになるかもしれないでしょうか? 私はこれと一緒に使える他の馬鹿げたものがいくつか思いつきます。
相棒
2017年の秋、私はピーター・リー/Peter Lee、マット・タバック/Matt Tabak、ジェイシー・タオ/JC Taoとの小さなチームを率いていました。我々は将来のセットのためのメカニズムを考え出そうとしていました。社内での大きなブレインストーミングの後、検討するべきアイデアの長大なリストができあがりました。そのアイデアのうち2つを組み合わせていて、我々はゲーム開始前のカードとデッキ構築上の制限というニーズと条件の補完しあう組み合わせを見つけました。プレイヤーが、統率者のような単に有利になるわけではないカードにどのようにアクセスできるようにするか? プレイヤーがデッキ構築において通常は必要のないデッキ構築上の制限をかけないとそれにアクセスできないとしたらどうでしょうか。これはこの過程において考え出された、我々が将来のセットで検討されることを望んでいる数多くのアイデアのうち1つに過ぎませんでした。
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストで働き始めてからずっと、私はデッキ構築に制限をかけるというデザイン空間でメカニズム的な何かを試してみたいと思っていました。展望デザイン中に人間と怪物のつながりを再現する方法を探していたときに、私はこのメカニズム空間を試すように頼みました。私は、これは似通った考え方や精神を持っていればプレイヤーとしてのあなたと怪物がチームを組んでいるということを表すことができると考えたのです。ゲームの開始時に見えていてプレイ可能なカードがあることは、あなたとあなたの怪物が戦いの相棒であることを示す強力な手段です。
『イコリア』にこのメカニズム的道筋を実装することに関しては確かに多くの懸念がありました。我々はとても多くの目標を抱えていて、すべてのカードでそれらを達成するのが困難になりました。必然的に、小さな目標がいくつか犠牲になる必要がありましたが、最重要目標は以下の通りでした。
- 新しく楽しいデッキとカードの見方の奨励
- 繰り返しになるゲームプレイの回避
- 検証可能なものである
- リミテッドと構築フォーマットの両方のゲームプレイで達成可能なものである
- 「普通の」デッキで4マナ域として楽しいものである
このデザイン空間の最初のアイデア全体に組み込まれたのは、デッキ構築に関するコストを支払わなければいけないというものでした。そうでなければ、デッキの基柱にできるカードを事実上手に入れられるというのは強すぎます。我々は2色混成のレアのサイクルを埋めるために10個の制限を考え出すことができました。混成コストでは単色や多色のコストよりも多くのデッキ構築が可能になります。既存のデッキのうちいくつかは少しの調整で他のデッキよりも簡単にこれらのカードを組み込むことができますが、我々は基本的に相棒カードのシナジーが既存のデッキに近づくことを避けようとしました。
おそらく、このメカニズムで我々が最も心配したことは同じプレイの繰り返しになってしまうことです。もしプレイする選択肢としてそのカードを毎ゲーム持っていたとしたら、それをほとんど毎ゲームプレイすることができるでしょう。たとえそれがメタゲームに斬新なデッキをもたらすとしても、飽きられてしまうのではないでしょうか? 私はプレイデザインにこのメカニズムの判断を急がず性能を試すように促しました。これが飽きるものであった場合、私は後でこのセットから取り除くことができます。これはこのセットの構造に必要不可欠なものではないのです。プレイデザインはこれに私の期待よりもずっと大きな愛着を持ってくれました。彼らは私が反復性を少なくする仕掛けを習得することを助けてくれました。私はこれらのカードが戦場に着地するターンを分散させるためにそのほとんどを高コストで想定していましたが、プレイデザインは出せるようになった最初のターンよりもマナ・カーブから外れたターンにプレイすることが正解になることが多い低コストのカードにすることができることを私が気づく助けになってくれました。
社内のプレイヤーのうち何人かは対戦相手がデッキ構築で不正をしているかどうかをとても心配していました。どうすればそれが分かるのでしょうか? ジャッジを呼んだり対戦相手のデッキを見たりできるのでしょうか? 結局のところ、これは我々がこのような懸念を真剣に受け止め、そして我々のデザインの多くを諦める必要があると気づかせるのに十分なものでした。《呪文追い、ルーツリー》は例外ですが、対戦相手が開始条件に合わないカードをプレイしているかどうかはすぐに明らかになるはずです。《呪文追い、ルーツリー》の場合でさえも、対戦相手が気づかないことを期待する以外にはデッキ構築を悪用して回避する理由はあまりありません。
私にとって大事なのは、これらすべてがリミテッドでも達成可能なものであることでした。そのうち1つもしくはそれ以上には難題がありますが、それ以外はうまく行くと思っています。たとえあなたのデッキがあまりうまく行かなかったとしても、目標を達成するということには満足感があります。条件付きドラフトで慣れている人がいるかもしれませんが、条件に向かってドラフトをする過程はとても楽しいものです。各相棒カードに向けてドラフトすることには、身に付けると得をする仕掛けがあります。また、これらのカードの多くは制限に従ったカードとシナジーがあるので、制限を完全には守れなかったデッキでもかなり強力です。その一方で、構築フォーマットにはその制限に沿って機能することを助ける、見つけがいのあるカードがたくさんあります。
最後に、我々は相棒カードを「普通の」デッキに4枚入れられるものにしたいと考えました。これらは相棒としてだけしかプレイできないのではありません。
楔3色
我々は、この段階でのスタンダードには『ラヴニカ』のショックランドや強力な2色のカードが豊富にあることがわかっていました。多くのプレイヤーは3色環境が大好きです。これはローテーションまでの半年間、3色デッキをさらにプレイし輝かせるのに良い機会でした。これによりすでに豊富にある『エルドレインの王権』の単色テーマから離れて対照的になることができます。最強のサポートカードのローテーションが近づいているので、『タルキール覇王譚』のように3色カードの支配する期間が長すぎるという心配も減ります。何か問題が? それは『イコリア』が3色のセットではないということでした。これは怪物たちのセットです! これはそれぞれの楔3色が独自のメカニズムとしっかりと確立された特徴を持っていた『タルキール覇王譚』のような陣営的なセットではありません。3色リミテッドに向かうための仕事の多くは、他の目標を考えると大変すぎます。そして『イコリア』は3色楔のカードがある怪物のセットであり、その逆ではありません。
実際にはどういうことを意味するのでしょうか? 『タルキール覇王譚』のように、後でパックから出たり回ってきた楔3色をプレイしやすいように敵対色に向かうことを強くおすすめします。アンコモンの多色カードは友好色の混成サイクルを除いてすべてが敵対色です。『タルキール覇王譚』とは違い、3色のコモンとアンコモンは存在せず、レアの友好色カードのサイクルと友好色の混成相棒が存在します。2色だけをプレイすることと友好色をプレイすることは、『タルキール覇王譚』の時よりもずっと頻繁に起こるでしょう。
展望デザインから引き継いだ内容には、レアの楔3色エンチャントのサイクルと、楔3色の変容神話レアサイクルが含まれていました。セットデザインの時に、私が楽しいと思うレアの3色サイクルが完成したのですが、それについてはまだ話せません。また我々はセブ・マッキノン/Seb McKinnonのアートによってよりクールさを増した神話サイクルも作りました。その他にもまだ話すことのできない楔に関係するものが存在します。
人間と眷者
我々は怪物たちをクールなものにするために頑張って働いたので、イコリアの人間も同じく好まれるものにすることが難しくなりました。メカニズム的には、人間は白と黒の色のペアを中心にしています。ここでは、自分たちの聖域の文明を守ることに専念する人間と、一部のあまり意識の高くない人間が見かけられます。これらの色では、この争いで人間の側に付き、怪物ではなく人間にオールインすることへの報酬の大部分も見かけられます。
一方で、自らの同族を探し怪物たちと対等に接しようとする眷者と呼ばれる人間が数多く存在します。人間をコントロールしていることで恩恵をもたらす怪物は相当数存在します。また人間と怪物の両方が一緒にいることに恩恵を与える呪文もあります。我々は各陣営が自己完結的過ぎないようにするためにカードを追加し続け、変容に専念するデッキであってもある程度人間を入れたくなるようにしました。これはその一例です。
眷者の衣装は誰でも気に入ってくれるでしょう。このアートとクリエイティブ・チームに敬意を表します。
サイクリング
我々はプレイヤーに大きいクリーチャーや呪文で遊ぶことを推奨したいので、ここでのサイクリングのアイデアを気に入っています。サイクリングはこのゲームプレイを助けてくれます。サイクリングのついた高コストの呪文はプレイヤーが土地を探すためにライブラリーを掘り進む助けとなり、マナ・カーブの中で重いカードを多くプレイすることを咎めません。サイクリングは赤白デッキの主要なテーマです。またこれは黒緑デッキや白黒緑デッキでリアニメイトや回収を促進する助けになります。サイクリング呪文は赤青や赤青白デッキで墓地のインスタントやソーサリーを増やす助けもできます。
我々は『アモンケット』からこのサイクリングというメカニズムについていくつかの教訓を得ました。 我々は軽いサイクリング・コストについてより攻めてみました。カードを引く以外の追加の効果を持っていないサイクリングのコストをすべて不特定マナにすることで、3色を使うことを選んだプレイヤーがスムーズにドローできるようにしました。その結果かなりのサイクリング・コストが{1}だけになりました。またサイクリング・デッキの新しい基柱カードもあります。
怪物
セットデザイン時のその他の大きな焦点は、シンプルに怪物を元ネタにした芳醇なトップダウンのカードを作ることでした。これも楽しい仕事でした! 我々が自分の仕事を正しく終えていれば、それらは自身のことを語ってくれるでしょう。
これは入れ替わっていった『イコリア』のセットデザインのメンバーのおかげです――コーリー・ボーウェン/Corey Bowen、アンドリュー・ブラウン/Andrew Brown、メリッサ・デトラ/Melissa DeTora、ジョージ・ファン/George Fan、ブライアン・ホーレイ/Bryan Hawley、アダム・プロサック/Adam Prosak、ドナルド・スミス・ジュニア/Donald Smith Jr.、ジェイシー・タオ、そしてガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verhey。また開発部内のその他の個人やチームがこのセットを印象深いものにすることを手伝ってくれたおかげです。そしてMagic OnlineとMTGアリーナへこの野心的な怪物のセットに我慢してくれたことに感謝の気持ちを捧げます。次はもっと簡単にすると約束します!
読んでくれてありがとう、あなたが『イコリア:巨獣の棲処』を大好きになってくれますように。
――デイブ・ハンフリー
(Tr. Takuya MASUYAMA / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)
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