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プレインズウォーカーのためのエルドレイン案内
2019年10月31日
プレインズウォーカーの皆さん、エルドレインへようこそ! さあ、ご案内しましょう……
王国
《のどかな農場》 アート:Howard Lyon |
多元宇宙には多くの美しい眺望や、絵画のようにのどかな風景が存在します。ですがエルドレインの王国ほど穏やかな所はそうありません。王国での生活はほとんどが単純かつ静かなものです。そしてそこを故郷とする者は、ほとんどが人間ですが、そのような生き方を好いています。
ですが王国は寛げる保養地である以上に、あらゆる高潔な魂が自らの価値を示して栄光へと至ることのできる壮大な舞台なのです。王国で成し遂げられた偉業には、幸せと尊敬と地位で報いられます。王国の住人の中には見知らぬ旅人を怪しむ者もいますが、私が見るに、別の世界からの訪問者ですら、求めるならば高貴な地位へと至ることができるのです。
王国の大半はこぢんまりとした村や農地ですが、それらは五つの宮廷によって統治されています。アーデンベイル、ヴァントレス、ロークスワイン、エンバレス、ギャレンブリグです。これらの宮廷は王国の人々を支え、護り、そして根源たる美徳を掲げています。五つの宮廷は大体において独立していますが、崇高の玉座の統治のもとにひとつの王国として結束しています。試合場では強烈な競争心を抱くかもしれませんが、大っぴらに争うことは稀であり、公的な戦争を行ったこともありません。
歴史
人類の隆盛よりも前、エルフが今では王国となった土地を統べていました。伝説いわく、森に果てはなく、見渡す限りにはびこっていた古の時代です。現在では各宮廷の中枢である五つの秘宝ですが、当時それはエルフの宝物でした。エルフの魔法がそれらの幾つかを創造した可能性すらあります。八世代か九世代前、人間が力を得るとやがて王国となる土地からエルフを追い出しました。彼らとともに森もまた退き、王国と僻境の境を作り上げました。以来ずっとエルドレインはその姿で知られています。
それらの秘宝そのものは、驚異に満ちて神秘的な物品であり、途方もない魔法の力と定命の理解を超える知覚を保持しています。確かに知られていることは、五つの秘宝それぞれは五つの美徳それぞれの物質的な体現であり、個人の内に宿る美徳を判断する力を持つということです。王国において、それらの秘宝の美徳(とその判断)は事実かつ疑いないものとみなされています。そしてその確実性によって、王国の社会全体が築かれているのです。
美徳
王国での生活は五つの根源的な美徳から成り立っています。忠誠、知識、執念、勇気、強さです。王国のあらゆる住人、その騎士、貴族、農民も、日々の生活の中にそれらの美徳を掲げようと励んでいます。王国に住む者は、他者を賛美もしくは侮辱したいと思うなら、しばしばいずれかの美徳に沿った行いの出来不出来を引き合いに出します。
五つの美徳は五つの秘宝によって確立しているため、絶対の尊敬と権威をもって扱われます。王国の住人にとって、全ての美徳が日々励むべき理想ですが、必ずしも全てが同等とみなされてはいません。通常、各宮廷は自らの秘宝に関連する美徳が最高のものと信じていますが、それは他の美徳に取って代わるものではありません。エンバレスの騎士は他の何よりも勇気を称えるでしょうが、不忠や無知を見下しもします。
騎士
王国において、騎士号は個人が得ることのできる最高の栄誉です。騎士たちは勇者であり英雄であり、美徳の模範として尊敬されています。王国の騎士は皆、「卿」の敬称とともに呼ばれ、多くの責任を負います。無辜の町民を守ることから、僻境での危険な冒険へ身を投じることまで。騎士はしばしば上質の鎧と武器を装備し、さまざまな大きさと種類の立派な乗騎を駆り、時には各自の宮廷の秘宝から引き出した強力な魔法を振るいます。
ある宮廷の騎士号を得るには、その宮廷の美徳に秀でていることを示す探索に赴かなければなりません。宮廷によっては、真の騎士となるための最後の試練に、その秘宝による審判が含まれています。
崇高の玉座と大探索
おおよそ一世代に一度、探索する獣と呼ばれる神秘的な生物が一人の傑出した騎士を選び、大探索と呼ばれる厳しい試練を課します。それは王国の崇高の玉座を得るためのものです。そのためには、王国でも至上の地位に相応しい十分な美徳を兼ね備えていると証明するために、五つの宮廷全ての騎士号を獲得しなければなりません。この五十年で、二人が至高の探索に挑戦しました。現在の崇王ケンリスとその妻、アーデンベイルのリンデン女王です。それは極めて珍しいことだと現地の人々から聞きましたが、正直に言って、言葉を話す三つ首の獣が君主を決めること自体、十分奇妙です。
アーデンベイル
《アーデンベイル城》 アート:Volkan Baǵa |
王国の牧草地と平原を見下ろす丘の上に建つのが、アーデンベイル城です。その壮大な城壁の中には丁寧に手入れされた芝生や精巧で豊かな庭園が何エーカーにも渡って広がっています。城の中央の塔の頂上付近に、忠誠の円環が何十人もの忠実な衛士によって守られています。
アーデンベイルは王国の平和の標であり、王国の力の証として象徴的かつ文字通りにそびえています。ただその名を口にするだけで、自身と仲間を守るかすかな魔法が織り上げられると考えられています。アーデンベイル城は崇王ケンリスと女王リンデンとその子供四人、ローアン、ウィル、ヘイゼル、エリックの家でもあります。
忠誠
アーデンベイルは忠誠という美徳を中核とし、その上に成り立っています。この宮廷は、忠誠とは統括する者へとただ卑屈に従うことだけでなく、仲間意識の基礎であり、他の美徳を支えると信じています。
忠誠をもって他者を信じ支える能力なくして、人々の間の真の調和は成しえない。そして調和なくして、真の美徳は成しえないのです。自惚れは忠誠の敵です。それは信頼と調和という基礎を蝕むものだからです。従って、アーデンベイルの騎士は利己的な思考と欲望を捨てることで、自らの美徳を完全なものにしようと励んでいます。
騎士
アーデンベイルの騎士は、他のどの宮廷の騎士よりも誠実です――その統治者に対してだけでなく、互いに、そして宮廷を成す共同社会全体に対して。真の騎士の忠誠はあらゆる傲慢や自尊に勝ります。勝利とは一個人ではなく集団に属するものであり、ただ一人の騎士の栄光ですら、アーデンベイル全体から生じたものなのです。
アーデンベイルの騎士は熱狂的に戦い、特に集団戦においては全員がさらに熱狂的に戦います。独りで探索に赴くことは滅多になく、その忠誠から、敵の手中に陥った味方を見捨てて逃げることは決してありません。戦いに携わっていない、もしくは僻境で単独の探索を行っていない時は、交際や対話のために宮廷に集うことを好みます。他の何よりもその価値を大切にしているのです。
世界へと有益な変化をもたらしたいと願う旅人は、アーデンベイルを目指します。アーデンベイルの騎士はしばしば、王国の守護者としてあらゆる類の魔法的な危険から無辜の人々を守るために何処へでも旅立ちます。また王国への忠誠から、危機の際には他の宮廷からも真っ先に助力を求められています。
忠誠の円環
《銀炎の儀式》 アート:Jason Felix |
アーデンベイル城の中心は、永遠に燃え続ける銀の炎の魔法の円であり、忠誠の円環と呼ばれています。アーデンベイルの騎士となるためには、志望者はその炎の中を歩いて通らなければいけません。その魔法は身勝手な者や高慢な動機を看破するのです。無傷でその炎を通ったものは資格があると認められ、輪そのものの中心で騎士号を授けられます。燃えた者は速やかに引き出されて治療されますが、二度目の挑戦を許されることは稀です。
忠誠の円環はアーデンベイルの騎士や魔道士へと、仲間を癒し敵を聖なる炎で撃つ力を与えます。忠誠の魔法は集団で唱えられる時はさらに力を増し、騎士たちの間に見えざる絆を築き、互いを守る力を増幅します。円環への誓言は魔法的な言質を与えられ、その誓言を破ろうとした者は直ちにアーデンベイルを追放されます。
《立派な騎士》 アート:Yongjae Choi |
不動の女王、リンデン
《不動の女王、リンデン》 アート:Ryan Pancoast |
アーデンベイルの女王は、崇高の玉座を求める手強い競争者でした。二十五歳の時、彼女はヴァントレス・ロークスワイン・アーデンベイルの騎士となりました。そしてその探索行の中で将来の伴侶に出会いました。同時に二人の騎士が至高の探索を受けるという状況の特殊さが、互いを引き寄せたのです。二人は恋に落ち、崇王ケンリスが探索を完了して玉座へと昇るとまもなく結婚しました。リンデンはローアンとウィルの双子を育てるというもっと大きな目的を見出しましたが、それでもアーデンベイルの玉座へ至り、夫の隣で宮廷を統べています。
危機にもひるむことなく、リンデン女王は賢明かつ現実的な指導者として臣民から敬われています。私は旅の間に訪れた王国のあらゆる町で、リンデン女王の功績について一度は耳にしました。国内のもめ事を仲裁したり、僻境との争いを解決したりです。騎士たちはしばしば、探索行に赴いていた頃の女王の栄光を口にします。四つの騎士号を得るというは今も世界で極めて稀なことなのです。一つですら得ることは困難なのですから。
ヴァントレス
《ヴァントレス城》 アート:John Avon |
ヴァントレス城は王国の辺境に位置する霧がかった湖、メア湖の水面から島のようにそびえています。長旗や小旗が尖塔からひるがえり、まるで精巧な泉のように城の隅々にまで水が流れています。城は、通常は水没している巨大な岩の柱の上に建っています。その底は薄暗い洞窟のような場所で、そこに魔法の鏡が鎮座しています。
ヴァントレス城は王国の学識の中心として名高く、この場所以外では得られない情報を求めて他の宮廷の研究者や質問者がしばしば困難な旅をしてヴァントレスに赴きます。
知識
ヴァントレスの騎士は、知識こそ最高の美徳だと信じています。知識はさまざまな状況で他の全ての美徳を正しく適用させ、問題がさらに悪化することを防ぐのです。
知識とは事実の習熟を超えるものです。互いに繋がりのない情報のまばらな集まりは知識ではなくトリビアです。真の知識とは体系や原理のさらなる理解を引き出すために、異なる事実を統合する能力の内にあります。無知だけでなく、凝り固まった考えや旧弊の伝統もまた知識の敵です。ヴァントレスの騎士は世界への理解を、新たな情報と見解をもとに適応させることができなければならないのです。
騎士
ヴァントレスにおいて、騎士号とは世界の挑戦に適用される知識です。騎士になるためには、志望者は魔法の鏡が持たない知識を与えなければなりません。そしてそれでも、騎士号が与えられるか否かは鏡の不可解な裁量によって決定されるのです。
騎士号を与えられたなら、ヴァントレスの騎士は鏡のために新たな秘密を求め続けます。ですが彼らが世界と僻境へ旅立つのは、その知識を活用するためでもあるのです。彼らの多くは知識を必要とする他者の力になろうと励みます。フェアリーの謎かけに困っていたり、魔法の扉を通れなかったり、魔法に虜にされていたなら、ヴァントレスの騎士が現れてその窮地から救い出してくれるかもしれません。
伝承魔道士
ヴァントレスの魔術師は(しばしば伝承魔道士、年代学者、謎の探求者と呼ばれます)、僻境の伝承を捜し歩いてフェイ属が知る複雑な魔法の秘密を熱心に研究します。彼らは驚くほど勇敢で旅慣れた学者です。あらゆる宮廷の騎士たちが人里離れた沼地や蛍が舞う洞窟を探索して、ヴァントレスの伝承魔道士がすでにそこにいることを発見するのは珍しくありません。ヴァントレスの魔術師は超自然的存在との契約に長け、変身や、フェアリーと約束を交わしたことによる影響を解決します。彼らはこともなく反例や例外、特殊な事情を朗じてのけます。ひとつ警告しておきましょう、伝承の記録者に意見を求める時は、徹底的な詳細を答えることに耐える心構えでいるように。
魔法の鏡
《魔法の鏡》 アート:Anastasia Ovchinnikova |
ヴァントレス城の遥か地下、しばしば水没した中に、秘密を抱く魔法の鏡があります。真の名はインドレロンと言いますが、その名で呼ぶのはヴァントレスに在住する者だけです。伝えられるところによれば、遠い昔、世界で最も愚かなレッドキャップが、世界で最も賢い賢者へとひとつの質問をしました。その賢者はこの質問を生涯かけて考えましたが、答えが見つかることはありませんでした。賢者の死後、その質問は魔法的に残り、形をとり、魔法の鏡になったといいます。その質問が何だったのかは鏡以外に知るものはなく、ですが今日でも鏡はヴァントレスの伝承魔道士や騎士を送り出しています。神秘の秘密を集め、いつの日かその答えを解明するために。
鏡は訪れた者全てへと知識の美徳を与えます。騎士号の授与は最もありふれた報酬ですが、すでに名を上げた騎士であっても、魔法的祝福や力といった形のさらなる報酬を得られることを願って鏡へと新たな秘密を捧げに訪れます。同様に、ヴァントレスの宮廷に加わる気のないマーフォークも鏡を訪れてその秘密を学ぼうとします。鏡の最大の力は未知数ですが、その知識が至る範囲は紛れもなく広大です。
《老いたる者、ガドウィック》 アート:Colin Boyer |
他の宮廷とは異なり、ヴァントレスに公的な統治者は存在しません。代わりに、ヴァントレスの人々は魔法の鏡そのものに率いられています。それでも、その時間のほとんどを水面下で過ごす知的な魔法の物品からの命令を受けることは極めて困難です。そのため日常的な職務のほとんどは、「大魔導師」の称号を持つヴァントレスの特別な伝承魔道士の役割となっています。鏡から尊重されるだけの立派な心と、しばしば謎めいた教えを解読する能力を必要とするため、大魔導師は他の宮廷の君主と同等に尊敬されています。それでも、現職の大魔導師ガドウィックいわく「そんな大仰に振舞う余裕は滅多にない」のだとか。
ロークスワイン
《ロークスワイン城》 アート:Titus Lunter |
ロークスワイン城は可動性の、空を飛ぶ要塞です――巨大な建築物が雨雲の上に浮かび、絶えず動いているのです。城の下の天候は女王の気分によって(真偽は不明ですが)、小雨から大嵐にまで変化します。城は地上にも水上にも降りることができます。また、それを浮遊させているものと同じ魔法が、小型で一時的な雨雲に乗せて騎士たちを地面に下ろします。
ロークスワイン城の内部は狭い通路と連結した大広間の迷宮です。他の宮廷から訪れた騎士は僻境と同じようなその迷路をさまよい、エルフの魔法が方向感覚を喪失させたのではと訝しみ、やがて、城内で迷った者を恐怖が支配します。
執念
《乱闘の華》 アート:Magali Villeneuve |
ロークスワインの目から見て、執念は最高の美徳です。それは他の美徳を目的へと向かわせ先導します。ロークスワインでは、執念とは決意、目的意識、言質、勤勉さ、諦めない不屈の精神を意味します。
ロークスワインの貴族は正統な尊敬を受けているにもかかわらず、自らが大釜を探す騎士ではないことを常に思い悩んでいます。その理由について、ある騎士が答えました。「富の根気強い追及、他の宮廷と関係を築く絶え間ない努力、宮廷にて女王に仕える辛抱強さ――それらは最高の美徳の立派な表れですが、大釜の探索こそがそういった献身の最高の使い道なのです!」
騎士
ロークスワインの騎士は横柄で、最高の美徳への献身によって自分たちは他の騎士よりも優れていると信じています。彼らは負け戦から逃走するほどには実用的ですが、その執念によって戻る手段を見つけて敵を倒すでしょう。ひとつ忠告しておきます。些細なことでロークスワインの騎士と敵対しないように。彼らは一生恨みを抱き続けることで王国じゅうに知られているのですから。
武装していても、ロークスワインの騎士は常に、女王の華麗な宴に十分参加可能な装いです。ロークスワインの騎士の最高の大望は、永遠の大釜の探索を受けるほどに名を上げ、その探索へ挑む前に女王と結婚することです。それまでは、彼らは他の魔法的恩恵を探索して女王の機嫌を取ります。
永遠の大釜
《永遠の大釜》 アート:Tomasz Jedruszek |
永遠の大釜は、認めた者に永遠の命を与え、死者を蘇らせる力を持つ巨大な石の釜であると言われています。それらの説は他の四宮廷の秘宝について知られている事実や、ロークスワインの邪術師が振るう生と死の魔術から矛盾はないとされています。ですが結局のところ、それらの話は立証できていません。永遠の大釜が何世代にもわたって失われているためです。
エルフが王国を支配していた時代、ロークスワイン城は永遠の大釜が座す洞窟の上に建っていました。ですが人間が王国を支配すると、その大釜は僻境へと失われました。各城の秘宝はその道徳的な、魔法的な、そして文字通りの錨となるものだと言われています。従って、ロークスワインは宙に浮いたまま王国を彷徨い続け、アヤーラとその騎士たちは失われた秘宝を長年に渡って取り戻そうとしているのです。
アヤーラ女王
《ロークスワインの元首、アヤーラ》 アート:Ryan Pancoast |
ロークスワインの統治者がアヤーラ女王です。宮廷の統治者の中では唯一のエルフです――僻境からの移民ではなく、古の王国から残る最後の統治者です。想像を絶するほど古からの存在であり、ほとんど不死で、執念の体現であり、他の宮廷の人々が狼狽するほどの愛を臣民から捧げられています。
公的な称号は「ロークスワインの元首」ですが、王国の人々はしばしば彼女を「寡婦の女王」と呼びます。何世紀にも渡る多くの配偶者にちなんだものです。アヤーラはロークスワインの勇者が(究極的には死へと至る)探索へと出発する前夜に結婚します。伝統的に、一人の勇者が探索に出発してから一年と一日後、アヤーラはその勇者の死を宣言して葬送の宴を開きます。通常それは翌日まで続き、夜明けには女王と次の勇者との婚姻の宴へと移行します。
ロークスワインの人々はアヤーラを、執念という美徳の生ける体現と見ています。他のエルフが王国から去ってからもずっと残っている(「留まっている」の意味です)だけでなく、永遠の大釜を探し続けることは、その尽きない決意を示しているのです。女王の意志により、城そのものが前進を続けています。そして女王の模範は人々へと「進み続ける」ことを促し、それは多くの宮廷の騎士が取り入れる非公式な標語となっています。
エンバレス
《エンバレス城》 アート:Jaime Jones |
王国じゅうの貴族がエンバレス「城」と呼んでいようとも、それを自らの目で見たなら、エンバレスを真の城と呼ぼうとはしないでしょう。全くもって、エンバレスを故郷とする騎士はその不適切な呼称にほくそ笑むのです。住人にとって、エンバレスとは自由都市とその周辺地域全体です。時に城と呼ばれる巨大な闘技場の建物は、その真の名前を燃焦苑といいます。
燃焦苑は競技場や訓練場、そして終わることのない勝ち抜き試合の観覧席が一つに組み合わさったものです。開催されているのは馬上槍試合、レスリング、乗馬戦、一対一の対人戦、弓術、その他の戦闘技術の競技です。ここは王国じゅうでも重要な施設であり、全宮廷からの騎士(と志望者)がやって来ては、どこまで勝ち進めるかを試すのです。そこに入る勇気を持つ者全てに、参加権利が与えられています。
勇気
《胸躍る可能性》 アート:Steve Argyle |
エンバレスの騎士は勇気こそが最高の美徳と信じています。勇気をもって行わなければ、何も真に有徳ではありえないためです。勇気がなければ、誰も新しい物事に挑むことはなく、その技術を磨こうと行動することもできません。ですがその心に勇気があれば、どのような挑戦も大それたものとはならないのです。
恐怖と臆病は武勇の敵であるため、エンバレスの騎士は恐怖を克服しようと奮闘します。恐怖からの真の逃走は不可能であると彼らは知っているため、恐怖こそ最も役立つ道具なのだと学びます。中身のない勇気はたやすい死に至るだけのものですが、真の勇気は、恐怖という賜物を達成への意欲に変える方法を知っているのです。エンバレスの騎士はしばしば、アイレンクラッグの最初の騎士イアンセの言葉を引用します。いわく、「恐怖は、その敵がお前の槍で倒すに相応しいかを定める」。
騎士
《燃焦苑の教練者》 アート:Yongjae Choi |
エンバレスの騎士は楽観的なことで名高く、正面から向かい続ける限り何事も成しえると心から確信しています。彼らは社交的で自信に満ち、常に新たな経験に挑戦したいと願い、とはいえ長命ではありません。勇気を示すために、エンバレスの騎士は決して盾を持たず、しばしば敵の壊れた盾を自身の鎧に取り入れています。
エンバレスの騎士は不合理なほど危険な探索に向かいたがります。最も驚異的な挑戦こそ、最も克服すべきものだと信じているのです。そのため、エンバレスの騎士は弱い心を挫けさせるような超自然的な危険に対峙した際に特に力を発揮します。怪物的な脅威と戦うだけでなく、同時に彼らは個人的な恐怖を克服するために探索に向かいます。子供の頃に脅かされたフェアリーや、母親をさらった魔女や、恋人の家を圧し潰した巨人を倒すというものです。
アイレンクラッグ
《アイレンクラッグの妙技》 アート:Yongjae Choi |
燃焦苑はアイレンクラッグ、火山の熱に輝く巨岩の隣に建てられています。エンバレスの騎士になるためには、志望者はその赤熱した表面からの恐怖に対峙し、自らの剣をその巨岩に突き刺さねばなりません。真に勇気があるなら、その剣を再び引き抜くことができます。ですが臆病もしくは恐怖に怖気づいたなら、その剣はアイレンクラッグに刺さったままとなります。
エンバレスの騎士によれば、アイレンクラッグは騎士志望者たちへと彼らだけが聞くことのできる声で話し、しばしばその勇気を試せと嘲ります。伝説によれば、その嘲りからイアンサは最初にその剣を突き刺したのだと。時に、極めて相応しい騎士を見つけた時、アイレンクラッグは剣に伝説の名を与え、永遠に続く力を吹き込むと言われています。
アイレンクラッグから力を引き出す魔道士は、自らの感情を繋げることでそれを全力で用います。これはしばしば炎の魔法として現れますが、エンバレスでも遥かに稀な魔法の形は恐怖へと繋がる力、怖術です。騎士は魔法的に自らの恐怖を戦いへの集中に変換し、敵を圧倒して戦意を奪うために用います。
評議会による統治
エンバレスには一人の統治者ではなく、騎士や貴族階級からなる統治評議会が存在します。この地位の人々は性急さと燃える情熱で非常に名高く、そのため頻発する個人的な争いは「表へ出て」、燃焦苑へと持ち出されます。この組織内での最も些細な個人間の口論ですら、競争や戦いで解決されます。このような競争が死に至ることは滅多になく、関係者全員が論争の最終的な決定の結果を受け入れる心構えでいます。結果として遺恨が長く続くことも稀であり、評議会のほとんどの職務は実際、丁寧に実施されています。
ギャレンブリグ
《ギャレンブリグ城》 アート:Adam Paquette |
ギャレンブリグ城は巨大かつ著しく奇妙な建築で、王国において人間が隆盛するよりも遥か以前に巨人によって建てられたものです。ギャレンブリグ城の大半はその秘宝グレートヘンジであり、それは飛び出した巨岩の先に座しています。城の他部分はヘンジを人間向けの大きさで取り囲んでおり、巨人規模の石と人間の建築、そして自然の草木が調和した融合が宮廷を形作っています。
ギャレンブリグの巨大な中央の石が、日時計の針となっています。特定の時間や日に、中央の石を取り囲むモノリスが天の星の並びに沿い、僻境の最深かつ最も暗い場所への一時的な門となります。
強さ
《筋骨隆々》 アート:Viktor Titov |
何よりも、ギャレンブリグの騎士は純粋な肉体の力を称えます。ギャレンブリグの騎士は最大の武器を振るい、最重の鎧をまとい、超人的な(もしくは、場合によっては超巨人的な)力技を振るって然るべきだとされています。彼らは同時に意志と気質の力も重んじます――ですが肉体的な力に加えてであって、代わりにではありません。
強さとは最も目に見える美徳であり、これはギャレンブリグの価値観を作っています。彼らは意図や欲求よりも行動が遥かに重要であるとみており、内的な生き方や個人的美徳にばかり目を向けて実際に何もしない者に対しては批判的です。
騎士
ギャレンブリグの騎士になるには、その体格や種族から予想されるものを超えるような力の技を証明しなければなりません。その技が騎士号に相応しいかは宮廷の統治者が判断しますが、ヨルヴォ王は容易く心動かされず、そのためギャレンブリグに騎士の数は決して多くありません。
騎士号を得た者はその力を大いに誇り、他の宮廷が「騎士らしくない」と考える目的にも快く用います。ギャレンブリグの騎士はしばしば、巨人と格闘したり森の巨獣と戦ったりする姿を目撃されます。ですが同等に消防隊として水を運び、嵐の後に森の中を片付けます。彼らはギャレンブリグの大広間で物語や競争を楽しみますが、ほとんどの騎士は外の世界で弱者や無辜の者を助け、守っています。
グレートヘンジ
グレートヘンジは巨大なモノリスが描く環状列石です。さまざまな形と模様に配置されていますが、それは何時訪れるかによります。一枚のそびえ立つ巨岩がヘンジの中央を見下ろし、巨大な日時計の針として機能しています。特定の日の夜明けと日没に、周囲のモノリスの影が特定の並びに指すと、中央の石が僻境の奥深くへと続く魔法の門となります。取り囲む暦の石を持ち上げ、望む時と行き先へと移動させることも可能です。とはいえ一つのモノリスをわずかに動かすだけでもすさまじい力を要します。その複数を正しい位置に配置して門を開くことは、実質ギャレンブリグの騎士号に値する力です。夜明けにその門を通り、日没時に帰ってこられなくても、一年と一日のうちに戻ってくるかもしれません。ですがそれで戻らないなら、永久に行方不明とみなされます。
ヨルヴォ
《ギャレンブリグの領主、ヨルヴォ》 アート:Zack Stella |
多くのフェイ属と同じく、巨人は通常は僻境に住んで王国の人間とは距離を置いています。ですがギャレンブリグの宮廷に協力することを選ぶ巨人もいます。ギャレンブリグの人々は巨人をその途方もない力から敬い、そして巨人たちはギャレンブリグを、かつての文明の中でも最も相応しい末裔と見ています。
現在のギャレンブリグ王はヨルヴォという名の巨人であり、その種の他より抜きんでた体格を誇ります。彼はその地位を奪おうとした挑戦者の壊れた武器で飾られた王冠を被っています。ヨルヴォ王の玉座は宮廷の上に伸びる日時計の針の影に立ち、象徴的にその石の重みを支えてギャレンブリグの人々を守っています。あらゆる宮廷の騎士と貴族にとって、ヨルヴォとその玉座は強さというものの正しい使い方を常に示してくれるものです。自分よりも力に劣るものを守るのです。
僻境
王国の宮廷と城から遥か遠くへ旅をすれば、周囲の世界が変わり始めていることに気づくでしょう。まるで巨獣に飲み込まれるように、森は暗く深くなります。棘茨と野の花が思うままに伸び、小さな積み石と神秘的に浮かぶ光が深くへ誘います。道は消え、もしくは知らないうちに折り返し、やがて方向感覚は遠い夢となります。そして旅人は、僻境の中に入ったと気づくのです。
僻境は気ままで、多様で、型にはまらず、予測不能で、無法です。何十もの異なる種類の生物が僻境に、無秩序かつ不穏な停滞の中に住んでいます。戦争に至るほど統制されてはおらず、とはいえ自由勝手すぎて平和に生きることもできません。人間に対しては、あるものは敵対的、あるものは無関心、あるものは興味を抱き、あるものは友好的、ですがその生物の種族がその振る舞いの確実な目安となることは稀です。
僻境の魔法はそこに生きる者と同じく自由で多様で、奇妙かつしばしば美しく現れます。それは魅惑的で、力を持ち、心地良く、清々しく、斬新かもしれません。ですが同時に不快で、気力を奪い、破壊的かもしれません。この魔法の幾らかを求めること、もしくは単純にそれを理解することも、王国の騎士たちが僻境への探索に赴く主要な理由の一つとなっています。
僻境は王国の道理から見ると予測不能ですが、私個人はそこに奇妙な、よじれた内的な道理の類を見つけました。まるで皮肉なユーモアの残酷さと、気まぐれな力によって現れたように。僻境の物語は愉快で楽しいものです、それに自分が巻き込まれない限りは。私が初めてエルドレインを訪れた時、僻境での遭遇の不合理な性質を説明してくれそうなことを、あるヴァントレスの伝承魔道士が教えてくれました。
「僻境カエルとの遭遇二十一回のうち十六回は、カエルに礼儀正しく挨拶をすると素早く後方に去ってくれた。三回は、カエルがグロッデヒモスと呼ばれる狂暴な生物へと変化する前に殺すことが適切な戦略となった。一回は、エンバレスの騎士十二人を殺す病となった。最後の一匹のカエルとの遭遇は長く、特別喜ばしい結婚生活となった」
フェイ属
《湖に潜む者、エムリー》 アート:Livia Prima |
王国の人間は、僻境に住む魔法的な生物を総じて「フェイ属」と呼んでいます。多くの異なる種族で構成され、それぞれの中でも集合的な目的や領域よりも個々の気まぐれと縄張りがあります。フェイ属それぞれの関心事があり、人間には推し量れない理由で不意にその営みに興味を持ったり失ったりします。
王国にとって、フェイ属は永遠かつ不老であるように映ります。さまざまな種族と集団が何千年にも渡って僻境に住み支配してきました。彼らは人類以前の存在で、ほとんどは人間の方が後から現れたと信じています。人間に対する彼らの認識は「危機」「新参者」「短命」と、異なる時間感覚によってさまざまです。
その多様性にもかかわらず、あらゆるフェイ属は人間の文明と社会構造へ共通の軽蔑を持つ傾向にあります。あるフェアリーはこう表現しました、「美徳は退屈。騎士はうざい。王様はすんごく邪魔な帽子をかぶってるだけ。真面目ぶってて可笑しいよね。剣を持って僕の森にやって来るのは可笑しくないけど。でもそんな時こそいたずらだよ!」 後に彼は教えてくれました。最高の悪ふざけは、だいたい少なくとも一人が死ぬものだと。
フェイ
エルドレインのフェイは多元宇宙でも最も多様です。すべて翼のある人型生物ですが、多くの異なる姿や体格や気質を持ちます。あらゆるフェイに共通するのは、人間とその大切な美徳を困らせることへの愛です。それは他のフェイ属以上のものです。僻境を旅した時、私は三通りのフェアリーに出会いました。とはいえ他にもっと沢山いると思います。
おせっかいのフェイは人間の生活を詮索することを好みます。手を貸すことと、相応しいと思った者を害することの両方です。これらのフェイは人間の大人ほどの体格で、優美で長い白色の衣服をまとい、不気味な天使のような輝きを放っています。王国は、おせっかいのフェイを忠誠の敵とみなしています。彼らは移り気で、ある日には助けてくれたかと思えば次の日には敵になります。時におせっかいのフェイは、浮遊する光や魔法の幻視で騎士を仲間から誘い出し、その忠誠を傷つけようとするかもしれません。他のフェイとは異なり、おせっかいのフェイは時に心から情け深く、不幸な魂を助けたり窮余の願いを叶えてあげたりもします。それでも、ほとんどの人間はその運命をフェアリーの手に委ねることには慎重です、相手がどんな種類であっても。
泥棒のフェイは手に持てるものを何でも盗み、行く先全てに混乱と不満を撒きます。このトリックスターは小型で、リンゴより背が高くはなく、鋭くとがった青い翼と髪が特徴です。盗んだ鍵を剣にまとめて、人間の衣服から破り取ったぼろ布をまといます。その大きさにも関わらず、泥棒のフェイは生意気で自慢好きで、常にその悪さの痕跡を残していくため、人間の犠牲者は彼らを懲らしめるには何処へ行けば良いかがわかります。彼らは策略とぺてんを楽しみます。そういったフェアリーの一体が教えてくれました、お気に入りの気晴らしはヴァントレスの伝承魔道士に嘘を吹き込むことだと。泥棒のフェイは王国で見られるフェアリーの中でも最もありふれています。彼らは人間の家や城に侵入してその所有物をくすねることを楽しんでいるのです。
悪戯のフェイは灰色の皮膚で大きさは人間の子供ほど、陰鬱な黄色の瞳と黒い羽根の翼が特徴です。その名前に欺かれてはいけません、フェイの悪戯は無害どころではないのですから。これらのフェイは遭遇した者全てに苛立ちや怒りや苦痛を与えることを好みます。あるいは彼らは最も移り気なフェイであり、執念という考えを鼻で笑います。悪戯のフェイについて一つだけ予測できるのは、常に心変わりをするということです。ランクルという名のフェイは同類のいたずら者の間でも悪名高いようで、「悪ふざけの達人」の称号を得ています。これまで目撃してきた悪戯者の残酷さから、あなたも私もその「達人」の称号を得るためにどんな恐ろしい行為が必要かということを学ぶ必要はないことを願います。
マーフォーク
エルドレインのマーフォークはその衝動的な好奇心で知られています。彼女たちはあらゆることを学びたがり、時に狂気の瀬戸際に至ります。ヴァントレスの騎士にとって、マーフォークは美徳なき知識の体現です。他者への奉仕のために知識を求めるのではなく、マーフォークは秘密を抱え込んでそれを他者に威張り散らすのです。結果として、マーフォークの起源や習慣や魔法について判明していることはわずかです。知識と秘密を求めることから、彼女たちの多くは魔法の鏡に程近いメア湖に棲み、完全に水没した時に訪れています。マーフォークと鏡との潜在的な繋がりはヴァントレスにとっても謎のままですが、人間の志望者がらせん階段を降りていく際は、しばしば影の中に不機嫌な姿が見られます。
魔女
魔女は僻境に住まう謎めいた人間の邪術師で、人間社会とは繋がりを絶ち、ほとんどは自分たちをフェイ属とみなしています。魔女は不道徳で残酷、邪悪な行いを大いに喜ぶと考えられています。さらわれてパイにされた子供、町を一つ滅ぼした毒入りの食べ物、下僕にされた偉大な騎士といった物語が語られています。
不当な行いをされると、魔女はその相手に呪いをかけます。それは犠牲者が何らかの償いをしない限り解けません。魔女は大食漢を豚に、不精者をナマケモノに、裏切り者をイタチに変えてしまいます。王国の人々は同意しないでしょうが、ある意味、彼女たちは世界の正義の暗き力なのです。
ドワーフ
《リムロックの騎士》 アート:Chris Rallis |
ドワーフは熱心な仕事と自立を尊ぶ、勤勉な職人です。彼らは鉱夫であり宝石商人、そして天然資源の管理はドワーフ社会において重要です。ドワーフは掘り出した鉱石から精巧な装身具や頑丈な武器を作り上げます。時に彼らは発見したものを王国の宮廷へ売却します。ドワーフは自分たちの作ったものを誇り、作品の品位を重んじます。
ほとんどのドワーフは自主自立で生きる個人の能力を高く評価しますが、究極的には数の力を好みます。ドワーフは通常、鉱床を所有する緊密な家族の集団で生きることを選びます。黄金の鉱脈やサファイアの洞窟それぞれが、異なる氏族に管理されています。ドワーフの家は地下にあり、それは巨大なクリスタルや宝石を彫ったもので、自然の光源からは遠く離れています。ドワーフの巣穴の中をその目で見た人間はいませんが、噂によれば、地下の家は巨岩ほどもあるルビーやエメラルドを掘り抜いて作られているといいます。
トーブラン
ドワーフの多くは階級制度や人間の宮廷の息苦しさを嫌い、僻境に住むのを好みます。わずかな特定のドワーフが、エンバレス宮廷の怖れ知らずの友愛に惹かれます。そういったドワーフは、氏族で重んじられる独立心に駆り立てられ、時に数年をかけて燃焦苑での競争に挑みます。その際にはしばしばドワーフ製の鎧や武器を持ち込んで戦います。
そういったドワーフの一人が、朱地洞という氏族の族長トーブランです。噂によれば、トーブランは若い頃に騎士号を得るべくエンバレスを訪れました。彼は対峙した相手全員を倒し、ですが報酬を得てアイレンクラッグを打とうという時、トーブランはそれを拒んだのです。いわく、アイレンクラッグが彼の武器の職人技をその嘲りで侮辱したのだと(ドワーフの文化では、それは疑いようもなく個人への攻撃です)。剣を試してその石を満足させることを望まず、トーブランはエンバレスを去って僻境へ戻りました。エンバレスには、去ったトーブランを臆病者と見る者もいますが、多くは彼がいつかその正当な騎士号を得るために戻ってくると信じています。彼らはまた、トーブランはこの数十年をかけ、アイレンクラッグへと恐怖そのものを打ち込む品質と力を持つ武器を作り上げていると信じています。
レッドキャップ
レッドキャップ(エルドレインのゴブリンの名前です)は悪意のある混沌の仲介者で、身長は樽ほど、歪んだ姿と敵の血で赤く染まった髪をしています。レッドキャップに栄誉やフェアプレーの意識は全くなく、騙し討ちと不意打ちに長けています。彼らはしばしば、僻境の端近くの村で略奪を行います。レッドキャップは戦いにおいては獰猛で無謀、恐怖と混沌を教え込んで人間の秩序を乱すことを楽しみます。王国において、レッドキャップは勇気の欠片もない存在とみなされています。彼らは全くもって不意打ちのような卑怯な戦略に頼り、敵より数で勝る時にのみ戦うのです。
あるヴァントレスの騎士いわく、レッドキャップとやりあう最良の方法は魔法の水でその頭から血を洗い流すことだそうです。その方法を試す機会は持てていませんが、正直言って、そのためにそのクリーチャーを何が何でも探し出そうという気はありません。
巨人
フェイと同様に、エルドレインの巨人もさまざまな姿と大きさです。あらゆる巨人は極めて大柄な人型生物で、その体格から推測されるよりも遥かに大きな魔法の力を保持しています。小柄な巨人は身長10フィートほどです。そういった巨人はしばしば銅の皮膚をしており、その巨大な力で小柄な人々を脅します。
大柄な巨人は身長15フィートほどです。そういった巨人は石の皮膚をしており、しばしば自然の苔に覆われています。これらの巨人は小柄な人々に対して親切な傾向にあり、その力を助力に用います。この人生観から、時に彼らはギャレンブリグの騎士を目指します。戦いにおいて、巨人の騎士は武装したマンモスに騎乗し、木よりも長い棍棒や斧を巧みに振るいます。
巨人は王国と僻境の両方に住んでいます。巨人の中には、人間の探索は五つの高貴な美徳を追求する立派な行いとみなし、その目的が対立しない限り協力したいと願う者もいます。ある巨人は、知識や忠誠といった美徳に固執するからこそ人間は弱いと信じ、王国の協調に興味を持ちません。またある巨人は古の遺恨を持ち続け、人間による王国の征服は彼らが信頼できない証だと信じています。
エルフ
《僻境生まれの保護者》 アート:Lius Lasahido |
フェイ属の中でも、エルフは大半が僻境の深い森を故郷としています。彼らは木々の中に隠れることに長け、森のマナに同調します。ほとんどのエルフは痩身で、人間よりわずかに背が高く、肌の色はさまざまで、耳は長く尖っています。自然世界との先天的な繋がりから、エルフはしばしばレンジャーや射手、スカウト、ドルイドとして森の見回りをしています。
エルフは自分たちの王国から追い出されたことを覚えています(事実、その頃から生きている者もいます)。彼らの心には憤りが残っていますが、恨みがましい敵ではありません。エルフと人間との遭遇は常に暴力に発展するわけではありませんが、決して温かいものとはなりません。森で鹿や猪を狩るように積極的に人間を狩るエルフもいます。
僻境での生活にもかかわらず、エルフは堂々とした物腰や王国の古の統治者としての誇りを保っています。ですが同時に人間の貴族階級の仰々しさをあざけっています。エルフはしばしば、シダや花や枝といった自然の材料で模した冠をかぶった姿が見られます。あるエルフは自分たちを騎士と呼びますが、王国は彼らをそうみなしてはいません。彼らは巨大な狐や狼に騎乗し、深い森をどのような馬よりも素早く移動します。
エルフのドルイドは集団における指導者であり、その知恵から尊敬を受けています。集団としてのエルフに関わる問題が浮かび上がると、ドルイドの評議会がそれを解決するために集まります。その評議会をまとめる権威を持つドルイドはいませんが、長い伝統的から、五人の長老ドルイドが栄誉ある地位を得ています――それは古の王国の、五つの魔法的聖地を表現しています。ドルイドたちは一つの多数派の決定よりも、総意へ至るために努力します。不運にもこれは、決定に至るまでに時間がかかりすぎたために状況が悲惨に悪化する場合もあることを意味します。
探索する獣
探索する獣は、僻境の中心深くに住まう、三つ首の巨大な獣です。この獣が下す判断の信頼性にもかかわらず、王国においてその姿を実際に見た者はわずかです。探索する獣は至高の探求を受けるに値する、選ばれたわずかな者の前にのみ現れるのです。私は獣の外見について、幾つもの矛盾した報告を聞きました。それが持つ無数の魔法的力についてもです。ただひとつ一致しているのは、その獣は三つの頭を持ち、それらは決して同じ顔をしないということです。獣に質問したなら、頭それぞれが異なる謎めいた回答をくれるでしょう。それらを自力で完全な真実へと組み合わせるのです。もしこの獣についてもっと学びたければ、王か女王その人に尋ねる必要があるでしょうね。
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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