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『Global Series: Jiang Yanggu & Mu Yanling』ができるまで
2018年6月7日
マジックはグローバルなゲームだ。
私たちウィザーズはこのことを肝に銘じている。私たちが何かをするときは、必ず所在地(アメリカ)だけでなく、世界中のファンのことを考えなければならない。
カードに収まるルール・テキストの量を考える場合、マジックは英語だけでなく他にもたくさんの言語で印刷されていることに留意しなければならない。新たなイベントやキャンペーンを行う場合、それを世界中で行うための方法や地域ごとのニーズを意識しなければならない。
そのため私たちは、各地域に専門チームを置いている。シドニーにはオーストラリア・チーム、東京には日本チーム、という風に。各チームは、その地域でうまくいっているものとそうでないものを分析し、ニーズに合わせたイベントやプログラムの修正などを立案してくれる。例えばマジックの物語を主軸にした日本の漫画(参考記事)は、分析の結果、日本という地域で好まれ楽しんでもらえるだろうと判断したからこそ実現した。
世界中でマジックを盛り上げるためには、各地域のチームの力が不可欠だ。(特にアメリカに住んでいるプレイヤーには)あまり実感はないかもしれないが、彼らは世界中のプレイヤーがマジックを楽しめるよう、縁の下で支えてくれているんだ。
彼らの働きがあるとないとでは大違いだ。私はたくさん旅をしているけれど(世界中の国を訪れることを人生の目標にしているんだ――これまで71か国へ行ったよ!)、どこへ行ってもマジック・プレイヤーがいることにはいつも驚かされる。私はいつも、旅先でマジックを取り扱う店へ足を運ぶようにしている。コスタリカからケープタウン、北京からバルセロナまで、どこへ行ってもゲーム店があり、人々がマジックをプレイしているんだ。このゲームがこんなに広がっているのは正直驚嘆ものだよ!
これを受けて、今年はまったく新しい製品を展開することにした。きっと私たちの製品展開を次のレベルへ押し上げる、これまでにない試みだ。
それが『Global Series』だ。
この製品は新たな領域を切り拓いた――中国チームとアメリカ・チームで共同製作したんだ。
たしかに、現実世界からインスピレーションを得て作られたセットは数多くある。例えば『テーロス』はギリシャ神話、『アモンケット』はエジプトの歴史から生み出された。しかし『Global Series』はそういった製品ともまったく違う。
では『Global Series』とは何か? そしてどのように作られたのか? 詳しくお話ししよう。
ご招待
長年にわたる調査と分析を経て、私たちは人々をマジックの世界に迎え入れるための鍵を見つけた……それは、マジックに触れてもらうことだ!
オーケー、わかってる。まったく革新的なアイデアではないね。わかりきったことかもしれないけれど、それを念頭に置くのは大切なことなんだ。
そのため私たちは、入門用製品の開発にかなり力を入れている。マジックを長年プレイしている人には見落とされがちだが、入門用製品はマジックを動かす大きな歯車だ。マジックが末長く健全に成長していくためには、新規プレイヤーの獲得が不可欠なのだ。
全体的に見ると、この方針はうまくいっている。多くの人がマジックのさまざまな側面に魅力を感じてこのゲームに触れ、実際にゲームを楽しんでプレイを続けてくれている。実際に、人が「マジック・プレイヤー」になる瞬間は2回目のプレイで訪れることがわかっている。初心者が最初のゲームを楽しみ、「もう1回やりたい」と思うのが理想だ!
そしてマジックに触れるきっかけとして多いのは、フレイバー面の魅力だ。マジックのフレイバーは最高だからね! アーティストが描く見事なアート。クリエイティブ・チームが生み出す世界や名前、フレイバーテキスト……
フレイバーが寄与するところは実に大きい。そのおかげで、ギリシャ神話好きも古代エジプト好きも、ホラー映画好きも、「これ知ってる」という感覚を得ることができる。
《ナイレアの試練》 アート:David Palumbo |
《栄光をもたらすもの》 アート:Sam Burley |
《終わり無き死者の列》 アート:Ryan Yee |
しかしこれには、大きな穴がある。そういった特定の世界観や比喩的な表現を知らない人もいるということだ。豊かなフレイバーも、その背景を知らない人の心に響かせるのは難しい。「グローバルなゲーム」であるはずのマジックが、多くの人を逃すことになるのだ。
そこで『Global Series』の出番だ。
中国チームは、中国のマジック・コミュニティが今よりはるかに成長するチャンスを迎えていることを強く感じていた。今、中国ではゲームが一大ブームなのだ。私も上海を訪れたとき、多くの人がスマートフォンでゲームを楽しみ、ゲームセンターやゲーム店、ゲームカフェがたくさんあるのを目にした。ゲーム市場が大きくなっているんだ!
それなら、中国のゲーマーをマジックへ引き寄せるための製品を作るのはどうだろう? 彼らがひと目でマジックに興味を持つような製品を用意するのは? そのためだけに通常のエキスパンション・セットを費やすわけには(まだ)いかないけれど、思い出してくれ――私たちは新規プレイヤーを獲得したいんだ。だから入門用製品を作るのが一番だと考えた。
さて、やると決めたら最善を尽くすのが私たちだ。まずは過去の失敗から学ぶ必要があった。
実は過去にも、私たちは似たようなことに挑戦している。『ポータル三国志』を覚えているだろうか。
1999年に発売されたこのセットは、アジア圏のプレイヤー向けの入門用製品だった。本質的には、『Global Series』と同じ目標を掲げて作られたものだ。しかしながら、これにはその目標に反する要素がいくつかあった。
まず、マジックの世界観ではなかったこと。フレイバーが大事なゲームにも関わらず、これは『三国志演義』のストーリーを語り直しただけのものであり、マジックの物語ではなかった。三国志のストーリーをなぞることをターゲット層が求めているのかわからないまま作ったのだ!
それから、『ポータル』として作ったこと。そのため収録カードすべてが極めてシンプルなものとなり、しかも通常のマジックでは使用されない言い回しが使われた。例えばこのセットにはインスタントがなく、《勇者の勝利》のようにソーサリーに使えるタイミングが書かれていた。またタップ能力もなく、タップすれば効果を発揮できると書かれたカードがあるだけだった。これでは本当のマジックを味わえない。
そして最大の難点として、これらのカードはトーナメントで使用できなかった(発売から6年も後の2005年まで、ヴィンテージやレガシーですら使えなかった!)。これも初心者に「本当のマジックと違う」と感じさせ、辛い思いをさせることになった。『ポータル三国志』で始めたプレイヤーたちは、その後近くのゲーム店で遊びたくなってもカードが使えないのだ!
その上さらに、この製品は中国や日本を主要ターゲットにしていたにも関わらず、北米のウィザーズだけで製作した。中国のアーティストを採用し、中国チームに相談はしながら作ったものの、『ポータル三国志』が目標通りの体験に満ちていたとは到底言えない。
『Global Series』では、これらの問題すべてに取り組まなければならなかった。
フレイバーを探す
さて、『Global Series』で新しいことをやると決めたら、最善を尽くすのが私たちだ。
最初に決めたのは、中国チームや協力者と密接に取り組むことだった。その中心となったのが、中国チームのシニア・ブランド・マネージャーであるデイヴィッド・ペイ/David Peiだ。私たちは彼をこの製品のデザインに迎え入れた。彼は仲間たち(ジム・リー/Jim Li、ゼロ・ウー/Zero Wu、ヤクィ・ファン/Yaqi Huang、アレックス・チョウ/Alex Zhou)とともにアイデアを練り、中国のゲーマーにアピールするためにはどうすれば良いかを確かめていった。北米のウィザーズからは、ドーン・ミュリン/Dawn Murin、ドリュー・ノロスコ/Drew Nolosco、メル・リー/Mel Li、マイケル・イーチャオ/Michael Yichaoが主にこのプロジェクトを担当した。(製品設計者の同僚であるマーク・ヘジェン/Mark Heggenも携わった。)
そして、製作が始まった。
最初に取り組むべき大きな課題は、フレイバーだ。『ポータル三国志』へ向かわずに私たちが求めるフレイバーを見つけるには、どうすれば良いだろうか?
私たちが求めるフレイバーとは、古典的な中国の世界観を表現しつつ『ポータル三国志』の二の舞にならないものだ。既存のストーリーを語り直すのではなく、トップダウンで生み出されフレイバーに満ちたマジックの世界と同じ手法で作りたかった。つまり、題材から受けたインスピレーションをもとに、新たな世界を作り出すのだ。
多くの調査と議論を経て私たちが注目したのは、『山海経』だった。
数千年前に書かれたこの中国の古典は紀行文のような内容で、中国の地理やさまざまな生物、神話がまとめられている。物語になっているのではなく、世界の様相を伝えるものだ。『Dungeons & Dragons Monster Manual』や世界設定集などとも異なり、私たちが新しい世界を築くための指針になるような書物だった。
これしかないと思った。
私たちは『山海経』に書かれた世界の有名な神話や場所、生物からインスピレーションを得て、マジックらしさ満載の新しいものを生み出すことができた。実際に製品になったアートの多くは、ふたつの体を持つヘビや一本足のツルなど、『山海経』に記載されている生物をすぐに連想できるものに仕上がった。
《Feiyi Snake》 アート:Qiu De En |
私たちは、確かに新たな世界を築き上げた――多元宇宙にある次元のひとつを作った。いつかマジックが訪れるのではと思えるほどだった。
『Global Series』は、中国の人の手で作り上げてほしかった――メイン・キャラクターも例外じゃない! ふたりのプレインズウォーカーのアート設定は中国の協力者が作成し、いくつかの候補から私たちが選ぶという形をとった。
以下に、最終的な設定資料をお見せしよう。(コスプレイヤーにも嬉しいね!)
アート設定はすべて中国のアーティストが作成し、私たちはウィザーズの中国チームとともに候補から選んだ。アーティストの中には超有名人もいるよ!
カード名については、マイケル・イーチャオの尽力のもとすべて中国語で作り、そのあと英語に翻訳した。いつもはその逆だが、そうじゃない。《Colorful Feiyi Sparrow》は英語でもぴったりな名前だけれど、中国語だとさらに素敵な響きになるよ。
それから、土地についても綿密な調査が行われた。どの土地も中国の伝統的な場所や物語をベースに中国らしさが表現されている。どれもすごく素敵だ。ぜひ見てくれ!
何時間にもわたる丁寧な取り組みと議論のおかげで、『Global Series』の世界は中国らしさを徹底的に味わえるものになった。名前からアートやキャラクター、世界観まで素晴らしい仕上がりになったのは、ひとえに複数のチームがみな同じ目標に向かって一致団結できたからだ。私も個人的に、このセットの基本土地を手に入れたいよ!(もし今回の試みが成功したら、いつかこの世界の《沼》を目にする日が来るかもね。)
大事なことを言っておくと、ここはマジックに実在しない「仮の世界」ではない。まだ名前のないこの世界や、このセットに収録されるキャラクターたちはすべて、マジックの物語の一部だ。さらにメイン・キャラクターがプレインズウォーカーであることも考えると……またこの世界に会える可能性はあるとだけ言っておこうか。
ゲーム性を求めて
こうして最高のフレイバーを作り上げた私たちだが、難問はまだあった。フレイバーが人々をマジックへ惹きつけても、彼らを引き留めるにはゲーム性も必要だ! フレイバー面と同様に、そこには取り組むべき問題がいくつかあった。
まず考えるべきは、本当のマジックを体験できることだ。幸いにも、これについては以前よりかなり楽になっている。私たちは、初心者にとって良い体験とは何かを1999年から学び続けてきたわけだからね!
私たちはゲームをシンプルにするためにルールを変えるのではなく(『ポータル三国志』では新しい用語が大量に登場したから、シンプルになったかさえわからない!)、「マジック」を存分に味わえることを目指し、そのために適切なカードをデッキに採用したいと考えた。なんといっても新しい世界が舞台だから、欲しいカードを自由に作れる!
次は製品の方向性をしっかり定めること。この製品は、中国市場向けの特別なプレインズウォーカーデッキだ。パッケージにはふたつのデッキが入っているけれど、『デュエルデッキ』ではなく『プレインズウォーカーデッキ』であることをはっきりさせておきたい。
そして残る問題は――カードが使用できるかどうか。
このセットは中国市場向けに中国で発売される製品であり、プレインズウォーカーデッキと同様にマジックを始めやすいものにしたい。先述した通り、『ポータル三国志』(や他の『ポータル』製品)の大きな失敗のひとつは、収録されているカードを認定イベントで使用できないようにしたことだ。そのせいで、せっかく「フライデー・ナイト・マジックに挑戦してみたい」と思ってくれた新規プレイヤーが、本当にひどい目に遭うことになった。初めて手にしたセットのカードを使ったデッキの中に、使用できないものが含まれているのだ。
しかしその一方で、『Global Series』を中国以外で手に入れるとなれば一気に難しくなる。さらに言うなら、中国以外の地域の人がこの製品からマジックを始めることを私たちは想定していない。私たちは、これらに対する解答を導き出す必要があった。
多くの議論を経て、私たちはいつもと違う方法をとることにした。『Global Series』に収録されるカードは、中国本土で開催されるイベントでのみスタンダードで使用可能にしたのだ。それからヴィンテージまたはレガシーでは、世界中で使用できる。そしてモダンで使用できるようにはならない。スタンダードのローテーション後は、『Global Series』のカードがスタンダードで使用できた理由が適用されなくなるからだ。
私たちが何よりも重視したのは、競技シーンに影響を与えないようにすることだった。中国のスタンダード環境とヨーロッパや北米のスタンダード環境がまったく異なるのは、マジックにとって好ましくない。なぜなら情報がまるで一致せず、ある地域の情報やデッキリストを他の地域へ共有できなくなるからだ。しかもそれは、Magic Onlineのように断片化された情報ですらない!
そこでプレイ・デザインは、『Global Series』のカードが構築フォーマットで目立たないよう入念にバランス調整を行った。プレインズウォーカーデッキを作成する際はいつも気をつけていることだが、今回は特に、いつも以上に慎重に取り組みたかった。
結局のところ、『Global Series』が最も重視すべきは初心者がマジックの遊び方を学べることだ。入っているカードがブースターパックから出てくるカードと比べて明確に弱くても、それでいいんだ――ブースターパックは、初心者がデッキを強化していく最高の方法になってくれるだろう。事実、新規プレイヤーがデッキにカードを加えると、そのデッキは「弱くなる」ことが圧倒的に多い。彼らはデッキ構築についても学んでいる途中だからね! デッキの中に抜くべきカードをあえて入れておくことで、デッキ強化の助けになるんだ。
実質的には中国とその他の地域でスタンダードのカード・プールは異なるものになるけれど、競技レベルではほとんど影響ないはずだ。プレイヤーたちにとってこれがすごく大事なことなのは私たちも理解しているし、『Global Series』のカードを作成する上でかなり気を使った部分だ。万が一この製品の影響で中国のスタンダード環境が他の地域と異なる様相を見せた場合、私たちは対策が必要かどうか直ちに話し合うつもりだ――でもそんなことは起こらないと、自信を持っているよ。
さまざまなデッキからアイデアを得て今回のデッキを作り上げたアダム・プロサック/Adam Prosakに、心から感謝の気持ちを伝えたい。『Global Series』は史上最高のティーチング用デッキになったと思う。他の製品ありきのものに収まるのではなく、マジックを学ぶ上で有用なカードを詰め込むことができた。この製品が中国で大人気になることを心から願うよ――新世代のプレイヤーたちが、これらのデッキを手にマジックを始めますように!
世界中どこだって
最後に、『Global Series』は地域によって販売形式が異なることも伝えておこう。
この製品では、「中国市場向けのティーチング・ツール」を念頭に置きつつ、ゲーム中の雰囲気は少し異なるものになるよう意識してきた。この製品を通して得られる体験すべてが、中国市場にとって最適なものになるよう私たちは力を尽くした。中国では、この製品はオンライン通販で取り扱われ、パッケージも北米版とは大きく異なる。
しかし同時に、私たちは『Global Series』を世界中のプレイヤーに体験してもらいたいと思っている。『ポータル三国志』は発売地域が限られていたにも関わらず、多くのプレイヤーが、とりわけコレクターが収録カードを強く求めた。そして最初に言ったけれど、マジックはグローバルなゲームだ。『Global Series』はその期待に応えてくれる!
それに、この製品が(基本土地も含め)とても素敵だとわかったことだし!
中国以外の地域では、6月22日から『Global Series: Jiang Yanggu & Mu Yanling』の姿を店舗で見かけることになるだろう。パッケージはこんな感じだ。
そしてもちろん、すべてのカードが中国語から英語に翻訳されている。
内容が気になる? カードイメージギャラリーですべてのカードを公開しているから、ぜひ見てくれ。
新たなシリーズへ
以上、『Global Series: Jiang Yanggu & Mu Yanling』の製作の経緯と理念を語らせてもらった。
さて、みんなが間違いなく抱いているであろう大きな疑問があるね。今後も『Global Series』は続くのだろうか? その答えは「どうかな」のひと言だ。何週間か前にも言ったけれど、私たちは今「大フィードバック時代」(リンク先は英語)のただ中にいる。まずは発売後の経過を見て、そこから学んで行動したい。シリーズ2作目を作るかもしれないし、似たようなコンセプトで別の形のものを作るかもしれないし、ここで終わりかもしれない。
さあ、みんなはどう思う? 教えてくれ!
私は君たちの意見を聞くのが大好きなんだ! ぜひ気軽にツイートを送ったりTumblrで質問したり、BeyondBasicsMagic@gmail.comまでメールを送ったりしてみてくれ。必ず目を通すよ。『Global Series』についてどう考えてる? 今回の世界やキャラクターを再訪してほしい? 次はどの国を題材にしてほしい? みんなの意見を待っているよ!
多くの時間と労力をかけ、多くの議論が交わされ、『Global Series』第1作が完成した。一風変わった世界を味わいつつ、私たちが愛する魔法に満ちたゲームを楽しんでくれると嬉しいよ。楽しんでくれ!
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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