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世界王者、ウィリアム・ジェンセン

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世界王者、ウィリアム・ジェンセン

Meghan Wolff / Tr. Tetsuya Yabuki

2017年10月16日


「本気になったウィリアム・『Huey』・ジェンセン/William 'Huey' Jensenは何よりも恐ろしい」世界選手権を目前に控えた月曜日、マーシャル・サトクリフ/ Marshall Sutcliffeがそう言った。

 そして誰に話を聞いても、ジェンセンは本気だった。

 そう、サトクリフの予想は的中した。ときに紙一重の戦いが繰り広げられ、ときにごく小さなミスが完璧なプレイの前に敗れ、ときにここしかない時に引き込んだ最適なカードが勝敗を分ける世界最高の舞台。そこで競い合う24人の中でお気に入りの選手を挙げることは簡単でも、その選手が優勝すると確信するのは難しい。

 しかし難しいが、不可能ではないだろう。現に1日10時間の練習を何週間にもわたって続け、デッキ構築とプレイテスト、リミテッドにひたすらに打ち込み、世界最高のプレイヤーたちを相手に連戦連勝を重ねて決勝ラウンドへ進出すると、予選ラウンドで黒星をつけられたふたりを決勝ラウンドで破り、完全優勝を成し遂げたプレイヤーがいるのだから。

 こんな選手なら、優勝を確信できるはずだ。

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ウィリアム・「Huey」・ジェンセン、2017年マジック世界王者

 ジェンセンは7年生から8年生に上がる前の夏にサマー・キャンプでマジックと出会った。

「キャンプ初日に会場へ着くと、他の子供たちが全員マジックで遊んでいた。まさか私だけやらないわけにはいかなかった」とジェンセンは笑う。「次の年のキャンプではもう、十分渡り合えるようになったよ」

 ジェンセンが十分に渡り合えるようになったのは、このゲームと出会った彼が毎週店舗大会に出るようになったからだ。彼は最初「Treasure Chest」に行き、その後は「TJ's Collectibles」に通った。はじめは自分で組めるデッキを使っていたジェンセンだが、やがて年上のプレイヤーがこの若きジェンセンのプレイ技術の高さに気づき、より良いデッキを貸し始めた。そしてわずか3年後、16歳のジェンセンはローマで行われたプロツアーでデビューを果たすことになったのだ。

 それから時は経ち2004年、プロツアー・ボストン2003での優勝を含むプロツアー・トップ8入賞3回を記録したシーズンが終わると、ジェンセンは引退を決意した。

「私自身との戦いは終わった」とジェンセンは振り返る。「そのままさらなる勝利を重ねることもできるだろう。だが私の場合、戦いへの強烈な熱意が必要なんだ。他の何よりも勝つことを求めないなら、競技に挑むのは難しい」

 マジックにとって幸運なことに、ジェンセンは2012年、1票差で殿堂入りを逃すと再び競技への熱意を取り戻した。その投票の結果を受けて、彼はシアトルで行われたプロツアー『ラヴニカへの回帰』に特別招待された。

「そこで昔なじみの友人や新しい友人にたくさん会えた」とジェンセンは語る。「シアトルを発つ際に思ったよ。『もう一度ここにいたい。俺はここにいるべきなんだ』と」

「私の世代のマジック・プレイヤーは、彼のことを知らなかった」とサトクリフは言う。「でも彼と会うなり、『なんて良い人なんだ』と彼のことが好きになったよ」

 翌年、ジェンセンは1シーズンでグランプリ・トップ8入賞8回と優勝1回を記録し、あらゆる世代のマジック・プレイヤーにその名を知らしめて殿堂入りを果たした。

「この頃から、私はグランプリの実況をするようになった」とサトクリフは振り返る。「『彼がまたトップ8にいるのか?』と何度言ったことか」

 殿堂入り後もグランプリやプロツアーのトップ8で見ない年はないほどの活躍を続けてきたジェンセンだが、彼の競技への熱は2016-2017年シーズンのはじめに再び下火になった。

「プレイヤーとして老境に入って、私も丸くなったものだ」と、数か月前のジェンセンはそう言っている。「今はチームメイトを支えられることに喜びを見出している。特に、すべての大会で勝ちたいと燃える若いプレイヤーのね。彼らの模範となり、アドバイスを送り、よき師匠になれるよう努力している。自分が大会で勝つことよりも、私にふさわしい役割だと、最近はそう感じているよ」

 今シーズンのはじめは、世界選手権2017へ参加することをジェンセンは目標にしていなかった。しかしグランプリ・クリーブランド2017から続けてグランプリ・京都2017を制すると、その後のプロツアー『破滅の刻』での優れた成績を合わせ、プラチナ・レベルと世界選手権への参加権利が彼のものになった。

 友人や家族に見守られながら20年近くプレイしてきたマジックで、いまだ獲得していない唯一のタイトルを手にするチャンスが訪れた。ジェンセンは再び「強烈な熱意」を呼び醒ます必要があった。家族の前で世界王者になること。それも、彼の長いマジック人生の中で忘れられない出来事が幾度となく起きたこのボストンという街で。それはジェンセンにとって、彼のキャリアに華を添える最高のチャンスだった。

 目の前に現れた乗り越えるべき壁。ジェンセンは自身に気合を入れ、比類なき決意を胸に世界選手権に向けた準備を始めた。その道のりにはもちろん、彼がマジックに復帰して以来常にチームメイトとしてともに戦ってきた盟友たるオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldとリード・デューク/Reid Dukeも付き添った。

 (「Peach Garden Oath(《桃園の契り》)」として知られる)3人は、マジックへの飽くなき熱意とチームへの固い信頼こそ彼らが紡いできた物語をつなぐ糸であることを共通認識としていた。

「世界選手権2013の頃は、一緒に練習するチームメイトがいなかった。そのときにHueyがニューヨークまで来てくれて、何時間もぶっ通しで練習に付き合ってくれたんだ。彼自身には参加権利がないのに」とデュークは言う。「Hueyはいつも、僕のマジック人生の大きな分岐点でともに戦ってくれた。今度は僕が彼を助ける番だ。この場に立ち会えて、本当に嬉しいよ」

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ジェンセンと、「Peach Garden Oath」のチームメイトであるリード・デューク(左)とオーウェン・ターテンワルド(右)

「過去には3人のうち2人だけが参加権利を獲得して、それぞれの熱量が違うこともあった」とターテンワルドは語る。「でも今年は違う。3人ともこれまでにない熱意で臨んでいた」

「Hueyは今大会に向けて本当に全力を尽くした。あんな熱心にトーナメントの準備をするプレイヤーは見たことがない」とデュークは言う。「イベント前のインタビューでも2回くらい同じことを言ったけれど、決して大げさな話じゃないよ!」

 新たなスタンダード環境においてどのようなカードが有効なのかを確かめると、3人はすぐにデッキ構築とプレイテストに取り組んだ。大会当日まで1か月半。この時点ですでに、ジェンセンは1日10時間を練習に充てていた。

 世界選手権に招待されるようなプレイヤーは、みな長期間、長時間の練習に慣れている。しかし現役最高の彼らをもってしても、ジェンセンの集中力と熱意には舌を巻くばかりだ。

「マジックも、人生において他に頑張っていることと同じだ」と、ジェンセンは少なくとも二度、そう明言している。「努力した分だけ報われる」

 その信念に基づき、世界選手権優勝を求めた彼は超人的なまでの努力に身を投じたのだ。

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 シーズン後半に得た参加権利。故郷での開催。そして積み重ねた練習。それらすべてが渦を巻き、最強の追い風となってジェンセンを後押しした。大会が始まるなり彼は負けなしの12連勝を記録し、2位以下と4勝もの差をつけた。そのまま大差の首位で予選ラウンドを突破し、日曜日の決勝ラウンドへ進出した。

「自分が立てなかった決勝ラウンドの戦いを観るなんて、本当に悔しくて苦痛だろうなと思っていた」とターテンワルドは言う。「ところがいざその時を迎えてみると、嫉妬心は湧いてこなかった。大切な友人の戦いを応援するのは、誇らしく、楽しく、刺激的だった。懸かっているものの大きさに不安はよぎったけれど、何度も言っているように、プレイを見ていて『ミスする気がまるでしない』と感じられるのはジェンセンを置いて他にいない。彼は期待を裏切ったことが一度もないんだ」

「Hueyの勝利の瞬間に立ち会えて、感無量だよ」とデュークは語る。「僕の知る限り、彼は最も誠実で無私無欲な人間だ。日曜日に彼の戦いを観ながら、気づけば僕はこれまでのことを思い出していた。彼が僕のためにしてくれたこと。他の友人たちにしていたこと。彼はいつも、トップ8に進出した友人のため誰よりも先に相手役を買って出ていた。勝利を掴んだ者を誰よりも温かく祝福し、苦戦している者には誰よりも大きな声援を送っていた」

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 無論、ジェンセンが世界王者のタイトルを獲得できたのは、その尋常でない練習量や「努力した分だけ報われる」という哲学だけが理由ではない。当時13歳の彼にデッキを貸した年上のプレイヤーから現在のチームメイトまで、周りの者が気づくほどの天性の才能があってのことだ。

「俺も15年間プロツアーで戦ってきたが、彼の洞察にはまったく敵わない」とターテンワルドは言う。「それは、彼が競技の世界を出たり入ったりしていることに起因しているんだと思う。復帰するたびに彼はマジックを学び直し、常にこのゲームの『今』を捉えているんだ。彼がこんなにも強い理由は、その学ぶ力にある。彼は周りの強いプレイヤー全員の強みを吸収し、本人よりも優れた形で自分のものにしてしまうんだ」

「強豪と呼ばれるプレイヤーたちとHueyを大きく隔てるのは、マジックというゲームへの理解度の深さだ」とデュークは言う。「Hueyは、常人ではあり得ない長期的な視点を持っている。彼と対面してみればわかる。彼だけがゲームの終わりまで見えていて、こちらが認識するより先にこちらの行動を見透かしてくるんだ!」

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ウィリアム・ジェンセンと、彼の父であるウィリアム・ジェンセン。

「20年やってきた」と、ボストンで最高の勝利を収めたジェンセンは言った。「途方もない時間と途方もない苦労だった。この地で成し遂げることができて、本当に嬉しい。胸を張れるよ」

 ジェンセンの2016-2017年シーズンの物語を締めくくるのに、この上ない勝利だ。目標を定めた彼は比類なき決意を胸にたゆまぬ努力を重ね、再びマジック・コミュニティにその名を知らしめた。新たな目標ができるたびに登っていけることを証明してきた彼にとって、最高の結果だった。20年にわたり積み上げてきた練習と成果が結実した瞬間だった。

「マジックのカードに触れなかった人生は想像もできない。それはいつもそこにあるものだ。私の腕のように私自身の一部であり、私という人間を形作ったものだ。人生において私がしてきたことすべてに、直接的にせよ間接的にせよ、マジックは関わっているんだ」

 彼がマジックに注ぎ込んだ時間と長年にわたる競技の世界で成し遂げてきた偉業、解説者としての彼が発する深い洞察、そして周りのプレイヤーに対する彼の手厚い支援を目の当たりにしては、マジックもまたジェンセンと同じ想いであると考えずにはいられない。

 ウィリアム・ジェンセンのいないマジックは、想像もできないのだから。

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