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すべての始まりに
すべての始まりに
Ethan Fleischer / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年12月28日
やあ! 僕はイーサン・フライシャー/Ethan Fleisher、マジックの最新セット『ゲートウォッチの誓い』のリード・デザイナーさ。今日は、このセットを作った方法についてのこぼれ話をするよ。僕たちが何をやったのかについては、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterが彼のプレビュー記事で書いてくれている。僕はその方法について話していく。マローの記事で全体の流れを掴んでおいてほしいから、まずそっちを先に読むことをお薦めするよ。
大丈夫、待ってるから。
......うん、待ってるよ。
......うん、待ってるよ。
あー、時間がいくらでもあるってわけじゃないんだった! 行ってきて、夜食ぐらい持ってきた? それなら始めようか!
キミがしたことを見ているよ
アイデアの出所は、と言われれば、ゼロから考え出すこともあるけれど、ほとんどの場合は他の人が考えたコンセプトを修整したり組み合わせたりして新しい文脈に合うようにするんだ。
『ゲートウォッチの誓い』で一番エキサイティングで過激なデザインの1つは、5年前にオンラインで開催されたマジックのデザイン・コンテスト、グレート・デザイナー・サーチ2から引っ張ってきたものなんだ。僕が優勝したんだけど、僕の友人のジョン・ラウクス/Jon Loucksも決勝に残っていて(参考:英語記事)、そして彼がこのコンテストのために作ったものはほんとに素敵なものだった。
ジョンは、無色マナでだけ支払えるコストを示す新しいマナ・シンボル、そして無色マナを出す新しい基本土地というアイデアを出していた。なんて過激で、そしてエキサイティングなアイデアだろう! 『アルファ版』からずっと潜んでいた「6色目」がそこにあったんだ。
『ゲートウォッチの誓い』のデザインの最初のころに、僕たちはコジレックの血脈に繋がるエルドラージの特徴的なメカニズムを決めることにした。ウラモグの嚥下メカニズムとは違うと感じられるものにしたかった。そして、コジレックの持つ物理を歪める性質にふさわしいと思われるアイデアがいろいろと出たんだけど、それぞれ異なるカードを何枚も作れるほど深みのあるものはなかったんだ。そこで、それらのアイデアを全部投入して、そして"C"のマナ・シンボルで一貫性を持たせることにしたのさ。コジレックのキーワード能力は存在しなくて、代わりに「カラー」・パイの一角を手にすることになったんだ。これは、欠色メカニズム、あるいは無色の呪文を唱えたり無色のクリーチャーをコントロールすることを意識するカードといった、『戦乱のゼンディカー』で描いたエルドラージのテーマを自然に拡張したものだった。このことが、エルドラージの血脈すべてが、エルドラージ・末裔から巨大エルドラージを呼び出すマナを生み出すという形で次元全体で繋がりあっているというアイデアに繋がっていったんだ。
エルドラージ・末裔以外にも無色のマナを出すものが必要になって、僕はエルドラージがゼンディカー次元を席巻し、ゼンディカーのマナから色を吸い尽くしてしまうというアイデアが気に入った。そこで、僕たちはセットに新しい基本土地を加えることにしたんだ。今回のデザイン・チームでクリエイティブ代理を務めていたアリ・レヴィッチ/Ari Levitchは、僕が「荒地」と呼んでいた土地を2種類加えることを提案したんだ。1つは、コジレックによって破壊された跡で、もう1つはウラモグがねじ曲げた廃墟。さらに、無色マナを生み出す基本でない土地も作ることにした。
《崩壊する痕跡》は、リミテッドのデッキで強力な推進力になる。これをプレイしたターンには欠色持ちのカードを唱えることができて、それ以降のターンには無色マナを必要とするそのカードの起動型能力を起動できるんだ。
一般に、僕たちが無色マナのコストを使う場所はレアリティによって違ってくる。無色マナを出すカードをドラフトしなければならなくなるから、無色のコストは欠色持ちのエルドラージ・クリーチャーの起動型能力に置くことがほとんどになる。これは、デザインにおいては『コールドスナップ』の《ボリアルのケンタウルス》のようなカードと似たことになる。リミテッドでも、ランド・ステーションから持ってきた基本土地を使ってそのクリーチャーを唱えることはできる。そして、ドラフトしておいた無色マナ源を引いたら、その能力を起動することもできるようになるんだ。
マナ・コストに無色マナを含むカードは、リミテッドのゲームにはあまり影響を与えないレアや神話レアに多くなっている。構築戦では、プレイヤーは必要なだけの《荒地》をデッキに入れることができるし、『マジック・オリジン』のダメージ・ランドや『戦乱のゼンディカー』ブロックに多数存在する無色マナ源も入れることができるので、《終末を招くもの》のような怪物も充分唱えることができるんだ。
見てわかるとおり、この不気味で忌まわしいものは無色マナを必要とするけれど、これのためにマナ・ベースを組み上げてもいいほどに強力なカードなんだ!
無色マナをマナ・コストに含むことは、デザイン・チームにとって大きな障壁だった。いろいろな意味で、その障壁は僕たちよりも後の工程でさらに大きなものになった。特に、『Magic Online』や『マジック・デュエルズ』のチームは無色マナ・コストをデジタル的に扱うために、それぞれのゲームにおけるマナの扱いを完全に作り直すというレベルの英雄的な努力を必要としたんだ。普通ならまだ作業を始めないような時期から『ゲートウォッチの誓い』に取り組んでくれたデジタル・デベロッパーの尽力は、本当にすごかったんだ!
他の名前で呼ばれるセット
セットのデザインとその名前やテーマを合わせるのが難しいこともある。例えば、僕が初めてリード・デザイナーを務めたセットの『ニクスへの旅』。コードネームは『Countrymen』だった。このセットは最初、定命の者と神々との戦争を中心に置いたものとしてデザインされていたんだ。『テーロス』のオデュッセイアに対するイーリアスのようなものさ。このセットの名前が、エルスペスの英雄の旅を表すものになると決まって、セット名とメカニズム的テーマが合わなくなったんだ。
リード・デザイナーとして、僕はまずこのセット名について他と調整したいと思ったんだ。ちょっと盛ってる部分はあるけど、まあこんな感じさ。
「今、『Sweat』の作業を始めてるんだけど、これはコジレックが中心になるんだ。デザインの途中まで来たから、そっちがどういう状態なのかすりあわせようと思うんだけど」
「おお! こんな早い時期に調整してくれるの? 知っての通り、『Sweat』は複数のセットにまたがる物語の一部で、その中でも一番重要な出来事は、英雄たちがプレインズウォーカーのチームを結成することだ。セット名はそれを示すものにしたいと思ってる。コジレックが重要な役割を演じるとはいえ、ね」
僕はしばらく考え込み、このセットについて考えを巡らした。コジレック絡みのかなりクールなデザイン空間がたっぷりある。でも、コジレックと戦うためのチーム結成というのもそうだ。
「実際......それは、すごいクールだ! やってみよう!」
ここで、僕は自分のデザイナーとしての弱点を告白しよう。僕は、何か問題に迫られたときにだけ、新しくてエキサイティングなことを探すために努力するんだ。『Sweat』のエルドラージ以外の部分は、コジレックに比べてかなり単調だった。この新しい視点のおかげで、僕は新しいものを作るための原動力を手に入れたんだ。新しく、より良いものをね。
僕はデザイン・チームと協力して、「プレインズウォーカーがチームを結成する」ことを表現するゲーム上のメカニズムを探した。そして、その方法として、複数のプレインズウォーカー・カードを使うことを推奨するカードと、チームメイトがいることによってボーナスを得るカードという2つ使えそうなものを見つけて、その両方を使うことにした。この2種類目のカードは、マジック:ザ・ギャザリング全体の中心に存在する「あなたはプレインズウォーカーだ」を示しているんだ。
こうして、チームメイト、つまり双頭巨人戦や皇帝戦、その他の多人数戦において協力しているプレイヤーを参照するメカニズムである怒濤を作った。僕たち(そしてもちろんデベロップ・チームも)はこのメカニズムを、2人戦でも強力なように調整した。怒濤メカニズムを持つカードの例がこれさ。
見てわかるとおり、他の呪文を使っていたら、このカードはさらに軽く、さらに強力になる。自分でもできるけれど、多人数戦ならチームメイトが協力することもできるんだ。
この誘発型能力による強化が、チームメイトのクリーチャーには及ばずに自分のクリーチャーだけということにも気づいたかな。これは協力というアイデアにはふさわしくないように見えるかもしれない。双頭巨人戦でプレイテストして、どうすると一番楽しくなるかという検討の結果なんだ。このカードを双頭巨人戦でできる限り強くしたのではなく、双頭巨人戦のプレイテストにも充分な時間をかけることで、最高のゲームプレイのために最適なパワーレベルを探すことができたんだ。
B-B-Aに至るまで
『ゲートウォッチの誓い』は、新しい年間2ブロック構造の最初の小型セットなので、いろいろな面で前例を作った。自然に変更できるこの機会に変更すべきことはないか、過去の様々な方法に疑問を投げかけることになったんだ。
プレイヤーの多くは、ブロックの第2セットでドラフトするときに小型セット(セットB)1パックと大型セット(セットA)2パックを使うということにちょっと苛立っていた。普通に考えて、セットBのパックをもっと開けたいんだ。そうすれば最新のカードが手に入るんだから! これまでセットはその形(BAA)でドラフトされるのが一番楽しくなるようにデザインされ、調整されていた。でも、僕はBBAでドラフトする方が楽しい(あるいはするのも楽しい)ようにできないかと思ったんだ。
すぐに気がついたのは、BAAからBBAへの変更によって、クリエイティブ的な扱いやメカニズム(や、その両方!)において、第1セットと第2セットの間でもっと過激な変化を見せることができるようになるということだった。こうすることで、一番熱狂的なドラフト・プレイヤーにとっての新鮮さを保たせ続けることができる。新しいカードでプレイしたときの感想を、少し追加されたというものではなく、大きく変化した、というものにできるんだ。これは僕にとってエキサイティングな可能性だった。そして実際、『戦乱のゼンディカー』と『ゲートウォッチの誓い』の間で、僕は大きな変化を起こしたんだ。
これまで、小型セットのパックを複数使ってドラフトをした場合に起こった問題の1つが、多様性が少ないということだった。大型セットと比べて、1つめのパックを開いたときの選択肢が少なかったんだ。計算、議論、そしてかなりのプレイテストを経て、僕たちはBBA型ドラフトのために小型セットの枚数を増やすことにした。コモンを10枚、レアや神話レアも数枚増やした。このコモンの追加によってドラフトごとの変化が多少増える。そして、高レアリティのカードの追加によってもドラフトごとの変化が増え、さらにプレイヤーが欲しがるクールなカードも増えたんだ。
小型セット複数パックのドラフトで起こる問題としては、他に、ドラフトの最後に残るカードが同じになるというものがある。『運命再編』の呪印サイクルのように、強力とは言えないサイクルがある場合に特に顕著になって、最後の数枚のピックはほとんど同じになってしまうんだ。
そこで、『ゲートウォッチの誓い』ではコモンにサイクルは入れないことにした。将来のセットでコモンのサイクルを重要視して、注意深くデザインしたサイクルを入れるということもありうるけれど、『ゲートウォッチの誓い』はそういうセットじゃない。
『ゲートウォッチの誓い』をBBA型ドラフトに合わせて最適化した方法について、詳しくは今月のサム・ストッダート/Sam Stoddardの記事に書かれているよ。
ゲートウォッチに「私」なし
多元宇宙の危機に立ち向かうため、プレインズウォーカーが結成したチームは過去にもいくつかあった。
ナイン・タイタンズ/The Nine Titans
- ウルザ/Urza
- ボウ・リヴァー/Bo Levar
- ダリア/Daria
- フレイアリーズ/Freyalise
- ガフ提督/Commodore Guff
- 森のクリスティナ/Kristina of the Woods
- テイザー/Taysir
- テヴェシュ・ザット/Tevesh Szat
- ウィンドグレイス卿/Lord Windgrace
《まやかしの曙光》 アート:Dave Dorman |
このプレインズウォーカーたちはファイレクシアのドミナリアへの侵攻を防ぐために協力した。『インベイジョン』ブロックの物語の中でこの同盟は敗れ、数人だけが生き残った。その後、それぞれの生き残りは別々の道を歩んでいった。
3人組/The Three
- ウギン/Ugin
- ナヒリ/Nahiri
- ソリン・マルコフ/Sorin Markov
アート:Igor Kieryluk |
6千年の昔、このプレインズウォーカーたちはゼンディカー次元にエルドラージを封印した。後に、ウギンはニコル・ボーラスにひどく傷つけられ、ナヒリは消息を絶つ。ウギンはゼンディカーにナヒリを迎えるべくソリンを向かわせたけれど、吸血鬼のプレインズウォーカーもそれきり帰ってこなかった。というわけで、このチームはエルドラージに対処することができる状態じゃない。
ゲートウォッチ/The Gatewatch
- ギデオン・ジュラ/Gideon Jura
- チャンドラ・ナラー/Chandra Nalaar
- ジェイス・ベレレン/Jace Beleren
- ニッサ・レヴェイン/Nissa Revane
アート:Yefim Kligerman |
マジック史上最新のプレインズウォーカーのチームには新しい性質があって、ただの友情関係じゃなく、自分たち以外が対処できないような脅威から多元宇宙の人々を守るための誓いなんだ。このチームは『戦乱のゼンディカー』ブロックだけで終わるものではなく、将来のマジックの物語にも繋がっていく。
『ゲートウォッチの誓い』は新しい形のマジックのセットで、物語とゲームプレイがこれまでになく融合している。最初に僕が作ったデザインからの進行を見て、僕は本当に興奮しているんだ。このデザインの基礎を作ったアイデアが、小説、そして君とその仲間たちのゲームプレイという形で結実してほしいね。
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