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翻訳記事その他
富はさらなる富を呼ぶ
富はさらなる富を呼ぶ
Adam Styborski / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa
2014年9月11日
統率者戦のようなマジックの多人数戦において、「何が大切か」という意見は様々だ。《危険な櫃》や《至高の評決》といった戦場すべてに効果的な解答を持つことだ、と言う人がいれば、マナの発生源に《ダークスティールの鋳塊》を用いたり、《鍛冶の神、パーフォロス》を「火力呪文として」駆使したりして、築き上げた盤面を失わないようにすることだ、と言う人もいる。
そして、私が最も重きを置くことも、それらとは異なる。私はマナの充実こそが大切だと考えていて、とりわけ統率者戦で他より先んじるための最も強力な手段のひとつは、毎ターン確実に土地を置くことだと信じているのだ。
アート:Sam Burley |
その根拠を大量に説明するというわけにはいかないが、《原始のタイタン》と《森林の始源体》がともに最新の「統率者戦禁止カード・リスト」(リンク先は英語)に入っていることからも、一度に複数の土地を置ければたちまちゲームに影響が出る、ということが十分に伺えるだろう。
ごく個人的な意見になるが、初手に土地が5枚――あるいはそれ以上――あったなら、そのゲームはよりうまくいくと思っているよ。たとえ《ダークスティールの鋳塊》などのマナ源があっても、土地が3枚の手札はためらいなくマリガンする。なぜなら、10ターン目かそれくらいのターンを迎えるまでは、土地を置けないなんてことがあってはならないからだ。
なぜクリーチャーやその他スペルのような華やかで「より魅力的」なカードよりも、土地を重視するのかって? 土地があれば「なんでもできる」からだ。
デッキ調整の成否は、土地の採用枚数が正確かどうかで決まるとも言われる。マナ・カーブと呪文のバランスが完璧な比率で整っていれば、適切なタイミングで必要なマナが手に入りやすく、「何もしない」でターンを渡すことがめったになくなる。それはデッキ構築の妙であり、私自身も極めていない。
現時点で私にできるのは、最悪のケースを想定することだけだ。
毎ターン土地をプレイしたいから、採用する土地には少々気を使う。《溶岩爪の辺境》や《変わり谷》といったものは実質的にクリーチャーとして扱えるし、《汚染されたぬかるみ》や《枯渇地帯》は必要に迫られれば他のカードに変えることもできる。《邪神の寺院》や《ゴルガリの腐敗農場》のような土地が1枚で2枚分の働きを見せる一方で、《ヴォルラスの要塞》や《僻地の灯台》はマナ源というよりもはや呪文だ。
私は、基本土地の比率を多めにしている――なぜならそれらが咎められることはほとんどなく、タップ状態で戦場に出ることもないからだ。シンプルであることは、それ自体が良いというわけだね。
さてここまで土地についての話を続けてきたから、私がこれから『タルキール覇王譚』に収録される傑作土地を公開するに違いない、と期待しているかもしれない。だが残念、ハズレだ。《悪逆な富》をご覧いただこう。
まあ聞いてくれ、こいつ自身は土地じゃないけれど、土地を気にしなくちゃならないことに変わりはないんだ。
マナを溜め込んだ、次の瞬間
一見すると、恐らく《悪逆な富》は奇妙なカードに見えるだろう。「対戦相手のライブラリーを用いた《起源の波》」のようなカードに見えるが、実はいくつか根本的な部分が異なっている。
- 《悪逆な富》はカードを追放する。つまり、墓地を悪用するものとはシナジーを生まない。
- 《悪逆な富》はパーマネントを直接戦場に出さない。土地を「盗み取る」ことはできないし、《悪逆な富》から唱える呪文はすべて、《対抗呪文》やその他の方法で阻まれる可能性がある。
- 《悪逆な富》はスゥルタイの3色を要求する。これが使える統率者は限られている。
では、このカードは実際にどういう動きを見せるのだろうか? なぜ私は、これほどまでマナを確保することに力を注いでいるのだろうか?
《起源の波》や《原初のうねり》、《起源のハイドラ》のようなカードは、どれも大量のマナを用いることで強烈な力を発揮するものだ。コストの重い呪文を目指したデッキ構築は統率者戦において一般的なテーマであり、私がこれまでに見てきた「マナ加速からおもむろに《起源の波》を放つ緑のデッキ」の数は、だいぶ前に数えきれなくなってしまったほどだ。パーマネントをひとつ、あるいはそれ以上直接戦場に出す呪文からは、「劣勢を覆し、勝利を確実にする」という確信めいたものが感じられるのだ。
そのターン中に対処できる手段を誰も持っていない状態で放たれたX=10以上の《起源の波》がもたらす結果を見たことがある人なら、きっと私が言っていることをわかってくれるだろう。《悪逆な富》の挙動はそれとは少々違うものの、結果は基本的に同じだ。戦況が有利であれ不利であれ、大量のマナを注ぎ込むことで、何かしら有効なものが戦場を埋め尽くすことだろう。
もちろん、ただこれを唱えられるというだけで《悪逆な富》がどんなデッキに入れても強烈な一撃になってくれる、というわけではない。これまでのスゥルタイ・カラーにおける選択肢を検討しよう。
- 《擬態の原形質》を用いる場合、クリーチャーには墓地へ行ってほしい。《悪逆な富》ではクリーチャーを墓地に落とすという動きができない。(こういった状況は、一部では「ノンボ(コンボの逆)」と呼ばれている。)
- 《狩るものヴォラシュ》にとってはまだマシだけれど、やはり+1/+1カウンターを扱う能力の方が良いのは間違いない。《狩るものヴォラシュ》と《悪逆な富》の間にシナジーはない。
- 《石の賢者、ダミーア》は手札が空になっても7枚まで補充できる。《石の賢者、ダミーア》が機能しているなら、それだけでもできることは多く、戦況を有利に運べるだろう。その状態では、「何が出るかわからない」ものは歓迎されない。
- この3色の統率者に新たに加わった《血の暴君、シディシ》は、《狩るものヴォラシュ》と同じ問題に悩まされる――つまり噛み合う部分がないのだ。《血の暴君、シディシ》についても、彼女の持つ「ゾンビとクリーチャー」のテーマを優先したい。
では、《悪逆な富》が真にもたらすものとは何だろうか?「オーソゴナル/orthogonal」という言葉の意味をひとつご紹介しよう。
- 「統計的に独立した/statistically independent」
つまりこういうことだ。スゥルタイ・カラーの4つの統率者たちが《悪逆な富》とうまく噛み合わないのは明らかだが――しかし、それこそが《悪逆な富》を使う最大の理由である、ということがあり得るのだ。
- 《擬態の原形質》を用いる場合、対戦相手たちは墓地の状況に気を配り、最高の組み合わせを与えないように苦心するだろう。《悪逆な富》は、墓地がどういった状況でも関係なくその力を発揮する。
- 《狩るものヴォラシュ》は、マナ加速との相性が良い。そして《狩るものヴォラシュ》の攻撃を直接通せない場合、《悪逆な富》がその状況を打破するものを戦場にもたらし、別の角度から攻め手を展開できる。
- 《石の賢者、ダミーア》を用いれば、手札破壊や除去の的になることだろう。その中で、《悪逆な富》は手札に依存することなく力を発揮するバックアップ・プランになってくれる。《石の賢者、ダミーア》が戦場にいなくても、《悪逆な富》を引き込み、そこへマナを注ぎ込めば、それに応えてくれるはずだ。
- 《血の暴君、シディシ》の持つ「自分のライブラリーを削る」能力は、《擬態の原形質》の能力と同じ「墓地を悪用する」ものだ。《悪逆な富》は、墓地に関する懸念を一切感じさせずに機能する。
この「オーソゴナルな」考え方は、私が統率者戦において高く評価しているものだ。たしかに、デッキのテーマを考えると尻込みするのも無理はない。ひとつの軸に沿ってデッキ調整を行うことでシナジーを生み出せば、恐ろしく強いデッキが完成するだろう。しかし、そのプランを餌食にする対戦相手がいた場合(リンク先は本コラムの過去記事・英語)、深刻な問題を抱えることになる。《悪逆な富》はデッキに別の軸を備えさせ、そして別の結果をもたらしてくれるのだ。
それじゃあ、アンドリュー/Andrewが作ってくれた《石の賢者、ダミーア》デッキを見てみよう。
これは「お手本のような《石の賢者、ダミーア》デッキ」とというものではないが、それでも彼女につきものの要素2つは兼ね備えている――じわじわと対戦相手を引き離すコントロール的な要素と、突然対戦相手の計画を狂わすコンボ的な要素だ。
このデッキにとって《悪逆な富》は、まさにこいつのために枠を空けたいほどのカードだ。私がスゥルタイ・カラーの統率者戦用デッキを組むなら、確実に積みたいね。それから、今年に入ってから(リンク先は本コラムの過去記事・英語)、マイク/Mikeが動き出しの早さを狙った《狩るものヴォラシュ》デッキを送ってくれた。
できるだけ早く盤面をしっかり守りたいと考えました。クリーチャーを繰り出すのに遅れると、ゲーム序盤に余計なダメージを受けることになってしまいます。接死と到達は「攻撃できるならしとくか」という動きに対する大きな抑止力になるため、この緑多めのデッキでは《命取りの出家蜘蛛》や《ソーンウィールドの射手》の活躍が多く見られるでしょう。
コストが軽く除去しにくいクリーチャーもまた、戦闘向きでない軽いクリーチャーでのブロックを避けたいプレイヤーに攻撃してくる、気の早い侵略者に対して有効です。《ロッテスのトロール》と《幻影のナントゥーコ》が、この《狩るものヴォラシュ》デッキにぴったりでした。
《狩るものヴォラシュ》のように重いコストで3色の統率者を用いる場合、ゲーム序盤は、それが戦場に出たときに最大限活躍できるよう準備を整えます。クリーチャーを「教示者」してくるなら、《育殻組のヴォレル》、《屍体屋の脅威》、《練達の生術師》、そして《海の神、タッサ》が主な対象になり、クリーチャーでないものなら、《倍増の季節》、《進化の大桶》、そして(今なら)《英雄たちの結束》を持ってきますね。
――マイク
アンドリューの《石の賢者、ダミーア》デッキ――強力なカードが積み重なった塔のごときもの――とはまた違った、堅実で強烈なデッキだね。+1/+1カウンターを駆使する手段が満載の強気なデッキだ。どちらのデッキにも確固たるプランがあり、それをやり遂げるのに《悪逆な富》のようなカードは必要ないように見える。
だからこそ、私は《悪逆な富》に枠を割きたいのだ。
《悪逆な富》 アート: Erica Yang |
物事が巧くいかなかったときに、《悪逆な富》の出番が来る。対戦相手の誰かが《石の賢者、ダミーア》の企みをすべて阻止し、また誰かが《狩るものヴォラシュ》を何度も除去したそのときこそ、大量のマナから《悪逆な富》を唱えれば、誰もが備えていなかった予想外の脅威となるのだ。
欲張りなのも、ときには報われるということだね。
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